付加価値の意味は、マンション修繕とキーエンスから学べ


よく「商品の機能をアピールするのはやめて、付加価値をアピールしよう。ポイントは、顧客の痛みをどのように解決するかだ」と言われます。でも「抽象的すぎて、今一つハラ落ちしない」という方も多いのが現実です。

先日テレビのニュース番組を見ていたら、まさにそのものズバリの事例があったので、ご紹介したいと思います。

建て売りマンションに住んでいる方は多いと思います。

マンションは貴重な資産です。でも10-20年と放置するとボロボロになります。そこで大規模修繕のために、マンション住民は毎月「修繕積立金」を積み立てています。

しかし多くの修繕積立金は「段階増額積立方式」といって、当初は安く、徐々に増額する方式で組まれています。かくいう私も、今は賃貸住まいですが、かつて住んでいた持ち家のマンションは、当初の修繕積立金1万円が10年後には2万円になりました。

しかしそれでも、世の中にあるマンションの1/3は修繕積立金が不足です。

貴重な資産であるマンションがボロボロになるのは困ります。何よりも危険ですよね。

そこで多くのマンションの管理組合では、マンション住民の同意を得て修繕積立金を増額しています。それでも、積立金が逼迫するマンションも多いのが現実です。

大規模修繕では数千万円、場合によっては数億円の費用が発生します。

そもそも大規模修繕は、色々と面倒です。建設会社からの詳細なレポートや見積書を見ても、素人の住民は「工事が必要なのか?」「見積もりが適切な範囲なのか?」「誰に相談すればいいのか?」などの判断ができません。このため多くの場合、マンション管理組合はマンション管理会社に全てお任せでした。でもお金がない。これは困りますよね。

そこで、この問題を解決するサービスが立ち上がっています。
「スマート修繕」は、そんなスタートアップの一つです。

建築士の資格を持つ修繕コンサルタントが、マンションの外壁を道具で叩きながら劣化診断して、プロの目で修繕が必要な場所などをチェックした上で、第三者の立場で「大規模修繕のコストを削減するにはどうすればいいか」をアドバイスしていきます。

管理会社が提示した大規模修繕費用6000万円が、発注先を独立系に変えたり、工事内容を見直したり、複数の工事業者に見積もりを出したりすることで、費用を2/3となる4000万円に抑えられた、という事例も紹介されていました。

このスマート修繕は

「大規模修繕費用を減らし、修繕積立金を抑制しつつ、マンションの資産価値を維持したい」というマンション住民の痛みに対して、

「第三者のプロの視点で、大規模修繕の費用を大幅に削減する」という提案を行っています。

「削減したコスト」(先の例では6000万円−4000万円=2000万円)が、具体的な付加価値です。

(以上は、テレビ東京ワールドビジネスサテライト「【追跡】国も見直し着手 どうする!? マンション修繕」 2023/11/8放送を参照)

似たような事例は、沢山あります。

国内時価総額ランキング5位のキーエンス(時価総額13兆円)は、営業利益率は54%、粗利は80%、さらに社員の平均年収は2200万円を超えています。

キーエンスも、まさに「顧客の痛み」に対して高付加価値の提案を行っています。

キーエンスは、中小製造業が抱える課題に対して、コストを大幅に削減する提案を行っています。

たとえば製造業にとって、部品の寸法を正確に測定することは、加工精度や高い品質を実現する上で必須です。しかしこれまで熟練作業者であっても、正確に測定するには長時間を要していました。

そこでキーエンスは「3D形状測定器」を開発しました。この機械に部品を置けば、レンズで撮影して部品の画像を取り込み、正確に寸法測定ができます。

これまで半年から2年間の訓練を受けた社員が数時間かけて行っていた作業が、新入社員でも部品を置いてボタンを押すだけで、数秒で完了できます。

もしこの会社が毎日10回検査があれば、1年間で人件費だけでも大幅に短縮できる上に、開発スピードも上がります。

「3D形状測定器」が高価格でも、コスト削減額とメリットが明確ですから、中小製造メーカーは喜んで買う訳です。

この場合の付加価値は、「削減コストと、作業の迅速化」です。

キーエンスの常識外れの粗利(80%)・営業利益率(54%)・平均年収(2200万円超)は、様々な製造業の現場で、このような高付加価値提案を行った結果です。(以上は「キーエンス 高付加価値経営の論理」延岡健太郎著を参照)

お客様が求めているのは商品ではなく付加価値であり、そこで必要になるのが「顧客の痛みの理解と、解決」なのです。

いずれのケースも、この付加価値はほぼ100%確実に実現できます。顧客側には痛みがあり、確実に痛みを減らせます。だから顧客は安心して買う訳です。
・マンション修繕…コストを6000万円から4000万円に削減
・3D形状測定器…人件費削減と作業の迅速化

しかし多くの場合、提案側が「付加価値」と思っても、顧客側はそう思っていません。痛みがなかったり、痛みが減らせるかどうか確実でないからです。たとえば「御社の売上を確実に2倍にします」と言っても、実際に詳しく話を聞くと色々な前提条件があって、机上の空論なことも多いのです。

お客様が求めているのは商品ではなく付加価値であり、そこで必要になるのが「顧客の痛みの理解と、確実な解決」なのです。

   

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