『人が足りなかったから、突破口が見つかった』…規模10倍のライバルに、常識を覆したディーゼルエンジンで挑んだマツダ


マツダは、社員数2万人で売上2兆円。
一方の業界トップのトヨタは、社員33万人で売上22兆円。

規模10倍のライバルに同じ事をしていては勝てません。そこでマツダは、「スカイアクティブ」という省エネエンジンで差別化しました。圧縮比に注目し、徹底的に圧縮比を高めて燃費を改善。ノーマルのガソリンエンジンでハイブリッド並の省エネを達成し、デミオに搭載しました。

ここまでは2011年時点の情報を元に、「100円のコーラを1000円で売る方法2」でご紹介した話。

実は最近のマツダは、このガソリンエンジンとはまったく逆のアプローチで、ディーゼルエンジンを成功させていることをご存じでしょうか?

 

ディーゼルエンジンの取り組みで、日本の大手自動車メーカーは欧州メーカーに遅れを取っています。ここにマツダはディーゼルエンジン「スカイアクティブD」で挑戦しました。

ディーゼルエンジンは、低速トルクがあって燃費が良いものの、高回転が回らず、排気ガス浄化度はガソリエンジンンに及ばず、価格もガソリンエンジンに比べて高い、というジレンマがあります。

本当は静かでよく回り、排気ガスをキレイにし、価格下げたいところ。

さらに燃料を速く燃やすと窒素酸化物(NOx)が増え、ゆっくり燃やすと黒煙(PM)が増えるので排ガスの後処理装置が必要になり、コストがさらに上がります。

ディーゼルエンジンにはジレンマがあったのです。過去、自動車メーカー各社はここに色々と挑戦してきました。

 

マツダは全く異なる設計でチャレンジしました。このことは下記の記事に掲載されています。

「排ガス対策・静か・高回転」 常識を覆したマツダのディーゼル(モータージャーナル 池田直渡さん

ガソリン版のスカイアクティブでは圧縮率を上げました。

逆に、ディーゼル版のスカイアクティブDでは圧縮を下げたのです。

圧縮を落とせばNOxは減ります。加えて燃料噴射を高精細化して超緻密制御することで、まずNOx抑制エンジンの基本を作りました。

しかしこれだとパワーが出ません。そこで条件がよいときはターボで圧縮を補うようにしました。

つまり通常のディーゼルエンジンは、「エンジン高性能化→排ガス対策」という発想で取り組むところを、マツダは「排ガス対策→高性能化」という逆転の発想で取り組んだのですね。

おかげでディーゼル特有のガラガラ音も激減、強度設計に余裕ができたので鋳鉄製ブロックをアルミに置換して、軽量ディーゼルが誕生。回転部品が軽量化したことでエンジンも高回転化しました。

スカイアクティブD搭載車は走りもよいと評価されています。

 

2011/12/11に掲載された日本経済新聞の記事「イノベーション 成功の法則(3) 『欠乏』『不足』が新機軸生む」で、マツダの人見開発本部長は、『数十人の組織ではあれもこれもできない。一方で必ず燃費の良さは重要になる。エンジンの基本に立ち返り一から考え直すことにした』とおっしゃっています。

さらに『人が足りなかったから、突破口が見つかった』と加えておられます。

この取り組みの結果、圧縮比を上げたガソリンエンジンのスカイアクティブが生まれました。

 

この数年後に挑戦したディーゼル版スカイアクティブDも、方法は全く逆の「圧縮比を下げる」アプローチではありますが、同様の「エンジンの基本に立ち返り一から考え直した」結果生まれたのです。

私たちはつい「リソースが足りない」と思いがちです。

しかしリソースはイノベーションの必須条件ではありません。

むしろスタートアップ企業などを見ていると、リソースがなく、かつしがらみから解き放たれた組織の方が、自由な発想でイノベーションを起こすケースが多いように思います。

 

このマツダの挑戦は、しがらみから解き放たれて発想する大切さを教えてくれます。