最初に夏目漱石「こころ」を読んだのは高校生の頃。現代国語の授業でした。この時、私は文庫本も買って、夢中になって読みました。
若かった当時の私は、単純に物語として楽しんでいたように記憶しています。
ただなぜ表題が「こころ」なのか、本書のテーマであるエゴイズムとは何なのか、なぜ先生が死を選ばざるを得なかったのか、十分に理解できませんでした。
先日、Kindle版で三十数年ぶりに読む機会がありました。読み始めると一気に引き込まれ、1日で読み終えてしまいました。
深夜に読み終えた後、自分の心に重く黒いものがドッシリとのしかかってきて頭を支配し、なかなか寝付けませんでした。
本書は三部構成。第一部と第二部の語り手は「私」、第三部の語り手は「先生」です。
第三部で自分の若いころを振り返り語っている「先生」は、信頼している人に騙されて人間不信に陥りますが、「奥さん」と「お嬢さん」に出会って人間への信頼を取り戻し始めます。そして数少ない友人であるkを助けようとしますが、結局このkを裏切ることになり、kは自殺。先生はその重荷を誰にも言えずに背負って生き続けています。
一貫して「先生」が語っているのは、「人間のエゴ」。
しかしエゴというのはとても厄介なものです。
「自己保身能力」としてのエゴを獲得したおかげで、生物は誕生してから数十億年間、生き長らえてきました。そのエゴをなくすということは、死を選ぶこと。エゴはなくそうとしても、本来なくならないようになっています。
だから厄介です。
そしてエゴは巧妙です。私たちは、他人のエゴはすぐに気づきますが、自分のエゴにはなかなか気がつきません。
エゴは、人の心の奥底に気がつかないように様々な形で潜み、そしてあるとき密かに現れて、時としてあたかも善の形も取りながら、知らない間に他人を攻撃するのです。
「自己保身能力」としてのエゴをなくすために、「先生」は死を選ばざるをえなかったのかもしれません。
読了して、本書の表題が「こころ」であることに深く納得しました。
三十数年、人生で多少の経験をしてきたおかげで、本書で夏目漱石が伝えたかったことが、少しわかったように感じました。
なお、本書はAmazon Kindleで無料で購入できます。