「『みんなの意見』は案外正しい」のであって、「絶対正しい」のではない

9/10の日経プラスワンで、山根一眞氏が「Wikipediaの加筆訂正前の誤った記述が固定した事実として引用・拡大してしまうケースも出ているのは、なんとも恐ろしい」という記事を書いています。

日本海海戦で日本が使用した無線電信機の出元について、山根氏は独自取材で詳しく調べて裏づけを取った上で記事を書いたのに対し、Wikipediaの記述は異なっていました。しかし読者からは「Wikipediaと記述が違う。記事内容が間違っている」という指摘が寄せられたそうです。

ちなみに、2006年9月12日12:00時点で、Wikipediaの記述は既に修正されています。

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Wikipediaが非常に役立つことは事実です。私も分からないことを調べる際に非常に頼りにしています。また、衆知の中から叡智を抽出するメディアとしても、大変優れていると思います。

しかしながら、一旦Wikipediaのようなメディアに掲載されると、それがあたかも事実であるかのように一人歩きすることは非常に危険ですね。

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今回のことは、いくつか原因が考えられると思います。

●コミュニケーションのタイプの問題

ネットが衆知の中から叡智を抽出する濾過装置として働くのは、特にローコンテキスト・コミュニケーションの場合だと思います。例えばオープン・ソース・ソフトのように、ロジックを記述できて、かつ動作検証で結果が確認できるケースです。

しかしながら、ハイコンテキスト・コミュニケーションの場合、ネットは必ずしも万能ではない、ということではないでしょうか?

実際、物事の事象の解釈は、人によってそれぞれです。面と向かって議論してもなかなか収束しないことも多々あります。これをネットによるのローコンテキスト・コミュニケーションで、しかも不特定多数で収束するのは、なかなか難しいのかもしれません。

●スケーラビリティの問題

今回のケースは、山根氏のように事実を知る数少ない人がWikipediaに参加していれば、解決できた問題です。つまり、Wikipediaのカバレッジが世の中全体の知恵を収集するような網羅性をまた獲得していない、というスケーラビリティの問題が考えられます。

●最終責任者の所在の問題

また、以前より指摘されていたように、Wikipediaでは内容について最終責任を持つ人がいない、ということも、要因として挙げられるかもしれません。但し、最終責任を持つ人がいても内容が間違っているケースもあるので、必ずしもこれは根本原因ではないように思いますが….。

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Wikipediaの「ウィキペディアの目的は、信頼されるフリーな百科事典を創り上げることです。――それも、史上最大の、質も量も最高の百科事典を」という目的は素晴らしいと思いますし、賛同します。

ただ、「『みんなの意見』は案外正しい」のであって、必ずしも「絶対正しい」のではない、という認識を持つような、ネット・リテラシーの成熟が、我々に求められているのかもしれません。

消したい自分の過去

ITmediaで、「ネットから“自分”を消すのは難しい?」という記事が掲載されています。

実名で酒の席での武勇伝をネットに書く、というのもかなり勇気がある方と思いますが、これは怖いですね。

ちなみに、「永井孝尚」でGoogleで検索すると、本日時点で899件出てきますが、ほとんどが私自身に関連するページです。写真関連、母校関連、仕事関連、ブログ関連といったところで、見られて困る情報はないので、まずは一安心ですが。

自分で管理しているHPやブログであれば、情報はある程度コントロールできますし、不都合な情報は削除すれば検索エンジン上のデータも一定期間後にはクリアされます。

しかし、第三者のサイトでは一旦書き込んだ情報はなかなか消せません。同様に、他ブログサイトでのエントリーやコメントも、コントロールが難しいですね。

当たり前のことですが、ネット上で不用意にフルネームでプライベート情報を書き込むのは慎むべき、と改めて思った次第です。

そのうち、過去の自分の情報をネット上から消す代行サービスが生まれてくるかもしれませんね。

グーグルの戦略、3つの分かれ道

田坂広志さんがソフィバンク・ラジオ・ステーションで、『「ウェブ進化論」 グーグルの戦略 3つの分かれ道』と題し、下記について語っています。

  • 「インターネット革命が目指すものは、中心を持つ革命なのか? 中心のない革命なのか?」
  • 「インターネット革命がもたらすものは、企業中心市場なのか? 顧客中心市場なのか?」
  • 「情報革命とは、人間を不要にする革命なのか? 人間がより高度な能力を発揮する革命なのか?」

 

田坂さんは以前より、「ネット革命の本質とは何か?」「顧客中心市場の本質とは何か?」「情報革命の本質とは何か?」について様々な形で述べておられますが、上記3つの分かれ道は、それぞれに対応するものです。

まさに田坂さんならではの深い洞察で、インターネットの将来を考える上で、現時点ではグーグルは象徴的な存在であることを改めて認識しました。

2006-06-21 | カテゴリー : ウェブ | 投稿者 : takahisanagaicom