
新規事業プロジェクトの中でも特に大変なのが、製品をリリースして、売り上げを成長軌道に乗せる段階です。
ともすると頑張ってもなかなか売れない時期が続きます。これが続くと、新規事業プロジェクトは最悪打ち切りです。
ここで大事なことは「最初のお客様」から徹底的に学ぶことです。
成功するあらゆる新規事業では、必ず「最初に買う1番目の顧客」がいます。
社会学者のエヴェリット・ロジャースは、「イノベーションの普及プロセス」と言う有名な概念を提唱しています。
新商品は、まず市場全体の2.5%を占める「イノベーター(革新者)」と呼ばれる顧客層が真っ先に買います。
次に市場の13.5%を占める「アーリーアドプター(初期採用者)」が買います。
さらに市場の34%を占める多数派である「アーリーマジョリティー(初期多数派)」が買うようになれば、新規事業は無事、軌道に乗った状態になります。
ただ今回で取り上げたいのは、一番最初の顧客層である「イノベーター」に拡げて行く段階の話です。
「イノベーター」の中でも、1番最初に買うお客様が「最初の顧客」です。
この「最初の顧客」と「その他の顧客」は、実は全く異なります。素晴らしい革新的な商品ほど、「最初の顧客」以外のすべての顧客は、販売開始段階では否定的な反応をしがちです。
否定的といっても「ネガティブな反応」をするのは、まだ関心があるだけマシで、ほとんどの顧客は無反応です。革新的な商品の価値を認識できないからです。
こんな状況にも関わらず、新製品を買ってくださる「最初の顧客」は、実に貴重な存在です。
だって、他に誰も顧客がいない状態で、わざわざ手間と時間をかけて新製品を検討した上で、お金を払って購入して、しかも使い続けてくださっているのです。
こうしたことがわかると、最初の顧客は、「有り難や、有り難や」と拝みたくなるほど有り難い存在であることがおわかりいただけるのではないでしょうか。
さらに大事なことがあります。
「新規事業プロジェクトでは、私たちが当初想定していたことは間違いも多い」ということです。
これは「最初の顧客」と話をしてみると、すぐにわかります。試しにこんな質問をしてみてください。
「御社は、どんな課題を持っていましたか?」
「この商品を買おうと思った決め手は何ですか?」
「この商品を購入して、どんな変化がありましたか」
「この商品の満足度と、改善要望は何でしょうか?」
私たちが想定していたのとは、全く違った答えが返ってくることも少なくありません。これは実に貴重な学びです。
私は過去に企画した製品で、こんな経験をしました。
この製品は企業向けソフトウェアで、お客様のデータをどんなことがあってもガッツリと守ることが売りでした。当時、競合他社の商品はそんなことはできなかったのです。
しかし最初に採用してくださったお客様にお話しを聞いたところ、全く違う理由で採用されていたのです。
「あ、この製品を採用した理由ね。サーバー側のソフトは有料だけど、パソコン側のソフトは無料配布できるでしょ。ウチの会社、パソコン何台にこのソフトを展開するか、決まっていないんですよね。この製品はパソコンが何台あっても無料でいくらでも配布できるから、これにしたんですよ」
私は驚いて聞き返しました。
「ええと…。この製品はデータをガッツリ守ることが他社にない最大のウリなんですけど、その点はどうお考えになったんですか?」
「あ、それは確かにいいですね。でもデータが消えたら、入力し直せばいい話ですから。バックアップも取ってるし」
つまり、この製品の最大のウリは、当初の想定とはまったく別の所にあったのです。
ということで、自分が「これがウリだ」と思っていても、実は本当のウリは全く別のところにあることも少なくありません。
だからこうして得た学びを、新規事業プロジェクトの製品デザインや売り方、プロモーションの方法に反映していけば、お客様をより確実に獲得できるようになります。
たとえばさっきの例では、プロモーションで「データをガッツリ守る」ことはアピールしつつも、「パソコン台数が何台あっても料金は変わらない」こともあわせてアピールすれば、2番目、3番目のお客様獲得につながり、ビジネスは加速的に成長を始めるわけですね。
「新規事業プロジェクトに取り組んでるけど、伸び悩んでるなぁ」
そういう方は、購入いただいたお客様にじっくり話を聞いてみるだけでも、打開策の大きなヒントが得られるはずです。
■当コラムは、毎週メルマガでお届けしています。ご登録はこちらへ。