「シニア社員が変わらない」というマネジメントの悩み


シニアなビジネスマン

講演や研修にあたって企業のマネジメントの方々とお話しすると、多くの業界で共通して、こんなご相談を受けます。

「40代後半から50代のシニア層が、なかなか変わらないんですよね……」

多くの社員は、新卒入社してその会社一筋で働いています。40代後半〜50代になっている方は、四半世紀以上働いていることになります。

四半世紀も経つと、若い頃は当たり前だったことが、大きく変わります。しかし若い頃には当たり前なことは習慣化されることも多く、ともすると変わるのは難しいのです。

どうすればいいのでしょうか?

 

最近、新しいビジネスに取り組む企業や、地域活性化に取り組んでいる地域で、成果を挙げている方々とお話ししていて、気がついたことがあります。誰もがとても楽しそうなのです。たとえば、

■目を輝かせながら、「この仕事を、5年後、10年後にはこうしたいんです」

■ニコニコしながら、「仕事が本当に面白いんです。プライベートとほとんど区別がついていません」

■穏やかな表情で、「周りの人たちがどんどんサポートしてくれて、感謝しかありません」

皆さん、自分で心から「やりたい」と思っている仕事をしておられます。額に青筋を立てて、「歯を食いしばって、頑張っている」という感じがしないのです。そしてこれは、年齢を問わず様々な世代の方がおっしゃっているのです。

しかし詳しくお話しを伺うと、最初から「やりたいことをやる」というスタイルで仕事をしていなかった方も多いのです。

むしろ当初は、「不本意ながら仕事をしていた」という方も少なくありません。それがちょっとしたきっかけで「やりたいことをやる」ように変わり、成果を挙げて、好循環に入っているのです。

 

かつての企業では、仕事で「やりたいことをやる」社員はどちらかというと評価されず、会社で決まった方針を受けて組織人として粛々と進める人材が高く評価されてきました。

一昔前までは、決められた業務を進めるためには多くの人手が必要でした。だから「言われたことを、忠実に行う」ことは、企業でビジネスを進める上で必要なことだったのです。

加えて顧客ニーズも今ほど多様化しておらず、環境変化も穏やかで、一旦決めたことは頻繁に変える必要はありませんでした。

 

しかし現代では状況が大きく変わっています。

「無人工場」の出現が象徴するように、企業の定型業務の多くはITで自動化されつつあります。「言われたことを、忠実に行う」人手がかかっていた業務の多くは、急速にITで代替されているのです。

さらに顧客ニーズがきめ細かく細分化され、世の中の変化も激化しているので、一度決めたことでも場合によっては臨機応変に修正判断が必要になります。

 

このような状況になると、かつて高く評価されていた「言われたことを、言われた通り実行する」人材しかいない企業は、成果を挙げられなくなってきています。

中には、そのような人材を維持するために、本来IT化できる業務を自動化できずに人手で対応し続け、業務スピードの競争力が失われているという、あまり笑えない状況も起こっています。

 

これは先にご紹介した、「やりたいことをやる」人が成果を挙げていることと、表裏一体なのです。

 

「やりたいことをやる」のは、現代だからこそ求められています。

ダニエル・ピンクという人が、『モチベーション3.0』という本を書いています。彼はモチベーションを次の3つに分けています。

モチベーション1.0 …「生きるために、頑張る」
モチベーション2.0 …アメとムチ。「お金のために、頑張る」
モチベーション3.0 …自分の内面から湧き出る「やる気!」に基づく。「やりたいから、やる」

モチベーション2.0(アメとムチ)は、「これを達成したら、ご褒美をあげる」という方法です。200年前の産業革命の時代に生まれたもので、ルーチンワークには極めて有効であり、現代社会に広く定着しています。

しかしこの「アメとムチ」が有効なルーチンワークは、現在、ITで急速に代替されています。加えて「アメとムチ」は、知的作業には必ずしも有効ではありません。本書でも、「創造的なアイデアを生みだしたら、お金をあげます」と言われると、逆に生産性が落ちてしまう例を挙げています。

一方で、自分が心から夢中になっていることに取り組んでいる場合、「寝ても覚めてもそのことばかり考えてしまう」「やめろと言われても、絶対やる!」という経験がありませんでしょうか?これがモチベーション3.0です。

創造性が求められる知的作業では、心から「やりたい!」と思うことに挑戦することで、様々なアイデアが生み出されるようになり、生産性が極めて大きくなります。

知的生産性は、モチベーション2.0と比べて、モチベーション3.0の方がはるかに高いのです。現代は、知的生産性が求められる知識社会です。「やりたいから、やる」のは、知識社会の現代だからこそ、求められているのです。

 

では先にご紹介した、私が出会った、やりたいことをやって成果を挙げている人たちは、どういうきっかけで「やりたいことをやる」ようになったのでしょうか?

多くの場合、何らかの「危機感」が契機になっています。

たとえば、お客様からの真摯なクレーム。あるいは「このままでは大切なものが失われてしまう」という状況。

そこでちょっとした勇気を持って、小さな行動を起こしてみると、小さな成果が上がる。徐々に仲間も増える。仲間が増えると楽しいし、盛り上がっていきます。

これはIT普及とも関連しています。IT普及で、従来は個人では処理できなかった業務の手間が大きく削減されているのです。端的な例を挙げると、20年前までは1000人にイベント告知をするのは大きな手間がかかりました。今ならブログ、Facebook、Twitter等を使えばとても簡単です。

さらに個人の想いが出発点なので、その場で様々な問題が起こっても、上の判断を待たずに、自分の裁量で判断し、臨機応変に対応できます。

そして、個人の小さな行動が仲間を集めて徐々に大きくなり、より大きな成果を生み出しているのです。

この最初のきっかけが、「身近な危機感」と「小さな実行」です。

 

実際には、「やりたいことをやる」というスタイルで仕事を進めるためには、それに見合ったスキルが必要です。

そして40代後半〜50代のシニア社員は、四半世紀の会社生活で様々な成功体験や失敗体験を通じて多くのスキルを身に付けています。

一方で、「言われたことを、忠実に行う」スタイルで仕事をしてきた人も、少なくありません。

しかし現代で求められていることは、「やりたいことをやる」という仕事のスタイル。

経験豊かなシニア社員だからこそ、自分の専門分野で、他の人には見えない色々なものが見えるし、「このままではダメだ」という危機感も持っている筈です。

「やりたいこと」さえ見えれば、スキルはあるので、容易に「自分がやりたいこと」=「自分ができること」=「会社としてやるべきこと」とすることができます。

実際には、会社勤めをしていると、思い通りにならないことの方が多いものです。たとえば、プロジェクトが全社方針で中止と決まってしまったり、信頼する仲間が配置転換されたり、あるいは自分の部署や会社が、別の部著に統合されたり会社に買収されてたりすることは、少なくありません。

しかしそんな状況であっても、経験豊富でスキルもあるシニアな社員こそ、自分の周りを改めて見回してみて、「やりたいこと」を見つけられるはずです。

社員個人が「やりたいから、やる」というように、会社も社員も考え方を変えてみると、自分自身も楽しいし、会社にとっても大きな戦力になります。

 

組織の中に、「やりたいことをやる」人が数多くいる組織は、大きな成果を挙げていきますし、なによりもそのような組織にいる社員自身が楽しくなると思います。

 

マーケティングの講演・研修・著作活動を通じて、少しでもそんな社会になるお手伝いができれば、と思っています。