「デザイン思考」の落とし穴


いま「デザイン思考」が大ブーム。多くの企業が取り入れ始めています。
一方で、私は危うさも感じています。

よく誤解されがちですが、デザイン思考とはアップルのようなカッコイイ商品を作るためのものではありません。問題解決の方法論です。

デザイン手法を問題解決の方法論へ進化させて、イノベーションを生み出すためのものです。

デザイン思考では、「表面化したニーズ」「潜在的なニーズ」のうち、誰も気がついていない「潜在的ニーズ」を発掘することで、誰もやっていなかったイノベーションを生み出すことを狙います。

ここでアイデアを重視します。しかし部屋に籠もってウンウン考えていても、いいアイデアは出てきません。
そこで現場に出て「観察」します。リアルな顧客を自分自身の目と耳で見聞きし、人が何に困っていて、どう使うか観察し、アイデアを重視して試作し、本当に役立つか確認します。

 

たとえばワルシャワにあるソフトドリンク会社は、テレビでデザイン思考の特集番組を見て、こう思いました。

「あれ?意外と簡単だな。自分たちもできるかも…」

彼らは地元の駅で乗客にドリンクを売るヒントを探すため、観察を開始しました。

現場で観察すると、一定のパターンに気づきました。
乗客の何名かが、電車到着前の数分間、一度飲料スタンドを見て、自分の腕時計を見て、その後にホームの先を見ているのです。

そこでこの会社は、時計を大きく目立たせた飲料陳列棚のプロトタイプを作成しました。すると売上が急上昇しました。飲料スタンドに時計があるので「到着前にドリンクを買える」とわかるからです。

 

このようにデザイン思考では、顧客を観察し、アイデアを出し、プロトタイプを作り、検証します。

その根本にあるのは、「すべての人には創造性はある!」という考え方です。

 

一方で、デザイン思考を取り入れようと考えている企業の多くは、このように考えているようです。

「デザイン思考、いいぞ!良いアイデアが出てこないウチの社員も、デザイン思考を学べばアイデアを出してくれるはずだ」

しかしこの考え方でデザイン思考を導入しても、失敗するのではないかと私は考えています。

 

たとえばデザイン思考では、ブレインストーミング(ブレスト)を重視します。

しかし現実には多くのブレストは失敗します。デザイン思考を提唱したIDEOのトム・ケリーは、著書でブレストの6つの落とし穴を挙げています。

(1).鶴の一声で始める …発想の自由が奪われる
(2).全員に順番が回る …強制してもアイデアはでない
(3).専門家以外は参加禁止 …凄いアイデアは素人発想
(4).社外で行う …その環境を社内につくるべき (vs. ホンダ)
(5).ばかげたアイデアを否定 …奇抜なアイデアが革新の種
(6).すべて書き留める …その間はアイデアは出ない

共通しているのは、発想の自由度を縛っていること。アイデアを生み出すためには、自由な発想が必要です。

「ウチの社員、アイデアがないの。いつもアイデア出しているのはマネージャーのオレばかり…」

こういうマネージャーがいたとしたら、そのマネージャーが、部下のアイデアが出ない元凶なのです。

 

デザイン思考で成果を生み出すためには、考え方を変えることが必要です。

「指示する」でのはなく、「自主性を尊重する」
「マネジメント」ではなく、「個人の自発」
「ティーチング」ではなく、「コーチング」
「コンサルテーション」ではなく、「ファシリテーション」
「社内に籠もり考える」ではなく、「現場で顧客から学ぶ」

もしデザイン思考を学んだ部下が奇抜なアイデアを出しても、上司のマネージャーが「そんな馬鹿げたアイデア、失敗するに決まっているだろう。やり直し!と言うと、どうでしょうか? せっかく会社としてデザイン思考に投資しても、その投資はムダです。

デザイン思考は部下だけでなく、経営陣まで含めたマネジメントも、基本的な考え方を学ぶことが必要なのです。

 

先に紹介した下記の言葉は、前出のトム・ケリーの言葉です。

「全ての人には、創造性がある」

「部下は創造性がない」と考えるのではなく、「すべての部下は創造性に富む」と信じることが、デザイン思考の第一歩だと思います。

 

 

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