
セールスの方々から、よくこんな悩みを耳にします。
「ウチの商品は他社と差別化できてないので、結局、値引きするしかないんです」
残念ながら、こういうセールスの方々は、セールスとしての仕事をしていません。
“売れない理由”が商品力だけだとしたら、同じ商品を扱う営業全員が苦戦しています。
しかし現実には、同じ商材でもしっかり成果を上げるセールスもいます。
そこで事例を紹介します。
世界的に有名な法人営業の指南書
『The Qualified Sales Leader』(ジョン・マクマーン著、未邦訳)
に登場する実話です。
この本で著者のジョンは、ある日突然、保険営業の「ダン」から電話を受けたときのやり取りを、紹介しています。
会話は、ごく普通のセールストークから始まります。
「こんにちは。〇〇保険のダンと申します。5分だけお時間いただけませんか?」
同じセールとして多少共感もあったジョンは「いいよ」と言いました。
「お子さんはいますか?」
「2人。大学にいかせたいね」
「進学の費用は?」
「1人25万ドルくらいかな」
「ご自宅のローンは?」
「まだかなり残ってる」
「奥様は働いてますか?」
「働いてないよ」
「あなたと奥様のご両親は、お近くにいますか?」
「妻は移民で、両親は母国にいて、私の両親はもういない」
「もしあなたが急にいなくなったら、奥様は?」
ここでジョンは、不安になり始めました。
「仕事に戻らなければいけないけど、ローンを払えないね」
「奥様が仕事するには、お子様をデイケアセンターに預けなければいけませんが、親類の方々はお近くにいません。誰かお子様を毎日デイケアセンターに送り迎えしなければいけないでしょうか?」
そんなことは考えたこともないジョンは、子供たちの将来が不安になり始めました。
「そしてあなたが亡くなった場合、お子様たちは大学を卒業できますか?」
生命保険に入ってないことがいかに愚かなことか痛感して、「今すぐ生命保険が必要だ」と納得したジョンは、ダンと生命保険の契約をしました。
ダンはジョンの生命保険に対する優先順位を、全くの考慮外から、最優先順位に引き上げたわけです。
この事例は、私たちがつい見落としがちな重要なポイントを示しています。
ダンが売っているのは、生命保険の営業であれば誰でも売れるコモディティー商品です。
しかしダンは一切価格の話をしていません。その代わり、的確な質問を通してジョンの不安・リスク・将来像を質問に応える形でジョン自身に語らせることで、ジョンから「これは自分にとって優先順位が極めて高い」として認識させたのです。
冒頭の「値引きするしかない」というセールスと、ダンの違い、わかりますでしょうか?
現実にはお客様は、「商品の提供価値」が「商品に支払う価格」を上回れば、買います。下回れば買いません。つまりこういうことです。
買う→ 商品提供価値 > 商品価格
買わない→ 商品提供価値 < 商品価格
冒頭の「値下げするしかない」というセールスは、単純に「商品提供価値=商品の機能」と考えて、商品ができることだけを説明しがちです。
たとえば保険セールスだと、「この商品は、お亡くなりになった場合の保険金が○○○○万円の保険です」と説明するわけです。「この商品機能に対して、この商品価格がついているから、説明すればいい」と考えているわけですね。
でも現実には、お客は商品提供価値(=商品の機能)が本当に商品価格を上回るのかが、よくわかりません。つまり「商品提供価値 < 商品価格」じゃないの、と思ってしまって買わないのです。
一方でダンは、お客であるジョン自身も気付かなかった「妻や子どもたちの将来への不安」を、ジョンが納得できるように、質問を通してジョン自身の言葉で明確に語らせています。
ジョンにとって「商品提供価値=妻や子どもたちの将来への不安への解決策」と比べると、商品価格(保険料金)は実に安いものに見えています。
つまり「商品提供価値 ≫ 商品価格」なので、ダンと生命保険を契約したのです。
このようにセールスの仕事とは、商品の機能を説明することではありません。
「お客様の深い課題=負担コスト」を具体的に理解し、的確な質問でその課題を顕在化して、お客様自身に“なぜ必要か”を気づいていただき、解決策を示すことで「商品提供価値=負担コストの解決策」を認識していただくくこと。
事前に考え抜いて準備した質問こそが、セールスの武器なのです。
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