ふるさと納税で届いた商品が、顧客サポートを受けられない

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先日、ふるさと納税の返礼品で、我が家にあるメーカーの商品が届きました。

このメーカーの商品は長年愛用していて、このメーカーがこの自治体で作っていたので、我が家はこの自治体に寄付することにしたのです。

しかし商品を使ってみると、微妙に身体にフットしません。
こんな場合、通常の購入ならば、メーカーの代理店にお願いすると調整してくれます。
ただ今回はふるさと納税の返礼品なので、メーカーに尋ねました。すると、こんなご返事でした。

「ふるさと納税の商品は、サポート対象外です」

…ということで、困ってしまいました。

調べてみるとこうしたことは、数多く発生しているようです。

いろいろと考えてみると、この問題には2つの根本的な要因が潜んでいるようです。

【要因①】ふるさと納税は、ECではなく、本質的に「寄付制度」であること

【要因②】現在のふるさと納税は、顧客チャネルとして、「顧客体験価値の最大化」が未成熟

個別に見ていきましょう。

 

【要因①】ふるさと納税は、ECではなく、本質的に「寄付制度」であること

私たちは、ついこう言いますよね。

「これ、ふるさと納税で買ったんだよね」

実はこれは、ふるさと納税の理念とはちょっと違うのです。

2025年9月9日、村上総務大臣は会見でこう述べています。

「ふるさと納税は、いわゆるインターネット通販であってはならない」
(2025年9月9日のNHKニュースより)

この説明を聞いて「え? 何それ?」と思う人もいるかもしれないので少し説明します。

私たちの給料から納める税金は、国に納める「所得税」と、県や市に納める「住民税」があります。ふるさと納税は、住民税に関係しています。

住民税は通常ならば、自分が住む県や市に全額納めます。

でも住民税が少なくて困っている地域もあります。

そこでふるさと納税は、本来は自分が住む地域に納める税金の一部を、応援したい別の地域(ふるさと)に寄付するためにできた仕組みです。

当初は寄付だけの仕組みでした。しかし「寄付のお礼に地元の特産品を贈ろう」と考える地域も出てきました。

お礼を贈ると寄付金が沢山集まるようになり、他の地域にも広がりました。

こうして寄付をする人たちからすると「ふるさと納税すると、返礼品がもらえる」ということが当たり前になったのです。

このようにふるさと納税は公金を使用している公的な税制上の仕組みですし、返礼品も税金でまかなっています。

しかし実際にはEC業者同士のように、自治体間で”返礼品競争”が行われたり、仲介サイトでポイントを付与しているのが現実です。

総務省は、この状態を「おかしい」と言っているのです。

これには反論もあるので紹介しておくと、ふるさと納税仲介大手の楽天は、「ポイント付与はふるさと納税の利便性を高めて普及に寄与している。総務大臣の裁量権を逸脱した営業の自由の侵害」として、総務省の国事に対して無効確認を求めて訴訟しています。

このように色々とありますが、ここまでは「理念」の話です。

寄付とは言え、寄付者は自分の税金の使い道を指定している「顧客」でもあります。

そこで次に、「ふるさと納税」を顧客チャネルの視点で考えてみましょう。

 

【要因②】現在のふるさと納税は、顧客チャネルとして、「顧客体験価値の最大化」が未成熟

「ふるさと納税」を顧客チャネルとして考えた場合、チャネル構造はこうなっています。

[顧客(寄付者)]

↑↓(寄付の仲介)

[ふるさと納税プラットホーム業者(さとふるなど)]

↑↓(寄付の仲介)

[自治体(名目上の販売業者)]

↑↓(委託)

[返礼品事業者(製造・発送を担当)]

なかなか複雑なチャンル構造ですね。

本来、チャネル戦略ではチャンネルオーナーが明確になっているべきです。

・アマゾンのEC販売であれば、アマゾンがチャネルオーナーです。
・スーパーマーケットであれば、スーパーマーケット業者がオーナーです。
・Apple Storeのようなメーカー直販ならば、メーカーがオーナーです。

しかしふるさと納税では、誰がチャネルのオーナーなのか曖昧です。

このために購入履歴や顧客満足度の情報は、バラバラに蓄積されてます。不良・遅延・返品等が発生した場合、誰が責任を持って対応するかも不透明なままです。

チャネル戦略が、不整合な状態になっているのです。

こんな中で、ふるさと納税業者も努力しています。

たとえば、顧客(寄付者)が欲しい返礼品をすぐに探せるようにしたり、返礼品の配送状況を可視化して日時指定できるようにしたり、ワンストップで煩雑な税務関連の事務手続きを済ませられるようにしています。

しかし、これらは「チャネル設計で考えるべき要素」の一部に過ぎません。

チャネルの最終目的は「顧客の価値の最大化」です。そのためにチャネル戦略では、下記の要素を網羅的に考える必要があります。

❶ 商流・金流(どこが、どのように販売・決済するか)
❷ 物流(配送・受け取り)
❸ アフターサポート/問合せ
❹ コミュニケーション(顧客からのフィードバック)

現在のふるさと納税は、❶はできています。しかし❷は配達遅延や不達などもあるようにやや弱く、❸と❹が十分に出来ていません。

確かに村上総務大臣が言うように、ふるさと納税は本質的に「寄付制度」であって、ECではありません。

しかし寄付者といえども、安心・わかりやすさ・丁寧な体験といった「顧客体験価値」を求めています。

「いや、ECじゃなくて寄付なんだから、『顧客』じゃないよ」ということであれば、「顧客」という言葉を「ユーザー」に置き換えてもいいと思います。

「寄付の理念」と「チャネルとしてのユーザー体験」は分離して考えるべきですし、理念を守りつつ、ユーザー視点で満足度を上げていくことは可能だと思います。

ということで、我が家に届いた微妙に身体にフィットしない返礼品ですが、困りましたねー。「ChatGPTに聞きながら自分で調整しようかな」と思いながら、悩んでおります。

 


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