先日のエントリー「共感をエンジンとして成長していく、ライフネット生命保険」で講演された、出口社長の著書「直球勝負の会社―戦後初の独立系の生命保険会社はこうして生まれた 」を読み終えました。
日本では74年ぶりに生まれた独立系生命保険会社であるライフネット生命保険が、どのように生まれ育ったかを描いています。
ライフネット生命保険は、インターネット販売に特化することで間接コストを削減し、保険料半額を実現、徹底した透明性を確保するなど、成熟している生命保険業界の中でイノベーションを起こそうとしています。
クレイトン・クリステンセンが「イノベーションのジレンマ」や「イノベーションの解」で描いた、破壊的技術を開発したイノベータが、成熟市場を切り開く際に直面する様々な場面を具体的に描いています。
生命保険業界に新規参入するにあたって、非常に高い参入障壁がありました。
一つの理由は、許認可制の保険業免許です。
実際、「保険業免許なんて取れるわけない」という方も多く、ライフネット生命保険の社員が、免許を取った時にブログに書いた話が紹介されていますが、周囲の全ての人達は「そんなとこに免許が出るわけない」「それでいいのか?」「あんたはどこまでお人好しなの?」と言われ続けたようです。
「74年ぶりの独立系生命保険会社である」ということは、「74年間新規参入がなかった」、ということです。
考えてみたら凄いことです。
一方で、この業界に74年ぶりに新規参入できたのも、出口社長の時代の潮目の変化を見極める目の賜物でしょう。
この本では、今まで誰もチャレンジをしなかった生命保険の新規参入ですが、創業を考えた際に出口社長は金融庁のウェブサイトで保険に関する部分を5年分丁寧に読み込んだ様子が描かれています。
そして、行間に散りばめられた金融庁の真意を探ったところ、金融庁は健全な競争を望んでおり、「必要な条件を満たせば新規参入会社でも必ず免許を取得できる」との確信を持たれたそうです。
本書で出口社長は、「風が吹かない時は凧が揚がらない」と述べていますが、このような風向きの変化をいち早く察知できたのも、出口社長が保険の世界で豊富な経験を持ち、かつ、官公庁関連の仕事も多く手がけていて、行政の方針も理解していたからでしょう。
「規制緩和がイノベーションを推進する」という好例でもあると思います。
本書の最後には、このように書かれています。
—(以下、p.200から引用)—
私は、既存の生命保険会社と同じことをやっていては、金輪際、競争に勝てないと思っています。既存の生命保険会社がやれないことを徹底的にやる。す
なわち、異質の競争を行なうことが、ライフネット生命の活路を切り開くのです。わが国では同質的な競争は激しく行なわれていますが、異質の競争となると、
大いに疑問符が付きます。—(以上、引用)—
停滞している市場だからこそ、イノベータが勝利する可能性が高い訳ですが、ただ参入するだけでは勝てません。
タイミング、消費者ニーズの理解、戦略の立案、軸をぶらさない戦略の実行力、どれが一つ欠けても、成功にはたどり着けません。
消費者にとって何が必要かを早くから見抜き、他人と違うことをあくまで軸を全くぶらさずに「直球勝負」、消費者のためを貫き通しす、その具体的な方法論が、本書には書かれています。
『直球勝負の会社』 – 出口治明著
ライフネット生命を起業した、出口社長の最新著書。生命保険という市場環境、60歳を超えるというバックボーン、そしてネット専業という参…