先日、あるパーティに参加していたら、途中で「あなたの資産形成をお手伝いします」というテーマで、金融コンサルタントのプレゼンが始まりました。そのプレゼン内容は、典型的な「不安商法」。話の流れはこんな感じでした
・自身の身の上話:自分の家は貧しかった。両親は不仲。大変苦労した。お金の大切さを身に染みて感じました。
・そして、世の中の動向。
・昨今の報道のように、凶悪犯罪が急増。あなたの家の防犯は大丈夫ですか?
・そして、投資の重要性。10年前に持っていた100万円は、普通預金に預けてもせいぜい100万1000円。しかしテスラの株を買えば、1億7000万円。ビットコインを買えば71億円になる。自分も、10年前に買ったタワマンの価格が2倍になった。賢い運用が不可欠です。
・少子高齢化と相続:今、ご家族が円満でも、何もしないと、残された家族が大変な目に遭います。→悲惨な事例をいくつか紹介。
こうした話を続けた後、最後に、
「私は、金融コンサルタントとして、皆様の大事な資産をお守りし、素晴らしい人生を守るお手伝いを致します。ぜひお気軽にお声がけください。会社員の皆様の金融リテラシー教育も行っています。皆様の会社にお招きいただければ、無料でご相談に乗りますよ」
この方は、卓越した販売業績を上げた生命保険・金融プロフェッショナルに与えられるMDRT (Million Dollar Round Table)を何回も受賞した、優秀な金融プロフェッショナルだそうです。
参加者を見ると、熱心に聞き続ける人がいる一方で、聞き流している人もいました。
これは、実は極端な事例を取り上げて、不安をいだかせて、商売に繋げる典型的な不安商法です。具体的に見ていきましょう。
【凶悪犯罪は、逆に減っている】
この方は「凶悪犯罪増えてますよね」といってます。現実にメディアでは凶悪犯罪が連日報道されていますよね。でも犯罪は、過去数十年間で大幅に減っています。
法務省統計によると、令和4年(2022年)の刑法犯は601,331件。平成15年(2003年)と比べて-78.4%です。
国別に見ても、2020年の殺人の発生率(人口10万人当り)は、日本が0.3人、韓国は0.6人、フランスは1.1人、ドイツは0.9人、英国は1.0人、米国は6.4人。世界的に見ても、日本はかなり安全です。
もちろん防犯に注意することに越したことはありません。しかし20年前と比べてその必要性はかなり減っているのです。
【資産運用の現実】
この方が取り上げたテスラやビットコインは、過去の成功例です。急騰した金融商品のトップをピックアップし、自分の体験を付加して信憑性を高めています。
作家の橘玲氏は、著書『臆病者のための億万長者入門』や複数のインタビューで、経済の不確実性に備えるための資産運用戦略として「普通預金が最強の金融商品」と述べています。
あるいは「ドルコスト平均法」といって、破綻リスクが少ない日経平均ETFのような商品に何も考えず積み立てする方法が、長期的に見ると確実にお金が増える、という考え方もあります。
つまり資産形成には色々な考え方があるということです。
【相続対策の必要性】
相続については、現実には法律で定められた法定相続分があるので、資産が特に大きくない場合や相続人同士の関係が良好ならば、トラブルが起こる可能性は低いのです。
たとえば、相続税の基礎控除額は法定相続人が2人だと4200万円。多くの場合、相続額はこの範囲内に収まるので相続税の心配は不要です。むしろ余分な節税対策でコストがかかる可能性すらあります。(相続資産が多く、相続人同士で利害衝突がある場合は、対策が必要かもしれません)
「詐欺」と言うほどではありませんが、あえて極端な事例ばかりを取り上げて、不安を煽る手法ですね。
こうした手法に振り回されないためには、相手の「主張」「根拠」「ロジック」を検証する力が必要です。たとえばスマホで「日本の犯罪率推移」と検索すれば、犯罪傾向の事実を把握できます。
さらに生成AIならば…
「凶悪犯罪は増えていますか? 根拠も明示してください」
「お金を増やす方法は、ビットコイン、株投資、普通預金など様々です。比較して論評してください」
「金融コンサルタントに相続対策を勧められましたがアドバイスください」
と聞けば、意外と的確で専門家レベルのアドバイスが返ってきます。
ただし生成AIを駆使するには、『相手の「主張」は、「根拠」と「ロジック」で検証すればいい』という論理的思考する際に最低限必要な情報リテラシーを身につけることが必要です。
こうして「なるほど。この人、不要に危機感を煽って、商売に繋げようとしているんだな」とすぐにわかります。
AI時代だからこそ、こうした情報リテラシーを高めることが、健全な判断をする上で、最強の武器となるのです。
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