先日のエントリーで、日本人の利他的行動は海外と異なり、ネット上でもそのような行動が見られることを述べましたが、その理由を考えてみたいと思います。
昨日(5/13)の日経プラス「私のビジネステク」に、新幹線「つばさ」社内販売員・斎藤泉さんの話が掲載されています。
斎藤さんは一日30万円を売り上げるカリスマ販売員ですが、正社員ではなく時給1,200円。斎藤さんは「どんな立場でも仕事は全力を尽くすもの」と述べています。
一日30万円の売上をあげる人が正社員ではなく時給1,200円というのは、成果に見合った処遇を求める欧米型社会では理解できないのではないでしょうか?
日本人には、「世間のために働く」、「自分自身を高めるために仕事をする」という考え方が広く行き渡っています。
山本七平氏は「日本資本主義の精神」で、日本人独特の労働倫理観は、江戸時代初期の曹洞宗僧侶である鈴木正三による影響であると述べています。
正三は、「何の事業も皆仏行なり」とし、世のため人のためを念じながら仕事を行えば、それが利他行であり仏行と説きました。
正三の教えをもう少し詳しく、かつ、分かり易くご紹介すると、
- 人間は宇宙の秩序に組み入れられている。内心もこの秩序に対応している。本来は人間はこの秩序に従っていればよい
- しかし、この世に戦乱や犯罪、不正、殺人があるのは、心が病に冒されているからだ
- 心が病み苦しむのは、欲・怒り・愚痴の三毒に冒されているからだ
- この病を癒すのは仏であり、この仏に癒しを願うのが人間の宗教心だ
- 人々が、修行、つまり仏行に励むことで、理想的な社会が生まれる
- しかし、修行僧とは異なり、一般の社会人は日々の務めや苦しい労働があり、修行を通した仏行は行えない
- そこで正三は、生活の業を立派な行為と考え、「心掛け次第で労働をそのまま仏行となしうる」と考えた
正三の思想では、一生懸命に働くのは、経済的な意味合いよりも、「仏行の他成(ほかなる)作業有るべからず」と信じ、仕事を通じて自分を高め、理想的な社会を作るためです。
この教えの影響は現代の日本人も強く受けており、世間のために働くこと自体に美徳を見出す国民性となっています。
現代では、田坂広志氏が名著「仕事の思想」で働く意味を私達に問いかけています。
ということで、冒頭の斎藤さんの以下の言葉
「どんな立場でも仕事は全力を尽くすもの」
「たとえアルバイトであっても、全員が全力で取り組む職場。私の夢でもあります」
「….培ったこの精神さえあれば楽しんで生きていける。そう思いながら私はきょうも『つばさ』に乗っています」
…は、この正三の考えが現代の日本人にも脈々と受け継がれていることを示しています。
memo
なぜ日本人は一生懸命働くのか? – MM21 [ITmedia オルタナティブ・ブログ]
まあ、ためになりそうな。
このエントリはばかばかしいと思います。
べつに非正規雇用者は使命感からひどい待遇に甘んじているわけじゃありません。それに甘んじるように無言の同調圧力が社会からかかっているだけです。なんでこんなもんを「日本人の美徳」と誉めそやすのか、その知見のなさが理解できません。
日本人が夜の10時・11時過ぎまでのんべんだらりとサービス残業するのは貢献のため? いいえ、ただ「帰っちゃまずそうな雰囲気があるから」です。
「無言の同調圧力」では時給1200円で日額30万は売り上げられないでしょう。
要はその人の「仕事に対する姿勢」の問題ですが、時給1200円で日額30万の理由としては、実に的を射た話だと思います。
確かに、善行悪行を問わずいずれは自分に跳ね返ってくるんだよ、と教えられて育てられたのが素直に出てくれば、このエントリのあるようにどのような仕事にも全力を尽くして働くことの理由としてはごもっとも、という気がします。
この「お天道様はお見通し」という躾は、なるほどそういう歴史的背景があったのだな、と納得しました。
(お天道様は神道か)
>「無言の同調圧力」では時給1200円で日額30万は売り上げられないでしょう。
どうしてそう思うの? 根拠は?
車内販売員というだけでそれ以上の情報がないので試算は難しいけれど、キヨスクなど鉄道内での販売業は
・顧客数が多い
・寡占性が高い
・商品単価が高い
という特殊条件が重なってる。地方の在来線ならともかく、新幹線ならこれらの条件はさらに強調されるので非常に有利な立場なのは間違いないよ。
なおかつ、新幹線の車内販売は一回乗り込んだら「往復」で必ず2回の販売機会がある。仮に一日に2往復の販売機会があるとすると、1回の行路で売り上げねばならない額は
30万÷(2往復×2)=7.5万
で、わずか7.5万円!
車内販売のお弁当は1,000円くらい。75個売れば簡単に売り上げることができてしまう。もちろん弁当だけなら75個はたいへんだけど(そうか? 新幹線1編成には何人客が乗る?)、「つばさ」路線は観光目的利用が多い。すると、カートに積んでいるおみやげものも同時に売れるから、そう大して高い目標ではないよね。
一日に1往復だとしても、ノルマはこの倍でしかない。そんなに大した金額ではないよ。もちろん、路面店の小売業ではハードルの高いノルマだけど。新幹線の車内と考えたらむしろ甘い。
これを「美談」にまつりあげるのは、戦時中の爆弾三勇士みたいなもんで噴飯ものだよ。
むしろ、車内販売という非常に劣悪な労働条件に甘んじている労働者がわずか時給1,200円! ヘタしたら休憩なし! という事実を直視したほうがいい。
・日本の下請け慣習は嫌われる
http://www.nikkeibp.co.jp/style/china/mo/060508_shitauke/index.html
・日系企業の下請けで、製品の品質管理や納期管理の意識が大きく変わると、欧米企業から受注するように方向を変える。欧米企業の仕事のほうが利益率が高い。
・その意味では毎年、実情を見ないでただコストダウンを求める日系企業とは長く付き合えません
・下請け会社にいかに適正な利益を確保させることは、日系企業にとって真剣に取り組まなければならない課題となりつつある
まあ、日本ではこのエントリのような事態を美談と持ち上げるのが当たり前なので、こうなるのも当然といったところかな。評価と対価を払わずに、理解で済ませる人員運用ももう限界じゃないかな。
>>Barさん、
恐らく「無言の圧力」は一般論でおっしゃっていると思いますが、斎藤さんの仕事で「無言の圧力」がかかっているかどうかについては、是非、本記事の実際に一読いただき、Barさんのご感想を伺えれば、と思います。
>>r2oさん、
ありがとうございます。確かに「お天道様」という言葉はこのケースにピッタリですね。
>>0020さん、
ご指摘の通り。マネージメントの立場の人は、このような勤労意識に甘えてはいけないと思います。
記事を読んでいないので書かれているのかどうかわかりませんが、まず、そのカリスマ販売員と通常の販売員の違いはどの程度なのでしょうね。
たとえば、同じ条件にある“斎藤さん”でない販売員は、いくら売り上げているのでしょう。あるいは、(ここが重要ですが)乗客が“斎藤さん”だから買う気になる理由はどこにあるのでしょう。自動車販売のように豊富な商品知識や値引きでお客の心をつかむ、という仕事ではないですよね。少なくとも私は新幹線の中で、販売員によってモノを買うかどうかを決めた覚えがないです。
がんばって往復回数を増やす、スムーズにお金や商品をやりとりすることで販売機会を増やしているということなんでしょうか。
ちなみに「どんな立場でも仕事は全力を尽くすもの」に反対しているわけではありません。
mohnoさん、
ちょっと検索してみましたが、こちらに記事が掲載されています。ご参考まで。
http://nandemokou.exblog.jp/i15
また、3月の日経夕刊の記事ですが、こちらに詳しい取材記事が掲載されています。
http://yasundo.exblog.jp/3636491/
わざわざ検索してくださり、ありがとうございます。なるほど、取材されるだけのことはあるという人なのですね。ただ、そういう意味では「日本人全般」に当てはまる例ではない気がしますね。
さて、この人は10年後も同じマインドで社内販売員として働いているでしょうか:-)
まぁ、この人は達人レベルですから記事になっているのでしょうね。
10年後も車内販売員をなさっているかどうかは興味ありますね。
人には事情があるので、もっと魅力的な職場に移ったからって、もちろん批判はないですけどね。すでに「講演」されたりしているようですし。
個人として「最善を尽くす」のは働いていて楽しいだろうし、よいことだと思いますが、組織としてはこうした“エキスパート性”をすべての販売員に求めるのは難しいでしょうね。
そうですね。組織側が従業員にこのようなモラルを持って達人の域に成長することを期待するべきではないと思います。
ただ、ある意味では、戦後の終身雇用制や年功序列は、従業員がこのようなモラルを持って働くのを促進する側面を持っていたのかもしれませんね。
今はむしろ「会社への忠誠心」ではなく「自分自身への忠誠心」のために働くモデルになってきたのではないでしょうか?
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