間違った1on1は、やればやるほど逆効果!

日本でも1on1が広がってきました。パーソル研究所の2025年2月の調査によると、企業の1on1経験率は6割弱。もう過半数ですね。

ただ上司も部下も「効果が感じられない」という回答が3割近くあるそうです。

もともと1on1は、部下の悩み=問題を解決することが目的です。なのに…

「今日は上司との1on1か。憂うつだ…」

こんな若手社員の笑えない声もよく聞きます。

特に大企業の場合、「1on1実施の数値目標を決めて、とにかく始めてみよう」という方針で始めるケースが少なくありません。

しかしお話しを詳しく伺うと「1on1をどう行うのか?」を知らずに行っているケースが少なくありません。

「そもそも、なぜ1on1をやるのか?」
「どのように1on1を行えばいいのか?」

これらをわからない上司が、部下と1on1をやってるわけです。上手くいかないのは当たり前ですよね。

では1on1とは何でしょうか?

私の理解ですが、1on1の本質は「コーチング」です。

「部下の成長と目標達成のサポート」という1on1の目的を実現する上で有効な手段が「コーチング」なのです。

ただ、多くの方が「コーチング」=「ティーチング」と誤解しています。

実は「コーチング」は「ティーチング」の真逆です。

「ティーチング」は、「答えは私が持っている。だから教えてあげる」というのが基本スタンス。つまり学校での先生と生徒の関係です。

例えば営業課長と部下の1on1をティーチングで行うと、こんな感じになります。

課長「この前の商談、失注して残念だったよね」
部下「はい。申し訳ありません」
課長「キーマンの部長を抑えていなかったのが、痛かったよね」
部下「おっしゃるとおりです…。アポがとれなかったんですよね」
課長「そこを何とかするのが営業だよ。突破力が足りないなぁ」
部下「突破力ですか…」
課長「あらゆるツテを使えば、キーマンと話せるものだよ。俺も若い頃は、夜討ち朝駆けしたもんだ」

まさに「1on1あるある」です。

こうして「1on1 = ティーチング」と勘違いした上司は、「自分が知っている目標達成の方法を、教えてあげよう」と考えて、親身になって教えようとします。

しかし部下には部下だけが抱える悩みがあったりします。その悩みを理解せずにアドバイスしても、的外れなアドバイスになりがちです。これではちょっと残念です。

「コーチング」の基本的な考え方はティーチングの真逆で、「答えは、相手が持っている」。「自分は知らない」という前提で、相手のことを謙虚に聞きます。

1on1は、部下の悩み=問題を解決することが目的です。その悩みは人によって千差万別。ですから1on1は、部下が抱える固有の悩みや課題を理解することから始まります。

たとえば先の営業課長と部下の1on1だと、こんな感じです。

課長「この前の商談、率直に言って、どうかな?」
部下「失注した原因は、先方の部長のアポが取れなかったことです。実は行き違いがあったんです…」
課長「そうだったのか…。話せる範囲で教えてもらってもいい?」
部下「別案件で私の説明が足りずに、激怒されたんです。それから話しづらくて…」
課長「うわぁ。そんなことがあったのか。どんなサポートをすればいいかな?」
部下「最初だけでも課長に同行いただければ、部長と話がしやすくなるかもしれません」
課長「もちろん同行するよ」
部下「次の案件で部長に話を通す必要があるので、その時にお願いできますか?」

このように課題は部下が一番よくわかっています。まず部下がどんな課題を抱えて困っているのかを、謙虚に聞くことが出発点です。

ティーチングでは、マネジャーが8割話したりします。逆にコーチングでは、マネジャーが話すのは2割に留めて、8割の時間は部下の話を聞くことに費やします。

こうして書いていますが、実はこれは、私が日本IBM社員時代に経験して学んだことです。

私は日本IBMのマーケティングコミュニティで、部門横断でマーケティング職の先輩と後輩間のコーチング制度を、有志の仲間で設計した経験があります。

そこで学んだのがまさに「コーチングは教えることではなく、聞くことだ」ということ。

実は当時の私は「先輩として、後輩に答えを教えればいい」と頭から思い込んでいたので最初はなかなか理解できませんでした。しかし仲間の一人から実際にコーチングのビデオ教材も見せてもらったりして自習しながら、徐々に理解を深めました。

そして後進のマーケティング職とのコーチングを実際に繰り返すことで、「コーチングでは、まずは相手の話を聞くことが大事」ということを、現場で学ぶことができました。

この学びは、後に私がソフトウェア事業本部で、事業部メンター制度を展開する際に活きました。

当時、私はソフトウェア事業本部の人材開発部長でした。人事部長と連携して、「コーチングを受けたい」という若手社員と「若手社員の悩み相談に乗りたい」というマネージャーをペアリングするコーチング制度の仕組みを作りました。このプログラムを発表すると、事業本部内で100名以上が手を挙げました。そして彼らをマッチングしたコーチング制度を開始しました。

この時、特に注意したのがマネジャーがコーチングの方法論を正しく理解することでした。そこで「事前にオンラインでコーチング研修を受けること」をマネジャーの参加条件にしました。

結果、このプログラムは成功し、IBM本社でもこの仕組みが採用されました。これもコーチングの基本を忠実に踏襲したおかげです。

「社内でコーチングを展開しているけど、うまくいかない」という人は、まずは1on1を実践するマネジャーに「コーチングの基本」を学んでいただくことから始めてはいかがでしょうか。

また「部下との1on1がうまくいかない」とお悩みの方は、次回の1on1では、まずは自分が話すのは2割以下に留めて、雑談から始めてみて、次第に部下がどんなことで悩んでいるかを聞いてみるところから始めてみてはいかがでしょうか。きっと、いつもとは違う1on1になると思います。

 

■当コラムは、毎週メルマガでお届けしています。ご登録はこちらへ。