新規事業のマーケティング戦略と、最初に狙うべき市場は、全く異なる


商品や事業は永遠ではありません。必ず寿命があり、いつかは終わります。
そこで企業にとって必要なのが、新規事業開発を続けることです。

新規事業では、どんなターゲットお客様のどのようなお悩みに、いかなる解決策を提供するかを考えるわけですね。

これがマーケティング戦略の基本STP(セグメンテーション→ターゲティング→ポジショニング)です。

しかし新規事業で、よくありがちな間違いがあります。
製品を市場にリリースして立ち上げる初期段階で、STPの「T=ターゲット」の顧客に売り込もうとすることです。

でもこう言うと、こんな反論が聞こえてきそうです。

「え? マーケティング戦略をSTPで考え抜いたから、そこで考えたターゲット顧客に売り込めばいいんじゃないの? 戦略って首尾一貫すべきでしょ」

実はマーケティング戦略(STP)で考えたターゲット顧客と、実際に製品を市場にリリースして最初に攻めるべき市場は、ちょっと違うのです。

具体的に言うと、最初に攻めるべき市場は、STPで考えたターゲット市場の中でも、特にお客様の課題が明確、かつ小さい市場で、できれば自社の強みが活きる市場です。

たとえばアマゾンは、インターネットが急速に普及し始めた1993年に、創業者のジェフ・ベゾスがインターネット物販の可能性を予見し、「世界最大のオンラインストアを作ろう」と考えて作られた会社です。

しかしベゾスは、最初からあらゆる商品を揃えませんでした。逆に「オンライン販売可能な商品」を20種類挙げた後、5種類(CD、コンピュータハード、コンピュータソフト、ビデオ、書籍)に絞込んで、最終的に書籍に決めたのです。

当時、オンライン販売最大の障壁は「人は実際に商品を手に取らないと、なかなか買わない」。しかし書籍ならば、書籍タイトルが同じ新品の書籍ならば、どれも同じ商品です。

そしてアマゾンは書籍オンライン販売を制覇した後、同じ商品の性質があるCDに商品を広げて、再び制覇しました。そして次第に書品ラインアップを広げて、今に至っています。

セブン-イレブンも、1974年に東京江東区豊洲で一号店を開店しました。この時の合い言葉は「江東区から一歩も出るな」。江東区の市場を制覇した後、徐々に商圏を拡げて行きました。47都道府県に全て出店したのも、ローソン・ファミマの後でした。

このように、市場参入時には、市場を広げるのではなく、逆に徹底的に絞り込むことが重要なのです。

市場を絞り込めば、たとえその市場が小さくても、その市場の中では圧倒的強者になり、ライバルは対抗できなくなります。そしてその市場に安住せずに、徐々に周辺市場に拡げていき、周辺市場を制覇する。これをひたすら繰り返していくのです。

このような「絞り込んだ市場」のことを、「TAM」(Total Addressable Market)と呼びます。

多くの新規事業では、初期段階はリソースが十分にありません。だからこそ、市場参入には、マーケティング戦略(STP)で考えたターゲット市場の中でも、ターゲット顧客と顧客ニーズが明確かつ自社の強みが活きるTAMをまず選び抜いて、リソースを全投入して制覇することがカギなのです。

     

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