48年前のマーケティング論文で知った、100年前の米国史上最も優れたマーケター

セオドア・レビットが1960年に書いた論文「マーケテイング近視眼」を読んでいます。

この論文は、企業経営におけるマーケティングの本質的な役割を定義した記念碑的な論文です。

例えば、米国の鉄道会社が衰退したのは、自社を「輸送事業」ではなく「鉄道事業」である、と製品主体の発想で狭く定義してしまったため、顧客の新しい需要を満たすことが出来ず、車や飛行機などの他の交通機関に顧客を奪われたためである、という指摘は有名です。

改めて熟読すると、素晴らしい知見に溢れています。

特に素晴らしいと思ったのが「ヘンリー・フォードは、アメリカ史上、最も優れたマーケターであると同時に、最も非常識なマーケターだった」という指摘です。

以下、一部を引用します。

—(以下、引用)—–

世間はきまってフォードを生産の天才としてほめるが、これは適切ではない。彼の本当の才能はマーケティングにあった。

フォードの組み立てラインによってコストが切り下げられたので売価が下がり、500ドルの車が何百万台も売れたのだ、といわれている。しかし事実は、フォードが1台500ドルの車なら何百万台も売れると考えたので、それを可能にする組み立てラインを発明したのである。

大量生産は、フォードの低価格の原因ではなく、結果なのだ。

….フォードがその経営哲学を簡潔に述べた文章を紹介しよう。

「当社のポリシーは、価格を引き下げ、事業を拡大し、製品を改良することである。価格の引き下げを第一に挙げたことに注意して欲しい。….まず価格を引き下げる。その後で、その価格で経営が成り立つように懸命に努力している。当社はコストで頭を痛めることはない。新しい価格が決められると、それにつれてコストを下げるからである。….

….まず価格を低いところに決め、その価格で経営が成り立つよう、全員が最も効率よく働かざるをえないようにすることだ。….このように追い込まれた状況のなかで、製造方法や販売方法について発見を重ねていくのであって、時間をかけてゆっくり調査研究した結果ではない」

—(以上、引用)—–

■まず、顧客ニーズから考える。

→そのためには価格から考える。(4Pの中のPriceを、最初に定義)

→その上で生産システムを考える。(Priceの定義に基づき、Productを定義)

…という発想、現代でも出来ている企業は少ないかもしれません。

しかし、今から100年前に既にヘンリー・フォードが実現していたのです。

奇しくもその100年後、ビッグスリーが存続の危機に瀕しているのは皮肉なことです。

「製品ではなく、まず顧客ニーズから考える」という、当たり前のことができず、危機に瀕する会社や事業がいかに多いことか。

私達は、48年前の論文と、100年前の米国史上最も優れたマーケターから学ぶことは、まだまだ沢山あります。

ちなみに、この本、レビットの1960年から2001年までの論文26編が収められています。この正月休みに熟読したいと思います。

「裸足の国でいかに靴を売るか?」を考えると、新製品販売で陥ってしまう罠が見える

よく言われることですが、住民が全て裸足で歩いている国を見てどう考えるか、という話があります。

「ダメダメ、この国では靴の潜在需要が全くない。ニーズがないんだから」と考えるか、

あるいは、

「この国ではもの凄い需要がある。だって誰も靴を履いていないんだから」と考えるか、

この違いは、もの凄く大きいのです。

現状肯定の人は前者の発想を、創造的なマーケティング志向の人は後者の発想をします。

そして、オバマ次期大統領が"Yes, we can"と言っているように、世の中のパラダイムが大きく変わっている現代、私達には後者の発想が求められています。

 

ここで、私達が注意すべきことがあります。

「それでは、裸足の国でいかに靴を売るのか」ということです。

 

そもそも「靴」という概念がない国で、

「この靴は100%完全防水、全くムレません。デザインも秀逸です。あなたにお似合いですよ」

と言っても、恐らくほとんどのお客様の反応は「?????」という感じで、ほとんど売れないのではないでしょうか?

なぜなら、お客様の頭に「靴」という概念がないために、そもそも靴を履かなければならない必然性を感じていないからです。

どうすべきでしょうか?

 

例えば、次のように言うと、どうでしょう?

「あなた、いつも裸足ですよね。ほら、あなたの右足、石ころを踏んで怪我をしていますよね。痛いでしょう?遠い道を歩くのに時間もかかりますよね。実は靴を履くと、道端の石ころやゴミで足を怪我することもありません。とても歩きやすくなるので、遠い道でも全く疲れないんですよ」

この言い方は、裸足の国におけるお客様にとっての「靴」という利便性(「ベネフィット」と言われることもあります)を説明したものです。

 

裸足の国では、前者のアプローチは「製品志向型販売(プロダクト・セリング)」、後者のアプローチは「価値訴求型販売(バリュー・セリング)」です。

面白いのは、靴が既に日常品になっている国では、前者のアプローチは「価値訴求型販売(バリュー・セリング)」になり得るということです。

つまり、「製品志向型販売(プロダクト・セリング)」か、「価値訴求型販売(バリュー・セリング)」かは、販売形態そのもので決定されるのではなく、その市場のお客様が決定する、ということです。

「価値」というのはお客様が決める訳ですから、考えてみるとこれは当然のことです。

 

よくグローバル企業で陥りがちなのは、他の地域で成功した製品をそのまま持ってきて「価値訴求型販売(バリュー・セリング)」をやっているつもりでも、市場の実態と乖離していて、実は「製品志向型販売(プロダクト・セリング)」になってしまっている、という点です。

この罠を避けるためには、どうすればよいのでしょうか?

改めて言うまでもありませんが、まず市場のお客様の課題を理解すること。

そして、その課題に対する自社の価値を考え、その価値をご提供し、メッセージとしてお伝えすることです。

この逆の順番で、自社の価値を考えてからお客様の課題を考え、その課題に対してセリングをかけるアプローチは、たいていの場合、失敗します。

そしてこれは、グローバル企業に関わらず、全ての企業が陥る罠でもあります。

肝に銘じておきたいことですね。

「人に伝わる」とはどういうことなのか? 信長の「朽木越え」におけるシニフィアンとシニフィエ

マーケティング・コミュニケーションで一番重要なのは、「お客様に私達が伝えたいと考えている価値が、正しく伝わる」ということです。

「人に伝わる」とは、どういうことなのか、歴史上のある事件を題材に考えてみたいと思います。

その事件とは、織田信長の「朽木越え」です。

元亀元年(1570年)4月、京都を制した信長は、越前の朝倉義景を攻撃しました。しかし、北近江の浅井長政がひそかに朝倉方に参戦し、越前まで進出して信長の背後に迫りました。

信長は朝倉家を攻撃していた時点で長政の裏切りを察知していませんでした。前後を挟み撃ちされることで、全軍壊滅の危機に晒されたことになります。

長政には、信長の実妹であったお市が嫁いでいました。長政は信長の義弟にあたり、同盟関係にありました。浅井家は朝倉家とも同盟関係にありましたが、信長は、義弟である長政は静観しているであろう、と考えていたようです。

信長が長政の裏切りを知ったきっかけは、お市が信長の陣地に陣中見舞いとして送った小豆袋であると言われています。両端を紐で結んだ小豆袋を見た信長は、自軍が長政の寝返りによって挟み撃ち状態にあることを察知、即座にその場で撤退を決め、越前敦賀から朽木を越えて、京都に退却、全軍壊滅の危機を乗り切りました。

(注:小豆袋の件は俗説であり、実際には信長は他の大名からの通報で寝返りを知った、とする説もあります。しかしここでは、「人に伝わる」意味を考えるために、この逸話を取り上げました。)

 

さて、なぜ信長は、小豆袋で長政の寝返りを察知できたのでしょうか?

その理由を探るために、信長の頭の中でどのような認知活動がされたかを考えてみましょう。

そのためには、この背景を理解する必要があります。

当時の将軍は、室町幕府の第15代将軍・足利義昭でした。まだ信長は有力大名の中の一人に過ぎませんでしたが、天下を目指す信長は義昭を擁して上洛、義昭の第15代将軍就任を強力に支援しました。

当初は良好な関係にあった信長と義昭でしたが、次第に信長が将軍権力を制約しようとしたことで、義昭は信長を排除しようと試みるようになります。義昭は各地の有力大名に御内書を出し、信長排斥を訴えました。

信長は義昭のこれらの行動を知ってはいたものの、第15代将軍をバックアップしているという大義名分を持ち続けるメリットの方が大きいとの判断で、見てみるふりをしていたようです。

一方で、浅井家と縁組を行う際に、実は織田家と浅井家はある約束をしていました。「同盟がある限りは織田は朝倉に進軍しない。進軍する時は必ず浅井に通知する」という約束でした。

しかし信長は朝倉義景を攻撃する際には、長政に事前通知しませんでした。浅井家の中には朝倉家との関係を重視して織田家との同盟に反対する勢力もありました。朝倉を攻撃していることを知った浅井家は、信長が事前通知しなかったことを大きな問題と考えていたようです。

 

このような状況の中、お市の陣中見舞い「小豆袋」は信長に送られました。

「小豆袋」を見た信長は、自分が持っている上記の情報を照らし合わせて、以下のように考えたのではないでしょうか?

①「小豆袋」。両端を紐で塞がれて袋の状態だ。お市は私に何を伝えようとしているのか?

②義昭は各地の有力大名に御内書を送っている。例えば、朝倉家に私の排斥を訴ている。もしかしたら、義昭は、浅井家にも御内書を送しているのではないだろうか?

③一方で、私は浅井家に事前通告なく朝倉を攻撃した。縁組時の約束を反故にしている。これを朝倉家と関係が深い浅井家が察すると、朝倉家との同盟を重視する勢力がだまっていない筈だ。そして朝倉との同盟を優先するために、織田軍を攻撃しようと考える筈だ。

④つまり、お市が送ってきた「小豆袋」の意味するところは、長政が寝返り、自分達が朝倉軍と浅井軍の挟み撃ちにあっているということを意味しているのではないか?

そして「おのれ長政、裏切ったな!」と考え、その場で退却を即決、歴史に残る「朽木越え」が始まった、と考えられます。

 

この事例からはマーケティング・コミュニケーションに関する多くのことを学ぶことができます。

お市が信長に送った「小豆袋」そのものは、あくまで単なる「小豆袋」に過ぎません。

しかしお市と信長は、朝倉家と浅井家の同盟関係、織田家と朝倉家の同盟関係と縁組時の約束、義昭の各地有力大名への工作、といった状況について、お互いに共通の理解を持っていました。

このような状況を共有しているからこそ、「小豆袋」は「朝倉軍と浅井軍の挟み撃ち」という特別な意味を持ったのです。

マーケティング・コミュニケーションにおいて、企業が相手(お客様)に伝え、認識して欲しい内容(お客様の価値)と、それを表現したブランドマークやメッセージも、実は全く同じです。

ここの例では、「朝倉軍と浅井軍の挟み撃ち」を認識して欲しい内容、「小豆袋」がそれを表現したブランドマークやメッセージ、になります。

そして、「小豆袋」に特別な意味があることをお客様に認識いただくことが、マーケティング・コミュニケーションの目標になります。さらに、お客様にその認識を獲得するためには、その背景についても繰り返し伝えていく必要があります。

ちょっと専門的な話になりますが、言語学者であったフェルディナン・ド・ソシュールが構想した記号論の観点で考えると、「小豆袋」はシニフィアン(記号表現)、「朝倉軍と浅井軍の挟み撃ち」という意味はシニフィエ(記号内容または記号意味)と呼ばれます。そしてこの関係性のことをシーニュ(音写または記号)と呼ばれます。

例えば、マーケティング・コミュニケーションを通じて「小豆袋」に特別な意味があることをお客様に認識いただこうとする場合、記号論的に言うと、「小豆袋」というシニフィアンを通じて、「朝倉軍と浅井軍の挟み撃ち」というシニフィエを理解していただく、ということになります。そしてこの「小豆袋 = 朝倉軍と浅井軍の挟み撃ち」という関係性が、シーニュです。

シニフィアンとシニフィエからシーニュが成り立つという考え方は、現代文化の構造を考える上で基本的な枠組みです。そして、マーケティング・コミュニケーションが対象とする商品・広告・店舗などは、全て記号としての存在物です。

フランスの社会学者ジャン・ボードリヤールは「消費される物になるためには、物は記号にならなければならない」と言いました。このことは、ある商品名が世の中で広く認識されると爆発的に売れるようになることからも、よくお分かりいただけると思います。

言い換えると、高度消費社会になった現代、商品は使用価値そのものではなかなか売れません。売れるために必要なことは、その商品が記号化され、かつその記号が他の記号と比べて大きく差別化されている(分かり易く言うと「目立っている」)ことです。

従って、マーケティング・コミュニケーションに求められているのは、いかにターゲットとなるお客様にシニフィアン(記号表現)を発信し、シニフィエ(記号内容または記号意味)を認識いただくために、シーニュ(音写または記号)で表される関係性を設計し理解していただくか、ということにあります。

世の中に存在している様々なものを、「シニフィアン」「シニフィエ」「シーニュ」の観点で見直してみると、マーケティング・コミュニケーションの練習として面白いかもしれません。

今、本を書いています

最近、なかなかブログが書けないのですが、実は自費出版の本を書いております。

この2年間、ブログに書いてきた内容のうち、マーケティングに関するテーマを中心に再構成し、大幅に書き直したものです。

数少ないながらも出版社にも打診してみたのですが、そもそもどのようなイメージになるかを示していなかったこともあって、よいご返事をいただけませんでした。

じゃぁ、自費出版でやってみよう、と考えた次第です。

きょこさんの「ベストセラーは自費出版からスタートすることもあるのですよね」を読んで、自費出版で大きな問題となりそうな販売や配送の課題も、何とか解決できそうだと思ったのも、大きなきっかけになりました。

書名(仮題)は、

なぜ、マーケティング理論だけでは、戦略は立てられないのか?
- 企業の現場における、戦略プロフェッショナルの仕事 -

で、下記の構成にしています。

第一章 市場と顧客を理解する
第二章 戦略を構築する
第三章 製品を開発する
第四章 価格を設定する
第五章 セールス活動と連携し、販売チャネルを開発する
第六章 市場とコミュニケーションする
第七章 検証し、改善を図る
第八章 戦略プロフェッショナルになるためのキャリア・プラン

私が戦略構築と実践の仕事に関わってきて、色々と実際に経験をしたことが、ベースになっています。

いやぁ、しかし、本をまとめるのって、なかなか大変ですね。

私の場合は、ブログに書いてあるエントリーが基本的なパーツになっていて、これを再構成し、足りない部分は書き足して、おかしな部分は書き直す、という作業なので、全くゼロから書き起こす人と比べるとかなり恵まれた状況です。それでも、なかなかまとまりません。

何回見直しても、おかしなところが見つかり、修正しています。なかなか、なくなりません。

オルタナティブ・ブロガーの中には、本を出されている方、しかも出版社から販売されている方が多いことに、改めて敬服いたします。

来月中には、世の中に出せれば、と思っています。

「商品の製造を中止する」という、カラー全面広告

今朝(といってももう昨日5/14ですが)の日本経済新聞の全面広告は、初めて見るタイプの広告でした。

電球への思い入れは強い。でも、地球を思う気持ちは、もっと強かった。

日本発の電球を作った東芝だから、どこよりも早く一般白熱電球製造中止を決断しました。

代替品として今後は、電球型蛍光ランプや、LEDランプを販売していくとのことです。

これは

1.「白熱電球の製造中止」という、一見地味な内容を、「地球環境重視の企業理念の発現」という形に昇華させて、企業としての強烈なメッセージとしている。

2.しかも、非常に目立つカラー2面広告にしていることで、地球環境を重視する企業としてこの決断が非常に重要であったことも伝えている。

3.ビジネス的に考えると、コモディティ化した白熱電球の製造から撤退し、より高価格の(従って恐らく利益率も高い)電球型蛍光ランプやLEDランプに製品ポートフォリオをシフトすることで、企業全体の利益率向上も狙える。

という観点で考えると、企業理念とビジネス目標が見事に連携しあった、非常に戦略的な広告だと思います。

問題の分析が、単なる言い訳になっていませんか?

色々と努力しているのに、どうしてもビジネスがうまくいかない。

対策が必要です。

効果ある対策を講じるためには必要なことは、ビジネスの分析と業績不振の原因の特定です。

これ、すごく難しいのですよね。

例えば、現場のセールスの立場からすると、

「忙しくって案件が追っかけられない。徹夜続き。人を増やして欲しい」

確かに、忙しくって案件が追っかけられないのは大きな問題。徹夜続きの毎日、大変です。

しかし、ビジネスの観点に絞って言うと、人を増やしてすぐに業績が改善するかというと、必ずしもそうではありません。

例えば、人を2倍に増やしても、多くの場合は売上が2倍にはなりません。

なぜなら多くの場合、問題の根本原因は、セールスの人数ではないことが多いからです。

例えば、お客様の要望を外したメッセージや商品を出しているとか。

例えば、マーケティング活動とセールス活動が全然連携できていないとか。

例えば、成長が著しい分野に人員を集中投下できず、売上は大きいけれども徐々に衰退している製品群に人を集めているとか。

そういうことが、問題の原因だったりします、

ですから、多くの場合、「人が足りない。忙しい」というのは根本原因でないことが多いのです。

 

この問題の原因特定の際に気をつけたいことがあります。

それは、"root cause"と"excuse"を分けることです。

"root cause"とは、問題を起こしている「根本原因」です。

"excuse"は「言い訳」です。

一見、"root cause"と"excuse"は非常に似ていて、見分けが付けにくいものです。

しかし、大きな違いが一つあります。

"root cause"の場合は、これを取り除くことで問題そのものが解決し、業績改善が見込めます。

"excuse"の場合は、これを取り除いても問題は解決しません。

あるいは、そもそも取り除けない要因だったりします。このような場合は、その取り除けない要因の影響を最小限にするアクションが必要になります。

例えば、下記はどちらでしょうか?

「そもそも成熟市場向けの商品なので、売上が伸びない」

 

これは"root cause"(根本原因)ではなく"excuse"(言い訳)の典型です。

市場レポート等を見て、「そもそも成熟市場向けの商品である」と提言すること自体は問題ありません。

しかしそれが分かっただけでは、売上を伸ばす方法を見つけることが出来ません。

また、この要因自体を変えることは容易ではありません。成熟市場を成長市場に変えるのは、不可能ではありませんが、莫大な投資が必要です。

また、実際には成熟市場でも成長している企業がどの業界にも存在する、という事実がある以上、「成熟市場向けの商品である」ということだけでは、root causeにはなり得ません。

非常に簡単に言うと、「そもそも成熟市場向けの商品なので、売上が伸びない」と正面から言われても、「それをいっちゃあ、おしまいなのよ。だからどうするか考えているんですよ」っていうことです。

ただし「だからこのビジネス、明日から止めましょう」という提言をするのであれば別です。

しかしこの場合は、「だから、代わりに明日から取り組むべき仕事はコレです!」という提案を十分な説得材料とともに主体的に提言したいところです。

 

ということで、原因の特定、日々悩みながら進めています。

言うまでもなく、本当に大変なのはその後に関係者のコンセンサスを得て実行する段階です。

しかし、コンセンサスを得るためには、まず最初の段階である問題の定義と原因の特定をしっかり論理的に構築することが、成功のカギであると思います。

実際に業務を進める場合は、これをPDCA (Plan, Do, Check, Action)で進めていく訳で、この問題の定義と原因の特定はこのPDCAプロセスの一部として常に行っていくことになるのですね。

マーケティング理論やリサーチで、イノベーションは起こせない

日本マクドナルド会長兼社長の原田泳幸さんのインタビューは、非常に啓発されました。

—(以下、引用)—

社員に最近よく言っていることは、スタッフをマネジメントするときに、いろいろな管理目標とかあるじゃないですか。数値管理して、数字で人を評価する、これをやったら社員は全員だめになる。最初は考えさせるんです。「考えをまとめ、自分の進捗をきちんと継続するために、こういうツールがある。これは支援ツールだよ」とマネジメントしないと、「これでこれをこのようにやれ」と言うと、それをやることが仕事になって、みんなの思考能力が犠牲になるわけです。

—(以上、引用)—

全く、その通りですね。

自分、または自分の組織の仕事の進捗をどのように管理するか、ということを考え抜いた結果、自分自身で数値目標を設定することは非常に意味があることだと思います。

また、チームメンバーと、仕事をどのように進めるかを突き詰めて考えた結果、管理システムを活用して進捗チェックしていくことも、意味があることでしょう。

しかし、数字だけを与えて、「これを達成するかどうかで仕事を評価します」と行うと、何も考えずにやみくもにその数字を追いかけてしまう人を増やしかねません。

党内論理が最優先になってしまい、ニッチもサッチも行かない現在の国会同様、与えられた数値目標最優先では、組織が思考停止状態になりかねません。

気をつけたいものです。

—(以下、引用)—

あと、よく言うのは「事業企画は絶対にリサーチで立てるな」、「お客さまにリサーチして商品企画を計画しても絶対に失敗する。自分が信じるものをお客さまに提案しろ」ということです。「自分が信じるものを一生懸命やって、その通りいっているかどうかの検証のためにリサーチがあるんだ」と言ってます。頭のいい人はサイエンスで事業企画を立てようとする。特にMBAはそういうところが多いですね。

—(以上、引用)—

日産/ルノーCEOのカルロス・ゴーンさんも、

「消費者は5年後の車に対する答えは持たない」

という非常にシンプルな言葉で、過度な顧客志向(というよりも、むしろ顧客依存体質と言うべきかもしれません)の弊害を喝破しています。

また、ヘンリー・ミンツバーグも、MBA的な様々なマーケティング理論万能論について、警鐘を鳴らしています。

私自身、マーケティング戦略立案に携わっていて改めて感じるのは、世の中のリサーチ手法やマーケティング理論は、自分なりに考えた仮説が正しいかを検証するために使うから有効なのであって、これらによって創造性やイノベーションが生みだされることはない、ということです。

創造性やイノベーションは、やはり個人の思いから生まれるものであり、リサーチ手法やマーケティング理論ははその有効性を検証し他の人に対する説得性を高めるための手段である、と割り切って考えた方がよいのかもしれません。

その意味でも、

「自分が信じるものを一生懸命やって、その通りいっているかどうかの検証のためにリサーチがあるんだ」

とおっしゃる原田さんの意見には強く賛同します。

ただし、これを「プロダクト・アウト的アプローチのすすめ」と捉えて、お客様を無視して自分達のやりたいことをひたすら追求するのは、やはりやり過ぎです。

「自分の信じるものを追求する」

「しかしお客様に喜んでいただくことを常に念頭に置く」

「マーケティング手法や理論はそのための手段として活用する」

というバランスが大切なのだと思います。

セールスとマーケティングの違い

最近はあまりありませんが、以前は「私はマーケティングを担当しています」と自己紹介すると、「あ、営業なさっているのですね」と言われることがありました。

ご存知の通り、マーケティングと営業(セールス)は、役割が違います。

実際にお客様と接して、ビジネスに繋げるのがセールスです。

例えば法人系ビジネスで考えてみると、セールスの役割は下記のようなものになるのではないでしょうか?

・お客様が抱えている課題の理解
・自社製品やサービスを組合わせて、お客様の課題解決の提案と個別要望対応を行う
・契約を締結
・製品・サービスがお客様に提供されるまで責任をもつ

一方で、マーケティングとは、非常に簡単に言うとセールスの方々の活動をよりやりやすくする仕事と言えます。

従って、マーケティングの役割は広く、下記のようなものも含まれます。

・市場の理解と分析
・マーケティング戦略の立案
・製品やサービスの開発や体系化
・製品やサービスの価格つけ
・販売方法の戦略策定と展開
・プロモーション戦略策定と実施

 

このような役割の違いがあるので、セールスの人と、マーケティングの人とでは、モノゴトの考え方に違いが生じてきます。

セールスにとっては、目の前にいるお客様の課題をどのように解決するかが最優先です。

例えば、「具体的にこのようなことで困っているんだ」というお客様には、現実的な課題解決策をその場で提示することが必要です。現実の問題で困っているお客様に抽象論を述べても、あまり意味はありません。

従って、セールスの人達の考え方は非常に現実的であり、概念よりも則物化したモノを求めます。

時間軸では、「現在」(今日・今月・今期・今年)に最大の重点が置かれます。

 

一方で、マーケティングの相手は、市場(マーケット)です。

マーケットはお客様のように目の前には存在しません。抽象的で概念的な存在です。

そもそも、「市場(マーケット)」というのは定義の仕方で様々な形になり得ます。

そのような実体がなく概念である市場(マーケット)に対して、自社の認知度を上げようとしたり、あるいは理解しようと考えるマーケティングの人達は、抽象化・構造化・モデル化してモノゴトを考えるようになります。

例えば、市場(マーケット)の代替として、特定個人を想定し、ユーザーシナリオを考えて商品を作る手法もありますが、これもあくまでモデルであり、セールスのように現実の問題で困っているお客様に解決策を提示する訳ではありません。

また、明日のビジネスを考えて計画を立てて仕事を仕込んでいますので、時間軸では、「将来」(明日・来月・来期・来年)に最大の重点が置かれます。(ただし、ビジネスの時間軸が短くなっているのに伴い、マーケティングも現在のビジネス貢献が求められています)

従って、

セールスの方々は、現実対応・即物化、現在志向

マーケティングの方々は、抽象化・構造化・モデル化、未来志向

という基本的な考え方の違いがある、というように考えると、両者の違いが理解しやすいのではないでしょうか?

お互いのこのような立場の違いを理解せずに両者が議論すると、すれ違ってしまうことが結構多いようです。

 

尚、セールスの中には、マーケティングの役割で挙げた項目を日々のセールス活動で実践し、戦略的に営業活動に取り組まれておられる方もいらっしゃいます。

同様に、マーケティングの中には、目の前のお客様に対する問題解決能力が極めて高い方もおられます。

このようなセールス及びマーケッティングの両面で非常に能力が高い方はなかなか得難い人材で、非常に貴重です。

トップレベルのコンサルタントは、このような方が多いと思います。

できれば、そのような人を目指したいですね。

何故、「チコさん」の後任が「りさ子さん」でないのか、考えてみた

「新しい40代」のための女性誌「STORY」(光文社)は、黒田知永子さん(チコさん)が創刊から表紙モデルを務めてこられました。

このたび黒田知永子さんはご卒業になり、後任の表紙モデルは清原亜希さんになりました。

清原亜希さんは、あのプロ野球の清原和博選手の奥様です。

先週、電車の「STORY」のつり革広告で「ラスト大特集 チコさんの旅立ちのときが来ました」という記事のタイトルを見て、「代わるのかなぁ」と思っていました。

今週、本屋にあった今週号の「STORY」の表紙を見て後任が清原さんということが分かりました。

もともと、40代向けの女性誌「STORY」は、30代向けの女性誌「VERY」を卒業した人向けに同じ光文社が作った雑誌です。

「JJ」のモデルだった黒田知永子さんは、引退、就職、結婚、出産の後、34歳の時に「VERY」創刊号の表紙モデルとして復帰、しばらく「VERY」のモデルを務めました。

その後、VERYの表紙モデルは三浦りさ子さんが後任になりました。

三浦りさ子さんはその自由奔放な好感度とあいまってカリスマ性を発揮して大人気になり、「VERY」はかなり売れたようです。

黒田知永子さんもしばらく「VERY」の特集記事に出ていましたが、新雑誌「STORY」創刊に伴って、「STORY」表紙モデルに移った経緯があります。

ちなみに、黒田知永子さんの歴代「STORY」の表紙はこちらです。

ううむ、お美しいですね。 ……考えてみたら、私、同い年です。

その後、三浦りさ子さんも「VERY」を引退、「VERY」の表紙モデルは何人か代わった後に、現在は井川遙さんになっています。

そこで私が考えたこと。

 

『なぜ、「STORY」の二代目表紙モデルは、三浦りさ子さんではないのだろうか?』

 

上記変遷を考えると、順当に行くと三浦りさ子さんになってもおかしくありません。

ただ、黒田知永子さんと三浦りさ子さんは大きな違いがあるように思います。

黒田知永子さんは、その時その時でスタイルを変えています。

例えば、「VERY」創刊時の表紙を飾った黒田知永子さんの写真は、現在の「STORY」の自然体の感じからは違ってゴージャスな印象を受けます。ちなみに、「VERY」創刊号の写真はここあります。

「JJ」時代の頃はよく分かりませんが、恐らくまた違うのではないでしょうか?

「JJ」「VERY」「STORY」と異なる雑誌でも表紙モデルを務め続けられたのも、その時代時代に合わせてスタイルを変え、同年代の読者の方々に新しいメッセージを訴求し続けたからではないかと思います。

一方で、三浦りさ子さんはどこでも三浦りさ子さんで、その自然体のスタイルは一貫しているように思います。「VERY」で大人気になったのも、その一貫性にあったのではないでしょうか?

大人気だった、ということは、言い方を変えれば、『「三浦りさ子さんのライフスタイル」という記号は、記号として消費尽くしてしまった』とも言い換えることができると思います。

「STORY」創刊号の表紙に黒田知永子さんが登場した時は、「新しい雑誌が始まるのだ」という予感がありました。

しかし、「VERY」という雑誌とともに記号として消費し尽くされた、言い換えるとご自身の存在が「VERY」というブランドそのものとして認知されてしまう三浦りさ子さんが「STORY」の表紙に登場すると、「STORY」と「VERY」とのポジショニングが重なってしまう危険性があります。

三浦りさ子さんが引退した「VERY」がしばらく表紙モデルを決められなかったのも、「VERY」という雑誌そのもののアイデンティティが、あまりにも三浦りさ子さんと同一化していたためであるとも言えるかもしれません。

複数の製品ラインを持ち、大ヒットした製品の後継モデルを出す際のプランナーの悩みも、全く同じですね。

 

一方で、数年後に「新しい50代」のための女性誌が出来た場合、黒田知永子さんがまた表紙モデルに復帰してくるかもしれません。今度はどのようなメッセージを訴求してくるのでしょうか?

知らないと損する? 店内放送のヒミツ

デパートに行くと、様々なBGMが流れます。

例えば夕方になると、「ロッキーのテーマ」が流れることが多いようです。

「そう言えば、何故なんだろう」と不思議に思った方も多いのではないでしょうか?

デパートでは、お客さんに知られないようにBGMで店の従業員の方々にメッセージを流していることがあります。

そこで、どんな意味なのか、ネットで調べてみました。

■ロッキーのテーマ:「売上未達成。頑張ろう!」

■スーパーマンのテーマ:「売上予算達成!」

■雨にぬれても:「雨が降ってきたので包装をビニールに変更」

■オーバーザレインボー・蒼いノクターン:「雨が上がった」

■スターウォーズ・HELP!:「混雑してきたので応援要請」

■ピンクパンサー:「盗難があった」

他にも色々あるようです。

考えてみると、よく出来ています。

このようなことを知っていると、ちょっとだけ便利なのではないでしょうか?

例えば、「ロッキーのテーマ」がかかった場合、強気に値引き交渉するとよいかもしれません。このテーマがかかると、魚屋も早めの時間に値引きを始めたりするのでしょう。

雨が降ってきて傘を買おうとデパートに入った場合にオーバーザレインボーがかかると、外の様子が分からなくても、もう傘は不要ということが分かったりします。

こういうことを知っておくと、デパートでBGMを聞くのがより楽しくなるかもしれませんね。

バレンタイン・デーの経済効果を考える

本日はバレンタイン・デー。

本命・義理を含め、チョコレートをプレゼントした方も、もらった方も多いのではないでしょうか?

近所のデパートでは、1週間ほど前からチョコレート売り場が様々な場所に設置されていました。いたる所にチョコレート売り場があり、もしかしたら売り場の2-3割の面積を占めているのではないか、と思えるほど。

今日、早めに会社を出て帰宅途中にこのデパートで買い物をしましたが、バレンタイン当日の今日もチョコレート売り場は大盛況でした。立ち寄っているお客さんも非常に多くいました。

ところで、私は魚を買いに魚売り場に行ったのですが、普段はこの時間に割と残っている魚が全く残っていませんでした。野菜売り場も同様でした。

これから先は私の想像ですが、恐らくチョコレート購入目当てで来たお客さんが、ついでに魚や野菜などの他商品も購入して帰ったのではないでしょうか?

もちろん、普段買い物に来ている人もチョコレートを買っておられると思います。しかし、チョコレート以外の商品も普段以上に売れているということは、普段は買わないお客さんが購入していることが考えられます。

普段は他商品を扱っている売り場でチョコレートを売っているので、その商品の売上はそのまま失われます。しかし、チョコレートが売れることで別商品(野菜や魚など)も新たに一緒に売れるのであれば、チョコレート売り場を拡大する方針は非常に合理的な判断である、と言うことができます。

例えば、バレンタイン・デーに伴うチョコレートの売上金額の増加分を100万円、これに伴う他商品の売上金額の増加分を300万円とすると、チョコレートの売上に伴い3倍の売上を実現できたことになります。

ここで、バレンタイン・デーによるチョコレートの売上金額の増加分を⊿C、これに伴う他商品の売上金額の増加分を⊿Sとすると、

バレンタイン乗数 = ⊿S / ⊿C

というように、バレンタイン・デーに伴うチョコレート以外の経済効果を定量化できるのではないかと思いますが、いかがでしょうか?

ちなみに、本日(2/14)発売のモーニングに連載されている秋月りす「OL進化論」で、

「本気で物を売りたいなら、若い女子の恋愛だけを狙っても限界がある」
「真に偉大なのは"義理チョコ"を思い付いた人だと思う」
「恋愛よりも市場は大きいよね」

という話があります。

「ううむ、なるほど」と思います。

MacBook Airの「演繹法的発想」開発手法は、ビジネス分野でも参考とすべき

MacBook Airが発表されました。

一番薄いところで厚さ4mmというのは、ちょっと驚きです。

私が愛用しているThinkPadとは重量は変わらないので、私自身は購入意欲はそれほどかき立てられませんが、Mac大好きの方々は早くも注文している人も多いようです。

 

私が今回のAirで改めて感じたのは、iPod/iPhoneでも感じたApple製品開発陣の割り切りの潔さとその発想方法です。

例えば、Airのネットワーク接続は無線LANのみでEthernetポートはありません。Ethernetを使う場合はUSB経由です。

同様にMacには必ず付いていたFirewire(IEEE 1394)ポートもありません。

DVDドライブもなく、DVDを使用する場合は、自宅等の他パソコンのDVDドライブをネット経由でマウントして使うことになります。

しかし、Airに心を奪われてしまったユーザーは、このような制限も喜んで受け入れるのではないでしょうか?

思い起こせば、iPodも同様で、パソコンを持っていないとそもそも使えません。iPhoneもiTMSでアクティベートするのが前提なので、パソコンがないと使えません。

普通の発想からすると、つい「パソコンが使えないユーザーへの対応はどうする?」と考え勝ちですが、この割り切りのよさ。

これって、そもそも発想方法自体が異なるのではないでしょうか?

 

典型的な製品開発の考え方は、このような感じではないでしょうか?

・出来るだけ多くの顧客ニーズを集め、分析する

・顧客ニーズを最大限満足する製品設計を行う

⇒結果、顧客ニーズをほぼ完璧に満たした製品が誕生する。しかし八方美人的製品であり、安心だが、割とそのような製品は他にも選択肢が多い。競争も激しい。

つまり、ニーズを積み上げて個別に対応する考え方です。「演繹的帰納法的発想」と言い換えることも出来ます。

一方で、AirやiPod/iPhoneの製品開発における考え方は、恐らくこのような感じではないでしょうか?

・少数のトップノッチ・デザイナーが、感性に訴える最終デザインを最初に決める

・デザインコンセプトによって生じる制限事項への対応方法を考える (AirのDVD活用のケース)

・予め絞り込んだ対象セグメントを考慮し、制限事項が対象セグメントで大きな問題とならないと判断した場合、あえてニーズを切り捨てる。(iPodやiPhoneがパソコンがないと使えないケース)

⇒結果、「尖がった」製品が出来上がる。ワクワクさせる。絞ったセグメントに大量の開発・マーケティング・リソースを投資し、競争に打ち勝ち、そこを橋頭堡にして拡げる

これは最初に完成形を決めて、それを実現するために必要なことを考えていく考え方で、「帰納演繹法発想」と言い換えることもできます。

ますます感性が問われていくコンシューマー分野では、帰納演繹法的発想に基づく開発手法は重要になってきています。

1年前にこちらでも書きましたように、日本でも、個々のニーズを切り捨ててでも当初の製品コンセプトを実現する帰納演繹法的発想で成功した製品は多くあります。

それまで必須と考えられてきた録音機能を捨てて新市場を作ったウォークマンなどは、その中でも最たるものかもしれません。

従って、「帰納演繹法的発想」は、決してアップル等の欧米企業の専売特許ではありません。

 

一方のビジネス市場では、個別のビジネス・ニーズ対応が重要であり、前者の演繹帰納法的発想が主流でした。

しかし一方で、各種調査では、経営ビジョンを実現するためのビジネスモデル策定が急務と考える経営者が増えてきているのも事実です。

これを実現するためには、例えば、「経営ビジョン⇒ビジネス・モデル・デザイン⇒業務設計⇒ITインフラ設計⇒実装⇒社内展開」という流れで経営変革を行っていくことになります。

これは、まさに「帰納演繹法的発想」です。

このように考えると、ビジネス分野でも、AppleのAir/iPod/iPhone製品開発の考え方は、大いに参考になるのではないでしょうか?

 

2008/1/18 12:40修正: 「演繹法」と「帰納法」の使い方が逆だったのを訂正しました

なぜ、「エブリディ・ロー・プライス」で儲かるのか?

いたるところで、年末商戦真っ只中ですね。

特売をすると、その時点で売上が一気に上がり即効的な結果を得られることもあり、その期の売上目標達成のために特売や値引きを行う店舗や企業は多いと思います。

しかし大きな弊害もあります。

例えば小売業では、値引きする日は大勢のお客さんが来ますが、値引きしない日はお客さんが来なくなってしまいます。

または、値引きが常態化してしまいます。

つまり通常価格では買わなくなり、特売期間だけ来るようになります。

実際、日本でこの点を調査した研究もあります。

複数の店で牛乳の販売価格とその売上の関係を長期間調査した研究です。結果は、以下の通りでした。

■常に一定の金額で売っている場合はコンスタントに売れる。

■通常はやや高めの価格、特売時にはその半値で売っている場合は、常に半値でしか売れない。しかも、高値と安値の真ん中の金額でもあまり売れない。

つまり、特売や値引きをすることが、消費者の買い控えを生んでしまっている、ということです。

店舗施設稼働率の観点では、施設が十分に活用されてなくなってしまうので、資産収益率(ROA: Return on Assets)も下がる要因になります。

施設稼働率以外にも問題があります。

例えば、消費者向けでなく法人相手の場合、値引き交渉は人間が行います。従って、案件毎の値引き交渉自体にコストがかかってしまう、という点です。

では、どうするか、ということで出てきたマーケティング戦略の一つが、米国・ウォルマートが実践しているEDLP(エブリディ・ロー・プライス)戦略です。(他にも高品質のブランドを確立し、一切値引きせず売る戦略もありますが、それは今回は触れません)

一見すると、毎日値引きしているように見えます。

実際、米国でウォルマートの店舗に行ってみると分かりますが、他の店と比較しても非常に安い価格で販売してます。

しかし、大量仕入れにより仕入れ価格を下げているので、それなりに利益も確保しています。

常に最低価格を保証していることで、お客様は、今、店にいるこの瞬間に提示されている価格が期末に特売で値引きされないことを知っていますので、お客さんは買い控えをしません。

つまり、それなりの利益を確保した価格で大量販売することにより、大きな利益を稼いでいます。

実際、Yahoo! Financeを調べてみると、本日時点のウォルマートの売上高利益率(Profit Margin)は3.4%、資産収益率(ROA: Return on Assets)は8.6%です。

薄利多売ですが、店舗や配送センターという資産の面で見ると、大きな利益を生み出しているということですね。

市場環境が異なるので一概には比較できませんが、日本の大手小売業と比べると、売上高利益率ではウォルマートを凌ぐ百貨店が少数あるものの、資産収益率(ROA)ではウォルマートの方がかなり高い数字になっています。

しかしながら、EDLPを実践するには、高度なローコストオペレーションと、仕入れ原価低減の徹底した努力が必要になります。ビジネス戦略と密接に連携した、ITの活用が不可欠ということですね。

このように見ると、改めて価格戦略は非常に重要なマーケティング戦略の一つであることが分かります。

安い価格で売ることと、値引きをすることは、似て非なるものです。

安く販売するのは戦略ですが、値引きを多発するのは戦略ではない、とも言えるかもしれません。

広告メール、無断送信すると懲役も!?

本日(12/19)の日本経済新聞に、「広告メールの無断送信は懲役、経産省方針」という記事が掲載されています。

割と小さい記事ですが、ポイントは下記です。

・経済産業省の迷惑メール対策の詳細が固まった
・業者が消費者の事前承諾なしに広告メールを送ることを禁止
・悪質な業者には新たに懲役刑や罰金などの刑罰
・委託を受けた場合も刑罰の対象。規定も設け悪質業者の摘発を強化

このニュース、二面性がありますね。

まず、個人のメール・ユーザーとしては、この方針は大歓迎です。

今や私個人のメールアドレス宛に届く迷惑メールは毎日数百通。

フィルターをかけているものの、『もはや、「メールは確実には届かないもの」と考えるべきなのか?』にも書きましたように、迷惑メールに分類された中に重要なメールが紛れ込むこともしばしばです。

同様に、以前は比較的確実に相手に届いていたメールが、今やフィルターに引っ掛かってちゃんと相手に届かない場合も大きくなってきました。

こちらの記事には、その対策や心得が詳しく書かれています。

一方で、企業のマーケティング担当者としては、顧客DBから条件を特定してターゲット顧客を抽出し、メールで販促をかける、…..ということがますます難しくなり、今後は今まで以上にオプトイン獲得が必須になってきます。

自分自身を振り返ってみても、以前オプトインを受け入れてメール配信をお願いしたのに、その後見なくなり、メールボックスから削除し続けている広告メールがいかに多いことか。できるだけオプトアウトしていますが、オプトアウトの方法を明記していない、あるいは分かりにくいメールも意外と多いのです。

企業にとって、Push型マーケティング手法そのものを見直し、いかにPull型で効果を上げていくかを考えていくタイミングなのかもしれません。

身の丈で始められる、インターネット広告

今泉さんが「デモグラフィック情報はもういらない」というエントリーを書いていらっしゃいます。

同じ関心を持っている人達が集まるネット空間では、デモグラフィック情報はマーケティングの要素として考慮せず、切り捨てた方がより効果が高いマーケティング成果が出る、というご指摘。

全く同感です。

私は、プライベートで事務局を担当している合唱団の団員募集でインターネット広告を出しています。

2年間試行錯誤した結果、広告内容自体はかなりチューニングされて、かなり効果が上がるようになりました。実際、現在合唱団に所属している団員約40人は、ほぼ全員がこのインターネット広告を見て体験レッスンを申し込んだ人達です。

一方で、この団員のデモグラフィックスはまさに千差万別です。

唯一の接点は「合唱を心から楽しみたい」という気持ちを持っている、という点です。

しかし、まさにそういう方々に入団していただきたいと思っていますので、同じ関心を持つ人達によるネットコミュニティ形成とインターネット広告は、非常に親和性が高いと実感している次第です。

ということで、インターネット広告のキーワードや表示テキスト、ホームページのデザイン、等々は、このような「合唱が大好き」という方々の琴線に触れるように注意深くデザインしています。

もちろん、合唱団そのものも、コミュニケーションの内容と一致した運営を行っていることは言うまでもありません。このあたりはバリュー・プロポジションが大切さな理由です。

 

その昔、合唱団員の募集といえば、街頭でビラ配りをして一人一人説得していた時期もあったそうです。

確かに数十年前はこの方法が相手に気持ちを伝える上で効果的だったのでしょう。

しかし、今、こんなことをすると、残念ながらアヤシイ人と思われがちです。

演奏会でチラシを配る方法もあります。ウチも以前5,000枚程配布したことがありました。反応は1-2人でした。

金額とかけるワークロードで考えると、コストパフォーマンスの観点では、従来のチラシと比較すると、インターネット広告は数十倍の効果を上げています。

 

一方で、ホームページを持っていたり、広告を出している合唱団は多いのですが、どうも見ている限りは、それだけではなかなか成果は出ていないところが多いようです。

この点は、まさにマーケティング戦略でバリュー・プロポジションを定義する段階から、実際のコミュニケーション展開に至る段階、実際に見学に参加する段階、入団した後の段階に至るまで、マーケティングの基本に則って全てのマーケティング・ミックスを展開しているかどうかが成否のカギです。

もしかしたらウチの合唱団も、この2年間で知らない間にノウハウを蓄積しているのかもしれませんね。

ということで、ネット広告の世界では、今泉さんがおっしゃる…

名詞がすべてだ。世界は名詞で成り立っている。名詞バンザイ。

はまさに至言だと思います。今泉さんは、

現実的にはまだまだ課題があります。その最大のものは、特殊な名詞でターゲティングできるのは、相応にリテラシーの高い顧客に限定されるという点です。

とおっしゃっていますが、ウチの合唱団は、リテラシーの高い方に入団していただきたい、とも思っているので、これでヨイのです。ここでセグメンテーションを図っていることになるのですね。

 

尚、インターネット広告は個人で非常に簡単に始められます。コストも選択するキーワードによって異なりますが、ウチの場合は1ヶ月間で数千円程度です。

以前、こちらで書きましたように、マーケティング感覚を磨けるという副次的な効果もありますので、興味のある方は機会がありましたら是非始められるとよいのではないでしょうか?

「じっくり戦略を立てている時間がない!」という場合の処方箋

周到に戦略を立てることは非常に大切ですが、現実はなかなかそうはいきません。

まず、最近は、投資回収が求められる期間が短縮してきています。2-3ヶ月程度で成果を求められることも多くなっています。このような場合、戦略立案に1-2ヶ月もの時間をかけている余裕がありません。

また、世の中の変化が激しい昨今では、ますます複雑化していく環境の膨大な情報収集とその分析に時間をかけている間に、世の中そのものが変わってしまい、調査結果が過去のものとなってしまうこともよくあります。

従来の伝統的戦略手法では、

・市場を細かく定性的・定量的に分析し
・ターゲットとなるセグメントを決め
・そのセグメントのニーズをさらに細かく分析し
・競合他社を調査し
・自社のオファリングを定義し….
・……

というようなステップを踏んでいきます。

一つずつ順序だてて先に進めていくため、「演繹法的プロセス」ともいえます。

ただ、企業の現場での仕事を考えると、実際にはこのような手法が取れないのが現実です。

我々はどのようにすればよいのでしょうか?

 

当ブログでも何回か書きましたように(エントリーの一番最後にある参考リンク参照)、そのためには『仮説検証プロセス』が非常に有効です。

ITmediaエグゼクティブの記事『仕事の速い上司になる「仮説思考」のススメ』で、早稲田大学大学院商学研究科・内田和成教授の講演が紹介されています。

『仮説思考』を『仮説検証プロセス』と読み替えると、この記事は仮説検証で必要な勘所がよくまとまっていると思います。

特にキーとなる部分を引用します。

—(以下、引用)—

 「問題の答えを先に決めつけてしまえ」――内田氏は経営や仕事をスピードアップするコツとして「仮説思考」を勧める。問題を網羅的に解決しようとしたり、たくさんの情報を集めてから解決策を出すよりも、あらかじめ答えを決めて検証するやり方の方が仕事を効率的にできるという。

最初に答えを決めておいて、それに必要な部品を集めていけばいい。100を網羅的にやるより、もっともらしい2、3をやる。仮説思考は繰り返せば繰り返すほど経験がものをいうし、精度も上がる」

—(以上、引用)—

この記事にあるように、確かに、仕事が速くなるのは、ビジネスマンにとって非常に分かり易い、現実的な大きなメリットです。

一方で、仕事を速くするだけではなく、冒頭に紹介したビジネス上の課題を解決するという観点で、仮説検証プロセスを活用していきたいですね。

仮説検証プロセスは、冒頭で挙げた演繹法的プロセスではなく、帰納法的プロセスです。

帰納法とは、様々な事象から因果関係を導き出して、結論として原理を導き出す方法です。結論は推論ですので、必ずしも絶対真理を表すものではありません。

しかし、世の中が激しく変化している現代では、帰納法的手法(=仮説思考)は、近似解として非常に有効です。

内田教授が「繰り返せば精度も上がる」というのは、まさにその点を指しています。

 

仮説検証プロセスを行いPDCAサイクルを回しながら、本来の戦略的手法を適用していくとさらに効果的です。

むしろ、現在、世の中で事例として発表されている戦略的プロセスの成功事例は、仮説検証を通じて予め対象を絞って立案し、その後に戦略的手法で肉付けしているケースが非常に多いのではないでしょうか?

 

参考リンク
マーケティングの99.9%は仮説
山登りのパラダイム・波乗りのパラダイムと、仮説検証サイクル
大リーグが14年で売上5倍に伸ばした理由
日本軍から学ぶ 『情報は客観的に見るべきであり、主観的に見てはいけない』

ThinkPadから消えたIBMロゴ

ITmediaの記事にありますように、ThinkPad15周年モデルが発売になりました。

記事をよく見ると、このモデルは、IBMロゴの部分がThinkPadの15th Anniversary Editionロゴになっています。

レノボは、先日の決算発表で、「今後はIBMロゴをLenovoロゴに換えていく」と発表しましたが、その発表後の初めての製品です。

今後、ThinkPadについていた見慣れた三色のIBMロゴは、徐々にLenovoロゴやThinkPadロゴに切り替わっていくのでしょうね。

考えてみれば、ブランドのロゴを時間をかけて転換していくという、マーケティング的にも貴重な事例になるのではないでしょうか?

大リーグが14年で売上5倍に伸ばした理由

1993年、大リーグの売上は12億ドルでした。これが今季は60億ドルを突破します。14年で5倍。これはすごい成長ですね。

このことについて、福岡ソフトバンクホークス取締役小林至氏が本日(2007/11/20)の日本経済新聞に『スポートピア MLBの復活 教訓に』というコラムを書かれています。

—(以下、引用)—-

 興味深いのは、これだけ劇的な変貌を遂げるのに、MLBが何かを発明・発見したわけでも、魔術を会得したわけでもなく、やるべきことを迅速に実行した結果だということ。基本的には顧客=ファン、スポンサーのニーズを的確にとらえ、反映させ、そのうえで需給を制御して価値を高める権利ビジネスの王道を粛々と行った。

—(以上、引用)—-

「成功の秘密」は、実は「当たり前のことを当たり前にやること」ということは、私も実際の仕事でいつも実感しています。

私は、「当たり前のことを当たり前にやる」ために必要なことをあえて三つに絞ると、下記になるのではないかと思います。

1.一番最初の問題の定義と、関係者との徹底共有
2.仮説検証を実践していくガバナンスの仕組みの定着
3.トップのリーダーシップ

1.一番最初の問題の定義と、関係者との徹底共有

戦略を実行する上で、この段階が一番大事なのではないでしょうか? 最初に解決すべき問題が定義できれば、その問題解決方法は色々な選択肢がありますので、状況や環境に併せてそれを順次試していくことになります。

2.仮説検証を実践していくガバナンスの仕組みの定着

上記1.とも関係しますが、選択肢も無作為に試していては結果に繋がりません。

例えば3ヶ月間というように期間を区切り、最初の月に仮説(課題解決手段)を立てて、実行し、3ヶ月目の最後に結果を検証し、そこから学んだ結果を次の3ヶ月の戦略に反映する、というPDCAのサイクルを確実にかつ迅速に回すことが必要です。

3.トップのリーダーシップ

実際にこれを進めるにあたっては、現場の状況とそぐわないことも沢山出てきます。このような状況でも実施し続けるには、組織全体を束ねるトップの強いリーダーシップが必要不可欠です。

 

ちなみに、先の記事を書かれた小林さんは、MLBの来年以降の最重要課題が試合時間短縮であり、MLBが既に20分近く縮めて2時間50分台を実現していることに触れた上で、日本の状況を下記のように述べられています。

—(以下、引用)—-

 我々日本軍は「時短」の認識はあるものの、現場との調整などで、いまだ3時間10分を切れず。各方面への気遣い、現場の尊重が日本の良さではあるのだが….。

—(以上、引用)—-

日本の良さである現場の強さを活かしながら、いかに変革を進めていくか….難しい課題ですが、両立することでMLB以上の成果が生み出されるのではないでしょうか。

製品ポートフォリオをいかに変えるか?(3) タックマンモデルの活用

第一回目第二回目から間が空きましたが、今回は本テーマの第三回目です。

ポートフォリオ変革のためには、チーム全体で全体最適を図っていく必要があります。

しかし、一口に「全体最適」と言っても、非常に難しいのが現実です。

関係する部門のリーダー達が集まって話し合って結論に合意しても、現実に実行しようとしても現場で様々な障害が立ち塞がってしまい、結局全体最適を図ることは出来ず、ポートフォリオ変革も実現できません。

これに関して、日立ディスプレイズ業務改革本部長の矢野知隆さんが11/14の日刊工業新聞p.21に書かれた「プロジェクトの成功要因 全員に統一"顧客意識"」という記事にヒントが書かれていましたので、ご紹介します。

矢野さんは、あるプロジェクトの成功要因として、「タックマンモデル」に従って、チームの形成段階を下記の六つに分けてチームパフォーマンスを分析しておられます。

0. ばらばらの個人(パフォーマンス極低)
Ⅰ. 形成期 (パフォーマンス低)
Ⅱ. 騒乱期 (パフォーマンス極低)
Ⅲ. 規範期 (パフォーマンス中)
Ⅳ. 実行期 (パフォーマンス高)
Ⅴ. 散会期 (パフォーマンス中高)

初期3段階の説明を記事から引用します。

—(以下、引用)—

形成期=全体侵攻の状況や進め方を見渡せず、自分の範囲を守ることのみを関心事とする集合体の時期

騒乱期=全体像が見え、その困難さに気付き、いかに自分のみ勝って逃げようかを関心事とする集合体の時期

規範期=自分の役割を認識し、喜々として努力する集合体の時期

—(以上、引用)—

これは非常に分かりやすいですね。

例えば個々の製品レベルだけの視点で考えると、他部門の製品に関係なく、自部門の製品に対して出来るだけ多くの社内予算や社内リソースを配分してもらった方が(行儀の悪い言い方だと「ぶん取って」きた方が)、自部門の製品が売れる可能性を高めることができます。これは自分の範囲を守ることを最優先に考える個別最適であり、上記では「形成期」「騒乱期」にあたります。

一方で、全社レベルの視点で考えると、どの製品に投資するのが会社にとって一番費用対効果が高いのか、とか、どの製品とどの製品を組合わせると会社全体でよりお客様の問題解決を図ることができるか、とか、全部門共通の問題をいかにお互いに汗を流して解決していくか、ということを考えます。これは全社最適であり、上記では「規範期」にあたります。

ポートフォリオ変革を行う場合は、上記で言うと個別最適ではなく全体最適を図ることが重要です。

従って、チーム全体をいかに「規範期」に持ってくるか、がカギとなります。

矢野さんは、ご自身が関わられた事例の成功要因として下記のように述べておられます。

—(以下、引用)—

 これら顧客分析を通し「顧客満足の獲得方法」として、改めて「チーム員全員で顧客が誰かを共有する」ことの大切さを抽出した。「個々分担の完遂とその集合で全体達成」を管理のベースとするマネージメント体系は完全ではない。

 ある一員が自分の部分集合の境界を自分に有利に狭く設定すれば、その外のあいまい部を誰かは拾わねばならぬ。背景や目的の共有をこそ、管理のベースに据えるべきである。

—(以上、引用)—

記事では要因を広く捉えて「顧客満足の獲得方法」「背景や目的の共有」としていますが、全く同感です。

私自身の経験では、「形成期」または「騒乱期」の段階で、下記について全員で共有することが、ポートフォリオ変革実現のためには必要なのではないかと思います。

1.解決すべき課題
2.その課題を解決する手段
3.ターゲットとなるセグメントと優先順位
4.各セグメントに対する販売・デリバリー・チャネルの優先順位
5.各セグメントに対するオファリングの優先順位
6.各セグメントに対するマーケティングプログラムの優先順位
7.達成基準と進捗管理指標(KPI: Key Performance Indicator)
8.進捗管理方法
9.体制と役割分担

さらに、上記1-6の戦略と、7-9で合意したプロジェクト管理方法に従って、できれば四半期毎にPCDAサイクルを回していき仮説検証を繰り返して改善を図っていくことも必要です。

このように見ていくと、ポートフォリオ変革の成功要因は、一般的なプロジェクトの成功要因と非常に相通じるところがあると思います。

 

関連リンク:
製品ポートフォリオをいかに変えるか?(1)
製品ポートフォリオをいかに変えるか?(2) 産油国ドバイの財務ポートフォリオ変革に学ぶ

高い精度で、経済動向を把握する方法

マクロな経済動向把握は、マーケティングの中でも重要です。

経済動向を把握する様々な指標がありますが、その中でも「短観」(日銀企業短期経済観測調査)は、その精度が高さから、海外の経済・金融機関の間でも"TANKAN"の名称で知られています。

日銀のHPでは、こちらにレポートが掲載されています。

11月9日の日刊工業新聞p.19「日銀125年(5) 世界の"TANKAN"」で、この短観について解説しています。

・下記について直接企業の経営者にアンケートを実施

業況の現状・先行の判断、事業計画に関する実績・予測

・四半期毎に実施、アンケート結果をそのまま集計、分析せず。(分析は市場関係者やメディアに任せる)

・98.8%の回答率。全国10,750社に本店と32支店で手分けしてアンケート送付。未回答の場合電話するなど、地道に回収を継続

・機密性も保持。公表は朝8:50で当日数時間前に集計を始めるので、総裁でも前日に結果を知ることが出来ない

回収率98.8%というのはとんでもない数字ですが、これもこの調査に参加する経営者の使命感と、それをフォローする日銀の方々の努力の賜物なのでしょうね。

こちらのp.8に最新(2007年9月時点)の業況判断の推移が掲載されていますが、これを見ると最近5年半は、最近30年間で一番長い景気拡大期であることが分かります。

ただ、この先はちょっと微妙な感じもしますね。

任天堂がすごい理由

任天堂の時価総額は現在9兆円弱。

従業員数わずか1400人の会社ですが、同じハイテク業界で従業員数が数万人の他社の時価総額を上回っています。

kshさんが書かれた「任天堂のすごさを垣間見たとき」というブログを読んで、その理由の一端がよく分かったような気がします。

メインのお客様である子供の心がとことんまで分かっていて、お客様に接する最前線の顧客サポートでも、真摯に対応しているんですね。

このブログに対するはてブのコメントも、大変面白いですね。

「我々も、お客様のことをここまで分かるようになりたい」と思ってしまいます

しかし、顧客サポートだけの問題ではないようにも思います。

スペックを追い求めずに「遊びとは何か」を考え抜いて製品開発する姿勢と併せて考えると、任天堂の場合は、企業の存在理由である企業文化のレベルで、「遊び」を徹底追求する姿勢が貫かれているように思います。

顧客志向に変革してきた最高峰のNikon

少年時代の私にとって、Nikonはまさに雲の上の存在でした。

私が写真を始めた頃は、最高峰カメラは既にNikon FからF2に移っていました。F2を自由自在に操る先輩が、とてもまぶしく見えたことをよく憶えています。

私のNikonに対する印象は、「ひたすら真面目に作られた、誇り高いプロの道具」でした。

そのようなNikonですが、今やこちらに書かせていただいたように、顧客情報や販売情報などを集約してスピーディーに分析する専門組織「マーケティングラボ」を作り、大きな成果を挙げています。

考えてみれば、かつてのNikonはマーケット・インの会社ではなく、ひたすら技術的に最高のモノを追い求め、かつそれを実現できる技術も匠も揃っていた徹底的なプロダクト・アウトな会社でしたので、このように顧客の声を手間隙かけて分析することはあまりなかったのではないでしょうか?

当時はNikonはそれこそ孤高の存在でしたから、この方法でうまくいっていたのだと思います。

このようなNikonがどのように顧客志向に変革していったかが、「神話の世界から降りてきたニコン」に詳しく紹介されています。

カメラの世界では、それこそ「Nikon派≒Nikon教」の人や、「Canon派≒Canon教」の人がいたりします。その意味でも、「神話の世界から降りてきた…」は、まさに言い得て妙だと思います。

記事を読むと、自分達が作る製品に高い誇りを持っていた会社が限界に突き当たり、トップのリーダーシップで顧客志向に変わっていく様子が、よく分かりますね。

一時はデジタル一眼カメラのシェアで独走していたCanonに対し、今年、Nikonはトップシェアを奪い取り、最近は今まで製品ラインアップになかったフルサイズカメラNikon D3も発表しました。

顧客志向+製品への高い誇りが組み合わさると、素晴らしい結果が生まる、ということですね。

私個人はCanon EOSシリーズがメイン機種なので各種機材をCanonで揃えていますので、個人的にはCanonにいいカメラを出して欲しいところですが、是非Nikonも最高のカメラを出し続けていただき、業界全体がより高い次元で競争するようになっていただきたいですね。

ルノーの競合車分析センターから学ぶ、インテリジェンス活用の重要さ

昨日(10/19)の日刊工業新聞の記事で、仏ルノーがライバル車を徹底的に分析している様子が書かれています。

—(以下、引用)—-

パリ近郊にあるルノーのテクニカルセンター。その一角に分解された他社のクルマが20台ほど置かれている。「競合車分析センター」と呼ばれる専門チームは現在約80人。充実した設備が整ったのは数年前。年に500以上のクルマを徹底的に調べあげることができる。……ミリグラム単位の素材や電子制御ユニット(ECU)まで調査し、ボウダイナリポートを開発や調達部門などに報告する。開発過程で最初の"検問"になるだけに役割は重要だ。

「….今、面白いと思って解体しているのはインドで作ったスズキの『スイフト』。サプライヤーなら全部分かるよ。」

—(以上、引用)—-

インテリジェンス獲得のために、会社の経営資源を投入している取り組みは、非常に参考になりますね。

日本はどちらかというと、現場重視で、現場で獲得した暗黙知を会社全体で活かしていく傾向が非常に強いと思います。この愚直なまでの取組みが、日本の企業の強さを生んでいます。

一方で現場重視のあまり、専門家による分析を通して得られたインテリジェンスを軽視する傾向が一般的にあるようにも思われます。

現場重視はメリットも多いのですが、あえてデメリットを一つ挙げるとすれば、現場で分かることは自分達が接している範囲に限られてしまう、ということではないでしょうか? 自分達がカバーできない範囲で起こっていることは分かりません。

現場重視のよさと、獲得したインテリジェンスの活用を組み合わせることで、新しい価値を生み出していく可能性があるのではないでしょうか?

28年目で初めて出会った、江川卓と小林繁

本日(10/19)の日本経済新聞に掲載された黄桜の広告、素晴らしいですね。

1979年1月31日の「空白の一日」から28年の歳月を経て、初めて出会った江川卓さんと小林繁さんが、初めてお互いに言葉を交わしながら酒を酌み交わす様子が掲載されています。

この企画、黄桜のHPでも紹介されていますね。黄桜のHPには読売新聞に10/14に掲載された新聞広告もこちらに載せています。

よく見ると、HPにある読売新聞掲載広告と、本日の日経の広告は内容が違います。シリーズものなのでしょうか?すごく凝っていますね。

日経の広告の一部を引用します。

—(以下、引用)—

小林「ただ逆に考えると、あの一日がなかったらお互いたいしたその後の人生を送っていなかったかもしれない」

江川「うんうん、平凡というのもおかしいかもしれないけれど、淡々と生きてしまっているかもしれない」

小林「そう、刺激を避けながら」

江川「ものすごい刺激でしたから」

小林「..(中略)…(トレードということがなければ)おれも22勝するなんてあんな力は出せていないと思うし」

—(以上、引用)—

このようなことを経験した二人でしか語れない話ですね。

—(以下、引用)—

江川「時が経たないと。多分今の時でよかったんですよね。お会いしたのが」

小林「(江川君と会って)残りの人生が少し変わったものになるんじゃないか、っと思う」

江川「ひとつの区切りをさせて頂いて、これからはいい年を取っていけるのかな、って」

ふたりは握手を交わした。長いこと、手を握ったまま立ち尽くしていた。そしてスタジオには拍手が鳴り響いた。

—(以上、引用)—

当時、二人の鬼気迫る投げ合いを固唾を飲んで見ていた私も、拍手したい気分です。

「人を結ぶ、時を結ぶ」という黄桜のメッセージをまさに具現化した、素晴らしい広告だと思います。

ニコンの事例:マーケティング・インテリジェンスがビジネスを変える

2005年と2006年、デジタル一眼レフカメラ市場ではキヤノンが不動の首位でした。しかし、2007年上期はニコンが40%以上の販売台数シェアで首位の座を獲得しています。

ITproの記事「デジタル一眼市場で初の年間首位が視野に、データ分析専門組織がきめ細かなラインナップを支援」は、この秘密として、顧客情報や販売情報などを集約してスピーディーに分析するニコンの専門組織「マーケティングラボ」の存在を挙げています。

このマーケティング・ラボ、単にデータを集めるだけでなく、分析も行っています。

データをインテリジェンスに高める専門組織を作った、ということですね。

記事によると、具体的には、

  • 製品毎に購入者を様々な観点や手法によって類型化、マーケティング戦略をスピーディーに修正できるよう支援
  • 顧客調査、販売店や販売会社から日次販売データも集める
  • 特に新製品発売のタイミングで、ネット上の自社・他社製品の書込み情報も詳しくチェック

マーケティング・インテリジェンスがビジネスを変えた好事例ですね。

古くは、戦国時代の桶狭間の戦いで、圧倒的劣勢だった織田軍が大軍だった今川軍を破ったのも、今川軍の情報を信長がよく収集していたからである、と言われています。

ただ、これが機能したのも、信長がどのようにすれば圧倒的優勢だった今川軍を打ち破るにはどうすればよいか、常に仮説を立てていたからであると思います。

マーケティング・インテリジェンスがビジネスを変えられたのも、仮説検証プロセスが機能してこそ、であると思います。逆に言えば、仮説がないところには、インテリジェンスも生まれないのではないでしょうか?

デパートやスーパーがあなたに仕掛けている罠に反撃する、10の方法

「デパートやスーパーがあなたに仕掛けている15の罠」という記事、米国のケースですが、これは全て仮説検証を続けてコツコツ積み重ねた結果の集積ですね。

このオリジナルの記事(英語)では、「この罠に反撃する方法」として10の方法が紹介されています。

面白い内容ですが、日本語訳がなかったので、拙い訳ですが、訳してみました。(意訳しています)

  1. 必要ない限り、ショッピングカートは使用しないこと。不必要なものを買うだけです。カートを使わなければ本当に必要なものだけを考えて買うようになるはずです。
  2. 買い物リストを作って、それに専念しましょう。
  3. 価格とサイズ以外だけを見るは無視すること。それが必要な情報の全てであり、その他の全てのものはマーケティングです。そのサイズでの最良価格のものを見つけ次第、その場を移動しましょう。
  4. 店内の最後方から前に向かって買い物をすること。まず店内に入ったら、まっすぐに店内の一番奥に向かい、そこからレジに向かって進みましょう。逆に進むと、色々な買い物の誘惑にさらされるることになります。
  5. 常に棚の一番下を最初に見ること。単価が安い商品は、大抵そこにありますから。
  6. 積極的に何かを選ばない場合は、決して立ち止まらないこと。店内のディスプレイはちょっとの間立ち止まって商品を見て、ついカートに放り込みたくなるようにデザインされているのです。気になるのものがあっても、歩き続けましょう。
  7. 絶対必要でない限り、商品の横を2回以上通らないこと。商品を一回見ることで、それが短期の記憶に残ってしまい、再びその商品の横を通る時には、あたかもその商品をよく知っているような錯覚が起こってしまい、購入するのに十分な説得材料になってしまいます。
  8. ポケット計算機を持ち歩くこと、又はケータイで計算する方法を知っておくこと。店側は、あなたが間違った結論に従って個数を選ばせようとしているのです。自分自身で計算して、もっともよい買い物が見つけられるようにしましょう。
  9. それがよい買い物か確信を持てない場合は、買わないこと。店はあらゆるビジュアルな合図を使って本当は格安でないものを格安のように見せかけています。それらは「お買い得品」ではなく単なる「普通の買い物」に過ぎないのです。通り過ぎることです。
  10. 清算の際には、カートに入れたものを全品再度点検して、レジ係に「気が変わった」と伝えて返すことをためらわないこと。多くの人達が一度カートに入れたものを買うのは義務と考えているようですが、それは間違いです。あなたは客であり、何を買うのかを選択する権利があるのです。

 

「お客様は神様」と考える日本では、「お客様に罠をしかける」という発想は、ちょっと受け入れがたいものがあると思います。

従って、日本で全てが当てはまるということはないと思いますが、何らかの参考にはなるのではないかと思います。

変更記録: 2007/10/17 18:00 訳の間違いを修正:
  「価格とサイズ以外だけを見る」⇒「価格とサイズ以外は無視する」

新入社員が開発した「人生銀行」

この商品の開発プロセス、とても参考になります。

「新入社員研修の企画がヒット商品「人生銀行」になった」

シンプルですが、

  • つまらないことが、楽しくなる商品
  • 「住人」にキャラクター性を持たせない
  • とにかくベタな演出にこだわる

等、非常にしっかりしたコンセプトを持った商品だと思います。

ネーミングもいいセンスです。

2005年の新入社員の方が、入社後半年で仕様を固めて、商品企画研修でプレゼンを行い、商品化に繋がったそうです。

基本コンセプトを形にしていく過程が、またいいですね。

商品開発プロセスのエッセンスが詰まっているように思います。

製品ポートフォリオをいかに変えるか?(2) 産油国ドバイの財務ポートフォリオ変革に学ぶ

このテーマの第一回目のエントリーを書いたのは2ヶ月前。

今回、事例をご紹介しながら製品ポートフォリオ変革の勘所について考えてみたいと思います。

大前研一さんが『「石油が出なくなる日」プロジェクト』という記事を書かれています。5年後に石油がなくなると言われている産油国ドバイの財政改革の事例です。

こちらのチャートからも分かるように、2000年にはドバイの財政収入の53%を占めていた石油・天然ガスが、2005年には35%に下がっており、急速に脱石油・天然ガスを実現しています。伸びている主な財政収入は、貿易関連手数料・法人税・企業収入等です。

実際、同じUAEのアブ・ダビが財政収入に占める石油・天然ガスの割合は78%で、むしろ近年割合が微増していることを考えると、素晴らしい成果ですね。

産油国にとっては石油の枯渇は死活問題です。将来のことを考えると、石油に頼っている財政状態の変革が急務であることは言うまでもありません。しかし、多くの産油国は潤っている現時点で、変革に取り掛かるのは、78%を石油・天然ガスに財政を依存しているアブ・ダビの状況を見ても分かるように非常に難しい課題です。

ということで、脱石油依存を目指すドバイが現在力を入れているのは、商業、貿易、金融、観光の一大拠点になるためのインフラ作り。

観光地として人を呼び込むために、国家プロジェクトで世界一のホテル、ビル、ショッピングモール等を作っていますし、観光客が喜ぶように24時間営業の免税店もあります。2010年の年間観光客は1億5000万人に達するそうです。

それを実現するためには、自分たちで全部やろうとせず、できる人を連れてきます。ドバイの人達が昔から他民族と交流が多かったことも影響しているようです。

さらにインド・欧州・アフリカの3大陸にアクセスしやすい地理的メリットを活かし、貿易を振興させるためにタックスフリー政策も行い、世界で最も忙しい空港といわれるドバイ空港も作りました。

現在年間2400万人が利用していますが、第3ターミナルが完成し、さらに新空港も造られると年間1億2000万人の利用に対応できるとのこと。また、ドバイのエミレーツ航空は世界の航空会社の満足度調査で5位、創業以来20年間無事故です。

ビジョンを確実に形にしていますね。

ドバイはシンガポールをモデルにしてこのような国家を作ったそうです。

そして、自分達が自国で実現した経験や成果を、他の産油国に売りに行きます。

大前研一さんによると、「歴代首長の夢があったからこそ実現できた」とのことです。

 

ドバイの事例は企業が製品ポートフォリオ変革を行う場合でも大変参考になるのではないでしょうか?

前回もご紹介したように、製品ポートフォリオの変革は、現在のビジネスの将来性がない場合に、より高成長・高収益ビジネスの実現を目指して行われます。

石油依存の財政収入を変革したいというドバイと、状況は同じです。

このためには、

・まず、ビジョン(ドバイでは、歴代首長の夢)があり、

・自分達の強み(ドバイでは、3大陸にアクセスしやすい地理的メリットと、現時点で豊富な資金力)を考慮し、

・あるべき姿を決め(ドバイでは、商業、貿易、金融、観光の一大拠点となること)、

・それを実現するためには、自分達だけで行おうとせず他者の力も積極的に活用してプロジェクトを進めていきます。

これを進めるためには、プロジェクトに取り掛かる前に、関係者全員と危機感と将来ビジョンを共有できるかどうかが非常に重要です。さらに、変革を実現するためのトップのリーダーシップも必須です。

事業構造を変える場合と同じですね。

日本軍から学ぶ 『情報は客観的に見るべきであり、主観的に見てはいけない』

NikkeiBPに掲載された『日本軍のインテリジェンス』の書評記事は、日本軍におけるインテリジェンス活用の分析を通じて、マーケティングの中でも非常に重要な市場分析の勘所を捉えています。

—(以下、引用)–

 情報部が神風特攻隊の戦果を控えめに算出すると、作戦参謀からこう批判されたという。「情報部の奴等は、作戦の現場にいたわけでもなく、作戦部隊の報告を無視するような戦果を云々するのはけしからん」。情報部が提供する情報に基づき、作戦が立てられるべきなのに、これでは本末転倒である。

—(以上、引用)–

 「彼らは命を賭して敵を攻撃した」
⇒「従って、大きな戦果を挙げないと浮かばれない」
⇒「大きな戦果を挙げられるはずだ」
⇒「いや、大きな戦果を挙げなくてはならない」
⇒「しかるに、この戦果報告は何だ!」

というように、本来は客観的に見るべき情報を、希望的観測で主観的に見てしまっているということでしょうか?

例えば、太平洋戦争の大きなターニングポイントとなった1942年のミッドウェイ海戦では、日本海軍は事前に図上演習を行いました。

作戦の客観的な評価を行うために、攻撃の命中率はサイコロを使用していましたが、演習を行っているうちに日本軍が不利になると、演習の途中で「米軍の命中率は、日本軍の半分以下とする」というルールをその場で作ってしまいました。

同様に、サイコロで日本軍の空母が撃沈されても「今のはなかったものとする」と宣言しました。

結果、日本軍は、正規空母を4隻失うという大敗を喫し、その後の太平洋の制海権を失いました。

客観的に見るべきところを、主観的に見ると、いかに悲惨な結果を招くか、という好例ではないでしょうか?

—(以下、引用)–

 インテリジェンスサイクルが停滞すると「情報の政治化」が起こる。ある情報に即して、適切な政策が決められるのではなく、まず政策ありきで、その政策の実現に反する情報は黙殺または曲解されてしまうのである。

—(以上、引用)–

ある意味、情報を政治的に活用することは大切です。例えば、現場での士気維持のためには、事実の中からよりよい情報を見つけて提供する必要があります。しかし、真実を曲げるべきではないのことは言うまでもありません。

記事では、陸軍の軍人が書いた文章を紹介しています。

—(以下、引用)–

「情報収集の目的は、『事象の実体を客観的に究明する』にある。ところが日本人は主観を好む。主観は『夢』であり『我』である。これは己個人に関する限り自由であるが、我観及び主観を国家の問題に及ぼすにおいては、危険これより甚だしきはあるまい」

—(以上、引用)–

国家を企業に置き換えて考えたいですね。

ポイントは、事実に対しては常に謙虚に学ぶ姿勢なのではないでしょうか?

その事実を謙虚に学ぶためには、主観的ではなく客観的に捉えるべきです。

定性的分析も必要ですが、時に主観的な観点が入ってしまいます。

従って、主観的な観点をできる限り排除し、客観的に事実を捉えるためには、数字で達成度を評価することが極めて重要なのではないでしょうか?

但し、この数字にしても、目標設定によっては恣意的にコントロール可能です。従って、達成度把握のためには、注意深く数字で目標を立てて、数字で状況を把握することが必要になります。

仮説検証アプローチでPDCAサイクルを回し、改善を図る仕組みは、まさにこれを実現するものです。ポイントは、C (Check)のフェーズで、いかに謙虚に数字を評価できるか、というところにかかっている様に思います。

400km/h超の史上最速市販車、フェラーリ、そして、ニッサンGT-R

最高速度414.3km/h、エンジンは1183馬力で、乾燥重量は2,750ポンド(1,247kg)、米国販売価格は65万ドル(約7500万円)とのことです。

technobahnに「最高時速414.3キロ! 史上最速の市販車」という記事にありました。掲載写真はF-16戦闘機と一緒に写っています。

興味があったので調べてみたところ、こちらに詳細がありました。

世界記録を作ったこと自体、大きな認知度獲得に手段になっているのでしょうね。

そう言えば、以前読んだ本によると、フェラーリも広告宣伝費はゼロだそうです。(ここで言っている広告宣伝費がどこまでを指すのかは不明ですが) 雑誌等によく掲載される広告は代理店が行っているとのこと。

このように、自社では特に宣伝活動を行わなくても、他に熱狂的な人達がいて、色々な手段で紹介してくれる、というのは理想ですね。

しかし一方で、これはマーケティングが不要になる、ということではないと思います。

例えばフェラーリの場合、確かに自社で広告宣伝は行っていませんが、F1での活動が何よりの広報活動になっています。今回の史上最速市販車Shelby Super Cars社のUltimate Aeroも、世界最高記録を作ったということが同様に何よりの宣伝です。

このようなしたたかなブランド戦略のもとで、様々な活動が行われており、かつ、あえて広告宣伝がカットされている、ということなのではないかと思います。

一方で、9/26にニッサンGT-Rも先行予約開始を開始しました。(スカイライン・ブランドではなく、ニッサン・ブランドになったようです)

サイトも立ち上がっています。

GT-Rの方は、お金をかけて歴代GT-Rの紹介を各所で行ったり、パブリシティに取り上げてもらったり、という活動を地道に行い、ムードを高めているように思います。

全容は10/24の東京モーターショーで明らかになるということですが、全容が明らかになる前に先行予約する人がいること自体、確かなブランドが確立されているということなのでしょう。

「マーケティングに唯一の解はない」のは言うまでもありません。各社のアプローチは参考になりますね。

中小企業ならではの強み

昨日(9/19)の日刊工業新聞の記事「自立型中小企業を目指して 19 中小企業の有利性」で、専修大学の黒瀬直宏教授が中小企業ならではの強みについて書いておられます。

—(以下、引用)—

…中小企業では、大企業のように組織やシステムが客体化し、人がそれらに付属しているのではなく、人がそれらを支配している。従業員は組織の都合より顧客の都合を優先でき、顧客からさまざまな「生データ」を取り入れる余地がある。だから、情報を豊富にキャッチできるフェイス・トゥ・フェイスでの顧客との接触が活かせる。…..フェイス・トゥ・フェイスが情報発見の武器なのだ。

(中略)

中小企業は従業員規模が小さいから、全員が同時に同じ場所にいることができる。「身体的近接性」という物理的理由から、社内におけるコミュニケーションの主要媒体はフェイス・トゥ・フェイスとなる。….幸い、中小企業は組織が単純なので、内部障壁がない。このため自由にフェイス・トゥ・フェイスによるコミュニケーションを行える。

—(以上、引用)—

今まで何となく感じていた、大企業が持っていない中小企業ならではの強みを明確に述べたメッセージだと思います。

社内でITを実装する場合も、「コミュニケーションの基本はフェイス・トゥ・フェイスである」という前提を考慮し、フェイス・トゥ・フェイスの強みを活かした実装を行うべきなのでしょう。

大企業向けソリューションを、アプリケーションレベルの仕組みをそのままにして規模を小さくしても、中小企業でなかなかうまく活かせない理由も、この辺りにあるのかもしれませんね。

一方で、中小企業がより大きく成長していく際の課題は、逆にフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションからいかに組織やシステムによるコミュニケーションにシフトしていくか、という点にあるように思います。

最高峰のCRM in ラスベガスのカジノ

私、1998年から2003年までCRMソリューションに関わっていた関係で、CRMには非常に思い入れがあります。

ということで、2007/9/11のITproの記事「【不思議の国アメリカ】“顧客監禁管理”システムの最高峰はカジノにあり」は、タイトルを見ただけで興味が沸き、一気に拝読いたしました。

記事では、本来は門外不出のカジノでのCRMの活用状況を紹介しています。

CRM (Customer Relationship Management)のキーワードであるRetentionを「監禁」と読み換えて、「顧客監禁管理」と名付けている辺りは、斬新な発想ですね。

ラスベガスの「顧客監禁管理」は、徹底してありとあらゆる情報(詳細は記事を見ていただくとして、例えば「スロットマシンのボタンを押すスピード」等も記録しているとか)を記録し、徹底して行動分析を行い、顧客の行動によってポイント倍率を変えたり、フリーギフトを変えたり、と効果的な施策を矢継ぎ早に打っているという点が、単なるポイントプログラムとは大きく異なる点とのこと。

キモは、できるだけカジノに長く滞在してもらうという点。理由は長く滞在すればするほど負ける可能性と負ける金額が多くなるからだそうです。

たしかに私も6年前、9/11の直後にラスベガスに行きましたが、勝っている途中で止めるのはなかなか大変でした。(「勝った」と言っても、5$の掛け金が11$になっただけですが)

妻がいないで一人でやっていたとしたら、多分負けるまでやっていたことでしょう。

そう言えば、早朝、人影まばらなラスベガスの道路を走っていると、質屋が結構目に付きました。…世話にはなりたくないものです。(^^;)

それはともかく、昔からカジノでは、ショーや食事の無料招待券、ホテルの部屋のアップグレード、リムジンサービス、景品等のロイヤリティプログラムが使ったお金に応じて与えられてきましたが、これはよりギャンブルに励むように人々を誘導するためのものだそうです。

以前は、何のロイヤリティプログラムを誰に提供するかという判断は「カジノホスト」という世話人が行っていたそうですが、現在はITで瞬時に判断して行っているとのこと。

確かに考えてみるとギャンブルは確率が支配する世界ですし、多くのパラメータを元に最適な収益を確保する上で、ITとは非常に相性がよいのでしょうね。恐らく心理学的な領域まで入って分析されているのではないでしょうか?

これから生まれる2兆円市場?

本日(2007/9/11)の日本経済新聞に、福岡ソフトバンクホークス取締役小林至氏がコラム『スポートピア スポーツは産業に』を書いています。

このコラムによると、福岡ソフトバンクホークスで新卒採用を公募したところ、応募者殺到。しかも「記念受験」ではなく、応募者は真剣そのものだったそうです。

2004年暮れに楽天がプロ野球新規参入で職員を公募したときも、8,000人が殺到したとか。

小林氏曰く、「若い人たちは、新しいビジネスの胎動を若い感性で感じ取っているのではないか?」

小林氏によると、スポーツ産業は米国では4兆円市場。一方で日本は3000億円未満。日本の市場が育っていない理由は、ビジネスとしての潜在力を活かしていないためと見ています。

仮に米国の半分の規模まで育つと仮定しても、2兆円規模になる可能性があります。

ちなみに、IT市場がほぼ10兆円。ペット市場が3兆円。私が数年前まで関わっていたCRM市場が約5000億円。

これから考えると、2兆円規模といえばかなり大きな市場です。

昔のしがらみが大きく、長く停滞していた市場が、そのしがらみから解き放たれて爆発的な成長をするのは、過去にもいろいろな例がありました。

スポーツ・ビジネスも、その可能性が大いにあるかもしれません。

広告≠宣伝 & 広告=バリュー・プロポジション の時代

「POLAR BEAR BLOG: 広告は必要ない、だから宣伝っぽいものは無視される」を読んで、自分が出しているWeb広告のことを思い出しました。

「Web広告」といっても私が仕事で出している広告ではなく、プライベートでOverTureを使って出している合唱団の団員募集用のWeb広告です。

非常に興味深いことに、この広告を見た人に実際に話を聞いてみると、ほとんどの人は「自分はYahoo!やMSNを検索して見つけた」との認識しか持っていません。

言い換えると、「自分は広告をクリックした」という認識を全く持っていません。

このWeb広告、十数個の検索キーワードの設定と、20文字程度のシンプルな文章で見る人にとっての価値をいかに分かりやすく表現するかがカギです。華やかなデザインのバナー広告とは全く無縁の世界です。

このような簡単な仕掛けにも関わらず、大きな成果が上がっています。

恐らく、GoogleにしてもOverTureにしても、「広告は必要ない、だから宣伝っぽいものは無視される」ということがよく分かっているのでしょう。

このような私のプライベートでのささやかな経験も含めて考えてみると、今後の広告においては、デマンドを喚起するためのart workの必要性は少なくなっていくように感じています。

むしろ、シンプルなメッセージの中で、実際の商品・サービスが顧客に提供する価値を明確に表現していく必要があるのではないでしょうか? 従って、最初にバリュー・プロポジションを明確に定義することが、ますます重要になります。

一方で、商品やサービスの差別化が難しくなっている現在、ブランディングの重要性は増しています。ブランディングが差別化のカギ、言い換えれば信頼性のカギになってきているからです。

Art workは、むしろブランディング確立のためにこそ必要になってくるように感じています。

ソリューション戦略立案の方法論

ここ数年間、私はソリューション・マーケティングに関わってきました。

私の経験では、ソリューション戦略を立案するアプローチには、大きく分けて二通りあると思います。

ソリューション・セールス・アプローチ(特定のお客様のニーズから出発する方法)と、ソリューション・マーケティング・アプローチ(市場全体の分析から出発する方法)です。

■ソリューション・セールス・アプローチ

実際に特定のお客様の個別ニーズが分かっている場合、このアプローチが有効です。

個別のお客様の個別のニーズを体系化し、優先順位付けして、それぞれのニーズに対して自社のどのような能力(商品やサービス)をお客様の価値としてご提供できるのか、ソリューション(解決策)を考えていきます。

これらを集めたものが、特定市場向けのソリューション戦略になります。

ここで考えた戦略は想定する個別のお客様に対してそのまま実行可能な形式になっているので、実行し易いという利点があります。

反面、自社がアプローチできているセグメントのお客様のニーズしか拾えない、逆に言えば、自社がカバーしていないセグメントのニーズは拾えない、というデメリットがあります。

クレイトン・クリステンセンは、自身の著書「イノベーションのジレンマ」で、

「顧客の意見に耳を傾けよ」というスローガンがよく使われるが、このアドバイスがいつも正しいとはかぎらないようだ。むしろ顧客は、メーカーを持続的イノベーションに向かわせ、破壊的イノベーションのリーダーシップを失わせ、率直に言えば誤った方向に導くことがある。

と述べていますが、まさにこの罠に陥ってしまう可能性があります。

■ソリューション・マーケティング・アプローチ

ある程度信頼性が高いマクロ又はミクロの市場分析が可能な場合は、このアプローチが有効です。

市場全体の動向を把握し、どのソリューションが市場で普及し始めているかを分析した上で、自社でフォーカスすべきソリューションを定義し、そのソリューションを提供するための自社で何をすべきかを考えていきます。

市場全体を把握した上で、どのソリューションを選び(select)、どのソリューションを手がけない(deselect)かを決めることになります。従って「気が付かないうちに市場を失っていた」という可能性をある程度下げることが可能です。

但し、ここで立てた戦略はそのままでは実行できません。実行するには、さらに個別のお客様毎のセールス戦略に展開する必要があります。

また、このアプローチの成果は、品質の高い市場分析を利用できるかどうか、に依存しています。例えば、ある程度の継続性を持った定点観測的な市場分析に投資していく、といったことが必要になります。

 

上記のメリット・デメリットでも述べた通り、両者は一長一短があり、一概にどちらが優れているとは言えません。

実際には、両者を組み合わせた形でソリューション戦略を立案することが必要です。つまり、

  • 市場分析を通じて自社だけでは知りえなかった世の中の動向を把握する
  • その結果を実際にお客様と日々接しているセールスと共有し、セールスの視点で、担当しているお客様では何が起こっているかを確認してもらう
  • 場合によっては、お客様ご自身と議論して検証していく
  • このようなセッションを通じて、市場全体を考えて自社として何をしていくべきかなのか、その戦略の中で特定のお客様に対してどのように展開していくべきなのかを考えていく

これにより、市場全体を網羅した上で、実行可能なセールス戦略まで落としたソリューション戦略が立案可能となります。

実際に企業に勤めておられる方々はお分かりの通り、このように進めるのは、まさに「言うは易し、行なうは難し」ですが、時間をかけて繰り返していくことで、例えゆっくりでも必ずレベルアップしていきます。

昨日も書きましたように、「何よりも大切なのは継続すること」ですね。

SWOT分析の勘所

マーケティング分析の手法の一つとして、「SWOT分析」があります。

SWOT分析とは、自社の置かれている環境を

S: Strength (自社の強み)
W: Weakness (自社の弱み)
O: Opportunity (自社にとっての機会)
T: Thread (自社にとっての脅威)

に分けて分析する手法です。

SWOT分析を進める上でのポイントを例を通して考えてみましょう。

ここでは、1年半程前に当ブログで書いたエントリー「競合と差別化する、バリュー・プロポジションの考え」で取り上げた街の電気屋さんのケースで考えてみます。

非常に簡略化したものですが、街の電気屋さんのSWOT分析は下記のようになるのではないでしょうか?

S: Strength (自社の強み)
一人一人のお客様のニーズを理解している
地域に密着したサービス

W: Weakness (自社の弱み)
大量仕入れによる低価格販売が出来ない

O: Opportunity (機会)
デジタル家電ブーム
富裕層の団塊の世代が引退

T: Thread (脅威)
家電量販店の出店攻勢

 

さて、SWOTのうちのSWは内部要因であり自分達がコントロールできる要因であるのに対して、OTは外部要因であり自分達はほとんどコントロールできない要因です。

このSWOT分析を通じて、自社の強みをいかに活かして、外部要因の機会を獲得するか、ということを考えることになります。

上記の分析から、自社の強みである「一人一人のお客様のニーズの理解」や「地域に密着したサービス」を活かして、「富裕層の団塊世代の引退」と「デジタル家電ブーム」といった外部要因の機会を獲得するために、

「引退した富裕層の団塊の世代が、デジタル家電によるデジタルライフを楽しめるように、手厚いサポートを提供する」

サービスを提供することが一つの有力な選択肢になります。

これは、先のエントリーで書いた街の電気屋さんの下記のバリュー・プロポジションとも整合性があります。

【お客様が望んでいる価値】
団塊世代の富裕層が必要としている、手厚いサポート

【他社が提供できない価値】
大量廉価販売重視の家電量販店が提供できない、お客様の自宅まで直接サポートに出向けるフットワークの良さ

【自社が提供できる価値】
ますます複雑になっていく最新のデジタル家電による生活を、お客様が十分に楽しめるように支援できるサポート力

 

一方で、弱みと脅威を理解することも重要です。場合によっては、ターゲットとなるお客様を絞ったり、自社の商品やサービスの定義を変えることで、弱みや脅威を減じたり、場合によっては強みに変えることを検討します。

上記の例では、「低価格販売出来ない」という自社の弱みと、「量販店の出店」という脅威を踏まえて、

「手厚いサポートに特化することで、低価格販売競争に踏み込まず、量販店との真正面の競争を避ける」

という戦略が導き出されます。

 

実際のビジネスではこんなに単純ではありませんが、出来る限り簡略化してみました。

SWOT分析は非常にシンプルで基本的なマーケティング手法ですが、市場と自社を把握した上で戦略を立てる上で有効なツールです。

ご存知の方には釈迦に説法かもしれませんが、頭の中で整理できている積もりでも、実際に書き出してみると色々な発見があります。また、SWOT分析は、ブレイン・ストーミングを行いチームで問題意識を共有する手段としても役立ちます。

是非活用したいですね。

企業の本質と、見えざる神の手

唐突な質問ですが、企業とは何でしょうか?

これについては、ドラッカーをはじめ各方面の識者が様々な意見を述べています。

その中の一つの意見として、専修大学商学部 黒瀬直宏教授が、本日(8/29)の日刊工業新聞の記事「自立型中小企業を目指して:16 企業外との情報ループ 製品開発や販売戦略に活用」で、

「企業の本質は情報発見システムだ」

と述べています。

—(以下、引用)–

市場経済下では、販売とは不確実なものだ。企業とは販売を確実なものにするため、情報発見活動を展開せざるを得ない。市場競争の本質は情報発見競争で、企業の本質は情報発見システムなのだ。

—(以上、引用)—

アダム・スミスは「国富論」の中で、

「個々のメンバーがそれぞれ利益を求めて自由に利己的な行動を行えば、マーケット・メカニズムにより全体で調和が取れ、効率的な配分が実現する。つまり、私益を追求することで『見えざる神の手』が働き万人の公共善をもたらす。」

と述べましたが、この見えざる神の手を動かすカギが企業の「情報発見システム」である、とも考えられますね。

黒瀬教授は、情報発見を助けてくれるパートナーとして、「顧客」と「他企業」の二つを挙げています。

—(以下、引用)–

第一に顧客との情報ループが不可欠だ。企業にとって顧客は買い手というだけではない。需要や技術に関する「場面情報」の発見を助けてくれるパートナーだ。

(中略)

第二に優れた情報発見システムを構築している中小企業は、他企業との情報ループも構築している。中小企業は情報発見の主体となる人的資源が不足している。そのため、他企業との情報交換により、人的資源の不足を補う。

—(以上、引用)—

シリコン・バレーがこの数十年イノベーションを起こし続けているのも、この地域全体が「情報発見システム」そのものとして機能しているから、と考えると分かりやすいかもしれません。

ダイエット事件で考える、正しいマーケティング・コミュニケーションのあり方

8/25の日本経済新聞の記事で、「履いたり座るだけでやせる」と過大なダイエット効果をうたってサンダルやクッションを販売した会社に、経済産業省が業務停止命令を出した、というニースがありました。

「サンダルを履くだけで足裏のつぼが刺激され脂肪が燃焼する」
「クッションに座るだけで骨盤のゆがみを整え肥満の根本原因を解消」

と宣伝していたそうですが、経産省が根拠を示すよう求めたところ全く提出しなかったそうです。全国の消費者センターなどには数十件の苦情が寄せられていたとか。

本来、「痩身」という意味でのダイエットを行うためには、運動したり、食事に気を配ったり、という何らかの主体的な努力が必要なはずです。

「xxxしただけで」というのは消費者にとって魅力的な誘い文句ではありますが、このようなものは本来はあり得ないと考えるべきなのかもしれません。

この記事を見て思い出したのが、以前、米国に出張した時のこと。

国内線に乗ったのですが、隣が米国人の基準でも割とふくよかな米女性で、席に着くなりポテトチップスの大袋を空けて猛烈な勢いで食べています。

フライト・アテンダントが「何になさいますか?」と尋ねたところ、

「ダイエット・コーク・プリーズ」

その時は、「は? こんなに沢山食べているのに、今さらダイエット・コーク?」と思いましたが、後でよくよく考えてみると、「ダイエット・コークを飲めばダイエットできる」と考えているのかもしれない、とも思いました。

言うまでもなく、ダイエット・コークやダイエット・ペプシは通常のものと比べてカロリーが非常に少ないだけで、食事を沢山食べてもダイエットできるということではありません。

ちなみに、コカ・コーラのホームページを見ると、今の商品は

「ノーカロリー コカ・コーラ」
「コカ・コーラ ゼロ」

になっています。商品名的には、この二つの商品は非常に的確に商品特性を消費者に伝えていると思います。

今回のサンダル・クッションの事件と、コカ・コーラの見事な商品名の付け方を見て、今後はより正しく商品の特性を消費者に伝えていくマーケティング・コミュニケーションがますます求められていくのではないかと考えた次第です。

追加投資せずに、効果的な新製品開発を行う方法

先のエントリー『「まず技術は考えるな」小林製薬の新製品開発』で、小林製薬の「どろどろ開発」がいかに縦割り組織の弊害を克服し、多くの人の知恵を結集し昇華することで、革新的な製品を生み出すかを紹介しました。

同じ昨日(8/22)の日刊工業新聞の記事「自立型中小企業を目指して 社員の知 活用し製品開発」で、専修大学商学部の黒瀬直宏教授が社内の知恵を結集して新製品を開発する仕組みについて書かれていました。

小林製薬の「どろどろ開発」を理解する上でも参考になると思いますので、紹介させていただきます。

—(以下、引用)—

….従業員75人の愛媛県の企業は主製品麦味噌のほか、伊予柑をはじめ地元産食材を使ったドレッシングなどを開発・生産している。以前、この企業は社長自身が多い時には年20も新製品を開発、しかし売れるのはせいぜい1つだった。社長が開発、従業員に「売ってこい」、従業員が「売れませんでした」-という繰り返しだった。

….仲間から社長の独断専行を指摘され、従業員参加の商品開発会議を立ち上げた。初めは、ただ話し合っているだけで、何にも決まらなかった。社長は仲間の忠告どおり、口出しをせず、じっとがまん。やがて、この会議が機能し始めた。

 社長「宮崎の冷汁のようなものはどうだろうか」、社員「いや、愛媛は薩摩汁だ。私のおばあちゃんが作っている」。「おばあちゃん」に作ってもらった薩摩汁をみんなで試食し「これで行こう」。

 同社では開発会議の立ち上げ後、年平均二つの新製品を開発している。開発数は減ったが、すべてヒットしている。

 このように製品開発には皆の知恵が必要だ。

(中略)

 「分散認知」という考え方がある。認知活動は頭の仲だけでなく、頭の外を含めたもっと広い領域で起きていると考える。

(中略)

 認知活動に必要な知は、個人の頭の中だけでなく社会に広く分布している。….個人は他の人や人工物とコミュニケーションを行い、それらの知を利用して認知活動を行う。

 従って、認知活動の主体は個人だが、その個人はコミュニケーションを通じて構築される認知システムの一部と考えるべきだ。

 先の味噌メーカーが効果的な製品開発ができるようになったのは、お金をかけたからではない。外部の専門家を呼んだからでもない。もちろん、社長や社員の頭脳が突然よくなったからでもない。「開発会議」の設置により。分散認知の原理にのっとった情報発見システムを構築したからだ。

—(以上、引用)—

様々な形で仕事をなさってきた方々は、多くの人達との共同作業を通じ、仕事のアウトプットが格段に高まることを経験されていると思います。

例えば、3人で共同作業を行う場合、単に1人+1人+1人=3人分の成果を生むだけでなく、1人1人の知恵が共鳴しあい、3人分をはるかに超えた非常に品質の高いアウトプットを短時間で産むことがあります。

一人で考えることには限界があります。例えば、独裁とトップダウンのイメージが非常に強い織田信長も、家臣や民の声に非常に耳を傾けたそうです。

信長のような天才なら、様々な人からの情報を一人で処理し対応する能力を持っています。しかし、我々のような一般人でも、組織の壁を取り除き、お互いの知恵を出し合い、チームで対応することで、大きな成果が挙げられる筈です。

せっかくお客様が解決すべき問題について、様々な知恵を持っている人が社内にいるにも関わらず、その知恵が活用されずに埋もれてしまい、全体の成果に結びつかないのは、実にもったいないことです。

記事で取り上げられた愛媛の企業の場合、従業員や経営陣はそのままでお金もかけず、製品開発の仕組みを変えただけで、非常に効果的に新製品開発を行う企業に生まれ変わりました。

そのカギは、年間20もの新製品開発を自ら手がけてきた社長さんが、口出しせずにじっと我慢して、社員からアイデアが出てくるのを待っていたところにあるような気がします。

同様に、企業の中でコラボレーションを阻む組織の壁も、人の心が生み出していることが多いと思います。成功のカギは、意外に「エゴをいかにマネージするか」というところにありそうですね。

「まず技術は考えるな」小林製薬の新製品開発

昨日(8/22)の日刊工業新聞「企業:小林製薬 アイデア厳選 即製品化」で、小林製薬がいかにプロダクト・アウトではなくマーケット・インで新製品開発を行っているかが紹介されています。

小林製薬は、「熱さまシート」「アイボン」等、他にはないニッチな商品を開発し、それぞれの市場の半分以上のシェアを獲得しています。

小林製薬では、社員からは月に3万7千件の提案が出され、月一回のアイデアプレゼンテーション会議で小林社長自ら採用するかどうか判断し、意思決定の迅速化を図っています。

下記に、製品開発の取り組み方の部分を引用します。

—(以下、引用)—

小林は社員に「まず技術を考えるな」と徹底する。まずどのようなニーズがあり、どのようにアイデアを集めてくるかに注力。アイデア重視を前面に押し出している。マーケティング調査し、製品開発に着手した現場では、同社が「どろどろ開発」と呼ぶ開発手法を採る。開発、製造、マーケティング担当が垣根を越えてそれぞれ意見を出し合い、枠を超えた開発を重視している。

—(以上、引用)—

最初に技術から考えてしまい勝ちですが、あくまでニーズから考えることを徹底しています。

イノベーションを起こす一つのカギは、縦割り組織の弊害を克服し、いかに多くの人の知恵を集めて昇華していくかにあります。「どろどろ開発」は、まさにそれを実現する手法ですね。

—(以下、引用)—

出てきたアイデアを形にしても、顧客に選んでもらわないと意味がない。そこで小林製薬では「覚えやすく、リズム感があり、1秒でわかる」ネーミングをつけている。「熱さまシート」「アイボン」といった製品は、その変わったネーミングで、これまでに市場になかった新カテゴリーを作り上げた。

最初に出した製品は強い。「カテゴリー=商品名」となるからだ。同業他社がその後、類似製品を出したが、現在でも「熱さまシート」はその名前で定着している。ここに新市場を開拓する意義が隠されている。事実、「熱さまシート」は市場で半分以上のシェアを獲得しているという。

—(以上、引用)—

新市場創造と、最初に出す製品名の重要さがよく分かる話です。

新市場は、その市場に何らか名前が付かないと世の中では認知されません。「駅ナカ」も最初は「改札内グルメ」という名前で紹介されたりしましたが、「駅ナカ」という分かりやすい言葉が出来て広く市場に認知されました。詳しくはこちら。

新市場に最初に投入された商品名が分かりやすければ、消費者はその市場名をその商品名で代替して認知します。こうなると消費者は商品名を指名買いしますので、大きな市場シェアを確保できる、という好循環が生まれます。

「まず技術を考えるな」というのは、IT(=情報技術)業界では、長年の課題であり、なかなか実践が難しい課題でもあります。市場も消費者向けと法人向けという違いはありますが、IT業界に籍を置く我々も実現していきたいですね。

 

(8/23 20:45追記)
続編⇒『追加投資せずに、効果的な新製品開発を行う方法』