永井孝尚ブログ

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朝活永井塾 第80回 『組織行動のマネジメント』を行いました

10月4日は、第80回の朝活・永井塾。テーマは『組織行動のマネジメント』でした。

ビジネスで出会うほとんどのマネジメントの問題は、結局人の問題に突き当たります。しかし、ビジネススクールが対人関係の問題を重視し始めたのは、意外と最近です。

そこで生まれたのが組織行動学です。

組織行動学とは、組織の人間の行動や態度を体系的に考察する学問です。組織行動学を学べば、私たちが会社の組織で遭遇する多くの問題の対処方法がわかります。

組織行動学を学ぶ上で参考になるのが、世界1000以上のビジネススクールで使われている組織行動学の定番教科書である『新版 組織行動のマネジメント』(スティーブン・P・ロビンス著)です。

本書は200万部を超える世界的ベストセラー。組織に関するほぼすべての問題を取り上げ、網羅的かつ簡潔にまとめた良書です。


組織行動学は、「個人」「グループ」「組織」という3つのレベルで人の行動を解き明かしていきます。そこで本書もこの3つについて広範に理論を紹介しています。

そこで今回の朝活永井塾では、下記の本をテキストに、組織行動学の基礎について学んでいきました。

『新版 組織行動のマネジメント』(スティーブン・P・ロビンス著)

ご参加下さった皆様、有り難うございました。

【プレゼン部分】

またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。

次回11月8日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは『柳井正「経営者になるためのノート」』です。申込みはこちらからどうぞ。

銭湯代行業が若者を魅了、売上4倍

日本には「斜陽産業」と呼ばれる業界がいろいろとあります。その筆頭の一つが銭湯でしょう。銭湯の数は、1968年は17,999軒。2023年は1,755軒。なんと1/10に落ち込んでいます。

銭湯入浴料は物価統制令で都道府県ごとに上限あり、東京は520円。自由に価格を上げられません。さらに経営者の高齢化や、最近はエネルギー価格の高騰で、廃業が相次いでいます。

しかしこの銭湯業界で、まったく新しい挑戦をしている会社があります。

2023年9月29日のテレビ東京「ワールド・ビジネス・サテライト」で、その会社の紹介をしていたので、紹介したいと思います。

この会社は「ニコニコ温泉」という銭湯の経営代行を手掛ける会社。

たとえば品川に「東京浴場」という銭湯があります。70年の歴史がありましたが、経営者の高齢化で、4年前に閉店しました。

そこでニコニコ温泉は、銭湯のオーナーに賃料を払って「東京温泉」の経営代行を始めました。

この銭湯、午前2時まで営業しています。取材した時間帯は夜でしたが、客は全員20代。お客は「仕事を終えて、風呂を浴びるとサッパリする」「週3回来る」。

ひと風呂浴びた後は、マンガなど7000冊ある巨大な本棚。さながら非日常な秘密基地で、お客はゆっくりマンガを読んだり、大学の課題などをやったりしてくつろいでいます。

さらに売上アップする様々な工夫をしています。

たとえば周囲を気にせずに入れる一人用サウナを設置。90分で1100円ですが利用が多く、これで月70万円の売上です。

さらに風呂上がりに、クラフトビール飲み比べセット980円や、SNS映えするクリームソーダ550円を提供しています。

銭湯のロビーの一角には、お客さんが本などを販売できる幅30cm程度の棚があります。名付けて「フロナカ書店」。全部で70個あり、月額4000円で貸し出しています。

こうしてお客の増加と入浴料以外の収入で、売上4倍になりました。

経営代行をするニコニコ温泉・真神友太郎社長は、船井総研で旅館や温浴のコンサルタントを15年間行ってきました。そして7年前に、銭湯の経営代行業を立ち上げたのです。

番組で真神社長はこうおっしゃっています。

「銭湯は小さいので、利益が出やすい。オールナイト営業などもできる。地方で24時間コンビニが成り立つのと同じ」

「銭湯のオーナーさんにとって、銭湯は先祖代々の大事な資産です。だから手放せないし、家族に引き継いでいきたい。でも経営がキツいのが悩み。そこで私たちが賃料をオーナーに払って、経営代行を行っています。銭湯の運営を任せてもらうわけです。銭湯オーナーさんとのWin−Winになります」

これは星野リゾートとまったく同じビジネスモデルですね。

ホテルは「ホテルという資産」を持つ不動産経営の側面と、「ホテルの運営」というサービス業の側面があります。日本では、従来の多くホテルは、両方手掛けてきました。

星野佳路社長は「いずれホテル経営の負荷に耐えられずに、経営を手放すホテルが増える」と読み、1990年代に星野リゾートの不動産を手放し、ホテル経営に特化することにしました。資産を手放したおかげで身軽になり、俊敏に経営を策定して実行できるようになりました。OMOやBEBなどの新ブランドを次々と立ち上げられるのも、このためです。

ニコニコ温泉も、銭湯という不動産を持たずに、「銭湯経営代行」という新しいビジネスモデルを立ち上げているわけですね。

番組では、ニコニコ温泉が手掛ける昭島の富士見湯の取り組みも紹介されていました。

ここは22時間営業ですが、燃料代高騰が経営を直撃しました。燃料を薪にして乗り切ろうとしましたが、ガス代が2倍になって吸収できません。

そこで無料だったサウナを、整うことに集中してもらう空間「暗闇瞑想サウナ」にリニューアル。300円にした結果、サウナの売上は月0円から100万円にアップしました。

さらに何もなかった屋根の上に、外気浴できる有料スペース「展望休憩所」を作りました。利用者は「外の空気が感じられてとても気持ちいい」。200円ですが、サウナ客の半分がここを利用します。他にも、有料の寝転びゾーンを作ったりして好評です。

また浴場の中にあるタイルを、イラストやマンガ・写真の展示に使う試みも始めています。実際に展示した人たちからは「有償でいいからやって欲しい」との声も上がっています。

こうして何もなかった場所を稼ぎ頭にして、経営引継ぎ前と比べて、売上は7倍になりました。

銭湯の面積は狭いのですが、天井は高く作られています。こうした空間を全て使い倒せば、すべて売上に使えるわけです。一つ一つの取り組みの積み重ねが、黒字化に繋がっていくわけですね。

このニコニコ温泉、若い世代の働き手が集まっています。

アルバイトの半分が20代を占めます。あるアルバイトの方(29歳)は「35歳までに店を持ちたいと思って準備している」。またある銭湯を任されている店長は、ニコニコ温泉のSNSを見て脱サラしました。

真神社長はそんな若手社員に、仕事の合間に経営のノウハウを伝える「経営塾」を行っています。「短所を伸ばしても効率が悪く結果がでない。だから、長所を必ず伸ばす」というようなことを、時間を決めてオフィスにいる若手社員に伝えてます。

真神社長は「モチベーションが高いので、自分が思いつかないようなアイデアを次々と出してくれる。休憩ゾーンとかサウナ、タイルも、そうやって出てきたアイデアです」

ニコニコ温泉はまだ4店舗と小さなベンチャーですが、実に学びの多い挑戦です。

衰退産業には、実は大きな可能性が眠っていますし、視点を変えれば、売上の機会は至る所にあり、お客様は喜んでお金を払います。

さらにモチベーションが高い職場を作ることで、トップが思いつもかないような斬新なアイデアが次々と湧きだしてくるようになります。そうした組織づくりそのものが、経営戦略になりえるのですね。

   

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こんな広告に大金を使っていいの?

先日見た、あるビジネス週刊誌の1ページに掲載された広告は、こんな感じでした。

・大きく二ケタの数字が書かれています。一瞬わからなかったのですが、よく読むと創立○○周年でした。この広告にはこの数字が4−5箇所に書かれています。情報が重複しています。
・同じ意味の文章が2〜3箇所に書かれてますが、何を言いたいのか、よくわかりません。
・写真の中で一番大きな写真が、社長の写真です。でもこの写真を載せる意味がわかりませんでした。
・さらに見ると小さな写真が6〜7個掲載されています。創立以来の同社の歩みを振り返る写真のようですが、小さすぎて何なのかよく見てもわかりませんでした。(何かの模様に見えました)

「結局この会社、何をこの広告で伝えたかったんだろう?」と思ってしまいました。会社名も印象に残りませんでした。

巷では、こんな広告を実によく見かけます。そのたびに、つい思ってしまいます。

「この媒体ってお金がかかるよね。こんな広告に大金を使っていいんだろうか?」

「広告の父」と称されたデイヴィット・オグルヴィは、1983年に刊行した歴史的名著「売る広告」で、広告に必要なポイントを挙げています。いくつか抜粋しましょう。

①「広告は、効能を語れ」 これが本書で一番重要。もう一度読み返して欲しい。
→効能を語っていない広告はあまりにも多いのが現実です。すべてお金の無駄遣いです。

②広告の基本は、商品を知り、ポジショニングせよ
→事実に基づき、説得力ある形で説明し、違いを示すのが広告の役割です。多くの広告は、機能説明(何をやるか)だけで終わっています。

③自画自賛よりも、誰かの推薦
→誰かの推薦の方が、人は納得します

オグルヴィは、印刷媒体の広告で成功する方法も述べています。

④ヘッドラインを読む人は、本文を読む人の5倍。具体的なメッセージで売り込まないと、広告費の8割がムダ
→現実には、ヘッドラインが抽象的で、何をいいたいのかわからない広告ばかりです。

⑤イラストよりも写真の方が、人を惹き付ける。1枚の写真は1000語の言葉と同じ値打ちがある
→現実には冒頭の広告のように、写真を活かさない広告が多いのが現実です

⑥広告の配置。人は、図版→ヘッドライン→本文の順に読むので、各要素をこの順で配置。図版の下にヘッドライン。そして図版には必ず説明のキャプション
→これも無頓着な広告が多いですね。

「でも永井さんが見た広告って、創立○○周年の感謝を伝える広告でしょ? そもそも『売る広告』とは違うんじゃないの?」と言われるかもしれませんが、それは違います。

「感謝を伝える広告」も確かに大事です。しかしその場合も、その「感謝の気持ち」を的確に相手に伝える基本は、「売る広告」と同じです。

①「効能を語れ」 →その○○年間で、御社はどんな効能を提供し続けてきたのか?
②商品を知り、ポジショニングせよ →その○○年間で、御社はどんな違いを提供してきたのか?
③自画自賛よりも誰かの推薦 →その○○年間で培った、お客様との絆を見える化できないか?
④ヘッドライン →その○○年間の想いは、どんな短い言葉に集約できるのか?
⑤写真 →その○○年間の想いを伝える象徴的な一枚の写真は、何か?
⑥広告の配置 →その○○年間の感謝を伝えるには、どんな配置がベストなのか

オグルヴィの指摘は40年前のものであり、広告では基本中の基本です。しかしいまだに、これが出来ていない広告が多いことに改めて驚かされます。

一方でこれは逆に、私たちに大きなチャンスを教えてくれます。

私の感覚ですが、世の中の広告の9割は、オグルヴィが指摘した広告の基本を踏まえていません。

基本を踏まえない広告が多いということは、逆に基本を踏まえた広告を出せば、大きな成果があがる可能性がグンと高まるということなのです。

御社の広告は、成果は出ているでしょうか? そしてその広告は、広告の基本に忠実でしょうか?

   

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投資1000億円のホンダ新規プロジェクト。「ムリ」と思ったら快諾された理由

会社で大規模な新規事業を立ち上げる際には、経営トップの承認が必要です。
しかしともすると超巨額投資が必要で「こんなの、絶対やめろと言われる」と思われがちです。

しかし、社員の目線と経営トップの目線は、全く違うものです。

そのことを実感した記事がありました。日経産業新聞に2023年9月4日に掲載された「ものづくり記 ホンダ・和光研究所(6) ジェットエンジンの強み生かせ」という記事です。

「空飛ぶクルマ」と言われるeVTOL(電動垂直離着陸機)は、現在、世界中で、キティホーク社などのスタートアップがしのぎを削っている分野です。再来年2025年の大阪万博でも、eVTOLの試験運用を行うと言われています。

ホンダジェットで航空業界に参入したホンダは、このeVTOLに勝機を見いだしています。

その武器がジェットエンジン。ガスタービンを電池への発電用に使うハイブリッド式パワーユニット(ガスタービンHV)を作ろうと考えています。バッテリーだけだとせいぜい飛行距離は100Km。ガスタービンHVでバッテリーを補えば、400Kmの飛行が可能です。

当初、ホンダは自社ガスタービンHVを、eVTOLメーカーに外販する交渉をしていました。交渉が難航する中で、「もしかしたら自分たちで機体も動力もやった方が、いいんじゃないか?」と考え始めました。では、なぜそう考えたか?

航空機で必要な大きな2つの技術が、機体設計とエンジンです。
航空業界では、機体とエンジンは完全に分業されています。
そして意外と知られていませんが、実はホンダは、この2つを単独で手掛ける世界唯一のメーカーなのです。

そして本田技術研究所内で、自社のガスタービン搭載VTOLの開発が始まりました。しかし投資金額は1000億円を超えることがわかりました。
開発メンバーは「絶対にやめろって言われる」という意見が大勢。
当時の本田技術研究所の社長は、現在のホンダ社長の三部敏宏さんでした。

この様子を、記事ではこのように書いています。

—(以下、記事より引用)—

結局、そのまま三部にぶつけることにした。三部の反応は意外なものだった。

「こんなにかかるのはうちだけか?」
「いや、うちだけじゃないです」
「じゃ、(eVTOLの)ベンチャーは死ぬってことか。今日はいい話を聞けた」

現在は雨後のたけのこのように世界中でeVTOLのスタートアップが名乗りを上げているが、その中で本当にTCを取って事業化までたどりつけるのは何社あるだろうか。実際、この後にキティホークは事業化を断念した。高い参入障壁は、それを乗り越えた者への先行者利益を保証する。三部は多くを語らなかったが、暗にそう言いたかったのだろう。

—(以上、記事より引用)—

このエピソードは、会社員が新規事業に取り組む際に、大きな示唆を与えてくれます。

新規事業は、しがらみを持たずに迅速に動けるスタートアップの方が、圧倒的に有利に思えます。しかしスタートアップは、1000億円を超えるような投資を得ることは至難の業です。

大企業であれば、自社の強みが活かせるのであれば、キャッシュフローの範囲内で、大規模な投資を長期間行うことが可能です。

たとえば花王のソフィーナ。1976年に研究を開始し、一時は累積赤字が最高250億円にも達しましたが、2000年に黒字化し、売上700億円です。

東レは1961年に「航空機の構造体で使えるかも」というアイデアで炭素繊維の研究を始めました。製品化は1971年でしたが、当初は「鉄の1/4の軽さで10倍の強度」を訴求して釣り竿やゴルフクラブに展開していました。その技術が自動車で培われ、今では航空機で使われています。炭素繊維も数十年掛けています。

ホンダジェットも数十年の投資が実った例です。

以上のことは、まさに「じゃ、(eVTOLの)ベンチャーは死ぬってことか。今日はいい話を聞けた」という三部さんの言葉に凝縮されています。

三部さんは2021年の社長就任会見で、いきなり「2040年までに、ホンダの世界販売を100%、EVとFCVにする」と発表して、大きな話題になった経営トップです。

大企業には、大企業の戦い方がある。

そして「会社を本気で変えたい」と考える経営トップは、現場社員とは全く違う目線を持っているのです。

   

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朝活永井塾 第79回 『OODAループ』を行いました

9月6日は、第79回の朝活・永井塾。テーマは『OODAループ』でした。

ビジネスでは「PDCAサイクル」が有名です。しかしPDCAは計画にこだわりすぎて成果が出なかったり、想定外のことが起こると対応できない、という問題があります。

そこで最近、多くの企業が注目するのがOODA(ウーダ)ループという意思決定方法。米空軍の戦略家であるジョン・ボイドが生み出した思想です。

ボイドは古今東西の戦いに加え、孫子や宮本武蔵などの東洋思想、大野耐一のトヨタ生産方式などから深く学び、自身の理論を体系化しました。

この欧米諸国の軍事戦略に大きな影響を与えたボイドの思想・OODAループを、直弟子の著者が初めてビジネス向けにまとめた著書が『OODA LOOP』です。

たとえば普通のチェスプレイヤーが、最強のチェス・プレイヤーに勝つ方法をご存じでしょうか? 実はルールを2つだけ変えれば勝てます。

❶対戦相手が最初に指す
❷対戦相手が1手指すたびに、こちらは2手指せる 

これで駒落ちでも、余裕で勝てます。つまり最強の敵でも、相手が1手指す間に2手指すような圧倒的なスピードを獲得すれば勝てるのです。

ビジネスも同じ。OODAループを使いこなせば、あたかもチェスで相手が1手指す間に2手指すように、圧倒的なスピードを獲得して勝てます。

このOODAループは、さまざまな分野に広がっています。起業家のエリック・リースは、OODAループを新規事業立ち上げに応用した、有名な「リーン・スタートアップ」という方法論を提唱しています。

そこで今回の朝活永井塾では、下記の本をテキストに、OODAループについて学んでいきました。

『OODA LOOP』(チェット・リチャーズ著)

ご参加下さった皆様、有り難うございました。

【プレゼン部分】

またリアルタイムに参加できなかった方々には動画配信をお送りしました。

次回10月4日(水)の朝活勉強会「永井塾」のテーマは『組織行動学を学ぼう』です。申込みはこちらからどうぞ。