
私は日頃chatGPTなどの生成AIを使っていますが、もはや手放せない道具ですね。
考えに行き詰まった際に、それまで自分が考えたことを文章にまとめて生成AIに質問すると、ネット上の情報を整理して教えてくれます。特に最近リリースされた推論モデルは、簡単な質問に対して詳細な調査をした上で、極めて質が高い回答を返してくれます。
いまやとても頼れる相談相手です。
そんな中で、日本経済新聞に2025年3月24日に掲載されたFinancial Timesのコラム「人間の知性は衰退を始めたか」を読みました。ドキッとするものでした。
本記事ではOECDによる「学習到達度調査(PISA)」の最新結果が紹介されています。
読解力/数学/科学の3分野について、義務教育を終了した15歳の生徒がどの程度活用できているかを調査してスコアを出した調査です。
世界全体で見ると、2012年前後でスコアは頭打ちになり、その後は大きく落ち込んでいます。また、思考力や問題解決能力の低下は、10代に限らず、成人でも同様の傾向が見られます。
情報がオンラインで常に手に入るようになり、人間と情報の関係が変化した時期に重なっており、記事では「活字離れや視覚メディアへの移行が進んだ結果ではないか」と考察しています。
とても考えさせられる結果です。
振り返ると、以前は何かわからないことがあると自分で本を調べたり、考えていました。このプロセスを通じて、思わぬ情報に出会って思考が飛躍したり、まったく新たな発見に出会うセレンディピティがありました。さらに日々情報をインプットするために、活字メディアに接していました。
こういったプロセスは、検索エンジンやSNSを使うと省略されます。
SNSでスマホ画面をスクロールしていると、様々な写真や動画が目に飛び込んできますが、断片的な情報の集まりなので、読書のように能動的に文字を追って頭で考えて消化しながら情報を得ているわけではありません。どちらかと言えば、受動的・感覚的に情報を消費しています。そしてSNSは、人がより感情的に反応するコンテンツを多く表示するロジックが組み込まれています。
こうして私たちが検索エンジンやSNSに思考をアウトソーシングした結果が、OECD調査が示す知性の衰退なのでしょう。
そして今や生成AIでより便利になっています。思考のアウトソーシングはますます進むでしょう。
ここで私たちに問われているのが「生成AIとの接し方」です。
自分の頭での思考を続けながら、生成AIに質問し、返ってきた回答をもとに、さらに自分で考えを深める。こうした対話を繰り返すことで、生成AIを駆使して世の中にある情報のエッセンスを効率よく収集して、思考を深めていくことは可能です。
映画「バッドマン」には、有能で忠実な執事アルフレッド・ペニーワースが登場します。アルフレッドは、武器調達やチューニング、敵に関する詳細な調査やハッキングによる攻撃など、あらゆる面で、バッドマンを支援します。しかし、実際に敵と戦うのはバッドマン自身です。バッドマンは多くの仕事をアルフレッドにアウトソースしていますが、「敵と戦う」という本質的な自分の仕事はアウトソースせずに、自分でこなしています。私たちと生成AIの理想的な関係も、バッドマンと執事アルフレッドの関係に近いのかもしれません。
今後、私たちの生成AIへの向き合い方が問われる時代に入っていきます。便利さに頼りすぎず、自らの思考力を鍛えることを忘れずに、生成AIを活用していきたいものです。
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