製品ポートフォリオをいかに変えるか?(1)

私は今年、勤務先の事業部(日本アイ・ビー・エム株式会社ソフトウェア事業部)で、ソフトウェア製品ポートフォリオの変革に携わっています。

ということで、この仕事を通じて得た経験を元に、これから不定期に、「製品ポートフォリオをいかに変えるか?」をテーマに書いていきたいと思います。

もちろん、先日ご紹介したBCGこちらの章に書いてありますように、社内情報は書けませんので、ある程度一般論に落とした話になりますが、その点ご了承下さい。

そもそも、製品ポートフォリオとは何でしょうか?

ポートフォリオというと、金融資産運用の用語としてお聞きになったことが多いのではないかと思います。これはハイリスク・ハイリターンの株式や、ローリスク・ローリターンの定期預金等、複数の金融商品に組み合わせて運用することで、金融資産運用全体のリスクとリターンのバランスを取る考え方です。

製品ポートフォリオも同じ考え方で企業の製品群のバランスを取っていく考え方です。収益性を考えて、企業の製品群全体のバランスを取っていきます。

では、そもそも何故製品ポートフォリオを変えていく必要があるのでしょうか?

そのためには、逆説ですが、製品ポートフォリオを変える必要がないのはどのような場合かを考えてみると、分かりやすいと思います。

恐らく、下記のような場合は、製品ポートフォリオを積極的に変える必要はないのではないでしょうか?

A-1:現在参入している市場の将来性・成長性が約束されており、かつ、自社がその市場で有利なポジションを占めることが、ある程度保障されている。

A-2:現在参入している市場が成熟市場であっても、自社が絶対の強みを持っており、他社のシェアを獲得して拡大していける

A-3:新たにビジネスを立ち上げたばかりで、現在のビジネスを収益ラインに乗せるのが最優先である

つまり、現在の延長線上でビジネスを継続しても、当面は大きな問題がないケースです。

製品ポートフォリオの変革が必要な場合は、上記の逆です。

B-1:現在参入している市場は将来性・成長性があるが、自社の現在の製品ラインが必ずしも市場のニーズにマッチしていない。又は競争が激しく、現在有利なポジションを占めていても将来的に保障されない。

B-2:現在参入している市場が成熟市場である一方で、自社のシェアの拡大も望めない

B-3:現在のビジネスがプロダクト・ライフ・サイクルの峠を越えているので、新しい収益源が必要になっている

B-1から3までに共通する課題は「より高成長・高収益のビジネスを実現すること」です。つまり何らかの理由で、現在よりも、より高成長・高収益のビジネスを実現する必要に迫られた場合は、ポートフォリオ変革を行うことになります。

ここで例を挙げて考えてみましょう。

例えば、IBMが経営危機に瀕していた1992年と、2005年の売上構成を比較すると、下記のようになります。

Table1

(*) …Lenovo社を除く数字

上記のように、経営危機に瀕していた1992年のIBMは、大型コンピュータを中心とした「製品を提供する会社」でした。経営改革の結果、製品ポートフォリオが大きく変革され、2005年には戦略コンサルティング/SI/戦略アウトソーシング/ハードウェア/ソフトウェア等を組み合わせて「ビジネス・バリューを提供する会社」に生まれ変わっています。

恐らくIBMが1992年当時の製品ポートフォリオのままハードウェア中心でビジネスを継続したと仮定すると、企業規模はかなり縮小し、その結果利益も大きく減少したのではないでしょうか? もしかしたら、企業として存続していなかったかもしれません。

IBMの場合は製品ポートフォリオを変革しましたが、顧客ポートフォリオを変革するアプローチもあります。例えば、公共部門のお客様中心であったビジネスを、市場のオポチュニティに併せて民間企業のビジネスまで拡大する方法です。これにより収益の多角化を図り、将来的な収益基盤をより強固にします。

以上のように、製品ポートフォリオの変革は、現在の延長線上に自社のビジネスの将来性がない場合に、より高成長・高収益のビジネス実現を目指して行われます。

しかし考えてみると、世の中が短期間にこれだけ大きく変化しているすることが普通の状態になっている現代では、必ずしも現在の延長線上に自社ビジネスの将来があるわけではありません。

従って製品ポートフォリオの変革は、どの企業にとってもますます重要性を増している課題であると言えるのではないでしょうか?

初回の今回は、「何故、製品ポートフォリオの変革が必要なのか?」について書かせていただきました。

次回以降は、具体的にどのように進めるかを考えてみたいと思います。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』でも、あのポストモダン・マーケティングが再現するのか?

サイトで予告編第一弾と第二弾の映像を見ることができます。

Bnr_eva_a01_01

全部で4部作になり、公開予定は下記の通りとのこと。

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』2007年9月1日予定
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』2008年公開予定
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:急』未定
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:?』未定

TV版「新世紀エヴァンゲリオン」が放映されたのが1995年10月から1996年3月。

告白いたしますと、この約1年後に私は初めてTV版エヴァ全26話を見てその不思議な世界にハマってしまい、劇場版のリリースを心待ちにし、エヴァ本を買ったりして、謎解きを楽しんでいたクチです。

賛否両論はありますが、ビジネス的に見ると、この1990年代後半のGAINAXはまさに「ポストモダン・マーケティング」の成功事例といってもいい位の仕事をしていたのではないでしょうか?

今回、「REBUILD」(再構築)ということで、完全新作ではなく、過去の作品をベースに最新技術を使って「解体と再構築」を行っているとのことです。

サイトを見る限りは、9月1日公開の「序」は、TV版での第5使徒ラミエルに対する「ヤシマ作戦」までをカバーしているようです。

TV版に忠実な作りになっている印象を受けますが、最新技術で映像品質を高める以外に、観客を夢中にさせて、あの「ポストモダン・マーケティング」を再現できる要素を持っているのか、大変興味があるところです。

その意味では、ポストモダン・マーケティングの本領を発揮するのは、TV版のストーリーの大きな組み換えが必要になるであろう3作目・4作目あたりかもしれません。

尚、参考までに、「ポストモダン・マーケティング」とは、非常に簡略化して言うと、顧客の言うことに全て従うのではなく、かといって顧客を無視するのでもなく、顧客に追い掛けられるようにするマーケティング手法です。  (詳細はこちら⇒スティーブン・ブラウン著『ポストモダン・マーケティング―「顧客志向」は捨ててしまえ!』)

出口調査は、どの程度、結果を予測できるのか?

昨日、出口調査のことを書きましたが、昨日の参院選の選挙結果も出ましたので、もう少し詳しく掘り下げたいと思います。

昨日、私が出口調査に協力したのは、朝日新聞の調査でした。

昨晩のテレビ朝日選挙番組を見ていたところ、自民の予想38議席に対して、結果は37議席でした。恐らく出口調査の結果に基づいていると思われますが、かなり正確な予測であると思います。

本日の朝刊を見たところ、朝日新聞の出口調査は全国3,630箇所で実施し、有効回答185,000人だったそうです。1拠点当り平均51名ということですね。

ちなみに、日本経済新聞も出口調査を行っており、こちらは調査対象74,000人だったそうです。

さて、この出口調査でどの程度投票結果を正確に予測できるのでしょうか?

選挙結果予測を考察するには、選挙区毎に候補者の得票率を評価することが必要になります。

幸い、朝日新聞の東京版では、東京選挙区の出口調査のサンプル数と各候補者の得票数を掲載していたので、計算してみました。

まず、東京選挙区における朝日新聞の出口調査は、180箇所で行われ、7,987名の有効回答を得ています。

一方で、開票率99%の時点で、得票率は以下の通りでした。

当選:大河原氏 18.47%、山口氏 13.48%、鈴木氏 13.26%、丸川氏 11.70%、川田氏 11.60%、
落選:保坂氏 11.04%、田村氏 9.40%……

さて、7,987名のサンプル数をもって、各候補の得票数はどの程度の信頼度で予測できるのでしょうか?

ここで、得票率11.70%の丸川氏と、同13.26%の鈴木氏を例にとって、どちらの得票率が上と予測できるか、考えてみましょう。

実際の出口調査の生データは私達は知り得ませんが、どの程度の信頼度で予測できるかを検証することが目的ですので、ここでは出口調査の結果、丸川氏の得票率が11.70%、鈴木氏の得票率が13.26%と予測されたと仮定し、この数字がどの程度の信頼度を持つかを考えてみます。

まず、両者の得票率の差の期待値は

0.1326-0.1170 = 0.0156 (1.56%)

という予想になります。分散は

((0.1326 x (1 – 0.1326)) / 7,987) + ((0.1170 x (1 – 0.1170)) / 7,987) = 0.00002732

標準誤差はその平方根をとって

0.00523 (0.523%)

と予想されます。

この場合、信頼度95.4%の信頼区間は、

0.0156 – 2 x 0.00523 から 0.0156 + 2 x 0.00523

つまり、

0 < 0.00512 から 0.02603

ということで、鈴木氏の得票率は丸川氏の得票率よりも95.4%の信頼度をもって高いと予測できることになります。

鈴木氏と丸川氏は得票率に1.56%の開きがありましたが、より僅差の場合はどうでしょうか?

得票率11.60%の川田氏と、11.04%の保坂氏を例に考えてみましょう。わずか0.54%という僅差で明暗を分けた結果となりました。

上記と同様の計算を行うと、信頼度95.4%の信頼区間は、

0.0056 – 2 x 0.00501 から 0.0056 + 2 x 0.00501

つまり、

0 > -0.00444 から 0.01561

になってしまい、川田氏の得票率は保坂氏の得票率よりも95.4%の信頼度をもって高いと予測できない、ということになってしまいます。

つまり、0.56%という僅差の場合は、このサンプル数では不十分ということですね。

計算は省略しますが、信頼度95.4%の信頼度をもってこのような接戦の結果を予測するためには、26,000名程度のサンプル数が必要ということになります。

つまり、3倍以上のサンプル数が必要になります。恐らく出口調査のコストはサンプル数に比例すると思われますので、コストも3倍以上かかるということになります。

ということで、現在の出口調査のサンプル数では、ある程度の得票差は予測可能である一方で、僅差の場合の予測はちょっと難しい、ということのようです。

ところで、東京都のサンプル数合計が約8,000件、拠点当りのサンプル数が約51件というのは、思ったよりも小さい数字ですね。

この程度であれば、昨日書いたように、各拠点の出口調査担当の方は自分で喫茶店で入力してメールで送信できる範囲のデータ量ですし、東京都レベルの調査であればExcelで十分に分析可能ということになりますね。(さすがに全国185,000人のデータは無理ですが) 

実際のところ、どのような作業なのか、興味があるところです。

 

PS. もし計算間違い等がありましたら、ご指摘願えれば幸いです。

簡単な出口調査で、実に色々な分析が出来る理由

本日、参議院選挙に出かけましたが、初めての経験を致しました。

いわゆる出口調査。

よく選挙番組で「出口調査の結果では….」と紹介しているアレです。

選挙投票所になっている中学校にある体育館の出口で、女性が一人立っていて、「出口調査にご協力ください」と紙を渡してくれました。

出口調査は一種の市場リサーチでもあり、どんな仕組みなのか知りたいという気持ちもあって、調査に協力させていただきました。

調査は、質問に○×で記入するだけという、15秒程度で終わる非常に簡単なものです。

年齢、代表区で投票した政党名、選挙区で投票した候補者名、年金問題が投票判断に影響したか、いつも支持している政党名、等をチェックするようになっています。

また、性別で渡す紙の色が違いますので、男女の特性も把握できているようです。さらに、地域毎に調査を行っているので、地域情報も付加されています。

選挙速報番組では、この調査を元に当選予測を行っています。統計学的に考えても、サンプル数がある程度の量であれば、かなり正確な予測が出来るのでしょうね。

一方で、このような簡単な調査ですが、番組を見ていると、この生データを基に、様々な視点で解析しています。

例えば、ある選挙区において、浮動票がどの政党や候補者に流れたか、という分析をしています。この分析は、「支持政党:特になし」としたグループの投票先を比率で見ると簡単に分かります。

また、今回の年金問題がどの政党に有利に働いたか、またその地域差がどうなのか、等も分かります。

サンプル数が3-4万件程度であれば、この程度の分析はExcelでPivotテーブルを使うと誰でも簡単にできます。

選挙番組では速報性が求められますので、このような分析を選挙直後にタイムリーに番組で流すためには、恐らく、予めどのような分析結果が必要なのかを定義し、そのための必要なデータを決めてアンケート内容を設計しているのではないでしょうか?

さらに、出口調査で得た紙情報をデータ入力しセンターに送信する手順と、それを分析するプロセスとスケジュールも、秒単位で定義していることと思います。

例えば、もしかしたら、出口調査をしていたあの女性がある時刻に調査を引き上げて喫茶店かどこかで数百枚程度の調査結果を急いでパソコンで入力し、メールで送信しているのかもしれません。

番組の中で、次々とグラフで出てくるデータを見ながら、裏方でかけているであろう膨大な作業と、全国でその作業に携わっている人達のことに思いを巡らせました。

一方で、このような生データは、今後の選挙を戦う上で、政党にとって非常に貴重なデータであると思います。

マスコミと政治は緊張関係にあるべきと思いますが、このようなデータの取り扱いも興味があるところですね。

比較的確実に予想できる20年後の日本の姿

未来予測は本来困難ですが、非常に高い確度で将来を予測できる数少ない要因があります。

こちらのエントリーでも書きましたように、それは人口ピラミッドです。

ITproの記事『「人口ピラミッド」から明日を知る』で、平成17年10月時点の日本の人口ピラミッドが掲載されています。

このように大きく拡大された人口ピラミッドを見てみると、改めて色々な気付きが得られます。

■現在60歳に達した団塊世代が、全世代の中で一番大きい点。60歳という年齢層にも関わらず、現在乳児の世代と比べて2倍以上の大きさがあることに改めて驚かされます。20年経過して80代になっても、多数派を維持しているのではないでしょうか?

■70-90代は女性が圧倒的に多い点。女性の平均年齢が高いことを考えると、確かにこのようになりますね。従って、10-20年後の団塊世代は、女性がかなり高い比率になることが予想されます。いわゆる「団塊マーケティング」は将来的に女性を対象にすることを今から考える必要がありそうです。

■一方で、団塊の世代と比較し、現在30代前半の年代層でなだらかな山を形成している団塊ジュニア層が、今後の社会の主役になるのでしょう。

■0-20才層が極めて少ない点、認識を新たにしました。現在、労働市場では、新入社員の賃金が上昇しているそうです。これは景気が改善し、労働市場で新卒需要が拡大しているにも関わらず供給が追いつかないためのようです。若年層の数は年齢が低いほど少なくなっているので、今後20年以上慢性的に新卒供給不足が継続し、「就職氷河期」という言葉が過去のものになる可能性がありますね。

10年後、20年後に人口ピラミッドがどのように変わるのかを把握し、それに伴って社会がどのように変わるのか仮説を立て、早い時期に検証することで、新しい市場を形成できるのではないでしょうか?

それってあり? “Will It Blend?”

Blendtecという会社が、YouTubeで”Will It Blend?"というシリーズを出したところ、売上が5倍に伸びたそうです。YouTubeを活用したマーケティング事例ですね。

こちらで販売間もないiPhoneをブレンダーで粉々にするデモがあります。

最後に「eBayに出品するよ」と言っていますね。

こちらの記事によると、ポイントは下記3点とのこと。

(1)超ワンパターンの定石:ブランド認知に効果
(2)CEOの天然キャラ:説明不要。臨場感
(3)あり得ない素材選び:「もったいない」と思うからこそ最後まで目が離せない。

この人気にあやかろうとしたラジオ局が、「CDをブレンドしてくれ」とCM製作を依頼したそうです。広告モデルも成立しているのですね。

この背徳的な感じがよいのでしょうか?

もし私がマーケティング担当者だったら「いいのか?これで?」と、ちょっと躊躇するかもしれませんが、広告効果はバツグンですね。

ちなみに、マーケティング専門家で「馬鹿げている。労力がかかりすぎる」「ニューヨークタイムズに全面広告を出す方がよっぽど効果的だ」と呆れている方々もいたそうですが、実際のところはこっちの方が効果があるような気がします。

もしかしたら、このマーケティング専門家の方々は、プロダクト・ライフ・サイクルで言うところのLaggardに分類される方々かもしれませんね。 (ということは、躊躇する私もLaggardということかも)

電話でソリューションを売る

「….のなんて、ムリ」と私達はつい思い勝ちですが、ITProの「電話でソリューションを売る!絞り込みと継続的接触を両立」という記事で、実例を挙げて解説されています。

この事例では、

■最初にリスト3000社用意
⇒このうち、情報システム部門にコンタクト成功が1800社
⇒このうち、セキュリティ案件を検討中であることが判明したのが430社
⇒このうち、資料を送付しサイド電話したのが270社
⇒このうち、アポ取り成功が38社

という結果になり、かつ、この38社については、お客様の最優先課題、現在のソリューション検討状況、競合状況、自社資料で興味を持っていただいた点も確認済になっています。

ここまで絞り込まれ、かつお客様の状況が把握できている38社であれば、セールスが足を運ぶとかなりの確率で契約できます。

まさにテレマーケティングの威力ですが、テレマを使ってこのようなスクリーニングを行うことで、セールスの生産性は大きく向上します。

活用していきたいですね。

「時には市場の声を無視する」

英エコノミスト誌6月9日号が、アップルのイノベーションについて特集記事を書いています。

6/28の日刊工業新聞のコラム「産業春秋」では、この特集で浮かび上がったポイントとして、下記の4つを挙げています。

  1. 外部の優れたアイディアを採用する
  2. 使い勝手や見た目のシンプルさをとことん追求
  3. 時には市場の声を無視する
  4. 失敗から賢く学ぶ

3番目「時には市場の声を無視する」という点が、ある意味でアップルの凄さだと思います。

特に、「時には」というキーワードが入っているところが、深みのあるところです。

言うまでもなく、「市場の声を無視する」企業は、発展することができません。アップルも、お客様の声を非常に大切にしている企業であると思います。

一方で、クレイトン・クリステンセンは「イノベーションのジレンマ」で、市場のリーダーが新興企業に負けるのは、リーダー企業が既存のお客様を大切にして、新しい市場のニーズにタイムリーに応えられないからである、と述べています。

新製品やサービスでイノベーションを起こす場合、時には市場の声を理解した上で、あえて無視することも必要な場合があります。

このようにアップルは、「時には市場の声を無視する」という文化を組み込むことで、このジレンマを巧みに避けているのではないでしょうか?

変化が激しい時代、現場で得た経験技術は役立つのか?

ドッグイヤーとかマウスイヤーと言われる現代。今まで通用していた知識(形式知)や技術は、すぐに役立たなくなります。

では、このように変化が激しい時代は、経験の蓄積を通じて得られる暗黙知や経験技術は、徐々に価値を失っていくのでしょうか?

私はむしろ、このように変化が激しい時代だからこそ、蓄積した経験技術や暗黙知が活かせるのではないかと思います

専修大学の黒瀬直宏教授が、本日(6/27)の日刊工業新聞の記事「経験技術の重要性 現場での問題解決力磨く」で、経験技術について中小企業の観点で書かれています。

ワン・ストロークで異形部品を成形する技術を開発し、大手自動車部品メーカーの仕事を獲得した部品会社や、メッキ液メーカーが理論的にこれ以上は出来ないと想定している以上の高精度メッキに成功したメッキを行う企業の事例を紹介した上で、次のように述べています。

—(以下、引用)—

このような話は決して珍しくない。例えば、工作機械メーカーの想定以上の加工精度を出す機械加工業者をよくみかける。彼らに共通のことは、実際に使う者のみが発見できる技術情報を積み重ね、理論値以上の成果を実現している点だ。科学知識より現場での問題解決能力の方が重要なのだ。その基になるのが経験技術である。

経験技術は経験しないと得られないから、専有度が高い。

企業にとって技術が科学的に高度であるかどうかはどうでもよい。科学的に新しさはなくても専有度の高い技術がよい技術だ。優れた技術成果をあげている中小企業は皆固有の経験技術を蓄積している。韓国、台湾の中小企業は技術的に日本を猛追しているが、経験技術の蓄積はまだ日本の方が厚い。いわんや中国との差は大きい。独創的なアイデアを武器とするアメリカのベンチャーも、モノづくりでの経験技術は弱い。

日本の中小企業は経験技術の宝庫だと思う。ただ、それに気づいていない企業も多い。自社技術のたな卸しをしてみることだ。

—(以上、引用)—

ここでの経験技術は、暗黙知と呼び変えてもよいと思います。

黒瀬教授のポイントは、この経験技術(暗黙知)が、日本の中小企業における競争力の源泉である、ということです。

ちょっと見方を変えて、マーケティングを例に考えてみましょう。

インターネット普及に伴い、新しく生まれたWebマーケティングの手法は、以前「ウェブ・マーケティングのための4つのチェック・ポイント」というエントリーで紹介したように、日々新しい方法論が出てきています。

しかし、考えてみると、

「自社とお客様、市場を分析し」
「ターゲットとするお客様セグメントを定め」、同時に
「自社の価値を定義し」
「ターゲットとなるお客様に対して自社の価値を効果的にコミュニケーションし」
「併せてセールスチャネルを活用してお客様にご購入いただき」
「商品・サービスを提供し」
「ポストセールスとしてサービスやサポートを行う」

という基本的なマーケティングの流れは、Webマーケティングが進化しても、変わりません。従って、非ネットの世界で学んだマーケティングの経験や暗黙知は、Webマーケティングでもそのまま活かすことができます。

さらに、WebマーケティングではPDCA(Plan, Do, Check, Action)のサイクルを速く回すことができ、非ネットの世界と比べて仮説検証を頻繁に行うことができます。

最初に仮説を立てて、その仮説を実施した結果、数字による事実で検証する。

この仮説検証サイクルを回し、新しい洞察を得るためには、今までマーケティングで培ってきた暗黙知が大いに役立ちます。例えば、お客様の行動シナリオを想定し検証する、というケースです。

つまり、変化の激しい時代こそ、今までに経験から学んできた暗黙知が大きく役立ってくる、ということなのではないでしょうか?

B2Bビジネスで、お客様と一体となって「価値」を創造するために

本日(6/26)の日刊工業新聞の「現場回帰 営業編 セールスエンジニア」という記事で、製品開発の現場にアプローチする営業担当者について特集していました。

—(以下、引用)—

…最先端デバイスを扱う営業担当者は顧客の新製品開発のきっかけを提供しているのだ。

「国際競争が厳しくなる中で、顧客が欲しいのは差別化製品のアイデア。デバイスとアイデアの組み合わせが利益を生む」アイデアを持たないで営業していると価格競争に陥ることになる。

—(以上、引用)—

企業のお客様は、単に製品や技術が欲しいのではなく、その製品や技術を自社の能力を組み合わせることで、何が可能になるかを知りたいということです。

言い換えれば、記事にある通り、個別技術よりも、活用アイディアの方が優先順位が高いということですが、この視点は、企業のお客様に対してマーケティングやセールスを行っている人達にとっても、重要ですね。

従って、マーケティングやセールス担当者は、自社製品の技術を理解するのは大前提として、さらにお客様が自社製品をどのように活用して価値を生むのか、出来る限り多くの材料を持っておく必要があります。

ここで重要なのは、お客様の能力やニーズはお客様毎に異なりユニークである点です。従って私達はお客様毎に価値を考える必要があります。

言うまでもなく、個別のお客様毎にこれを考えるのは難しい課題です。

これを解決するのが「テンプレート」という考え方です。

お客様を業種や職種等のセグメントで括り、お客様固有のニーズをある範囲内に収めることで、同一セグメント内のお客様に対しては、事前にお客様セグメント毎に作成しておいたテンプレートを適用することで、より生産性高くお客様の要望に対応することが可能になります。また、セールス担当者の個人差に左右される可能性も減らすことができます。

—(以下、引用)—

 できるだけ早期に、技術完成度を高め、しかも必要なものをすべて提案することが、現在のデバイス営業現場には求められる。製品サイクルが速く技術での差別化が難しいデジタル時代において、顧客は特徴ある製品を迅速に送り出すことを求めているからだ。こうした時代の要請に応えるには「顧客とのイメージの共有が必要。これを営業を介して社内の技術陣も共有し、新しい市場を創出することを意識することが絶対に不可欠」だとソニーの関は断言する。

…..営業は単に「売る」機能だけでなく、それ以上の付加価値を求められていた。それは電子部品やシステムなどBtoB(企業間)ではユーザー企業が差別化製品を生み出すため。家電製品など最終製品の分野では生活者の暮らしに豊かさを与えるため。営業とは、顧客と一体となって「価値」を創造することだ。

—(以上、引用)—

「お客様とともに市場を創出するという視点が必要」という言葉は、「市場を創出」を「イノベーションの実現」に置き換えて、「お客様とともにイノベーションを実現するという視点が必要」と読み換えると、私達ITベンダーにも当てはまります。

私達がお客様と一体となって「価値」を創造するためには、ソニーの関さんもおっしゃっている通り、営業担当者だけでなく、チームで対応する必要があります。

昨年末に「何故、ヒット商品の寡占化が進んでいるのか?」でも書きましたように、「全体最適を通じてお客様の課題を解決する」ことが求められているということですね。

なぜ、新製品が売れないのか?

私は、製品企画、製品開発、プリセールス、マーケティングを長年やってきましたが、ここで身に染みて痛感していることがあります。

「新製品は、なかなか売れない!!」

新製品をいかに売るか、ということについて、日刊工業新聞に毎週連載中している専修大学教授・黒瀬直宏さんの6/20の記事「いかに製品を売るか 理解と信用を勝ち取る」では、いい事例を2つ紹介しています。

—(以下、引用)—

「いかに売るか」は中小企業にとって、潜在ニーズを発見する以上に難問だ。中小企業がいくら良いものを開発しても、取引の実績がない、名前が知られていないというだけで、購入を拒否されることはよくある。

—(以上、引用)—

これは、今までになかった機能を持った新製品を市場に投入する際に、必ず発生する問題です。

特に中小企業では、大手企業が手がけていないニッチな未開拓領域(セグメント)で勝負することになりますので、新市場開発そのものも自分達で行う必要がある点に難しさがあります。

—(以下、引用)—

(ある企業が)苦労の末、開発したのが、水を電気分解して消毒水をつくるという画期的技術。化学薬品を使っていないので、手を洗うと中和して、廃水処理なしで流せる。病院やレストランで使ってもらえると思い、営業に出かけた。だが、田舎の中小企業の名刺を出しても、院長先生は会ってもくれない。

….(中略)…..

実際に消毒水をつくり、ようやく信じてもらえた。こうなるまで、2-3ヶ月間。下請企業で専門の営業マンがいるわけではない。幹部社員が暇を見つけて営業に出かけるから、時間がかかってしまう。これでは、売れても年数台で、ビジネスにならない。

ボルト・ナットを生産している中小企業が、通常製品に比べ、価格は2-3倍だが、海上での保ち(錆びない)が4倍になる製品を開発した。東京湾横断道路で130万本も使用されるなど、ヒット製品になったが、すぐに売れたわけではなかった。ある大企業にセールスに行ったが、けんもほろろ、会ってもくれない。気の毒になった技術担当者がようやく会ってくれた。さまざまなデータや試験を要求されること、半年。これで採用かと思ったら、自分の一存ではどうにもならないと言われ、次に係長、課長と会わされ、それぞれ品質の証明に半年かかった。最後に採用権限を持つ技術担当部長にようやく到達。いわく「品質がよいのはわかった。でもはじめて採用したネジが原因で一基500億-1000億円もするプラントに、万が一でも事故が起きたら私のサラリーマン人生は終わりだ。オタクと心中するわけにはいかない」。結局採用されなかった。

消毒水が広まり始めたきっかけは、医学者の中から理解者が現れたことだった。 (中略)  さらに、民放テレビが「魔法の水」として連続3回、放映してくれた。ここから引き合いが一気に増えた。

錆びないネジが売れはじめたきっかけは、思いあまって経営者がアメリカへ飛び、有名石油会社の推奨ベンダーになれたことだった。これで信用が付き、日本国内での顧客獲得につながった。

—(以上、引用)—

■ ■ ■ ■

ここで何が起こっているのかは、テクノロジー・ライフ・サイクルで考えるとわかりやすいと思います。

テクノロジー・ライフ・サイクルとは、製品が世の中に普及する際に採用する人の順番を考えたものです。

最初に、技術に飛びつく人が採用します。この人達は「テクノロジー・マニア」と呼ばれます。

次に、この技術を活用して、他者と差別化を図ろうとする人達がいます。この人達は「ビジョナリー」と呼ばれます。

次に、技術が世の中に普及し、使っている人がある一定の比率を超えると、リスクを慎重に評価した上で現実の問題を解決するためにその技術を採用する人達がいます。この人達は「実利主義者」と呼ばれます。

次に、世の中にかなり普及した段階で、安心して購入を検討する人達もいます。この人達は、「後期採用者」(又は保守主義者)と呼ばれます。

技術が普及する際には、この順番で採用されます。

■ ■ ■ ■

ここで注意すべき点は、ビジョナリーと実利主義者は行動パターンが正反対である点です。

ビジョナリーは、リスクを進んで取り、他者がやっていないことをやることに価値を見出します。例えば、誰も使っていない技術を活用して差別化を図ろうとします。

一方の実利主義者は、現実的で、他者の成功を参考にし、リスクを管理することに価値を見出します。従って、実装済みの技術を活用していきます。

このように考えると、引用した二つの事例では、最初にビジョナリーではなく、実利主義者(または後期採用者)にアプローチしてしまった、ということがよく分かります。

消毒水の場合、最初のお客様である病院では2-3ヶ月かけて効果を検証しましたし、錆びないネジに至っては、見込み客であった大企業は1年以上かけて部長決済まで行った結果、却下されてしまいました。

これらの人々は、いかに革新的な製品であることを説明しても、誰かが実際に使用して効果が実証されていないものにはなかなか投資しない人達です。

従って、膨大な販売努力をしていたにも関わらず、なかなか売れない、という結果になります。

一方で、引用記事の後半で出てきた、消毒水に理解を示す医学者は、ビジョナリーである可能性があります。テレビ番組で連続3回放映したことで、実利主義者のリスクに対する警戒心が解けたのも大きな材料でした。実利主義者は、先行するビジョナリーの判断に従うからです。

錆びないネジを採用した有名石油会社も、恐らくビジョナリーなのではないでしょうか?このビジョナリーである石油会社が採用したことで、多くの実利主義者が採用を始めた、ということのようです。

■ ■ ■ ■

従って、新製品の営業活動を行う場合、最初にどの見込み客にアプローチするかは、非常に大切な戦略です。

最初に注意深くターゲットを絞り、テクノロジー・マニアまたはビジョナリーに対してアプローチし、そこで効果を検証して事例を作ります。

そこで得られた成果に基づいて、セールス・シナリオや様々な顧客事例集をパンフレット等にまとめ、それらの材料を活用して、次に実利主義者にアプローチすることになります。

製品成功のカギは、実利主義者が採用することです。

それは実利主義者と後期採用者の市場規模が、ビジョナリーの市場規模と比べてはるかに大きいことと、実利主義者が採用すれば時間経過に伴って後期採用者も採用することが理由です。

しかしながら、ビジョナリーから実利主義者に浸透する際には、「キャズム」と呼ばれる大きな谷があります。この谷を越えない限り本格的普及には至りません。

例えば、写真の世界で言えば、20年程前に出たコダックのディスクカメラや、最近のAPSフィルム等は、キャズムを越えられず実利主義者が採用しなかったために普及できなかった例です。ITの世界でも、色々とありますね。

事例で紹介されているケースでは、経営資源が少ない中小企業だからこそ、このようなマーケティング理論を実際の日々の営業活動に適用し、活用することが非常に大切になってくるのではないか、と思います。

『銀河系最強から地上最強へ』 レアル・マドリードに見る、戦略思考の重要性

レアル・マドリードがスペイン1部リーグで優勝しましたが、レアル・マドリードのラモン・カルデロン会長のインタビューが昨日(6/19)の日経産業新聞に掲載されています。

—(以下、引用)—

―この試合を最後にベッカムが去り、チームも大きく変わる。

「“銀河系軍団”はこれで終わりだ。人気のある選手を多く連れてきたが、ポジションが重なったり、バランスが取れていなかったりした。世界のトップクラスの選手を獲得する方針は変わらない。ただ選手のバランスとチームの戦略を考え、効果的な補強をする。銀河系というような浮ついてごう慢な集団ではなく、地上で最強のチームをつくるつもりだ」

—(以上、引用)—

「銀河系最強」から「地上最強」へ、ということですが、単に人気のある選手を獲得するのではなく、チーム全体のあるべき姿を考え、求められる選手の能力を決めた上で、必要な選手を獲得することにした、ということのようです。

確かに、戦略なき選手補強は、「人気の獲得」という観点では意味があるかもしれませんが、「勝利の獲得」という観点ではあまり意味がありません。むしろ阻害要因になりかねません。

目標を定めて必要な経営資源を育て、あるいは調達する、という企業が普通に実行していることを行う方向に、レアル・マドリードも舵を切った、ということですね。

同じことは、レアル・マドリードのようなチームだけではなく、我々にも言えるのではないでしょうか?

従来、特に日本では一人一人が組織化した際の組織全体の能力が高いため、戦略思考がなくても組織で柔軟に対応でき、何とか出来ていた面もあったと思います。

しかし競争がますます激しくなる今後、戦略の重要性はますます大きくなります。また、インターネットやITに普及で、一人で任される責任範囲も大きくなり、一人一人の役割も拡大します。

このような時代、我々一人一人も戦略的思考能力が求められるようになるのではないでしょうか?

既にこのブロブでも何回か紹介させていただいていますが、田坂広志著「まず、戦略思考を変えよ」は、我々がこの力をどのように養うかを考える上で参考になります。

ソリューションのキモは「問題は解決を待っている!!」という視点

本日(6/6)の日刊工業新聞の記事「潜在ニーズを探る 問題意識がビジネス生む」(専修大学商学部 黒瀬直宏教授執筆)は、お客様の潜在ニーズをいかに製品に結び付けるかを考える上で、大変参考になりました。

—(以下、引用)—

 船舶用冷凍機や産業用冷却システムで世界シェアトップの前川製作所のマーケティングの柱は、「顧客がうまく言い表せないニーズを汲み取って提案する」ことだ。

同社では各種のユニークな自動機も開発している。ヒット商品の一つに「トリダス」がある。

鶏肉加工場に冷凍機を納めに行った社員が、手作業で鶏のモモ肉の骨をはずしているのを見て、非効率なのに驚き、自動機の開発に取り組んだ。鶏肉加工業者の方では、「この業界では昔から手で骨を取り出すことになっている。それ以外の方法があるのではと考えること自体がばかげている」と思い込んでいる。

自動機の開発には時間がかかったが、それを見せられた鶏肉加工業者は、その便利さに飛びついた。ということは、鶏肉加工業者には「自動で脱骨する」というニーズが確かにあったのだが、自分自身ではそれにはっきり気づいていなかったということだ。

—(以上、引用)—

これは、まさに「ソリューション」ですね。

「ソリューション」という言葉、残念ながらIT業界では既に使い古されつつあるキーワードになっています。しかし、この考え方の重要性は、時が過ぎても変わらないと思います。

「トリダス」のように、一度見せればその価値が一目瞭然で、売れるものを揃えていきたいものです。

そのためには、お客様が気が付かない潜在ニーズの掘り起しが必要になります。

その潜在ニーズ掘り起こしのためには、お客様の理解が必要になります、

しかし誤解を恐れずに言えば、ここで重要なのは、決してお客様の完全な言いなりになってはいけない、ということだと思います。

確かに、お客様が言葉に出しておっしゃることは非常に大切であり、お客様の声に真摯に対応していくことが重要であることは言うまでもありません。

しかし、我々はその上で、お客様が気が付かない視点を持ち、お客様が知らなかった解決方法を提供していくことが求められています。

この記事では、このことについても考察しています。

—(以下、引用)—

解決を待っているのが「問題」だ。「問題」こそ潜在ニーズのたまり場である。ところが、顧客の多くは「問題」に慣れてしまい、「問題」を「問題」と意識しなくなっている。それを第三者の目で気づかせる。「お客さんが必要としているのはこういうことではないですか」という具合だ。

提案はご用聞きと違い、高度な能力が必要だ。

—(以上、引用)—

「問題は解決を待っている!!」という視点、非常に重要ですね。

この視点を身につけるためには、我々は「与えられた問題をいかに解くか?」という姿勢から、「どのような問題を見つけるか?」という姿勢に、大きく変えていく必要があるのではないでしょうか?

Podcast最終回配信:「マーケティング・プロフェッションの皆様へ」

本日、最終回となる第四回目の配信です。

今回のタイトルは「マーケティング・プロフェッションの皆様へ」です。

激動の世の中で、未来志向の考え方が求められるマーケティングの位置づけと、マーケティング担当者への期待はますます高まっていると思います。

このような中、今回は日頃の思いを語らせていただきました。アクセスはこちらで。

今回、初めてPodcastに挑戦しました。反省点を挙げるとキリがないのですが、一方で自分の思いを伝える情報伝達手段として素晴らしいメディアであると思います。

できれば機会があれば、またチャレンジしてみたいですね。

下記は原稿です。収録中は箇条書き原稿を読んいるため、この通り話していませんが、ご参考まで。

—(以下、原稿)—

『マーケティングが分かると、ビジネスが見える』
■第四回■マーケティング・プロフェッションの皆様へ

こんにちは、永井孝尚です。

私は日本IBMのソフトウェア事業部で、マーケティング戦略を担当しています。どうぞよろしくお願いいたします。

「マーケティングが分かると、ビジネスが見える」と題して、4回に渡ってお話させていただいてます。

第一回目は、「マーケティングはバリュー・プロポジションから始まる」
第二回目は、「お客様の課題をどのように解決できるか、正しく考える」
第三回目は、「局地戦ではなく、総力戦で考える」
第四回目は、「マーケティング・プロフェションの皆様へ」

をお伝えしています。

最終回の今回は、「マーケティング・プロフェッションの皆様へ」です。

■ ■ ■ ■

私が勤務するIBMでは、職種別に「プロフェッショナル制度」があります。

これは1992年の経営危機の際に、当時CEOに就任したガースナーが経営改革の一環で始めたものです。

技術系、営業系、コンサルタント系、マーケティング系等の基本的なキャリアパスが世界共通で定義されています。

マーケティング系も複数のプロフェッショナル職種があります。その中で、私はマーケティング・マネージャーというプロフェッショナルになります。

マーケティング・マネージャーの仕事は、担当する市場のマーケティング戦略の立案及び実施です。

■ ■ ■ ■

この仕事を長年担当している関係で、マーケティング担当者のプロフェッショナル認定審査や、コーチングを担当させていただくことが最近多くなりました。

その経験で、最近、次の二つの質問で相手の方のマーケティング・マネージャーとしてのおおよその力がわかるのではないかと思っています。

質問1:あなたは、マーケティングとは、どのようなものだと考えますか?

質問2:あなたがマーケティングを担当している分野について、これから3年間のあなた自身が考えるマーケティング戦略を教えてください。

両方とも簡単な質問ですが、常に問題意識を持っていないと答えられません。

質問1については、実はマーケティングの本に書いてあるような答えは求められていないのです。

理由は、その手の教科書を覚えられれば誰でも答えられるからです。

ここで期待されているのは、自分自身の経験に基いた回答です。

質問2については、いかに自分で主体的に仕事に取り組んでいるかが問われます。

上から与えられた仕事をただ言われた通りこなすのではなく、自分自身が自分の仕事の主役になり、自分が考える理想の姿と現実の差を把握し、どのように自分で解決するか、常に考えることが必要です。

■ ■ ■ ■

「いや、自分は考えたこともないし、そんなものは持っていない」という人も多いのですが、実はそんなことはないと思います。

例えば、あなたが新入社員だった頃のことを思い出してみるとよいのではないでしょうか?

入社してからの1年間、自分はあまり成長していないようなジレンマを感じていた人も多いと思いますが、1年後に入社してきた新人と入社1年後の自分を比べてみて、誰でも大きく成長している自分を見つけた筈です。

つまりわずか1年の間に、仕事を通じて様々な経験をし、仕事の暗黙知を蓄積しているのです。

実際、毎年4月の通勤時に出会うような、一目で社会人一年生だと分かる初々しい人達も、2-3ヶ月も経つとたくましい社会人になりビジネス・パーソンの中に溶け込んでいます。

1年間でこれだけ違うのですから、数年間、又は十数年間取り組んできた仕事から、誰でも非常に大きなことを学び、言葉にはできない暗黙知や問題意識を身につけている筈です。

■ ■ ■ ■

問題はそれが相手に言葉で説明できる形式知の形で整理されていない点です。

形式知の形で整理することで、問題点と将来の目標もみえてきます。

従って、それらを改めて考えて、整理してみることが、プロフェッショナルとして育つためには重要なのではないでしょうか?

実際に行ってみるとなかなか大変な作業ですが、必ず自分に見返りがあります。

さて、

・あなたは、マーケティングとは、どのようなものだと考えますか?

・あなたがマーケティングを担当している分野について、これから3年間のあなた自身が考えるマーケティング戦略を教えてください。

これらの質問に対して、即座に回答できるように、常に考えていたいものです。

私自身も考えていきたいと思いますし、皆様も是非考えてみては、と思います。

■ ■ ■ ■

さて、最終回は「マーケティング・プロフェショナルの皆様へ」というテーマでお送りさせていただきました。

4回に渡ってお送りさせていただきましたポッドキャストも、今回で一旦一区切りになります。

短い間でしたが、マーケティングのさわりの部分をお送りいたしました。

この続きは、オルタナティブ・ブログの中にある私のブログ「永井孝尚のMM21」でお送りします。

今後ともよろしくお願いいたします。

4回に渡りお付き合いくださり、どうもありがとうございました。

今後の皆様のますますのご活躍とご発展をお祈りいたします。

—(以上、原稿)—



キーワード記事*

ポッドキャスト

マーケティング

ニューヨーク市に学ぶブランド価値向上

1980年代、私は何回かニューヨーク州に出張しましたが、当時のニューヨークは治安が悪く、私自身が海外に慣れていないこともあって、物騒な雰囲気の印象を持っていました。

その後、1994年に就任したルドルフ・ジュリアーニ市長のリーダーシップで、ニューヨーク市は全米でも最も安全な大都市に変貌したのはご存知の通りです。

そんなニューヨーク市ですが、本日(2007/5/23)の日本経済新聞夕刊によると、ジュリアーニの後を継いだマイケル・ブルームバーグ市長が、2012年を目処に名物の黄色いタクシー「イエローキャブ」をすべてハイブリッド車に切り替える計画を明らかにしました。

現在13,000台のイエローキャブはフォードの大型セダンでリッター当りの燃費は約6Km。

ハイブリッド車の燃費はこの数倍。

イエローキャブをハイブリッド車に切り替えることで、ニューヨーク市を走る車を32,000台減らしたのと同じ効果があり、1台年間10,000ドルの燃費も節約できるそうです。

二酸化炭素を抑える上で、走行距離が普通の車よりもはるかに長いタクシーに目を付けたのは非常にいいポイントを突いていますね。

さらに、街中を走っている全てのイエローキャブがハイブリッド車になると、これは街中の人々の目に日常的に焼きつきます。

これにより人々の環境に対する関心を高め、かつ、ニューヨーク市が環境に対して先進的な考えを持つ都市であるという印象をアピールする上でも、非常に効果的と思います。

人々の環境に対する意識を変え、かつ、ニューヨーク市のブランド価値を高める上で、まさにスイートスポット的なマーケティング・プログラムである、とも言えるのではないでしょうか?

このようなプログラムは、是非日本の都市でも見習っていただきたいですね。石原さんに期待したいところです。


キーワード記事*

エコロジー

図で整理する際に陥りがちな罠

戦略を考える際、我々はつい縦軸と横軸にパラメータを取って、マトリックスを描いてモノゴトを整理しがちです。

しかし、「ドラッカーのIT経営論:“図”をまったく使わない訳」によると、ドラッカーはこのことに警鐘を鳴らしていたようです。

—(以下、引用)—-

マトリクスであれば、ある定義にそって境界線を引く。その境界線は不変ではなく動く可能性がある。そのことを頭に入れてマトリクスを使うのであればいい。そうではなく、モデルの境界線や座標軸が絶対と思ってしまったら、大きな間違いを犯す危険がある。

モデルが便利な道具であることは間違いない。優れたモデルを使うと、物事の全体をうまく整理でき、気が付かなかった課題を見出せる。現場の各論の解決に走り勝ちな日本企業にとって、各論をいったんモデルの中に置き、優先順位や課題の整理をすることは意味がある。ただし、美しい絵を描いただけで物事は進まないし、いったん進み出したとしても絵の通りにはいかない。臨機応変が必要である。

—(以上、引用)—-

なるほど、確かにドラッカーの著書で図は見たことがありませんね。

このブログでも、市場は生き物であり、市場という地形やルールはよく変わってしまうということを書いていますが、ドラッガーが指摘しているように、この市場のルールに基いて作ったモデルは、ルールが変わると当然変わることになります。

従って、一旦描いたモデルを金科玉条とすることなく、モデルには賞味期限があるということを十分に理解した上で活用したいですね。

さらに一歩進んで、自分で作ったそのモデルを自ら破壊して新しいモデルを作れるようになりたいものです。

世の各種マーケティング理論、実はみな帯に短したすきに長し

マーケティングの世界では、様々なマーケティング理論が存在しています。

これらを実際にビジネスに適用するにあたり、我々はどのように考えればよいのでしょうか?

このことを考える上で、ヘンリー・ミンツバーグが、NBonlineの記事「MBA型リーダーは企業を破綻させる米国をまねる日本企業の落とし穴」で語っている内容は、参考になります。

—(以下、引用)–

日本の経営者には、(中略)、米国の経営スタイルなど絶対にまねるなと言いたい。むしろ、「お互いが協力する」という戦前から根づいている日本の企業ならではの強さをこのグローバル時代でも追求し続けることが、長期的に企業としての競争力、高い生産性につながると強調したい。

「最初から完璧な戦略はない。思考と行動を繰り返し、経験を通じ進化させるものだ」

—(以上、引用)–

新原浩朗著 「日本の優秀企業研究」 では、日本の優秀企業の条件として、

「自分たちが分かる事業を、やたら広げずに、愚直に、まじめに自分たちの頭できちんと考え抜き、情熱をもって取り組んでいる企業」

としています。上記のミンツバーグの指摘とあい通じるものがありますね。

また、ミンツバーグは、以下のように語っています。

—(以下、引用)–

絶対に成功するマネジメントの方程式などないのです。日本企業が、これまで強みとしてきた従来のロジックを貫いて、米国に翻弄されない独自の経営スタイルを築いていくことを願っています

—(以上、引用)–

万能なマーケティング理論もまた、存在しないということですね。

ミンツバーグは、著書「戦略サファリ」で、世の中でメジャーなほとんど全ての多くのマーケティング理論を取り上げて長所・短所・限界・問題点を詳細に検証しています。

例えば、日本では戦略論=ポーターとまで言わますが、この本ではポーターは10通りある戦略スクール(学派)のうちの一つとして位置づけられています。

世の中の様々なマーケティング理論に振り回されないために、参考になるかもしれません。

私達がマーケティング戦略を立てる場合も、様々な理論に惑わされることなく、その本質を理解し、役に立つ部分のみを活用するように心がけたいものですね。


ウェブ・マーケティングのための4つのチェック・ポイント

先日のエントリーで、マーケティング・センスを磨く方法は、ホームページを持つことと書きましたが、ウェブ・マーケティングを行うことで、これがさらに磨かれていきます。

ということで、ovetureやGoogle AdWords等の検索エンジンを使って、ウェブ・マーケティングを効果的に実施するためのチェック・ポイントをまとめてみました。

ウェブマーケティングの結果は、下記4要素について、見込み客のアクションを行う確率を掛け算することで決まります。

結果 = 検索キーワード x メッセージ x コンテンツ x アクションのしやすさ

見込み客が検索を行って申込みをするまでの行動を追いかけながら、それぞれどのような意味を持つか考えてみましょう。

1.情報を検索する

ターゲットとなる多くのユーザーに検索されることが必要です。但し、「ターゲットであること」がカギで、ターゲットではないユーザーは引っかからないようにする配慮も必要です。

アクション:検索キーワードの設定

ここでのポイントはむやみにキーワードを広げすぎずに適切なキーワードを絞込むことです。

例えば、マーケティング調査会社が調査レポートを売る場合、「マーケティング」というキーワードではなく、「マーケティング 調査」等のキーワードを設定する方が、費用対効果の面で、より対象ユーザーに効率的に訴求できます。

またこの例では、さらに調査レポートの内容を盛り込んだキーワードの方が望ましい結果が得られます。(例えば、CRMの導入状況の調査であれば、「CRM 導入率」等)

総インプレッション数を確認しながら設定します。

2.検索結果をクリックする

広告が興味を引き、ターゲットユーザーが多くクリックすることが必要です。

⇒アクション:適切な広告内容の設定

タイトルと説明文が分かり易く興味を引くことが必要です。実際に広告を出してみた結果、総クリック数及びクリック率が確認できます。この結果で判断し、タイトルや説明文を修正します。

1.とも関係しますが、場合によっては、あまりに一般的なキーワードは削除する必要があります。

3.サイトで情報を調べる

広告をクリックした結果、ここでやっと見込み客がサイトに来るわけですが、そこに探している情報があることが重要です。せっかくサイトに来ても、欲しい情報がなければ、見込み客は数秒で立ち去ります。(自分達が期待しているほど、見込み客は私達のサイトに思い入れはないのです)

⇒アクション:サイトのコンテンツを充実させ、かつ分かり易くする

ポイントは、広告とコンテンツが一致していることです。サイトのページ別アクセス状況を確認しながら、修正していきます。

4.注文や申込みを行う

サイトを見て興味を持った見込み客が、注文や申込み等の期待しているアクションを実際に行っていただくことが必要です。

⇒アクション:注文・申込みをしやすくする

自然に注文・申込み画面に誘導できるようにサイトがデザインされ、かつ、申込みしやすいことが必要です。入力項目が多すぎたりすると、せっかく入力し始めても途中であきらめる人がいたりして、結果に結び付きません。

申込み完了ページ等にタグを埋め込んで、コンバージョンカウンターの結果を確認しながら、修正していきます。

 

ウェブ・マーケテイングのよいところは、上記のチェックが非常に頻繁に行えることです。

仮説検証サイクルをPDCA (Plan ⇒ Do ⇒ Check ⇒ Action)を通じて出来る限り頻繁に回していくことで、結果は改善し、マーケティング・センスも磨かれていきます。

Podcast第3回配信:「局地戦ではなく、総力戦で考える」

本日、第三回目の配信です。

今回のタイトルは「局地戦ではなく、総力戦で考える」ですが、これは日頃の仕事で感じている問題意識をまとめたものです。

ある程度の大きさを持った組織になると、どうしても縦割りの弊害が出てきます。「組織の論理」です。

このような企業では、「組織の論理」を超えて、企業の本来の目的である「お客様の課題の解決」を組織横断的に総力戦で取り組む必要があります。今回Podcastでお話した背景には、この問題意識があります。

特に、製品主導型マーケティングから、顧客中心モデルに変革してきた現代は、このことは極めて重要になっています。

皆様のご感想をいただければ幸いです。アクセスはこちらで。

下記は原稿です。収録中は箇条書き原稿を読んでいるため、この通り話していませんが、ご参考まで。

—(以下、原稿)—

『マーケティングが分かると、ビジネスが見える』
■第三回■ 局地戦ではなく、総力戦で考える

こんにちは、永井孝尚です。

私は日本IBMのソフトウェア事業部で、マーケティング戦略を担当しています。どうぞよろしくお願いいたします。

「マーケティングが分かると、ビジネスが見える」と題して、4回に渡ってお話させていただいてます。

第一回目は、「マーケティングはバリュー・プロポジションから始まる」
第二回目は、「お客様の課題をどのように解決できるか、正しく考える」
第三回目は、「局地戦ではなく、総力戦で考える」
第四回目は、「マーケティング・プロフェションの皆様へ」

をお伝えしています。

■ ■ ■ ■

第三回目の今回は、「局地戦ではなく、総力戦で考える」です。

今回、お伝えしたいのは次の4点です。

「現代のヒット商品を生み出す要因は何か?」
「なぜ、総力戦なのか?」
「過去のロマンは、現代はどのように変わるのか?」
「我々はどうすべきか?」

です。

■ ■ ■ ■

さて、最近、ヒット商品の生み方が変わってきているように思います。

例えば、昨年12月に、日経ビジネスで「ヒット連打の新法則」という特集がありました。

この記事では、最近のヒット商品上位は特定企業が独占していることを分析しています。

いわゆるヒット商品の寡占化です。

ヒット商品を独占する企業に共通する点があります。

何だと思いますか?

それは、独創性を育む文化でも、トップのリーダーシップでも、また、人材でもありません。

共通しているのは、ヒット商品を生むための組織作りを行っていることです。

これらの企業に共通しているのは、開発部門、営業部門、又は単一事業部だけの努力でヒット商品を生んでいるのではなく、全社最適化を通じてヒット商品を生んでいます。

つまり、局地戦ではなく、総力戦で、ヒット商品を生み出しているのです。

言い換えると、「縦割りの弊害」を克服し、「全社最適」を達成することで、お客様のニーズに応えているのです。

■ ■ ■ ■

全社最適を行ってヒット商品を生み出している企業は、組織の壁を取り払って、オープンに情報を共有し、場合によっては海外のパートナーともアライアンス等を通じて協業しながら、部門間の力を結集してお客様に価値を届けています。

数十年前までは、社内の複数の開発チームで製品開発を競わせる、ということを行っていた企業はいくつかありました。現在では、このような企業は極めて少なくなっています。

この理由は、単に昔が今よりも余裕があったということだけではないのではないでしょうか? むしろ昔は、製品主導マーケティングが有効で製品の機能が重要だった時代だからこそ、有効な戦略だった、ということなのではないでしょうか?

現代は市場全体が顧客中心モデルに変わってきたことで、単に商品力だけの勝負ではなくなったために、複数チームで製品の優劣を競わせること自体の意味が薄れてきています。

■ ■ ■ ■

また、ほんの10年前までは、

「全社方針に反対し、ある事業部の有志でこっそり開発していた技術がやっと陽の目を見て大輪を咲かせ….」

というようなロマンを感じさせる話がありましたが、世の中のフラット化が進み、変化が速くなった現代、ますますこのようプロジェクトの進め方は難しくなってきているように思います。

むしろフラット化された現代では、有志だけでこっそり開発するのではなく、社内外に積極的に情報をオープンにし、プロジェクトに賛同する有志を集めて実施する方法が、よりマッチしているのではないでしょうか?

LINUXを開発したような方法ですが、実際、お客様によって企業が提供しているオープンソースを成長させている例もあります。面白そうなプロジェクトがあると、やりたい人が集まる。これが現代のロマンなのではないかと思います。

市場全体が顧客中心モデルに変わってきた現在、マーケティングも局地戦ではなく、総力戦で企業全体の力を活用し、場合によっては足りない部分はパートナーとのアライアンスで補って、お客様のご満足を得るようにしていく必要があります。

■ ■ ■ ■

以上のように、これからのマーケティングは、局地戦ではなく、総力戦でどのようにお客様の課題を解決していくのか、を考えていく必要があります。

このためには、マーケティング担当者には、相手と確実に意思疎通ができるコミュニケーション力と、複数部門間の利害調整ができる交渉力が必要になります。

従って、対人力も、マーケティング担当者にとって非常に重要な力です。

■ ■ ■ ■

さて、第三回は「局地戦ではなく、総力戦で考える」というテーマでお送りさせていただきました。

次回は、「マーケティング・プロフェッションの皆様へ」というテーマでお送りいたします。

どうもありがとうございました。

—(以上、原稿)—

関連リンク:
Podcast第2回配信:「お客様の課題をどのように解決できるか、正しく考える」
Podcast配信開始:「マーケティングはバリュー・プロポジションから始まる」

温暖化ビジネスと今後の課題

最近、温暖化が進んでいることを示す様々な調査結果が相次いでNASAから発表されています。

例えば、「NASA、南極で大規模な積雪の融解を発見・総面積は米カリフォルニア州に匹敵」という記事。NASAのジェット推進研究所とコロラド大学の共同研究の結果として、温暖化の影響で南極で大規模な積雪の融解が起こっていることを伝えています。

「温暖化が進行する地球」という記事。NASAのゴダード宇宙研究所が1951年から1980年の地表温度の平均値に対する乖離値を示した温度マップを発表しています。これを見ると、どの地域で温暖化が進んでいるのかがよく分かります。

1880年以降の全地球レベルの地表温度のグラフもあります。1980年代以降急激に伸びています。

なぜ、石油が活発に使われ始めた20世紀中頃からではなく1980年代からなのか、という問題ですが、これは地球が二酸化炭素等の温室化現象の原因が増加してから、実際にその影響が出るまでのタイムラグがあるからかもしれません。

私は地球温暖化の専門家ではありませんので、素人の意見ですが….。

この仮説が正しいとすれば、温暖化対策を打ってから効果が出るまでの間も、同様に数十年の期間がかかるということですので、出来るだけ早め早めに対策を打っていく必要があります。

一方で、世の中を見ると、最近、温暖化ビジネスがいたるところで始まっているように思います。

NASAや大学研究機関等のインフルエンサーにより啓蒙活動を行い、人々の認識を変えていくことで、多くの企業が温暖化ビジネスに参入しやすくなり、この結果、地球の温暖化を食い止めるパワーも大きくなります。

地球規模で壮大にマーケティング手法を活用して進めているように見えます。

一方で今後の問題点は、「温暖化ビジネス」を記号として消費し尽さないことだと思います。(分かりやすく言うと、人々が温暖化対策というものに「飽きてしまわない」ようにする、ということです)

マーケティング手法では、ともすれば飽きやすい消費者に対して常に新しい価値観を提供し続ける必要があります。数十年間という期間での根気が要る対策が必要な温暖化対策では、これが大きな障害になる可能性があります。

現時点では多くの人達が地球温暖化に対する危機感を持ち始めていますが、新しい視点を提供し続け、常に人々が危機感を持ち続けられるかが、長期的な課題なのではないでしょうか?

確実に未来を予測できる数少ない要因

このブログでも何回かご紹介しているように、市場調査で未来を予測するのは大変困難です。

現代では市場の変化がますます激しくなっているため、未来は現在の延長線上にはないためです。

そんな中で、未来を確実に予測できる数少ない要因があります。

それは人口動態です。

既に生まれている人達の年齢別人口分布は一定でほぼ変わりません。

生まれていきなり10歳とか20歳になることもなく、従って、急にある年代の人が増加するということもありません。

人口動態が変わる可能性があるとすれば、第二次大戦のようにある年代の層が戦死等で減少してしまうことですが、現代ではそのような要因は極めて少なくなっています。但し、疫病の流行で人口動態が変わる可能性はあるかもしれませんが。

ということで、国別の長期的な市場戦略を考える場合は、国別の人口動態情報は非常に重要なデータとなります。

例えば、一昨日(5/14)の日本経済新聞で、中国とインドの人口動態推計の記事が掲載されています。ここに掲載されている図を見ると、中国とインドの違いがよく分かります。

中国の人口ピラミッドは日本に近い形になっており、将来的には人口の伸びも止まり、日本同様の少子高齢化が20年遅れで急速に進むことがほぼ確実に予測できます。

従って例えば、日本で実績を挙げたシニア・ビジネスを中国版に焼き直し、巨大なシニア・ビジネス市場を日本企業で押さえる、というシナリオは現実性を持ってきます。

一方でインドはきれいなピラミッド型になっています。世界銀行によると、インドの人口は2025年には中国を抜き、2050年には16億5000万人を超え、なおピラミッド型の構成を維持するとのことです。

従って、インドをこれから数十年後も引き続き若い労働力を供給してくれる市場として捉えて、投資していくシナリオが考えられます。

世界の様々な国を、人口動態の観点で整理してみると、新しい視点が描けるのではないでしょうか?

通勤混雑の対応に必要な、マーケティングの視点

私は田園都市線沿線に住んでいますが、通勤時の急行は異常に混んでいるので、いつも各駅停車に乗っています。

各駅停車では、つり革を確保でき、本などは何とか読むことが出来る程度の混雑なのです。

ただ、これは今年3月まででした。

4月にダイア改正があり各駅停車の混雑度合いが激しくなってきました。つり革も確保できず、本を読むのも難しい場合があります。

本日(5/12)の日本経済新聞・神奈川県版では、この田園都市線の混雑緩和策について紹介しています。

田園都市線沿線では、ここ数年次々とマンションが建ち、人口が増えています。2005年度の一日当りの平均輸送人員は113万人で5年前から8%増加しました。このため朝の混雑率は194%と首都圏の中でもかなり高いのです。

特に急行は早く都心に着くので異常に混んでいます。乗り降りに時間がかかるためダイアが乱れ、さらに遅れる、という悪循環になっています。

そこで東急では、8時代は急行が二子玉川駅と渋谷駅の間の全駅に停車するようにしました。このために急行の客の一部が各駅停車に移動した結果、各駅停車が混むようになったようです。

ラッシュ時に対応できるように新規投資する方法もありますが、日中や休みには有効活用できないので、コスト削減を求められている鉄道会社としては辛いところですね。

例えば、通常10両編成で運用しているところを、駅のホームを大きくして15両編成で運用できるようにすると、輸送量を50%増やせます。しかし、全駅のホーム伸長工事と新規車両の発注等で非常に大きな投資になりますし、日中や休みの日は不要な施設ですので、企業としてはおいそれとは取り掛かれません。

記事には書いていませんが、ポイントは今後のラッシュ時の混み方がどうなるか、という点だと思います。

確かに沿線の人口が増えていることは通勤人口の増加要因ですが、団塊世代の退職や、在宅勤務の普及等は、通勤人口の減少要因です。

従って、今後、この増加要因を減少要因でどれだけ打ち消すことが出来るかが、カギですね。

特に在宅勤務で仕事の能率が上がることが一般に認知されていくと、一気に在宅勤務が普及して通勤人口が減り、通勤混雑が解消される可能性もあります。

ラッシュ時対応の投資には時間がかかりますので、対応策が出来た時点で必要なくなった、ということにもなりかねません。

ここの読みは難しい問題ですが、課題の対応にマーケティング的な視点を組み合わせることで、選択肢が増えるのではないでしょうか?

まぁ、個人的には、これ以上混雑の度合いが激しくなると、結構つらいものがありますね。



キーワード記事*

マーケティング

乗り換え

路線検索

通勤時間

マーケティング感覚を磨く方法

「マーケティング感覚を磨きたい」という方は多いのではないでしょうか?

万人向きではないかもしれませんが、私自身実践している方法を紹介します。

それは自分が管理するホームページを持つ方法です。個人向け・ビジネス向け、いずれでもOKです。

HPを作る目的は色々ありますが、共通しているのは、あるメッセージをある特定の人に届けることだと思います。

私の場合、個人で3種類のホームページを管理しています。

まず、写真のホームページです。これは写真に興味がある人向けに、「透明感・空気感」をテーマにした私の写真作品と、「プロフェッショナル・サンデー・フォトグラファー」という私のコンセプトをお伝えするためのものです。

また、このブログはITmediaの読者の方々向けに、マーケティングやグローバライゼション、ビジネス・スキル、写真、ライフワーク等、主にビジネス面を中心に私の考えをお伝えしています。

この他に、合唱団のホームページも管理しています。これは、ウチの合唱団に入団を希望する人の勧誘と、団員向けに練習場所等の情報発信を行うことが目的です。(一目で分ってしまいますが、実はデザインは写真のホームページを踏襲しています)

これらからもお分かりの通り、それぞれに目的と対象とする人達があり、その対象に対するメッセージも決まっていて、それらをコンテンツにまとめて情報発信しています。そのコンテンツも相手に併せて適宜見直しています。

考えてみると、このプロセスはマーケティング・プロセスそのものですね。従って、このプロセスを行うことで、マーケティングの実践ができます。

これは学生の方でも実践可能です。

しかし、実はこれだけでは不十分なのです。

理由は実践の結果をフィードバックとして活かしていないからです。

従って、フィードバックを得る仕組みを組み込む必要があります。

一つの方法は、コメントを入れられるようにすることです。これにより、アクセスした人達の感想などを得ることが出来ます。

しかし問題は、感想を送ってくる人は100人に1人程度で、他の人の意見は分からないことです。

もう一つの方法は、アクセスログを付けることです。仮説に基いてコンテンツを作り、そのコンテンツに対するアクセス状況をこまめにトラッキングすることで、自分の仮説が正しかったかをリアルタイムに検証できます。

特にブログの場合は、フィードの仕組みにより、投稿して1-2時間程度のアクセス状況でどの程度コンテンツが受け入れられているかが分かります。はてぶ等と組み合わせると、さらに相手の感想も得ることができます。

ちなみに、私のブログのはてぶのコメントはこちらでご覧になれます。

まさにマーケティングの基本である仮説検証を非常にきめ細かくできる、ということですね。

但し、注意点が一つあります。

漫然とコンテンツを作ってアクセス状況のチェックをするだけでは全く意味がない、ということです。

コンテンツを作る際に、「このコンテンツであればこのような反応が期待できる」という仮説を常に立てるようにし、その上でアクセス状況をチェックする必要があります。この経験を積み重ねていくと、マーケティング感覚が磨かれていきます。

最近は、アクセス・カウンター・サービスも無償で付けられますし、ソーシャル・ブックマークも多くの方々が使い始めているので、仮説検証のツールとしては非常に役立ちます。是非活用したいものです。

Podcast第2回配信:「お客様の課題をどのように解決できるか、正しく考える」

本日(5/10)、第2回目の配信が始まりました。

マーケティングで極めて重要な「お客様の課題をいかに理解した上で、お客様に価値を届けるか」という点について、普段考えていることをお話しました。

問題提起し、その問題点を挙げる一方で、利点も説明する、ということを繰り返している内容になっていますが、これはこの問題がいかに難しいかという裏返しでもあります。

皆様のご感想をいただければ幸いです。アクセスはこちらで。

下記は原稿です。前回も書きましたように、この原稿を書いて一旦覚えた後、箇条書きにした上で、収録中は箇条書き原稿を読んでいるため、実はこの通り話してはいないのですが、ご参考まで。

—(以下、原稿)—

『マーケティングが分かると、ビジネスが見える』
■第二回■ お客様の課題をどのように解決できるか、正しく考える

こんにちは、永井孝尚です。
私は日本IBMのソフトウェア事業部で、マーケティング戦略を担当しています。どうぞよろしくお願いいたします。

「マーケティングが分かると、ビジネスが見える」と題して、4回に渡ってお話させていただいてます。

第一回目は、「マーケティングはバリュー・プロポジションから始まる」
第二回目は、「お客様の課題をどのように解決できるか、正しく考える」
第三回目は、「局地戦ではなく、総力戦で考える」
第四回目は、「マーケティング・プロフェションの皆様へ」
をお伝えしています。

■ ■ ■ ■

第二回目の今回は、「お客様の課題をどのように解決できるか、正しく考える」です。

今回、お伝えしたいのは次の3点です。
「お客様の課題とは、そもそも何なのか?」
「市場調査のジレンマとは何か?」
「どのような価値をお客様に届けるのか?」
です。

■ ■ ■ ■

まず、言うまでもなく、マーケティングでは、お客様の課題を正しく捉えていることが大切です。
お客様の課題を考えているつもりの場合でも、実は製品の観点で捉えている場合があります。

例えば、今から40年前、顧客志向の意義を唱えたセオドア・レビットは、「顧客は1/4インチのドリルが欲しいわけではない。1/4インチの穴が欲しいのだ」と言いました。

これは、お客様視点のマーケティングを実践する上で、我々が常に意識しておくべき言葉であると思います。

確かに、「穴を開けたい」、という課題がドリルを買うお客様の動機である訳で、お客様は必ずしもドリルという製品自体を必要としている訳ではありません。

従って、必ずしもドリルを購入いただくことだけが解決策ではありません。

「1/4インチの穴が欲しい」というお客様の課題を解決する方法は、ドリルを購入いただく以外にも沢山あります。例えば、穴を開けるサービス自体をご提供する、という方法もあるでしょう。

しかし残念ながら、「1/4インチの穴が欲しい」というお客様の課題を理解せずに、自分達のドリルの性能を一方的に語るマーケティングが多いのも、残念ながら現実です。

■ ■ ■ ■

さて、お客様の課題を理解する方法の一つに、市場調査という方法があります。

しかし、市場調査にも大きなジレンマがあります。

市場調査レポートが出た時点で、既に市場が変化している可能性がある、というジレンマです。

世の中で出回っている市場調査レポートの多くは、過去のデータに基づいて分析を行っています。
例えば、市場規模予測のほとんどが、現在の傾向が今後しばらくは続くという仮定のもとで、現在の延長線上に未来を予測しています。

しかし、市場が大きく変化する場合は、未来は現在の延長線上にはないのです。

■ ■ ■ ■

さて、ここでそもそも市場調査レポートとは何なのか、考えてみましょう。

マーケッターにとって市場調査レポートは、市場という地形を歩くための「地図」に相当します。

知らない場所を歩くためには、地図は必須です。

しかし最近の市場では、この地形が頻繁に変わっています。

それも、単に新しい建物が建っている、というレベルではありません。目標となる山がなくなったり、障害物となる谷が出来ていたり、新しい市場である海が急に広がっていたり、という地殻変動が頻繁に起こっています。
それでは、市場調査レポートは無意味なのでしょうか?

私は、むしろ逆で、現代において市場調査レポートはますます重要性を増していると考えています。

世の中が激しく動いているからこそ、市場を客観的に把握し続けていくことが重要なのだと思います。

また、何故変化が起きたかを考察することで新しい洞察を得ることができ、アクションに結びつけることができます。従って、地殻変動前・後の地形を理解するためにも、継続性を持った市場の把握は極めて重要です。

また、市場調査レポートを分析して市場の変化を見極めることは必要ですが、市場調査だけでお客様の課題を理解しようとはせずに、必ず自分の目で実地検証することも必要です。

■ ■ ■ ■

さて、お客様の課題が明確になった次は、どのようにお客様に価値をお届けするかを考える必要があります。つまり、商品やサービスを考える段階です。

ここで、我々が考えなければならない点がもう一つあります。

「プロダクト・アウトは悪なのか?」、という点です。

現在、顧客中心主義がまっさかりです。
確かに、お客様を中心に考えることは非常に大切なことです。

しかし、その対極にある「プロダクト・アウト」を全て悪である、とする考え方は物事を単純化し過ぎなのではないでしょうか?

例えば、10年前、世界中で4000万個を売った「たまごっち」を例に考えてみましょう。

たまごっちは売れ始めた当初、営業からお客さんの要望として、「たまごっちに一時停止ボタンをつけて欲しい」という要望があったそうです。確かに、手が放せない状態の時に世話をしなければならないのは、ユーザーからするとかなり困る話なので、これは真っ当な要望です。

これに対して、開発リーダーは、
「そもそも、飼い主の言うことをきかないのがペットだ」
として、「世話をする面倒くささ」という当初のコンセプトを貫き、一時停止ボタンは入れませんでした。

たまごっちが爆発的ヒットになったのも、このコンセプトを貫いたからではないでしょうか?

お客様を中心に考えることは大切ですが、全てお客様の言う通りに行うことが、正しいとは限りません。

カルロス・ゴーンさんも、「5年後の車について消費者は答えを持たない」と語っています。

お客様に対して、お客様が気が付かなかった新しい商品やサービスを提案することは、企業の責任でもあります。このためには、企業が商品やサービスに拘り続けることも必要なのではないでしょうか?

忘れてはいけないことは、商品やサービスを中心に考えてはいけない、ということです。

商品やサービスに拘り続ける視点の先に、常にお客様の姿を見ているかどうか、が大切なのではないでしょうか?
■ ■ ■ ■

さて、第二回は「お客様の課題をどのように解決できるか、正しく考える」というテーマでお送りさせていただきました。

次回は、「局地戦ではなく、総力戦で考える」というテーマでお送りいたします。

どうもありがとうございました。

—(以上、原稿)—

関連リンク:Podcast配信開始:「マーケティングはバリュー・プロポジションから始まる」

思わず目がとまる広告は、なぜか分かりにくい

本日(2007/5/9)の日経の見開き広告に目を止めた方は多かったのではないでしょうか?

背景は緑。

若手有名タレントがゾロっと並び、皆で薄緑色のTシャツを着ていて、胸には21の数字。

しかし、何の広告か分からないですね。

これに企業ロゴがあれば、

「ああ、○▲□社の広告ね。こんなにタレント使って、お金が沢山あっていいなぁ」

と思いながら5秒ほど眺めてページをめくり、多くの場合は10分後にはこの広告のことは忘れていると思います。

しかし、この広告、何なのかよく分からないので、私は丹念に見てしまいました。

会社名を見ているだけでは何の会社か分かりませんでしたが、会社名でインターネットで検索して分かりました。タレントのマネージメントをしている会社だったのですね。

所属タレントを全員集めて集合写真を撮影したようです。4人ほど都合が悪かったようで、別枠での写真になっていましたが。

商品であるタレントの認知度向上と、そのようなタレントが会社に在籍していることをアピールする意味で、有効な広告だったのではないかと思います。

私と同じ人は結構多かったようで、通勤時に、新聞を広げてこの広告を時間をかけて見ている人が結構いました。

日経朝刊の見開き広告で、これだけ目にとまるケースは珍しいのではないでしょうか?

ふりかえって考えてみると、私自身は、「単にワケが分からない」広告とか、逆に「とても分かり易い」広告は、スルーしてあまり覚えていません。

「インパクトがある」広告には目を止めますが、この場合でも、自分の興味がある内容でない限り、じっくり見ることはありません。(まぁ、ここで広告を見る人が対象セグメントかどうか、企業側はふるいにかけている訳で、これはこれでよいのでしょう)

しかし、「インパクトがある」一方で、「何の広告か分からない」広告は、どうしても気になってしまい、じっくりと読んでしまいます。

そう言えば、数ヶ月前に、電車で逆さに貼っていた広告が妙に気になって、しげしげと時間をかけて見てしまったことがありました。どうも広告を車内に貼った人の手違いによる偶然だったようですが、こういうこともあるのですね。

マーケティング戦略やマーケティング・コミュニケーションには、首尾一貫性と分かりやすさが重要であることには変わりはありませんが、こと広告に限っては、広告の認知度向上のために、あえてちょっと分かりづらくしてしまう、というのもアリなのではないか、と考えた次第です。

ただ、単に分かりづらいだけでなく、分かった後、「あ、そういうことだったのね!」と思わせる仕掛けと、対象セグメントにうまくリーチする仕組みがないと、逆効果ですね。この点は気をつけたいところです。

Podcast配信開始:「マーケティングはバリュー・プロポジションから始まる」

本日から毎週4回、「オルタナティブ・ブロガー リレー」で、「マーケティングが分かると、ビジネスが見える」と題し、Podcast配信が開始させていただきました。

今回から4回、以下の内容でお伝えします。

第一回目… 「マーケティングはバリュー・プロポジションから始まる」
第二回目… 「お客様の課題をどのように解決できるか、正しく考える」
第三回目… 「局地戦ではなく、総力戦で考える」
第四回目… 「マーケティング・プロフェションの皆様へ」

マーケティングの導入部分の話ですが、皆様のご感想をいただければ幸いです。アクセスはこちらで。

下記は原稿です。この原稿を書いて一旦覚えた後、箇条書きにした上で、収録中は箇条書き原稿を読んでいるため、実はこの通り話してはいないのですが、ご参考まで。

—(以下、原稿)—

『マーケティングが分かると、ビジネスが見える』
■第一回■ マーケティングはバリュー・プロポジションから始まる

こんにちは、永井孝尚です。
私は日本IBMのソフトウェア事業部で、マーケティング戦略を担当しています。どうぞよろしくお願いいたします。

今日から「マーケティングが分かると、ビジネスが見える」と題して、4回に渡ってお話させていただきます。

第一回目は、「マーケティングはバリュー・プロポジションから始まる」
第二回目は、「お客様の課題をどのように解決できるか、正しく考える」
第三回目は、「局地戦ではなく、総力戦で考える」
第四回目は、「マーケティング・プロフェションの皆様へ」

をお伝えします。

■ ■ ■ ■

さて、第一回目の今回は、「マーケティングはバリュー・プロポジションから始まる」です。

今回、お伝えしたいのは次の3点です。

「バリュー・プロポジションとは何か?」
「バリュー・プロポジションの実際の例はどのようなものなのか?」
「バリュー・プロポジションがうまく定義できないと、どうなるのか?」

です。

■ ■ ■ ■

「バリュー・プロポジション」という言葉は、もしかしたら聞き慣れないかもしれません。

「バリュー・プロポジション」のうち、前半のバリューは「価値」という意味です。
一方、後半の「プロポジション」は「提案」とか「主張」という意味です。

従って、「バリュー・プロポジション」とは「価値の主張」という意味になります。

私は、マーケティングの出発点は、この「バリュー・プロポジション」を考えることから始まると考えています。何故かというと、「バリュー・プロポジション」は、差別化ポイントを明確にしてくれるからです。

「差別化」は、マーケティングに関わる人達にとって、常に重要なテーマですが、どのように差別化すればいいのか、なかなか具体的なイメージが沸かない、というのが実態なのではないかと思います。

例えば、「競合他社との差別化ポイントは何ですか?」と尋ねてみると、様々な答えが返ってきます。

例えば、「うちはスキルのある人材がいる。我々の人材そのものが差別化である」、という答えが返ってくる場合があります。

確かに人材は重要なポイントですが、実際には、競合他社と比べて何が優れていて、その人材がお客様にどんな価値が提供できるのかを明確にする必要があります。

また、「商品の性能は、ウチが業界一番だ」、という答えが返ってくる場合もあります。

競合が全く追いつけない性能があり、かつ、お客様にとって性能差が大きな意味を持つ場合、これは大きな差別化になります。

しかし、他社がキャッチアップできる程度の性能差であったり、お客様にとって性能差が大きな意味を持たない場合、これは差別化にはなりません。

この差別化を考える方法が、「バリュー・プロポジション」という考え方です。

では、バリュー・プロポジションとはどのようなものなのでしょうか?

バリュー・プロポジションとは、3つの条件で決まります。

「(1)お客様が望んでいて、(2)自社は提供できるけど、(3)競合他社は提供できない価値」

です。

■ ■ ■ ■

例えば、街の電器屋さんのケースで考えてみましょう。

ここでは、競合相手として、家電量販店を想定します。

家電量販店の強みは何でしょうか?
色々ありますが、一つは圧倒的な販売量に裏打ちされた価格競争力です。

一方、街の電器屋さんが提供できる強みは、街の住民であるお客様に対するきめ細かいサポートです。

さて、街の電器屋さんが対象とするお客様は誰なのかを考えてみましょう。

「とにかく安い商品を」と思っているお客様は、家電量販店で商品を購入しますので、街の電器屋さんのターゲットにはなりません。「価格は少々高くてもよいから手厚くサポートして欲しい」というお客様が、街の電器屋さんのターゲットになります。

このように考えていくと、

『近所に住む、機械に詳しくないシニアの富裕層』

はターゲット候補になり得ます。

具体的には、お金をある程度持っており、デジタル家電の購入を検討中で、あまり価格は気にしないけど、複雑なデジタル家電のトラブルが起こった場合は直接家に来てサポートして欲しい、そのような価値を求めている人達です。

以上の考え方を当てはめると、街の電器屋さんのバリュー・プロポジションは、3点にまとめられます。

一点目の【お客様が望んでいる価値】ですが、これは
団塊世代の富裕層が必要としている、手厚いサポートがこれに該当します。

二点目の【他社が提供できない価値】ですが、これは
家電量販店が提供できない、お客様の自宅まで直接サポートに出向けるフットワークの良さが該当します。

三点目の【自社が提供できる価値】ですが、これは
ますます複雑になっていく最新のデジタル家電による生活を、お客様が十分に楽しめるように支援できるサポート力がこれに該当します。

実際、このような市場にターゲットを絞って、毎年2ケタ成長を続けているメーカー系の販売店もあるそうです。

この例でも分かるように、バリュー・プロポジションを考える際のポイントは、3つです。

・まず、ターゲットとなるお客様が絞り込まれていること。
・2番目に、そのお客様が望んでいる価値を理解していること。
・3番目に、競合他社が真似できない自社の価値も把握できていることです。

バリュー・プロポジションが、明確になっていれば対象顧客や訴求ポイントが明確に絞れているので、そのままプロモーション戦略やチャネル戦略を展開することができます。

ここで例として挙げた街の電器屋さんの場合も、このバリュー・プロポジションを起点に考えると、色々なプロモーション戦略やチャネル戦略を展開できそうです。

■ ■ ■ ■

一方で、想定していたバリュー・プロポジションと、現実のミスマッチが起こることがあります。特に市場が大きく変わっている場合は、お客様のニーズも大きく変わっているため、このようなことはよく発生します。

このような場合、数年前までのバリュー・プロポジションでマーケティングを行ったりすると、全く成果が上がらないばかりか、逆に市場にネガティブ・イメージを与えることになりかねません。

マーケティングでは、バリュー・プロポジションがいかに分かり易くお客様に受け容れられるかがカギなので、もし当初想定していたバリュー・プロポジションがすんなりと受け容れられない場合は、再度見直しを行う必要があります。

見直しを行う方法はいくつかありますが、その一つに、実際に何組かのユーザーに集まっていただき、実際にインタビューを実施する「フォーカス・グループ」という手法もあります。

「フォーカス・グループ」では、予めいくつかのバリュー・プロポジションを用意し、実際のユーザーを対象にインタビューを通じて検証していきます。

さて、以上の通り、製品プロモーションにかける人・モノ・お金・時間が見返りあるものかどうかを決めるカギは、バリュー・プロポジションです。

手間は惜しまずに、じっくり考えていきたいものですね。

■ ■ ■ ■

さて、第一回は「マーケティングはバリュー・プロポジションから始まる」というテーマでお送りさせていただきました。

次回は、「お客様の課題をどのように解決できるか、正しく考える」というテーマでお送りいたします。

どうもありがとうございました。

—(以上、原稿)—

頭が良すぎる人はマーケティングに向かない?

マーケティング戦略の方法論は色々とありますが、中でも重要なのは「簡略化」だと思います。

マーケティング戦略を立てる際に検討すべきことは、非常に数多くあります。

例えば、お客様の動向や課題・ニーズ、競合他社の動向、市場の動向や市場規模、その他の様々な外部要因、自社の商品やサービスの現状、予算、自社の全社戦略、等々です。ここに挙げた一つ一つも、さらに膨大な要素が関わっています。

よく「戦略とは、捨てること」と言われますが、この意味するところは、膨大な要素の中で、望ましい結果を得るための必要最小限数の要素(=パラメーター)を見極めて設定する、ということです。

従って、マーケティング戦略で必要なことは、これら設定した要素をどのようにコントロールするのか、シンプルで骨太な戦略を立てることです。

なぜ、シンプルで骨太な戦略が必要なのでしょうか?

マーケティングと学術的研究が決定的に異なる点は、マーケティングは、背景が異なる様々な利害関係にある人達が関与することです。社内のセールスや製品開発、サポートやサービス部門、パートナー様、メディア各社、そして何よりもお客様です。

このような様々な人達と協業してマーケティング戦略を実現するためには、複雑な戦略ほど、協業が難しくなるように思います。

むしろ、数分間話せば概要を理解できる程度まで戦略を洗練化する必要があるのではないでしょうか?

ある投資家は、名刺の裏に自社の戦略を書ききれない起業家の案件には投資しない、という判断をしているそうです。恐らく上記のような考えがあってのことだと思います。

誤解を恐れずに言えば、頭が良すぎることはむしろマーケティングの障害になるのかもしれません。複雑多岐な要素が自分の頭の中で簡単に整理されて理解できてしまうため、マーケティングで必要な簡略化のプロセスを省略しがちだからです。

むしろ、普通の人の感性を持ち、普通の人の目線で理解できる簡略化した戦略を立てられる人が、マーケティングの適性があるように思います。

このためには、普通の人の感性に加えて、複雑多岐な要素を一旦時間をかけて消化し、それを誰でも理解できる内容に省略化できる力が必要になります。これには経験が必要なのでしょうね。

間違ったことを一生懸命やらないために。

Matrix 縦軸に「正しいこと」と「間違っていること」、横軸に「一生懸命やる」と「ホドホドやる」を取ると、右のグラフのようになります。

この四つについて、「得られる仕事の成果」で順位付けすると、以下の順番になるのではないでしょうか?
(ここでは、「得られる仕事の成果」=「あるべき目標に到達できる度合い」で考えます)

1.「正しいことを、一生懸命やる」
2.「正しいことを、ホドホドやる」
3.「間違ったことを、ホドホドやる」
4.「間違ったことを、一生懸命やる」

Tobemodel イメージ的には、右の図のようになります。

これは個人だけの話ではなく、組織の仕事にも当てはまります。

間違っていることを組織全体で一生懸命やることで、組織の人・モノ・金・時間といった貴重な資源は浪費されるだけでなく、最悪の場合は組織が破綻してしまいます。

多分、以上のことは、「当り前」と思われる方が多いと思います。

では、皆がそう思っていても、何故間違ったことを一生懸命やっている人や組織がなくならないのでしょうか?

恐らく、一つの理由は、本来実行すべきことが実行されていないからです。

では、何を実行すべきなのでしょうか?

次の2点を確実に実行すべきだと思います。

■最初の戦略は、出来る限り事実に基き、十分に練りあげて作る

戦略は、「正しいこと」(=目標)を定義するプロセスでもあります。

思いつきで立てる戦略の全てが悪いということはありません。中には思いつきの戦略がヒットすることもあります。

しかし事実に基いて分析し仮説検証して戦略を立てることで、成功の可能性は大きく上がります。

■一旦立てた戦略も、結果次第で適宜見直す仕組みを作る。

最初に立てた戦略はあくまで仮説です。正しいかどうか常に検証する必要があります。

間違った方向に行っていることが分かったら、すぐに修正できることが大切です。

しかし、この二つも考えてみたら当り前のこと。

当り前のことを当り前に実行するのは、本当に難しいのです。個人や組織にとって大きな課題ですが、常に実行できるようにしたいですね。

統一地方選挙とマーケティング

本日、全国で統一地方選挙で行われました。

私は特定の政党を支持していない典型的な浮動票層ですが、国民の当然の義務として毎回投票に行っています。

ところで、特定支持政党を持っていない方は、どのように候補者を絞り込んでいらっしゃるのでしょうか?

私の場合、選挙公報を見て、

  1. まず、支持しない政党(支持政党はないのですが支持しない政党はあるのです)を除外
  2. 次に、主張に賛同できない候補者は除外(前提に誤解がある、政策に賛同できない、等)
  3. その上で、政策や主張を確認した上で、論旨が明確でなかったり、分かり難い候補者は除外
  4. 残った候補者の主張を比較し、賛同できる候補者に投票

考えてみると、上記のうち2以降の部分はマーケティングの専門分野ですね。

浮動票層が増えた現在、選挙公報は当選を左右する非常に重要な手段であることは、改めて言うまでもないと思います。

政治において、マーケティングの「ダークサイド」が出るタイプのマーケティング活動は考え物ですが、選挙民に対する自分達のバリュープロポジションは何なのか、その価値をどのように実現するのか(オファリング戦略)、それをどのように選挙民に伝えるのか(コミュニケーション戦略)、等は、ますます大切になってきているように思います。

ただ、チャネル戦略ばかりに集中するのは、ちょっと考え物ですが。(^^;

新市場に名前が付いた時点で、市場参入は既に手遅れという話

本日(2007/3/31)のNIKKEIプラス1で、「流行現象がまだ兆しの段階だと、その表現が定まっていない」例がいくつか紹介されていました。

例えば、同紙が、菓子メーカーとレコード会社の組合せによる流行発信の「コラボレーション」について2000年11月の時点で「異色タッグ」と紹介したり、駅構内の飲食店店舗「駅ナカ」も初期には「改札内グルメ」ほど浸透していなかったケースが紹介されています。

このように市場の名前が定まっていない段階は、市場がこれから立ち上がろうとしている段階であり、新規参入のチャンスといえます。

逆にその市場の名前が決まっている時点では、その市場は既にある程度の大きさになっており、固定顧客も存在しています。

このような既に認知されている市場に参入することは、一見リスクが少ないように見えますが、その市場でリーダー企業となることは困難です。

固定顧客が存在している状況で参入しても、既に同じ市場でリーダーの地位を確立している経験豊富なライバル企業が存在しているからです。

調査会社がその市場サイズ等の市場レポートが出ていたりする段階は、これに輪をかけて出遅れていることを示す証になります。

このことから考えると、市場データを元に市場に参入するかどうかを判断するというのは、あまり意味がなく、むしろ完全に手遅れ、ということになります。(但し、参入済の企業にとっては、市場データは今後のビジネスを把握する上で貴重な情報を提供してくれます)

やはり、市場に参入するかどうかを検討すべき段階は、その市場そのものに名前が定まっていない時点ということですが、その市場が成長するかどうかは未知数です。

従って、経営の観点では、新規市場参入の回数を体力のある範囲でこなせることが大切であり、これによって将来の収益源を確保することができます。

つまり、そのような市場の萌芽に気が付いたらすぐに参入でき、かつ小さな投資で始められる体制整備が必要になるます。

一方で、出遅れ組にもチャンスはあり得ます。市場の状況が大きく変わる段階です。

例えば、ガートナーのハイプカーブで言うところの、市場の過度な期待が収まって幻滅期に入る段階は、お客様のニーズが変わり、ゲームルールが変わるタイミングでもありますので、新規参入組にとっては先行企業の事例を十分に学び、新しいルールに沿ってで参入できる、という意味で、大きなチャンスです。

但し、このタイミングで、新規参入企業がリーダー企業と同じことをやっていては意味がないことは、言うまでもありません。

“Me, too, strategy”からの脱却

成熟した同じ市場セグメントに、過半のシェアを持つ強力な競合企業がいたとします。

強さの理由は、チャネル全体を支配していたり、製品が極めて強力だったり、マーケテインングが巧妙だったり、様々です。

さて、「この市場から撤退する」という選択肢がない場合、あなたはどのようにしますか?

相手の製品を調査してこれを上回る製品開発に投資したり、チャネルに対してより強力なインセンティブ・プログラムをうったり、マーケティング予算を獲得してよりアグレッシブなマーケティングをやったり、ということを考える人もいるかもしれません。

しかし、これは"Me, too, strategy"(強いて訳すと「私も戦略」)というもので、成功する可能性はあまり高くありません。

既に過半のシェアを握っている競合相手に対して、同じ土俵で相手と同じ方法でより大きな努力をしても、規模の経済によって、相手はより低コストで高い利益を享受しているため、なかなかシェアを挽回することは出来ないからです。

一つのカギは、クレイトン・クリステンセンが「イノベーションのジレンマ」で述べている通り、破壊的イノベーションの活用です。

何故、破壊的イノベーションが、市場のリーダー企業にとって危険なのか、クリステンセンは以下のように述べています。

—(以下、p.84より引用)—

「顧客の意見に耳を傾けよ」というスローガンがよく使われるが、このアドバイスがいつも正しいとはかぎらないようだ。むしろ顧客は、メーカーを持続的イノベーションに向かわせ、破壊的イノベーションのリーダーシップを失わせ、率直に言えば誤った方向に導くことがある。

—(以下、p.247-251より引用)—

性能の供給過剰が発生すると、破壊的技術が出現し、確立された市場を下から侵食する可能性が出てくる。….1988年には、3.5インチドライブの平均容量は、主流デスクトップ市場が求める容量に匹敵するようになり、5.25インチ・ドライブの平均容量は主流デスクトップ市場が求める容量を約300%も超えるようになっている。….その結果、デスクトップパソコンメーカーは急速に3.5インチドライブに切り替え始めた。…実際には3.5インチの方が1MB当りコストで20%高かったが、1986-1988年の市場では(設置面積縮小のため)ドライブの大きさが他の特徴よりも意味を持つようになり始めた。

—(以上、引用)—

冒頭の課題に対応するためには、市場における破壊的技術が何なのかを常に把握し、いかにそれを活用するかを考えることが必要になります。

また、同じ市場でも、ユーザー・セグメントを変える方法もあります。破壊的イノベーションの場合も、当初はローエンド又は非消費のユーザーセグメントを狙い、破壊的技術の性能が上がるに従って従来のセグメントでのシェア獲得につなげることを狙います。

もちろん、これ以外にも様々な戦略があります。

一種のゲームとして色々と考えてみると、面白いですね。

だます人達の6つの原理と、マーケティング

本日(2007/2/10)のNIKKEIプラス1「妙なお話」で、だます人達の6つの原理が紹介されています。

米国の社会心理学者ロバート・B・チャルディーニ教授が、だます人達の各種組織に自ら入り込んで無数の手口を学んで分類した結果だそうです。

「だます人達の原理」というと物騒ですが、この6つの原理、人間の心理的な面について非常によく考えられています。

マーケティングも人の心理について深く考察した研究成果を活用している訳で、両者の関連性が高いのは必然かもしれません。

コメントを付けて紹介します。

原理1「返報性」

最初に一輪の花等の小さいモノを無償で与えて、その後、寄付などを求められるケースです。

ビジネスでも、入り口でコーヒーを無償で配っている食品小売等もありますし、最初にある一定期間無償で機器を提供する場合もあります。

違いは、だます場合は後で金銭を要求することを明示しないで無償提供しているのに対して、「ビジネス」では金銭的な支出が後であること(但し支出するかどうかは本人の判断であること)を明示していて、相手を欺いていない点ですね。

原理2「一貫性」

一旦決定をするとそれを通そうとすることです。例えば、客が購入を決めた後に計算ミスを他者に指摘させ、値をつりあげます。(私の場合は、この段階で値が上がったら購入判断を撤回することが多いのですが)

マーケティング的には、こちらのエントリーでご紹介した「認知的不協和」は、まさにこれに該当します。

ただ、これについても、ビジネスの世界ではわざと計算ミスをするのは許されませんね。

原理3「社会的証明」

他人に影響されやすいことで、例えば行列が出来るとつい並んでしまう人の性格を利用したものです。

ビジネスでは、行列を作ることを意識したアイスクリーム店やドーナツ店が該当します。

だます場合は、サクラを並ばせたりしますが、ビジネスの世界ではあまりやるべきではないでしょうね。

原理4「好意」

例えば知人とのホームパーティ形式だと買わざるをえなくなってしまう心理を利用します。だます目的でこのような場に誘ってモノを売りつけるのは言語道断です。

一方で、お客様の課題を十分に理解し、お客様と信頼関係を構築することは、ビジネスの世界では極めて大切なことです。

原理5「権威」

だます場合は、権威ある人につい従ってしまう傾向を利用します。よく「有名人のあの人も実践している健康法」というアレです。ただ、だます場合は、このような権威ある人もだまされていたり、もっと悪い場合は本人が知らないのに紹介されていたりします。

最近話題になっている問題の某TV番組でも、この方法を利用して研究者のコメントを引用していたようですね。

ビジネスの世界では、インフルエンサーからの正当な支持をいかに得るかが大切です。この場合、当然のことですが詐称したり、本人の許可なく権威付けすることは許されません。

原理6「希少性」

だます場合は、残品がわずかだとつい買いたくなる心情を利用します。

マーケテイング的にも、「限定生産1万台」などと銘打って人気が高くなる商品を販売している場合があります。自動車やカメラ等でもこの方法で買い手が殺到して成功した事例は結構ありますが、最近はこの方法が多用されていることもあって、ある程度消費者が洗練されてきた現代、新商品ではこの手はなかなか通用しないような気がします。

 

結局、だます場合も、マーケティングの考え方も、人間の心理面に対する洞察には大きな違いはないように思います。

違いは、その洞察を活用する際に、事実をゆがめてアプローチし相手の満足を考慮せずに金銭を得るか、事実を偽らずにアプローチし相手の満足を得るか、という点なのではないでしょうか?

1920年代と2000年代の製品開発の比較

ケビン・メイニー著の「貫徹の志 トーマス・ワトソン・シニア―IBMを発明した男」を読んでいます。

今読んでいるのは、IBMという名前の企業が誕生する前の頃の話ですが、その中に、当時の研究開発の様子が描かれています。

IBMの前身であるCTR社では、1920年代から研究所の2又は3グループに同じ課題を与えてしのぎを削らせていました。トーマス・ワトソン・シニアをはじめとする経営幹部がこの中から最優秀チームを決めて、製品化をしてきました。

各グループが切磋琢磨をしたため、CTR社が統計機械の市場を制した時期にも社内には緊張感が漂っていたそうです。

一方で、自分の設計案が採用されずに燃え尽きてしまう人もいたために、特別休暇やボーナスを与えるようにしました。このような取り計らいを歓迎した技術者は「以前には提案が採用されなかったり意見が退けられてくじけそうになったけど、別に無能と見られている訳ではないと納得できるようになった。期待に添えられるようにいっそうの努力をしたい」と語っていますので、技術者全体のモラルは高かったようです。

 

私がIBMに入社した1980年代も、まだ一部ではこのような研究開発を行ってたようです。

しかし、市場の競争が激しくなり、コスト削減の必要性が高まっている現代、このような研究開発体制を取る企業は、今や極めて少数派なのではないでしょうか?

時間軸を広げて考えてみると、複数のチームを競わせたり採用しなかったチームメンバーにも厚遇を与えていたのは、単に昔が今よりも余裕があったということだけではなく、製品主導マーケティングが有効で製品の機能が重要だった時代だからこそ、必要な戦略だったのではないかと思われます。

3ヶ月前のエントリー「何故、ヒット商品の寡占化が進んでいるのか?」でも書きましたように、現在は一事業部だけの力ではなく、営業部門も含めた全社の様々な事業部と横断的に連携し、全社最適化を通じて商品を生み出すケースも多くなってきました。

これは、言い換えると、現代は市場全体が顧客中心モデルに変わってきたことで、単に商品力だけの勝負ではなくなったために、複数チームで製品の優劣を競わせること自体の意味が薄れてきたことを示しているように思います。

改めて、80年と言う年月で、製品開発の姿が大きく変わってきたことを感じました。

 

関連リンク:何故、ヒット商品の寡占化が進んでいるのか?

コンペティター・マイオピア?

Harvard Business Review 2007年2月号では「戦略論の原点」という特集を組んでいます。

この中で、大前研一氏の「競争は戦略の目的ではない」という論文が掲載されています。1988年の論文ですが、Harvard Business Review本誌に掲載され、今まで邦訳されていなかったそうで、日本語で世の中に出るのは初めてだそうです。

20年近く前の論文ですが、今読んでも説得力があります。以下、引用します。

「ライバルに勝つ」という目標は、行動方針や業績評価指標を設定するうえでは説得力がある。しかし、その考え方がそもそも間違っているのである。

….ライバルに勝つことだけに血眼になると、戦略は相手の出方次第でくるくる変わることになる。

….相手の一挙手一投足に反応する行動様式が常態化していく。

確かに競争の激しい市場では、常に競争相手の動きが気になります。しかし、戦略の軸足を競争相手に置くと、戦略は状況によりクルクル変わってしまう訳で、首尾一貫性を失う可能性もあります。

戦略プランニングにおいて競合他社の存在を考慮するのは当たり前だが、必ずしも最優先事項ではない。まず考えるべきは「顧客ニーズ」である。

….戦略は顧客第一主義に基づいて立案されなければならない。そして、ライバルを相手にその成否を試すのだ。ライバルに対抗する戦略を全面的に否定するわけではないが、それだけでは受け身になる。ライバルとの勝負は、戦略を立案した後で考えればよい。最優先すべきは、顧客価値を創出する戦略なのだ。

この点は重要な指摘だと思います。バリュー・プロポジションも、このような視点で考えていくと、わかりやすいかもしれません。

また、マイケル・ポーターも、「競争の戦略」で「既存企業同士のポジション争い」だけでなく、他に4つの要因「サプライヤーの交渉力」「顧客の交渉力」「新規参入の脅威」「代替製品や代替サービスの脅威」を考えるべし、と述べています。

ライバルばかり見ていると、自分を見失ってしまう危険性があります。

当たり前のことですが、ライバルのことよりも、お客様に対して我々は何が出来るか、まず最初に考えるようにしたいものです。

新市場立ち上げと、業界を超えたコラボレーション

1月27日の日経プラスワンの連載「私のビジネステク キシリトールを広める」で、業界を超えたコラボレーションの具体的な例をダニスコジャパン・マーケティング・ディレクター藤田康人さんが書かれています。

藤田さんは、キシリトールを日本に広めた方です。この連載は先々週も紹介しましたが、新市場を開拓するマーケティングの事例としてとても参考になります。以下、引用しながらコメントします。

菓子メーカーに売り込むだけだったら、(キシリトールの)ブームは起きなかったでしょう。

成功の一因は、企業を相手とする『B to B』(Business to Business)の関係から、消費者(Consumer)まで意識する『B to B to C』へマーケティングの対象を広げたことにあります

"B2B2C"はよく巷で言われますが、この記事では非常に具体的に書かれています。

支社を開設した当初『キシリトールは砂糖より高すぎる。高いガムは売れない』と菓子メーカーは乗り気じゃなかった。ならば、と流通に直接訴えたのです。….すると、流通の方から菓子メーカーに『作ってほしい』と言い出す。話が進み始めました。

現在、菓子メーカーにとって、流通は大きな発言力を持っています。ここに訴求したということですね。

また薬事法の絡みで食品であるキシリトール入りガムの効用は宣伝できません。そこは食品素材メーカーの出番。『日本フィンランドむし歯予防研究会』などを通じてシンポジウムを開き、キシリトールという物質の効用を消費者に訴えました。菓子メーカーにできないことを仕掛けたのです。

単にチャネルに働きかけただけではなく、お互いに出来ないことを補完するようにしたということですね。新市場を立ち上げる際の触媒としての役割が書かれています。

コンビニなどの店頭に一社ではなく複数社のガムが並んでいる方が宣伝効果は大きい。菓子メーカーではなかったからその『まとめ役』ができたわけです。

市場立ち上げ時には、競争相手に勝つよりも、市場のパイを市場参加者全員で大きくする方がメリットがあります。キシリトールの場合は、まさに商品の効能が全く知られていないゼロからの立ち上げだった訳で、全員が勝つWin-Win-Winの関係を構築できたということなのでしょう。

藤田さんは「(他業界でも)応用が可能」と記事を締めくくっておられますが、セグメントが限られた新市場を大きな市場に立ち上げる場合に、特に有効な方法だと思います。

例えば、ちょうど「顧客関係構築にITの活用を!」というニーズを普及させるところから始めた10年前のCRMは、同じストーリーになっています。

IT業界は、ITの様々な分野での新しい活用を常に提案し続けている業界である訳で、様々な応用が利きそうですね。

 

関連リンク:なぜ、歯医者が虫歯予防のCMに出るのか?

なぜ「餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?」が売れるのか?

「餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?」という本が売れているそうです。

私も昨年買って読んでみましたが、非常にコンパクトな内容にも関わらず、物語仕立てで会計のことがとても分かりやすく書かれており、楽しめました。

本日(2007/1/24)の日本経済新聞夕刊の記事「ベストセラーの裏側」によると、当初のタイトルは「会計のひみつ」というタイトルだったそうです。

記事によると、「なぜ、社長のベンツは4ドアなのか?」や、「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」といった本が刊行される中、インパクト不足として変更したそうです。

確かに、内容は「会計のひみつ」そのものなのですが、このタイトルではあまりにも普通で、ちょっとヒットは望めなかったかもしれませんね。

やはりタイトルや商品名は非常に大切、ということだと思いますが、あまりに凝りすぎたタイトルだと、どんな本なのか分かりづらくなってしまうのが難しいところですね。

ということで、逆説的なタイトルをつけさせていただきました。

月光、復活

私がモノクロ写真で写真を始めた頃、愛用していたのは三菱の「月光」という印画紙でした。少し青みかかった「冷黒調」と呼ばれる締まった色調は、味わい深いものでした。

その後、リバーサルでカラー写真専門になって、モノクロ写真は撮らなくなったため印画紙は使わなくなり、「月光」のことはしばらく忘れていました。

久しぶりに「月光」という懐かしい商品名のことを思い出したのは、ITmediaの『あの「月光」がインクジェット用紙で復活』という記事でした。印画紙の月光が既に2006年3月に発売中止していたは、この記事で初めて知りました。

今回の新しいインクジェット用紙「月光」は、まさに「ブランドの拡張」ですね。

「ブランドの拡張」というと難しく聞こえますが、実は身近でよくご覧になっていると思います。

既存の自社ブランドを活用して、喫煙具のダンヒルが男性用アクセサリー用品に進出したり、メンズ・ファッションのメーカーがサングラスや時計の世界に進出したりするアプローチです。

ただし、進出そのものが市場に受け入れられずに失敗したり、さらに元のブランド価値まで壊す可能性もありますので、慎重に進める必要があります。

今回の「月光」の場合、印画紙は既に販売中止している訳で、オリジナル・ブランドの破壊は起こりません。従って、ブランド拡張にはつきもののリスクは非常に軽減できます。

また、インクジェット用紙でモノクロ写真を印刷するような人は、以前は、銀塩フィルムでモノクロ写真を撮っていた30代から上の世代になるのではないでしょうか? このような世代には「月光」というブランドは、高い価値を持っていると思います。

非常に目の付け所がよいアプローチだと感じました。

プレミアム価格が付いているプラモデル

私、同年代の人達と同様、小学生から中学生の頃はプラモデルに凝っていました。

主にミリタリーモノが好きで、武蔵とか、一式陸上攻撃機、銀河、隼、疾風、等々、接着剤、パテ、水ヤスリ、塗装料等を使って、よく作ったものです。

ただ、なかなか思った通りの出来にならず、飛行機の窓枠塗装がはみ出してしまったり、接着面の間が空いてしまいパテでも埋まらなかったり、最後の塗装がデコボコになって落ち込んだり、ということを繰り返していました。思い返せば、子供の頃は結構不器用でした。

最近、近所でプラモデル屋さんを見つけて、休みの日に近所で散歩する時に立ち寄って、完成模型を見て懐かしんだりしています。

このように思っていましたら、昨日(2007/1/17)の日本経済新聞で、「完成模型のファン拡大」という記事を見つけました。引用しながらコメントいたします。

「仕事に追われて自由時間が少ない三十-四十代の男性層の支持を集めている」

これはまさに子供の頃に私のようにプラモデルを作っていた世代ですね。ある商品群に対する同一のセグメントが、時代とともに異なった性格になったのは、考えてみれば年月を経てニーズが変わったので当たり前のことですが、面白いですね。

「仕上がりの精巧さなども手伝って売上げが増加」

なかなかうまく仕上げられなかった子供の頃を思うと、確かにそうかもしれません。本来、模型というものは仕上げる楽しみもあるもののですが、時間がない人にとっては出来上がっている模型それ自体に大きな価値があると思います。

「価格は組み立てないプラモデルの二.五倍程度。工場内で職員が手作業で組み立て、塗装した手づくりの味わいが特徴」

プレミアム価格が付いている、ということですね。IT業界でもここ十数年ハード・ソフトの販売だけでなくサービス化が進んできていますが、ここでもサービス化が進んでいるとも言えそうです。

ちなみに、全長1.5メートルの1/144模型「戦艦大和」は、95万円するものですが、受注に生産が追いつかず、昨秋に生産量を2倍に増やしたそうです。

 

関連リンク:「超精密巨大迫真模型 空母赤城」

新分野開拓と新市場参入

昨日に引き続き、日本経済新聞連載の江崎玲於奈さん「私の履歴書」です。

昨日(2007/1/16)の記事も、参考になる内容でした。以下、引用します。

—(以下、引用)—

四八年、トランジスタ誕生のニュースを聞いて、私はいち早く真空管の研究を離れ、将来性に富む半導体研究に移った。新しい研究分野を開拓すれば、二流の研究者でも一流の論文が書ける。企業においても二流の経営者が生きるには、新分野開拓が好ましい。限られた市場のシェアの争奪戦では、敗者なくして勝者はあり得ないが、拡大する新分野では、参加者すべてが勝者になり得るのである。

—(以下、引用)—

つまり、

  • まだ誰も参入していない新分野は競合が少ない。参入するのが早い者ほど有利。
  • 成熟した市場で誰かが勝つと誰かの成果を奪ってしまうゼロサムの世界ではなく、急速に拡大している世界なので、協業しあうことがお互いに有利に働く

ということで、研究者にとって新分野開拓は、マーケッターにとっての新市場開拓と似通っている部分があると思います。

なぜ、歯医者が虫歯予防のCMに出るのか?

昔から不思議に思っていたCMがあります。

「歯医者さんも薦める、虫歯予防のガム」
(とか、新しい歯ブラシ、とか、新しい歯磨きとか)

「歯医者さんは、虫歯が少なくなると儲けられなくなる筈なのに、なんで虫歯予防のCMに出るのだろう?」と、以前から不思議に思っていました。

2007/1/13の日経プラスワン「私のビジネステク キシリトールを広める」で、キシリトールを日本に広めたダニスコスジャパン・マーケティング・ディレクター藤田康人さんが記事を書かれています。この記事で、その謎が解けました。

簡単に言うと、「マーケットを再定義し、新市場を創造した」ということで、この背景には、マーケティング・イノベーションのエッセンスが詰まっています。

以下、引用しながらコメントします。

「(歯科医に)キシリトールは虫歯の原因になりにくい甘味料です」と説明すると、以外にも多くの歯科医が拒否反応を示しました。「虫歯が減ったら儲からなくなる」と彼らは考えたからです」

キシリトールの最終ユーザーは一般消費者です。一般消費者にとってメリットが大きいものですが、一般消費者にとってキシリトールは無名でした。そのため、インフルエンサー(市場に影響力を与える人)として専門家である歯科医の意見を取り付けようとして、最初はうまくいかなかった、ということです。

我々のビジネスでも、インフルエンサーとの利害が一致せず、サポートを得られない、ということはよくありますが、現在成功されている藤田さんも、当初は同様の経験をなさっていたということですね。

「歯科専門商社に勤めていた大竹喜一さんと出会ったのはそんな時です。「虫歯の予防こそが歯科医の仕事であるべきだ」という大竹さんの意見が突破口になりました。「虫歯にならないために歯科医に行く」というビジネスモデルを作ればいい、とひらめいたのです。」

まさに、ここが大きなブレーク・スルーでした。「虫歯にならない」ということが、インフルエンサーである歯科医にとってどのような価値を生むのかを追求した結果、「虫歯予防」というビジネスを生んだということです。

確かに、私自身も、虫歯になって歯科医に行き、歯を削って詰め物を入れたり、最悪の場合は抜歯したりインプラントをされるよりも、自分の歯がいつまでも健康であることの方が、はるかに価値があると思います。

「フィンランドには虫歯菌の数を測定する検査機器があり、キシリトール入りガムをかむと虫歯菌の数が減るという報告があります。私はこの機器とキシリトールをセットにして「予防歯科」を提案して回りました。」

戦略として考えたビジネスモデルを実現するために、(1)必要な商材の開発し、(2)販売チャネルに大きな影響を持つ関連する人達に対して、(3)マーケティング・プロモーションした、ということです。

当たり前のことですが、商材の開発、チャネル施策、及びプロモーションは、全体のマーケティング戦略の中で大きな位置づけを占めます。

しかしながら、全体の戦略とはあまり関連しない商材開発や、個別プロモーション活動、過去のしがらみに縛られたチャネル施策が企業の中には多いのが、残念ながら現実でもあります。

この短い文章の中に、全体の戦略を、いかに商材開発、チャネル施策、マーケティング・プロモーションをお互いに関連させあって実現していくか、が書かれています。

「虫歯になって歯科医に行くのは全体の1割ほど。残りの9割の健康な歯の持ち主も対象にした医療ビジネスの方が利益は大きくなる、という発想です。」

上記で市場を再定義した結果、ユーザーの数が一挙に10倍になり、新市場を創造した、ということです。(ただし、あくまで潜在ユーザー数であり、市場規模ではないことは意識しておく必要がありますが)

「….消費者、歯科医、ガムメーカー、キシリトール生産者の我々の皆が勝者となる「マルチWin」の関係がここにあったのです。みんなが満足できる「マルチWin」のしくみをどうつくるか。商売の成否のカギはここにある、と私は確信しています。」

このような関係をいかに構築するかが、ビジネスモデル成立のカギですね。このための関係者との調整には膨大なワークロードがかかりますが、得られる成果は非常に大きなものになります。

短い記事でしたが、得られるものがとても大きい内容でした。