「婚約指輪は給料3ヶ月分」は価格戦略だった


「世の中にはなかった新商品を発売します。お客さんの引き合いも多いのですが…、値付けをどうしようか、悩んでいます」

こんなことで悩む方は少なくありません。

最初の値付けはとても大切です。
つい「お客さんに聞いてみようか」と思いがちですが、これはダメ。

 

参考になるお話しがあります。

黒真珠といえば、高級ジュエリーです。しかし最初からそうではなかったのです。

数十年前にある宝石商が買ったタヒチの珊瑚島で、黒真珠が採れました。宝石商は「これは売れるかもしれない」と考えましたが、当時真珠と言えば日本産の美しい白真珠が常識。「黒い真珠?色も形もまるで鉄砲の弾みたいだ」と言われていました。ガラクタ扱いだったのです。

品質改良に努めた末、ニューヨークにいる旧友の宝石商に相談しました。彼のアドバイスで、店頭のショーウィンドウに並べて、同時に豪華グラビア雑誌に全面広告で、黒真珠のネックレスがダイヤモンドとルビーのブローチと一緒に光り輝いている写真を出しました。

すると、ニューヨークのセレブたちが黒真珠を付けるようになったのです。「黒真珠は高級ジュエリー」と認知され、世界に広がりました。

 

世の中にまだ認知されていない新商品の価格が高いのか安いのか、お客様は判断できません。

こんな時に「いくらだったら買いますか?」とお客様に聞くのは、愚の骨頂。必要なのは私たちが主導権を持ち、価格の基準を決めることです。

 

ちなみにこの基準のことを、行動経済学では「アンカリング」とも呼びます。アンカーとは船の錨のことです。大きな船がアンカーでつなぎ止められるように、私たちの心の中にも基準が作られてしまう現象が、アンカリングです。価格戦略を考える上で、アンカリングを理解することはとても大切です。

 

身近な例でもう一つ。

「婚約指輪は月給の三ヶ月分が目安」といわれます。実はこれ、冠婚葬祭の常識ではありません。高級宝石を扱うデビアスが、マーケティングプロモーションで作ったメッセージです。

婚約指輪の客観的な価格は、そもそも存在していません。そこでデビアスが、基準を作ったのです。新婚カップルにとって「給料3ヶ月分」が婚約指輪の価格の基準になりました。価格戦略とプロモーション戦略を組み合わせて、大きな成果を挙げた事例です。

ちなみにこのプロモーションが行われたのは1970年代から1980年代後半。でもいまの若い人も知っています。最初に価格の基準が出来ると、それはなかなか変わらない、ということですね。最初の価格はとても大事なのです。

郷ひろみが1987年に二谷友里恵と結婚した際に報道陣から婚約指輪の価格を聞かれ、「給料の3ヶ月分くらいです」と答えたのも、これが常識になる上で大きく影響しました。

 

商売が儲かるかどうかは、価格戦略次第。これまでになかった新商品の価格を決める時は、私たちが主導権を持って価格の基準を作っていきたいものです。

 

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