経営者に必須の「危機感」は、「不安」「不満」とは全く違う


私は企業の経営幹部候補向けにリーダーシップ研修を行っています。

ここで重視しているのは「経営者目線を付けること」です。部下がいる・いないに関わらず、この「経営者目線」を持つか否かで、同じビジネス状況に直面しても、状況の捉え方が変わってくるからです。

たとえばお客様から大きなクレームがきた場合、私たちは「すぐ対応して、あらゆる手段でお怒りを解消しなければ」と考えて全力で対応します。

しかし経営者目線を持っていると、お客様のクレームに全力で対応しつつ、もう一段深く状況を捉えて、「ウチの会社のどこに問題があって、なんでこんな状況になったんだろう?」と考えるようになります。そして構造的な問題を見つけた場合、「気付かなかったけど、これを放置すると、ウチの会社はかなりヤバいぞ」と考えて、対応策を考えるようになります。

この経営者目線で大事なのは「危機感」です。

ファーストリテイリングCEOの柳井正さんは、著書「経営者になるためのノート」で、『「危機感を持つ」のが、正常な経営者』とした上で、こう述べています。

「経営者は不安ではなく危機感にもとついて経営をしなければいけません。会社を経営したことのない人は、経営を誤解しています。危機感を持たず、追い風を受けて前に進んでいる状態が「正常な経営」だと思ってしまうのです。現実は全く逆です。追い風にのって順調にいっているから安心だなどという経営をしていたら、あっという間に会社はつぶれます。」

でも、この「危機感」と、「不安」や「不満」の違いって、わかりづらいですよね。

たとえば私は企業研修で、受講者の皆様に「あなたは、自分の会社について、どんな危機感を持っていますか? そしてどうやってそれを解決しますか?」と考えていただくことがあります。

こんな時、「会社はこんな方針を出しているけど、現実にはこんなことをやっても、現場でうまくいくわけない。実際に□□□みたいなことも起こった。こんな方針、ムリである」というような答えが返ってくることがあります。そして対応策が「この方針はムリだということを、経営陣に直訴する」になったりします。

実はこれは「危機感」ではなく、「不安」「不満」です。

危機感とは、たとえばこんなモノです。
①「このままでは負けてしまう!」
②「ここで対応しないと、後で○○が起こるぞ!」
③「もしかして自分、間違ってないか?」

これらの危機感は、主体的な行動につながります。
①「このままでは負けてしまう!」→「勝つためにはこの手を打とう」
②「ここで対応しないと、後で○○が起こるぞ!」→「○○を回避するために、すぐこの手を打とう」
③「もしかして自分、間違ってないか?」→「こうしなきゃヤバいぞ」

何かを変革する際には、この「危機感」が原動力になります。それは主体的な行動が伴うからです。

一方で、不安とはたとえばこんなモノです。
「そんなの売れないよ」
「ダメに決まってる」
「こんなのムリ!」

また不満とは、たとえばこんなモノです。
「なんとかして欲しい!」
「これ、なんで私がやるの?」
「とにかくすべて会社が悪い」

これらは、主体的な行動につながりません。「上に直訴する」といった行動に留まります。主体的な行動が伴わない「不安」や「不満」は、変革には繋がりません

「危機感」は、主体的な行動が伴っています。先の「こんな方針、現場では現実的にムリ」という場合でも、その「方針」の狙いを理解した上で、その「方針」をさらに現場に即したものにグレードアップして提案するのであれば、それは「危機感に基づいた主体的な行動」になります。

危機感は前向きな思考であり、不安・不満は後ろ向きの思考なのです。

そして危機の原因は、好調な時に密やかに仕込まれています。だから柳井さんも『「危機感を持つ」のが、正常な経営者』とおっしゃっているのです。

あなたは、「危機感」がありますか?

   

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