ビジネスパーソンの出版戦略:大木豊成さんインタビュー(その3)「企画書を書こう!」


オルタナブロガーの大木豊成さんとのインタビュー、第1回目第2回目に続き、今回は最終回となる第3回目です。

 

■企画書を書こう!

N 「本を出したいと思っているビジネスマンに、大木さんからアドバイスはありますか?」

O 
「二つありますね。概念的なことと、テクニカルなことです。まず概念的なことですが、ターゲット読者を明確にすることですね。そのためには、ターゲット読者のペルソナを決めることですね。例えば、『30歳で、係長や主任昇進試験直前で、管理職の心得を学びたいと思っている』といった感じですね。これがスタートポイントだと思います」

N 「最初にターゲットを具体的に設定するのは、マーケティングそのものですね」

O 「全くその通りですね。次に、そのターゲット読者に対して、自分が伝えたいことを明確にすることです。例えば『30歳過ぎで、フラフラしている人間に説教したい』というのでもいいと思います」

N 
「二つ目のテクニカルなこととは何でしょうか?」

O 「出版したいと思っているボク達が意外と気がついていないのは、出版社にとって、出版はビジネスということなんです。考えてみると当り前ですね。出版社は出版で儲ける必要があるんですよ」

N 「まったくその通りですね」

O 「では出版社がどうやっているかというと、編集者が作った企画を、出版社の編集企画会議にかけて、ビジネス的にペイするかを詳細に検討していくんですよね。ある出版社では、実際に出版される本の10倍の企画があがってくるそうです」

N 「10倍ですか!」

O 「言い換えると、企画会議を通過するのは10本に1本しかないということです。だからその企画会議を通すために、編集者は必死に考える訳です。ボク達は、その編集者の人達が企画を通しやすいようにすることが大切なんですよ」

N 「なるほど、そう考えるとやることが見えてきそうですね」

O 「だからまずは企画書を作ってみることです。企画書を作っておくと、編集者の人と話し合っていくうちに企画自体が成長していきます。真正面に編集者と話しをする時には、企画書を作っていないと話しに乗ってくれないんですよ」

N 「うーん、なるほど。確かに、私も最初の本を出す数年前に、パーティで知合った編集者の方に『出版したいんですけどね』とお話ししたことがあります。そこでどんな本を出したいのかを尋ねられた時に、『マーケティングとか、写真とか、色々とネタがありますし、書けますよ』と答えたんですよね。でも、今から考えると、相手は明らかに困っていました」

O 「そうなんですよね。ボクも知合いに編集者を紹介して欲しいと言われることがあるんですけど、『まずは、企画書を書くといいですよ』って言っています。企画書がないと、そもそも編集者は話しに乗ってこれないですよね。出版社もビジネスですから」

N 「本を出したことがない人からは、編集者とのコンタクトがなかなかなくって困っている、ということも聞くことがあります。それについては何かアドバイスありますか?」

O 「福助の経営立て直しで社長をなさっていた藤巻幸夫さんとお話しをする機会があったんですけど、藤巻さんは若い頃、『なんとなく、クリスタル』を書かれた田中康夫さんにどうしても会いたくなったらしいんですよ。それで出版社に手紙を書いたりして、色々なツテを使って実際に会ったらしいんですよね。あの人は、会いたいと思ったら、何としても実現するんですよね」

N 「それはまたすごい行動力ですね」

O 「藤巻さんの例は極端かもしれませんが、『自分はどうしてもコレをやりたい』という思いがあれば、ゼロからでもコネクションは作れると思うんですよね。自分の知合いや、知り合いの知り合いで出版した人って、必ずいると思うんです。そういう人達に紹介してもらえば、出版社の編集者とのコネクションって、意外に作れてしまうんですよね。むしろコネを作るよりも、ちゃんとした企画書を作ることが重要です。知り合いや編集者も、企画書がなければ、どうすればいいか困りますよね。だから、ちゃんとそうした努力を続ければ、出版を実現するのは可能だと思います」

 

■わずか20時間で執筆できた理由

N 「大木さんが2冊目の本を書いている時は、どんな感じで書かれていたんでしょうか?」

O 「他のビジネスマンもそうだと思いますが、昼間は仕事に入り込んで書く時間は全くありませんでした。そこでメリハリを付けるために、毎朝4時40分に起きて、1時間書く、といったように、本を書く時間を決めました。週5日書くとして、1週間で5時間使えますよね」

N 「かなり集中して書いたんですね。目次を作るまで3ヶ月掛かったということですが、実際に書いた期間はどの位ですか?」

O 「1ヶ月間です」

N 「1ヶ月!合計20時間というのは早いですね。まさに「『超』速断の仕事術」ですね」

O 「3ヶ月かけて目次を作って、各章の重複を見たり、各章で何を書くのかかなり詳細に決めたんですよね。編集者から、『目次を作るのは大変だけど、これを作れば中身は1ヶ月で書けますよ』って言われたんですよ」

N 「それが実際にそうなったということですね」

O 「まぁ、編集者と1ヶ月という執筆スケジュールを決めてしまったので、合わせざるを得なかったという面もあるんですけどね。(笑) 企画でしっかりデザインしておけば、執筆段階で書いていくだけなんですよね」

N 
「なるほど、ちょうどシステムの開発で、要件定義と詳細設計をしっかりやっておけば、プログラムに落とす段階が容易になって、手戻りもなくなるのと同じですね」

O 「まさに全く同じですね。あと、各章を仕上げた順に、編集者に送ってチェックしていただきました。全部書いてから送っていたら、もっと時間がかかっていたかもしれませんね」

N 「ところで、出版で犠牲になったものはありますか?」

O「犠牲になったものですか?うーん……。特にないですね。強いて言うと、本を書いている最中は、かみさんや子供達に『お父さんはいつもパソコン見ているね』って言われていました。本のあとがきにも書いたんですけど、家族にはとても感謝していますね」

N 「パソコンをいつも見ているのって、もしかしたら本を書いた後もそうなんじゃないですか?」

O 「あ、考えてみたらそうですね。まぁ、最近はiPhoneばかり使っているので、『パソコンばかり見ているね』が『iPhoneばかり見ているね』に変わりましたけどね」

N 「やはり家族の協力がないと、ビジネスマンが本を書くのは難しいということですね。大木さんからお話しをお伺いして、まさに出版はプロジェクト・マネージメントだということがよく分りました。そのためには企画がとても大切ということですね。今日は本当にありがとうございました」

 

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