まず4Pが生まれ、次にSTPが生まれた


マーケティングを最初に学ぶ時に出てくるが、「STP」と「4P」です。

「STP」とは、セグメント、ターゲッティング、ポジショニングの略です。

よく「市場」と呼ばれますが、現実には市場の中には色々な顧客がいます。そこで市場を分析して細分化(セグメント)して、顧客を絞込み(ターゲッティング)、その顧客に自社をどんな位置づけ(ポジショニング)で認識してもらうことを考えるのが、STPの概念です。

STPで狙いを定めたら、次に「4P」を考えます。

4Pは、「製品」「価格」「チャネル」「販売促進」の4つの英語Product、Price、Place、Promotionの頭文字です。実際に行うマーケティング施策はこの4つでほぼ漏れなく網羅できるのです。

そこでマーケティングの基本を学ぶ際には、「まずSTP、次に4P」と教えられるわけです。

しかし最初にマーケティングの世界で広がったのは、4Pでした。

数日前に古い書類を整理していたら、マーケティングの父・フィリップ・コトラーが2013年12月に日本経済新聞で連載していた「私の履歴書」の新聞切り抜きが出てきました。当時夢中になって読みふけったことを思い出しました。

この連載の第8回目に4Pの話が出てきます。一部引用します。

『この学問(注:マーケティング)の進化を語る上で「4P」(製品、価格、場所、販売促進)は重要な用語である。これを最初に提唱したのはジェリー・マッカシーだ。昨日、ここ(注:この連載)で紹介したフォード財団がハーバード大学で主催したプログラムのマーケティング・グループとして一緒に机を並べていた彼は、60年に初めて「4P」を使った教科書を出した。

この4Pには原型がある。彼の恩師であるノースウエスタン経営大学院のリチャード・クルウェット教授が「3つのP」(製品、価格、販売促進)と「1つのD」(流通=ディストリビューション)を使っていた。

ジェリーは自らマーケティングを教えるようになり、Dをプレイスに換えて「4P」という枠組みを作ったのだった。日本では「4P」の最初の提唱者が私だと思っている読者がいるが、ちゃんと先達がいた。私はこの4Pを様々な分野に活用、実践した』

ということで、1960年にマッカシーが4Pの概念を提唱しました。

コトラー本人も言っているように「4Pはマーケティングの父・フィリップ・コトラーが提唱した」と思っている人が多いですが、実はこれは違うわけです。

1960年頃は、消費社会が始まったタイミングです。大量に商品を生産して売れば、売れた時代です。

そこで『より多く売るために、「製品」「価格」「チャネル」「販売促進」をしっかり考えよう』ということで4Pが広がりました。

しかし消費社会が成熟していくと、様々な商品が提供されるようになり、消費者の目が肥えてきました。こうなると商品を提供するだけでは売れません。

そこで「4Pを具体的に考える前に、そもそも消費者のニーズが何かをまず理解しよう」ということになり、既にマーケティングの世界で個別に議論されていた「セグメンテーション」「ターゲッティング」「ポジショニング」の概念を統合して、コトラーがSTPの概念を確立したのです。

コトラーは連載第11回目に、1960年代に「マーケティングの対象範囲をビジネス以外に広げよう」と考えて様々な活動をしていたことを紹介しています。一部引用します。

『(マーケティングを様々な分野に応用することは)宗教では批判を受ける可能性があるのもよくわかっていた。そこで、宗教団体が信徒のニーズを理解し、信仰や宗教活動によってそれを満たすことで信徒の獲得や維持につながることを示そうとした。

4Pの活動の前にS(セグメント)、T(ターゲッティング)、P(ポジショニング)という概念を応用し、高い評価を得ることができた。』

こうして「まずSTPを考え、次に4Pを考えよう」ということが、マーケティングの基本中のキホンになりました。

『マーケティングの基本はSTP+4P』と言われるとチンプンカンプンですが、こうした歴史の流れが理解できれば、STP+4Pの考え方がスムーズに理解できると思います。

     

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