「モノ作りとは違って、日本の小売は海外では通用しない」と思われてきましたが、この常識が崩れ始めてきていることが、日経ビジネス2006年9月4日号の特集「コンビニ、世界を駆ける!」で書かれています。
この記事には、小売だけでなく全ての業種で、グローバル化する際のヒントが満載です。
合計22ページの大特集なのでちょっと長くなりますが、ポイントと思った点を引用します。
—(以下、引用)—
中国では、
・真夏だというのに(セブン・イレブンの)おでん売り場は若い女性客が殺到。ダシは中国仕様
・おにぎりを歩きながら頬張るのがカッコいい-セブンイレブンが進出してから、北京の若者にはこんな流行が生まれた
・日本流をそのまま持ち込んでも受け入れられるとは限らない。鈴木会長は「中国に合ったコンビニを作れ」と指示
米国では、
・米セブン・イレブンは10年にわたって既存店舗の売上が前年比プラス
・昨年11月に日本側(セブンイレブン・ジャパン)が米国を完全子会社化した
・米国ではこれまで日本流が浸透しなかった理由は、(1)ゼロから始めた日本やアジアと違って、既存店舗を引き継いだ形のスタートだったため、加盟店に「単品管理」がなかなか浸透しなかった。(2)店舗のドミナント(地域集中)展開が不足していた
・「今後は地域特性を踏まえたうえで、各地区から独自商品を出していく。タンピンカンリは、むしろ人種や食生活が多様な米国だからこそ必要な手法だ」とデピントCEOは語る
国境を越える日本製"流通OS(基本ソフト)"
・日本製流通OS(基本ソフト)の真骨頂は仮説・検証作業でもある。どうすれば売れるかという仮説を立てて、検証する。結果が出なければ再び仮説・検証を行う
・日本のコンビニは極めて苛烈な経営環境の中で経営ノウハウを研ぎ澄ませてきた。日本という市場で鍛え上げられたコンビニだからこそ、日本とは環境も嗜好も異なる外国に対応できる基本動作が備わっている。日本製流通OSを愚直に活用すれば小売業に必須のローカル化も円滑に進む
・製造業ではない流通業の"メード・イン・ジャパン"の強さが、改めて問われる
鈴木敏文セブン&アイ・ホールディングスCEOインタビュー:「ローカルを海外展開」
・小売業というのは、基本的にドメスティック(国内的)なものなんです。そのことを認めたうえで世界を見る必要があります
・消費レベルが高くなればなるほど地域性が強くなる
—(以上、引用)—
元々、セブン・イレブンを日本で展開するにあたっては、米国のマニュアルを日本に適用せずに日本でゼロから作り上げて洗練化させていった経緯があります。
この記事を読んで、
- グローバル化にあたっては、戦略(ストラテジー)レベルでは骨太の単一基本戦略を構築し、
- かつ展開(デプロイメント)レベルでは地域特性を考慮し徹底的にローカル化を図っていく
ということがポイントである、と改めて思いました。
この記事の例では、基本戦略レベルは「仮説検証アプローチ」「単品管理」「ドミナント展開」、展開レベルでは「地域特性にあった独自の商品開発」、ということですね。
ビジネスのサービス化が進んだ現代、この考え方は全ての業種で有効なのではないでしょうか?
関連リンク:
なぜ、3月にそうめんを無性に食べたくなるのか?
セブン-イレブン 覇者の奥義
「グローバライゼーション」とは「ローカライゼーション」
異文化理解のための10次元の考え方
日本が変わると世界も変わる
日本流から、世界流!?
日本流とグローバル統合
ちなみに、この本の著者の方も、今回の取材に参加しているようですね。
こんにちは。
「日経ビジネス」、いつも近くにあるのですが、なかなかそこまで手が伸びなくて。。。読み応えのある特集のようですね。
鈴木社長はゼロからドミナント展開を行って、現在の規模を築き上げた方なので、どの地域に行っても、ゼロから作るために必要なことがわかるんでしょうね。
日本の流通業の優れた点のひとつに配送の温度管理がありますが、これなどもしっかり網が作れると、例えば米国では新しい業態が生まれる余地さえ出てくると思います。
今泉さん、コメントありがとうございました。
おっしゃるように、要求水準が非常に高い日本市場に応えるために作った仕組みは、世界で通用するのでしょうね。
但し、日本でのおでんのダシは日本人好み用になっていますし、中国のおでんは中国人好み(しかも地域特性を考慮)になっています。
従って、「日本人の好み」が世界で通用する、ということではないわけで、「仕組み」と「好み」をちゃんと分けて考える必要がありますね。
こんにちは。同じ記事、昨日読みまして、ITサービスもローカルと言われてるけど本当にそうか?と考え直そうと思いました。
ただし例えばそのおでんにしても日本の中ですでに地方毎に違う味付けが出来てるんですよね。ある意味、それをグローバル展開してるんだなーと思ったり。
ゼロから作ると言いつつ、その裏側に集積されたナレッジの大きさにクラクラします(物流や金融なども含めて)。IT業界、付いていけてないかもよ!って。
>ゼロから作ると言いつつ、その裏側に集積されたナレッジの大きさにクラクラします(物流や金融なども含めて)。IT業界、付いていけてないかもよ!って。
ゾフィさん、反応してしまいます。
セブン-イレブンのすごいところは、すべて「顧客」に合わせて、ゼロから仕組みを作っているし、またそれを毎日少しずつ改良していることです。完成形は予め存在しない、そういうものを作っているのがすごいと思います。
永井さん、
例の記事、本論から外れますが、私が反応したのは朝倉氏が直面した「米国人幹部は、株価の動きを気にするあまり、打つ手が短期志向になりがちだった」というくだりです。胸にささります。
もう時効と思うので公にしますが、IBMに買収される前のLotusがまさにその状態で、Improvという多次元表計算ソフトが突然キャンセルされたのもその影響でした。
かつてSteve Jobsにも認められたImprovは、今でも話題になることがあるほど、ファンの多かったソフトでしたが。。。
ゾフィさん、
コメントありがとうございました。
確かにローカル化は非常に大事ですが、これは必ずしも個別対応をしろ、ということではなく、全体で最適化する仕組みを作った上で個別の要望に応えよう、ということなのでしょうね。ナレッジを蓄積し活用する仕組みもスゴイですね。
今泉さん、コメントありがとうございました。
鈴木CEOは店舗には行かないそうですが、「顧客中心主義」を貫いていますね。今泉さんもおっしゃるように、このベースにあるのが会社全体の顧客に対する膨大なナレッジとその活用だと思います。このように書くと当り前のことを、全従業員が実践していることが非凡なのでしょうね。
平野さん、こんにちは。コメントありがとうございます。
Improv、当時は私の周りでも大いに話題になりました。当時としてはかなり先進的でしたね。
過度な短期志向が先進的なモノを避ける体質を生んでしまうということなのでしょうね。