弊社では色々な企業様にマネジメント研修を提供していますが、共通して体験するのが、ティーチングとコーチングの違いが理解されていないことです。
「ティーチングもコーチングも、同じだよね」という人が実に多いのです。実は両社は正反対です。
ティーチングの基本は、「相手が知らないことを教える」。この前提は「答えは自分が知っているから、その答えを教えてあげよう」ということです。だからこんな会話になります。
部下「○○で困っているんです」
上司「□□するといいよ」
コーチングの基本は、「その人の中にある答えを引き出す」。この前提は「答えは既にその人の中にあるのだから、その答えを見つけられるように支援する」ということです。だからこんな会話になります。
部下「○○で困っているんです」
上司「問題は何かな?」
部下「△△だと思います」
上司「なるほどね。じゃぁ、どうすればいいと思いますか?」
でもこう感じる人は多いのではないでしょうか?
「ティーチングの方が手っ取り早いじゃん。コーチング、コスパ悪すぎ」
確かに、短期に見るとコーチングは手間がかかります。
でも長期的に見ると、コーチングの方がはるかにコスパがよくなります。
たとえば顧客のトラブル対応を考えてみましょう。
ティーチングだと…
部下「お客様でトラブル発生です」
上司「□□するといい」
部下「了解です」→問題解決
手間は少ないですが、部下の学びは少なく、当事者意識も生まれません。
コーチングだと…
部下「お客様でトラブル発生です」
上司「そのトラブルの原因は何だろう?」
部下「うーん、恐らく△△だと思います」
上司「へぇ。そういうことがあるんだね。どう対応すればいいかな?」
部下「原因は△△ですから、○○するといいように思います」
手間はかかりますが、部下の学びはありますし、当事者意識も高まります。
現代では、あらゆるビジネスがサービス化しています。
従来、「商品を売って終わり」だった製造業も、販売後のサポートや、サブスク型ビジネスで顧客体験(CX)を高めることを、収益に繋げています。こうしたサービスを提供するのは、現場です。ですので、顧客と接する現場で、臨機応変な対応ができることがますます重要になっています。
さらにビジネス環境が激変しているので、上司や経営幹部が知り得ないことがビジネスの現場で起こっています。ですから現場の人が、上司に頼らずに自分で問題を見つけて解決する力が必要になっています。
こんな環境で、上司が部下にティーチングで「こうすればいい」とやり続けるとどうでしょうか? 最も大きな弊害が、部下が自分で考える力が失われてしまうこと。加えて上司の昔の経験は的外れになっている可能性もあります。
ですのでコーチングを通じて、部下が自分で考える力を身につけ、現場で的確な判断が出来るようにする必要があるのです。
偉そうに書いていますが、かくいう私も実は両者の違いがわかっていませんでした。違いを知ったのは20年前。IBMのマーケティングコミュニティで、後進のマーケティングマネジャーの育成を組織的に行おうとした時です。この時、同僚のマーケティングマネジャーが「コーチング手法で、自分で考えられるような人材を育てるべきだ」と提案しました。私はこの時にコーチングの威力を初めて知りました。そしてマーケティング人材育成、その後はソフトウェア事業での人材育成に、コーチング手法を活用していきました。
世の中は凄いスピードで変わっています。かつて上司や経営幹部が現場にいた頃にはあり得ないような変化が、現場では起こっています。
こんな状況で、昔の経験で「こんな場合は、こうした方がいいよ」とティーチングしても、トンチンカンな解決策になりがちです。加えて上司のアドバイスは一種の強制力もあるので、素直な部下ほど言われたとおり従います。だから成果が出ないのです。
また優秀な部下ほど心得ているので、上司の言うことを素直に聞いているように見せかけながら、「ああ、この人はわかっていないんだな」と内心で上司を値踏みして、チャンスがあると会社を離れたりします。
ですから部下と接するときに必要なのは…、
■まず「自分は現場で何が起こっているかがよくわかっていないのだ」と自覚すること
■そしてコーチングを通して一緒に問題を考えながら、部下が持っている答えを引き出していくこと
なのです。
一方で、ティーチングも有効な場合があります。それは求められるスキルレベルに対して、現状のスキルレベルが低い場合です。こんな状況では、ティーチングが有効です。
つまりコーチングとティーチングをうまく使い分ける必要があるのです。
御社の皆様は、コーチングとティーチングの違いを知った上で、使い分けているでしょうか?
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