6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ (6) エアウィーヴは、なぜ成功したか?


昨日のブログの続きで、今回はエアウィーヴの経営戦略と成功した理由についてです。

 

YouTubeに、グロービス知見録という、グロービス経営大学院のナレッジライブラリーがあります。

このグロービス知見録に、2013年にエアウィーヴの高岡本州会長と田所邦雄取締役が講演された内容が掲載差入れています。

【前編:高岡本州会長講義へのリンク】

【後編:田所邦雄取締役講義へのリンク】

それぞれ30分、合計1時間の講義で、とても聞き応えがあります。

 

前編の高岡会長のお話のお話は既にご紹介した内容も多いので、今回は後編の田所取締役のお話の中から、ご紹介していきます。

 

田所取締役は、「エアウィーヴ事業の基本戦略」を次のようにお話ししています。

【基本的な考え方】
・独自の素材を用い、消費者のニーズに対応した差別化・優位性のある質の高い製品を開発し、市場に投入する

【コミュニケーション】
・製品の効能とともにアスリート等による使用実績を紹介し、AWブランドを高級で信頼感の高い寝具として効果的に訴求する

・購買経験のない消費者が実際に商品を体感できる使用機会を提供する(高級百貨店やホテル)

・安易な製品や販路拡大、販売を制限し、ブランド価値を厳しく管理する。

・広告と共に、信頼度の高いPRによるコミュニケーションを強化する。

これらの施策によって、従来プッシュ型で販売されてきた寝具市場をプルに変える。エアウィーヴ・ブランドとその商品への関心を高め、ブランドの認知度・信頼度を向上し、プル型の販売を実現する

 

この戦略を見て、自分のエアウィーヴ経験を振り返り、「なるほど」と腑に落ちました。

最近、私の家の近所にあるデパートにも、エアウィーヴの販売コーナーが出来ました。

エアウィーヴに興味を持っていたこともあり見に行きました。とてもいい商品でした。

「いつも使っている2年前に買った寝具の上に、エアウィーヴのマットレスパットを載せればいい筈」と思って店員さんに聞いたところ、私が使っている寝具とは相性が悪いので、「一緒に使わない方がいい」とのお答えでした。

この店員さんは、エアウィーヴの社員でした。

もし私がエアウィーヴのマットレスパットを買っていたら、「あれ、意外とよくないじゃん」と思っていたはずです。

まさに「安易な製品や販路拡大、販売を制限し、ブランド価値を厳しく管理する」ということが徹底されていることを実感しました。

 

前々回のブログで買いましたように、エアウィーヴは2009年にPRチームを作り、田所邦雄さん(現取締役)がアドバイザーとして加わりました。その2年後の2011年、マーケティング戦略を転換しています。

田所取締役は、次のようにお話ししています。

・認知が高まり、市場が成長期に入った2011年からマーケティングを転換した。「一流」のポジショニングは維持しながら、顧客層を拡大する。そのためには、

* 引き続きトップアスリート、高級ホテルにアプローチし、「一流」を訴求する。

* 高級百貨店と同時に、一流の訪問販売、通信販売など、販路を拡大する

* 広範な消費者に対応するため、セグメントを明確にした新商品を投入する。

そこで2011年6月、かねてからエアウィーヴを愛用していたフィギュアスケートの浅田選手とブランドアンバサダー契約を締結した。浅田選手のもつ知名度・親しみやすさ・一流のアスリートというイメージを活かし、「一流の寝具」というブランド・イメージを作りながら、ブランドの認知度を高めていくことをコミュニケーションの目標とした。

このYouTubeの講演では、どのようにマーケティング戦略が進化したのかをまとめた図がありましたので、引用します。

AWマーケティング戦略の進化

 

改めてエアウィーヴ社の売上推移を見ると、2011年-2012年から急成長していることがわかります。

airweave-sales

 

このマーケティング戦略の転換が、急成長の大きな要因の1つと言えそうです。

 

実際に、 田所取締役は、そのエアウィーヴが成功した要因として4つを挙げておられます。

(1)新しい市場を創造した

* 独自の素材を用い、消費者のニーズに対応し、これまでの寝具にない4つの特長・価値(復元性、通気性、体圧分散、洗える)を活かした差別性・優位性のある質の高い製品を開発し、市場に投入した

* 従来のマットレスにない機能・便益(極細繊維状樹脂を三次元的に組み合わせた素材がもたらす空気の上で眠っているような快眠環境)を提供することで、新しい需要・市場を創造し、独自のポジションを築くことに成功した

* さらに、革新的な製品を次々と投入し話題を集め市場をリードした (エアウィーヴ→ライト→ピロー→AW90(F・ベッド)→四季布団→KIDS)

自社の強み→ターゲット顧客、課題、解決策の仮説構築→ひたすら仮説検証の継続を繰り返し、市場を創造したと言うことですね。

 

(2)事業領域の選択と集中を行った

*事業(業務)領域を適切に選択・集中し、経営資源を分散することなく、効率的な事業運営を行った。自社で展開するBtoC市場はオーバーレイマットレスに限定、広範な販路・ロジスティックスが必要なマットレスはBtoB(法人向けOEM)で展開した。さらに自社はコア材の製造に専念し、カバー類は外部から調達。加えて当初、マーケティングはPR活動に集中した。このように事業領域を選択・集中し、シンプルな事業モデルとした。

この結果、限られた経営資源を効果的に活用し、短期間で他社から明確に差別化し、市場での独自性・優位性を維持することが可能になった

高岡社長は、「2007年創業当時から工場キャパは55億円程度あった。このおかげで300%〜400%の成長を続けることが出来た。現在、工場キャパを増強中だ」と補足しておられます。

メーカーにも関わらず高成長を続けられたのは、周到なマーケティング戦略に加えて、業態転換前の既存工場を温存していたために、生産能力この需要の伸びに追従できたからなのですね。

(3)強いブランド力の構築

* 製品の効能と共に、アスリートたちによる使用実績を紹介し、AWブランドを効果的に訴求した。「一流」の使用・採用がAWブランドの効能・価値を保証した

* AWブランドとその商品への関心が高まり、ブランドの認知・信頼が向上、ブランドで消費者を引きつけるプル型販売を実現した

* 安易な商品や販路拡大、販売を制限し、ブランドを厳しく管理した。(素材研究、効能にこだわった製品開発、高島屋への進出、値下げ販売の禁止……)

ブランド戦略については、昨日のブログでもご紹介した通りです。

 

(4)Early AdopterからEarly Majorityへの拡大

2011年頃にいわゆる「キャズム」に嵌まりそうになったのを、先にご紹介した2011年のマーケティング戦略の転換で乗り越えたことを指しています。

特に、浅田真央選手の戦略的な活用が効果的でした。浅田選手は「一流のアスリート」というイメージと共に、「浅田選手が嫌い」という人はほとんどいません。広範な消費者に愛される希有なキャラクターが、エアウィーヴを愛用して素晴らしい実績を重ねている。これは強いですね。

田所取締役は、加えてこの図を示しています。

エアウィーヴ事業成功の主要な要因

「新市場を創造」「選択と集中」「強いブランド力」は必要条件ですが、これだけで不十分。高岡会長の夢と情熱があって、この事業が成功した、とおっしゃっています。

「夢と情熱」は意外と見逃されがちですが、事業を進める上で必ず出会う様々な困難を乗り越えるためには、とても重要な要因だと思います。

 

ちなみに、株式非公開のエアウィーヴ社の株は、高岡会長が100%持っておられます。

講演の最後に、高岡会長はこのようにおっしゃっています。

「株式公開はしたくない。他の人にお金は出して欲しくない。自分が好きなようにやりたい」

 

エアウィーヴは2007年から2010年までの苦境にあっても、常にポジティブに考えてエアウィーヴ事業に取り組むことで、現在の高成長を実現しました。

もしエアウィーヴが公開企業だったとしたら、どうだったか?

企業の「株式上場コスト」についても、考えさせられます。

 

 

この講演に興味がある方は、YouTube上にある本講義をご参照下さい。

【前編:高岡本州会長】

【後編:田所邦雄取締役】

 

【ブログ連載】6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ

(1) エアウィーヴの凄さは何か?

(2) 200枚の試作品は大好評。そして初年度4000万円を投入。しかし売れたのは1000万円

(3)急成長の舞台裏で、2回の転換を行っていた

(4) 飛躍のきっかけは、オリンピック選手の実績をベースにした、PR主体の情報発信

(5) エアウィーヴは、「認知性」と「関係性」の2軸で実績を積み重ね、一流のブランドを創り上げていった

(6) エアウィーヴは、なぜ成功したか?