高原豪久著『ユニ・チャーム共振の経営 「経営力×現場力」で世界を目指す』…凡事徹底が生んだ非凡


高原豪久著『ユニ・チャーム共振の経営 「経営力×現場力」で世界を目指す』を読了しました。



 

本書は、2代目社長としてユニ・チャームの経営を創業者から引き継ぎ、その14年後に売上を3倍の6000億円近くまで会社を成長させた、高原豪久社長による初の著書です。

私は「後で読み返そう」と思った箇所は本に直接赤ペンで傍線を引きメモ書きするのですが、本書は真っ赤になってしまいました。読み返したい箇所ばかりだったからです。

 

カリスマ創業者として名高いお父様は、1961年創業から40年間会社を牽引し、ユニ・チャームを年商2000億円規模まで育ててきました。しかしいつの間にか社内は、『「社長に付いていけば大丈夫」という風潮』(p.128)になっていました。

そこで高原社長は、後を引き継いで2001年に39歳で社長に就任した際に、『創業者がひとりで引っ張ってきたユニ・チャームを、社員全員が主体的に自分で考え、自分で行動する「共振の経営」に変革しよう』(p.126)と決意されます。

39歳といえば普通の会社では主任か課長の若手中堅。周りからのプレッシャーは大変なものだったはずです。実際に「こいつが社長で本当に大丈夫か?」(p.1)という雰囲気だったそうです。

では、どのように変革し、成長してきたか?

それは、本書p.152に書かれた節のタイトルに象徴されています。

「凡事徹底が非凡を生む」

本書には、魔法や秘密は書かれていません。

すべてのことを疎かにせず、ひたすら徹底的に考え、ひたすら徹底的に実行すること。

トップとして現場を重視し、14年間真摯に格闘し続けた経営者にしか書けないビジネスの真実が、全てのページに書かれています。

しかもとても読みやすく、ビジネスパーソンにとってハラにストンと落ちる内容になっています。

 

私は本書からはとても沢山の学びをいただきました。全部で5章構成ですが、そのうち第1章と第2章から、いくつか引用します。

■第1章「現場力でアジアを攻める」より

『3現主義』(3現=現場、現物、現時点) p.24-28
誰もが入手できる「二次情報」から優位性を生み出すのは困難である。自分の耳目で集めた「一次情報」が優位性を生み出す。それは顧客の現場にある。「顧客の心にある真実」を直視し、本質を見極めることが必要だ。

「にせものの現場主義」p.37-39
現場が大切だが、現場に行くことを目的化してはならない。現場に行くのは、経営上のヒントや答えを得る情報を探し、経営・戦略・実行のそれぞれの責任者が共に難関を乗り越え「最善の一手」にたどり着くためである。

新興国における新たなコスト・イノベーション発想による差別化 p.43-44
コスト・イノベーション=「より優れた機能、もしくは同等機能を、より安く提供できるようになる」こと。単なるコストダウンではない、新たな価値競争が始まっている。ボリュームゾーンにバリュ・フォー・マネー(価格に見合った価値)をアピールし、需要を喚起し、中間所得者層からの支持獲得を速めることが急務になっている

 

■第2章「顧客は世界に広がる 海外展開の進め方」

メガトレンドを見極める p.49
来年のことを詳細に予想することは難しい。しかし10年後の大まかな方向性を掴むことは比較的容易である。このメガトレンドに逆らわず、素直な心持ちで臨むことが大切。メガトレンドを見極めるために必要な情報は、簡単に入手可能である

海外にはエース人材を派遣する p.62-70
「英語ができる若手」がグローバル人材である、と勘違いする会社もある。ユニチャームでは、グローバル人材とは、自社文化を体現し、自分で考え、率先行動し、現地で展開できる人物と考えている。必然的に社歴20年を超える40代になる。新興国開拓には10年かかる。だから10年間動かさず、腰を据えて取り組ませる。新興国開拓には、①「良い商品」、②「強い営業」、③「巧みなマーケティング」の3つが必要なので、必然的に(1)トップブランドを育てた開発部長、(2)経験豊かな工場長、(3)一流の支店長、(4)若手育成経験があるシニアブランドマネージャーの4人をセットで新興国に赴任させねば、成功は難しい。

トレードオフを徹底的に考え抜く。「二兎追わぬものは一兎をも得ず」 p.72-79
すべての仕事は、「顧客の要望にどれだけ応えたか」と「企業としていくら収益が出たか」のせめぎ合いで決まる。いかに2つを同時に達成するか徹底的に考え抜くことが重要である。安直な二者択一やトレードオフ発想の課題解決策では、「どこかで聞いたことがあるような常識的な答え」に落ち着き結局差別化できない。 たとえば、上位集中が進む成熟国市場では、常に新しい価値を提案し続け、かつシェアと店頭価格を維持する必要があるので、トップブランドを守ると同時にコストダウン対応が必要になる。一方で新興国市場では、積極的な地場企業と競争しつつ、都市部の大型スーパーに科学的分析に基づく提案をするとともに、地方の小さな雑貨店へは足で稼ぐ訪問販売が必要になる。このように「二兎を追う」戦略を考え、実行しなければ、持続的成長はできない。

 

第3章「市場をつくる 常に新しいことを提案する」、第4章「自立的な人と組織をつくる」、第5章「仕事についての考え方」からも、実にさまざまな学びが得られます。

特に第4章ではユニ・チャームが展開しているSAPS経営の考え方が紹介されています。これは全社員が「目的」「数値目標」「課題」「戦略」「判断基準」「行動」(OGISM(A))を明確にして日々の仕事を考え、毎週見直し、それを組織で共有しながら仕事を進めていく方法です。

仮説検証思考を組織全体に拡げ、経営陣と社員が振り子が共振するように大きな成果を生み出す、まさに「共振の経営」を実現するための仕組みです。

「創業者に付いていけば大丈夫」という雰囲気だったユニ・チャームを「共振の組織」に変革できたのも「凡事徹底が非凡を生んだ」結果なのでしょう。

 

文章からは、高原社長の誠実なお人柄が伝わってきます。

最前線で現実のビジネスと格闘している経営者にしか書けない、最新ビジネスの現実が学べる本です。