日本では、「イノベーション」を「技術革新」と訳しています。 日本の高度経済成長が始まった1958年の経済白書がきっかけに、この言葉が拡がったと言われています。
しかしこれはイノベーションの概念を正確に反映した訳ではありません。
100年前に「イノベーションこそが経済発展の原動力だ」と喝破し、イノベーションの源流となったシュンペーターは、「イノベーションとは既存知と既存知の新結合である」と述べています。
たとえば2007年に登場したiPhone。
iPhoneは技術面では革新的なことはほとんどありません。携帯電話、タッチパネルのiPod、インターネット端末という「既存技術の組合せ」です。しかしiPhoneのおかげでコンパクトデジカメ、電卓、地図、時計などが世の中から消え、かわりに実に様々な新しいサービスを生み出しました。世の中を大きく変えたイノベーションだったのです。
「iPhoneってイノベーションじゃないよ。だって何も新しくないじゃん」
という人は、「イノベーション=技術革新」という誤訳を頭から信じているわけです。こういう考え方をしていると、iPhoneのようなイノベーションがなかなか生まれませんよね。
しかしかつて日本には、次々とイノベーションを生み出していた企業がありました。 それはソニーです。
たとえばウォークマン。 元々のコンセプトは「再生専用の携帯カセットプレイヤー」でした。 しかし当時のカセットプレイヤーは、録音機能が必須でした。
「録音機能がないプレイヤー?売れるわけないよ」
…というのが大勢の意見でした。
しかし当時ソニーのトップだった盛田昭夫さんは、こう考えました。
「でも車に付いているカーステレオって、録音機能がなくても、私たちは気にせず使っているよね。車内でそうなんだから、屋外で音楽を聴く場合も、録音機能はいらないんじゃないかな」
実際に発売したら、累計4億台売れました。
ウォークマンもiPhone同様、技術的に新しいモノは何もありません。しかし「一人で音楽を聴く」というライフスタイルを生み出したイノベーションでした。
このようにイノベーションには特徴があります。事後的には理解できるのですが、事前には理解できないのです。
イノベーション前「できるわけないでしょ。もしかして頭悪いの?」
イノベーション後「ああ。あれね。俺も前から考えていたけどね」
もし「我が社には、イノベーションが必要だ」とお考えであれば、「技術革新という言葉は、社内禁止!」にするくらいの意識変革が必要なのではないかと思います。
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