「ガセ情報に騙されず正しい判断ができる方法を教えて」というご質問



先日、こんなご質問をネットで拝見しました。

「世の中、ガセ情報が多いですよね。一般常識でも、間違いもよくあります。こんなガセ情報に騙されずに正しく判断するには、どうすればいいんでしょうか?」

この質問に対しては色々な回答があり、興味深く拝読しました。回答を大まかに二つに分類すると、

①「ガセ情報にはこんなパターンがあるから、こうすれば騙されなくなるよ」みたいな手軽なノウハウを教える回答(回答多数)

②「本格的な教養を、地道に付けることですよ」という回答(回答少数)

でした。

しかし①の方法は限界があります。そもそもガセ情報を広げている本人が、ガセ情報と思っていないケースもあるからです。

2世紀、ギリシャの医学者が考えた「瀉血(しゃけつ)療法」という血液の一部を抜き取る排毒療法が、欧州に広がりました。現実には病弱な患者はさらに体力を奪われてしまい逆効果だったのですが、欧州では19世紀まで広く使われました。

瀉血療法はガセ情報だったわけです。でもほとんど全ての人が1700年間も「真実」と考えていたのです。ちなみに瀉血療法は、一般的にABテストと呼ばれる統計学の「ランダム化比較実験」(19世紀末〜20世紀初に確立)を行うと、間違いだとわかります。

このようにガセ情報を見抜いて、正しく判断するのはなかなか難しいのが現実です。そこで騙されにくくする唯一の方法は、私は②の「教養を広く学ぶこと」しかないと思っています。

瀉血療法は、統計学の知識があればガセだとわかります。しかし統計学で森羅万象がわかるわけではありません。

たとえば、大国の思惑の裏を知るには「地政学」、多数決が本当に正しい意志決定かを考えるには「ルソーの一般意志」の概念、欧米人の意志決定ロジックを知るには「ヘーゲルの弁証法」が役立ちます。

ガセ情報に絶対騙されない方法はありませんが、幅広く深い教養を身につけることで、ガセ情報に騙されにくくなります。

では、教養を身につけるには、どうすればいいのでしょうか?

いまやネットには森羅万象の情報があります。だから「ネットを見続ければ教養が身につく」と考える人もいるかもしれません。

しかし残念ながら、現代のネット情報は、必ずバイアスがかかる仕組みになっています。それが「フィード」という概念です。

情報提供者は、ビジネスとして情報提供しています。彼らはユーザー滞在時間を最大化して、その時間を広告収入などに変えて稼ぐために、私たちの過去の閲覧履歴から私たちの嗜好を把握し、私たちが夢中になって読みそうな情報を選んで、表示しています。検索エンジンの検索結果や、アマゾンの検索でも、同じことをやっています。

つまりネット情報だけに接していると、自分の興味分野に最適化された情報が次々とフィードされるようになります。

例えば「岸田さんはケシカラン」と思っている人には、「岸田さん頑張って」という応援の声はすべて排除され、「岸田さんケシカラン」というその人が好む情報だけが集まり、その人はますます「世の人はみな岸田さんケシカランと言っている。自分は正しいんだ」と信じ込むようになります。

こうしてネットだけを見ている人たちは、自分の知らない領域が存在することに気付かない状態に陥ります。つまり現代では、ネットしか見ていないと、偏った知識が付く仕組みになっているのです。

そこで現代で重要になってきているのが「読書の習慣を身につけること」です。

本に書かれた知識は、個人の嗜好に合わせていません。むしろ「その分野で知るべき知識」が集まっています。自分の興味分野で読書を続けることで、興味分野で知るべき知識が効率よく入ってくるようになります。そして「世の中は知らないことばかりだ」とわかるようになり、知らない領域への興味が広がっていきます。

読書に限らず、新聞や雑誌でも同様です。先の岸田さんの例でいうと、新聞やビジネス誌を何紙か読むことで、岸田さんに厳しい論調と、岸田さん寄りの論調をバランス良く知ることができます。

読書で読むべき本の中でも、骨太な教養書は人類の叡智の結晶です。そのような本を読むことで、私たちはよりよく生きていく上で必要な教養を効率よく手に入れることができます。

昨年11月に「世界のエリートが学んでいる教養書100冊を1冊にまとめてみた」を刊行したのも、少しでもそのお役に立てればと願ってのことでした。

ガセ情報に騙されず正しい判断が必ずできる方法はありませんが、より騙されにくくなり、より正しく判断できるようになる上で、教養書を読むことは必ず役立つのです。

   

■当コラムは、毎週メルマガでお届けしています。ご登録はこちらへ。