「クラウド化の流れは近いうちに止まる」…それは事物がらせん的に発展しているから


日経ITProに「『クラウド化の流れは近いうちに止まる』、ガートナーがITの近未来を予想」という記事が掲載されています。

ガートナー ジャパン主催イベントの基調講演で、ガートナー フェローのスティーブ・プレンティス氏が「今後5年間でITに影響を与える最重要トレンド」と題して話した内容の一部です。

記事では以下のように書かれています。

—(以下、引用)—

「2014年までに、SaaSを利用する企業の30%がサービスレベルの低さを理由にオンプレミスに転換する」—。

プレンティス氏の予想では、これまで先進企業が積極的にけん引してきたクラウド化の流れが、近い将来に止まるという。重要なシステムは社内に置きなおすべきだと考える企業が増え、2014年までに、ITサービスベンダーのトップ100社中20%が市場から姿を消すと予測する。

—(以上、引用)—

 

「クラウドはなくなる」と言っているのではなく、「クラウドへの過度な期待は徐々に収まり、オンプレミスへの揺り戻しがある」と言っているのですね。

 

これはまさにヘーゲルが述べた「事物のらせん的発展」です。

「事物のらせん的発展」は田坂広志著「使える弁証法」に詳しく書かれていますが、ここで簡単にご紹介します。

「ものごとは直線的に発展するのではなく、あたかもらせん階段をあがるように発展する」という考え方です。

らせん階段を登る人を横から見ると、上に向かって登っていますが、上から見ると円を描いて歩いています。

例をあげると、昔は定価がなく「指し値」や「競り」で物品を販売していました。この方法は非効率なので近代産業社会で一旦消えました。しかしインターネットの発達で「ネットオークション」という形で復活しています。一見すると昔懐かしい「競り」の復活ですが、「競り」は参加者はその場にいる人たちだけでした。ネットオークションでは世界中から参加できます。つまり新しい性質を獲得しているのです。

ある事象(競り)が、新しい事象(近代産業社会)で否定されて消え、その新しい事象が再び否定されて新しい性質を獲得して復活する(ネットオークション)。

このように原点回帰しながら、あたかもらせん階段を上がるように世の中は発展しているのです。

  

このように考えると、このクラウド化の流れの位置づけも分かるのではないでしょうか?

■1940年代に生まれたコンピューターは、集中処理でした。全業務は大型コンピュータで処理されていました。当初のユーザーインターフェイスはパンチカードや紙、後に専用ディスプレイになります。ユーザーインターフェイスは貧弱で全く融通性がありませんでした。

■1970年代にパソコンが生まれました。それが1980年代後半から1990年代に分散コンピューティングという考え方に進化します。ホスト集中処理は「クライアントサーバー」という形態に変わります。「ホストコンピュータは死んだ」と言われたのもこの時代。「エンドユーザーコンピューティング」という言葉も生まれたように、ユーザーインターフェイスの大幅な改善が図られました。

■一方で1960年代にARPANETとして産声を上げたインターネットは、パソコンに一足遅れて1990年後半から一般普及が始まります。社内全社員のパソコンに専用ソフトを導入管理するのは大変でしたので、PC側に専用クライアントソフトを導入せずに、Web経由で使う形態が普及し始めます。そしてリッチクライアントという考え方も生まれます。

■2006年にGoogleのエリック・シュミットが「クラウドコンピューティング」という言葉を使い始めて、クラウドの考え方が普及し始めます。社内に沢山のサーバーを置くのではなく、クラウドでまとめてしまおうという考え方です。昔懐かしい集中処理の復活です。しかしリッチクライアントと組み合わせることで、ユーザーインターフェイスは格段に向上します。そしてパブリッククラウドとして社外にデータを預ける動きが出てきました。

■そして記事にあるように、再びオンプレミスに回帰していく。その時のオンプレミスは、クラウド技術やリッチクライアントを活用したものになっていることでしょう。(いわゆるプライベートクラウドですね)

 

このように時間軸を広げて俯瞰して見ると、改めてIT業界はらせん的発展を遂げていることが分かります。

 

「事物のらせん的発展」という考え方は、IT業界で起こっている様々な事象が大きな歴史の中でどのような意味があるのかを思索する上で、ヒントを与えてくれると思います。興味のある方はご一読をお勧めします。