ドン・キホーテ(以下、ドンキ)の店内に入って、その密林のような商品展示に驚かれた方も多いと思います。
ドンキは2015年6月期で26期連続の増収増益、年商6000億円超が見込まれ、絶好調です。
ドンキの強みの秘密は何なのでしょうか?
週刊東洋経済2015年3月21号に、今年6月にCEO職を現社長に譲り引退することを発表した創業者・安田隆夫会長のインタビュー『ドン・キホーテ 安田隆夫 激白 わが「勇退」』が掲載されています。
ドンキの強みの一端を理解する上で、参考になりました。
—(以下、引用)—
SPA(製造小売業)と違い商品に独自性があるわけではない。単なる編集と演出をしているだけです。そうして成功している。にもかかわらず、新規参入がない。…この理由を、多くの経済学者を含めて誰も解き明かせないでいる。
最初は皆「あの会社、何なんだろう。ある種、ゲテモンなんやな」と思っていた。しかしそのゲテモンが年間6000億円も売り上げていると話が違ってくる。しかも、北海道から沖縄まで満遍なく繁盛し、都心の一等地でも、ほとんど人が住んでいないような地域でも繁盛している。その理由を考えて、最終的には 消化不良に陥って「もういいや、あの会社のことは」となる。そこがドンキの強さだ
—(以上、引用)—
安田会長は「強みがよくわからないことが、ドンキの強さだ」とおっしゃっています。
奇しくもKADOKAWA・DWANGO会長の川上量生さんも、ドワンゴ会長当時に執筆された著書「ルールを変える思考法」でこのようにおっしゃっています。
—(以下、引用)—
独自性を保つ上では、明快で他社が追随しやすい差別化を行うよりも、何が差別化なのか、ちょっと考えただけでは理解できないものであり続けることが大切だというのが僕の考えです。 そのためには、自分自身が理解できることであってもダメなんじゃないかと実は思っています。なぜなら、自分が理解できるものは、他人も理解できる可能性が高いからです。自分でもわからないものであれば、他人もわかりようがありません。
…理解できそうで理解できないぎりぎりの境界線上に答えがあるというのが僕の結論です。
—(以上、引用)—
一方で安田会長は、もう少し踏み込んだ質疑応答をされています。
—(以下、引用)—
—-安田会長はその理由を知っている。編集、演出のほかに何があるのですか。
それがまさに権限委譲であり、一 人ひとりが商店主である。あるいは商品のファンドマネジャーといってもいい。ドン・キホーテはファンドマネジャーの集大成という、過去にはない流通業態のあり方なんです。
ただし、権限委譲はよほどうまくやらないかぎり、組織崩壊します。
一時期、業界問わず、どこもかしこも権限委譲がはやった。「個店対応」というキーワードで。個店対応はすごくいい。いいんだが、本当に個店対応するには、個店に主権がないといけない。そうでないかぎり、 個店修正ぐらいにしかならない。 一方で権限委譲ばかりやるとばらばらになって、スケールメリットが まったく発生しない。組織のていをなさなくなり、単なる烏合の衆になりかねない。 組織か現場か、ではなく、双方を「アンド」の精神で生かしていく。 「オア」ではなくて。その手法を長年かけて作ってきた。
—(以上、引用)—
ここから読み取れるのは、品物・立地・店舗といった目に見える業態よりも、店舗従業員との関わり方といった目に見えないところに強みの源泉がある、ということです。…ただ一方で、まだ十分に明確ではなく「モヤモヤ」っとしますね。
ジェイ・B・バーニーというマーケティング学者は、企業の競争優位性の源泉となる資源を分析するために「VRIO」というフレームワークを提唱しています。
Value: 顧客にとって価値がある
Rarity: 希少性がある
Inimitability: 模倣しにくい
Organization: 組織的な取り組みがある
インタビューからわかることは、ドンキもドワンゴも、このVRIOをちゃんと持っており、かつ、お二人の経営者ともそれについては確信を持っておられるようです。
グローバル化社会と言われてから、多くの日本企業は単純明快な戦略を徹底して攻めてくるグローバル企業に押されている面がありました。
その単純明快さは、「ローコンテキスト文化」(文化的背景が違うので、言語化しないと通じない文化)に根ざしたものです。
一方の日本企業は、「ハイコンテキスト文化」(文化的背景を共有するので、あうんの呼吸で通じる文化)なので、なかなか単純明快な戦略を徹底できない面がありました。
しかし安田さんや川上さんのお話しからは、このハイコンテキスト文化を逆手に取って、強みを活かしていることが読み取れます。
外部から分析しようとしても、ドンキもドワンゴも、強みを見極められない。
しかし実は、真似できない確かな強みを持っている。
そして実は強みを明確に言語化できず(あるいは行わず)、モヤモヤするところに本当の強みがある。
そのように思いました。
このように考えると、「強みを明確に説明できないドンキだからこそ、ドンキが永続するためには、自分が元気なうちに後進に経営を譲り、後進が独り立ちできるように支援する必要がある」という安田会長ならではの問題意識を読み取ることもできます。