シン・ゴジラが大ヒットしています。何回も見に行かれる人も多いようです。
かく言う私も、2回行きました。
個人的によかったのは、ゴジラ映画でお約束だった怪獣同士の戦いがなかったこと。
まさに「現実(ニッポン)対虚構(ゴジラ)」というキャッチフレーズそのもので、現在の日本が、ゴジラという大災害に遭遇した際に、どのように対応するのかがリアルに描かれていました。
海外での反応が気になるところですが、現時点では、絶賛する人もいる一方で、イマイチという人も多いようです。
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米国とカナダで10月から限定公開が決まりましたが、先に公開が始まったシンガポールでは、こんな反応です。
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日本人が「ああ、たしかに日本政府なら2人逃げ遅れただけで攻撃中止するだろうなぁ」と共感する場面も、シンガポールの人からすると、「逃げ遅れた人が二人いるくらいです攻撃中止とかありえない!」となるようです。
なぜこうなるのかは、ハイコンテクスト・コミュニケーションとローコンテクスト・コミュニケーションの違いを考えると、わかります。
たとえば私が会社員だった頃、社内の会議に参加した社外の人から、「何を話しているかさっぱりわからない」と言われたことがあります。同じような経験をされた方も多いのではないでしょうか?
会社の社内コミュニケーションでは、会社独自の用語や省略語が使われていたり、会社独自の文化を前提に話し合いが進みます。「あうん」の呼吸や「察すること」を前提としたコミュニケーションなのです。これが、暗黙知を共有しているハイコンテクスト・コミュニケーションです。
ローコンテクスト・コミュニケーションは、暗黙知を共有していない人同士のコミュニケーションです。
暗黙知を共有していないので、「あうん」の呼吸や「察すること」がまったく通用しません。だからシンプルなロジックと、わかりやすさが求められます。
先の2人が逃げ遅れた状況で日本政府が攻撃中止する場面に当てはめると、日本人の場合はハイコンテクスト・コミュニケーションが成立し、
・ああ、確か「命は地球よりも重い」って言っていた政治家もいたなぁ
・自衛隊に反対する人もいるから、自衛隊の攻撃で民間人が巻き添えになったら、自衛隊の存続問題になるよなぁ
・事故で民間人が死ぬのと、人為的に民間人を巻き添えにするは違うと、マスコミも叩くだろうし
・ここで首相が「攻撃中止」っていうのも、かなりリアルに描かれているよなぁ
というように、深く共感するわけです。
このように日本人ならば誰でも「ああ、確かに。あるある」と共感するような徹底したハイコンテキスト・コミュニケーションにこだわって作ったことも、日本でのシン・ゴジラ大ヒットの大きな要因なのかもしれません。実際に制作チームは霞ヶ関に「もしゴジラが現れたらどのように対応するか?」と取材を重ねています。
しかし海外では、日本のこのような状況を知らない人がほとんどです。つまりローコンテクスト・コミュニケーションなので、
・はぁ?2人逃げ遅れただけで攻撃中止?だってもう数百人か数千人死んでいるんだろう?被害を拡大するだけじゃん。あり得ない
となるわけですね。
ハイコンテクストとローコンテクストを、「お客さんの期待」と「コンテンツ」の2つの軸で整理すると、こんな感じになります。
ローコンテクストの「わかりやすくて誰にでも楽しめるコンテンツ」を、世界中のローコンテクストを期待するお客さんに提供し、世界中でヒットさせるのが、ハリウッド映画です。かつての「七人の侍」もここに入ります。
ハイコンテクストなコンテンツはハイコンテクストを期待するお客さんに大きく受けます。だから地域限定でヒットします。
ハイコンテクストなコンテンツをローコンテクストを期待するお客さんに提供すると、シンガポールでのシン・ゴジラ上映のように「ワケがわからない」となります。
ローコンテクストなコンテンツをハイコンテクストを期待するお客さんに提供すると、物足りなく感じます。
一方で、ハイコンテクストな内容でも、受け取る側がそこに深い意味を感じられるようになると、受け容れられることもあります。
ハリウッド映画でも最近のバットマンのように、シンプルな勧善懲悪ストーリーではなく、主人公が「本当に自分は善なのだろうか?」と悩む作品も、大ヒットするようになりました。30年前に最新作バットマンを公開しても、あれほどヒットはしなかったでしょう。主に米国で、受ける側が理解するハイコンテクストのレベルが上がってきたのかも知れません。
日本のカワイイ文化も、まさにそうなりつつあるように感じます。
シンガポールは世界の中でもローコンテクスト・コミュニケーションがかなり進んでいる地域なので、他地域では状況は異なる可能性もあります。ただそれは、日本文化がどの程度理解され、共感を得られるか次第なのかもしれません。
個人的には、10月の北米・カナダ限定公開で、多くの人たちがシン・ゴジラの世界観に共感するようになればと願っています。
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