銭湯代行業が若者を魅了、売上4倍


日本には「斜陽産業」と呼ばれる業界がいろいろとあります。その筆頭の一つが銭湯でしょう。銭湯の数は、1968年は17,999軒。2023年は1,755軒。なんと1/10に落ち込んでいます。

銭湯入浴料は物価統制令で都道府県ごとに上限あり、東京は520円。自由に価格を上げられません。さらに経営者の高齢化や、最近はエネルギー価格の高騰で、廃業が相次いでいます。

しかしこの銭湯業界で、まったく新しい挑戦をしている会社があります。

2023年9月29日のテレビ東京「ワールド・ビジネス・サテライト」で、その会社の紹介をしていたので、紹介したいと思います。

この会社は「ニコニコ温泉」という銭湯の経営代行を手掛ける会社。

たとえば品川に「東京浴場」という銭湯があります。70年の歴史がありましたが、経営者の高齢化で、4年前に閉店しました。

そこでニコニコ温泉は、銭湯のオーナーに賃料を払って「東京温泉」の経営代行を始めました。

この銭湯、午前2時まで営業しています。取材した時間帯は夜でしたが、客は全員20代。お客は「仕事を終えて、風呂を浴びるとサッパリする」「週3回来る」。

ひと風呂浴びた後は、マンガなど7000冊ある巨大な本棚。さながら非日常な秘密基地で、お客はゆっくりマンガを読んだり、大学の課題などをやったりしてくつろいでいます。

さらに売上アップする様々な工夫をしています。

たとえば周囲を気にせずに入れる一人用サウナを設置。90分で1100円ですが利用が多く、これで月70万円の売上です。

さらに風呂上がりに、クラフトビール飲み比べセット980円や、SNS映えするクリームソーダ550円を提供しています。

銭湯のロビーの一角には、お客さんが本などを販売できる幅30cm程度の棚があります。名付けて「フロナカ書店」。全部で70個あり、月額4000円で貸し出しています。

こうしてお客の増加と入浴料以外の収入で、売上4倍になりました。

経営代行をするニコニコ温泉・真神友太郎社長は、船井総研で旅館や温浴のコンサルタントを15年間行ってきました。そして7年前に、銭湯の経営代行業を立ち上げたのです。

番組で真神社長はこうおっしゃっています。

「銭湯は小さいので、利益が出やすい。オールナイト営業などもできる。地方で24時間コンビニが成り立つのと同じ」

「銭湯のオーナーさんにとって、銭湯は先祖代々の大事な資産です。だから手放せないし、家族に引き継いでいきたい。でも経営がキツいのが悩み。そこで私たちが賃料をオーナーに払って、経営代行を行っています。銭湯の運営を任せてもらうわけです。銭湯オーナーさんとのWin−Winになります」

これは星野リゾートとまったく同じビジネスモデルですね。

ホテルは「ホテルという資産」を持つ不動産経営の側面と、「ホテルの運営」というサービス業の側面があります。日本では、従来の多くホテルは、両方手掛けてきました。

星野佳路社長は「いずれホテル経営の負荷に耐えられずに、経営を手放すホテルが増える」と読み、1990年代に星野リゾートの不動産を手放し、ホテル経営に特化することにしました。資産を手放したおかげで身軽になり、俊敏に経営を策定して実行できるようになりました。OMOやBEBなどの新ブランドを次々と立ち上げられるのも、このためです。

ニコニコ温泉も、銭湯という不動産を持たずに、「銭湯経営代行」という新しいビジネスモデルを立ち上げているわけですね。

番組では、ニコニコ温泉が手掛ける昭島の富士見湯の取り組みも紹介されていました。

ここは22時間営業ですが、燃料代高騰が経営を直撃しました。燃料を薪にして乗り切ろうとしましたが、ガス代が2倍になって吸収できません。

そこで無料だったサウナを、整うことに集中してもらう空間「暗闇瞑想サウナ」にリニューアル。300円にした結果、サウナの売上は月0円から100万円にアップしました。

さらに何もなかった屋根の上に、外気浴できる有料スペース「展望休憩所」を作りました。利用者は「外の空気が感じられてとても気持ちいい」。200円ですが、サウナ客の半分がここを利用します。他にも、有料の寝転びゾーンを作ったりして好評です。

また浴場の中にあるタイルを、イラストやマンガ・写真の展示に使う試みも始めています。実際に展示した人たちからは「有償でいいからやって欲しい」との声も上がっています。

こうして何もなかった場所を稼ぎ頭にして、経営引継ぎ前と比べて、売上は7倍になりました。

銭湯の面積は狭いのですが、天井は高く作られています。こうした空間を全て使い倒せば、すべて売上に使えるわけです。一つ一つの取り組みの積み重ねが、黒字化に繋がっていくわけですね。

このニコニコ温泉、若い世代の働き手が集まっています。

アルバイトの半分が20代を占めます。あるアルバイトの方(29歳)は「35歳までに店を持ちたいと思って準備している」。またある銭湯を任されている店長は、ニコニコ温泉のSNSを見て脱サラしました。

真神社長はそんな若手社員に、仕事の合間に経営のノウハウを伝える「経営塾」を行っています。「短所を伸ばしても効率が悪く結果がでない。だから、長所を必ず伸ばす」というようなことを、時間を決めてオフィスにいる若手社員に伝えてます。

真神社長は「モチベーションが高いので、自分が思いつかないようなアイデアを次々と出してくれる。休憩ゾーンとかサウナ、タイルも、そうやって出てきたアイデアです」

ニコニコ温泉はまだ4店舗と小さなベンチャーですが、実に学びの多い挑戦です。

衰退産業には、実は大きな可能性が眠っていますし、視点を変えれば、売上の機会は至る所にあり、お客様は喜んでお金を払います。

さらにモチベーションが高い職場を作ることで、トップが思いつもかないような斬新なアイデアが次々と湧きだしてくるようになります。そうした組織づくりそのものが、経営戦略になりえるのですね。

   

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