「…で?」の「残念なSWOT分析」からは卒業しよう


ビジネスで勝つにはまず自社の立ち位置の状況把握。
そこでマーケティングでは定番の分析方法があります。

その一つが「SWOT分析」。外部環境(機会と脅威)と内部環境(強みと弱み)を分析して、打ち手を見つけ出します。SWOTは強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の頭文字です。

たとえばEV(電気自動車)世界最大手のテスラが2003年に創業した時のSWOTは、こんな感じでした。

【強み】イーロン・マスクを筆頭に、テクノロジーに強い人材が集まっている。
【弱み】創業したてで、実績は皆無。
【機会】EV市場は、将来大きな成長の可能性がある。
【脅威】2003年時点で、EV市場はほとんど存在していない。

(注…実際には4項目毎に、主な要素を数件ほど箇条書きします)

多くの人のSWOT分析が、これで終わってしまいます。
でもこれだけだと何をすればいいか、全く分かりませんよね。
上司や社長にこれだけ見せても、「…で?」と言われてしまいます。

実はSWOT分析は、これが出発点。この先があるのです。

次に内部環境(強みSと弱みW)と外部環境(機会Oと脅威T)を掛け算して、「勝てる打ち手」を導き出します。2×2なので全部で4通りですよね。

具体的には、SWOTを「強み×機会」「強み×脅威」「弱み×機会」「弱み×脅威」と掛け算して「クロスSWOT分析」を行います。

先のテスラのSWOT分析は、このように展開します。

【強み×機会→自社の強みを最大限に活かす方法を考える】
テスラの強みは「テクノロジー」、機会は「市場成長の可能性」でした。テスラはソフトウェア技術を徹底活用して、EVの新基準を確立しました。たとえばテスラのクルマは、ネット経由でバージョンアップすることで、新機能を追加できます。

【強み×脅威→脅威を機会に変える戦略を考える】
テクノロジーに強いテスラの脅威は「(2003年時点で)EV市場がないこと」。逆に競合も不在ですので、EVを少数出荷すれば、大きな市場シェアが獲得でき、認知度が上がります。そこでまずセレブ向けにスポーツカー「ロードスター」を発売しました。

【弱み×機会→弱みを強みに変える戦略を考える】
成長市場にいるテスラの弱みは「実績皆無」なこと。逆にこれはしがらみがないことの裏返しです。自由に様々なクルマ会社と提携できますよね。そこでテスラは「ロードスター」開発のために、英国ロータスと組みました。創業間もない頃には、トヨタとも提携していました。

【弱み×脅威→最悪を回避する戦略を考える】
「実績皆無」で「EV市場がない」というテスラにとって、売上が伸びない時期が続くと資金切れで倒産です。そこでイーロン・マスクは、先日紹介した周到なマーケティング戦略を立てた上で、分厚い資金を調達しました。大衆車モデル3では、生産が軌道に乗らずに一時は倒産もささやかれましたが、イーロン・マスクは私財を投じて資金を手当。さらに自ら工場に寝泊まりして技術面の問題を乗り切り、凌ぎました。

分かりやすいように単純化しましたが、実際にはSWOTの4項目毎に数件の要素があるので、それらを色々と組合せながら「勝てる打ち手」を導き出していくことになります。

SWOT分析は、次の理由で成果を出さないケースが多いのが現実です。

①クロスSWOT分析をせず、具体的行動を決めていない。対策がない分析は、NGですよね。
②憶測や推測、先入観や固定概念、希望的観測でSWOT分析している。思い込みは徹底排除して、事実をしっかり見極めることが必要です。

SWOTの4項目を書くだけの「残念なSWOT分析」に陥らないようにしましょう。

 

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