リアルな世界でも進行する、ロングテール化


先週の記事ですが6月23日の日本経済新聞朝刊1面に『「死に筋」が売れ筋』という記事がありました。これは、リアルな世界のロングテール現象ですね。

企業側の思惑とは全く違った売れ方をしている商品の例として、以下が挙げられています。

一個32円のチョコ菓子「ブラックサンダー」
昨年5月、セブンイレブンで販売中止の知らせを聞き、ファンの人達がブログ等で「今買わないとなくなる」と呼びかけ。今まで1週間に十数個しか売れなかった福岡のセブンイレブンで、いきなり一店舗で1800個売れ、販売中止は撤回。現在は全国区の人気商品になった。

1986年に販売中止したバンダイの「スペースワープ」
是非とも入手したかった人が「たのみこむ」で600人の署名を集め、復刻を実現。当初バンダイは売れるかどうか疑心暗鬼だったが、結果は累計5億円のヒット。

 

ユーザーや顧客の立場からすると、自分の声が企業に届くようになったということで、いい世の中になったと言えるかもしれません。

しかし、これらの事例を見ると、同じマーケッターとして、「これは大変だなぁ」と共感するとともに、「なかなか面白い世の中になったなぁ」と思います。

膨大な事実の中から市場の動向を掴み、洞察を得て、戦略を立てる、というアプローチは、現代のマーケティング戦略では主流の一つですが、販売実績等の事実データはあくまで過去のモノであり将来は語ってくれませんし、フォーカス・グループ等の定性的調査をしても消費者の内面にはなかなか踏み込めない、という点は大きな課題です。

一方でこれらの事例のように、ITでパワーを獲得した顧客が企業を動かすようになり、リアルな世界でも市場のロングテール化が進行しています。

市場が一定期間はスタティック(静的)であるという前提で考えられた様々なマーケティング手法は当面は有効ですが、市場がダイナミックに動き商品寿命がますます短くなる中で万能性を失いつつあります。

田坂広志氏は「まず、戦略思考を変えよ―戦略マネジャー8つの心得」で、8つの心得の一つとして、『「山登り」の戦略思考を捨て「波乗り」の戦略思考を身につけよ』と述べていらっしゃいます。

目標となる頂上が不動でそこを目指して進む山登りの発想の戦略から、常に足元がダイナミックに変わる中で目標となる新たな波をタイムリーにキャッチしていく波乗りの発想の戦略への転換です。

「創発戦略」と言われると分かり難いかもしれませんが、このように言われると無理なく頭に入ってきますね。

市場がダイナミックに変動し、世の中が複雑形の性質を強めている中で、創発戦略はますます重要になってきていると思います。

 

参照リンク: 未来は現在の直線上にはない

リアルな世界でも進行する、ロングテール化」への6件のフィードバック

  1. 永井さん、こんばんは。田中信裕です。ロングテール化ですか。おもしろいですよね。セブンイレブンが死に筋を排除し売れ筋を常に追求していったのに対して、新潟にある原信というスーパーは死に筋までもそろえるんだって豪語していて、営業利益でいつも上位に入ってるところがあります。最近は百貨店は「百貨」店じゃなくなってしまったのが残念です。たとえば、ヨドバシやビッグカメラのようなカテゴリーキラーにやられ、カメラ売場は無くなってしまいました。買回らないとモノが揃わない。個人の消費が多様化すればするほど、欲しいモノが見つからない。売る方も大変だけど、買う方も大変です。贅沢な悩みかも知れませんが(^^;)

  2. 田中さん、さすが流通ご専門ですね。
    コメントありがとうございました。
    「買うほうも大変」というのは、おっしゃる通りですね。ここに挙げた二つの例(ブラックサンダーとスペースワープ)も、消費者が能動的に動いて企業側を動かしています。ただ、今までは消費者が企業を動かすこと自体、ほぼ不可能であった訳で、インターネットがこのような現象を可能にした、ということなのかと思います。

  3. はじめまして。別の記事を引用TBさせていただきました。
    セブンイレブンの店頭はスペースの制約と在庫回転率といった事由により選択と集中が進んでますが、鈴木敏文さんの『御用聞き作戦』に注目してます。
    サザエさんに出てくる酒屋のサブちゃんのように、酒・味噌・醤油といった専門分野以外であっても、商店街で買い物代行してきてくれるサービスが復活すれば、町全体を一つの店舗とみなせるようになりますね。

  4. 課長007さん、TBありがとうございました。
    「御用聞き作戦」は、社会的に見ても、素晴らしいですね。
    今まで全国一律サービスだったのが、各店舗で地域色を出すようになり、さらに「御用聞き」でより地元に根ざす方向に向かっているように思います。
    ちょうどコンビニ出現前の原点回帰のように見えますが、課長007さんがおっしゃるように「町全体が一つの店舗」と言いますか、ネットワークで繋がっている訳で、同じように見えてレベルは一段上がっているのですよね。

  5. 永井さん、課長007さん、こんばんは。たびたび田中信裕です。「町全体が1つの店舗」ですか、すっごいおもしろい発想ですね(^^)確かにネット上では、ありそうですが、「顧客の顔が見える形」で、できたらいいですよね。モノが無いときは、コストを下げて供給するために、セルフサービスが普及しましたが、モノが豊富になってくると、なぜか人恋しくなってしまう(私だけかな?)温かい笑顔で接客されると、こっちまで幸せな気分になってしまうんですよね。素敵なアイデアとその場を提供してくださった、課長007さんと、永井さんに感謝です!

  6. 田中さん、コメントありがとうございました。
    まさにらせん的進化ですね。
    やはりITは、人が「こうなるといいな」と思うことを実現するモノとして発展させたいですね。

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