「アサヒゼロ」は、スーパードライ以来、約40年ぶりのイノベーション


私は30代までかなりお酒を飲んでいましたが、50歳を過ぎてお酒を飲まないようになりました。それから10年以上経ちます。お酒が嫌いなわけではないのですが、アルコールに弱くなり、健康のことも考えて飲まないようになったわけです。

とはいえ、ビールは好きなので、ノンアル・ビールなども試しました。でも正直、どれも本物のビールとは全く違うシロモノでいまいちでした。

そんなある日、こんな話を聞きました。

「アサヒゼロが凄い」

試しに飲んでみたら、驚きました。

ビールそのものの味なのです。
しかも、アルコール分0.00%。当然、いくら飲んでも酔いません。
素晴らしい! まさに、こんなノンアルビールを待っていました。

ということで、それからアサヒゼロがお気に入りになりました。

アサヒゼロは2024年4月の発売です。
2024年の販売目標は当初60万ケースでしたが、結果は172万ケースと計画の3倍のヒット。1ケースは大瓶20本。つまり大瓶で、3440万本が売れたわけです。

2025/4/20の日経MJ記事に、アサヒゼロの開発の経緯が詳しく書かれています。

これまでノンアルビールがイマイチだった理由は、「熱で香りや風味はなくなりやすく、脱アルでのおいしいノンアル・ビールは難しい」というのが常識だったからです。

そこでアサヒゼロは、ビールより2倍濃厚なエキスを作り、アルコール分を除く「脱アル」工程を入れ、本物のビールのような飲み応えを残し、アルコール度数0.00%を実現しました。このために製造設備の条件も1から見直しました。

さらに最近は国内4都市で販促イベントも開催。

会社員におつまみのセットを200円で売り、その場で飲み干してもらって「承認=うまい。もう1本!」か「未承認=うーん、全額返金で」のレバーを選んで押す、と言うイベントも行いました。

有楽町駅の広場で行われたイベントでは、日経の記者が1時間ほど現場を観察する間に約30組が参加し、9割が「承認」を選んでいたそうです。

アルコールが入っていないだけで、味はビールそのものです。この結果は納得ですね、

このアサヒゼロ、私は1987年に登場した「スーパードライ」に匹敵するレベルのイノベーションになり得ると思います。

スーパードライ登場前、ビール業界ではこんな常識がありました。

「消費者はビールの味はわからないし、保守的で新しい味は受け付けない。だから味は他社と同じでいい。味を変えると売上は落ちる」

こんな時期、アサヒはあえてビールの味を変えたのです。

「消費者は飲み飽きないビールを求めている」と考えて、スーパードライを開発。最初のターゲットとして、ビールをガブ飲みする「ビール通」を選び、販売当初は TV CMでこんなメッセージを出しました。

「新しいビール通はこの味を選んだ。アサヒ スーパードライ」

これがスーパードライ大躍進の始まりでした。

このように従来のビールの成功法則は、国内成人9000万人のうち、よくお酒を飲む2000万人にアピールすることでした。

これから40年近くが経った現代、市場は変わりました。

ビールを飲まない層が増えています。私などはまさに典型です。
アサヒは「お酒を飲まない、飲めない層」は5000万人と推計しています。
「よくビールを飲む」2000万人の市場よりも、はるかに大きいのです。

一方で、「ノンアル・ビールはまずい」というのがビール業界の常識でした。

この市場で、アサヒは「本物のビールのような飲み応えのノンアルビール」と言う価値を提供して、ビール市場を変えつつあるのです。

「ビールは好きだけど、アルコールが入ってるから飲めない」と言う隠れた不満を持つ人たちを開拓しているわけです。

加えて「お酒は飲めるけど、仕事などがあるから飲めない」という人もターゲットになり得ます。

これはまさに新しい市場の創造です。

まさに今、スーパードライ以来のイノベーションがビール業界では生まれつつあるのです。

今後、アサヒビールを成長させる起爆剤になるか、見守りたいと思います。

 

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