最近、何かと注目の顧客体験。CX (Customer eXperience)とも言われます。
「CXねぇ。スマホアプリとかの世界でしょ。ウチは関係ないなぁ」
と思ったら、要注意。御社は知らない間に、既に顧客体験で圧倒的に負けていて、ビジネスを失っている可能性があります。
最近もこのことを実感しました。
日本を代表する大手保険会社との契約が満期になりました。
この解約→払戻金を受け取る、という簡単な作業が、一苦労なのです。
まず数ヶ月前、書類が届きました。でも何をすればいいか書いていません。
1週間後、担当者から電話がありました。解約・払い戻しの意向を伝えましたが、「当社ルールで、電話だけでは承れませんので、対面でご説明します。空いているお時間をください」とのこと。
そこでオンラインでの打合せをお願いしました。
打合せはZoomでなく、この会社独自仕様のオンライン会議システムでした。
しかしこれが繋がらないのです。先方から電話を受けつつ、15分間試行錯誤をしましたが、結局繋がらず。「こちらでZoom会議セットしましょうか?」と提案しましたが「当社はZoomは使えないので」。
結局、電話での説明を受けることになりました。30分かけて書類を1枚1枚丁寧に説明を受け、解約・払い戻しの意向を再度伝えました。
1ヶ月後、この会社からなぜか契約再延長の書類が届きました。なぜか振込用紙に金額も記入されてます。
「あれ?なんだろう、これ?」
念のため担当者にメールで確認したところ、満期のお客さん全員に送っているとのこと。これまでのやり取りは一体、何だったのでしょうか?
書類の文面は生命保険用語満載でとてもわかりずらいので、よくわからない人は「払えばいいのね」と振込用紙記載の金額を払ってしまう可能性大でしょう。確かに売上が上がるかもしれません。しかし控えめに言っても品がよいとは言えないやり方ですよね。
…ということで、いまだに解約できておりません。日本を代表する大手保険会社なのですが、これはお世辞にも優れた顧客体験とは言えませんよね。
私はネット系の保険会社と契約していたことがあります。こちらの解約は、数個のクリックだけで完了。実にスムーズでした。
もし知人に保険を勧めるとしたら、私はネット系の保険会社の方を勧めるでしょう。この大手保険会社は、知らぬ間に既に顧客体験で圧倒的に負けており、ビジネスを失いつつあるのです。
問題は、この大手保険会社が時代の2つの変化を、いまだに知らないことです。
1つ目は、現代の消費者が、手間がかかることを嫌悪するようになったこと。
一例を挙げると、ほんの十年前にウェブサイトでモノを買うとき、私たちは3〜4回のクリック+文字入力を当たり前に受け容れていました。いまはスマホで1回ポチるだけ。3〜4回のクリック+文字入力が必要だと、「このサイト、使いにくいから、パス」です。
マシュー・ディクソンは著書「おもてなし幻想」で、顧客努力(顧客が問い合わせに要した努力)の違いで、顧客ロイヤルティ(再購入率)がどの程度下がったかを、消費者97,176人に調査しました。結果は…
・顧客努力を強いられる問い合わせ 96%の顧客が下がった
・顧客努力を強いられない問い合わせ 9%の顧客が下がった
つまり顧客努力が強いられると、次はほぼ確実に買わなくなる、ということです。
さらに顧客努力の減少は、売上に直結します。
・高努力を強いられる場合 再購入率4%、購入拡大率4%
・低努力で済む場合 再購入率94%、購入拡大率88%
顧客努力を減らすことで、売上が増える、ということです。
世の中で使いやすいサイトや使いやすいサービスが成長しているのは、使いやすくなるように地道な努力を続けた結果なのです。
2つ目は、「顧客の口コミ」が圧倒的に強くなっていること。
顧客体験の第一人者であるジョン・グッドマンが提唱した「ジョン・グッドマンの法則」というものがあります。
第1法則… 不満客の中で、苦情を言って解決に満足した客の再購入率は、苦情しない客よりも極めて高い
第2法則… 苦情処理に不満な客の非好意的口コミの影響は、満足客の好意的な口コミの影響に比較して、2倍強く販売の足を引っ張る
この法則は数十年前に提唱されました。いまや消費者の声は、SNSでさらに強くなっています。
しかし大きな企業ほど、そんな状況は蚊帳の外。社内事情しか目に入りません。そのため現場の担当者だけでなく、意志決定をするマネージャーや責任者ほど「消費者は手間がかかるのを嫌悪する」「悪い噂はSNSで拡散する」という状況に疎いようです。
大きな企業に勤める方ほど、もう少し世界を外に向けて、自分の判断が世の中の動きとギャップがないかを確認した方がいいのではないかと思います。
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