「ウチはリピート客が多い。既存客に販促しよう」が、ジリ貧になる理由


ワークショップ研修でこんな意見をいただきました。

「当社は市場トップシェアです。市場調査すると、当社は競合よりもリピート客比率が多いんですよね。だから既存客を意識した販促を行いたいと思います」

このように考える会社はとても多いのですが、この考え方で販促すると、ジリ貧になって市場シェアが落ちます。

これはバイロン・シャープが著書「ブランディングの科学」で指摘していることです。この本は実に素晴らしい内容なのですが、内容がやや難しいので、なかなか理解が広まっていません。とても残念に思っています。

そこで噛み砕いてご説明します。

まず、業界トップシェアの会社ほど、顧客離反率が低くなります。

単純化して、市場に顧客が100人いて、A社が80名(シェア80%)、B社が20名(シェア20%)の顧客を持っていると仮定します。市場全体では、常に一定比率で顧客が入れ替わっています。仮に今年、顧客10人が入れ替わたとすればと、A社(シェア80%)の顧客離反率は10÷80=12.5%、B社(シェア20%)の顧客離反率は10÷20=50%になります。

このように市場をモデル化して考えると、市場シェアが高いと顧客離反率が低いことがわかります。でもこれは机上の計算。現実にはどうなのでしょうか?

バイロンシャープは著書の中で、米国の車ブランド、オーストラリアの金融機関、英国とフランスの車ブランドで市場シェアと顧客離反率を調査した詳細な結果を示しています。下記はそこからの一部抜粋です。

■米国車ブランド(1989-91年)
 1位 ポンティアック シェア 9%、顧客離反率 58%
 ↓
 9位 ホンダ シェア 4%、顧客離反率 71%

■オーストラリア金融機関
 1位 CBA シェア 32.0%、顧客離反率 3.4%
 ↓
 7位 Adelaide Bank シェア 0.8%、顧客離反率 7.0%

■英国車ブランド(1986-89年)
 1位 フォード シェア 27%、顧客離反率 31%
 ↓
 11位 ホンダ  シェア 1%、顧客離反率 53%

実際の市場データを調べても、トップシェアのブランドは顧客離反率が低いことがわかります。逆に言うと、トップシェアのブランドは顧客定着率も高いということです。

つまり冒頭の「リピート率が高い」のは、必ずしもその会社のお客様の特性ではなく、単にその会社の市場シェアがトップだからなのです。

では、なぜ既存客だけを意識した販促でジリ貧になるのでしょうか?

バイロン・シャープは著書でその理由も説明しています。

次の図は、バイロン・シャープの著書から引用したもので、英国のコーラ購買者の分析です。横軸に年間購入回数、縦軸に全体の人数の比率を取っています。

左側のユーザーがライトユーザー、右側のユーザーがヘビーユーザーです。

一般に「パレートの法則で、上位20%の購買客が売上の80%を占める」といわれますが、これはミスリーディングです。

実際に数年程度の長期間で調べると、売上の50%は稀に買うライトユーザーによるものです。そして実際に調べてみると、実に多くのブランドでは同じパターンになっています。

さらにこの分布の中で、ヘビーユーザーとライトユーザーは頻繁に入れ替わっています。つまりある特定のヘビーユーザーが、急にライトユーザーになったり、全く買わなくなったりするということです。

せっかく得意客を意識した販促をしていても、そのお客さんが離脱するのであれば、販促の効果は出ませんよね。

むしろ販促では、この図で左側に固まっているライトユーザーや、この図に現れない非ユーザーをターゲットにした方が、はるかに効果が出ます。

冒頭の「当社は競合よりもリピート客比率が多いので、既存客を意識した販促を行う」だと、市場のごく狭い範囲だけにしか販促できません。この結果、ジリ貧になって市場シェアが下がり続けるのです。

必要なのは、もっと市場全体に視野を広げたマーケティング戦略なのです。

   

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