「成功した企業は、きまって誰かがかつて勇気ある決断をした」

最近、クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」のことを考えています。そして改めてドラッカーの次の言葉の意味を考えます。

成功した企業は、
きまって誰かがかつて勇気ある決断をした。

「イノベーションのジレンマ」を突き詰めて考えると、イノベーションを起こす商品は、それまで存在しなかった全く新しい顧客を創造していくことになります。

従来の顧客を対象としたある程度「枯れて」いる商品と比べて、課題は山積み。当初は性能も劣ります。商品を世の中に出すこと自体が大きなチャレンジです。

しかも商品を世の中に出しても、当初は冷ややかな反応も多いのです。

しかしそれでも食らいついて市場を切り開き、全く新しい顧客を開拓し、新しい市場を創っていく。そして大きなビジネスに育てる。

このような「勇気ある決断」がない限り、イノベーションは起こらないし、新しいビジネスは起こらない。

 

もしかしたら日本の20年間の停滞は、このような勇気ある決断をすることが激減したためかもしれません。

 

今年新たに出す本は、このイノベーションをテーマにしたものになる予定です。皆様のお役に立てれば幸いです。

 

 

新市場開拓の必須条件:未充足のニーズをいかに見つけるか?

「イノベーションのジレンマ」では、イノベータは従来の覇者が気がつかなかった全く新しい顧客を見つけ、新市場を開拓します。

例えば、トランジスタラジオ。

1950年代までは、ラジオと言えば真空管ラジオ。重量10Kg程の大きさの真空管ラジオは居間の真ん中に鎮座し、家族でラジオ番組を聞いていました。

1947年、ベル研究所でトランジスタが生まれました。

このトランジスタを使ってラジオを作ろうと考えたのが日本のソニー。

しかし当時のトランジスタは性能が悪く、誰もが「悪いことは言わないから、こんなものでラジオを作るのは止めておけ」と言ったそうです。

ソニーは苦心惨憺の末、トランジスタラジオを開発して市場に出しました。しかし真空管ラジオと比べて雑音も多く、音質の悪さは一目瞭然。これまでの真空管ラジオを使っていた顧客は見向きもしませんでした。

真空管ラジオを作っていたメーカーも、「あんなものおもちゃ」と思っていました。

 

しかし購入した顧客もいたのです。

それは真空管ラジオを使ったことがない人達でした。

若者です。

当時、エルビス・プレスリーに代表されるロックンロールが流行っていました。しかし大人達はロックは不良の音楽として、若者達に聴かせませんでした。

居間にある真空管ラジオでロックを聴けない若者たちは、野外でトランジスタラジオを使ってロックを聴き、仲間と踊ったりしていたのでした。

そのうち音質が悪かったトランジスターラジオも次第に性能を向上、真空管ラジオと音質面で並びました。

こうなるとトランジスタラジオの小ささは大きなメリットになります。こうして真空管ラジオは市場から駆逐されてしまいました。

 

このように、イノベーションが起こる場合、これまでの覇者が全く知らなかった全く新しい顧客(=無消費の顧客)を開拓していることが多いのです。

このように考えると、私たちがイノベーションを起こそうとする場合、無消費の顧客へ無理に買ってもらおうと考えてはいけないのかもしれません。

既に潜在的なニーズを持っている無消費の顧客に、「こんなものがありますよ」とさりげなく提案することが必要なのでしょう。

私たちは意外と、未充足のニーズをそのまま放置しているのかもしれません。

 

 

市場を守るな、顧客を創造せよ

世の中はすごい勢いで動いています。

いわゆるプロダクトライフサイクルも、どんどん短縮化しています。

例えば下記は平成17年の中小企業白書に掲載されているヒット商品のライフサイクルの比較です。データはこちら

17210130

この調査、一目瞭然です。

5年以上続いたヒット商品は、1970年代以前は59.5%。

1990年代には26.8%。2000年代はわずか5.6%。

さらに2000年代は2年以上続いたヒット商品は50%を切っています。

せっかく市場を立ち上げてビジネスで稼ぐようになっても、その賞味期限はどんどん短くなり、半数以上が2年持たないということですね。

今は2010年代です。賞味期限はさらに短くなっている、というのは、ビジネスパーソンの皆様は実感なさっておられるのではないでしょうか?

 

このような状況の中で市場を守ろうとしても、市場自体があっという間に消滅してしまいます。なかなか時代の流れに逆らうのは難しい時代です。

最近、日本国内で「イノベーション」という言葉がよく聞かれるようになりました。

むしろ考え方を変えて、労力を市場を守ることに費やすのではなく、イノベーションにより新しい顧客を創造し、市場を生み出すことが必要なのではないか、と思います。

 

 

ヒット作の十分条件は存在しないが、必要条件はこの二つらしい

映画版『レ・ミゼラブル』プロデューサーであり、舞台版の生みの親でもあるキャメロン・マッキントッシュさんへのインタビュー記事が東洋経済オンラインに掲載されています。

「レ・ミゼラブル」仕掛け人の"感動の極意"
ヒットの秘訣を豪語する人間はウソつき

この中でキャメロンさんは次のように語っています。

ヒットの秘訣が分かるなんて豪語する人間はウソつきに決まっている(笑)。ただ、僕が一番大事にしていることは、とにかくストーリーとキャラクター。それだけは言える。

これは全く同感です。

 

「100円のコーラを1000円で売る方法」も、まずストーリーをしっかり構築した上で、かなり時間をかけて登場人物のペルソナを作り込みました。

「マーケティング理論を解説しているのに、ストーリー部分は余分」という意見もいただくことがあります。

しかし実は、ストーリーがあることで格段と記憶に定着できるのです。これは人類の知恵でもあります。

人類の多くが文字を読めるようになったのはここ数百年のこと。それ以前は字を読める人は極めて限られていました。

こんな状況で人類は世代から世代へ情報を伝える方法を編み出しました。それは物語による口伝。

分かりやすく記憶に残る物語で情報を伝えたのですよね。聖書が広まったのも、聖書の物語自体が面白かったからだ、とおっしゃる方もいます。

ストーリーがあることで情報はずっと伝えやすくなるし、記憶にも残るのですよね。

 

そして面白いストーリーを作る上で、キャラクターは重要です。

実は「100円のコーラを1000円で売る方法」は、前作となった作品(廃刊)とストーリーはあまり変わっていません。しかし前作はキャラクター設定をあまり重視しておらず手間をかけていませんでした。廃刊になったのは、やはり理由があったのですね。

キャメロンさんもおっしゃるように「ストーリーとキャラクターがしっかりしていれば必ずヒットする」という単純な話ではありませんが、確かに必要条件であることは間違いなさそうです。

  

 

なぜ全部やろうとすると負けて、捨てると勝つのか? ITmedia Marketing連載最終回「『ベストプラクティス』が『猿真似』に陥る理由が分かると、顧客中心主義の戦略のポイントが分かる」が掲載されました

ITmedia Marketingの連載「『バリュープロポジション』から考えるマーケティング戦略論」の最終回「『ベストプラクティス』が『猿真似』に陥る理由が分かると、顧客中心主義の戦略のポイントが分かる」を掲載いただきました。

 

我々はライバルのよいところをどんどん盗もうとしがちです。

ライバルから学ぶことはとてもよいことですが、形だけを真似ても失敗することが多いのです。

問題は、形だけを真似ていることがなかなか分からない点です。さらにタチが悪いのは、業界のライバル同士が形だけを真似ているケース。こんな状況で、外部から全く違った形で新規参入者が来て新たな価値を提供すると、一気にやられたりします。

そこを見極めるポイントの一つが、「トレードオフ」。

今回はそのことを書かせていただきました。

 

昨年7月から始めて合計6回に渡った連載も、今回で終了です。お読み下さった皆様、ありがとうございました。

 

 

「すぐ駄目になるから、V字回復は目指さない」と語るパナソニック津賀社長の言葉から学べること

拙著「100円のコーラを1000円で売る方法」では、お客様の要求仕様に100%に合わせて値下げも徹底した主人公が、お客様の言いなりにならず価格も高いライバルに敗れる場面を描きました。

このシーンで描いたように、「お客様は神様」と考えて言いなりになっても、必ずしも成功しません。

日本経済新聞2013/1/7付のコラム『経営の視点 「お客様は神様」は正しいか』を拝読し、「我が意を得たり」と思いましたので、ご紹介させていただきます。

—(以下、引用)—

「安ければ何でもいいという市場からは撤退しろ」。

パナソニックの津賀社長は腹をくくった。安値競争に陥ったテレビ事業で「負け組」になった反省が背景にある。

—(以上、引用)—

お客様の言いなりになり、多機能、高品質で価格勝負をした結果、低収益に陥ってしまった状況。

まさに「100円のコーラを1000円で売る方法」で主人公が陥っていた先の場面です。

—(以下、引用)—

津賀社長は「ある分野やある地域などの様々な切り口で、それぞれの顧客に密着して、そこでトップシェアを目指す」と言う。例えばテレビならば、特定の用途ごとに顧客をとらえ直して、新たな事業に作りかえられないかという具合だ。

—(以上、引用)—

あのローソンもまさに同じ戦略です。

「個を動かす 新浪剛史 ローソン作り直しの10年」(池田信太朗著、日経BP社)でも「同じ土俵の総力戦に引き込まれたら負けるのであれば、戦力を集中投下して『勝てる局地戦』に必ず勝つ。….つまり『劣化版セブン』ではなく、ローソンという『唯一無二の存在』になる。新浪がこの10年で取り組んできたことを一言で言うならばそれだ」(p.86)としています。

また当コラムでは、顧客の言いなりになるのではなく、お互いに価値を高め合う関係も紹介されています。

合繊業界では量産品は中国に取って代わられましたが、自動車車体に炭素繊維を利用する技術をGMと共同開発している帝人・大八木成男社長の言葉が紹介されています。

実際に量産車に採用されると数千億円の設備投資が必要になりますが….

—(以下、引用)—

…リスクはあるが、「スペックインで、当社にしかできない複合材料の仕様がGMの設計図に書き込まれる。安全性などもかかわるので、安さだけでは他社は入ってこられない」と考える。

帝人とGMはお互いに選び選ばれる関係にあり、開発が成功すれば、きずなは一層深まるというわけだ。

—(以上、引用)—

このようなスペックインは、まさにお互いに不可欠なパートナーシップ(=きずな)を構築する上で大切です。

記事は以下のように締め括っています。

—(以下、引用)—

高度成長期以来、均質な商品を安く大量に供給することで成功を収めた産業は転換を求められている。製品やサービスから企業の構造まで、広い意味でのイノベーションが必要である。

このためには時間がかかる。パナソニックの津賀社長は「V字回復は目指さない。すぐ駄目になるからだ。私は根っこから変える」と宣言する。経営力が厳しく試される時代になった。

—(以上、引用)—

抜本的な体質改善になります。先にご紹介したローソンも作り直しに10年かけています。

業界や企業によって状況は異なるかもしれませんが、じっくりと企業そのものを作りかえることも、今、必要なのではないでしょうか?

 

 

7年間で売上比倍増!ユニ・チャームの海外新興国市場開拓は、どのような戦略に基づいているのか?

ユニ・チャームは中国・インドネシアといった海外新興国の市場開拓を加速しています。

海外売上比率は、2005年3月期に24%だったものが、2012年3月期には47%。7年間で倍増です。この比率は早期に8割まで高める計画だそうです。

このユニ・チャームの海外進出、どのような戦略で行われているのでしょうか?

 

日本経済新聞 2013/1/4の論文「経営塾 顧客は世界に広がる① 進出先でトップメーカーになる」で、ユニ・チャーム社長の高原豪久が次のように述べておられます。とても簡潔に分かりやすくまとまっていましたので、引用させていただきます。

—(以下、引用)—

 …人口減少が続く国内市場において同業他社との競争に明け暮れているだけでは、成長は見込めない。….

(中略)

 新興国では高率の経済成長で人々の生活が豊かになり、それまで使っていなかった紙おむつや生理用品なども受け入れるようになってきた。当社の戦略は進出先の国で新たな市場を作り出し、その製品のトップメーカーとして認知されることである。それはある種の先行者利益であり、有利に販売を続けられる。

 いちからビジネスを立ち上げれば、製造だけでなく販売条件や流通経路も当社の方針通りに作り上げることができる。こうした進出先での「垂直統合」こそが大きな利益を生む。

—(以上、引用)—

まさに自社製品の強みを活かして新市場に進出することで、ブルーオーシャンを作り出し、かつ自分たちでルールを決めているわけです。

新市場開拓は大変な苦労が伴いますが、新たな市場や顧客を作り出すのはエキサイティングな仕事でもあります。

 

同時に、ユニチャームの成功を見た同業他社が、形を真似てアジア進出し、同じことをなぞっても決して成功しないでしょう。既に市場のルールはユニ・チャームにより決められているからです。

ベストプラクティスだけをなぞってもダメで、戦略思考に基づいた戦略立案と、その着実な実行が大切であることがこの論文からもよく分かります。

 

この論文の連載、楽しみです。

 

 

大学でも、広報戦略やコミュニケーション戦略が重要になってくる

日本経済新聞2012/12/27の記事「大学 日本、ブランド国際戦略に遅れ」で、世界の大学調査研究団体「ザ・ワールド100レピュテーション・ネットワーク」代表 ルイーズ・シンプソン氏が以下のようにインタビューに答えています。

—(以下、引用)—-

「日本は海外の大学に比べてブランド戦略などにかける予算や組織が小さい。…..一番進んでいるのは米国だ。大学の評判を管理運営する専門組織があり、その責任者は学内でも地位が高く、給料も高い。 …..学生は大学を選ぶ時、評判を重視している。…..優秀な教職員、投資資金を集めるためにも大学の評判を向上させることは欠かせず、世界の大学はしのぎを削っている」

–大学の評判とブランドはどう違うのか。

「評判とは学外の人々がその大学をどう思っているか。ブランドは大学が学外の人々にこう思って欲しいとする姿だ。評判とブランドが完全に一致するのが理想だが、多くの大学はそうなっていない。一致させるためには、誰に向けて、どのようなメッセージを発信するのか、戦略を立てることが非常に重要だ」

—(以上、引用)—-

大学の評判を管理するのが広報責任者(パブリック・リレーション)、ブランドを管理するのはマーケティング・コミュニケーション責任者というように考えてもいいかもしれません。

確かに広報・宣伝体勢が確立されている企業に比べて、日本の大学の仕組みはかなり立ち後れているように思います。

 

少子高齢化が進んで若い人達が少なくなっていくと、国内や海外から優秀な人材を引きつけることは大学にとって重要になってきています。

企業で広報やマーケティングコミュニケーションの実践を積んだ人材が大学で活躍するようになると、大学のイメージもだいぶ変わってくるのではないでしょうか。

 

 

日本の問題は「行動力格差」にある、という指摘

ハーバードビジネスレビュー2012/12号の特集は「強い営業」でした。この特集で二人のインタビュー記事がとても素晴らしいと思いました。

一人目は、LIXILグループCEO藤森義明さんの『本物の営業力はリーダーシップに通じる』。

—(以下、p.41から引用)—

優秀なリーダーは、自分の行きたいところはどこにあるかという『ビジョン』を明確に持っています。さらにそのビジョンを表現するために必要な『コミュニケーション力』を備えています。そしてビジョンをビジョンのまま終わらせず、現実の企業活動の中で確実に『実行する力』を発揮し、最終的に成果を出す人がリーダーです。

—(以上、引用)

藤森さんはこのように、リーダーに求められるのは明確なビジョン・コミュニケーション力・実行力の三つであると述べた上で、さらにインタビューで、これらの3つは営業に求められるものにも通じるとおっしゃっています。

 

もう一人は、ローランド・ベルガー会長で早稲田大学ビジネススクール教授の遠藤功さんの『動かない営業はいらない』。

—(以下、p.64から引用)—-

『韓国に負けている』『サムソンに負けている』といった声がよく聞かれます。実のところ何で負けているのでしょうか?技術力なのか、戦略なのか、リーダーシップなのかーー。

議論はいろいろあるでしょうが、つまるところ行動力で負けている。つまり国や企業を問わず、『行動格差』が拡大している。日本が沈んでいる真の理由はそこにあるのではないでしょうか?

今や行動力こそが競争力の源泉であり、『行動格差の時代』に入ったということです。

—(以上、引用)—

 

戦略は実行しない限り何の価値も生み出しません。

日本の問題は、少子高齢化、デフレなどの問題ではなく、『リーダーシップの貧困』と『行動格差』にある、というご意見には全く同感です。

 

現在執筆中の次回作は、この「行動力」「実行力」についてイノベーションの視点で深掘りしたものになります。

初稿はほぼ完成、これから詳細を詰める段階に入ります。皆様のご参考になるものに仕上げていきたいと願っております。

 

 

ユーザー調査は意味がない。だから一度、あらゆる制限を取り外して徹底的にユーザー目線で考える

アーリーアダプターが知らない間に、アーリーマジョリティに広がっていたというLINEはとても面白いサービスですね。

ということで、ここ数日間はLINEについて色々と調べています。

その一環で、コグレ マサト/まつもと あつし著「 LINE なぜ若者たちは無料通話&メールに飛びついたのか?」を読んでいましたら、夏野剛さんのインタビューで次のような話が出ていました。

—(以下、p.224から引用)—-

–日本のプレイヤーが、LINEの成功にならうための秘訣はあるのでしょうか?

 日本に限らず、徹底的にユーザー目線で、業界の都合やキャリアのご機嫌とか、メーカーの制約とか、そういうことは置いておいて、徹底的にユーザーにとってベストなものを出す、ということに尽きると思うんです。

(中略)

 ユーザー調査は意味がないです。今のユーザーに今の調査をしても、来年に出る製品、まだ見ていないサービスの評価はできないですよ。だから個人の信念とか、徹底的に自分たちが想定したユーザーというものが、ユーザーはこう思うじゃないかという仮説を設定して、それを徹底的に追求したサービスを出してそれを検証していく、そういう作業になりますね。

 スマートフォンに限らず、みんな無料通話が欲しかったんですよ。これは決定的じゃないですか?いちいち違う番号とかでかけたくないんです。違うIDを入れるとか。アドレス帳でいけちゃうんですよ。これはいいよね。

—(以上、引用)—

確かにLINEは、立ち上げ当初にはユーザー調査はあまりしていなかったようです。一方でユーザーが欲しいものは何か、どうすれば使いやすいのか、徹底的に考えています。その結果、今や世界中で8000万ユーザーを擁する日本発のサービスに育ちました。→リンク

「顧客中心で考える」ことが大事とは常々思っていることですが、半年や1年先が見えない現代だからこそ、調査に頼らずに、徹底的にユーザー目線で考えることが大事。

 

改めてよく分かる話だったので、ご紹介させていただきました。

 

 

もし自分たちが更迭されて、新しい責任者が今の方法を刷新するのならば、なぜ自分たちは今それをやらないのか?

ある事業が厳しい状況に陥っている。市場も伸びる兆しがなく、自社の強みも発揮できない。

そんな状況に陥った場合、どうすればよいのでしょうか?

実はあのインテルも1980年代前半に同じ状況を経験しています。

 

リチャード・P・イメルト著「良い戦略、悪い戦略」(日本経済新聞出版社)で、1984年頃のインテルの様子が描かれています。当時のインテルはDRAMが主力製品でしたが、日本企業との価格競争に耐えられないことがはっきりしていました。赤字を垂れ流す一方で経営陣はどうすべきか決断できず、果てしない議論を続けていました。

本書ではインテルのCEOだったグローヴが、1985年のことを回想した様子が書かれています。

—(以下、p.90から引用)—

その年のある日、グローヴはインテルの会長であるゴードン・ムーアに憂鬱な質問を発したのだ。『もしわれわれが更迭され、取締役会が新しいCEOを連れてきたとしたら、その男はまず何をすると思いますか』。ムーアは即答した。『メモリー事業から撤退するだろう』。グローブはしばしこの言葉を噛みしめ、それからおもむろに言った。『ではなぜわれわれが、クビになったつもりになって、それをやらないんです?』

—(以下、引用)—

その後、インテルはDRAMから撤退し、CPUに経営資源を集中して大成功を収めたことは皆様ご存じの通りです。

仮に困難な道であっても、現在の方法に問題があるならば、修正を図る。

常にそのことが求められているのでしょうね。

 

 

セブンイレブンはなぜ自動発注をしないのか?…田中陽著「セブン・イレブン 終わりなき革新」

一昨日の続きです。

田中陽著「セブン・イレブン 終わりなき革新」では、意外なことが書かれています。

セブン・イレブンは自動発注をしないのです。

その理由について、下記のように書かれています。

—(以下、p.199から引用)—-

コンピュータが自動的に発注数量を決めるのではなく、従業員自ら考え、売りたい数量を決めるのである。高度な情報システムで知られるセブン・イレブンなら、自動的に発注数量を決める仕組みくらいできそうなものだが、発注業務の自動化は絶対にしない。

なぜなら、単品管理を徹底するには発注時に一品一品を丁寧に見て、発注数量を決めることが大切だと考えるからである。こうした重要な発注業務は、パートやアルバイトが分担して行っている。

—(以上、引用)—

なぜ重要な発注業務をパートやアルバイトが行っているかというと、品目が2500種類とスーパーに比べて格段に少ない一方で、24時間営業のため欠品を防ぐにはパートやアルバイトが発注業務をしない限り店舗運営が不可能になるからです。

ここで「単品管理を徹底」とあります。この「単品管理」は鈴木会長自ら繰り返し徹底しているものです。

分かっているようで意外に知られていないこの単品管理、本書ではそれを物語る逸話が紹介されています。

 

ある店舗が飲料のスペースを3割増やし、代わりに酒のスペースを3割減らして、変更前後の販売動向を比較、結果は両方とも売上数量が伸びました。結果を数字で示した訳ですが、鈴木会長は全くこの報告を評価しませんでした。

—(以下、p.171-173から引用)—-

「単品管理の思想がまったくわかっていない」と切って捨てた。…鈴木にとってはただの売り場スペース変更に過ぎなかった。

鈴木によれば、セブン・イレブンの業務のうち最も重要なのが店舗での発注作業だという。消費者の嗜好の変化が激しい現在の消費環境では、「何が売れるのか」「何が売れそうなのか」を勘に頼ることなく客観的なデータを基に商品の販売動向を把握し、発注数量を決めることが大事だと考えている。

…単品管理では「どの商品を、どれだけ発注して、どのように売り場に並べるか」という仮説を立てることが必要だ。

…売れたら「なぜ売れたのか」を、売れなかったら「なぜ売れなかったのか」を、POSデータを参考に検証し、そこで得た情報を次の発注業務に生かしていく。この作業を毎日のように繰り返していくことで、売り場は磨かれていく。

…先の飲料と酒の売り場での実験は、一品一品の本当の販売実績をなんら考慮せず、売り場のスペースを変えるだけの小手先のものであり、単品管理の思想からかけ離れていた。

—(以上、引用)—

まさに「商品単位で何が売れるかを、人間が自分の頭を使って毎日考え続ける」ことが単品管理の真髄ということです。しかもこれをアルバイトやパートの方々が実践しています。

しかしこの一見難しそうな仮説検証思考、アルバイトやパートの方々が出来るのでしょうか?

本書ではその仕組みも紹介しています。

—(以下、p.199から引用)—-

発注は単純作業ではない。しかし、ストア・コンピュータやGOTを操作すれば、誰でも同じ情報を共有できる。情報を活用し販売予測の仮説を立てることで考える楽しさを知り、実際に仮説通りに商品が売れたときに検証することで、喜びを得ることがミソなのである。

….(店舗従業員は)コアな従業員を除きアルバイト学生などはほぼ一年で入れ替わるという。採用の度にいちいちマニュアルを読んで仕事をしてもらうのは事実上不可能である。そのため、POSレジ作業も含め一日あれば一人前の業務が出来るようなシステムが築かれている。

….素人が使えるシステム。それがセブン・イレブンの情報システム設計の思想に色濃く表れている。

—(以上、引用)—

本書を読むと、「お客様が何を求めているのか」を商品単位で考え続ける仕組みやプロセスを、セブン・イレブンは愚直に進化させていることが、改めてよく分かります。

まさに、全てはお客様の満足のためにあるのですね。

 

田中陽著「セブン・イレブン 終わりなき革新」は、真の顧客中心主義とは何かを教えてくれる

アマゾンはホームページで「世界で最も顧客重視のストアであることを目指します」と宣言し、この目標を目指して日々実践しています。

 

しかし実は、私たちのすぐ身近にも、まさにそういう日本企業があります。

それは、セブン・イレブン。

 

セブン・イレブンについては様々な本が出版されています。私はそれら全てを読んでいませんが、この本はオススメできます。

田中陽著「セブン・イレブン 終わりなき革新」

 

田中さんは日本経済新聞の記者として、長年セブン・イレブンを担当なさってこられました。恐らくメディア関係者の中でも、最もセブン・イレブンのことをご存じの方なのではないでしょうか?

2006年には、本書の前身となる「セブン-イレブン 覇者の奥義」という本も出版されています。

私もブログで前著を紹介させていただきました。→こちら

 

新たに6年ぶりに書き下ろした本書「セブン・イレブン 終わりなき革新」では、前著同様、セブン・イレブンへの膨大な取材の蓄積を元に、最新事例を取り込んで書かれています。

 

たとえば、冒頭の「はじめに」で出てくるおにぎりの話。

セブン・イレブンの「塩むすび」をご存じの方も多いかと思います。具は何一つ入っておらず、塩味だけ。

実は塩水でご飯を炊いても、決して美味しくはなりません。

真水でご飯を炊き、ほぐして、おひつに移して、団扇で扇いでゆっくり温度を下げ、手のひらに塩をつけてふっくらと握ることで、初めて美味しい塩むすびができます。

これを大量生産で作るのはものすごく難しいのですが、セブン・イレブンは作り方を根本的に改め、かつ美味しさを数値化してコントロールし、塩むすびを作ってしまいました。

この文章を読んで私はセブン・イレブンで初めて塩むすびを買ってみましたが、ものすごく美味しく感じました。確かに看板商品になる訳ですね。他のおむすびも、他コンビニのおにぎりと比べると明らかに美味しいものでした。

 

この本では、そのような事例が沢山でてきます。

たとえば、24時間営業を開始した頃の話。

本書では、米国セブン・イレブン(サウスランド社)のデータで、深夜営業をすると日中の売上も上昇する結果を知りました。24時間営業だと消費者がいつでも開いていると安心感を抱き、ロイヤルティが高まるからです。

しかし仮説検証がDNAに染みこんでいるセブン・イレブンは、これを日本で検証しました。

—(以下、p.50より引用)—

…そこで幹部は、必ずしも肥沃な消費地ではない地方の、しかも夜になると夏でも肌寒くなるような場所で実験を行うことにした。….条件が悪いところで仮説が検証され、売上が伸びれば、どこでも24時間営業が成り立つと考えたからだ。

…..結果は大成功。平均日販は16時間営業(午前7時から午後11時)で約36万円だったが、24時間営業になると59万円近くまで、約63%も跳ね上がった。一日あたりの来店数も700人強から1200人近くまで、6割強増えた。

—(以上、引用)—

他にも東京下町や神奈川県郊外でも同じ結果が出たため、「日本でも24時間営業が成功する」と判断しました。

実は、16時間営業でも24時間営業でも、冷凍や冷蔵は必要なので、電気代は変わりませんでした。必要なのは8時間分の人件費だけ。

顧客の利便性は向上し、利益水準も高まって投資回収が早くなり、加盟店にとっても大きなメリットになりました。さらに客の少ない深夜に店内掃除や商品補充作業を行えば、日中の作業が軽減され、接客業務に集中できる利点もありました。

 

また、日清食品と一緒に開発した、特定のラーメン店の味を再現したカップ麺の事例も出てきます。その開発努力も素晴らしいものですが、私が「なるほど」と思ったのはその価格付けです。以下、引用します。

—(以下、p.100より引用 )—

もし、メーカーが独自にカップ麺の商品開発をしていたら、市場実勢価格である120-150円の範囲内で商品化しようとするはずである。…どうしてもコスト制約を受ける中での商品開発になってしまう。これに対し、セブン・イレブンとチームマーチャンダイジング(MD)を組んだラーメンの商品開発はまず、「味、おいしさ」を追求する品質の面からスタートしている。消費者は価格よりも「どうしても食べてみたい」と思う商品に価値を見いだしているはず、と考えたからだった。

…..取引先の力と「セブン・イレブン」の店舗から吸い上げられる購買データを生かしたチームMDは、消費者が本当に望む商品開発に取り組んでいるのである。

—(以上、引用)—

まさに事実データを元に、愚直に消費者が望む商品を考え抜いて提供していること、そして消費者ニーズを確実に捉えれば、必ずしも価格勝負でなくても成功することが、よく分かります。

 

本書では、このような事例が至るところに出てきます。

本書は流通業にかかわる方々にとってはまさにバイブルであり、流通業に関わっていない方にとっても「真の顧客主義とは何か」を教えてくれる本であると思います。

 

 

否定的な書評でも、時には本の売れ行きを高める、という話

ハーバード・ビジネス・レビュー2012.12号に、ペンシルバニア大学ウォートンスクールのジョナ・バーガー助教授が『「悪評も宣伝のうち」は本当か』("Bad Reviews Can Boost Sales. Here’s Why")という論文を寄稿されています。

バーガー助教授は2001年から2003年にかけてニューヨークタイムズ書評欄で取り上げられたハードカバー・ノンフィクション作品250点の書評を全文検索システムで分析しました。

そして書評掲載前4週間と掲載後4週間で販売パターンがどのように変わるかを比較しました。

結果は、…

・好意的な書評の場合、売れ行きは32-52%増加
・著名な作家の作品に対する否定的な書評は、平均15%売れ行きを低下
・しかし比較的無名な作家の作品に対する否定的な書評は、逆に平均45%売れ行きを向上

この結果を、バーガー助教授は以下のように分析しています。

—(以下、引用)—-

我々の分析によれば、書評に取り上げられなければ多くの人がその存在すら知らなかった本が、たとえ最悪の書評であっても、そこで取り上げられたことで多くの人々が知るところとなり、それが売上増加につながったのだ。

…..無名の作家の場合、否定的な書評は当初はマイナスの影響を与えるものの、その負の影響は短期間で消滅するのだ。これは評価の低い無名の製品を提供する企業にとっては朗報である。否定的な評価の記憶が薄れた後でも、こうした製品が長く人々の意識に残っていることを示唆しているからだ。

—(以上、引用)—-

 

本論文は、マスメディアでの悪評が製品にどのような影響を与えるかということを考察することを目的として、今のようにソーシャルメディアが普及していなかった2001-2003年に、マスメディアに取り上げられた書評について調べた調査です。

確かに、当時のマスメディアの力は今よりもずっと強力だったので、このような結果が出てもおかしくはありませんね。

 

今、同様の調査をしたらどうなるのか、またソーシャルメディアでの書評の影響はどのように考えるべきなのか、興味深いところではあります。

 

 

家電不況の教訓(2)–日本経済新聞「経済教室」の論文より

昨日のブログの続きです。

2012/11/30の日本経済新聞に、東北大学の柴田友厚教授が、「経済教室 家電不況の教訓(下) 産業の発展過程重視を」という論文を寄稿されています。

本論文は、「産業ライフサイクル」という視点で企業の競争力をとらえている点で、とても参考になりました。

本論文は冒頭で、シャープが亀山工場で垂直統合戦略を実現し2008年に最高益を上げたにも関わらず、現在苦境に陥っている状況を紹介して、「垂直統合戦略はもはや時代遅れという極端な議論も聞かれる」という出だしで始まります。

—(以下、引用)—

…人間は認知限界(Bounded rationality)を克服するため、すべての人工物を階層的形態として設計する。階層構造にすることで複雑性を管理できる。パソコンという最終製品はプロセッサー、メモリー、HDD、キーボード、ディスプレイなどの一次主要部品で構成され、さらにHDDはモーターや磁気ヘッドなどの二次主要部品で構成される。そしてモーターはローターなどの三次部品から成る。….

—(以上、引用)—

ここで指摘されているように、複雑なものを人間が認知できるいくつかのグループにまとめることで、理解しやすくなります。

例えば本の構成を、第一部・第二部・第三部と分けて、第一部を第一章・第二章・第三章、さらに第一章を第一節・第二節・第三節に分けると、分かりやすくなります。

だからこのように階層的にするのですね。

—(以下、引用)—

製品の複雑性を効果的に管理するため、階層分割の仕方や階層間の相互依存関係をルール化しようとする設計合理性の力が働く。しかし新産業の誕生時には、製品ヒエラルキーを事前に確定できない。……

そのため産業初期から成長期にかけては、部品間の緊密な調整、すなわち擦り合わせ作業に頼らざるを得ない。….擦り合わせ作業を重視する場合、柔軟で緊密な調整が可能となる垂直統合的な部品供給網が有効だ。…..

その後、産業の発展が進むにつれて製品ヒエラルキーに関する知識が産業全体で蓄積、共有される。….この段階では、柔軟な組み合わせを可能とする水平分散的な供給網の合理性が高くなる。液晶テレビの組み立てを台湾の鴻海精密工業に委託する分業関係が典型的だ。

—(以上、引用)—

この視点は重要です。産業初期では製品のヒエラルキーが明確でないため擦り合わせが必要ということですね。

—(以下、引用)—

このように産業発展過程に従って擦り合せ型から組み立て型へ、統合型から分散型へ、暗黙知重視から形式知重視へと経営合理性は移行する。

—(以上、引用)—

このことは家電を思い出すと分かりやすいでしょう。

例えばDVD登場時は一台10万円程しましたが、これは高度な擦り合わせ製品で完成品では日本はダントツシェアでした。その後、各部品がパーツになり組み合わせ製品になって日本は完成品のシェアを急速に落とし、新興国に譲りました。

—(以下、引用)—

産業の初期から成長期には擦り合わせの必要性が残るために、垂直統合的な仕組みの合理性が高い。しかし産業の成熟化に伴いルール化が進むことで、次第にその合理性が薄れていく。そうなると企業は、より合理性が高い分散型へ戦略を転換する必要性に迫られる。しかし。ただ環境変化に対応するだけでは十分ではなく、新しい技術と製品を生み出そうとすれば、再び統合型の必要性は高まる。

—(以上、引用)—

このライフサイクルの視点を持った上で、垂直統合型の強みが生きる新しい製品を常に生み出していくことが、日本にとって必要ということですね。ただしそれは顧客の真の課題を解決するものであることも必要です。

—(以下、引用)—

成功体験がもたらす組織の慣性から逃れるには、合理的な仕組みと戦略はライフサイクルに応じて変化するという動態的な戦略観を意識的に持つ必要がある。変化のスピードが激しいほど、目先の現象への過剰反応ではなく、根底にある大きな産業潮流をつかむことが必要である。

—(以上、引用)—

とても参考になる論文でした。

藤本隆宏著「ものづくり経営学―製造業を超える生産思想」と併せて読むと、理解が進むかと思います。

 

 

家電不況の教訓–日本経済新聞「経済教室」の論文より

2012/11/29の日本経済新聞に、早稲田大学の長内厚准教授が、「経済教室 家電不況の教訓(上) 海外主戦場から逃げるな」という論文を寄稿なさっています。

大変示唆に富む論文でしたので、一部を引用させていただきます。

—(以下、引用)—

1999年と2012年のブランド別のテレビ世界シェアを見てみよう。韓国は著しく成長したが、日本もシェアを激減させたわけではない。市場規模は2倍に拡大し、各社のテレビ出荷台数も99年当時よりも増えている。韓国が海外で成長する傍らで、日本は国内需要中心のビジネスから抜け出せなかったのだ。

—(以上、引用)—

記事にある各社の1999年から2012年のシェア変化は下記の通りです。

■日本勢■
ソニー:9.9%(1位) → 9.4% (3位)
シャープ:4.5%(6位)→6.5%(4位)
パナソニック:7.3%(3位)→5.3%(5位)

上記3社合計: 21.7%→21.2%

確かに、実は日本勢の世界シェアはほとんど変わっていません。それに対して韓国の成長はすごいものがあります。

■韓国勢■
サムスン電子:3.6%(8位)→25.9%(1位)
LG電子:2.9%(9位)→14.9%(2位)

上記2社合計: 6.5%→40.8%

2社の世界シェアは6倍以上になっています。これはグローバル市場に進出した結果です。

やはりイメージではなく、数字で考える事は重要ですね。

 

では両者の戦いは、世界ではどのようになっているのでしょうか?

—(以下、引用)—

筆者が米国における液晶テレビの主要製品価格(10月時点)を調べたところ、日本ブランドは韓国ブランドとほぼ同等かむしろ安かった。…日本だから安く作れないという決めつけは、取りうる戦略の幅を狭めてしまうだけだ。韓国のサムスン電子やLG電子はインドやブラジルなどの新興国向け低価格製品の開発に力を入れている。それらを「低価格」と見るのは先進国の発想であり、新興国市場では「ちょっと手を伸ばせば届く高級品」である。

…..

日本企業の行動も過度な価格競争を招く一因になっている。….高解像度パネルなど新技術が製品化されると、日本市場には最新パネルを搭載した製品を投入するが、海外市場では既存製品で価格勝負をする。韓国・台湾メーカーの関係者は「むしろ日本企業がプライスリーダーになっている」と指摘する。

—(以上、引用)—

実はシェアが低い日本企業が価格勝負をしている状況です。

コストリーダーシップを持っているシェアトップ企業に、高コストのシェア下位企業が価格勝負を挑むことは望ましくありません。

ではどうするべきなのでしょうか?長内厚准教授は次のように語っておられます。

—(以下、引用)—

まず、普及価格帯の製品開発から逃げないことである。….新興国市場での競争を考えれば、低価格ラインの製品戦略は避けて通れない。機能・性能を積み上げていく高付加価値戦略だけではなく、機能・価格を絞りながら、製品全体のまとまりをいかに維持するかという製品戦略を学ぶ必要がある。

—(以上、引用)—

大変僭越ながら、これは私がITmedia Marketingの連載記事『「多機能/高品質なのに低収益」――間違いだらけの顧客中心主義から抜け出す』で書いたこととまさに同じ指摘ですね。

—(以下、引用)—

次に、台湾や中国の市場と協業することである。…日本の家電メーカーの特長は新しい技術で新しい製品をつくるという創造性にある。創造的な活動には試行錯誤に伴う無駄が発生する。一方のステップバック戦略の台湾、中国企業は新たなチャレンジはしないので、試行錯誤による無駄はなく、生産性の効率性を高めることが得意だ。両者の関係は、競合ではなく共生である。

—(以上、引用)—

高度な擦り合わせ文化と、組み合わせ文化の協調、と考えてもいいかもしれませんね。

ここでアップルの事例が出てきます。

—(以下、引用)—

米アップルがハードウェアの設計・生産を外部に委託していることは有名だが、誰も「技術流出の懸念」とはいわない。個々の要素技術だけはあっても他社に模倣されないような技術やノウハウ、製品をまとめあげていく力がアップルにあるからであり、それが統合力である。すべて内製化する垂直統合は統合の一つの方法にすぎない。分業をしながら統合力を高めることも不可能ではない。

—(以上、引用)—

この論文は続くようなので、次回も楽しみです。

 

 

「プロジェクトがなかなか進まない」とお嘆きの貴兄に…。ITmedia Marketing連載第五回「企画書は永遠のβ版? 間違いだらけの企画の進め方」が掲載されました

ITmedia Marketingの連載「『バリュープロポジション』から考えるマーケティング戦略論」の第五回「企画書は永遠のβ版? 間違いだらけの企画の進め方」を掲載いただきました。

 

実は私、エンジニアとして今の会社に新卒入社しました。

そして社会人2年目の終わりに、同じ部で企画課に空きが出まして、上司から「プランナーに興味あるか?」と聞かれました。

当時23歳の私は「プランナーってなんか格好良さそうだなぁ」と考えて、プランナーの何たるかも分からずに異動することになりました。

今から考えると業務経験がまだまだ少なかったわけでちょっと身の程知らずではありました。プランナーの仕事は本当に多岐に渡りますし、広い視野が求められますが泥臭い仕事です。

実は私、最初は企画の立て方が分からなかったのですよね。

最初はなかなか慣れず、少し慣れたら別の仕事に移ってまた慣れずに四苦八苦、….の繰り返しでした。

 

たださすがに30年近くやっていると、最近は企画の立て方には方法論があることが分かってきました。そして今まで経験しなかった全く別分野の仕事を担当するようになっても、学んだ企画の方法論を適用することで求められるレベル以上の成果を出せるようになってきました。

今回の記事では、その方法論について書かせていただきました。

 

もし「プロジェクトがなかなか進まない」とお嘆きの方がおられましたら、今回の記事は少しはお役に立てるかもしれません。よろしければご覧ください。

 

 

講演をITmedia Executiveの記事で紹介いただきました

2012/11/2に、ITmedia Executive勉強会で講演させていただいたのですが、その様子を記事として掲載いただきました。

なんと写真付きです。

Itme20111102

記事にもありますように、「100円のコーラを1000円で売る方法」に書いた内容をベースに、講演用に作り直した内容です。

今回はさらに「現状維持は破滅」というテーマで、新しいお話しもご紹介させていただきました。

 

金曜日の夜という一番お疲れの時間にも関わらず、講演には大企業の管理職の方々50名ほどが参加されました。ご参加された皆様、ありがとうございました。

 

 

新産業革命が始まる。個人が起こせる製造業

3Dプリンターをご存じの方もおられるかと思います。

一般的な普通のプリンター(2次元)は、文字や絵、写真といった平面のものをプリントします。

3Dプリンターはこれが3次元になります。樹脂などを吹き付け、それを幾重にも階層状に重ねることで立体の物体を出力します。ちょうど紙の切り抜きを重ねて、立体的なものを作り上げるイメージです。

2012/11/14の日本経済新聞に掲載された記事「真相深層 米国発、新たなデジタル革命――1人で起こせる製造業」では、ベストセラー「ロングテール」「フリー」の著者であるクリス・アンダーソンが、この3Dプリンターやレーザーカッターにより生み出される全く新しい製造業を描いています。

—(以下、引用)—

「インターネットにつながった3D(3次元)プリンターやレーザーカッターといった卓上サイズのデジタル工作機械を使って、これまで大企業にしかできなかった『ものづくり』が、一般の人々にもできるようになった。装置がなくても製造を請け負う工作スペースにネットで設計図を送れば、自分のデザインを形にしてくれる」

—(以下、引用)—

例えば私たちが、3次元デザインソフトでデザインしたものを、すぐに立体物に作ることができるということですね。

—(以上、引用)—

「2次元のデジタル革命では、それまで表現手段を持たなかった一般の人々がメディア企業や映画会社と同じように、自分たちが作ったコンテンツやソフトウエアを市場に届けられるようになった。それと同じ『民主化』が製造業でも起きる。眠っていた膨大な数のアイデアや情熱や創造性が流れ込み、新しい市場が生まれる。アマチュアが明日の市場をつくる。だから新産業革命なのだ」

—(以上、引用)—

以前当ブログでご紹介した山本恭輔さんは、10代の人達が自分の身体をCTスキャナーでスキャニングし、透明な身体の模型(1/4サイズ)を持つようにすることで、生きる意味を考えよう、というプレゼンをTEDxOsakaで行われていました。

このようなことは、以前は思いついても実現は難しかったと思います。しかし3Dプリンターなら可能です。

まさにアイデアや想いが、そのまま形に出来るのですね。

—(以下、引用)—

「彼らはネット上でコミュニティーをつくり、アイデアを共有する。みんながアイデアを出し合ってどんどん改良していく。ネットで公開したアイデアに賛同した人たちが開発費用を出資するクラウドファンディングという仕組みもある。こうした動きを『メイカームーブメント(製造業革命)』と呼んでいる」

—(以上、引用)—

記事によると、デジタル工作機械を共同利用できる工作スペースは世界に1000カ所あり、米オバマ政権は今後4年間で1000カ所の学校にデジタル工作機完備の工作室を設置する計画であることを紹介しています。

一方で、東京大学ものづくり経営研究センター センター長の藤本隆宏教授は、日本のものづくりの強みは「すり合わせ」と「作り込み」にあるとおっしゃっておられます。

「ものづくり」を追求してきた日本こそ、今後のこの流れをしっかり見極めていく必要があるかと思います。

 

 

ルンバが好調、米アイボットCEOのインタビュー

オルタナティブブログでもよく紹介される、お掃除ロボットルンバ。

国内家電市場ではロボット掃除機市場は2ケタの成長が続いていて、その中でもルンバは7-8割のシェアを持っています。

2012/11/11に掲載された日本経済新聞の記事「そこが知りたい 掃除ロボ、ルンバなぜ好調?——米アイロボットCEOアングル氏」で米アイボットCEOのコリン・アングル氏のインタビューが掲載されています。

ルンバがなぜ優れているかについて語っていますが、個人的に興味深かったのは次の部分です。

—(以下、引用)—-

——日本のロボット技術をどう思うか。

 「少しだけ意見させていただけるなら、ヒューマノイドの分野に日本は時間をかけすぎてきたのではないか。消費者が解決してほしいことは何かが置き去りにされてきた感じがある。ただ、イノベーション(技術革新)を生む日本の力はすばらしい。消費者が抱える問題の解決に力を注げば、すごいものが出てくる」

 「例えば一人暮らしの高齢者を支援するロボットはそのひとつだ。高齢化は日本では差し迫った問題であり、そうした分野でこそ日本のリーダーシップは発揮されていくだろう」

—(以上、引用)—-

インタビューを拝読し、消費者の言いなりになるのではなく、消費者が気がつかない課題を見つけ出して解決することが求められているのだ、と改めて感じました。

顧客の言いなりにならず、顧客の課題を見つける。

考えてみれば、昔のトランジスターラジオ、ウォークマン、今ではiPod、iPhone、みなそのように生まれたものだと思います。

その答えは、やはり顧客にあるのだと思います。

 

 

『「バリュープロポジション」から考えるマーケティング戦略論』の連載第四回目『新製品は売れない。ではどうするか? 』が公開されました

ITメディア・マーケティングに連載中の『「バリュープロポジション」から考えるマーケティング戦略論』の連載第四回目『新製品は売れない。ではどうするか?』が掲載されました。

いやぁ、しかし新製品を売るのって本当に大変です。

最近は製品サイクルも短くなっているので尚更です。

最近は「イノベータ理論」や「キャズム理論」はかなり知られるようになりました。それをハラ落ちしやすいようにかなりシンプルにご紹介してみました。

例えば、キャズム越えをするにはどうすればよいか、というと、実は考えてみれば当たり前のことが多いのです。その辺りのことを実際の経験を元にご紹介してみました。

ご参考になれば幸いです。

 

 

 

ベストプラクティス?それって猿真似かも?

2012/10/10の日本経済新聞の記事「経営塾 業績回復に挑む(5)総括」で、一橋大学の楠木建教授が2004年に日本マクドナルドのCEOに就任された原田泳幸さんの経営変革について書いておられます。

—-(以下、引用)—-

….ホットアップルパイなどの「100円マック」メニューを導入した。「デフレをとらえた大胆な戦略」「価格競争で利益を圧迫」など賛否両論を招いた。だがいずれも素人談議だった。100円という値づけは一要素にすぎない。背後には練り上げられた戦略ストーリーがあった。全体をみなければ原田氏の戦略の真価はみえない。

—-(以上、引用)—-

記事によると、以下のような戦略ストーリーがありました。

まず、不採算店舗の閉鎖を凍結
→QSC(品質・サービス・清潔さ)の基本に専念
→作りたてのメニューを提供できる新システムを全店展開
→その上で、100円メニュー導入
→直後は客単価低下するも、前経営陣の際の離反顧客を呼び戻し、新規顧客も定着
→固定客化
→新商品(クォーターパウンダーやプレミアムローストコーヒー等)を提案
→最後は主力商品のビックマックに誘導、確実に儲ける
→体力が付いたら特別損失計上で不採算店舗を一気に閉鎖
→負の遺産を一掃

このような全体ストーリーが見えると、個別に「100円メニューの是非」を議論してもあまり意味がないことはよく分かります。

楠木教授は以下のように続けておられます。

—-(以下、引用)—-

 個別のアクションの正否は戦略のストーリー全体の中でしか判断できない。ストーリーの戦略思考からすれば、そもそも「ベストプラクティス」(最良の実践例)などというものはあり得ない。

—-(以上、引用)—-

楠木教授が述べておられるように、「全体を流れるストーリー/シナリオがあって、はじめて個々のアクションの意味がある」というのは全く同感です。

 

私も、過去のいくつかの成果が出た仕事について、色々な方々からその要因を尋ねられることがあります。

その場合私は、「こんな課題があって、周りはこんな状況で、解決シナリオをこのように考えて、そのシナリオを実現するための各アクションをこのように作って繋げていった」というお話しをします。

しかし、「全体の話はいい。私が聞きたいのはそのアクションのxxxxx。ウチも同じことをやりたい。どのようにそのアクションをやったのか、そしてどのように成果に繋げたのか、具体的に教えて欲しい」と聞かれることがよくあります。

でも各アクションは、全体のシナリオがあってはじめて相乗効果を生み出します。各アクションを個別に実施しても効果は出ないのですよね。

逆に何らかの自分のシナリオを持ち、そのシナリオを実現するためのアクションを作り込む際に、他の人が成果を上げたアクションを参考にする、というのはアリだと思います。逆にゼロから作るよりもずっと確実で、品質も高く、展開も早いことが多いかもしれません。

ですので、「ストーリーが大前提」という楠木教授のご意見は全く同感です。

 

シナリオを持たずに個々のアクションを考えても、それはベストプラクティスではなく、言い方は悪いですが、単なる猿真似に陥る危険性があります。

さらに言うと、ちょうど一人一人の人生が全て異なるように、ストーリーは状況によって千差万別です。

このように考えると「ベストプラクティス」から学ぶべきことは、その状況でどのようにシナリオを考えて作り込んだかであり、シナリオや各アクションそのものはそのまま展開できるものではないのかもしれません。

 

 

中小企業こそ、マーケティング理論を知っておいて損はない理由

色々な方々にマーケティングのお話をさせていただく機会をいただきます。

そうすると時々こんなお答えをいただくことがあります。

「大企業の場合は、しっかりマーケティング戦略を立てて、それを実行できるかもしれません。でもそれは余裕があるからでしょう。うちは零細企業だし、マーケティングを学ぶ余裕も、戦略を考えている余裕もありません」

確かに限られた人員で日々仕事をこなしている中小零細企業は、マーケティングを学んで戦略を立てる余裕はなかなかないかもしれません。

しかし一方で、経営資源が限られているからこそ効率性も求められますし、失敗も最小限に抑えることが必要だと思うのですよね。

ですので大企業に限らず、中小企業こそマーケティング理論を知っておいて損はないと思います。

 

ただ、要は現場で実際に役立つ理論のエッセンスだけを知っていればよい訳で、必ずしもマーケティング学者が書いた大著を読む必要はありません。

極端な話、役立つ部分さえ理解していれば、理論の名前を覚えている必要はないのです。

私が「100円のコーラを1000円で売る」シリーズで色々なマーケティングの本のエッセンスを2時間程度で読める物語形式で書いたのも、そんなニーズにお応えできればと考えたのがきっかけです。

 

 

「100円のコーラを1000円で売る方法2」の解説YouTube

今年2月11日に、内田晋平さんが作成して下さった『「100円のコーラを1000円で売る方法」の解説YouTube』を当ブログで紹介させていただきました。→リンク

内田さんはこの本の解説YouTubeを作ったのはこれが初めてだったそうですが、その後も続けて色々な本の解説YouTubeを公開されてきました。

そして昨日の9月27日に、なんと100回目の解説YouTubeで、「100円のコーラを1000円で売る方法2」を取り上げていただきました。

10分間の動画ですが、聞きやすく滑舌のよい声で、内容もよくまとまっていますので、是非ご覧いただくことをお勧めします。

 

それにしても7ヶ月半で100冊も読破し、さらにこのようにまとめ上げてYouTubeにアップするのは凄いことです。その継続力と集中力には、ひたすら頭が下がります。

 

内田さん、ありがとうございます!

 

 

『「バリュープロポジション」から考えるマーケティング戦略論』の連載第三回目『「価格競争」から「価値競争」へ』が公開されました

ITメディア・マーケティングに連載中の『「バリュープロポジション」から考えるマーケティング戦略論』の連載第三回目『「価格競争」から「価値競争」へ』が掲載されました。

 

「バリュープロポジションをしっかり考えましょう」

と言うと、

「そんなのは難しくって考えられないし、無理」

とか、

「他社が提供できない私達だけのお客様に対する価値なんて作るのは大変。理想論だ」

という答えが返ってくることも多いのです。

このようなご意見はよく理解できます。そもそもちょっとの努力で「バリュープロポジション」が作れるのであれば誰も苦労はしません。すごく大変です。

 

しかしバリュープロポジションを決められなければ、その先に待っているのは際限のない価格競争です。

この価格競争って本当に怖いのですよね。

でも、何で怖いのかが今ひとつ実感できていないかもしれません。そしてそれは、その「怖さ」が、自分達が見えないところで発生しているからかもしれません。

 

価格競争が怖い理由は3つあると私は考えています。

そしてその3つの理由が、今の日本企業が苦しんでいる元凶なのではないか、と思います。

今回の連載ではそのことを書かせていただきました。ご参考になれば幸いです。

 

 

必ず劣化する「儲かる仕組み」 その先にあるのは?

15年ほど前に、ある社外勉強会で、あるベンチャー経営者のお話を伺ったことがあります。

そのベンチャー企業は、ある大手企業の子会社として設立され急成長。当時は各方面から注目されていました。

市場の顧客ニーズを巧みに汲み取り、大規模に資金投資をして新しい流通の仕組みを業界に先駆けて作り上げ、大きな売上と先行者利益を上げていました。

その講演でその経営者の方はこうおっしゃいました。

「儲かる仕組みは完璧なものを創り上げた。今後の売上もかなり確実に見通せる。あとは運営するだけ」

この勉強会の司会はメディア界でも著名であり高い見識をお持ちの方でした。この言葉で会を締め括られました。

「明確なビジョンと将来を見据えた洞察力。素晴らしいご講演ありがとうございました」

確かにこの仕組みは時代を先行する素晴らしいもので、この経営者の実力を感じさせるものでした。

 

しかしこの会社、数年後に倒産しました。

恐らく、当事者しか分からない様々な社内事情もあると思います。

ただその後急速に市場環境が変わり、当初想定していた流通の仕組みが、2000年にブロードバンド化が急速に進んだインターネットに置き換わってしまったことも大きな要因だと思います。

 

ここから私が学んだことは、「儲かる仕組み」は「賞味期限」があり、対応しないと必ず劣化してしまうということ。そして適切に対応しないと、最悪の場合、企業が倒産してしまうこともある、ということです。

今月上梓した「100円のコーラを1000円で売る方法2」でも書きましたように、「賞味期限が切れた成功体験」も同様に大きな問題です。そして「賞味期限が切れた成功体験」は、現代の日本では至る所に見られます。

 

一見当たり前に思っているものでも、もし行き詰まっていたら、一度「賞味期限が切れていないか?劣化していないか?」と想定し、新たな観点で見直してみると、次の成長の種が見つかるかもしれません。

 

 

デジカメ、フルサイズ市場の戦いの胎動

今のデジカメ市場は、写真ファンとしてマーケティング戦略の観点で見ると大変興味深い展開になっています。

特にここ数日は、フルサイズ市場の戦いの胎動を感じます。

■最高画質を究極小型化 世界最小の35ミリフルサイズ機「DSC-RX1」(2012/9/12)

ソニーのサイバーショットシリーズで、単焦点35ミリ/F2のカールツァイス・ゾナーT*レンズを搭載。482グラム(バッテリー、メモリカード含)で25万円。この機種を見たときは衝撃でした。

Dcsrx1

写真はソニー様サイトより

 

■デュアルAFシステム搭載 先進の35ミリフルサイズ「α99」(2012/9/12)

αシリーズのフラグシップ機です。最近のαシリーズは、当初のミノルタらしさを融合しつつソニーらしい形に進化していますね。スペック的には先進機能満載の感があります。

Alfa99

写真はソニー様サイトより

 

■ニコン、FXフォーマット最小最軽量の「D600」(2012/9/13)

ニコンのフルサイズ(FXフォーマット)機は、D4、D800/D800Eとありますが、その廉価版です。本体760グラム、価格は実売で22万円。

D600_01

写真はニコン様サイトより

 

■キヤノン、世界最小最軽量のフルサイズ機「EOS 6D」(2012/9/17)

フルサイズはEOS 1Ds/1DxとEOS 5Dがメインだったキヤノンが、軽量・廉価版を出しました。EOS 5D Mark IIIと比べると本体860グラムが680グラムと200グラムも軽量化、価格も10万円程度安くなる一方で、無線LAN対応などの新機能も追加しています。

Eos6d

写真はキヤノン様サイトより

 

2002年に発売されたフルサイズ機EOS 1Dsから10年。しばらくは先行するキヤノンにニコンやミノルタ/ソニーが最上位機で応える展開が続いてきました。

しかしコンパクトデジカメ市場がケータイカメラに浸食されつつある中、フルサイズカメラが主戦場になりつつある予感がします。

ファンにとっては、このような三つどもえの戦いは、より魅力的な製品が出てくるという点でありがたいことです。

消耗戦にならず、常に高付加価値を目指す戦いを継続いただきたいところです。

 

 

模倣商品が出てくるのは、いいことです

アサヒが、アサヒスーパードライを出した時、いわゆる「ドライ戦争」が起きました。
 
ビール会社各社が一斉にドライビールを開発し、販売を始めました。そして、ドライビールは市場に大いに認知されました。
 
その結果はどうなったかは皆さんご存じのとおりで、生き残ったドライビールはアサヒスーパードライだけ。
 
先行していたアサヒは、さらに磨きをかけてライバルを引き離しました。そしてアサヒはシェアを大きく伸ばしました。
 
新市場を開拓するようなインパクトがある新製品が成功すると、模倣するライバルが必ず現れます。しかし常に進化を図ることで、模倣商品が出てくるのを結果的にチャンスに変えることができるのですね。

人・モノ・金・情報と並んで重要な5番目の経営資源は?

よく「人・モノ・金」と言われます。

何かする時には、昔から必ずこの「人・モノ・金」といった経営資源が必要である、と言われてきました。

これに加えて「情報」を加えることも多いようです。正しい情報がないと、「人・モノ・金」を使っても望む結果が得られません。

 

これら「人・モノ・金・情報」に加えて、さらに現代では「時間」も重要なのではないかと思います。「時間」は「スピード」に言い換えても良いかもしれません。

野中郁次郎他著『戦略の本質』で、第二次世界大戦中の英国におけるレーダー開発の状況が紹介されています。

—-(以下、p.139から引用)—

レーダーの技術開発に従事した科学者の間では、完璧さを追求しないことがモットーとされた。すなわち、最良の完璧なものは、けっして実現できない。次善のものは、実現できるが、使うべきときまでは実現が間に合わない。したがって、三番目に良いものを採用して、できるだけ早くその実現を図るべきである。

—-(以上、引用)—

戦争の真っ最中の技術開発は、開発スピードが国の運命を左右する重大事。

そして環境変化が激しいという点では、現代はまさに戦争と同じ。現在のビジネスでもスピードは同様に重大事なのです。

このためには「あえて完璧を追求せず、実現することを最優先にする」という考え方も必要になるのでしょう。

 

 

「ダントツ経営―コマツが目指す『日本国籍グローバル企業』」…高付加価値で勝負するために

コマツの坂根政弘会長がお書きになった「ダントツ経営―コマツが目指す『日本国籍グローバル企業』」を読んでいます。

経営の現場で研ぎ澄まされた人にしかかけないメッセージの数々、まさに冒頭で書いておられる「知行合一」の世界、大変勉強になりました。

 

本書では、コマツの建設機械に標準装備されている「コムトラックス」について書いている部分があります。GPS、エンジンコントローラー、ポンプコントローラー等から集めた情報を、通信機能を使ってコマツのデータセンターに送る仕組みです。

これにより、納品後も建設機械がどこにあって何時間稼働しているか、燃料の残りがどの程度か、ということをお客さんや代理店と共有できます。

 

当初、このコムトラックスは15万円のオプション装備でした。しかし坂根会長が2001年に社長就任の際、「利益率が多少悪くなっても目をつぶるから、コマツの負担でコムトラックスを標準装備にしよう」と決断しました。

このシステムを使えば、建設機械の稼働状況等、これまで見えなかったものが「見える化」できます。「お客様のため」ではなく「われわれメーカーのため」と割り切ったとのことです。

 

実際に2004年の金融引き締めで中国市場が大きく落ち込んだとき、コムトラックスで中国全土の建設機械が動いていない異常事態を事前に把握して先んじて対策を打ち中国の工場を3ヶ月間ストップする決断をし、浅い傷で済んだこともあったそうです。今や全世界で20万台が稼働しており、それらの情報が全て見える化されています。

 

またユーザーにとっても大きなメリットがあります。建設機械のオーナーが携帯電話で自分が所有する車両の稼働状況や燃料残量がその場で見ることができます。例えば20台所有して10台がそういうことができれば、残り10台もコマツに切り換えよう、という話しになります。

 

まさに本書のタイトル「ダントツ経営」の通り、他社がやらないことをやり、高付加価値化で勝負する真髄が書かれています。

「『差別化』と言っても、どう差別化すればいいのかわからない」とお悩みの方は、ぜひご一読をお勧めします。

 

 

ITmediaマーケティング連載記事・第2回目『「多機能/高品質なのに低収益」――間違いだらけの顧客中心主義から抜け出す 』を掲載いただきました

ITmediaマーケティングに連載させていただいている『「バリュープロポジション」から考えるマーケティング戦略論』の第二回に記事が掲載されました。

「多機能/高品質なのに低収益」――間違いだらけの顧客中心主義から抜け出す

今回の記事は、色々なところでご紹介している「バリュープロポジション」について、最新の資料を元に再構成してまとめさせていただいたものです。

月1回の連載です。次回は9月下旬の予定です。

よろしくお願いいたします。

 

コアコンピタンスの罠:「自分達が得意なもの」にこだわり続けると、失敗し続ける理由

「コアコンピタンス」という言葉があります。

Wikipediaの「コアコンピタンス」の説明によると、『ある企業の活動分野において「競合他社を圧倒的に上まわるレベルの能力」「競合他社に真似できない核となる能力」の事を指す。』と書かれています。

 

一方で、コアコンピタンスを誤解して捉えているケースもあります。

例えば「あの人は100人のじゃんけん合戦で一人勝ち残った。だからあの人のコアコンピタンスは『じゃんけんが強い』こと」というケース。

通常じゃんけんの勝率は1/3です。(こんなケースもありますがこれは例外)

しかし100人でじゃんけん合戦をすると必ず勝者が1人生まれます。しかしその人が次の100人のじゃんけん合戦で勝者になる可能性は1/100です。

じゃんけんが強いのはあくまで「結果」だからです。

もしかしたら世の中で一般的に「あの会社のコアコンピタンスはコレだ」と言っている中には、このように「結果」を後付け解釈したケースもあるかもしれません。

 

他の視点もあります。クレイトン・クリステンセン著『イノベーションの解』でも、コアコンピタンスのことが書かれています。

—(以下、p.201より引用)—

コアコンピタンスは、多くの経営者が用いる方法においては、危険なまでに内向き志向の概念だ。

競争力は、単に得意だと自負する業務を行うことではなく、むしろ顧客が高く評価する業務を行うことから生まれる。そして、競争基盤が変化しても競争力を保ち続けるためには、過去に栄光をもたらしたものにしがみつく代わりに、新しい物事を学習する意欲と能力を持つことが、絶対的に必要なのである

—(以上、引用)—

『得意技』に磨きをかけることも重要です。

しかし環境が変わった場合、『私たちが得意だ』と考える点にこだわるのは必ずしも正しくない、というこの指摘はとても示唆的です。

『コアコンピテンシーに磨きをかけろ』とよく言われます。しかしそれが必ずしも正しいとは限りません。過去の栄光である得意な分野にこだわると、失敗を繰り返すことも多いのです。

停滞している中での成長のチャンスは、むしろ未知の分野、つまりお客様が抱えている課題の中でその課題に対する十分な解決策が提供されていない分野を見い出し、解決策を提供することで生まれるのではないでしょうか?

 

だからこそ、リスクを取ってチャレンジすることが必要なのではないか、と思います。

 

 

 

「シニアと呼ばれるのは違和感がある」

2012/8/16の日本経済新聞の特集「シニアが拓く(3)関連市場は成長期――心は青春、消費の型破る」で、以下のような記述がありました。

—(以下、引用)—

積極的に消費に励むシニアにシニアの自覚はない。クルーズ船「にっぽん丸」を運航する商船三井客船(東京・港)が07年に売り出した2泊3日の「アクティブシニアクルーズ」。還暦を迎える団塊の世代を狙った企画には誤算があった。「シニアと呼ばれるのは違和感がある」。利用客アンケートの指摘を受け、翌年からその看板を下ろした。

—(以下、引用)—

なるほどなぁ、と思いました。

 

マーケティングの世界では、「デモグラフィックス」という考え方があります。例えば年齢、地域、性別、職業、所得といった属性によって消費者を分類する方法です。

デモグラフィックスで顧客を分類すると、顧客データベースが整備されていれば比較的容易に対象顧客を絞り込むことができ、マーケティング施策に展開しやすい、という利点があります。

 

一方で最近は顧客のニーズが多様化してきてデモグラフィックスだけでは十分に分類できないようになってきました。そこでサイコグラフィックスという分類法が使われています。

サイコグラフィックスとは、ライフスタイル、行動、価値観といった心理的属性で消費者を分類する考え方です。

このように考えるとある程度の年齢の人たちをマーケティング上まとめて「シニア層」と考えるのは、デモグラフィックス的な考え方である、と言えます。「シニアと呼ばれるのは違和感がある」というシニア層には、この考え方でマーケティング施策を考えるのは大雑把すぎるかもしれません。

 

確かにシニア層には「孫のために買う」とか、「潤沢な時間がある」など、他の消費者層にはない特性があるのは事実です。だからより効果を上げるためには、もっとサイコグラフィックスの観点でシニア層を捉えていくことが必要なのだ、と記事を拝読して感じました。

 

 

消費者が「体験」を求めるグローバル時代に必要な、「サービス製造業」の考え方

ニューズウィーク日本版のサイトで、『復活の鍵はアマゾン型 「サービス製造業」』という記事が掲載されています。

この記事では、「サービス製造業」という新しい概念の事例として、AmazonとApple を紹介しています。(ありがたいことにIBMも紹介いただいています)

 

かつてのメーカーの仕事は工場から製品を出荷するところまで。優れた製品をデザインし製造すれば十分で、販売は小売業者任せでした。

今は製品そのものは最終目的ではなく、消費者に提供する体験のきっかけにすぎません。

つまりサービス製造業の時代には、メーカーが小売業やコンテンツの提供者を兼ねることになります。この記事では、「消費者に一貫した体験を提供しようとしているAppleやAmazonに、その答えがある」としています。

1ヶ月ほど前に「2年前買ったKindleに、改めてGlobalで闘う戦略を見る」というエントリーを書きましたが、「サービス製造業」の場合、製品とインフラは世界共通プラットホームとして提供されていることもポイントなのではないかと思います。

■メーカーが小売とコンテンツ提供を兼ね、消費者に一貫した体験を提供する

■そのために、グローバルで共通プラットホームを構築する

記事を読んで、この二つのポイントが、消費者が「体験」を求めるグローバル時代の製造業に求められるのではないか、と思いました。

 

 

「+100ccの余裕」を実現し成功したカローラから、我々は何を学ぶか?

2012/08/12の日本経済新聞の記事「経済史を歩く(13) トヨタ・カローラ発売、大衆車の時代開く」で、1996年1966年に発売され、1969年から2001年まで33年連続で「日本で最も売れた車」になり、現在も年間1000万台売れ続けているトヨタ・カローラの発売当初のことが書かれています。

—(以下、引用)—

エンジン排気量はサニーの約1000ccに対し、カローラは1100cc。この差をとらえて、トヨタが「プラス100ccの余裕」というキャンペーンを展開し、消費者の心をつかんだエピソードは有名だ。

(中略)

高度成長のただ中。豊かさを渇望した大衆はクルマに夢を求め、豪華さを求め、隣のクルマとは違う「何か」を求めた。時代の機微をよく知るトヨタは日産が開発中の小型車の排気量が1000ccという情報を得ると、開発中のカローラの排気量を急きょ100cc増やして、1100ccにすると決断。発売が8カ月後に迫る中での大胆な設計変更を長谷川が指揮した。

(中略)

エンジン拡張に関わる書類は表紙に赤い「Z」のゴム印が押され、あらゆる書類に優先して超特急で決裁する社内ルールができた。

—(以上、引用)—

 

顧客の「豊かさ」に対する渇望を巧みに読み取り、「+100ccの余裕」というメッセージを付けるために発売直前にも関わらずエンジン大型化を決断、全社で最優先事項で対応したのは、高度成長期の日本企業の強さを感じます。

具体的には、

・顧客のニーズ(豊かさへの渇望)を、巧みに読み取った点
・ニーズ対応のため、発売直前にも関わらず、大きなリスクを取る経営判断をした点
・組織の縦割を排し、全社で最優先事項として対応した点

海外の成功企業だけでなく、高度成長期の日本企業からも、我々は改めて多くのことを学べるのではないでしょうか?

 

■修正記録(2012/8/13 12:33): 「1996年」を「1966年」に修正

 

 

20代の中心の50名に、講演をさせていただきました

昨日の日曜日午後、「勝手にマーケティング大学」で講演をさせていただきました。

「朝カフェ次世代研究会」に参加されている横山さんがこの勉強会を主催なさっていて、講演のご依頼をいただいたものです。

募集開始後、1日で定員に達したそうです。凄い集客力ですね。

参加者は20代を中心とした若い方々約50名で、大学生もおられました。

今回は「100円のコーラを1000円で売る方法」に書かせていただいたことを中心に、次回作に書いていることも織り交ぜながら、下記内容を2時間かけてお話しさせていただきました。

①お客様は、神様か?
②怖〜い価格勝負
③一週間かける網羅思考から、30分の論点思考へ
④グローバルと日本

講演の様子です。

オープニングはこんな感じ。

Opening

 

Photo

途中、10分間のワークショップも入れました。参加者の皆さん、若いですね!

Photo_2

ワークショップの発表もしていただきました。3組に発表いただきましたが、皆さん冴えている内容でした。

Photo_3

今回参加された皆さんは問題意識が高い方々ばかりで、私も元気をいただきました。

 

これから大きな可能性を持っておられる若い方々がマーケティングのことを理解して仕事をしていくことで、きっと日本はいい方向に変わっていくと思います。

 

 

路上の営業活動に、迷惑営業電話。でもこれって、もしかしたら成果が上がるのだろうか?

昨日の夕方、会社のオフィスを出てしばらく歩いていたところ、見知らぬ若い男性から声をかけられました。

「こんにちは!失礼します!」

突然のことで私は「はい。何でしょう?」と答えながら、「道にでも迷ったのだろうか?それにしてはそんな素振りもないなぁ」と思っていました。

するとその若い男性は、首からさげたネームプレートを両手で抱えて前に出しながら、元気よく話し始めました。

「私、■■■■■株式会社の○○○○です!こうして皆様にっ、営業活動をさせていただいております!」

その会社名は、勤務時間中に不動産の営業活動でよく「今、御社の1Fにいるのですが、ご説明をさせて下さい」と電話をいただく会社の名前でした。

その若い営業の方は好青年でしたが、私は「すいません。営業活動はお断りしているので….」と、失礼させていただきました。

 

仕事中によく営業活動の電話をいただくのですが、いつも「すいません、勤務時間中ですし営業活動はお断りしておりますので、切らせていただきます」と断った上で、電話を切らせていただいています。

しかしこのように路上で営業活動を受けたのは初めてです。

 

このようなことを経験すると、ついマーケティング的な観点で考えてしまいます。

・このアプローチは顧客のニーズが把握できていない
・だから、ターゲット顧客も定義していない(定義は「日本IBM社員」だけ)
・だから、人海戦術のローラー作戦で、しらみつぶしに顧客にアタックする
・しかし、相手の都合も考えずに片っ端からアタックするので迷惑がられる
・その結果、企業のブランド価値もますます低下する(私自身、この「■■■■■株式会社」と聞いただけで、残念ですがちょっと嫌な感情が起こります)

ということで迷惑営業電話と同様、路上の営業活動も非常に非効率だと思うのです。

 

しかし、なぜこのような営業スタイルを続ける会社があるのでしょうか?

もしかしたら私が知らないだけで、このような営業活動は短期的に成果を上げられるものなのでしょうか?(顧客に嫌がられる、という点だけを考えても、長期的には成果は上がらない、と思うのですが)

どなたかご存じの方がおられましたら、教えていただければ幸いです。

 

 

連載記事『「バリュープロポジション」から考えるマーケティング戦略論』開始

ITmediaマーケティングで、連載記事『「バリュープロポジション」から考えるマーケティング戦略論』が始まりました。

このシリーズは顧客中心主義がテーマです。その第一回目は、『第1回 衰退する企業と躍進する企業、違いは「事業定義の仕方」にある』です。

事業の定義が全ての始まりです。この事業の定義が製品志向か市場志向かは、大きな分かれ目であると思います。

本記事では、そのことを書かせていただきました。

月1回の連載です。次回は8月下旬の予定です。

 

 

「顧客を絞ると市場が小さくなるから顧客を絞れない。」だから売れない、というジレンマ

顧客を絞るのはなかなか難しいことです。

課題を絞り込めば絞り込むほど、ターゲットとする市場規模は小さくなります。だから絞り込めない。

実際にマーケティング戦略を議論する際に、「もっと課題を絞り込んでみたら」と提案しても、「絞り込むとビジネス規模が小さくなってしまうので避けたい」と回答されることも多いのです。

 

絞り込むと市場が小さくなってしまう。一方で絞り込まない限り、他者との差別化が不明確になり、同質の競争になってしまいます。だから売れない。

ジレンマですね。

 

しかし課題や対象顧客を絞り込むことで、強みが際立ちますし差別化ポイントも明確になります。ですので、ここで考えを変えてみると面白いかもしれません。

絞り込めないので思ったように売れない、ということを繰り返し経験されている方は多いのではないかと思います。

たまには思い切って、課題や対象顧客をギューッと絞り込んでみると、すぐに成功することはないでしょうけれども、色々学びが得られるのではないでしょうか?

 

 

プリンターのトナー。どこのものを買うか?

プリンターのビジネスモデルは、基本的に髭剃りのビジネスモデルと同じです。

髭剃りの場合、髭剃り用剃刀の柄だけを安価で提供し、消耗品である替え刃で儲けます。ジレットモデルと言われています。

プリンターの場合も、プリンター本体は比較的安価に提供し、インクカートリッジやトナーカートリッジで費用を回収することで高収益を実現しています。

 

ところで私は普段、キヤノンMF4100というレーザープリンターを使っています。そしてトナーがなくなるとトナーを買います。純正トナーは定価8500円。実売5500円程度です。

しかし前回買い換えた際は互換トナーを買いました。1200円でした。実売価格の1/4です。普通にアマゾンで売っているものですが、評価コメントを見ると「全く普通に使える」とのことで買いました。実際に購入して使っていますが、本当に普通に使えています。(ただ、一部には「早く消耗する」「かすれる」という互換トナーもあるようです)

 

実際この辺りはメーカーと互換機メーカー間で、例えば、特許訴訟したり、保障対象外にしたり、あるいは技術的に保護策を講じたり、という形で色々な争っているようです。

 

プリンターメーカーからするとトナーで利益を回収することを前提に、本体を安く提供しています。トナーで利益が回収できないと、本体の価格を上げざるを得ません。しかし本体の値段を上げると競合他社とプリンター本体の価格比較をすると割高になります。

 

思い返せばMF4100の前のプリンターは10年前以上に買いました。純正トナーを2回ほど買い換えましたが、当時の純正トナーは6000円。

3回目に買い換える前にふと考えました。「最新型プリンターを買うとどうなるか?」

当時の最新型だったMF4100は1万円台でした。しかもプリント速度は2倍で両面印刷できて、スキャナーとコピー付き。しかも新品ですから当然トナーは充填されています。

トナーを買い換えるのを辞めて、新品のMF4100を買いました。

ビジネス使用と違って、個人使用の場合はそれほど印刷枚数は多くないのですよね。ですので、トナーを交換する回数もそれほど多くありません。そしてトナーを2-3回交換すると、性能が高い後継機種が安く販売されています。

しかも最近は互換トナーまであります。

 

個人用プリンターにジレットモデルを適用するのは、ビジネス継続性という観点でかなり悩ましい時期に来ているのではないか、と思いました。