5月10日の日本経済新聞朝刊第一面特集『消費をつかむ 「時間」が生むヒット商品』に、深夜市場をターゲットにしたビジネスのことが書かれています。
例えば、夜遅くまで仕事をしているビジネスマン向けに、深夜の宅配クリーニングを始めたある会社は、Yシャツ1枚340円という割高な価格にも関わらず、会員数は創業1年半で2000人を突破しました。
マクドナルドも試行錯誤の末「社会人が深夜や早朝の新市場を作る」という仮説に辿り着き、24時間店を5月下旬から10倍の200店に広げる予定です。「深夜の食市場は4200億円」という試算もあるようです。
別面では、オフィス街で飲食店営業自動車(自動車屋台)が東京都で10年前の2.2倍に増えていることや、立ち飲み店が2005年で1050店と5年間で2.8倍になった例も紹介されています。
この特集を見て思ったのは、新市場がいかに生まれ、その新市場にいかに参入するか、です。
新しい市場が生まれる場合は、必ずニッチから始まり、急速に育っていくことが多いようです。
W・チャン・キムはブルー・オーシャン戦略の中で、「増やすもの」「減らすもの」「付け加えるもの」「取り除くもの」を明確にし、新しい価値を創造することがこの場合必要であると述べています。
これをこれらの事例に当てはめて考えてみましょう。
例えば深夜宅配クリーニングは、深夜営業でかつ宅配という要素を加えた一方で、ネットを含む広告を一切行わず、午前中の営業をカットし、無店舗営業を行い、かつプレミアム価格を維持しています。
立ち飲み店は、一人当たり1000-2000円という格安価格を提供する一方で、平均滞在時間は一般的な居酒屋の2時間に対し30分から1時間程度にしつつ店舗の収納人員を1.5倍に設定することで高回転で高利益を上げる仕組みを作り、かつ、細長い場所でも出店する際の制約が少ないという利点も得ています。
このような新市場を立ち上げている人達は、必ずしもその市場規模を算出した上で市場参入をするかどうかの判断を行っていないのでしょう。むしろ、誰も気がつかなかった新規ビジネスの芽を見出し、暗中模索の中で情熱をかけてビジネスを育て上げているうちに、新市場が生まれているのではないでしょうか?
ということで、市場規模が把握される段階では、既にその市場に先行者が参入しています。
新規参入者が先行者と同じ価値しか提供できない場合、先行者に勝つのは非常に困難です。従って、市場規模を把握してから市場に参入するかどうかを判断する場合は、いかに新しいバリュー・プロポジションを構築して先行者と差別化するか、その戦略が求められます。
これによりさらに新しい市場が作られる、というサイクルが循環しているのではないでしょうか?
永井さん、はじめまして
記事を拝見させていただき大変勉強になりました。
ニッチなものは、はじめは「こんなの市場に受け入れられるの?」と言われますが、成功するものはいつの間にか普通に市場に溶け込んでますね。
以前、テレビでお葬式を演出するビジネスが紹介されてましたがこれもかなりニッチだと思います。宗教や死に対する価値観の変化から芽をだしたのかもしれませんが普通に市場に溶けこんでいくには相当な情熱と努力が必要ですね。
新規で事業やサービスを立ち上げる際の原点を教えていただいたような気がしました。
四柳さん、永井です。コメントありがとうございました。
四柳さんがおっしゃる通りですね。
1970年代前半にセブン・イレブンがコンビニを始めた際も、朝7時から夜11時まで営業する店(考えてみると当時は24時間営業ではなかったのですね!)ってすごくニッチだったと思いますが、今や7兆円を越す市場規模で30年間でIT市場規模(11兆円)に迫る大きさになっています。
「人間の情熱は、世の中を動かす凄い力を持つ」という事実は、我々にとって大きな希望だと思います。
ところで、お葬式演出ビジネスというモノがあるのですね。こればかりは結婚式等のように自分で手がける訳にはいかないですし、潜在的市場はありそうですし、面白い着眼点ですね。