角川歴彦氏インタビュー『書籍電子化、出版社どう対応?』を読んで考えた、電子書籍の高収益モデル


4/18の日本経済新聞に、角川グループHDの角川歴彦氏の対談『書籍電子化、出版社どう対応?』が掲載されています。

出版社責任者の立場で、電子書籍をどのように捉えておられるのか、興味があり拝読しました。

—(以上、引用)—

….。出版業は読者に書店で本を買ってもらう製造・流通モデルから、インターネット時代には知的サービス業になる。この変化を日本の出版界は頭で理解しても、行動をためらっている

—(以下、引用)—

電子書籍の時代になると、編集者は、読者(=顧客)視点でのコンサルタント・サービスを提供する形になると思います。僭越ながら「知的サービス業になる」という点で私も同じ意見です。

一方で、出版業界が抱えてきた「紙」という存在は、出版社にとってパワーの源泉である一方で、在庫という大きなリスクでもあったと思います。

この部分を抱えているために、なかなか身動きが取れない現状があるのではないでしょうか?

—(以下、引用)—

「…。出版社に値決めする権利はないというアマゾンの立場に対し、出版社には著作者を守る義務と権利があると主張したい。電子では著作者の意に反して作品が容易に変容する懸念もある。出版社の役割を著者や読者に了解してもらったうえで、電子書籍のビジネスモデルを構築したい」

—(以上、引用)—

「著作者を守る義務と権利」という考え方は、とても重要だと思います。

一方で、技術的なブレイクスルーにより、電子書籍が改変されないようになる可能性もあります。

作品改変防止を保証することに加え、どのように著作者を守るのか、また、それが顧客に対してどのような価値を提供するのかを、具体的に提示していくことが必要なのかもしれません。

この記事は以下のように締めくくっています。

—(以下、引用)—

電子書籍がどう収益に結びつくかはまだ見えない。出版社にとって価格決定権をもつ紙の書籍の方が利益率は高い。電子書籍を入り口に、新たな読者を獲得する一方、利益を生むコスト構造を築けるかがカギを握る。

—(以上、引用)—

利益率については、電子書籍はやり方次第で高収益事業に生まれ変わる可能性もあると思います。

理由は、紙の本と比べて、紙のリスクがなくなる電子書籍は、1冊辺りの限界費用は限りなくゼロに近づくからです。部数が出る程、電子書籍の利益率の方が高くなります。

損益分岐点を出来るかぎり下げて、かつ、目標とする高収益を実現できるだけの部数が売れるようにすることが、電子書籍が高収益をあげられるための前提条件になるのではないでしょうか? 

電子書籍の価格戦略、商品戦略、プロモーション戦略、チャネル戦略も、これらを考慮することが、高収益モデルを実現するための一つの考え方になると思います。

 

インタビューを拝読し、出版社側にとっても、電子書籍はまだまだ暗中模索の段階であるという印象を受けました。

このような時期は、やり方次第で色々な展開が可能な、ある意味で面白い時期でもあると思います。

角川歴彦氏インタビュー『書籍電子化、出版社どう対応?』を読んで考えた、電子書籍の高収益モデル」への3件のフィードバック

  1. どうなんでしょう。
    「出版社には著作者を守る義務と権利があると主張したい」
    わたしには、これは建前でただ保守的になってるとしか受け取れません。「著作者を守るため」といえばなんでも通ってしまうような。
    実際、家電など多くの製品は小売店で安売りが行われてますけど、メーカーを軽視してるわけではない。正直、出版社が勝手に著作者の主張を作り上げている気もします。自分たちの都合のいいように。
    電子化がすすめば、出版社は不要になると考えています。広告代理店で十分いけそうな気がします。著作者の作り上げたものを電子市場に載せてPRするだけですしね。iPhoneアプリなんて、市場にのせるだけでPR一切なしのケースがほとんど。あとは、アプリ紹介ブログなどが勝手に広めてくれます。もちろん、それだけいいコンテンツでなければなりませんが。Twitterなども活用できるでしょう。
    改変などなどは、別に問題にもならないかと。すでに音楽も映画もいろいろ改変(パロディ利用など)されてます。ちゃんとした電子書籍マーケットで購入したものが改変される可能性はほぼ0ですし、改変版を手に入れるには違法ダウンロードしかないと思います。

  2. 追記で失礼します。
    iPodが出る前の携帯音楽プレーヤー市場で、日本メーカーも開発を進めていたが、「携帯して衝撃などで音楽が消えたら困る。どう解決しよう」など、いろいろ技術的なことで悩み続けてたそうです。ちょうど今の電子化の「改変されたらどうしよう。コピーされたらどうしよう」というのといっしょ。
    そんな中iPodが衝撃に比較的弱いとされるハードディスクを堂々と載せて発売されて、メーカーの人は衝撃を受けたそうです。「消えるリスク高いのに何考えてんだ」と。Apple的には、「母艦の音楽から同期・コピーするんだから別に消えても問題ないでしょ」という感じだったとか。
    日本メーカーがいちいち細かいところを気にしてズルズルと時間だけが過ぎてた時に、Appleは発想の転換というか、とりあえず実行したわけですね。細かいところ気にせず。もちろん、そのデザイン性やiTunesのプラットフォームの力などありますが、iPodは圧倒的な存在になりました。現在でも他社は全然太刀打ちできてません。
    こんなエピソードを読んだことがあります。
    日本人ってなかなかYES/NO言えないとか、決断力がないとか言われてますし、結局スピードが足りないのかもしれません。政治もウジウジと進まないし・・・
    あと、電子書籍リーダーを出したのはSONYのほうが早いのですが、コンテンツなどプラットフォームを構築できず終了でしたね。日本ってそういう周りを巻き込む力も弱いですね。
    批判ネタばかりになってしまいましたが、1日も早く日本で新刊の発売日に電子書籍マーケットでも買える日が来ることを期待してます。

  3. SISさん、
    コメントありがとうございました。
     
    出版社の「出版社には著作者を守る義務と権利がある」との主張に対して、私はブログに書いた以上のことをコメントするのは差し控えたいと考えておりますので、「出版社不要論」の部分について私の考えを述べさせていただきます。
     
    「これからは『直接売文業』の時代だ」という池田信夫さんのような意見(Twitter)もある一方で、「本を作るということは、つまりは『ものづくり』の側面がある。質を高めるためにも、editorialの仕事は消えることがないだろう。むしろ、激変するのは流通の方ではないか」という茂木健一郎さんのような意見(ブログ)もあります。
     
    私自身、自費出版と商業出版の両方をした経験と、電子出版関連の調査で出版をしたビジネスマンにインタビューした経験で言えば、両方正しいと思います。
     
    つまり、編集者の力を持っているもの書きには、池田さんのおっしゃるように直接売文も可能です。しかし、そんな人でも、茂木がおっしゃるように、編集者の力というものはとても頼りになります。
    このあたりのことは、ブロガーの今泉さんも、何回かに分けてブログに書かれています。
     
    インディーズCDが流行って、全てがインディーズになったか、というと、そういうことにはならず、メジャーレーベルはメジャーであり続けています。
     
    プロの仕事とは、そういうことなのかもしれません。
    (ただし、あくまで編集者の部分です。紙の装置産業的な部分は、流通構造が大きく変わるでしょう)
     
    >>批判ネタばかりになってしまいましたが、1日も早く日本で新刊の発売日に電子書籍マーケットでも買える日が来ることを期待してます。
     
    マーケット原理が働く現代では、結局、市場や消費者が、それを強く望むかどうかだと思います。望む人達が増えれば、それは意外と近いのかもしれません。

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