家電不況の教訓(2)–日本経済新聞「経済教室」の論文より


昨日のブログの続きです。

2012/11/30の日本経済新聞に、東北大学の柴田友厚教授が、「経済教室 家電不況の教訓(下) 産業の発展過程重視を」という論文を寄稿されています。

本論文は、「産業ライフサイクル」という視点で企業の競争力をとらえている点で、とても参考になりました。

本論文は冒頭で、シャープが亀山工場で垂直統合戦略を実現し2008年に最高益を上げたにも関わらず、現在苦境に陥っている状況を紹介して、「垂直統合戦略はもはや時代遅れという極端な議論も聞かれる」という出だしで始まります。

—(以下、引用)—

…人間は認知限界(Bounded rationality)を克服するため、すべての人工物を階層的形態として設計する。階層構造にすることで複雑性を管理できる。パソコンという最終製品はプロセッサー、メモリー、HDD、キーボード、ディスプレイなどの一次主要部品で構成され、さらにHDDはモーターや磁気ヘッドなどの二次主要部品で構成される。そしてモーターはローターなどの三次部品から成る。….

—(以上、引用)—

ここで指摘されているように、複雑なものを人間が認知できるいくつかのグループにまとめることで、理解しやすくなります。

例えば本の構成を、第一部・第二部・第三部と分けて、第一部を第一章・第二章・第三章、さらに第一章を第一節・第二節・第三節に分けると、分かりやすくなります。

だからこのように階層的にするのですね。

—(以下、引用)—

製品の複雑性を効果的に管理するため、階層分割の仕方や階層間の相互依存関係をルール化しようとする設計合理性の力が働く。しかし新産業の誕生時には、製品ヒエラルキーを事前に確定できない。……

そのため産業初期から成長期にかけては、部品間の緊密な調整、すなわち擦り合わせ作業に頼らざるを得ない。….擦り合わせ作業を重視する場合、柔軟で緊密な調整が可能となる垂直統合的な部品供給網が有効だ。…..

その後、産業の発展が進むにつれて製品ヒエラルキーに関する知識が産業全体で蓄積、共有される。….この段階では、柔軟な組み合わせを可能とする水平分散的な供給網の合理性が高くなる。液晶テレビの組み立てを台湾の鴻海精密工業に委託する分業関係が典型的だ。

—(以上、引用)—

この視点は重要です。産業初期では製品のヒエラルキーが明確でないため擦り合わせが必要ということですね。

—(以下、引用)—

このように産業発展過程に従って擦り合せ型から組み立て型へ、統合型から分散型へ、暗黙知重視から形式知重視へと経営合理性は移行する。

—(以上、引用)—

このことは家電を思い出すと分かりやすいでしょう。

例えばDVD登場時は一台10万円程しましたが、これは高度な擦り合わせ製品で完成品では日本はダントツシェアでした。その後、各部品がパーツになり組み合わせ製品になって日本は完成品のシェアを急速に落とし、新興国に譲りました。

—(以下、引用)—

産業の初期から成長期には擦り合わせの必要性が残るために、垂直統合的な仕組みの合理性が高い。しかし産業の成熟化に伴いルール化が進むことで、次第にその合理性が薄れていく。そうなると企業は、より合理性が高い分散型へ戦略を転換する必要性に迫られる。しかし。ただ環境変化に対応するだけでは十分ではなく、新しい技術と製品を生み出そうとすれば、再び統合型の必要性は高まる。

—(以上、引用)—

このライフサイクルの視点を持った上で、垂直統合型の強みが生きる新しい製品を常に生み出していくことが、日本にとって必要ということですね。ただしそれは顧客の真の課題を解決するものであることも必要です。

—(以下、引用)—

成功体験がもたらす組織の慣性から逃れるには、合理的な仕組みと戦略はライフサイクルに応じて変化するという動態的な戦略観を意識的に持つ必要がある。変化のスピードが激しいほど、目先の現象への過剰反応ではなく、根底にある大きな産業潮流をつかむことが必要である。

—(以上、引用)—

とても参考になる論文でした。

藤本隆宏著「ものづくり経営学―製造業を超える生産思想」と併せて読むと、理解が進むかと思います。

 

 

家電不況の教訓(2)–日本経済新聞「経済教室」の論文より」への1件のフィードバック

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