荻阪哲雄著「リーダーの言葉が届かない10の理由」 ビジョンを創り、組織に浸透させ、変革を実現する実践書


従来の多くの日本企業では、「これまでこうやってきた。だから次はこれをやろう」という考え方で経営戦略を考えてきました。しかし今は世の中の変化が速く、従来の常識が通用しない状況が増えています。この方法ではすぐに賞味期限切れを起こすのです。

そこで必要になるのが、経営の教科書に書いているように、未来に何が起こるかを見据え、未来の目標(=ビジョン)を定め、そのビジョンを達成するための戦略を考え、組織を動かし実行すること。

しかし実際には、これはなかなかうまくいかないのが現実です。

ちょうど大型タンカーが舵を切ってもなかなか方向転換しないように、「これをやっていたから、次はこれ」という発想に慣れた多くの日本企業では、組織が従来の方法を変えることが、極めて難しいのが現実です。

そして「とりあえずビジョン作りは誰かに任せておいて、本業は本業で従来どおり進めよう」と考え、やり方を変えないのです。

つまりビジョンが他人事になってしまうのです。そして、なかなかビジョンを立てられない → トップがビジョンを語れない →組織に浸透できない →組織が実行できない →反省と学びができない、という悪循環に陥ってしまうのです。

そして、何も変わらないまま時が過ぎ、企業の競争力が、徐々に、あるいは急速に、落ちていきます。

 

ではいかにこれを解決すべきなのか?

最近、荻阪哲雄著「リーダーの言葉が届かない10の理由」(日本経済新聞出版社)を読了しました。

荻坂さんの本

本書では、この問題に対する具体的な解決方法を提示しています。

 

著者の荻阪さんは、二十年以上にわたリ組織の変革系コンサルティングに従事してこられました。本書はその豊富なコンサル経験をベースに、具体的な事例と変革の方法論が紹介されています。

本書の前半1/3では、サザンZ社という架空の会社を舞台に、物語形式でビジョンが浸透しない様子が描かれています。そして真ん中では、それを受けて著者の考えが紹介されています。

そして後半は、荻阪さんが提唱する、ビジョンを創り、届けるために、自分たちの行動へと変えていく実践手法「バインディング・アプローチ」の具体的な方法が紹介されています。

本書からは、リアルな企業変革の現場に数多く立ち会った荻阪さんならではの洞察が散りばめられています。

本書から、私が特に参考になった箇所を引用します。(順番はわかりやすいように並び替えています)

 

■「志」という字を見てください。十を一つにまとめた心と書きます。暗黙のうちにめざしているものが十あったとしても、それをビジョンへと進める(一つの)方向を定める…… (p.91)

■「たしかに共有は大切ですが、共有ばかりしていても、先に物事は進んでいません。なぜなら、共有は手段で、目的ではないのです。どこか、共有していることで安心感だけを得ようとしているように感じます」(p.110)

■著者は、ビジョンを「未来の目的地」と定義する。

■一言で表せば、ビジョンを、リーダーとメンバーで一緒に、仕事の「決め方」と「働き方」に浸み透らせることだ。これが著者の、浸透の定義である。(p.124)

■「日本企業は、協創の文化で、世界に貢献する」……新たな「目的」そのものを仲間と協力し合って創る「協創の組織文化」を育み、協創の企業に変わることをめざせばよいのだ。それによって、日本を変えていく方向が必要と考えている。(p.129-130)

■日本は、「世界一の結束力」を持った国である。(p.131)

■この「大きな目的(ビジョン)に、互いに結びつきたい」という欲求に根ざした人間と組織の根底にある「力」とは、一体どのような力なのか? ……その力を、一言で表したもの、それが「職場結束力」である。つまり、ビジョンは、職場結束力を生み出し、高めて、強くしていかない限り、浸透していかないのである。(p.160)

■……自分で描き、自分で周囲に語り始めると、自分が目の前から逃れられなくなる。その結果、ビジョンを語ることが、やり続けるエンジンに変わったのである。(p.139)

■気づかせようというコントロールの発想を持つと、相手の「自ら変わるエネルギー」は生まれない。(p.152)

■ビジョンを実現するためには、やらない戦略を決断することだ。(p.174)

■実践のビジョンは、仕事を通してやっていくものである。つまり、ビジョンは仕事で行わない限り、浸透しないのだ。(p.193)

■組織の反省は、成果を変えることができる (p.95)

■上司から始まる反省は達成の方法を育てる (p.97)

■反省を語るのは、勇気がいることだ。しかし、責任を持つ人から先にやることで、結果は驚くほど変わる。(p.232)

■三割のリーダーが「バインディング・アプローチ」を実践する協働の姿を見せれば、ビジョンは浸透できる。(p.237)

■「温度差があることをよし」とすることです。……温度差があるからこそ、「実践のビジョン」=「未来の目的地」が必要であり、「温度差の原因を探っていくことによって、実践のヒント、手がかりが見つかる」のです。(p.259-260)

 

実際に変革プロジェクトの当事者として悪戦苦闘しておられる経営者・マネージャー・リーダーの方々は、本書からご自身の悩みを解決するヒントが得られると思います。