永井孝尚ブログ
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仕事で忙しいのに、なんで抽象的な思考が必要なの?

ビジネス書を読むと、抽象的な思考を求められる言葉が色々と出てきます。
「お客の言いなりになるな。お客が本当に望んでいることは何か?」
「当社の使命とは、何だろう?」
「当社の本質的な強みって、何だろう?」
私が企業様に提供している研修でも、同じように抽象的な思考が必要となる課題を考えていただいています。
しかしこんな抽象的なテーマについて議論していると、こう言う人もいます。
「ビジネスで日々忙しいのに、なんでこんな抽象的なことを考えなきゃいけないですか?」
理由は実にシンプルです。
「言動や判断が首尾一貫するから」です。
あなたは、次の二人のうち、どちらの下で働きたいですか?
A課長 「言うことがそのたびにコロコロ変わる上司」
B課長 「言動・判断がブレない上司」
A課長の下で働きたい、という人は、恐らく少ないでしょう。
ほとんどの人は、B課長の下で働きたいと思うはずです。
A課長は、脳内の99%が「今日中に取引先X社にご挨拶に行って、午後には会議に出て、夕方までに明日の役員会議の資料を作成しなきゃ…」という目先の仕事が占拠しています。「当社の使命は○○○だよね」なんて抽象的なことを考える余裕はありません。
中核となる考えがないので、A課長の判断は、その場その場で場当たり的な判断になりがちです。
B課長も、A課長と同様に「今日中にこれやってあれやってこっちも片づけて」と目先の仕事で忙しいわけですが、並行して「でも当社の使命って○○○なんじゃないか? これってやるべきなの? どうなの?」ということも考えています。つまり抽象的な思考をしています。
たとえばファーストリテイリングの使命は「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」です。同社CEOの柳井正さんは、ことあるごとにこの使命に立ち返って、次に何をやるべきかを考え続けています。だから言動や判断にブレがないのです。
だからビジネスパーソンにこそ、抽象的な思考が求められるのです。
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廃棄されていたいびつな真珠が、高く売れる理由

バロックパールってご存じでしょうか?
「知らない…」という人の多くは、おそらく男性。
「知ってる、知ってる」という人の多くは、おそらく女性でしょう。
バロックパールとは、ゆがんだ形の真珠のことです。
真珠は完璧に「真円」の形のものが好まれ、流通しています。しかし真珠は、アコヤガイという貝で養殖された天然物です。天然物なので「真円」の真珠は全体の約2割。8割はいびつな形だったり突起があったりするバロックパール=いびつな真珠は、これまで廃棄されていました。実にもったいないことですよね。
いま、そのバロックパールが人気なのです。
まだ大手メディアでほとんど取り上げられていないので、新聞記事や一般雑誌記事にはあまり掲載されていません。しかし女性誌では取り上げられています。
試しにX (旧Twitter)で「バロックパール」で検索してみてください。色々と出てきます。
バロックパールをブランディングしている会社もあります。
その一つが「ボンマジック」のバロックパールジュエリー。
パロックパールを2つ使ったピアスは8〜12万円、ネックレスは30万円以上です。知人から聞いた情報ですが、ネットに掲載されるとすぐに売り切れるそうです。
なぜ廃棄されていた「いびつな真珠」が、何十万円で飛ぶように売れるのでしょうか?
「真円」の真珠は、冠婚葬祭や豪華なディナーなどのフォーマルなドレスに似合います。
一方でコロナ禍で、白いシャツや黒のパンツ・デニムなどのカジュアルでシンプルなファッションを着こなす機会が増えました。しかし真円の真珠は、こんなファッションにはちょっとフォーマル過ぎて、ちょっと堅苦しい感じもします。もっとシンプルなファッションにあった、自分らしいジュエリーの方がファッションにフィットしますよね。
そこでこのバロックパールが注目されているのです。
注目されている理由は「その形が世界に一つしかない」からです。過度にフォーマルではない一方で、自分らしい絶妙な存在感を表現できます。
もう一つは「抜け感」。高級ブランド真珠は肩に力が入っている感じがします。でもバロックパールなら、それなりに「お金は困ってないんだけど、これでいいわ」という独特の抜け感が演出できます。
つまり「(いびつな)バロックパール」に、「世界に一つしかない自分らしい存在感と抜け感」という意味を与えることで、「ボンマジック」のバロックパールジュエリーは飛ぶように売れているのです。
バロックパールの例は、他にもあります。
ジュエリーブランド“SEVEN THREE.”(三重県伊勢市)が手掛ける「金魚真珠」です。この会社の社長・尾崎さんは、祖父が伊勢志摩で真珠の養殖に60年間従事していました。養殖真珠はできるまで3年かかりますが、流通するのは「真円」の2割だけ。「この形は、いい」と思っても買ってくれる人がいませんでした。
ある日、真珠の選別をしていると、全体の1割ほどの突起がある真珠が、尾びれをなびかせて泳ぐ金魚に見えました。そこでそんな真珠を「金魚真珠」と名付けて、ECサイトに掲載したところ、数万円で売れるようになりました。(以上、金魚真珠は「日経クロストレンド」2021/9号 p.2-4を参照)
生産・流通業者から見ると「いびつな真珠」は、流通に乗せられない欠陥商品でした。
しかし顧客目線で「顧客にとっての価値」を考えた結果、「いびつな真珠」は「自分らしさと抜け感が表現できる普段使いのボンマジック・バロックパール」、あるいは「同じモノは2つとない特別な金魚真珠」と再定義して、高くても飛ぶように売れるようになったわけですね
全く違う分野でも同じような話があります。「土用丑の日」の鰻です。
実は、土用丑の日の鰻が美味しいわけではありません。江戸時代に夏に売れない鰻を売りたいと相談を受けた平賀源内が、「『本日丑の日』と店頭に貼るといいよ」とアドバイスして、その店が繁盛し、周囲の鰻屋も真似し始めた、と言われています。(所説あります)
これも顧客の視点から、「夏場の鰻」を「丑の日に『う』がつくものを食べると夏バテしない」と再定義した発想です。
フランスの哲学者ジョン・ボードリヤールは、消費社会が到来した1970年に刊行した著書「消費社会の神話と構造」で、「商品とは『記号』である」と述べました。
現代社会では、あなたの商品に、どのような記号を付けるかが問われているのです。
あなたの商品には、どんな記号が付けられていますか?
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南太平洋の孤島に、靴の市場はあるか?

ある会社が、南太平洋の孤島に社員を派遣しました。
一人目の使者は、ご用聞き。彼はこのように報告してきました。
「島の人間は靴を履きません。市場はありません」
会社はさらに使者を送りました。二人目の使者はセールス。彼は、このように報告してきました。
「島の人間は靴を履いていません。もの凄い市場がありますよ!」
そして会社はさらに使者を送りました。三人目の使者はマーケター。彼は、このように報告してきました。
『島の人間は靴を履いていません。そのため彼らの足は傷つき、痣もできています。部族長に「靴を履けば足の悩みから解放される」と説明したところ、もの凄く乗り気でした』①
『1足1,000円なら「島民10万人の7割が買う」とのことです』②
『初年度は口コミで2,000足売ります。全コストは600円なので、初年度売上は200万円で利益80万円。営業利益率40%です。 その後は販促を強化、5年で累計7万足、売上7000万円、利益2800万円です』③
『近隣の島々の市場規模は10倍、売上7億円です』④
『他社がいない今がチャンス。参入しましょう』⑤
3人が見ているのは、まったく同じ南太平洋の孤島です。しかし三人目の「マーケター」は、一人目の「御用聞き」、二人目の「セールス」とは違うモノが見えていることが、おわかりになりますでしょうか?
①は、現場目線の市場分析、顧客ニーズ。
②は、市場規模把握。
③は、事業の規模感。
④は、将来のビジネス機会。
⑤は、経営陣への提案です。
そしてこのマーケターのように見て考える力は、決して才能やセンスの問題ではありません。スキルの問題です。
そしてスキルの問題ですから、学べば身につけることができます。
私が永井経営塾や企業研修を行っているのも、日本のビジネスパーソンに大きく欠けていて、早急に学ぶべき最優先スキルが、マーケタースキルだからです。
そしてマーケタースキルの本質は、新たな価値を創り出すことです。
「日本は技術大国」と言われて久しいですが、世界全体で見ると、米国には追いつけず、アジアの各国に次々と抜かれています。国民一人当たりGDPも国民所得も下がり続けています。
この大きな原因の一つが、マーケター・スキルがないがために、新たな価値を創り出せないことです。
日本のあらよる職種のビジネスパーソンがマーケタースキルを身につければ、日本が本来持っている力を解放でき、日本は大きく成長できるはずです。
マーケティングを、学びましょう。
(なお上記の事例は、フィリップ・コトラー著「コトラーのマーケティング・コンセプト」(p.207)の内容を、わかりやすく修正したものです。ご興味ある方はぜひご一読を)
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リーダーシップの根拠は、人事権・決済権か?

企業でリーダーシップ研修を行っていると、管理職一歩手前の若手社員からこんなご質問をいただくことがあります。
「私にはまだ部下がいません。人事権と決裁権がないので、こんなことを学んでも、リーダーシップを発揮しようがないんですが…」
私も人事権・決裁権を持っていない時期が多かったので、この方のお気持ちがよくわかります。
ここで、ぜひ考えてみていただきたいのが、
「リーダーシップを発揮するために、果たして人事権や決裁権は大前提なのか?」ということです。
私はよく山登りにたとえます。
「あの山に登ると見晴らしが凄いらしい。一緒に登ってみようよ」と言って、周囲の人たちに「そんなに見晴らしが凄いんだったら、ぜひ登ってみたい」と動機づけること、つまり変えるべきことを決めてメンバーを動機づけるのが、本来のリーダーシップです。
ここでは人事権や決裁権はあまり関係ありません。
人事権や決裁権がない時期が長かったIBM時代の私は、マーケティングプロフェッショナル職として事業本部の戦略策定や実行を担当していました。この仕事は一人ではできないので、組織をまたがったプロジェクトチームを次々と作り、運営していました。
プロジェクトチームのメンバーに主体的に動いていただく必要があるのですが、私は上司でも何でもないので、人事権や決裁権を根拠にできません。そこでどのようにすればメンバーの皆さんが気持ちよく動いていただけるのか、色々と知恵を捻り出しました。
たとえば「こんな問題がある。こうすれば解決できると思うのです。あなたも同じ問題を抱えていると思います。だから一緒にやりませんか?」というような話をして、一人一人チームに参加していただいたりしました。
こんな方法で四苦八苦しながらプロジェクトチームを束ねていたある時、同じチームにいた韓国IBMのある女性マネジャーから「永井さんのリーダーシップで成果が出ましたね」と言われて、驚いたことがあります。
当時の自分は人事権や決裁権がありませんでしたし、リーダーシップを発揮している意識も全くありませんでした。「これはやらないとダメなんじゃないか?」と思って動いていただけでした。しかし結果的に、リーダーシップを発揮していたのです。
むしろ人事権や決裁権を前提にして、「これをやってください。(やらないと人事査定に響きます)」みたいなやり方は、危ういかもしれません。
仕事の規模が大きくなると、一人だけで対応できなくなります。そこで必要なのが、チームを動かすリーダーシップです。しかし、そのリーダーシップは、必ずしも人事権や決裁権は前提ではないのです。
人事権や決裁権がない時こそ、本当のリーダーシップが問われます。
そして本当のリーダーシップが問われるのは、人事権や決裁権を持った時です。なぜならつい人事権や決裁権を、人を動かす根拠として使いがちだからです。でも人事権や決裁権は、実は伝家の宝刀。伝家の宝刀は、使わないことに意味があるのです。
あなたは人を動かすとき、あなたのリーダーシップを根拠にしているでしょうか? それとも人事権や決裁権を根拠にしているでしょうか?
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読書を通して、成功ノウハウを学ぶコツ

最近、投資術の本が流行っていますね。「FXで億り人」とか「1年で1億円貯める方法」といったタイトルも間立ちます。
こうした本の多くは、ご自身で成功したノウハウを誠実に公開しておられます。ただ問題は、成功の再現性がないことが少なくないことです。
そういった方々は、その人の資質や市場のタイミングのおかげで成功していたりします。つまり運の要素が大きいわけです。しかし読者は、必ずしも同じ資質やタイミングに恵まれている訳ではありません。
つまりこういった本が披露する成功術は、あくまでその人の自己流です。この結果、その成功ノウハウを真似て同じことをしても、失敗することも多いのです。(ただ確率的に成功する方も少数おられるでしょう。)
ビジネス書の世界では、まったく別の分野 ── たとえば英語(「こうするとTOEIC満点」)、プレゼン、マーケティング、営業、経営 ── でも似たような本があふれています。
こういった本も、著者はご自身の成功ノウハウを惜しげもなくお披露目しておられます。誠実な姿勢だと思います。しかしその成功ノウハウを、他人がやっても上手くいくとは限りません。この理由は、冒頭の投資術の本で書いた通りです。
個人が体験した成功ノウハウの紹介が、悪いわけではありません。そういったノウハウは貴重ですし、私も大いに学ばせていただくことがあります。
重要なのは、成功ノウハウに普遍性を持たせることだと思います。
個人が経験出来ることは、どうしても量的な限界があります。森羅万象、あらゆることを経験するのは時間的にもムリです。
ですので個人の体験だけに基づいて書かれている成功ノウハウは、結局、その人だけに有効な成功ノウハウとして理解するべきです。
必要なのは、その本に理論的な裏付けがあるかを検証することです。できれば著者独自の理論ではなく、既に確立されている複数の理論に基づいていることです。
拙著「100円のコーラを1000円で売る方法」シリーズや「MBA 50冊」シリーズは、自分自身や他の方々の成功事例をもとに、こうした理論的な裏付けをすることで執筆してきました。
おかげさまで「役に立った」という読者からの声を多くいただきました。「ビジネスパーソンのビジネス力向上」のために執筆活動を続けていますので、これからもお役に立てる本を執筆していきたいと思います。
11月末にも、新たな本を上梓する予定です。間もなくご案内しますので、よろしくお願いいたします。
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