トランプ登場で露呈した、額縁の「パーパス経営」


「パーパス経営」と言う言葉は、既に日本でも広がっています。

パーパスとは、企業の存在意義のことです。今や企業では多くの従業員が「自分がこの会社で働く意味って、なんだろう?」と考えるようになりました。そこで経営者は、「会社が存在する理由=パーパス」を、社外だけでなく、社内に対しても積極的に語り始めています。

しかし「パーパス経営が流行ってるから、うちもパーパスを決めよう」と考えてパーパスを作ったものの、作って終わりだったり、そもそも経営者自身がパーパスが何か覚えてないことも、少なくありません。

そうした作っただけで実践されないお飾りのパーパスを、名和高司さんは「額縁パーパス」と呼んでいます。パーパスで「社会貢献」を掲げつつ、実際には短期的利益だけを最優先、というケースなどがその典型です。

嘆かわしいことに最近、米国の名だたる大企業で、この「額縁パーパス」が続々と露呈しています。

たとえば従来、多くの米国企業がDEI (多様性・公平性・包括性)という価値感を自社のパーパスに組み込んできました。

DEIの尊重は、民主主義の根幹でもある「機会の平等」と深く結びついてます。たとえば米国では1964年の公民権法の成立以降、企業は積極的に多様性を受け入れて、より広範な才能を採用し、イノベーションを促進してきました。

有史以来の人類の歩みを振り返ると、「新たな真実」は必ず少数意見から生まれてきました。だからたとえ少数派であっても、多様な価値観を尊重することが、イノベーション促進に繋がるわけです。

しかしトランプ大統領は就任初日に「DEIプログラムと優遇措置を廃止する」という大統領令に署名しました。曰く「これからは、性は男性と女性の二つだけだ」。

この方針を受けて、Googleは多様性採用目標を撤廃し、DEI関連のプログラムも再評価すると発表しました。Meta (旧Facebook)やAmazonなども、DEI施策の縮小や廃止を検討しています。

これまでこれらの企業は、高らかに企業のパーパス(存在意義)としてDEIを掲げ、多様性と包括性の推進を強調していました。シリコンバレー発祥のGoogleやMetaのようなテクノロジー企業も、そうして生まれたわけです。

しかし、政治環境の変化にある意味迅速に適応して、短期的利益を優先し、自社が掲げてきたパーパスに反する行動をしているわけです。

まさに「額縁パーパス」。実に嘆かわしいことです。

本来のパーパスは「企業の存在意義そのもの」であり、企業の使命に関わることです。誰が何を言おうと、短期的利益が少々犠牲になろうと、そう簡単に変えるべきではないのです。

社会が激変する現代だからこそ、揺るぎない企業の価値感の礎となるべきパーパスが重要なのです。

では、どうすればいいのか?

『ハーバード・ビジネスレビュー』2022年6月号に『パーパス策定の原則』(ジョナサン・ノウルズほか)という論文が掲載されています。

この論文によると、パーパスには3タイプあります。

①大義型…どんな社会的善を実現したいのか?
例:パタゴニアの「故郷である地球を救う」

②コンピタンス型…自社製品・サービスは何を果たすのか?
例:ソニーの「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」

③企業文化型…どんな想いで事業運営しているのか?
例:ソフトバンクの「情報革命で人々を幸せに」

重要なことは、パーパスがどのタイプであっても、この3つの要素間に矛盾がないことです。

たとえば①大義型であるパタゴニア。

②のコンピタンスでは、コストが高くても地球に優しい商品しか提供しません。

③の企業文化では、たとえ糾弾されても(いいか悪いかは別として)時に過激な活動もする環境保護団体・シーシェパードを支援しています。

だからパタゴニアの「故郷である地球を救う」は「本物」と見なされるわけです。

しかし中には、3要素が相矛盾する企業もあります。

たとえばFacebookのパーパスは「コミュニティづくりを支援し人と人がより身近になる世界を実現する」という大義型。

しかし②のコンピタンス(提供サービス)は、基本的に広告モデルです。

より多くの広告を見せるために、ユーザーが長時間滞在するように最適化された結果、社会の分断化やフェイクニュース拡散を助長する結果となり、本来のパーパスと矛盾が生じています。

これらは、揺るぎないパーパスを作り上げ維持する上で、大きなヒントを与えてくれます。

■まず自社の存在意義や使命を、「大義」「コンピタンス」「企業文化」の視点で、明確に見直してみる。

■見直したパーパスに基づいて、一貫性がある意志決定や行動をする。

■そして短期的な利益や圧力に左右されずに、長期的な視点で価値を生み出すために、パーパスを徹底する。

今回のトランプ登場は、企業のパーパスが本物なのか、あるいは単なる額縁なのかを試す「リトマス試験紙」となりました。

そして自分が働く職場を選ぶ人たちも、そうした企業の行動を静かに見ているのです。

経営者であっても社員であっても、パーパスに基づいて、理念と行動を一致させることが必要なのです。

     

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