高校2年生・300名にマーケティングの話しをしてきました。その結果は….

先日、千葉県立船橋芝山高校様で、約300名の高校2年生の皆様に「知っていると役立つ、マーケティングを学ぼう」と題して講演をさせていただいました。

 

私の普段の講演はビジネスパーソンが相手です。そこで参加者の皆さんの仕事に、よく耳にするであろうマーケティングの考え方を当てはめて紹介し、納得感が出るようなお話しにしています。

しかし今回は仕事の経験がない高校生。

初めて「マーケティング」という言葉を聞く人も多いのです。そこで皆さんがいつも経験していることがマーケティング視点だとどうなるか、というお話しをしました。

 

私自身、マーケティングを知ったのは30代後半。もっと若い頃にマーケティングの考え方を知っていたら、人生も変わったのかもしれない、といつも思っています。

しかも今回お話しを聞いていただくのは、10代後半の皆さん。この世代の人達がマーケティングのことを理解して社会人になると、現代の日本が抱えているジレンマはきっとなくなる筈です。

そこでマーケティングが色々なことに役立つことを知って興味を持っていただければと考え、講演をさせていただくことにしました。

 

講演は約40分。こんな構成でした。

・マーケティングと言うと、何をイメージしますか?

・なぜApple製品が売れるのでしょう?

・テレビのリモコンで考えてみる

・ドリルを買うお客様が欲しいのは….?

・お客様は,実は自分の課題を知らないことが多い

・皆がお客様の言いなりになると価格勝負になる

・価格勝負がとても怖い3つの理由

・改めて、マーケティングとは?

・あらゆる人達にとって大切なマーケティング

 

講演の様子はこんな感じでした。体育館でお話しするのは初体験でした。

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ビジネスパーソンを相手に話しをする際には、皆さんは仕事の一環として聞かれるためか、背筋を伸ばして話しを聞かれます。

一方で今回は、皆さんかなりリラックスした感じで話しを聞かれていました。

ですので講演の最中は、正直に申し上げて「ちゃんと伝わっているかなぁ」と思ったりしました。

一方で多くの人達の視線は真剣でした。メモを取っている人もいました。

 

さて、結果はどうだったでしょうか?

お話しを聞いていただいた生徒さん達の感想です。

■マーケティングがどのようなものか分かりました。価格重視もだめなんだと思いました。面接とか大学選びに活かしたいです

■安くして売ると赤字になってしまうけど、いつもの価格で売ると利益がある。でもいつもの価格で売って隣の店で半額になると売れなくなる。販売は難しいと思った。将来のために、沢山の人の意見を聞きたいです

■文化祭で来客者、自分では周りの人達、友人に気をつかっていこうと思いました。自分からやることを改めて思いました

■自分の希望している進路と同じなので、とても面白い話しでした。より一層進学に力を入れます

■マーケティングはお客様がいないと成り立たないことだと分かりました。面接とかでもしっかりと答えられるようにしたい

■マーケティング部に行きたいなと思っていたので、人が欲しいもの、人がやって欲しいことを考えてみようと思った

■お客の言うとおりではなく、お客が気がついていないニーズに気がつくことが出来る人間になりたい

■言われてやるだけではなく、それ以上のことをやろうと思う気持ちが大事。文化祭がんばりたい!

■「マーケティング」って言葉は知らなかったけど、「マーケティング」という言葉には興味があったので、今回の話しを聞いて理解出来たのはよかった。これからは「マーケティング」についてもっと勉強したい

■マーケティングについて、売る側と買う側の気持ちは違うし、働く人達はそういったことを大学などで学ぶんだと思った。こういった仕事は向き不向きがあるので、きちんと仕事のことを考えておく必要があると思った

■マーケティングは単なる広告の仕事ではないことを学んだ。もっといろんな仕事を知りたいです

■何の仕事をするにしても、その仕事には恐らく客がいるはず。だから客のことを考えて仕事をすることを忘れずにいたい

■お客様が言うことをそのまま商品化していたら全部同じことになってしまう、ということから、求められたのをそのままやるのではなく、自分なりに何か加えることが大切だと思った

■人の意見に従うだけではなく、自分で考え行動していくことが大切だと分かったので、進路選択も自分が本当にやりたいことを見つけていこうと思った

■お客様は神様、より、お客様はパートナーという考え方が大切。価格勝負ではなく価値勝負をするべきだと思いました

■相手の言葉をそのまま真に受けるだけではなく、なぜそういう言葉あるいは要望がでたのかという背後の様子も考えてみることが大切だということを学んだ

 

他にも同様のご意見が多数ありました。

すごいですね。社会人と同じというか、むしろそれ以上に高校2年生の問題意識はとても高いことが分かりました。自分の将来を考える真剣さは、明らかに私たちの世代よりも上だと思います。

 

「この若い人たちがいる限り、日本の将来は安泰」といいたいところですが、この様々なことを学ぼうとしている若い人たちに応えるのは、私たち大人の責任ですね。

 

 

体験は財産。しかし怖さもある

よく「マーケティングをどうやって学んだのですか?」と聞かれます。

私が本で書いているマーケティングの話しは、実際に仕事で学んだことをマーケティング理論を借りて整理したものです。感覚的に言うと仕事で学んだことが9割程度です。

座学よりも、経験を体験に落とし込んで実際に身を以て学んだことは、成功体験・失敗体験を含めて一生の財産になります。

しかし有効期限が切れた体験は、逆にビジネスの足かせになってしまうのがとても怖いことです。

だから、常に現場の仕事で学び続けることが大切なのですね。

 

 

人材流動性を高めることが、業界を活性化する

2012/6/25の日本経済新聞で、編集委員の西條郁夫さんが「経営の視点 日航再生の明と暗 格安航空、意外な勝者に」という記事で、日本航空の経営再建について書かれています。

—(以下、引用)—

….一方で再生の果実を得るのはだれか?

(中略)

もう一つ、見逃してはならない「意外な勝者」がいる。航空市場の人材流動性の低さに悩んできた新興の航空会社だ。….日航のリストラで100人以上の人材がスカイマークに移籍した。「ベテランの客室乗務員もいれば機長もいる。日航が人材を吐き出してくれたおかげで、当社の事業基盤が強くなった」とはスカイマークの幹部は言う。

長らく日航という城に囲い込まれてきた人材が解き放たれ、同社だけでなく他のLCCなどにも散らばった。それは航空市場の競争促進にも寄与するだろう。

米シリコンバレーが発展した一つの契機は、1990年初頭のIBMの大リストラだ。IBMを辞めた優秀な人材が西海岸の新興企業に大量に流れ込み、それがシリコンバレーを活性化した。

—(以上、引用)—

航空業界だけでなく、日本の労働市場全体は人材流動性が低いと言われてきました。

しかし、このように個人では大きな痛みが伴うリストラを契機にして、新しいイノベーションが起こるという面もあるのですね。

 

このような事例を見ると、人材流動性を高めて私たちが自由に仕事や勤務先を選べるようにする施策や社会インフラは、国の産業界全体を活性化する上でとても有効な方法なのだ、と改めて認識します。

 

 

第32回 朝カフェは、平野さんの「 No.1獲得の秘訣と罠」。実体験に基づいた「ベンチャーがNo.1になれない五つの罠」は圧巻 #asacafestudy

昨日開催した第32回朝カフェ次世代研究会は、インフォテリア社長/CEOの平野洋一郎さんによるご講演「 No.1獲得の秘訣と罠」でした。

 

実際にベンチャーの経営に邁進してこられた平野さんならではの圧倒的な説得力を持つご講演でした。

とくに「ベンチャーがNo.1になれない五つの罠」が圧巻。

 

■一つ目の罠は、「競合なし」ということ。

よく「競合はありません。オンリーワンです」とおっしゃる方がおられます。しかし実際には価値が高ければ競合が出てきます。あらゆるものは顧客・ユーザーが消費するお金や時間の取り合いです。ですので戦いを放棄しているので「競合がない」という状態になっている場合がある、と平野さんはおっしゃっていました。

確かに競合が激しいIT業界では、魅力的なセグメントにはあっという間に競合が参入します。一方で業務用ミラーの開発・販売をしているコミーのように、まさに戦いから逃れた結果、成熟した極めてニッチな市場で80%のシェアを獲得しているケースもあります。

成長市場では競合があるのが普通ですので、特にIT業界では平野さんがおっしゃる通りと思いました。

 

■二つ目は、「顧客の声」。

「 お客様は神様」と考えたり、顧客ニーズ・市場調査データを最重要視したり、「具体的案件はあるのか?」と聞くケースです。「顧客の声」に応えようとするのですね。

しかし何が問題なのでしょうか?

実は顧客が求めているのは、今欲しいものです。ですので顧客の声に基づいて今から開発しては遅すぎるのです。さらにニーズに応えるために多くの意見を取り入れた結果、妥協の産物になります。

スティーブ・ジョブスも「人は形にして見せてもらうまで何が欲しいか分からない」と言っています。

インフォテリアでは、開発の際に、最初のバージョンでは顧客の声を聞かずに自分たちの考えや製品コンセプトをキッチリ固めるそうです。その上で、2nd version以降は徹底的に顧客の声を聞くとのこと。

これは深く賛同しますね。

 

■三つ目の罠は、「会議」。

できるだけ多くの意見を取り入れ、全員賛成を目指す。詰めが甘いと次回持ち越し、というケースです。

これは時間がかかりますし、妥協の産物になります。さらにこのアプローチはベンチャーではなく大企業の会議室でも決められます。(大企業とベンチャーの行動原則は違うのですね)

インフォテリアでは「8割OKならGO!」を予め徹底しているそうです。 残り2割の説得するのに8割の時間がかかるからです。残り2割を説得するのを止めれば、5回できることになります。逆に全員賛成は疑ってかかるようにしています。

コンセンサスの罠ですね。

 

■四つ目は、「受託開発」 。

これは技術力の高さが裏目に出ます。「何でも出来ます」というアプローチが可能になり、売上と実績を求めて大型案件狙いになります。

しかし何が悪いのか?それは会社の方向性が失われるからです。

本来、プロダクト開発と受託開発は相容れません。

受託開発は「案件規模を大きく」することを狙います。利益は「売上ーコスト」で常に一定確保。しかし大きくは伸びません。

一方のプロダクト開発は「数多く売る」ことを狙います。売上が開発コストを回収すれば、その後の売上は基本的に利益です。スケールメリットを目指します。

「本来、ベンチャーが投資家と組む意味は『目の前のお金に窮しない』ためではないのか?」というのが平野さんの主張です。

スケーラビリティを捨てないこと。プロダクト開発では、人数を増やさないと売上が伸びないビジネスになってはいけないのです。

実際、伸びているグローバル・ソフトウェア・ベンダーは受託ゼロです。受託をしていたら国外に出て行けません。「強みにフォーカス、目の前のお金のために時間を捨てない」ということです。

 

■五つ目の罠は、「融資」。

十数年前、ハイパーネットは世界初のインターネットによる広告モデルを開発しましたが、「融資マネー」に頼っていたため、経営悪化した際に8億円の融資返済を求められ倒産。経営者の板倉さんは自己破産しました。(「社長失格」という本に詳しく書かれています)

一方、典型的なシリコンバレーのベンチャーは「投資マネー」に頼っています。資金に枯渇してもリスクマネーなので返済義務はなく、自己破産することもなく、新たに会社を作ってチャレンジできます。

もちろん投資は投資で、株式所得があったり、成果分配もあったりして、考慮点も多いのですが、両者の違いを理解することは重要です。

 

どのお話しも、深く賛同致しました。ご自身で、経営の現場で体験しているだけに、大きな説得力があります。

 

平野さん、ありがとうございました!

参加者がTwitterで講演の様子を中継して下さった様子をTogetterでまとめましたので、ご参照下さい。

次回7/18(水)の朝カフェは、e-Janネットワークス 営業部長の三井智博様さんより、「    IT業界における販社ビジネスモデル考~安くて完成度の高い製品は売れない?~」と題してお話しをいただく予定です。

IT業界のご経験が長い三井さんならではのお話しとても楽しみです。

 

 

価格勝負 vs. 価値勝負について、改めて考えてみた

マーケティング関連のプレゼンをさせていただく際に、最初に参加者に「最近の買い物を思い出して下さい。その商品を買った理由は何ですか?」とお聞きします。

実際にお聞きしてみると、価格で決める人は極めて少数派。

多くの方々は、少々高くてもあえて気に入ったモノにはお金を出します。

そのような商品は、その商品を買った人のニーズを巧みに捉えたモノが多いのです。

 

その観点で、2012/06/12の日本経済新聞の記事「危機の電子立国テレビなぜ負けた(1)「日本製が消えていく」(迫真)」を読むと、色々なことが見えてきます。

—(以下、引用)—

….そんなヨドバシAkibaのテレビ売り場で唯一、人だかりができているのがLGのコーナー。松井がLG製をここに置いた理由はもう一つある。「日本メーカーに、もっと頑張れと言いたいんだ。このままだとテレビ売り場から日本製が消えちゃうよ」

(中略)

 日本メーカーはどこで間違えたのか。ずっと売り場を見てきた松井と山田の分析は手厳しい。….

 「きれいに映す競争に熱中して、消費者を楽しませることを忘れていた。だからエコポイントであれだけ売れて品不足の時期にも、テレビの価格は下がり続けた」

 「3万円のテレビが売れないのに、節電機能付きの4万円の扇風機や2万円のスマホ用ヘッドホンが売れる。価値があると思えばお客さんはお金を出す。日本メーカーは大きな工場を建てるだけで、売り場の声も客の声も聞かなかった」

 「よく量販店が価格下落の犯人にされるが、それは違う。メーカーの本分である商品の企画設計がおろそかになり、売れない商品を作りすぎた。デジタル製品の特徴である水平分業の作り方ができなかったのも痛い」

—(以上、引用)—

「きれいに映す」ことはある程度まで行くと限界に突き当たります。

デジカメの画素数競争も同じですね。

一時期のデジカメは画素数=画質。そこで画素数競争をしていました。しかしここ数年間は画素数は増えていません。むしろ画素数が増えるとデータ量が増えてしまうデメリットが目立ちます。そこで操作性や高感度、軽さといったところで勝負しています。

記事は以下のように続けています。

—(以下、引用)—

 顧客や売り場の声に耳を傾けてこなかったつけは大きい。

…「米国では日本勢がテレビの低価格化を先導している」(長内)。ブランド力がないから、価格で勝負するしかない。

—(以上、引用)—

価値勝負を見誤ったつけで価格勝負に陥ることになります。

しかし価格勝負で勝つのは生産量が多い=世界シェアが最も高いメーカー。

「価格勝負から価値勝負へ」いかにシフトするかが、今求められていると思います。

色々と考えさせられた、日経の特集記事でした。

 

 

改めて「イノベーションのジレンマ」で、顧客中心主義の大切さを考える

クリステンセンが書いた「イノベーションのジレンマ」とは、リーダー企業が既存顧客の要求を満たすべく真摯に既存製品の持続的イノベーションに投資し続けることで、新興企業が新規市場を開拓しながら推進する破壊的イノベーションに対応できず、結果的にリーダーの座を追われる、というものです。

この「イノベーションのジレンマ」について、早稲田大学ビジネススクールの根来龍之先生が、2012/6/5の日本経済新聞で、「経営書を読む クリステンセン著『イノベーションのジレンマ』④処方箋の提示 顧客視点で理論構築」というコラムを書かれています。

改めて「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」の違いを理解する上で大変参考になりましたので、一部をご紹介させていただきます。

—(以下、引用)—

ここで注目すべきなのは、クリステンセンがそのときの大半の顧客のニーズに沿っているかどうかでイノベーションを分類したことです。これまでのイノベーションの多くの分類方法が技術の革新度合いを判断基準としていたのに対し、顧客の視点から見た点で独創的なものでした。

—(以上、引用)—

「イノベーションのジレンマ」は、見方によっては「現在の顧客の課題を満たそうと努力し続けることで失敗する」と捉え勝ちです。

しかし根来先生のご指摘をもとに改めて考えてみると、「既存の顧客を大切に考えること」が問題なのではなく、「破壊的イノベーションで新たに生まれた顧客のことを考えない」こと、そして「既存の顧客にとって、破壊的イノベーションが将来もたらす価値を十分に考えない」ことが問題なのだ、ということですね。

 

これは事業の定義を顧客中心で考えるか製品中心で考えるか、という話に相通じる話のようにも思います。

化粧品会社が自社を「化粧品製造業」と考えると新しい美容法は脅威ですが、自社を「顧客をより美しくする業務」と考えると新しい美容法は顧客に新しい価値を提供するチャンスです。

 

つくづく、顧客中心主義とは深いものだと痛感します。

 

 

今、「ものづくり」一辺倒から脱却した、「価値づくり」(ことづくり)が求められている

2012/05/31の日本経済新聞の記事『「価値づくり」で競争力強化、産業技術会議が中間報告、人材の開国など5提言』で、産業技術総合研究所主催の「日本を元気にする産業技術会議」の中間報告「“もの”、“こと”、“ひと”づくりで日本を元気にしよう!」が紹介されていました。

中間報告は5つの提言をしていますが、その中で一つ目をひいたのがありました。

—(以下、引用)—-

ものづくり一辺倒から脱し、新しい価値づくり(ことづくり)重視への転換を目指そう 日本企業はものづくりの強みに価値づくりを加えるビジネスを目指し、研究開発段階から問題意識を転換すべきだ。

—(以上、引用)—-

これはとても重要な提言だと思います。

 

もともとは、「ものづくり」の原点にあるのはお客様でありユーザーです。

ホンダ創業者・本田宗一郎さんが現場の第一線で開発を陣頭指揮されていた頃、安全性に問題ある設計をしたエンジニアを「お客様に万が一のことがあったらどうするんだ!」とスパナで頭をぶん殴った、というエピソードが数多く残されています。

ものづくりを大切にしていた本田宗一郎さんの視線の先には車に乗るユーザーがあり、ユーザーにとっての「価値づくり」を常に考えておられたことが、この逸話からも分かります。

 

しかし最近は、「ものづくり」という言葉で「ものをつくる人の思いが大切」と考えてしまう傾向もないとは言えません。

むしろそのような傾向が強まってしまっていることが、「失われた20年」を生み出しているのかもしれません。

 

記事を読んで、「ものづくり」一辺倒から脱して「価値づくり」(ことづくり)という原点に戻ることが、今こそ必要なのではないかと思います。

 

 

LCCは、価格競争を脱して新市場を創造できるか?

「国内LCC、値引き合戦勃発 価格競争際限なし」という記事を読みました。

成田-新千歳 4590円
成田-福岡 5590円
関西空港-福岡線 3590円

さらに

最低価格1円(1万席限定)

などというのもあります。

消費者にとっては安いことはありがたいことですが、問題は記事にもあるように、…

今のところ、国内LCCには安さ以外の武器はなく、このままでは際限のない価格競争に巻き込まれることは必至だ。

という点です。

—(以下、引用)—

8月から成田を拠点に就航する全日空系のエアアジア・ジャパンの岩片和行CEOは「安いだけではすぐにあきられる」と肝に銘じている。LCCが日本の空で大きく飛躍するためには、いかに付加価値を付けるかにかかっているが、各社ともその答えをまだ持っていない。

—(以上、引用)—

元々、LCCの先駆けであるサウスウェスト航空は1970年代の創業。同じLCCがいない中で新しい需要を取り込み続けて成長を続け、米国航空会社の中で屈指の高収益企業となりました。

一方で、同一市場の中で複数社が入り乱れて同じ「安い」という価値だけで競争している限り、安さだけが競争の指標になってしまいます。そうすると勝てるのは一番安い会社だけ。

岩片CEOの「安いだけではすぐにあきられる」という言葉が、まさにこのことをあらわしています。

 

LCCは、クレイトン・クリステンセンが「イノベーションのジレンマ」で描いたところの「破壊的技術」です。破壊的技術はこれまで使ったことがない顧客層を開拓して新市場を生みだし、その市場が技術進化とともに成長することで大きなビジネスになります。

これまで航空会社を使ってこなかった新しい顧客をいかに開拓するか、そしてそこにいかに自社ならではの価値を提供するかが、「価格競争の泥沼」から抜け出すために、今後求められているのかもしれません。

 

 

「イノベーションのジレンマ」…正しく行動するがゆえに失敗するのはなぜか?

日本経済新聞に「経営書を読む」というコーナーがあります。週に1回程度、大学の先生がマーケティング理論を分かりやすく解説しています。

本日2012/5/15の日本経済新聞では、早稲田大学ビジネススクールの根来龍之先生がクレイトン・クリステンセン著「イノベーションのジレンマ」を解説されていました。

短い原稿でしたが、とても分かりやすい解説でした。

—(以下、引用)—

クリステンセンは「偉大な企業は正しく行動するがゆえに、やがて市場リーダーシップを奪われてしまう」と主張します。

(中略)

ではリーダー企業はなぜ正しく行動するがゆえに失敗するのか。3つの観察が前提になっています。まう一般にイノベーションによる性能向上は、顧客の要求(ニーズ)の上昇よりもはるかに速いペースで進む。

次に従来の技術(持続的イノベーション)では実現できない収益力の向上や新機能をもたらす技術(破壊的イノベーション)が生まれる。

最後に破壊的イノベーションによる製品は、既存製品に比べてコストが安いが、最初は性能は劣っている。このため既存顧客のニーズを満たせず、最初は収益力も低いという観察です。

—(以上、引用)—

ポイントは破壊的技術の見極めと、破壊的技術に対する正しい対応です。この対応が難しいのですよね。既存ビジネスへの影響を考えると全面的に切り換えるのはなかなか難しいものです。

まさに「ジレンマ」とはよく名付けたものです。

1週間ほど前に「日本が停滞している原因は、デフレや少子高齢化だけではなく、イノベーションの不足ではないか?」というエントリーを書きましたが、あらためて記事を拝読して、日本全体がイノベーションのジレンマに陥ってしまっているのではないか、という思いを持ちました。

 

 

不正コピー業者は、最高のマーケティング担当者?

遅ればせながら、クリス・アンダーソン著「フリー~(無料)からお金を生み出す新戦略」を読んでいたら、次のような文章がありました。

—(以下、p.130から引用)—

潤沢な情報は無料になりたがる。
希少な情報は高価になりたがる。

—(以上、引用)—

例えば音楽市場で言えば、中国などではアルバムはほとんど海賊版として売られています。

しかしあるポップスターは不正コピーがもたらした名声のおかげで知名度が上がり、メディアやCMに出演し、コンサートツアーで莫大な稼ぎをあげています。

不正コピー業者は彼女にとって最高のマーケティング担当者だった、ということです。

まさにこれが、「潤沢な情報(=アルバム)は無料に、希少な情報(=コンサートツアー)は高価に」の例です。

言うまでもなく日本では海賊版は厳しく取り締まられますので、ビジネス形態は別の形になります。

しかし今後10年・20年を考えると、インターネットの世界に限らず、私たちの身の回りでも、様々な形でこの流れを考慮してビジネスを考えていく必要がありそうです。

 

 

企業組織文化が戦略上重要であることを示す、リソース・ベースト・ビューの考え方

マーケティングの世界で、ジェイ・B・バーニーが提唱している「リソース・ベースト・ビュー」という考え方があります。

これについてまとまって勉強する機会がなかなかなかったので、GW休み中にジェイ・B・バーニー著「企業戦略論」を読んだところ、明確に書いていました。

—-(以下、p.283から引用)—

リソース・ベースト・ビューが示唆するのは、企業にとって最も重要な問いは単に「その戦略がたやすく実行できるか」ではなく、「この戦略と同じ戦略を競合他社が実行する場合と比較して、自社がより実行しやすいか」である。

ある戦略を実行するために必要とされる、価値があり希少で模倣コストが大きい経営資源やケイパビリティをすでに保有している企業にとっては、それらをこれから手当てしなくてはならない企業と比較して、その実行はより容易(すなわち、よりコストが小さいはず)である。

—-(以上、引用)—

つまり、立てた戦略の実行しやすさの比較の問題である、ということですね。

本書では、ある工場の清掃員に自分の仕事上の責務について尋ねて、「僕の仕事は、この会社が世界最高の車を製造・販売するために、この工場をいつもピカピカにすることです」と答えたケースを挙げて、以下のように述べています。

—-(以下、p.282から引用)—

もしも、この工場の上から下まですべての従業員が、自分の仕事をこの清掃員のように定義したとしたらどうだろうか。組織全体として生み出される価値は、とてつもなく大きくなるに違いない。

—-(以上、引用)—

リソース・ベースト・ビューの考え方を学んで、なぜ企業組織文化、社員のモラル、価値観の共有といったことが、企業にとって戦略的にも非常に重要なのか、ということが理解できました。

 

 

日本が停滞している原因は、デフレや少子高齢化だけではなく、イノベーションの不足ではないか?

クレイトン・クリステンセンの最新著「イノベーションのDNA」 を読みました。

この本の冒頭に、クリステンセンから日本の読者へのメッセージが書かれています。

—(以下、引用)—

実際日本企業が、能力増強に余念のない低コスト競合企業につねに一歩先んずるには、もっと効果的にイノベーションを起こす方法を学ばなければならない。

—(以上、引用)—

確かにクリステンセンが1997年に出版したベストセラー「イノベーションのジレンマ」やその後の「イノベーションへの解」では、ソニーのトランジスターラジオや白黒テレビ、ホンダの北米オートバイ市場進出、キヤノンの卓上コピー等、多くの日本企業によるイノベーションが紹介されています。

しかし最新著「イノベーションのDNA」 では、ほとんど日本の事例がありません。

改めてクリステンセンの一連の著作を読み直してみて、現在日本が停滞しているのは、バブル崩壊やデフレ、少子高齢化だけでなく、イノベーションと呼べるような新商品やサービスが減っていることも大きな要因なのかもしれない、と感じました。

 

 

「『価格勝負でなく、価値勝負』なんて理想論に過ぎない。現実は価格勝負でやらざるを得ない」?

「100円のコーラを1000円で売る方法」のテーマは、本書のオビに書かれている一言に集約されています。

「価格を下げるな、『価値』を上げろ。」

 

現在、多くの企業がコストを削って価格勝負しています。

しかし価格勝負で勝って、かつ収益も出せるのは、業界の中でシェアが一番大きいリーダー企業1社だけ。リーダー企業は生産量が一番大きく経験値も高いため、コストリーダーシップを握っていて、一番安く作ることが出来るからです。

リーダー以外の企業は利益を削っているので、価格勝負しようとしても長続きしません。

ですからほとんどの企業は、価格勝負ではなく価値勝負に持ち込まなくてはいけません。

 

一方で「価格勝負でなく価値勝負なんて理想論に過ぎない。現実は価格勝負でやらざるを得ない」という意見が多いのも事実です。

しかし、一度自分が商品を買う時のことを考えてみると、別の視点が見えてくるかもしれません。

 

私たちが商品を買う場合、安い商品だけを買っているでしょうか?

 

確かに安い商品を選ぶことは多いと思います。しかし気に入れば、少々高くてもよろこんでお金を払うケースもある筈です。

ではなぜ、そうしているのでしょうか?

それはその商品が自分の価値観やニーズに合っていて、かつ他に代替品がないからです。そしてそのような商品は、顧客のことを徹底的に理解していたり、あるいは自ら市場を切り開いてその市場でダントツのシェアを握っています。

顧客の期待に応えるだけに終始し価格勝負から抜け出せないままになるか、顧客の言いなりにならず顧客の期待を超える価値を提供するか。

本書に書いた「バリュープロポジション」とは、それを説明する考え方です。

顧客が求めており、他社が提供できない、自社だけが提供できる価値のこと。

これを実現するためには、顧客を徹底的に絞り、顧客を徹底的に理解し、他社が提供していても自社が対象とする顧客が必要としないのであれば捨ててしまう潔さが必要になります。

 

捨ててしまうのは勇気が必要です。

「理想論」という多くの場合は、この捨ててしまうことができないのです。

自分のことを考えてみてもなかなか難しいことです。

しかし「割り切り」ではなく「ハラ決め」して進めたいですね。

 

 

『「超」入門 失敗の本質』…日本企業は、なぜ戦略が先になくても成功したのか?

1984年に出版された「失敗の本質」という名著があります。

1939年のノモンハン事件から1945年の沖縄戦まで、大東亜戦争における日本軍の失敗を組織的な問題の観点で分析したものです。

「失敗の本質」はロングセラーを続け現在累計52万部。

一方で、「失敗の本質」は大著で難解な面もありました。

そこで今月ダイヤモンド社から、『「超」入門 失敗の本質』という本が出ました。

昨日購入しましたが、とても分かりやすい本だという印象を受けました。

「失敗の本質」は日本軍の6つの戦いをつぶさに検証したものですが、『「超」入門 失敗の本質』はそれらに共通する課題をまとめて、共通課題を検証するという手法を採っています。

たしかにビジネスで役立てるためには、この方法はとても有効です。

ちょうど読み始めた段階ですが、「日本軍は戦略が曖昧であった」ことを紹介した章で、p.56でとても興味深い話しが出てきました。

1959年にホンダが米国に進出した際、当初は大型バイクで参入しようとしたところなかなかうまくいかず、駐在していたホンダの社員が休日に50ccの小型バイクスーパーカブを乗り回していたところ、行く先々で大人気で、米国に小型バイク市場の潜在需要があることに気づき、市場開拓をして大ヒットに繋げた話を紹介し、次のようにまとめています。

—(以下、引用)—

この事例から類推できることは、多くの日本企業が、ホンダと同様の体験的学習により、偶然新戦略を発見する技能に極めて優れていた、ということです。

日本軍ならびに日本企業が歴史上証明してきたことは、必ずしも戦略が先になくても勝利することができ、ビジネスにおいても成功することができるという驚くべき事実です。

(中略)

唯一の弱点は成功した定義が曖昧なため、売れた商品ばかり販売を続けてしまい、文字通り常に全面展開してしまうことです。

….意識せずに発見した「経験則による成功法則」では、適用すべき範囲を判断することが難しく、結果として過去の成功事例の教条主義に陥りやすいのです。

—(以上、引用)—

確かに、以前こちらで紹介しましたように、マイケル・ポーターは「日本企業には戦略がほとんどない」と語る一方で、ミンツバーグは「われわれは全く反対の意見を持っている。日本企業は戦略を学ぶどころか、ポーターに戦略のイロハを教えてあげるべきではないか?」と述べています。

このことを「失敗の本質」の観点から掘り下げているのは、私にとって新鮮な視点でした。

これから読み進めていきますので、適宜ご紹介したいと思います。

 


 

新市場を創造するLCC (格安航空会社)の挑戦

様々なLCCが就航を始める2012年は、日本のLCC(ローコストキャリア、格安航空会社)元年と言われています。

2012/4/15の日本経済新聞の記事「そこが知りたい 格安航空は日本に根づく?―ピーチCEO井上慎一氏」で、3月に就航を始めたピーチ・アビエーションの井上慎一CEOがインタビューに答えておられます。

新市場を開拓し、かつ既存ビジネスとのトレードオフを考える上で参考になる記事でした。

—(以下、引用)—

….学生やお年寄りなど、これまで飛行機を使ったことがなかった人たちが乗っている。女性客も多い。全日空や日本航空などは男性客が圧倒的に多いが、ピーチは半分程度が女性だ。…..安さに敏感な人が多いという手応えを感じている

(中略)

 ――LCCがほかにもできて、競争が激化する。生き残っていけるか。

 「生き残れるか、生き残れないかではない。潜在的な需要は夏以降運航を始める2つのLCCを合わせても吸収しきれない規模がある。…..」

—(以上、引用)—

 

確かにLCCを「単なる値下げ」と考えると市場は縮小してしまいます。

そうではなく、新たな顧客を取り込んで新市場を開拓する。

新たな顧客を創造するためには、マーケティング施策も変わってくる訳ですね。

 

—(以下、引用)—

 ――39%を出資する全日空との関係は。

 「今後も当社の経営には関与しない。親会社が路線計画や運賃に口を出して失敗したLCCはいくつもある。経営の独立性はLCCの根幹だ。われわれが頑張れば全日空にも利益は大きい。…..」

—(以上、引用)—

 

一ヶ月ほど前に当ブログで書いた「改めて読む、ポーター vs ミンツバーグのマーケティング戦略論対決がとても面白い件」で1971年創業のLCCの草分け「サウスウエスト航空」と、これに対抗した大手航空会社「コンチネンタル航空」について書きました。

ここで書かれている通り、コンチネンタル航空が失敗したのは従来路線の枠組みで「コンチネンタル・ライト」というサービスを提供したためです。

既存ビジネスから独立して新市場を創造するにあたっては、多くの場合、既存ビジネスとのトレードオフが発生します。

LCCもそうですし、10年ほど前だとプラスから独立したアスクルのようなケースもあります。

井上CEOが語っておられる「経営の独立性はLCCの根幹」、これは多くの新規事業立ち上げの場合に当てはまるのではないかと思いました。

 

 

「100円のコーラを1000円で売る方法」を、より深く楽しむ方法

オルタナブロガーの御園生さんが、「〈書評〉「100円のコーラを1000円で売る方法」を読んで自分を振り返る 【読了目安: 2分】」で、「100円のコーラを1000円で売る方法」「バリュープロポジション戦略50の作法」の2冊を紹介して下さっています。

この中で御園生さんは、

「この2冊の本は、基本的に同じことが書いてある」

とし、

「誤解を恐れずわかりやすく言い切ると」

と前置きされた上で、

「『100円のコーラを1000円で売る方法』は『もしドラ』、『バリュープロポジション戦略50の作法』は『本家 ドラッカー』」

と紹介して下さっています。

経営の神様のドラッカーを引用していただいたのは過分なお言葉で恐縮の限りですが、とても分かりやすいたとえだともいます。

 

「バリュープロポジション戦略50の作法」を上梓したのは2011年3月。

全体でわずか120ページ。

見開き2ページで1章構成。合計50章からなる、合計4万文字の小さな本です。

なるべく平易な言葉を使っています。

しかし、ある程度のマーケティング戦略の経験がある方を想定して書きました。

 

一方の「100円のコーラを1000円で売る方法」を上梓したのはそれから8ヶ月後の2011年11月。

こちらは小説のスタイルを取り、マーケティング理論で裏付けたストーリーを展開しています。

マーケティングという言葉自体に距離感を感じている方を対象に書いています。

 

しかし2冊とも中身の理論や論理の展開は、基本的に同じです。

マーケティングに詳しくない知り合いが、

「『バリュープロポジション戦略50の作法』は読んでもよく分からなかったが、『100円のコーラを1000円で売る方法』はとてもよく分かった。そうして『バリュープロポジション戦略50の作法』を読み直したら、分からなかった部分がストンとハラに落ちて理解できた」

と言っていました。

確かに、「100円のコーラを1000円で売る方法」の解説本が、「バリュープロポジション戦略50の作法」とも言えますね。

 

ですので、「100円のコーラを1000円で売る方法」を読んで興味を持たれた方は、「バリュープロポジション戦略50の作法」を読んでいただくと、さらに新しい発見があるかもしれません。

 


 

 

モノゴトは、全てトレードオフ

何かを決めようとすると、「その方針だと、これが出来ないので困る」

その意見を取り込むと、「コレも入れて欲しい」

このようにして、色々な意見を取り込んでいくと、出来上がったものは色々な要望の固まりになります。

その結果、例えば商品だと他社も出している月並みなものになってしまいますし、マーケティング戦略だと他社と変わり映えのない月並みなものになってしまいます。

 

一方で、「尖っているもの」は「何かを捨てている」ことがとても多いのです。

 

例えば低収益で多くの会社が経営難に陥っている米国の航空会社の中で、ほぼ唯一高収益のサウスウェスト航空。

指定席、ビジネスクラス、無料の機内食、他航空会社への手荷物転送など、普通の航空会社が用意しているサービスは一切ありません。しかし近距離・低価格に特化し、機種もB737一本なので保守効率もよく、低価格・低コスト・高収益を実現しています。

いわゆるLCCの走りの会社です。

 

私たちは、どうしてもすべての顧客にすべてのものを届けようと考え勝ちです。だからなかなか差別化できないのかもしれません。

マイケル・ポーターも「戦略とは、競争上必要なトレードオフを行うこと。戦略の本質とは、何をやらないかという選択肢である」と述べています。 

結局、ターゲットを誰に絞り、何を捨てて、何に特化するか、というトレードオフを徹底的に考えることが、必要なのかな、と思います。

 

 

消費増税で生まれているビジネスチャンス

世の中がどんどん厳しくなっていく中で、消費増税の可能性が高まっています。

日経ビジネスOnlineの記事「「男女7人“増税”物語」20%アップで結婚したくなる?」では、この増税にともなってどのように生活スタイルが変わっていくかが描かれています。

こんな感じです。

中古衣料市場拡大
ランチを自前弁当にする
カフェを缶コーヒーににする
店を替えずに頻度を減らす
ワインのグレードを落とす
化粧品やシャンプーやリンスなどの日用雑貨の節減
税制的に優位な家族構成になることを考える

商品視点で「可処分所得が減る」→「消費が冷え込む」→「売れない」と考え勝ちな消費増税という現象も、このように消費者視点に立って考えると新しいビジネスヒントが隠されていると思います。

例えば「中古衣料市場拡大」。衣料をもっと簡単に好感できるオークションサイトなどが流行るかもしれません。

「ランチを自前弁当にする」朝、お弁当を作りやすくするような食材を開発したり、より多くの人達が弁当箱を持ってくることを考えると弁当箱市場も大きくなりそうです。

「ワインのグレードを落とす」。チリ産等の安くて美味しいワインの需要が増えていく可能性があります。

「カフェを缶コーヒーにする」。これは缶コーヒーの商品開発や、自販機やコンビニでの品揃えをどうしていくか、ヒントになります。

このように考えると、「消費増税」というネガティブな現象であっても、顧客の視点で顧客がどのように動くのかを見ると確実に商機が生まれていることが分かります。

 

 

顧客を理解することに貪欲な会社、コミー

コミーという会社があります。

コンビニの天井の真ん中や隅にかかっている大きなミラーを作っている会社です。

コミーのミラーは、他にも、駅や書店、スーパーなどで、防犯や接客用に使われています。

コミーの社員は14名ですが、この業務用ミラーの市場で、国内シェア8割です。

このコミーの強さの秘密は、小さい市場で自分の戦う領域を広げずに、逆に徹底的に極めている点です。

そのために、顧客の知恵を徹底的に深めています。

 

実はこのコミーの社長の小宮山さんとは、ある勉強会でご縁をいただき、10年ほどおつきあいをさせていただいております。

「バリュープロポジション戦略50の作法」でコミーの事例をいくつかご紹介しましたが、この本を書く際に、西川口にあるコミー本社にお邪魔して、色々とお話しをお伺いしてきました。

小宮山さんと雑談をしていた時、私が

『そう言えば、つい先日、オフィスで他の社員と鉢合わせになってぶつかったことがあります。御社の防犯ミラーがあれば避けられたかもしれませんね』

とお話ししたところ、社長の小宮山さんは「ちょっと待ってて」と言って商品担当者をすぐに連れてきました。

そして、その商品担当者から30分ほど詳しくその時の状況をインタビューされました。

「コミーは、ユーザーの問題を把握するということに会社全体がとても貪欲なのだ」ということを肌を持って感じました。

自分達も、普段の仕事で顧客のことを理解することに、貪欲だろうか?

日々の仕事でも、常に心がけるようにしたいものです。

 

 

本当に大切なことは、シンプルで分かりやすい

2012/2/6の日本経済新聞の記事「慶応大学ビジネススクール 清水勝彦と読む ウェルチ『ウィニング』」は、とても参考になりました。

—(以下、引用)—

……

実績を上げるためには「大まかな方向性を決めて、死に物狂いで実行する」というのがウェルチとゼネラル・エレクトリック(GE)の成功理由です。

それでは持続的な競争優位を獲得するための戦略とは何か?ウェルチは「あ、そうか!」(A big aha!)というアイデアだと言います。

(中略)

ここで大切なのは「横並び化を避け差異化する(decommoditization)」ことです。横並び化(commoditization)すると、ほとんどの場合は価格競争に陥り、マージンがなくなるからです。

(中略)

戦略の根幹は「あ、そうか!」をはっきりとさせることです。パワーポイントを何ページも使い、山のようなデータと時間を使わないと説明できない戦略というのは何かおかしいと思った方がいい。「あ、そうか!」がわからないから、難しい専門用語でごまかしているのです。中学生が理解できない戦略は機能しません。

—(以上、引用)—

まったく「我が意を得たり」と感じました。

本来、戦略とはシンプルなものです。

しかし大量の資料がないと説明できない戦略は、大抵の場合は失敗します。それはこの本で清水教授も述べておられるように、「機能しない」からです。

「中学生が理解できない戦略は機能しません」というのは、まさにその通りだと思います。

 

私は、本も本来はそのようなものだと思います。

ですので私は本を書く場合、様々なマーケティングの専門書を参考文献として読み込んでいますが、いったんそれらを消化した上で、できる限り誰にでも分かるように書くことを心がけています。

たとえば昨年11月末に上梓した「100円のコーラを1000円で売る方法」も、そのようにして書いた本です。

本書に対して、ある高校生の読者の方から「すごく遠くに感じていたマーケティングがとっても身近に感じました。自分はマーケティングを学べる大学に進学します」というご感想をいただいことがあります。

また友人の一人が本書を家に置いていたところ、中学生のお子さんがこの本に夢中になって手放さなかった、という話も聞きました。

このような感想をいただくと、とても嬉しいですね。

また現場で様々な難題と格闘なさっている経営者やマーケティング専門家の方々からも、「新たな気づきが得られた」というありがたいご感想をいただきます。

 

実際には本書で書いたことは、私一人で考えたものではありません。レビットやコトラーといった、マーケティングの大家が語ってきたエッセンスを、日本が抱える問題に合わせて、分かりやすく解説したものです。

本当に大切なことは、必ずしも難しいものではなく、シンプルで分かりやすいものなのだと思います。

 

 

「グッドジョブ、私!」その2 派遣サーボーグ022 (多部未華子編)

先日、当ブログで『「グッドジョブ、私!」サイボーグ003フランソワーズが、CMに登場』というエントリーをご紹介しましたが、なんと続編がありました。



 

こういうの、好きですね〜。

何よりも、フランソワーズ編からの流れが、ストーリー性を持って考えられているのがいいですね。

CMのサイトも、フランソワーズから差し替えられていますね。

今後どのようになるのか….、これからの展開が楽しみです。

このシリーズのメッセージアーキテクチャーがどのように設計されていて、マーケティングコミュニケーション案でどのように展開が考えているのか….企画書を見たくなりますね。

 

 

「グッドジョブ、私!」サイボーグ003フランソワーズが、CMに登場

「映画『009 RE:CYBORG』撮影の合間に、大企業の正社員として頑張るフランソワーズの勇姿」、ということで、こんな動画が公開されています。


なるほど、サイボーグ003を素材にして、こんな形でマーケティングで使えるんですね。

さすが、と思いました。

サイトはこちら

URLがいいですね。003022。

 

このコンテンツを作るのは結構お金がかかっていると思いますが、ビジネスにどのように繋げようとしているのかなぁ、と思ったら、今年秋公開の神山健治監督『009 RE:CYBORG』がスタッフサービスとタイアップした広告のようです。

詳しくはこちら

今後、こんなキャラが流行りそうな予感ですね。

 

 

ミラーレス一眼市場で起こりつつある「イノベーションのジレンマ」

クレイトン・クリステンセンが唱えた、「イノベーションのジレンマ」という理論があります。同名の「イノベーションのジレンマ」という本に理論がまとまっています。Wikipediaによると、下記のように書かれています。

—(以下、Wikipediaから引用)—

優れた特色を持つ商品を売る巨大企業が、その特色を改良する事のみに目を奪われ、顧客の別の需要に目が届かず、その商品より劣るが新たな特色を持つ商品を売り出し始めた新興企業の前に力を失う理由を説明したマーケティングの理論

—(以上、Wikipediaから引用)—

この「イノベーションのジレンマ」が、まさに起こるかもしれない市場があります。それはデジタル一眼市場です。

 

デジタル一眼の市場シェアは、長らくキヤノンとニコンが二大勢力でした。

キヤノンの成功は、1980年代、ミノルタ(現ソニー)のαシリーズを契機に生まれたオートフォーカスの流れに対応するために、1987年にそれまで大成功していた従来のFDレンズ資産を脱して、全く新しいシリーズとして世に出されたキヤノンのEOSシリーズがベースとなっています。このEOSシリーズは世界的にも大成功しました。

 

そのようにキヤノンとニコンが一大勢力となっているデジタル一眼市場ですが、最近変動が起きつつあります。

こちらにありますように、販売額シェアでは、ミラーレス一眼がデジタル一眼レフを徐々に食っているのです。

このミラーレス一眼、現時点ではパナソニックのLUMIXシリーズ、ソニーのNEXシリーズ、オリンパスのPENシリーズが代表的な機種です。

カメラの大きさは従来型デジタル一眼レフの半分程度で、当初は「気軽に写真を撮りたいという」女性を中心に人気が出ました。

 

しかし最近、状況が変わってきました。

例えば、アサヒカメラ2011年12月号の特集「互いの最強機能で頂上対決!ミラーレス vs. 一眼レフ」にもあるように、ミラーレス一眼でも、画質、応答速度などの点で、プロフェッショナル用のデジタル一眼レフと同等の性能を出しているケースがあります。

デジタル一眼レフの中でも特に重いプロフェッショナル用と比較すると、ミラーレス一眼は重さ1/3程度。しかしカメラ内部にミラーの可動部やガラスの固まりであるプリズムを置く必要がなくなるため、設計に無理がなく、かつ高い性能が出せるようです。

もちろん、プロフェッショナル用カメラで何よりも求められるのは、画質・応答速度だけでなく、耐久性です。この耐久性については、恐らくミラーレス一眼はまだ未知数です。

 

このように従来のデジタル一眼レフを置き換える可能性を秘めた、ミラーレス一眼。

現在、主なカメラメーカーはミラーレス一眼を市場に出していますが、キヤノンだけはまだ市場に製品を出していません。

いつ出すのか?

デジカメWatchの記事「インタビュー:ミラーレスの「今」と「これから」【キヤノン編】~常務取締役 イメージコミュニケーション事業本部長 眞榮田雅也氏に訊く 」によると、2012年には何らかの形でキヤノンからの回答が出るようです。

 

実は私、一時期は写真家になろうと真剣に思っていた程、写真をやっていました。写真展も数回行っています。→こんな作品を撮ります

写真機材は学生時代からキヤノンを愛用しています。1980年代・90年代前半は旧F-1、新F-1、90年代後半はEOS-1n RS、そして2000年代からデジタル一眼レフもEOSを使っています。

ということでキヤノン、特にEOSシリーズには、特別に愛着を持っています。

思い起こせば、1985年にミノルタがαシリーズで話題を独占したオートフォーカス市場に対して、キヤノンがEOSシリーズで回答を出したのは2年後の1987年。

キヤノンファンの一人としても、キヤノンがいかに「イノベーションのジレンマ」を克服するのか、今回も期待したいところです。

ミラーレス一眼を買うのは、キヤノンの答えが出るまでしばらくお預け状態になりそうです。

 

 

改めて読む、ポーター vs ミンツバーグのマーケティング戦略論対決がとても面白い件

次の本の構想を考えていることもあって、この年末年始、マーケティング戦略の本を読み直しています。

改めて読むと、今まで理解不十分だった部分を再認識でき、勉強になります。

この2日間はポーターとミンツバーグを読みました。自分の理解の整理も兼ねて、まとめてみたいと思います。

 

マイケル・ポーター「競争戦略論I」(ダイヤモンド社)

・戦略とは、競争上必要なトレードオフを行うことなのである。戦略の本質とは何をやらないかという選択肢である。(p.98)

・独自ポジションへの模倣の仕方は二つある。①新しいポジションを取る、②二股をかける。後者の場合、トレードオフの問題が起こる (p.91)

【事例】コンチネンタル航空は、サウスウェスト航空の成功を見て、同様のサービス「コンチネンタル・ライト」を提供した。機内食やファーストクラスを廃止、運行間隔を短くし、運賃を引き下げ、発着作業時間も短くした。従来路線は変更なし。【結果】混雑したハブでは離陸が遅れ、荷物積替えや発着作業に時間がかかり、1日1000件の苦情殺到。コスト削減のため旅行代理店手数料を削減、マイレッジサービスも提供できず、旅行代理店と利用客を怒らせるだけに終わった。何億ドルもの損失を被りコンチネンタル航空CEOは解雇。(p.92-96)

・トレードオフが発生する理由:①イメージや評判に整合性が失われる、②活動そのものから生まれるトレードオフ(必要な社内システムや従業員スキル等が異なる)、③社内調整と管理上の限界(明確に特定方法で競争を選ぶと経営陣は組織の優先順位を明確に提示できるが、全ての商品を全ての顧客に提供しようとすると従業員が明確なフレームワークなしに日々の業務判断を下すことになり現場レベルで混乱を生む)

・サウスウェストの場合は、全ての活動がフィットし合い、競争優位をもたらしている。(近距離用のB737で機種統一し整備などの各種コストを下げる、等) (p.99)

・ライバルからすれば、一つの製品・サービスに対抗するよりも、強固に絡み合った一連の活動に対抗する方が、はるかに困難。(ライバルが一つの活動に対抗できる可能性を90%とすると、4つの活動が絡み合っていると0.9×0.9×0.9×0.9=0.66で、66%しか対抗できない) (p.105)

・成長という命題は戦略にとって非常に危険。戦略ポジションの拡大・妥協ではなく、戦略を深めることに集中すること。つまり、企業活動をさらに明確にし、フィットを強め、戦略を高く評価してくれる顧客とのコミュニケーションを強化する (p.114-115)

・日本企業は、1970年代から80年代にかけてオペレーション効率の分野でグローバルな革命を起こし、コストと品質の面でかなりの優位を獲得した。しかし明確な戦略的ポジションを開発している日本企業は皆無に等しい。1980年代ならばコスト・品質の面で圧倒的な差を付けることができた。オペレーション効率の差が縮まるにつれて日本企業はみずから仕掛けた罠に捕らえわれている。足の引っ張り合い的な戦いから抜け出すのであれば、日本企業は戦略というものを学ばなければならない。日本はコンセンサス志向が強いが、戦略には厳しい選択が必要である。また日本企業には深くしみこんだサービスの伝統があり顧客が表明するニーズをとことん満足させうようとする気質が根付いている。「すべてのモノをすべての顧客へ」という体制になっているのである。

 

なるほど、とっても説得力が高い主張です。

このポーターの「ポジショニング論」に対して、ヘンリー・ミンツバーグは下記のように反論しています。

 

ヘンリー・ミンツバーグ「戦略サファリ」(東洋経済新報社)

・ポーターは、簡潔な概念を提供している点では貢献度が大きい。しかし、スピーディな戦略形成・実行が「分析」によって阻害される可能性が高い。学習プロセスや組織・個人の創発性を無視している。選択・差別化・集中しながら、いかに柔軟な戦略形成・実行が可能かが問われている。(p.80)

・分析技法を使って戦略を開発したものは、絶対にいない (p.116)

【事例】「ホンダの課題」について述べたあるマーケティングの教授:1977年、ある教授はMBA試験で「ホンダは世界の自動車産業に参入すべきか?」というケースを出題した。これはサービス問題でありイエスと解答した者は落第点をつけられた。理由は、①既に市場は飽和状態であり、②優れた競争相手が既に日本、米国、欧州にいるし、③ホンダは自動車の経験が皆無に等しく、④ホンダは自動車の流通チャネルを持っていなかった。 【結果】1985年、この教授の妻はホンダの車を乗り回していた

・ホンダの成功は、ポーターが言うところのポジショニングの問題ではない。創発的戦略と組織学習による産物である。

・ポーターは「日本企業にはほとんど戦略がない。日本企業は戦略を学ばなければいけない」としている。もしポーターが言うことが真実で、一方で多くの日本企業が業績を出していることも事実ならば、会社が成功するためには戦略は必要な条件ではないことになる。われわれは全く反対の意見を持っている。日本企業は戦略を学ぶどころか、ポーターに戦略のイロハを教えてあげるべきではないか?

・ポーターは戦略は演繹的で計画的なものとしており、あたかも組織的学習や創発的な戦略が存在しないかのように捉えている。(p.125)

・実際には、戦略策定は秩序正しい静的なものではなく、もっと豊かで、乱雑で、そしてダイナミックなプロセスである。そもそもポジショニングの役割は形成プロセスを支えるものであり、決してプロセスそのものではない。(p.126)

 

こちらも「なるほど」という感じです。

私の意見は、ポーターが提起するフレームワークはとても共感する一方で、ミンツバーグが語っているようにこれですべてが解決するというのは短絡的だ、という考え方にも共感します。

確かに実務でも、戦略を立てる過程は整理されおらず、結構ぐちゃぐちゃです。

ミンツバーグも語っているように、「(ポーターが提起するような)選択・差別化・集中しながら、いかに柔軟な戦略形成・実行を行うか」が必要なのだと感じています。

このように、様々な人達の理論を読み比べると、とても面白いですね。

 

なお、ミンツバーグのこの著書「戦略サファリ」は、世の中のマーケティング戦略論を10学派に分けてその長所と短所を論じています。

本書では、ポーターは「ポジショニング学派」に分類されており、古くは孫子、クラウゼヴィッツ「戦争論」もこのカテゴリーに入っています。

マーケティング戦略の視野を拡げたい方には、オススメの一冊です。

 


 

 

時刻だけを表示するテレビ・チャンネルっていいと思う

数日前に思いついて、Facebookにも書いた内容です。

私は普段はテレビを見ませんが、朝早く起きるとテレビを付けます。

その目的は時間を把握すること。

早朝番組には時間が表示されますし、決まった時間に決まったこと(お天気情報とか、ファッションチェックとか)を放映しているので、朝の準備がちゃんと時間通り進んでいるか確認できます。

 

ただ、目的はあくまでも時間の把握。

そして出来れば天気と交通状況、ニュースの把握なのですよね。

 

ですので、画面上で時刻だけを大きく表示して、天気・交通状況・ニュースはテロップで文字情報として流す。あるいは音声で読み上げる。

そして画面上にはきれいな風景とBGMを流す。

こんな番組を作ると、そこそこ視聴率は稼げるし制作費も安いですし、ビジネス的にいいような気がしますが、いかがでしょうか?

 

問題は参入障壁が低くて、誰でも真似できてしまうので、すぐに美味しくないビジネスになることでしょうか?

本気で考えるのならば、どこで差別化して、どこに参入障壁を作るかを考える必要がありそうですね。

 

 

実は、顧客が何を求めているかは尋ねてはいけない。ではどうするか?

2011/12/19の日本経済新聞の記事「経営の視点 ヒットは顧客を追わない—創意ある組織づくりカギ」で、顧客の言いなりにならないヒット商品作りのことが書かれています。

—(以下、引用)—

今月、日本経済新聞社が公表した11年日経MJヒット商品番付。その中で爆発的な数字をたたき出したメガヒットの特徴は目先の顧客を追わず、想定外の設定で驚かせたことだ。テレビドラマ「家政婦のミタ」(日本テレビ)とミステリー小説「謎解きはディナーのあとで」(小学館)がその代表例だろう。

(中略)

(日本マクドナルドの)原田泳幸社長は「試験段階での顧客の評価を気にしてはいけない」と話す。消費者の意識と行動にはギャップがあるためだ。事実、昨今の健康志向でもボリューム感のある「クォーターパウンダー」の人気は続く一方、韓流ブームに乗った「KBQバーガー」は伸びなかった。

 日経MJのヒット商品番付の横綱に輝いたのは「アップル」。10月に死去した共同創業者のスティーブ・ジョブズ氏は公認伝記でこう語っている。「欲しいモノは見せてあげなければ、みんな、それが欲しいなんて分からないんだ」

—(以上、引用)—

「家政婦のミタ」が視聴者に調査して主演・松嶋菜々子さんのキャラクターを決めていたとしたら、決してあの無表情でぶっ飛んだキャラ作りは出来ずヒットもなかったのではないでしょうか?

原田社長がおっしゃる「消費者の意識と行動にはギャップがある」というのも、まさにその通りですね。

「顧客に話を聞いてもなかなか本音は聞けない」ことは、立場を変えて自分のケースで考えると分かりやすいのではないでしょうか?

例えば行きつけのにしていた店の足が遠のいてしまうのは、特に明確な理由がなくて「ただ、何となく」ということが多いのではないかと思います。このような場合にインタビューをしてもちゃんとした答えは得られないのですよね。

また店を選ぶ際に何を重視するのか調査を受けた時、私たちは「立地」「品揃え」「サービス」等々とそれなりに考えて回答します。しかし実際に店を選ぶ場合はそれだけで決めることは少ないように思います。「なんとなく気に入ったから」「空間が素敵だから」「店長の人柄がいい」といった何かうまく説明できない理由であることが多いのではないでしょうか?少なくとも私はそうです。

「欲しいモノは見せてあげなければ、みんな、それが欲しいなんて分からないんだ」と言っているジョブズはこの人の心が分かっているのでしょうね。

 

「顧客が何を求めているかは尋ねてはいけない」としたら、私たちはどうすればよいのでしょうか?

一つの方法は「顧客が何で困っているのか」を理解して解決策を提示することではないかと思います。

記事は以下のように締めくくられています。

—(以上、引用)—

消費者行動を定量化するのは一段と難しくなっている。市場調査はもちろん、勘に頼るだけでも無理がある。ヒットを生むには顧客の先回りをするような「サプライズ本位」の組織作りが欠かせない。

—(以上、引用)—

顧客のことを理解し本当に欲しいものをそっと差し出して、サプライズを演出し感動を提供できれば、最高ですね。

 

 

皆様に感謝!「100円のコーラを1000円で売る方法」、発売2週間で第3刷決定。累計25,000部に #1000yencola

「100円のコーラを1000円で売る方法」(中経出版)ですが、おかげさまで発売2週間が経った昨日、2度目の増刷(3刷)が決まりました。

今回はなんと15,000部増刷。

累計25,000部になりました。

おかげさまで、本書は多くの書店様で大きく取り上げていただき、売行きもよいようです。

一昨日の日曜日、近所の有隣堂たまプラーザ店に立ち寄ったところ、ビジネス書のベスト8位に入っており、なんと3カ所(マーケティングの棚、ベスト10の棚、話題の本の棚)に面置きになっていました。

これも、本書を応援してくださり、購入くださった皆様のおかげです。

本当に有り難いことです。深く感謝申し上げます。

 

 

『値下げという「麻薬」を断つ勇気』→価格勝負から、価値勝負へ

3年前にITメディアエンタープライズの記事「値引き販売という麻薬」でも書かせていただきましたように、安易な値引きは、企業にとって麻薬です。

日頃そのように思っていましたら、先日、日経ビジネスオンラインで『値下げという「麻薬」を断つ勇気』という記事を拝読し、まさに「我が意を得たり」、と感じました。

 

この記事では、回転寿司業界が2008年から「一皿90円」の安売り競争を続けた結果、売上は大幅に伸びたものの利益は減少し、企業の体力が奪われた事例が紹介されています。

成城石井の社長だった大久保恒夫氏(現セブン&アイ・フードシステムズ社長)の言葉が紹介されています。

—(以下、引用)—

「先に価格を下げれば、一瞬は売り上げが伸びます。でも、同業他社も追随するので、しばらくすれば売り上げは必ず落ちていきます。そして結局、みんな儲からなくなるのです。いわば、安売りは麻薬のようなものです。やめたい、でもやめられない」(大久保氏)

—(以上、引用)—

また、この記事では、高価格に設定した高品質の商品を販売して成功している成城石井の事例も紹介されており、成城石井の担当者の言葉も掲載されています。

—(以下、引用)—

「お客様の動向を見ていると、すべてのものにお財布のひもを固くしているのではないと感じます。本当に欲しいもの、自身の生活と照らし合わせて価値を感じられるものが適正価格で売られていると判断すれば、多少高額な商品でもご購入いただけるのです」(成城石井)。

—(以上、引用)—

それでは、企業はどのようにすればよいのでしょうか?

記事は、以下の言葉で締めくくられています。

—(以下、引用)—

…だからと言って顧客が価値を感じる商品を作る努力をやめてしまっては、脱デフレはできない。価値を創造する決意と、不断の努力。それこそが、デフレの波を食い止める手段だと思うのだが、いかがだろうか。

—(以上、引用)—

これはまったくおっしゃる通りだと思います。

顧客の言うなりになり同質の競争になってしまって価格勝負に陥っている現状から、顧客が感動するものを見極めて異質の競争に持込み価値勝負にシフトすることが、今、必要なのだと思います。

11月末に中経出版様から上梓させていただいた「100円のコーラを1000円で売る方法」では、まさに「顧客の言うことには全て対応していて、多機能・高品質だけど、差別化できず、価格勝負に陥っていて低収益」という状況から脱却するために、奮闘する主人公・宮前久美の姿を描かせていただきました。

 

記事を拝読して、「価格勝負から、価値勝負へ」というのは、これからの一つの大きなキーワードになってくるのではないかとの思いを強くしました。

 

これから40年の成長市場は、….

ちょっと古いですが、11/28の週刊ダイヤモンドのオススメ記事を紹介したサイトの図が、とても興味深かったので紹介します。

「世界人口70億人突破!「人口」を見れば世界が読める 次の40年の成長市場はここだ! 」

ここでは、今後の成長余力を、横軸に「人間開発指数:平均余命や就学年数、生活水準などを基に算出」を取っています。これは労働力の質の高さを表しています。

縦軸には、「民主化度:選挙プロセスや政治参加、市民の自由度などを基に算出」を取っています。

また、円の色で、生産年齢人口(15~64歳)が増え続ける期間である人口ボーナス期、つまり経済成長を加速させやすい期間を、円の大きさは、GDPと人口ボーナス期の年数を掛け合わせた数値を取っています。

 

これで見ると、色々なことが分かります。

記事では、中国、ロシア、ブラジルは成長が低下すること、インドや南アフリカ、フィリピンが伸びることを指摘しています。

また今後、アフリカの民主化が進むと、世界経済の中で大きな力を発揮してくるであろうことも予測できます。

この図では多くの国々が書かれているので、自分が仕事で関わっている国が、世界全体の中でこの図のどこに位置するのかを把握しておくと、今後のビジネス展開を考える上で役立つのではないかと思いました。

 

徹底した顧客中心主義で、価格勝負から価値勝負に転換。しかも効率を求めないのに高収益

『喧嘩上等のカメラ店が「ど素人」に教わった商売の極意』という記事を読みました。

栃木県でチェーン展開するカメラ販売店「サトーカメラ」の取材記事です。

激戦区の栃木県で、カメラ販売シェアは14年連続でナンバーワン。しかも、デジタル一眼レフカメラの販売シェアは60%以上と、まさにぶっちぎりの1位です。

この会社の社長である佐藤勝人さんは、「効率は求めなくてもいい。客が納得するまで話をしろ」と現場に徹底しています。

実際、お客さんがプリントの方法が分からないと、それこそ1時間かかろうとも店員さんがじっくり説明します。

この方法は一見効率が悪いように見えますが、実はこの会社、高収益なのです。

一部記事から引用します。

—(以下、引用)—

人はなんのためにカメラを買うのかってことだよね。すると、実はカメラを買ってるんじゃないってことが分かってくる。行き着いたのが、たぶん、思い出をきれいに残すためなんだろうなっていうこと。

(中略)

そして、「思い出をきれいに残そう」という言葉を掲げて、これからはこの言葉のもとにいくぞと大号令をかけた。それまでサトーカメラはおれの独裁だったんだけど、これからはお客さんとこの言葉に従えと。それが2003年頃の話。

(中略)

ポイントは結局、カネで釣るってことでしょ。我々は金で釣るんじゃなくて、思い出をきれいに残すための商品でお客さんに来てもらう。そうするとポイントをやめた段階で、一瞬、お客さんが離れるんだけれども、最後は戻ってくる。

(中略)

Q. 利益はどれくらい伸びているんですか。

単純に言うと、2005年頃は粗利が平均で25%ぐらいだった。それが2007年頃に35%になった。その時は、もうこれ以上は無理だろうなと思ったんだけど、今は40%近くまでいっている。

—(以上、引用)—

顧客の目線に立って、顧客に「思い出をきれいに残そう」という価値を、妥協なく徹底的に提供することで、高収益を実現した、まさに顧客中心主義の事例ですね。

「客は、穴が欲しいから、ドリルを買うのだ」という言葉がありますが、「思い出をきれいに残そう」というのは、まさにほとんどの人がカメラを買う理由ですね。(私の場合、「カメラが欲しくて、カメラを買う」タイプですが(笑)、そういう人は少数派として、ひとまず置いておいて)

「価格勝負を抜けだして、価値勝負に転換」をB2Cの小売りの世界で実現。その考え方もシンプル。素晴らしいですね。

このような会社、日本に増えてくるといいですね。

 

 

劇的な成功体験が、戦略思想を阻害する

是本信義著『図解クラウゼヴィッツ「戦争論」入門』を読んでいます。

難解と言われる「戦争論」のエッセンスが、わかりやすくまとまっています。

この中で、戦略と戦術について明確に分けて説明した部分があり、参考になりました。

—(以下、p.81-86 引用)—-

「戦術における目的は勝利。(中略)戦略にとって目的とは、直接講和をもたらす状況を作り出すこと。」

….

クラウゼヴィッツは、戦争においてこの手段と目的の性質を明確に区別し、その混交を戒めている。

….

戦略上の最終目的を達成するためには、そのための手段/プロセスとして各種の戦術上の成功、この場合、勝利を積み重ねていく必要があるというものである。

….

ところが日本海軍は、日本海海戦であまりにも鮮やかなパーフェクト勝ちを収め、それが(一局地戦争にすぎない)日露戦争終結の最大の要因となったため、手段の一つに過ぎない敵艦隊の撃破である艦隊決戦を究極の目的と取り違えてしまったのである。

….

ごく短絡的にいえば、このように手段を目的と取り違え、艦隊決戦至上主義に取りつかれた日本海軍には、もはや戦略も戦術も必要なかったのである。

—(以下、p.81-引用)—-

 

日露戦争で、ロシアのバルチック艦隊に対して、日本海軍がおさめた日本海海戦大勝利という成功体験が、その後、日本海軍が戦略思想を育む上で、阻害要因になった、ということですね。

成功体験というものは、事実に基づいて考える戦略思想をも冒してしまう。これは怖ろしいことですね。

しかし、これは軍隊に限らず、現代の企業組織でも起こっていることです。

先日の朝カフェで、ライフネット生命保険・社長の出口治明さんが、「人は成功体験を忘れることはできない。だからダイバーシティにより、成功体験に固執しない多様な人材を企業の中に入れていくしかない」とお話しされていました。

成功体験により戦略思想が阻害されている組織に、戦略思想を根付かせる一つの方法が、出口さんもおっしゃっている「(過去の成功体験を持たない)人材の多様化」なのかもしれません。

 

 

 

セミナーのアンケートは定点観測で見るようにデザインすると、価値が飛躍的に高まる

武蔵野社長・小山昇さんのご著書「経営の心得」を読みました。

208の経営のエッセンスがそれぞれ1ページにまとまっています。

どれも常識に囚われない、小山さんが経営の現場でつかんだ言葉ばかり。

どの言葉も素晴らしく啓発されましたが、208の言葉の中で、以下の言葉がありました。

—(以下、引用)—

お客様アンケートで大切なのは
「良い」の数でも「悪い」の数でもない。
継続的にアンケートを採って、
時系列的に傾向を把握する。これが何より重要。

—(以上、引用)—

アンケートについて、普段、私が考えていることが集約されていて、「まさに我が意を得たり」と思いました。

 

小山さんがここで述べておられるのは、一般的なユーザーアンケートのようです。

一方で、主にIT企業などがセミナーを行ってアンケートを取ることもあります。この場合の目的は、そこから案件を見つけ出すことです。

たとえば、「情報インフラ変革セミナー」と銘打って情報システム部の方々にご参加いただき、アンケートで参加された企業がどのような情報投資をお考えになっているかをお聞きし、それをセールスがフォローする、という形です。

しかし一方で、たとえば同じ顧客層が毎回数十名以上集まるシリーズもののセミナーの場合、さらに一歩考えを進めて、この顧客セグメントの動向を把握する、という方法もあります。

 

たとえば10年近く前に、私はコールセンター長を対象とした半日のセミナーを3ヶ月毎に数年間継続して開催しました。毎回100名参加した出席者は、全てコールセンターのユーザー企業でした。

このセミナーでは基本的に製品紹介は行わず、先進ユーザー事例を中心に、出席される実際のユーザー責任者の方々が持ち回りで講演されました。

このセミナーで、顧客動向を把握するためにアンケートを行いましたが、100名ほどが参加するため、日本のコールセンター長が抱える最新の課題は何かをリアルタイムに把握することができました。

 

たとえばITバブルがはじけた2002年当初、アンケートでユーザーの最優先課題はコスト削減であることが分かりました。しかし数ヶ月毎に見ていくと、その後は「コスト削減」のニーズは徐々に減っていきました。

その一方で、コールセンター統合のニーズが増えていきました。具体的には、拠点統合、業務統合、チャネル統合等です。そこでこの時期、「コールセンター統合、3つの視点」というテーマでセミナーを企画しました。

また、コールセンターのプロフィット化のニーズも高まり始めました。そこで、「そもそもコールセンターのプロフィットセンター化が可能なのか?」を議論するテーマをセットしたり。

このように、アンケートで把握した最新の顧客課題に基づいてテーマをセットすることで、参加する方々の問題意識を捉えたマーケティング活動が展開することができました。

 

これができたのも、小山社長がおっしゃっている「時系列的な傾向」を、アンケートで把握できたからなのですよね。

注意すべきことは、毎回のアンケートでは、質問項目はできるだけ変えないことです。同じ質問項目を設定しているから、定点観測が可能になります。

「たかがアンケート」と思われがちですが、結構奥深いものですね。

 

 

iPhone 4S搭載のSiriから学ぶ、あえて未熟な技術を投入する「計画的コモディティ化回避戦略」

2011/11/7の日本経済新聞で、編集委員の小柳建彦さんが、『経営の視点 携帯端末、「仮想助手」に?—アップル、未熟技術で勝負』という記事を書いておられます。

現在、iPhoneが優位だったスマートフォン市場はアンドロイド勢が台頭することで競争が激化しつつあります。このまま競争が激化すると、コモディティ化が進んでいく可能性もあります。

コモディティ化が進むことで差別化要素がなくなり、価格競争に陥りますが、小柳さんは、音声対話インターフェイスSiriのiPhone 4Sへの搭載は、そのコモディティ化を回避するためのAppleの戦略である、と解説しておられます。

—-(以下、引用)——

…本格普及から日が浅くまだまだ未熟なスマートフォン(高機能携帯電話)という技術分野はこれまで、一体開発のアップルの優位性が際立っていた。ところが水平分業モデルで作られる「アンドロイド」端末も、ようやく各部品、基本ソフト、応用ソフトの連動性がよくなり、消費者の要求を満たせるようになりつつある。携帯端末という技術分野の成熟は時間の問題で、放置すればアップルの優位性は価格競争にかき消される危険があった。

 そこに投入したのが、実用化の初期段階にあるシリ(Siri)だ。利用が進めば、携帯端末というものの基本的な役割が従来の電話兼コンピューターから、声で話せる「仮想助手」という全く別のものに変わってしまう可能性がある。未熟な技術をあえて投入することで、成熟市場を未熟市場に転換できるかもしれないのだ。

…….つまり未熟な技術分野でこそ発揮されるアップルの競争力が長続きする可能性がある。シリを搭載した「4S」は、技術の成熟度を落とすことでコモディティー化の落とし穴を迂回するという、産業史上まれな事例になるかもしれない。

—-(以下、引用)——

 

確かに未熟な技術は、ユーザーにある程度の不便を強いることも多いのです。そこでものづくりの立場に立つと、できる限り未成熟な技術を市場に出すのは控えて、成熟した技術で実装した信頼性が高い製品を市場に出そうと考えることが多いのです。

一方でこの記事にあるように、あえて未熟な技術を出し続けることで、差別化を維持する、という考え方もあるのですね。

 

もちろん、全ての場合にこの方法論を適用するのは無理があります。たとえば、高い信頼性が求められるミッションクリティカルな分野では、未成熟な技術ではなく、信頼性が高い技術で提供することが必要です。

また、市場アクセプタンスが弱い未成熟な技術を出しても、顧客は離れるだけです。

しかしSiriの場合は、未成熟であっても顧客が驚き感動する技術を、あるレベル以上の品質まで高めた上で市場に出しているのです。

我々が製品に実装する技術戦略を考える場合、技術の成熟度と、その技術の市場でのアクセプタンスを把握し、未熟であってもアクセプタンスが高い技術をあえて市場に投入する。そのことで市場の成熟化を回避し、コモディティ化を回避する方法もあるのだ、ということを、この記事で気づかされました。

 

新しい需要を喚起するために、新製品を投入し、市場にある既存製品を陳腐化させる「計画的陳腐化」という手法があります。

この時間軸をさらに進めた、「計画的コモディティ化回避戦略」とでも呼ぶべき手法でしょうか?

 

もちろん、いかなるマーケティング戦略も、顧客満足度を高めることが前提になります。

このケースでも、その未成熟な技術に対して、顧客が大きな価値を感じることが大前提です。そのためには、イノベーションを実現する力と、顧客の確かなニーズを捉えるマーケティング力が必須です。

ドラッカーは、「企業は二つの、そして二つだけの基本的な機能を持つ。それはマーケティングとイノベーションである」と言いました。

まさに、この二つがあってこその戦略なのかもしれません。

 

 

iPhone 4S搭載のSiriから学ぶ、あえて未熟な技術を投入する、戦略的陳腐化回避戦略

2011/11/7の日本経済新聞で、編集委員の小柳建彦さんが、「経営の視点 携帯端末、「仮想助手」に?—アップル、未熟技術で勝負」という記事を書いておられます。

現在、iPhoneが優位だったスマートフォン市場はアンドロイド勢が台頭することで競争が激化しつつあります。このまま競争が激化すると、コモディティ化が進んでいく可能性もあります。

コモディティ化が進むことで差別化要素がなくなり、価格競争に陥りますが、小柳さんは、音声対話インターフェイスSiriのiPhone 4Sへの搭載は、そのコモディティ化を回避するためのAppleの戦略である、と解説しておられます。

—-(以下、引用)——

…本格普及から日が浅くまだまだ未熟なスマートフォン(高機能携帯電話)という技術分野はこれまで、一体開発のアップルの優位性が際立っていた。ところが水平分業モデルで作られる「アンドロイド」端末も、ようやく各部品、基本ソフト、応用ソフトの連動性がよくなり、消費者の要求を満たせるようになりつつある。携帯端末という技術分野の成熟は時間の問題で、放置すればアップルの優位性は価格競争にかき消される危険があった。

 そこに投入したのが、実用化の初期段階にあるシリ(Siri)だ。利用が進めば、携帯端末というものの基本的な役割が従来の電話兼コンピューターから、声で話せる「仮想助手」という全く別のものに変わってしまう可能性がある。未熟な技術をあえて投入することで、成熟市場を未熟市場に転換できるかもしれないのだ。

…….つまり未熟な技術分野でこそ発揮されるアップルの競争力が長続きする可能性がある。シリを搭載した「4S」は、技術の成熟度を落とすことでコモディティー化の落とし穴を迂回するという、産業史上まれな事例になるかもしれない。

—-(以下、引用)——

 

確かに未熟な技術は、ユーザーにある程度の不便を強いることになります。

ですので、ものづくりの立場にあると、未成熟な技術を市場に出すのは控えて、成熟した技術で実装した製品を市場に出そうと考えます。

一方でこの記事にあるように、あえて未熟な技術を出し続けることで、差別化を維持する、という考え方もあるのですね。

 

もちろん、全ての場合にこの方法論を適用するのは無理があります。たとえば、高い信頼性が求められるミッションクリティカルな分野では、未成熟な技術ではなく、信頼性が高い技術を提供することが必須です。

また、市場アクセプタンスが弱い未成熟な技術を出しても、顧客は離れるだけです。

しかしながら、我々が製品に実装する技術戦略を考える場合、技術の成熟度と、その技術の市場でのアクセプタンスを把握し、未熟であってもアクセプタンスが高い技術をあえて市場に投入することで、市場の成熟化を回避し、コモディティ化を回避する方法もあるのだ、ということを、この記事で気づかされました。

 

もちろん、その未成熟な技術に、顧客が大きな価値を感じることが大前提です。そのためには、技術力と、顧客の確かなニーズを捉えるマーケティング力が必須です。

ドラッカーは、「企業は二つの、そして二つだけの基本的な機能を持つ。それはマーケティングとイノベーションである」と言いました。まさに、この二つがあってこその戦略ですね。

 

 

「やらせソーシャルメディア活用で依頼主もダメージ」で考えたこと。マーケティング担当者にとってソーシャルメディア・リテラシーは必須スキルの時代になったのではないか?

ソーシャルメディアを活用して、マーケティング活動をする企業が増えています。

ただ、自作自演に近い行為が発覚すると、依頼主にとっても大きなダメージを受ける可能性を、この記事は指摘しています。

「ヤフー知恵袋で“やらせ”代行業 匿名クチコミの信憑性に暗い影」

マーケティング担当者として、これはなかなか怖いことです。

「こんなプロモーションをすることで、ソーシャルメディアでユーザーはどのような反応をするだろうか?」ということを想像し、正しく判断できるソーシャルメディア・リテラシーが、企業のマーケティング担当者に求められる時代になったのだ、と私は理解しました。

 

オルタナティブブログを読まれている方はお分かりになると思いますが、ソーシャルメディア・リテラシーは、実際にソーシャル・メディアを使ってみないと、肌感覚としてなかなか身につかないのではないでしょうか?

ただ、必ずしもソーシャルメディアで情報発信をする必要はないと思います。

日頃からソーシャルメディア上の情報に接して、自分がそれらの書き込みを見てどう思うか、…..。おそらくその感覚は、一般の人達のソーシャルメディア上での反応と、大きく違わないのではないかと思います。

ですので、マーケティング担当者でソーシャルメディア未体験の方は、まずはソーシャルメディア上の情報に接することから始められるといいのではないかな、と思います。

 

さらに一歩進んで、TwitterやFacebook等のソーシャルメディアで情報を発信してみて、相手の反応がどうかを体験してみると、さらに体で理解できるのではないでしょうか。

 

 

似ているようで全く違う、「顧客の言いなり」と顧客中心主義

スティーブ・ジョブスは、ユーザーのことについて真剣に考えていました。彼ほど顧客中心主義を徹底した人は、少ないと思います。

しかし一方で、彼ほど顧客の言いなりにならなかった経営者もまた、いないのは、よく知られた通りです。

顧客中心主義と、「顧客の言いなり」。

一見似ている両者の考え方、どのように違うのでしょうか?

 

P.F.ドラッカーの著書「マネジメント」は、「もしドラ」ですっかり有名になりました。ドラッカーが本書を上梓したのは1973年。日本語版は1974年に出ました。

38年前も前の本なのですね。

ドラッカーはこの中で、企業の目的と顧客について以下のように書いています。

—(以下、引用)—

企業の目的は、顧客の創造である。したがって、企業は二つの、そして二つだけの基本的な機能を持つ。それがマーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションだけが成果をもたらす。(p.16)

顧客にとっての関心は、彼らにとっての価値、欲求、現実である。この事実からしても、「われわれの事業は何か」の問いに答えるには、顧客からスタートしなければならない。すなわち顧客の価値、欲求、期待、現実、状況、行動からスタートしなければならない。(p.22)

—(以上、引用)—

「企業の目的は、顧客の創造である」というドラッカーの有名な言葉は、この一節から取られています。

 

一方で、先日当ブログでご紹介したセオドア・レビットも、51年前の1960年、歴史的論文「マーケティング近視眼」で以下のように述べています。

—(以下、引用)—

(米国で)鉄道が衰退したのは、旅客や貨物輸送の需要が減ったためではない。それらの需要は依然として増え続けている。鉄道が危機に見舞われているのは、鉄道以外の手段(自動車、トラック、航空機、さらには電話)に顧客を奪われたからでもない。鉄道会社自体が、そうした需要を満たすことを放棄したからなのだ。鉄道会社は自社の事業を、輸送事業ではなく、鉄道事業と考えたために、顧客を他社へ追いやってしまったのである。事業の定義を誤った理由は、輸送を目的と考えず、鉄道を目的と考えたことにある。顧客中心ではなく、製品中心に考えてしまったのだ。(p.4)

—(以上、引用)—

二人とも、数十年前に「顧客中心主義」の重要性を説いており「顧客が企業の出発点である」とは言っています。

ただ、注意すべき点は、二人とも「顧客の言いなりになれ」とは言っていないことです。

 

「顧客の言いなり」と顧客中心主義は、似ているようで大きく違うということは、以前、ブログでご紹介しましたように、2011年8月12日の日本経済新聞で、コマツの坂根正弘会長がインタビューで語っておられます。

—(以下、引用)—

縮む国内市場にプレーヤーがいっぱいいて消耗戦をやっている。世界の製造業に欠かせない部品・素材企業が国内に多いことが震災で分かった。ただ過当競争だから、顧客に言われれば何でも引き受ける。私が社長なら断らせる。こうした体質がいろんな業界で低収益を生んでいる。

—(以上、引用)—

元々日本は、顧客中心主義が根付いていました。

しかし、いつの間にか、「顧客の言いなり」に陥っていて、低収益に陥り、結果的に顧客離れを引き起こしています。

そして「顧客の言いなり」に陥っていて、真の顧客の課題に応えられていない状況は、企業だけでなく、NPO、自治体、政府等、様々な分野に及びます。

私は、「顧客の言いなり」から顧客中心主義への回帰は、今の日本では大きな課題だと感じています。

 

現在出版を予定している本は、この「顧客の言いなり」から顧客中心主義への脱皮がテーマになります。

6月から仕込んで、8月から9月にかけて執筆し、ちょうど今、初校が終わったタイミングです。今年の11月末には書店でご覧になれると思います。

今年、3冊目の本になります。お楽しみに。

 

 

B2BマーケティングとB2Cマーケティングの違い、「ペイン・ポイント」は何か?

B2BマーケティングとB2Cマーケティングの違いは何でしょうか?

B2Bマーケティングで顧客となる法人企業の場合は、私のように「あ、今度出たデジカメ、物欲刺激されちゃったなぁ。今度の週末、買っちゃおうっと!」というようなエモーショナルな判断は、なかなかされません。(中には例外もあるかもしれませんが)

 

では、法人企業が何をもって購買判断するか、というと、合理的な判断理由があるのですよね。

その合理的な判断理由の多くは、自社の課題やニーズが発端になっています。

なんらかのペイン・ポイント(悩みの種)があるのですよね。

たとえば、業務プロセスが硬直化していて、なかなか柔軟に修正できない、とか。

社員同士がなかなか打ち解けられず、チームワークができない、とか。

社員のコミュニケーションスキルを上げなくてはいけない、とか。

社員満足度調査で、社員食堂の味をもっとよくしなければならない、とか。

 

そして、このペインポイント、組織内のポジションによっても、スコープが変わります。

たとえば、経営者だったら、今年1年間の業績をアップする一方、長期的な経営基盤も盤石にしたい、というかなり大きなものになります。

営業部長だったら、自分の部の今期の売上目標を達成したい。

人材開発課長だったら、人事部長から設定された「全社員TOIEC 600点クリア」という目標を達成したい。

セールス担当者だったら、A社さんの案件を契約したい。

製品開発担当者だったら、開発期限までに自分が開発している製品の品質をクリアして開発を完了したい。

 

ですから、B2Bマーケティングの場合、自分が対象とする顧客がどんな人で、その人の組織の中での位置づけを踏まえた上で、どのようなペインポイントを持っているのかを理解することが必須になります。

もちろん、B2Cの個人でも、ペインポイントを解決するために購買することはあります。ただ、ペインポイントとは関係なく購買するケースも多いのです。

 

顧客が出発点であることは、B2BもB2Cも全く同じですが、「ペインポイントを理解すること」の重要性は、B2Bマーケティングの方が大きいのですね。

 

 

T.レビットの論文「マーケティング近視眼」…51年後の今、読み返しても、心に響くことがたくさん書かれてある

「マーケティング界のドラッカー」と言われるセオドア・レビットは、51年前の1960年に「マーケティング近視眼」という歴史的論文を書いています。

本にして33ページ分の小さな論文ですが、この論文は、豊富な事例とともに、現代でも通じる様々な示唆に富んでいます。

いくつか抜粋します。(ページ数は、「T.レビット マーケティング論」に記載されているページです)

実は成長産業といったものは存在しない、と私は確信している。成長のチャンスを創り出し、それに投資できるように組織を整え、適切に経営できる企業だけが成長できるのだ。何の努力もなしに、自動的に上昇していくエスカレーターに乗っていると思っている企業は、必ず下降期に突入する。 (p.11)

最も重要なことは、企業が売ろうとするものが、売り手によって決まるのではなく、買い手によって決まるという点である。売り手は買い手からの誘導によって動くのであり、売り手のマーケティング努力の成果が製品になる。決してその逆ではない。(p.19)

世間は決まってフォードを生産の天才としてほめるが、これは適切ではない。彼の本当の才能はマーケティングにあった。フォードの組み立てラインによってコストが切り下げられたので売価が下がり、五〇〇ドルの車が何百万台も売れたのだ、といわれている。しかし事実は、フォードが一台五〇〇ドルの車なら何百万台も売れると考えたので、それを可能にする組み立てラインを発明したのである。(p.22)

生産にかかる限界コストさえ低くすると、なんとか利益が出るという考え方は大変な思い違いで、、会社をだめにする。特に需要の拡大する成長企業では、マーケティングや顧客を重視しない傾向がある。(p.23)

産業活動とは、製品を生産するプロセスではなく、顧客を満足させるプロセスであることを、すべてのビジネスマンは理解しなければならない。(p.31)

ビジネスの世界で言えば、フォロワー(追従者)とは顧客である。こうした顧客をつくり出すには、企業全体を顧客創造と顧客満足のための有機体であると見なさなければならない。経営者の使命は、….顧客を創造できる価値を提供し、顧客満足を生み出すことにある。(p.35)

私は、よくこの論文を読み返しています。

 

お客様は神様?王様?それとも…?

芝田さんが、「お客様は王様です」というエントリーを書いておられます。

芝田さんが書かれた内容には共感いたします。確かに私も使いにくいウェブサイトがあると「ええい面倒くさい」と画面を閉じてしまうことが多く、「王様」的行動を取っていたりします。(笑)

顧客優位な市場だったり、競合が激しい市場では、「お客様は王様」という状況になりますね。

 

実は、今年3月に上梓した「バリュープロポジション戦略50の作法」の第6章「お客様は神様ではない」を書いていた時期、私もこのことを考える機会がありました。(なお、この章はこちらで全文お読みいただけます)

この章を書いた際、当初は私も「お客様は神様」に対するメタファーとして「お客様は王様」と考え、いったんは原稿を書き上げました。

しかし、原稿を見直すと、何かしっくりと来ません。

何故なのだろう、色々と考えました。

 

原稿を数ヶ月間寝かせた後、理由が分かりました。本書で言いたかったことと微妙なズレがあったのです。

本書におけるコアメッセージ「バリュープロポジション」は、「顧客の価値を徹底的に考えて定義し、そこに、自社だけの価値を提供する」という考え方です。

色々と考えた末に、本書で伝えたかったポイントを改めてまとめてみると、

1.お客様は、自分のニーズを必ずしもすべて理解していない

2.全知全能ではなく間違うこともある

3.だから、お客様のことは、徹底的に理解することが必要である。

4.ただし、お客様の言いなりになってはいけない

5.実は、私たちは、お客様を主体的に選ぶことができる

1から3までは、芝田さんとほぼ同じ視点です。だから当初は「王様」というメタファーを考えていました

しかしよくよく考えてみると、4と5は「王様」というメタファーとは微妙に違うのかな、と思いました。

 

バリュープロポジションとは、自社が取り組む顧客の価値を「徹底的に考えて定義する」考え方ですから、逆に言えば、自社が提供できない顧客の価値には対応しないのです。

たとえば非常に単純化すると、富裕層に高付加価値サービスを提供する場合、低価格という顧客の価値は切り捨てています。deselectしているのですよね。

もちろん、王様の場合でも、仕えるべき王様を選べる場合もあるでしょう。しかし、先祖代々から王様に仕えていたり、国に王様が一人しかいない、という状況では、仕える王様を変えるのは容易ではないこともまた多いと思います。しかしお客様は、選んでもよいのですよね。

 

このように考えた結果、私がたどり着いたメタファーは、「お客様は大切なパートナー」

ちょうど、人生の大切なパートナーを慎重に選ぶように、顧客もじっくりと見極める。そしてパートナーとなったら、徹底的に相手のことを尊重し、理解し、できれば相思相愛の関係になる、ということです。(詳しくはこちらをお読みください)

 

ただ、これはあくまで1つの考え方。そして、理想論かもしれません。

現実的には、芝田さんが書いておられるように、自分のことを「王様」と思っている顧客が多いのが現実でしょう。

しかしできれば、お互いに大切なパートナーとして認知し、お互いを尊重し、相思相愛になる関係を築けるように、顧客に提供する自社の価値を考えていきたいものです。

「顧客が言うことは何でも引き受ける」ことが過当競争を生み出し、差別化ポイントを失わせ、「高品質なのに低収益」という皮肉な状況を生み出しているのもまた、事実だと思います。

スティーブ・ジョブスが作り上げたAppleは、ユーザーは心からApple製品を愛していますし、Appleもユーザーを尊重しています。まさにそんな会社なのではないでしょうか?

 

 

法人セールスが成功するポイントは「買える1%」に会うこと。では、どうするか?

日経BPnetの記事『「法人営業「究極のコツ」 ――「買える1%」を見つける具体的方法。これを知らずして「成功」はない」』は、法人営業を考える上で参考になりました。

長い記事ですが、キモの部分を抜粋します。

・企業で「買える人」と「検討を任された人」は「1%しかいない」。この1%は実際に会社を動かしている人。「1%の人」にアクセスすることが、売る秘訣。 何も考えずにアポイントを取っても売れない。

・社員が100人規模の企業の場合:オーナー会社が多い。社長にアクセスする

・大企業の場合:社長・役員だと商品を理解してもらえない。「部下100人位の役職者」(事業部長か部長)がターゲット。「1%の人」に含まれる可能性が高い。

・その人が、直属部下を紹介してくれる場合:信頼する部下の報告を聞き、検討しよう、と考えている可能性が高い。必ずアポを取る

・営業の成功への近道は、「最初に1%の人に会うこと」。理由は5つ。

①上は下を連れてくる。下は上を連れてこない
②情報は上から下に流れる
③情報は「1%の人」が握っている
④「1%の人」は「1%の人」を紹介できる
⑤「1%の人」には「権限と責任」がある

 

いわゆるトップダウンのセールスアプローチですが、企業向けITソリューションの場合は購買に手間をかけますし、購買した商品の正否が企業の競争力をも左右します。確かにこの記事に書かれている通りなのでしょうね。

そしてそのような商品は、高付加価値少量販売の場合が多いのです。

一方で、日常的な購入物のような商品(薄利多売商品)は、あまり該当しないかもしれません。購買にあまり手間をかけないので。

 

おそらく、あらゆる法人セールスに当てはまる、ということではないと思いますが、特に法人IT系セールスにとっては参考になる記事だな、と思いました。