マネジャーは「テコ」を使い倒せ

IBMでマネジャー研修を受けた時のこと。「マネジャーの仕事とは何か?」という問いに対する答えとして、こんな言葉が心に残っています。

「人によるパフォーマンスの最大化」
Maximize performnance through people

ビジネスパーソンで必要なのは、マネジャーになる前ならば自分自身の仕事のパフォーマンス最大化です。

しかしマネジャーになると、部下を通して実務に関わります。
だから「人によるパフォーマンスの最大化」なのです。

では具体的に、いかにこれを実現すればいいのでしょうか?

インテル創設メンバーでありCEOや会長も務めたアンディ・グローブは、名著「HIGH OUTPUT MANAGEMENT」で「テコの原理を使え」と言っています。

テコは小さな力で大きなモノを動かすことができます。マネジャーが常にテコ作用を意識して日々活動することで、部下や関係者を通じて大きなアウトプットを生み出せます。

たとえば部下から相談を受けたら、「○○さんにお願いしておくよ」
あるいは部下が悩んでいたら、「こうしたらいいんじゃない?」
さらにはチームに声をかけて、「皆で集まって考えよう」

マネジャーのこんなちょっとした仕事で、部下の仕事のアウトプットが増幅されます。

このためにマネジャーは日々情報収集を欠かさず行う必要があります。グローブは本書で自分のある一日の仕事を紹介しています。

次々と人に会い、相談に乗り、会議に出席し、電話で話し、手紙やレポートを読んでいます。一日のほとんどの活動が情報収集。話し、電話し、読み、会議に出るのは、すべてよい意志決定をし、テコを使ってチームのアウトプットを最大化する上で、貴重な情報源なのです。

私がIBMのマーケッター修業時代に仕えた部長は、仕事のことは何でも熟知していました。彼は日頃から多くの人たちとちょっとした会話をして情報収集に余念がありませんでした。そうして得た深い知識に基づいた意志決定やアドバイスは実に的確。まず間違いがありませんでしたし、ちょっとしたひと言で、いつも助けていただきました。

逆にマネジャーが仕事を抱えるとテコが効きません。組織のアウトプットも低いままです。徹底的にテコを使い倒すべきなのです。

そしてテコの原理は、部下を持たなくても使えます。他人に影響を与えることができればいいのです。

あなたはテコを使っていますか?

 

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「日本人はなぜ平気でウソをつくんだ?」と相談された話

私は外資系企業に勤務していた時、米国人の同僚から真剣に相談されたことがあります。

「なんで日本人は、上のポジションの人間でも平気でウソをつくんだ?」

これは、日本企業で近年頻発する不祥事隠しや偽装問題と深い関係があるように思います。その理由を、社会心理学者である山岸俊男先生の著書『日本の「安心」はなぜ、消えたのか』を参考にしながら、考えてみたいと思います。

日本の組織は「ムラ社会」と言われています。江戸時代、山奥の農村の田植えや稲刈りの作業は村人が総出で行いました。困った時は「おたがいさま」と助け合い、戸締まりもしません。実に安心な社会です。

農村社会では悪いことや非協力的な行動は損をします。田植えを手伝わないと、困った時に誰も助けてくれません。最悪、村八分や追放です。協力し合う方がお互いにトク。そこで農村ではメンバーを互いを監視し合い、何かあると村八分などで制裁する仕組みを作りました。

同じ村の人間ならば「同じ村の衆だから、悪さはしないだろう」と安心できます。しかしヨソ者は警戒して、場合によっては村に入れずに追い返してしまいます。ムラ社会の人間は、アカの他人を信用しないのです。理由は村八分のような制裁システムが効かないからです。

言い換えればムラ社会は「安心社会」。たとえ個人同士では信頼がなくても、社会全体では制裁システムなどで信用を担保する仕組みがある安心な社会(「同じ村の衆なら安心」)でした。その延長である日本企業も「安心社会」でした。「安心社会」は「閉鎖社会」でもあります。

一方で、私たちのビジネス環境は、20年前から激変しました。いわゆる「経済のグローバル化」です。オープンな経営が求められるようになりました。

オープンな経営が求められる米国系の社会は、都会をイメージしてみるとわかると思います。都会はアカの他人ばかりです。ですので個人同士の信頼を確立する必要があります。そのために「フェアであること」が求められるので、オープンな経営をすることになります。言い換えれば、個人同士の信頼が前提となる「信頼社会」なのです。

いまや日本企業は「信頼社会」に合ったオープンでフェアな経営が求められています。でも日本企業は「安心社会」の考え方から変わっていません。安心社会ではアカの他人を信じません。だから都合の悪い情報は身内だけに留めて隠しがちです。

一方で信頼社会の大前提は、アカの他人を信じること。だから必要な場では、都合が悪い情報もあえてオープンにします。オープンにすべき時に都合の悪い情報を隠す行為は、不誠実でウソつきの行為なのです。

冒頭の米国人同僚の嘆きも、これが理由です。日本人が都合の悪い情報を共有せずに、自力解決を図ろうとするために「ウソつき」に見えてしまうのです。この結果、責任感が強く、真面目で努力家の日本人ほどウソつきに見えてしまいます。「ウソつき」と言われた日本人には実に不本意なことです。しかしこれが現実です。

本来は信頼社会では、都合の悪い情報もチームで共有し、解決策をオープンに議論すべきなのです。

不祥事隠しや偽装問題を起こす日本企業も、都合が悪い情報を隠す点で全く同じです。安心社会から信頼社会へのマインド・チェンジができていないのです。

信頼社会で生きるには、不信を出発点にするのはNG。不信の念を排除し、まず他人を信頼すること。まずは他人を信頼しない限り、信頼社会では自分も信頼されないのです。

 

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「パワポができる奴は戦略が立てられない」?

時々、こんなことを言い放つ部長さんがおられます。

「パワポ(パワーポイント)ができる奴は、確かに絵は描けるけどさ。戦略が立てられないんだよなぁ」

もしあなたが就活中で、転職希望先でこんな管理職に遭遇したら、その会社への就職はやめた方がいいと思います。

まずこう発言する部長さんは、自分でパワポを作っていません。パソコンが使えないからです。

そこで係長か主任クラスの若手社員に声をかけて、「こんな感じでさ。パワポ資料作ってよ」と依頼するわけですが、往々にして指示は曖昧です。従って、ちゃんとした資料ができません。

出来上がった資料を見て、「うーん。なんかこれ、違うんだよなぁ」
こうして何度も資料は突き返されて作り直し。これは元々の指示が曖昧なのがいけないのです。

実はこうして作り直している間に、部下のアイデアを取り込んで徐々に資料が出来上がっています。しかし当の部長さんはすべて自分が考えていると思っています。

その結果、この発言になります。

「パワポができる奴は、確かに絵は描けるけどさ。戦略が立てられないんだよなぁ」

自分でパワポ資料が作れず、そして周囲の部長さんたちも自分で作れません。社内のオフィスにこもってそんな世界しかみていないので、こんな発言になります。

これは二つの意味で問題です。

1つ目は、とても非効率であること。
自分でパワポを覚えれば、ずっと短時間でパワポ資料が作れます。管理職の社内資料は、別に凝った資料を作る必要はなくて、ロジックがしっかりしていれば、文章の箇条書きでOK。こんな資料だったら、最低限のパワポ操作を覚えれば自分で作れます。現場で仕事を抱えて頑張っている部下の貴重な時間を奪うこともなくなります。「パワポ資料くらい、自分でサクっと作ろうよ」という話です。

2つ目は、会社全体に広がっているITリテラシーの低さ
こんな部長さんなので、Zoom会議に一人で参加するのなんてまずムリ。
デジタル発想もできません。
会社を動かしているミドルマネジメントがデジタル音痴なので、DXもまったく進みません。

会社全体が非効率で、かつITリテラシーも低いので、将来性はありません
だからこんな会社には、就職はやめた方がいいと思います。

現実には、私の周囲でしっかり戦略を考えられる実力派ビジネスパーソンは、パワポも上手です。ITリテラシーが高いので自分で作った方がはるかに速く確実に作れます。そもそも部下は現場で大事な仕事を抱えて頑張っています。部下にはその仕事に集中して欲しいわけです。

もしパワポ資料作成を部下に任せていたとしたら、そろそろ自分で作りましょう。

      

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「方針を決めた。皆で頑張ろう」は戦略ではありません

時々、こんなトップを見かけます。

「経営陣で戦略を話し合った。2030年の目標を○○○とした。みんなで知恵を出し合って頑張ろう」

えーと。あのー。ちょっと待ってください。
それって戦略って言わないんですけど。

「戦略は明確だ。○○○を達成することだ。あとは現場に頑張ってもらう」

真剣にこう考えているトップをみかけます。
しかし目標設定は、戦略ではありません。
単なる願望です。

戦略とは、その目標をどのように達成するかという方法です。

でもこう言うと…

「それはキミ、明確だよ。2023年には□□□を達成して、2025年には◇◇◇を達成、2028年には◎◎◎、そして2030年には○○○を達成するんだ。しっかり決めているよ」

と真剣な顔をして反論する人もいます。

うーん。これも違います。これは目標を細分化しているだけ。
目標をどのように達成するかは、相変わらず何もありません。

でもこれは目標を細分化しているだけ。
目標をどのように達成するかは、相変わらず何もありません。

問題は、目標と戦略を取り違えていることです。
世の中ではこれを「希望的観測」と呼びます。
「いかに目標を達成するか」をトップが考えずに、部下に丸投げしている状態なのです。

戦略とは具体的で明確なものです。

たとえば、もはや古典的な事例になりましたが、私が在籍していたIBMが破綻寸前に陥っていた時にCEOに就任したガースナーは、戦略を明確に示しました。

ガースナーに与えられた課題は、破綻寸前のIBMを復活させ、成長させることでした。

当時、IBMは大型コンピュータ主体の会社でしたが、世の中の動きについて行けずに低迷していました。当時の圧倒的多数派の意見は「IBMは図体が大きすぎる。解体すべし」でした。これを受けて、IBMも分社化の準備を進めていました。

しかしガースナーはCEO就任前にIBMの大手ユーザー企業のトップでした。彼はこう考えました。

「コンピュータ業界では、ソフト、ハード、データベース、PCなど、様々な分野への細分化が進行中だ。みなバラバラで顧客は困っている。一方でIBMは全分野に通じている。これは顧客にとっていいことだ」

その上で、彼はこう考えました。

「IBMの問題はこの総合的なスキルを活かしてないことだ。むしろ統合化を進めるべきだ。バラバラなIT製品を統合する顧客向けソリューションを提供しよう」

そこでこんな方針を出しました。
「顧客向けにオーダーメイドのソリューションを提供する」

さらにこの方針を実現するために、こんな施策を立てて実行しました。
・既存のハードウェア事業部とは別に、新たサービス事業とソフトウェア事業を立ち上げる。
・従来のIBMのタブーを破って、他社製品も取り扱いを開始する
・これまでの地域別・製品別の組織では世界で展開したい大手顧客を支援できないので、顧客別の組織へ再編する

このように本来の戦略とは、課題を解決するために、具体的で、首尾一貫しており、さらにビジネスの場合は顧客目線であることです。

改めて言うと「方針決めたので皆で頑張ろう」は戦略ではありません。

最近気のせいか、色々なところでますます多く見かけるような気がします。特に政府の発表に多い気がします。

自分たちは気をつけたいものですね。

     

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「日本人は○○だから…」という発想のままでは、日本は変わらない

2011年以来、世界の経営思想家ランキングThinkers50に選出され続けている経営学者エイミー・エドモンドソンは、著書「恐れのない組織」で日本の組織について述べています。エドモンドソンの指摘は、私たち日本人にとって実に参考になります。

たとえば彼女は本書で福島第一原発事故を詳細に分析しています。そして調査委員会の黒川清委員長が事故報告書に記した言葉を引用しています。

『根本原因は日本文化に深く染みついた慣習─盲目的服従、権威に異を唱えないこと、「計画を何が何でも実行しようとする姿勢」、集団主義、閉鎖性──のなかにある』

この報告書について、エドモンドソンは著書でこう反論しています。

「黒川が挙げた「深く染みついた慣習」は、いずれも日本文化に限ったものではない。それは、心理的安全性のレベルが低い文化に特有の慣習だ」

心理的安全性とは、集団の大多数が「ここでは何でもいえるし、心おきなくリスクが取れる」と感じる雰囲気のことです。心理的安全性がある組織のメンバーは、「ここでは率直に意見してもOK」と感じ安心して活発に議論します。

たとえばクリーンディーゼルの不正問題が起こった当時のフォルクルワーゲンは、まさに心理的安全性がとても低い組織でした。不安と脅しにより社員を恐怖で支配する組織文化だったのです。そして誰も悪い報告を上げなくなり、不正が起こりました。

また「日本では率直な発言やミスの報告を促そうとしても、徒労に終わる」という意見に対して、彼女は「トヨタ生産方式は立場の上下を問わずに全従業員に積極的に誤りを指摘することを求める。…つまり、やろうと思えばできる、ということだ」と反論しています。

エドモンドソンの指摘は、まさに慧眼だと思います。

私たちは

「これは日本特有の問題」→(だから仕方ない)

と考えがちです。でもこうなると解決は難しいですよね。

「俺ってこんな性格だからさ。仕方ないんだよ」

と開き直る、どこかの偏屈で頑固なオジさんみたいです。

しかし「人間はどこの世界でも、さほど変わらない」と考えれば、必ず解決策があります。

組織の違いを生むのは、個人の特性よりも、むしろ社会構造なのかもしれません。

確かに日本社会は他の社会とは異なる構造をしています。しかし日本以外の全ての社会も、他の社会とは異なる構造をしているものです。社会構造の違いがあるのであれば、その違いが何なのかを見極めるべきなのです。

日米で比較研究を続けてきた社会心理学者の山岸俊男先生は著書『日本の「安心」はなぜ、消えたのか』で、「日本人は米国人より集団主義だ」という常識を日米の比較実験で確かめています。実験の結果、意外なことに日本人は赤の他人を信じない個人主義者でした。社会構造がムラ社会中心だった日本人は、逆にヨソ者を警戒するのです。

一方で移民の国・米国社会も19世紀までは、日本のムラ社会のように同じ出身地や宗教の人たちが集まる集団社会でした。米国では急速な工業化でこの集団社会が失われて法制度が進み、今のようなフェアな社会構造が生まれたのです。

「日本人はこうなっている。だから仕方ない」と考えずに、「どこに問題があるのか?どうすればいいのか?」と未来志向で考えたいものです。

     

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日本で憲法改正の議論が進まないのは、日本社会の仕組みのため

安倍前首相の悲願は憲法改正だった、といわれています。
しかし憲法改正の国民的な議論は、あまり進んでいません。

実はこれは、日本の組織構造にあるようです。そのことを教えてくれるのが、1967年刊行の中根千枝著「タテ社会の人間関係」と1978年刊行の同「タテ社会の力学」です。

日本社会はタテ社会です。日本人は自己紹介で「営業のヤマダです」ではなく「○○社のヤマダです」といいます。「○○社というタテ社会のメンバーであること」が重視されます。日本の「イエ」(家)発想が、現代の組織に受け継がれたためです。

しかし元々は異質な人たちなので、常に集団意識を高める仕組みが必要です。そこで重視するのが、組織の所属期間です。

学生時代は先輩後輩の上下関係が明確で、国会議員は当選回数が重要。お酒の席では上座から下座へとキレイに序列順に並びます。初対面同士のお酒の席で序列がわからないと、席に着けずに迷ってしまいます。会議で下の者が発言する時は「先輩を差し置いて僭越ですが…」と前置きし、上司は「○○部長」と役職名が付きます。

またタテ社会に新メンバーが加入する場合は、居場所は組織内の序列のどこかになり、その序列が定着します。

欧米・中国はヨコ社会。年齢に関わらず能力があれば若くても抜擢されます。新メンバーはルールに基づき加入が認められ、参加してしまえば他メンバーと同列。ヨコ社会は異民族同士の社会で価値観も全く異なるわけで、ルールが組織の行動基準になり、契約に基づいて動きます。

ヨコ社会では、憲法がないと国家という組織も動きません。だから憲法論議がとても大事。乱暴にいうと、時代に合わせて憲法をアップデートしないと国家は機能しなくなります。

一方のタテ社会は、契約よりも人間関係が優先します。「オレとお前の中だからさ。規則なんてどうでもいいよ」となるわけです。契約の精神が欠如しているのですが、逆の見方をすればルールがなくても組織がそれなりに動きます。ルールがなくてもが動けるのは、日本社会の圧倒的多数が同一民族で占められおり、基本的文化を共有するからです。乱暴にいうと、憲法が現状に合っていなくてもそれなりに解釈して国家が動いてしまうわけで、憲法論議の緊急性が低いわけですね。

タテ社会とヨコ社会のどちらがよいか、悪いか、という話ではありません。これはあくまで社会の特性に関する議論です。

最近の日本企業でルールがあってもトップ自ら無視したコンプライアンス違反が目立つ背景も、あるいは緊急事態になるとバラバラだった組織が急に一枚岩になって一糸乱れず動くようになるのも、こんな日本のタテ社会の行動原理にあるのでしょう。

     

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歴史上の天才的な創作者ほど、駄作が多い理由

史上最高の発明家といえば、エジソンでしょう。1000を超える特許の中には電話・白熱電球・蓄音機・映写機など世界を変えた発明もあります。しかし一方でエジソンの発明の中には、フルーツ保存技術、おしゃべり人形、電子ペンなど世に知られていない発明も実に多いのです。

現代でエジソンに比肩するのは、ジョブスでしょうか。Mac、iPod、iPhone、iPadなどで世の中を大きく変えましたが、ジョブスはGIZMODEが「スティーブジョブス失敗集」という記事で取り上げたように失敗作も実に多いのです。

エジソンやジョブスのような天才といえども、現実には悪いアイデアのオンパレードなのです。

実際に調査すると、ある分野の天才的創作者は他の人よりも必ずしも創作の質が優れているわけではありません。大量に制作しているだけなのです。

天才と称されるモーツァルトは600曲、ベートベンは650曲、バッハは1000曲以上作曲しています。ピカソは絵画1800点・彫刻1200点・陶芸2800点、デッサン12000点を制作しました。シェイクスピアは20年間で37の戯曲と154の短編詩を書きました。

これら膨大な作品の中で、傑作として世に知られているのはごく一部。彼らの多くの作品は、知られていません。

組織心理学者のアダム・グラントは著書『ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代』の中で、「いいアイデアを生む唯一の方法は、大量生産すること。ともかく沢山作り、大量に失敗することだ」と述べています。

理由は天才といえども自分で作ったモノを正しく評価できないからです。これが「確証バイアス」。作っている本人は、自分が作っているモノの長所ばかりが目に付き、欠点を過小評価してしまうのです。

かく言う私もそうです。おかげさまで拙著は多くの方に読んでいただいていますが、残念ながら私はあまり売れなかった本もたくさん書いています。でも書いている最中はどの本も例外なく、編集者と一緒に「これは、今までで最高の本になる!」といいながら書いています。やはり当事者になると、確証バイアスの罠からは逃れられないのですね。

この確証バイアスの罠から逃れる方法が、沢山作ることなのです。その結果、天才的な創作者は傑作も多いのですが、それ以上に駄作も多くなります。

日々仕事をするビジネスパーソンも同じです。仕事でより多くの挑戦をすれば、失敗の数も増えます。しかし同時に成功の数も増えていきます。

まずは打席に立つこと。そしてバットを振ることです。
バットを振ると必ず空振りの可能性があります。
しかしバットを振らないと、ヒットは出ません。

日々、より多く打席に立ち、より多くバットを振りましょう。

     

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ダブル・ループ学習でその大前提を疑え

米国でCEOが34人参加するセミナーがありました。このセミナーに「次期CEOを約束されていたけど、『自惚れが強くて横柄だ』という理由でCEOに就任できなかった」というある会社のCOO(実はセミナー指導員が演じる仕掛け人)が登場しました。

そしてセミナー主催者は、参加した34人のCEOたちに「彼の欠点を矯正するために相談相手になって欲しい」と求めました。

CEOたちはCOOに様々なアドバイスをしましたが、COOは「抽象的なので具体的にいって欲しい」などといい、なかなかCEOたちのアドバイスを受け容れません。

色々とアドバイスを試みたCEOたちは業を煮やして口々にこういいました。
「彼は強情だね。『自分を良くしたい』っていうけど、どうも怪しいもんだ」

するとセミナー主催者がこういいました。
「皆さんは誰一人として、『私があなたを助けたいと思っています。私の助言が役立たないと思われるのはなぜでしょうか?』とは尋ねませんでしたね」

CEOたちは一同沈黙してしまいました。確かに彼らは誰一人、自分のアドバイスが相手にどんな影響を与えているかを、相談を求めるCOOに尋ねませんでした。

この話は「組織学習論の父」と称され、世界的に最も影響力がある組織行動学の大家であるクリス・アージリスが、晩年に自身の研究の集大成として刊行した「組織の罠」という本に載っている事例です。

CEOたちは「シングル・ループ思考」に陥っていたのです。
シングル・ループ学習では大前提を微塵も疑わず、その大前提のもとで決められた目標を実現しようと、繰り返し挑戦します。

34人のCEOたちも「自分の経験を活かせば彼を変えられる」と考え、あの手この手で説得を試みましたが、受け容れられませんでした。

こんな時に必要なのが「ダブル・ループ思考」です。
ダブル・ループ学習では、大前提そのものを疑います。目標や戦略があっても「そもそもこれらは本当に正しいのか」と大前提を含めて疑ってかかります。そして大前提に反する事実が出てきたら、躊躇せず大前提を変え、それにあわせて目標や戦略も変えます。

34人のCEOたちも、彼が納得しないとしたら「なぜ彼は納得しないのか。もしかしたら自分が間違っているのではないか」を考えるべきでした。しかし彼らは自分の間違いの可能性は微塵も考えず、「彼は自分を良くしたいというけど、どうも怪しいもんだ」と相手を責めたのです。

このシングル・ループ学習の問題は、至る所で起こります。

例えば「製品売上10%増」という目標が与えられ、目標達成のために何が何でも目標を達成しようとするのも、シングル・ループ思考です。一見、勝ちに徹底的にこだわるので攻撃的に見えますが、実は大前提が変わっても目標や戦略を見直さずに大前提を守り抜こうとする「防御的思考」に陥っています。

ダブル・ループ思考では「製品の売上10%増」という目標が与えられても、「まてよ。製品単体売りでは売上変動が激しい。実はもっといい方法があるんじゃないか?」というように、その大前提そのものを疑います。そしてたとえば「製品を売らずにサブスク・サービスとして提供すれば、短期的に売上が落ちるけど、長期的に安定した収益基盤を築けるのではないか?」というように考えて、製品売りから撤退して新サービスに注力したりします。このようにあえて大前提を見直す「建設的思考」で考えていきます。

このようにダブル・ループ学習に移行するには、事実に基づいて考え、謙虚に学び続けて、大前提を躊躇せずに変えることが必要なのです。

 

    

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大谷翔平に一歩近づく方法

大谷翔平の活躍が止まりません。最近6試合でも、打者としてはホームラン6本、投手として1勝。しかもメジャーリーグです。

ついに米国メディアも「彼は宇宙人に違いない」というようになりました。

確かに大谷は並外れた素質の持ち主です。並み居る大リーグ選手の中でも目立つほど恵まれた大きい身体もあります。

しかし世界は広いですよね。大リーグにも彼と同じ素質を持つ選手は多いはず。
大谷の活躍は素質だけでは説明はつきません。
そんな中で、なぜ大谷は活躍しているのでしょうか?

実は大谷は無趣味を公言し、プライベートの時間もほとんど外出しません。彼のすべての行動は、首尾一貫して「二刀流をやり抜く」ことに集中しています。

大谷の強さの根源にあるのは、月並みな言葉で言うと「努力を続ける力」。もともと恵まれた才能に加えて超人的な努力を継続することで、目の肥えた米国メディアに「宇宙人に違いない」といわれるほどの活躍を見せているのです。

このことは、私たちに勇気を与えてくれます。

私たちは「成功には才能が必要不可欠」と考えがちです。
しかし世界を大きく変えた偉人でも、必ずしも天才的な才能の持ち主とは限りません。あのニュートンの推定知能指数は130です。確かに優秀です。でも130の持ち主は人口の2%程度。あなたが高校生だった時の同級生だった、あの優等生と同レベルです。

現実の偉人は、そこそこの才能の持ち主がコツコツ努力を重ねて、世界史に残るような偉大な成果を生んだケースが多いのです。

もちろん才能は重要です。しかしその恵まれた才能も、努力がないと宝の持ち腐れ。

そして人は誰でも、自分が得意なことがあるはず。そして得意なことは、大抵は人よりもちょっとだけ才能があるものです。

先日もこんな事例を紹介しました。

極上コーヒーは障がい者の「強み」から生まれた

得意なことに集中してコツコツ努力を続け、それを10年間継続すれば、どんな人でもその道で一流といわれる人物になるはずです。

私たちも、大谷翔平に一歩でも近づきましょう。

    

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「悪い癖」をやめよう

私、お恥ずかしいことですが悪い癖があります。いつもひと言多いのです。
たとえば何か言われると、必ず「よかれ」と思って

「○○するともっといいですよ」

と必ずひと言付け加えてしまうのです。

この癖、マネジャーとしてはちょっと問題です。「■■をしたい」という部下に、「○○するといいですよ」というと、数%程度はよくなるかもしれませんが、その瞬間に部下のアイデアは私のアイデアで「汚染」されてしまい、部下のやる気は50%下がってしまうかもしれません。

コンサルティングや研修担当の仕事ならば、これはある程度は必要なスキルかもしれません。しかし参加者が「これやりたい」と前向きに考えているのに過度に干渉すると、これはこれで考え物ですよね。

「なくて七癖」といいますが、このように私達は知らぬ間に悪い癖を身につけていて、自分の行動が相手の目にどう映るかを意外と知りません。

経営幹部になるような人たちは、現場社員や中間管理職時代に最適だった仕事のやり方が、経営幹部になると悪い癖に変わってしまうことがあります。

たとえばマネージャーの中には、「自分も意見を出して自由闊達にチームで議論する」という方法で業績を伸ばしてきた人がいます。

この方法は部長レベルでは最適だったかもしれませんが、社長になると組織を停滞させる可能性もあります。
経営トップの言葉の重みは、部長の言葉よりもはるかに重いからです。
意見のつもりでアイデアを出しても、社長の口から出るとそれは瞬間に指示となり、社員は黙って言いなりになります。でも部長時代のやり方が正しいと思い込んでいる本人は、これがわかりません。「成功のパラドックス」ってヤツですね。

米国の大ベストセラー『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』(マーシャル・ゴールドスミス著)では、この原因と対策が詳細に書かれています。

ちなみに本書では、「20の悪い癖」と各々の対策が書かれています。

①極度の負けず嫌い
②何かひとこと価値をつけ加えようとする
③善し悪しの判断をくだす。
④人を傷つける破壊的コメントをする
⑤「いや」「しかし」「でも」で文章を始める
⑥自分がいかに賢いかを話す
⑦腹を立てているときに話す
⑧否定、もしくは「うまくいくわけないよ。その理由はね」と言う
⑨情報を教えない
⑩きちんと他人を認めない
⑪他人の手柄を横どりする
⑫言い訳をする
⑬過去にしがみつく
⑭えこひいきする
⑮すまなかったという気持ちを表わさない
⑯人の話を聞かない
⑰感謝の気持ちを表わさない
⑱八つ当たりする
⑲責任回避する
⑳「私はこうなんだ」と言いすぎる

私はリストを見て、つい「うっ、ゴメンナサイ…」とつぶやいてしまいました。

「イタい。コレって自分のことですか」と思う人は多いのではないでしょうか? でも安心して下さい。ほとんどの人はどれか必ず当てはまります。

過去の成功体験は、立場が変わると「単なる迷信」に変わります。しかし多くの人は自分が迷信に囚われていることがわかりません。「このやり方のおかげで自分は成功した」と考えます。そして組織の上に行けば行くほど、この弊害が様々な面で出てしまうのです。

この本の原題(”What You Get Here Won’t Get You There”「今までのやり方では、この先うまくいきませんよ」)は、まさにこの状況を表現しています。

対策は、過去の成功してきた行動を見直すこと。試しに家族や同僚が嫌がるあなたの悪癖や行動を一つ取り上げ、自問自答してみてください。

それを続けるのは以前に何かいいことがあったからでしょうか?
その行動は現在、プラスの結果を出しているでしょうか?
もしマイナスの結果ならば、単なる迷信を正当化しているだけかもしれません。

ドラッカーはこういいました。

「私が今まで出会ったリーダーの半数は、何をすべきか学ぶ必要はない。彼ら学ぶ必要があるのは、何をやめるべきかだ」

私たちは新しいスキルを身につけようと努力しますが、自分の悪い癖はなかなか気がつかず、直そうとしません。

ある意味、単純なことです。
新しいことを始める必要はありません。
今やっていることを、やめるだけです。単純ですけど、なかなか難しいですよね。

たまには悪い癖を見直して感じがいい人になると、幸せになると思います。(…と、私も自戒をこめて反省を続けたいと思います)

   

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運のいい人と悪い人。宝くじの当選確率はどう違う?

世の中にはなぜか運がいい人と、なぜか運が悪い人がいます。

運がいい人は、幸運が次々舞い込みます。
逆に運が悪い人は、不運が次々と襲ってきます。

「なぜこんな違いが起こるんだろう?」と疑問に思ったのが、英国の心理学者リチャード・ワイズマン。ワイズマンは「運」について様々な実験をしています。

当初、彼は「運は予知能力ではないか?」と考え、運がいい人と悪い人に英国の国営宝くじの当選番号を予想してもらう実験をしてみました。

英国の国営宝くじは1〜49の異なる数字を6つ選ぶ仕組みです。実験ではこの数字を予想してもらいました。あわせて、自分が運がいい人か悪い人かを区別できる質問も入れました。この実験には700名以上の応募がありました。

では、結果は?

運のいい人も悪い人も当選率は全く同じでした。
運のいい人が、宝くじに当たるわけではなかったのです。
言い換えれば、運のいい人も、運の悪い人も、幸運を掴む確率は同じでした。

これって不思議ですよね。
実はこの実験で、この謎のヒントがありました。運のいい人は運の悪い人の2倍以上「当選する自信がある」と答えていたのです。

そこでワイズマンは「運は自信と関係があるのかも」と考え、両者の考え方や行動の違いを分析し、運のいい人の4つの法則を見つけました。

第1法則 チャンスを広げる…運のいい人は、人との関係をどんどん広げます
第2法則 直感を信じる…運のいい人は、自分の直感に従います
第3法則 幸運を期待する…運のいい人は、「今後はいいことがある」と楽観的に考えます
第4法則 不運を幸運に変える…運のいい人は、不運が起こるともっと不運な可能性を考えて不運のダメージを減らします

詳しくはリチャード・ワイズマン著「運がいい人の法則」に書いていますので、ご興味がある方はぜひご一読下さい。

前向きかつ楽観的に考えて、運がいい人になりたいですね。

  

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極上コーヒーは障がい者の「強み」から生まれた

美味しいハンドドリップ・コーヒーを淹れるコツがあります。

コーヒーの生豆には、実は虫食いや欠けた生豆が混入しています。これらは渋みやえぐみのもと。これを丹念に取り除いて選び抜いた生豆をロースターで焙煎し、焙煎したコーヒー豆を細かく挽いて、適温のお湯を丁寧に注ぐと、極上のコーヒーが出来上がります。実に様々な手順を経ますが、それぞれの段階に独特のワザが必要になります。

5月18日放映のテレビ東京「ワールド・ビジネス・サテライト」を見ていたら、このコーヒーを美味しく淹れる店の特集がありました。東京・神保町にある「Social Good Roasters千代田」というお店です。

ここは店内で豆を焙煎し、一杯ずつハンドドリップで丁寧にコーヒーを淹れています。お値段は一杯500円から。決して安くありませんが、お客さんからは「苦みや渋みを感じない。凄く素直に飲める。香りがいい」と好評です。

実はこの店で働いているほとんどの従業員には発達障害などがある障がい者です。彼らはここで働きながらコーヒー技術を学んでいます。彼らが作るコーヒーが、とても美味しいのです。

ポイントの一つは、冒頭で紹介した生豆の選別。

生豆に混入している虫食いや欠けた豆などを丁寧に取り除くのが、「ハンドソーティング」という工程。一粒ずつ、見た目だけでなく感触を確認しながら、丁寧に取り除いていきます。ついつい投げ出したくなる作業ですが、一つのモノゴトに徹底的に集中できるのは彼らの強み。ジックリと集中しながら高品質な生豆を選び抜いていきます。

そんな彼らは、この店で一流のバリスタを目指しています。

番組を見て、とても感動しました。

「一つのモノゴトに集中して周りのことが目に入らない」という彼らの特性は、この店ではお客様に高い価値を提供できる大きな強みになっているのです。

よく人の「強み」とか「弱み」といわれますが、これは状況次第。そこにあるのは「その人ならではの特性」でしかないのだと改めて思いました。

「弱点を克服しよう」と考えるのではなく、一見すると弱点に見えるかもしれない自分の特性を「強み」に活かせる居場所を多くの人たちが見つけられれば、人々がより幸せに暮らせる社会になっていくのではないか、と思いました。

 

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私がコンサルティングで、お客様から徹底的に教えていただく理由

   

たまにこんなコンサルタントを見かけます。

『お客さんから「どんな商品が売れるでしょうか?』ってよく聞かれるんですけど、売れるモノがわかっていたらオレ自分で作るよ、って話ですよ。そもそも自分で何やりたいのかわからない人が多いんですよね。いつも「で、どうしたいんですか?」って口から出かかってます』

これはとてももったいない話だな、と思います。

相談されている方は、困っています。必要なのはその人の悩みに寄り添い、一緒に悩み考えながら新しいアイデアを創り出していくことだと思います。

このケースでも、コンサルティングの切り口は、いくらでもあります。

たとえば私が「どんな商品が売れるでしょうか?」という同じご相談を受けた場合、まずお客様からこんなことを教えていただきながら、一緒に考えます。

「あなたは、どんな商品がいいとお考えですか?」
「御社の強みは、何だと思いますか?」
「いまの商品は、どんなお客様に売れていますか?」
「いまの商品で、あなたが想定もしなかったお客様はいますか?その方はどんなお客様ですか?」
「いまの商品で、あなたが想定もしなかった使い方をしているお客様はいますか?そのお客様は、どのように使っていますか?」
「これまで売ってきて、『これは意外だったなぁ』という発見って何かありますか?」

各質問はお客様の知識を引き出すための糸口です。それぞれに対して参考になる成功事例や理論を二重・三重に用意した上で、議論を深めていきます。

その相談をしているお客様しか持っていない知識(暗黙知)や経験、商品知識やお客様に関する知見は、私たちコンサルタントは逆立ちしても絶対に敵いません。中にはお客様ご自身も気付いていない暗黙知もあります。これらは徹底的に尊重して謙虚に教えていただき、できる限り引き出していくべきです。

一方でお客様が持っておらず私たちが持っているのは、様々な問題解決の方法論や、他業界での事例や経験、さらにお客様が知らない人とのコネクションです。

100年前にシュンペーターが喝破したように、イノベーションの本質は既存知と既存知の組合せです。

お客様が持つ現場の知識や経験という既存知と、私たちが持つコンサルタントの知識や経験という既存知を、深いレベルで組み合わせて相乗効果を生むことで、全く新しいイノベーションの種が生まれるのです。

「で、どうしたいの?」と突き放すコンサルタントは、せっかくのチャンスを手放しているように見えて、とてももったいないな、と思います。

 

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「あるべきリーダーの姿」は、実は存在しない

リーダーというと、私たちはどんなイメージを持つでしょうか?

強い決断力…
人間的魅力…
部下思い…
人間としての器の大きさ…

いろいろと思い浮かびそうですよね。

でも、実は世界のリーダーシップ研究結果のコンセンサスは、「あるべきリーダーの姿はない」というものです。

ピーター・ドラッカーは著書「経営者の条件」で、「65年間コンサルタントとして出会ったCEOのほとんどが、いわゆるリーダータイプの人ではなかった」と述べています。性格・姿勢・価値観・強み・弱みは千差万別でした。

また「オーセンティック・リーダーシップ」(ハーバード・ビジネス・レビュー編集部)という本があるのですが、本書によると「コレがあるべきリーダーの姿」と考えること自体が大間違い。そんなものがあればリーダーを目指す人はその姿を再現しようと頑張るハメに陥りますが、周囲は本能的に「それって演技でしょ」と見抜いてしまいますよね。

実際この半世紀、リーダーシップの研究者たちは1000以上の調査研究で「あるべきリーダーの姿」を探りましたが、理想のリーダーシップ像を突き止めた研究は一つもありませんでした。本書の執筆陣もリーダー125人を調査しましたが共通の特徴・特性・スキルは何一つ見いだせなかったといいます。

そこで米国で広がりつつあるのがオーセンティック・リーダーシップ(Authentic Leadership)という考え方です。オーセンティックとは「本心に偽りのない」「本物の」という意味。要は「自分らしさを貫くリーダー」のことです。

現代では、弱さを隠さず常に正直な自分であろうとする勇気を持って行動し、「自分らしさ」を貫く自然体で振る舞うリーダーに、人々は共感するのです。

   

 

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駒の配置は変えられない。大事なのは、次の一手

どうしようもない状況に追い込まれて八方塞がり…。
ビジネスでは往々にして、こんな状況に追い込まれることが少なくありません。

しかしその状況を嘆いていても、何も変わりません。
必要なのは何をするか?

「駒がいまどう配置されているのか、それを変える術はない。大事なのは、次の一手をどう指すか、だ」

これは「PIXAR〈ピクサー〉世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話」(ローレンス・レビー著)にあった言葉です。

本書は全てCGで描いた3D映画で映画界に革命を起こしたピクサーのCFOである著者による本です。今でこそピクサーは超優良企業ですが、スティーブ・ジョブスに声をかけられたレビーがCFOに就任した頃のピクサーは、将来展望がないまま売上もほとんどなく、ジョブスの私財により何とか命脈を保っていました。

この言葉は当時、このピクサーのお金周りを任されたレビーの気持ちを代弁した言葉です。

過去は何も変えられません。
大事なのは次の一手をどう打つか。
「いまやらなければならないこと」に集中するしかないのです。

決して諦めずに必死になって次の一手を繰り出していくうちに、状況が変わっていくことも多いのです。

常に、次の一手を考えましょう。

  

 

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サブスクモデルだった火縄銃

火縄銃は、戦国時代の新兵器だ。1543年に種子島に漂着したポルトガル人が火縄銃を売った時は二丁で現在の価格に換算すると1億円。実に高価だった。その後、火縄銃は日本各地で生産されるようになった。

この火縄銃に早い時期から目を付けたのが、堺の新興商人・今井宗久だ。武器商人として、諸国大名に火縄銃を売り歩いて儲けていた。

ある日、今井宗久のもとへ部下が駆け込んできた。

「宗久様、大変ですわ。火縄銃の値下がりで、一丁10万円じゃないと売れまへんわ」

当時、火縄銃の価格は下落の一途。戦国時代中頃になると火縄銃は一丁で60万円。安いものは5万円。大量生産のおかげである。
しかし宗久はのんびりと答えた。

「そやろなぁ。いまどき火縄銃なんて誰でも作れるしな」
「…儲かりまへんがな」
「心配あらへん。ちゃんと手ぇ打っとるがな。火縄銃を使うのに必要なのは、何や?」
「…火薬ですな」
「そや。その火薬な、うちらしか売れへんねん」
「は?なんでですか?」
「火薬は、硝石・木炭・硫黄を調合して作るやろ?硝石は日本にはない。中国からの輸入や。硝石の輸入はな。ウチら堺商人の独占や」
「はぁ。確かにそうでしたな」
「だからウチらは鉄砲を売るだけでのうて、『鉄炮薬』ちゅう火薬商品もセット販売しているわけや」
「先を見てますなぁ」
「それにな。ヨソの鉄砲を買うた御武家さんにも、『鉄炮薬』を売っているんや」
「さすが、宗久様や」
「火縄銃一発の鉄炮薬は、米一升分の値段や。まぁ3000円ってとこやな。火縄銃本体で10万円としてな。34発打てば火縄銃より高くなる計算や」
「34発なんてあっという間や。戦場では湯水のように火縄銃使うし、兵の訓練もありますな」
「そや。火縄銃を使う御武家さんが増えるほど、儲かるっちゅう寸法や」

宗久はお茶をすすりながら、ニヤリとした。

「実はな、火縄銃の価格が下がったのは、えらいチャンスやねん。『鉄炮薬』の使用量も増えるしな。本音言うと火縄銃なんてタダで配ってもええくらいや。ま、いやゆるサブスクモデルってヤツやな。儲けるのはこれからや」

 

【参考文献】
■「火縄銃・大筒・騎馬・鉄甲船の威力」(桐野 作人著、新人物往来社)

 

 

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修羅場をくぐり抜けた企業への贈り物

会社は、死活問題になるような修羅場に巡り会うことがあります。
しかしその修羅場をくぐり抜けた先には、素晴らしい贈り物が待っています。

たとえば、サウスウエスト航空。日本人にはあまり馴染みがありませんが、万年低迷が続く米国航空業界にあって常に高収益です。

サウスウエストは2019年まで47年連続で黒字でした。9.11で米国航空会社が軒並み赤字の中でも唯一黒字を計上したほど。そんな同社も、コロナ禍で航空需要が蒸発する異常事態には翻弄されました。売上なんと6割減、赤字31億ドル。

米国の航空会社はレイオフは日常茶飯事ですが、従業員第一主義で家族主義のサウスウエストは1967年の創業以来レイオフ(従業員の一時解雇)をしていません。しかしそんな同社も、2020年の年末には、社員に「レイオフの可能性がある」と事前通知するまで追い詰められました。しかし何とか耐え凌ぎ、社員の雇用を守り抜きました。

サウスウエスト航空がこのように「従業員第一主義」「家族主義」という強い企業文化を持つようになったのには、理由があります。

きっかけは、1967年に創業した時、就航前にライバル航空会社は次々と妨害工作を仕掛けてきたこと。まずライバル3社が「航空市場は飽和状態でもう1社の参入余地は全くない」と訴訟。地方裁判所と高等裁判所で裁判を2回戦ったが判決で敗れました。せっかく集めた出資金は訴訟費用で蒸発してしまいました。3度目の戦いとなる最高裁判所で判決は覆り勝利。しかしその後数年間、同社はアレコレと難癖を付けられ、似たような訴訟で苦しみました。

4年後、やっと就航できるようになりましたが、今度はお金がありません。再度資金調達するも、ライバルは出資の引受業者に圧力をかけつつ、就航に抗議の申し立てをしてきました。のちに同社・会長になるケレハーは顧問弁護士として、法廷で相手の弁護士12〜15人に対して1人で戦い続けて勝ちました。

そして1971年6月18日、サウスウエスト航空はついに大空に飛び立ちました。

この草創期の激しい法廷闘争は、社内で強い団結心を生みました。同社社員は毎朝ニュースを見る度に、「我々は生存をかけて戦っている」と実感。一つでも負けると破産です。「生存をかけて戦っている」という強い想いが、強い企業文化を生み出したのです。

共通の理想を実現するために一心に働くとき、人々の間に特別なきずなが生まれます。草創期の同社はまさにそうでした。サウスウエスト社員たちは固いきずなで結ばれ、何度も苦境に追い込まれながらもくぐり抜け、サウスウエストを他社が真似できない優れた組織につくり上げ、この過程で家族のような固い結びつきと強い企業文化が生まれたのです。

企業文化は過去の挑戦・成功・失敗・学んだ教訓を反映して、創り出されます。

サウスウエストのように創業期の修羅場を社員が一致団結して乗り越えた経験は「強い企業文化」という素晴らしい企業の財産になるのです。

現在、現場で修羅場の真っ最中にいる方々も多いと思います。

しかし一致団結してその修羅場をくぐり抜けた先には、「強い企業文化」という贈り物が待っているはずです。

 

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イノベーションを「技術革新」と誤訳するのは、もうやめよう


日本では、「イノベーション」を「技術革新」と訳しています。 日本の高度経済成長が始まった1958年の経済白書がきっかけに、この言葉が拡がったと言われています。

しかしこれはイノベーションの概念を正確に反映した訳ではありません。

100年前に「イノベーションこそが経済発展の原動力だ」と喝破し、イノベーションの源流となったシュンペーターは、「イノベーションとは既存知と既存知の新結合である」と述べています。

たとえば2007年に登場したiPhone。
iPhoneは技術面では革新的なことはほとんどありません。携帯電話、タッチパネルのiPod、インターネット端末という「既存技術の組合せ」です。しかしiPhoneのおかげでコンパクトデジカメ、電卓、地図、時計などが世の中から消え、かわりに実に様々な新しいサービスを生み出しました。世の中を大きく変えたイノベーションだったのです。

「iPhoneってイノベーションじゃないよ。だって何も新しくないじゃん」

という人は、「イノベーション=技術革新」という誤訳を頭から信じているわけです。こういう考え方をしていると、iPhoneのようなイノベーションがなかなか生まれませんよね。

しかしかつて日本には、次々とイノベーションを生み出していた企業がありました。 それはソニーです。

たとえばウォークマン。 元々のコンセプトは「再生専用の携帯カセットプレイヤー」でした。 しかし当時のカセットプレイヤーは、録音機能が必須でした。

「録音機能がないプレイヤー?売れるわけないよ」

…というのが大勢の意見でした。

しかし当時ソニーのトップだった盛田昭夫さんは、こう考えました。

「でも車に付いているカーステレオって、録音機能がなくても、私たちは気にせず使っているよね。車内でそうなんだから、屋外で音楽を聴く場合も、録音機能はいらないんじゃないかな」

実際に発売したら、累計4億台売れました。

ウォークマンもiPhone同様、技術的に新しいモノは何もありません。しかし「一人で音楽を聴く」というライフスタイルを生み出したイノベーションでした。

このようにイノベーションには特徴があります。事後的には理解できるのですが、事前には理解できないのです。

イノベーション前「できるわけないでしょ。もしかして頭悪いの?」
イノベーション後「ああ。あれね。俺も前から考えていたけどね」

もし「我が社には、イノベーションが必要だ」とお考えであれば、「技術革新という言葉は、社内禁止!」にするくらいの意識変革が必要なのではないかと思います。

 

 

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「鬼滅の刃」から学ぶ逃げるが最強の戦略

「鬼滅の刃」をコミックや映画でご覧になった方も多いと思います。
「鬼滅の刃」で最強ラスボス・鬼舞辻無惨は、圧倒的な強さを誇っています。
しかし私は、無惨の凄さは実は戦闘力ではなく、 窮地に追い込まれると恥も外聞もなく一目散に逃げることだと思っています。

潔さを重視する武士道に慣れ親しんだ日本人から見ると「卑怯者!」と思ってしまいますよね。しかしこれは最強の戦略なのです。

このことは、中国の兵法書からもわかります。

中国には様々な兵法書がありますが、共通するのは「戦わずして勝つこと」

戦わなければ損害は避けられます。それに今戦っている敵は、将来の味方かもしれません。そこで中国では武力(力)でなく策略(頭)で勝つために、長年かけて膨大なノウハウを蓄積してきました。

そんな中国の兵法書の中に、策略に特化した「兵法三十六計」があります。
様々な策略を6グループ36種類に分類しています。

実はこの兵法三十六計で36番目の「走為上」が、あの有名な「三十六計逃げるに如かず」です。

中国の兵法書には玉砕戦法はありません。「勝算がない時は戦うな」が基本です。凡庸なトップほど進むだけで退き方を知りませんが、中国ではそんな人物を「匹夫の勇」と呼び軽蔑します。

負けそうな戦いから逃げれば、勝てないが負けません。戦力も温存できます。

三国志の奸雄・曹操の勝率は8割といわれ、圧倒的な強者でした。ライバル劉備は勝率2割以下。曹操の勝因は三つありました。

①兵法書をよく研究していた
②負けた敗因を分析し同じ負け方をしなかった
③「勝てない」とわかると、ためらわずに即撤退した。

研究熱心で、同じ負けをせず、しかも負けそうになるとすぐ逃げる。曹操が強いわけですよね。

日本人は「逃げるのは卑怯」という考えを叩き込まれています。ですから神風特攻隊のような無茶な戦い方もやってしまいます。

中国人は、逃げるのは得意です。不利な状況ではまず逃げることを考えます。そして戦力を温存し、じっくり巻き返しを図ります。

どちらが良いかは、一概にはいえないかもしれません。「当たって砕けろ」で大勝ちもあります。しかし全軍玉砕もあるわけです。

日本人は、逃げることも選択肢の一つとして考えておくと良いのではないでしょうか?

 

 

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信頼関係が強いチームを育む

一日かけて掃除を終えたミキさん。そこへお姑さん登場。指でホコリをすくって一言。

「ミキさんのお掃除、カンペキね」

これで喜ぶ人は、あまりいないのではないでしょうか?
必要なのは言いにくいことでも率直、誠実に話し合える信頼関係です。

ベストセラー「1兆ドルコーチ」で、世界一のコーチであるビル・キャンベルの教えが紹介されています。ビルが重視したのも信頼関係でした。

大学のフットボールチームでコーチだったビルは、選手に親身になりすぎて冷徹になれず、12勝41敗。しかし39歳でビジネス界に遅い転身をすると、深い思いやりとコーチングスキルを持つビルの強みが一気に開花。シリコンバレーのいくつかの会社でCEOを務めました。成功したビルはその後、無給で様々な会社で経営幹部のコーチを行うようになりました。

ビルにとって信頼は常に最優先かつ最重要。信頼とは約束を守り、誠意を尽くし、率直であり、守るべき秘密は守ることです。

ミキさんとお姑さんの間にはかなり感情的なしこりがありそうです。

しかし信頼関係があるチームではお互いに安心して自分の弱さを見せられますし、意見の相違が生じても感情的なしこりはあまり残りません。信頼があれば、少々の意見の相違があっても安心して相手に任せられます。これこそが最高のチーム。だからチーム作りでは何よりも先んじて、信頼を構築しなければいけません。

コーチングで厳しいことがいえるのも、信頼関係の賜物です。ビルは常に100%正直にありのままを話し、厳しいことも率直に臆せず伝え、相手にも率直さを求めました。

部下の力を育てて組織が成果を生み出す上で、コーチングは最有力な方法です。ビルのコーチングの方法は他の人でも学んで実践できるものがほとんどです。

ビルはコーチングを受け容れられる「コーチャブルな人」だけをコーチしました。コーチャブルな資質とは①正直さ、②誠実さ、③あきらめずに努力をいとわない姿勢、そして④常に学ぼうとする意欲です。コーチングでは、通常のビジネスよりもはるかに赤裸々に自分の弱さをさらけ出す必要がありますが、人は自分の欠点を話したがりません。だからこそ、正直さと謙虚さが必要になるのです。

一方でコーチングを受け容れるには、自分に残酷なまでに正直である必要があります。ビルはウソつきは絶対に許しませんでした。ウソつきは他人だけでなく自分にも不正直。だから成長できないのです。

あなたのチームは、信頼関係を築いているでしょうか?

 

 

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今こそ、マズローから学べ

「欲求段階説」で有名なマズローという心理学者がいます。マズローは20世紀後半の心理学を作り直して「人間性心理学」という新領域を打ち立て、様々な分野で数多くの著作があります。

そんなマズローは1960年代初頭、ある企業の仕事をきっかけに経営学と出会い、自分が研究してきた心理学が経営学で大きな可能性を持つことを知りました。「欲求段階説」はその時に生まれた考え方です。

当時の米国は、大量生産時代絶頂期。「モダンタイムズ」でチャップリンが演じたような大工場で労働者は指示されるがまま働いていた時代。労働争議も頻繁に起きていました。

マズローはこう考えました。
「『言うとおり働け』という大量生産のやり方は、ちょっと違うんじゃないか?人間はもの凄い潜在力を持っている。自己実現を目指す個人が組織の使命と一体化して本来持っている創造性を発揮できれば、企業は『完全なる経営』ができるはずだ」

彼のこの時の気づきは1962年に手記としてまとめられ、私たちは名著「完全なる経営」で読むことができます。このマズローの思想は、現代の経営理論に大きな影響を与えました。当時新進気鋭の経営学者だったドラッカーも「本書は私にインパクトを与え続けてくれる知恵の泉」と述べています。

本書で、マズローは36の前提(仮定)を示しています。その中で主なものを紹介します。

①人間は信頼できるものだ
②誰もができるだけ多くの事実について、できるだけ完全な情報を得るべきだ
③すべての人間が達成意欲を持っている
⑤全ての人間は、組織のどこにいる人でも、経営目標を共有し、その目標と一体化できる
⑥社員同士は互いに好意を持っていて、対抗心や嫉妬とは無縁である
⑭人間には耐える力があるし、一般に思われている以上に強靱だ
⑮進歩的な経営管理の下では、人間は向上しうる
⑯人は消耗品と感じるよりも、重要で必要とされる有益な人間であると感じたがっている
⑳人は、ものごとを向上し改善しようとする
㉒人間は、モノではなく、全人格的に扱われることを好む
㉓人は怠けるよりも働くことを好む
㉔誰もが無意味な仕事よりも意味のある仕事を好む
㉕人間は無名の存在であるよりも、個性的で独特の存在である自分自身であることを好む
㉙誰もが公正・公平に評価されたいと望んでいる

彼の思想はマグレガーのX理論・Y理論、その後のドラッカーの思想、さらには1980年代に書かれた「エクセレントカンパニー」「ビジョナリーカンパニー」といった人間を重視する経営書にも大きな影響を与えました。

マズローに心酔したインテル社長だったアンディ・グローブは、OKRという経営手法を生み出しました。このOKRは創業2年目のグーグルで採用され、その後のグーグルの爆発的成長を支えました。

現代で最先端の組織といわれる「ティール組織」の運営ルールを見ると、マズローが考えた「36の前提(仮定)」がかなり取り込まれていることがわかります。

60年前に生まれたマズローの思想は、時間をかけて静かにビジネス界に拡がっています。マズローがいなければビジネスの世界は今とはだいぶ違っていたかもしれません。そのマズローは理論の発展を志していましたが、1970年に62歳の若さで他界しました。誠に残念です。

素晴らしい古典から学べることは、多いですね。

 

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失敗から学べない理由と、その対策


失敗は成功の早道です。しかし組織や人はなかなか失敗から学べません。そこで参考になる一冊が、「失敗の科学」(マシュー・サイド著)です。本書は人が失敗から学べない原因を深掘りし、失敗を活かす方法を示しています。

2世紀、ギリシャの医学者が「瀉血(しゃけつ)」という血液の一部を抜き取る排毒療法を広めました。当時最高の知識を持った学者が善意で生み出した療法ですが、現実には病弱な患者はさらに体力を奪われました。しかし瀉血は19世紀まで一般療法として続きました。医師達は患者が良くなれば「瀉血で治った」、患者が死ねば「瀉血でも救えない…。よほど重病だったのだな」と考え、1700年もの間、一度も治療法を検証しなかったのです。このように失敗が放置され学習しない現象がクローズド・ループ現象です。

心理学者フェスティンガーは、著書「予言が外れるとき」でこの現象が起こる理由を紹介しています。

1954年、フェスティンガーは「12月21日、大洪水で世界は終末を迎える」と予言する教祖が率いるカルト教団があることを知りました。信者たちは家族の反対を振り切り仕事を辞め、教祖と暮らしていました。

「予言が外れた後、信者がどうするんだろう?」と考えたフェスティンガーは、この教団に信者として潜入しました。

私たちは「そりゃ、信者達は霊能者は詐欺師だと非難して、元の生活に戻るでしょ」と考えがちですが、なんと信者たちは全く行動を変えませんでした。予言が外れた後、信者たちはこう主張したのです。

「我々が世界を救ったのだ! 神は我々の信心深さに感心し、第二のチャンスを与えた」

そしてさらに以前よりも熱心な信者になる者すらいました。
信念と異なる事実が出た時、人は次のいずれかの行動を取ります。

①事実を認め、信念を変える。
②事実を否定し信念は変えず、都合の良い解釈を作る。

①がなかなか難しいんですよね。「自分はダメだった」と認めるのを、人は怖がるのです。②を選べば信念を貫けます。信者はすべて捨てて教祖と暮らしていて、今さら後戻りできません。だから教祖を信じ続けたのです。

同じ事は、オウム真理教の一連の事件でも起こりました。

フェスティンガーは、この現象を認知的不協和と名付けました。
クローズド・ループ現象は、認知的不協和が引き起こすのです。

「瀉血?世界終末?ずいぶんと非科学的だよねぇ。私はそんなに騙されないよ」と思う私たちも、日々の生活で認知的不協和によるクローズド・ループの罠に陥っています。

「ケーキは今週4個目。でも自分へのご褒美。今日は特別♥」といって、太る人。
「タバコは身体に悪いけど、止めると体重増えるよね」といって、吸い続ける人。
「俺じゃなくて、アイツが選ばれた。これは絶対間違いだ!」といって、怒る人。

自分の信念を変えずに事実の解釈を変え、失敗から学ばない点で全く同じです。
私たちも、知らない間にクローズド・ループに陥っているのです。

かつて哲学者カール・ポパーは、こういいました。

「真の無知とは、知識の欠如ではない。学習の拒絶である」

「失敗は学習のチャンス」という組織文化が根付けば、非難する前に、何が起こったかを調査しようとします。

そこでマシュー・サイドは、いくつかの処方箋を提示しています。

■リーン・スタートアップで、売れるか否かを最初に検証する
■客観的な評価のためのランダム化実験(ABテスト)を行う
■プロジェクト実施前に、プロジェクトが失敗した状態を想定した上で「なぜうまくいかなかったのか?」をチームで事前検証する

人が失敗からなかなか学べないからこそ、失敗を前提に行動する必要があるのです。

 

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「副業」はサラリーマン起業の最強兵器だ

私は日本IBM社員時代、会社の承認をいただいて執筆活動を始めました。有り難いことに「 100円のコーラを1000円で売る方法」をきっかけに様々な仕事のご依頼をいただくようになり、ご依頼に対応するために退職して独立しました。独立は2013年7月ですので、8年間が経ちました。

あくまで結果論ですが、これは経営学で注目されている「ハイブリッド起業」を実践したものでした。

「ビジネススクールで学べない世界最先端の経営学」(入山章栄著)で、このハイブリッド起業のことが紹介されています。

ハイブリッド起業とは、会社勤務と並行して起業する考え方です。

「副業で起業?甘い考えでスタートアップを始めるな。起業して逃げ場をなくし自分を追い込むんだ」とおっしゃる方も、おられるかもしれません。

しかし著名起業家の中にもハイブリッド起業は大勢います。超有名どころでは、アップルの共同創業者スティーブ・ウォズニアック。アップル創業後、しばらくはHP社の技術者でした。

ハイブリッド起業では、起業リスクを軽減できます。これはリアルオプション戦略で説明できます。リアルオプション理論とは、「不確実性が高いと、小規模な部分投資が効く」のがポイント。

起業はそもそも成功確率が低いもの。会社を辞めて起業し、自分の時間とキャリアの全てを賭けると、リスクは非常に高くなります。特に日本では起業を失敗して会社に就職しようとしても、なかなか就職できないのも現実。家族が犠牲になる可能性もあります。

だから必要なのは、起業リスクを軽減すること。今の会社に勤めつつ副業として小さく事業を始めて失敗確率を下げれば、リスクは下がります。

入山先生はご著書で、スウェーデンで1994年にハイテク産業に就職した20歳〜50歳の男性44,613人について、その後の行動を追跡したデータを統計分析し、検証した研究を紹介しています。

7年後の2001年時点で、この44,613人のうち起業したのは5%弱の2,191人。うち966人が会社を辞めないハイブリッド起業。残り1,225人はフルタイム起業でしたが、このうち2割はハイブリッド起業経由。つまりハイブリッド起業は過半数でした。

また「ハイブリッド起業→フルタイム起業」の移行確率は、「会社勤め→フルタイム起業」の確率よりも38倍高い数字でした。さらにハイブリッド起業家が翌年もハイブリッドを続ける確率は54.9%。36.6%は翌年に起業活動をやめ会社の仕事に専念していました。

つまりハイブリッド起業経由ならばフルタイム起業へ移行できる確率が高く、ダメだった場合に元の仕事に戻れる、ということです。低いリスクで起業に挑戦できるのです。

同じことを、起業家であり投資家の田所雅之氏も著書「起業の科学」でおっしゃっています。起業せずに副業ならば、会社維持費は不要。起業のアイデアも余裕と好奇心を持って考えられます。逆に起業してからアイデアを練ろうとすると、早く形にしようとして近視眼的になったり、凝り固まった考えに固執しがち。スタートアップの強みである突飛さやクレージーさも失ってしまいます。

入山先生は、「ハイブリッド起業の研究はまだ初期段階。一般化は慎重になるべき」と述べています。一方で世界的に見て日本は起業が活発ではなく、開業率も低いのが現実。

昨今国内で増えている副業ブームは、起業の起爆剤になる可能性を秘めています。

このように考えると、「副業は収入の補完手段」と考えるのはちょっともったいないかもしれません。むしろ「副業は将来の起業への準備手段」として考えると、人生100年時代を見据えて様々な展望が開けてくるのではないかと思います。

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ベストセラーが生まれる仕組みから学ぶ、売れるビジネスの方法

私は有り難いことにベストセラーを何冊か書く機会をいただきましたが、一方で全く売れない本も書いています。実は評価が高くても、必ずしも売れると限りません。これって考えてみれば、不思議です。

「偶然の科学」(ダンカン・ワッツ著)を読んでいたら、その理由がズバリ書かれていました。 結論からいうと、人気作品になるには、作品の質も大事ですが、それ以上に「運とタイミング」が大切だということです。

ワッツは、あるソーシャルネットワークの協力を得て、こんな実験をしました。

まず会員1万4000人を8グループに分類。会員は無名バンドの曲を聴いて採点し、欲しい曲をダウンロードするようにします。この時、曲名とグループ内のダウンロード回数だけ表示されます。8グループが完全に切り離された状態で、各グループ内の曲の順位がどう変わるかを調べたのです。

つまり8つの仮想的な「パラレルワールド」を作り、それぞれの世界の順位変動を比べてみたのです。

順位が品質だけで決まるのならば、どのグループもほぼ同じ順位になるはず。 しかし結果は、グループ毎に順位はバラバラでした。ある時点で人気な曲はさらに人気になり、不人気な曲はさらに不人気になりました。また最高評価の曲でも1位になれない時もあり、最低評価の曲でも健闘することもありました。ちなみに高評価な曲は、低評価な曲よりも平均して順位が上でした。

これは、肌感覚にとても近い結果ではないでしょうか。

当初のわずかな優位の差が、時間経過で大きく拡がる状況を「累積的優位性」といいます。ワッツの実験でわかるのは、人気の差はわずかな人気のバラツキによる累積的優位性で決まるということです。

モノゴトの結果は一つの要因では決まりません。たとえばベストセラーを生むには、できる限り高品質の本を書くことは大前提。その上で、偶然と小さい行動の積み重ねと個々の相互作用により結果が決まります。

つまり運とタイミングが重要なのです。

現実の社会でも、最初の小さなランダムな変動が次第に大きくなり、長期的に大きな変動をもたらします。中国で蝶が羽ばたくと、海の彼方でハリケーンが発生するという、カオス理論の「バラフライ効果」にも通じる現象が起こるのです。
しかし人は、この「運とタイミング」をなかなか認められません。今があるのは「何らかの必然」と思い込んでしまいます。これは心理学者が「遅い決定論」と呼ぶ傾向です。

さらに「以前から結果はわかっていた」と考える「あと知恵バイアス」もあります。 ワッツは著書で、ある心理学者が実験で被験者に未来を予測させ、結果が出た後に再び面談した結果を紹介しています。多くの被験者は決まって、当たった予測は「自信があった」、外れた予測は「自信はなかった」と語りました。当たった結果だけは「前から分かっていた」とあと知恵で思い込むのです。

何かに成功した人が「私が成功した理由は、○○○と□□□だ」と語ることがありますが、これも「遅い決定論」と「あと知恵バイアス」の産物です。

このように私たちがなかなか過去を正しく評価できないのであれば、どうすればいいのでしょうか?

ワッツは「測定と対応に専念せよ」と提唱しています。

ファッション業界では流行を予測しますが、外れることも少なくありません。そんな中で、ZARAは流行予測を一切せず、「測定と対応」に専念しています。
繁華街など人が集まる場所に調査員を送り、人々が着ているものを観察させ、何が受けるか案を大量に出し、様々な色、生地、スタイルの商品を少量生産し店に届けて何が売れ何が売れないかを測定し、この情報を元に売れる商品の製造を拡大します。新しい衣料のデザインから全世界販売まで2週間で出来る仕組みを構築しています。

現代のビジネスでは、何が起こっているのかを察知し、即対応できることがますます求められているのです。

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情報コレクターを卒業し、時間を武器にせよ

仕事の成果をわけるのは、意志決定です。

そこで多くのビジネスパーソンは「意志決定を間違いなく行うには、情報は多いほどいい」と考えて大量の情報をかき集めます。そして問題を見つけると、さらに答えを求めて情報を集めます。

ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)の元日本代表であり、早稲田大学ビジネススクール教授の内田和成先生は、著書「仮説思考」で「経営陣から現場のビジネスパーソンまでが情報コレクターになっている」と述べています。

この方法でいくら一生懸命に頑張っても、なかなか答えが出ません。
そして時間切れで、手遅れになります。
現代は時間勝負。これでは致命傷です。

過度に頑張らなくても意志決定スピードを上げれば、ビジネスのスピードは一気に加速します。そのための方法はいくつかあります。

数十個の選択肢があれば、そのうち最も正解に近いと思われる2−3個を「答え」と仮説を立てて、検証する「仮説思考」もその一つ。

鍛錬を重ねた剣の達人は、相手の刹那の気配(観察)で攻撃を察知(情勢判断)し、瞬時に抜刀し相手を斬ります(行動)。この動きを組織でも行えるように、社員同士の以心伝心と阿吽の呼吸を重視して、「個の力」を「組織の力」に変える「OODAループ」もその一つ。

戦いで何よりも大事なのは、「スピード」、つまり時間を制すること。スピードがあれば圧倒的に強い敵にも勝てます。いまや時間はヒトモノカネにつぐ第四の経営資源なのです。

「時間」という経営資源はますます希少になります。
時間を武器にできる方法論を、組織に定着させていくことが必要なのだと思います。

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失敗の凄い力「累積淘汰」

進化生物学者リチャード・ドーキンスは著書「盲目の時計職人」で、こんな例を紹介しています。

猿がランダムにタイプライターの鍵盤を打ちシェイクスピアのハムレットの”Methinks it is like a weasel”という一節(28文字)を打ち出すにはどれ位の時間がかかるでしょうか?

この時間は計算可能です。
鍵盤の文字数は英字26文字と空白1文字の計27文字。鍵盤を28回ランダムに叩くと、27の28乗(=およそ10の40乗)の組合せができます。つまり10の40乗の組合せの中で、1つだけが正解になります。

猿が鍵盤を叩くのは遅いので、代わりに毎秒44京回の計算ができる世界最速スーパーコンピューター「富嶽」を使って鍵盤を叩くのを超高速シミュレーションしてみても、宇宙誕生から現代までの時間138億年をさらに1億倍した膨大な時間が必要です。

ここでドーキンスは累積淘汰の仕組みを応用してみました。
まず猿が打つようなランダムな文章をパソコンで自動的に生成するプログラムを作成しました。ここで一工夫。プログラムでランダムに文章を作るたびに毎回チェックし、目標の一節に少しでも近いものだけ選び、残りは排除。残った文章にランダムな変化を加え続けてチェック…という作業を続けたのです。

第1世代の文章は、WDLTMNLT DTJBKWIRZREZLMQCO P
全く意味不明です。

第10世代の文章は、MDLDMNLS ITJISWHRZREZ MECS P
まだまだ意味不明。

第20世代の文章は、MELDINLS IT ISWPRKE Z WECSEL
やや似てきました。

第30世代の文章は、METHINGS IT ISWLIKE B WECSEL
だいぶ似てきたました。

第43世代の文章は、METHINKS IT IS LIKE A WEASEL
ここで一致しました。

ドーキンスが使ったのは1980年代の旧式パソコンとBASICという古いソフトですが、結果はわずか30分で出ました。

こんなに速く完成できたのは、各世代毎に行った選択を記憶させ、次世代へ、また次世代へと繋いでいく「累積淘汰」の仕組みを組み込んだからです。

生命が単細胞から複雑な人類に進化したのも、累積淘汰のおかげといわれています。突然変異で様々な個体が生まれ、その中から環境に合う強い個体が自然淘汰で残る、という選択のプロセスを積み重ね、まるで知性がある創造主が作ったかのように生命は急速に進化したのです。

この累積淘汰のカギが、「失敗して、その結果から学びを蓄積すること」なのです。

人間社会も同じです。映画「ハドソン川の奇跡」は、ニューヨーク上空でトラブルに見舞われた航空機がハドソン川に不時着水し、乗員乗客全員が無事に生還した実話です。トム・ハンクスが演じる主人公のモデルになった機長は、こう語っています。

「我々が身につけたすべての航空知識、ルール、操作技術は、どこかで誰かが命を落としたために学ぶことができたものばかりだ」

失敗から学び続けることで、長い時間で見ると実に大きな差が生まれるのです。

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読書の価値

最近、改めて気付いたことがあります。成功した起業家や会社の経営層にいるビジネスパーソンと話す機会が多いのですが、彼らの多くは熱心な読書家なのです。実に多くの本を読み、仕事に活かしています。

彼らがビジネスパーソンとして成功した1つの要因は、読書家だからです。

学びの深さという点では、現場のビジネスでの学びが断トツ一番。しかし自分一人で経験できる量には、限界があります。

しかし自分一人で経験できる量には、限界があります。

読書は、著者が得た学びを短時間で疑似体験できます。
こう考えると、読書は学びのコスパが極めて高い方法です。

しかし現場で得られる深い学びは、言葉にできない「暗黙知」。
一方で本に書かれていることは、言葉で表現できる「形式知」。
本では文字にする過程で、どうしても貴重な暗黙知が抜け落ちます。
そこで重要なのが、深い暗黙知(=学び)が感じられる良書を選ぶこと。

しかし深い学びが得られる良書は、意外と少ないのです。「ベストセラーだから良書」とは限らないのも、なかなか難しいところ。読書では二度と戻らない自分の貴重な時間を投資するのですから、選書がカギです。

そこで役立つのが、目利きのセレクションです。

かのビル・ゲイツは、読書家として昔から有名です。今はGatesNotesBooksというブログで読んだ本を紹介したり、著者と対談しています。

GatesNoteBookで紹介されている良書には邦訳された本も多いので、このようなオススメ本から選ぶのも1つの方法です。思わぬ掘り出し物もあったりします。

私もMBA50冊シリーズで、本をオススメすることが多くなりました。
良書を厳選し、お伝えしていきたいと思います。

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「会議ばかりで仕事できない」というマネジャーの勘違い

私が会社員だった頃、同僚の新任マネジャーがボヤいていました。

「朝から夕方まで会議ばかり。自分の仕事がぜんぜん出来ないんですよね…」

ミーティング、風当たりが強いですよね。
「会議は時間の浪費」と言う人もいます。

経営学者のミンツバーグは29名のマネジャーに丸一日張り付き、観察した結果を「マネージャーの実像」という名著にまとめています。

ミンツバーグが観察したマネジャーは、誰もがこんな感じで仕事をしていました。

朝9時28分。スズキ部長は自販機コーナーでヤマダ君に声をかけ、客先トラブル状況について二言三言交わす。デスクに戻り、秘書のアベさんと一緒に書類の山と格闘。デスクの前を通りかかるトベ君をふと見つけ、「トベ君、あの件は保留ね」と指示。15秒後、アベさんと向き合い「さあ続けよう」。そこに人事のノナカさんが来て、以前指示した件の報告を受ける。数秒後、アベさんとの作業に戻る。すると今度は部下のシマさんが来て「A社さん受注です!」とガッツポーズ。スズキ部長は「グッドジョブ!」とハイタッチ。ここで9時35分。あっという間に7分経過。

マネジャーたちは時間に追われ、細切れ時間の中で仕事を続け、次々来る人たちと話し、時に指示を出しています。多忙な業務をこなし、様々なコミニケーションを繰り返して情報を集め、意志決定しています。

実はこの慌ただしい電話・会議・メールなどのコミュニケーション自体が、仕事そのものなのです。

マネジャーの仕事の多くは、情報やノウハウ提供。言い換えるとマネジャーは組織の情報中枢なのです。

こう考えると膝を交えたミーティングは、実はマネジャーにとって仕事を遂行する貴重な手段であることがわかります。

ミーティングを駆使し、圧倒的な競争力を生み出す会社もあります。


アイリスオーヤマはコロナ禍でいち早くマスクを大増産し、業績を大きく伸ばしました。 迅速対応できた要因の一つは、ミーティングによる意志決定の仕組みです。

多くの企業では、現場からの新商品開発の提案を経営陣が承認するのに数ヶ月かかります。アイリスオーヤマは、毎週月曜に丸一日かけて行う新商品開発会議で、すべて決めます。社長を含む経営陣、開発、営業、広報、物流の全責任者が集まり、開発メンバーの意見を元に細かい部分までその場で話し合って決定。全員が週5日のうち1日拘束されますが、ここで毎週50案件の可否を即決します。結果、圧倒的スピードで商品開発が進むのです。

「ミィーティングばかりで仕事できない」というマネジャーは、厳しい言い方をすると、マネジャーになる前の担当者意識が抜けず、貴重な時間をムダにしているのかもしれません。

むしろミィーティングを情報伝達・ノウハウ提供・意志決定の手段として戦略的に活用すれば、自分が任された組織の生産性は飛躍的に向上するはずです。

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会社のビジョンは、トップが作っても動かない

私たちは「会社のビジョンはトップが作り、社員に申し伝えるもの」と思いがちです。

しかし現実には、「トップが時間をかけて作ったビジョンが、現場社員にまったく知られておらず、実行もされない」ということも多いですよね。

ピーター・センゲは世界的に読まれている名著「学習する組織」の中で、「ビジョンはトップが作って申し伝えるものという先入観は、捨てるべき」と言っています。

低迷するIBMのCEOに就任したガースナーは、IBMをコンピューターメーカーからサービス企業へ変革しました。サービス変革ビジョンが作られたきっかけは、ガースナーと社員との対話から生まれました。ガースナーは著書「巨象は踊る」で、その時のことを書いています。

IBMサービス変革のビジョンは、当時IBMの100%子会社だったISSC社の責任者だったデニー・ウェルシュの構想が元になっています。

ウェルシュは筋金入りのIBM社員でした。彼は子会社トップとして、顧客のITシステム構築からアーキテクチャーの決定、管理運用まで全て引き受ける企業を思い描いていました。「顧客にとって必要ならば、ライバル社の製品も採用すべき」との考えでした。

このウェルシュが描くビジョンは、ガースナーがIBMの顧客時代にまさに求めていたものだったのです。ガースナーはアメックスやナビスコなどの社長としてIBMユーザーでした。

一方でウェルシュは、IBMの企業文化の中でこのビジョンを実現する際の課題も把握していました。

ライバル製品を採用して保守も行うという文化は、当時自前主義を貫いていたIBMの文化とは相容れないものでした。さらにサービス部隊を営業部隊から切り離す必要もありました。営業部隊は、他社製品を少しでも販売する可能性があるサービス担当者が自分たちの顧客に接触するのを許さないからです。

またサービスの事業構造は、製品事業と全く違いました。大型のアウトソーシング契約では、初年度は開発費がかさんで赤字になります。売ればすぐ利益が出る製品事業とは全く異なり、営業の報酬制度や財務管理も大きく変える必要があります。

IBMのサービス変革は、子会社の独立した立場で独自のビジョンを持ち、小規模ながらもIBM社内でビジネスを展開して、サービスビジネスの本質を把握していたウェルシュの構想から始まったのです。

ちょうどこの時期、私はIBM社員でした。当時ガースナーがIBM全社員に送った「ISSCの取り組みは、IBMをサービス企業へ変革する可能性がある」と綴ったメールを読んだことを、今も覚えています。

このように企業を動かし社員に共有されるビジョンは、社員個人のビジョンとの相互作用から生まれるものなのです。

「それはIBMだからできたんでしょ」といわれるかもしれませんが、当時のIBMは、実に複雑な組織でした。たいていの日本企業は、当時のIBMほど複雑ではないと思います。

トップと現場社員が自由闊達に話し合い、地に足がついたビジョンを創り上げたいものです。

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従業員を解雇しなければならない時、知っておきたいこと

コロナ禍で多くの業界が厳しい状況に追い込まれています。
売上の半分以上が消える状況がいつまで続くかわからない…。従業員を数多く抱えている状況では、とても辛いですよね。
中には従業員解雇を決断したお立場の方も多いと思います。

しかし従業員の解雇は、ともするとそれまで大切に育ててきた企業文化を破壊することもあります。たとえば残った従業員は、同僚が解雇されるのを見て、会社に献身しようとしなくなることもあり得ます。

ここで参考になる本があります。
ベン・ホロビッツ著「HARD THINGS」です。米国シリコンバレーの起業家が、次々と襲ってくる悪夢のような数々の出来事を乗り越え、創業後8年目に16億ドル(1800億円)で自分の会社をHPに売却した経験を凝縮した本です。

本書に「人を正しく解雇する方法」という一節があります。

ハイライトをご紹介します。

スタートアップは失敗が多いものです。もともと財務基盤が弱いので、業績が落ちると社員を解雇しなければなりません。米国シリコンバレーは一見ドライに見えますが、彼らも私たちと同じ人間です。共に一生懸命働いた社員を経営者として解雇する立場になることは、つらいものです。

著者のベンは、合計3回の従業員解雇(レイオフ)を行い、最後には企業を復活させました。これはシリコンバレーでも珍しいことだそうです。その理由は、正しい方法で従業員を解雇したからです。

ベンは本書で、その方法を紹介しています。

①まず自分の頭をしっかりさせる。虎の子の社員を解雇するのは、トップには大きな重圧です。こんな時こそ、まずは動揺を鎮めることです。

②「解雇する」と決めたら、実行を先送りしない。実行までの時間は短い方がいい。情報が漏れれば社内に疑心暗鬼が広がり、さらにリカバリーが難しくなります。迅速に実行すべきです。

③解雇の理由を自分の中で明確にする。解雇するのは業績が悪いからです。会社で発生するあらゆることは、全てトップである自分の責任。まず自分の失敗を認めること。ありのまま伝えることが、失われる信頼を少しでも取り戻すことに繋がります。

④管理職を訓練する。マネジャーは自分で部下を解雇しなければなりません。彼らが部下に説明できるように明確にガイドすること。解雇される側の人は、解雇された日のことを細部に渡って必ず覚えています。会社として、それまで一緒に働いた仲間に向き合えるかが問われています。

⑤全従業員に説明する。このメッセージは解雇する人達向けだけではなく、会社に残る人達向けでもあります。会社に残る従業員も、トップが解雇する人達をどう扱うかを常に注視しています。

⑥常に皆の前にいること。「やっと解雇することを伝えた。疲れた。飲むか」これはNGです。トップは去って行く人たちと話すこと。荷物運びを手伝い、彼らの努力に感謝していることを伝えるべきです。

かく言う私も会社員時代、管理職として解雇する側に立ちました。率直にいうと、もう二度と解雇する立場には立ちたくありません。ただ解雇を言い渡す人も辛いかもしれませんが、生活基盤を失う解雇される側の人は、それ以上に辛いものです。

かつての古き良き時代の日本企業は終身雇用でした。残念なことですが、たとえコロナ禍が終わったとしても、今後は従業員解雇は日常的な光景になる可能性もあります。

そのためにも、現場の管理職も含め、多くのビジネスパーソンが正しく解雇する方法を知るべきだと思います。

そして従業員を解雇しなければならない状況を避けるには、常に会社を維持できる売上を上げ続けること。そのためにもマーケティングを学び、価値作りを実現して会社を発展させ続けることがとても大事なのです。

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2021年、サービスマーケティングが一気に拡がる

サービスには、コアサービスと補完的サービスがある

今年は、昨年来のコロナ禍の影響が本格的に様々なビジネスシーンに浸透し、サービスマーケティングの考え方が一気に拡がると思います。

サービスマーケティングでは、サービスを「コアサービス」と「補完的サービス」に分かけて考えます。 レストランにたとえてみましょう。

「コアサービス」とは、サービスを提供する際に不可欠なもの。レストランだと「食事」です。
「補完的サービス」とは、サービス提供に伴い補完的に発生するもの。レストランだとワイン、会計、予約、ウェイターなどです。最近はテイクアウトや宅配もありますよね。

競争が激しくなるとコアサービスは次第に似てきます。ここで差別化するのは難しくなります。レストランも、食事だけでは差別化がだんだん難しくなりますよね。

そこで補完的サービスによる差別化が必要になります。予約しやすくしたり、最近ではテイクアウトや宅配サービスで売上を確保するレストランも増えています。

補完的サービスは情報系の業務が多いので、ITを活用することで効率化が図れます。

サービスはITで大きく変わる

たとえばWeb経由で予約や受付ができれば、顧客にとっても楽だし、受付業務も効率化できます。私の家の近所にある耳鼻科では随分と前からWeb受付を始めていました。待ち順番もわかり、ムダな待ち時間もなくなるので、私はいつもこの耳鼻科に通っています。

一方でコアサービスは、多くの場合、物的設備が必要でした。しかしコロナ禍でデジタル化が一気に進み、ここでもIT活用が可能になりました。

たとえばレストランはお店があることが大前提でした。しかしウーバーイーツや出前館が普及したことで、宅配前提・キッチン施設だけで客席を持たないゴーストレストランが急増しています。

また講演・研修も会場で行うことが前提ですが、これも変わってきました。

たとえば朝活永井塾は、4年前に御成門近くで早朝7時から使える貸し会議室を見つけて「ここなら早朝から1時間を確保し、出勤途中に立ち寄っていただいて朝活できる」と考えたことがきっかけで、始めました。しかしコロナ禍で対面ができなくなり、Zoomに切り替えました。このおかげで全国から参加できるようになり、参加者が増えました。さらに昨年末にご案内した永井経営塾ではこれをさらに進め、月定額・完全オンライン化を実現しました。

このようにコロナ禍で進んだデジタル化は、サービスを提供するにあたって、大きな利便性も生み出しました。恐らくコロナ前の状態には戻らないと思います。

今年は、デジタル化によりサービスマーケティングが一気に拡がっていく年になると思います。

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いま、もの凄いチャンスがやって来ている

コロナの変異種拡大で往来制限がかかり、GOTOキャンペーンが禁止されるなど、年末に来て再び閉塞感が強まっています。資金繰りなど、厳しい状況の方もおられると思います。

一方でこんな時こそ、大きな新規事業のチャンスでもあります。

新規事業を成功させるポイントは…

①顧客が困っている課題があること
②他の誰も、まだその解決策を提供していないこと

①と②が何かを考え抜くことで、新規事業のタネを見つけることができ、「あるべき姿」を実現して困っている人達を助けることができます。これらは皆が困っている状況だとよく見えます。逆に万事順調な状況だと、なかなか見えません。

言い換えれば、皆が困っている状況は時代の大きな転換点でもあります。

さらに新規事業を成功させるには、

③今の「コンフォートゾーン」(心地よい状況)を脱し、
④新たなテクノロジーを活用すること

です。

コロナ禍で、私たちは「コンフォートゾーン」から否応なく叩き出されました。 一方でデジタル技術活用も一気に進みました。

10年後、「あのコロナ禍は苦しかったけど、それまで想像もしなかった新しいモノが沢山生まれた時期でもあった」と振り返るようになると思います。

その新しいモノを、自分たちで生み出すか?
あるいは他の人が生み出すのを見ているのか?
それを決めるのが、今のタイミングだと思います。

実は先週来ご案内している「永井経営塾」も、このように考えた新しい挑戦です。リアル対面講演・研修が出来なくなった一方で、オンライン会議が当たり前になったことでこのやり方が可能になり、Kadokawaさんとの協業で進めています。MBA必読書50冊シリーズを皆様の読んでいただいているベストタイミングで企画できたと思いますので、何とか成功させたいと思っています。

実に苦しい時期ですが、よく見ると、いまもの凄いチャンスがやって来ています。一緒に頑張って、この苦しい時期を乗り切りましょう。


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読み話し書く能力が必要な理由と身につける方法

最近痛感するのは、「聞き読み話し書いて数字で表現する」という基本的な能力を持っていないビジネスパーソンが少なくないことです。たとえば、

・メールで何を言いたいのかが、わからない。
・話していることにロジックがなく、まとまりもない。
・数字の裏付けがない。主観で書いている。
・人の話しをちゃんと聞いておらず、的外れの答えをする。
・そもそも書いた文章の意味を、読み取れていない。

これって随分と損をしていますよね。

ドラッカーが1954年に書いた経営学最高の古典「現代の経営」を読んでいたら、まさにこのことが書かれていました。かの国でも昔から同じ状況のようです。

—(以下、引用)—

経営管理者は人を操ろうとしてはならない。一人ひとりの仕事について、動機づけし、指導し、組織しなければならない。そのための唯一の道具が、話す言葉であり、書く言葉であり、数字の言葉である。

仕事の成果は、聞き、読み、話し、書く能力にかかっている。

経営管理者に必要なスキルのうち今日の経営管理者に最も欠けているものが、この読み、書き、話し、数字で表す能力である。

経営管理者は、話し言葉や書き言葉によって人を動機づける能力がなければ成功しえない。

—(以上、引用)—

現代人は、命令するだけでは能力を発揮しません。心の底から納得し、内発的な動機付けを持って自ら動くようになれば、放って置いても大きな能力を発揮します。

そのために人の上に立つ人にとって必須なのが、この「聞き読み話し書いて数字で表現する」なのです。

逆に考えれば、地道に「聞き読み話し書いて数字で表現する」能力を身につければ、人の上に立った時に大きな武器になります。

ドラッカーはそのための方法も紹介しています。

—(以下、引用)—

それらの能力は若いときにこそ学んでおかなければならない。

自らの考えを表現する方法、言葉とその意味、文章を書くことを教えることである。

自らの論文についての口頭による説明ほど、若い人が経営管理者になるための準備として有効なものはない。ただし卒業直前の一回だけでなく、常時行わせる必要がある。

—(以上、引用)—

つまり内容をチェックする相手を立てた上で、文章と口頭によるアウトプットが有効だということです。

ドラッカーは「若いときにこそ学ぶべき」と言っていますが、これは現役ビジネスパーソンが能力を鍛える上でも、役立つ箴言だと思います。


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売れるヒントは、そこにある

「売れるヒントが見つからない」
「ウチの強みを活かせないか」

…と悩む人、多いですよね。

ヒントは私たちのすぐ身近にあります。

アート引越センターの創業のきっかけも、身近な観察でした。今年9月、日本経済新聞「私の履歴書」で、アート引越センター創業者の寺田千代乃さんがその時のことを書いています。

1970年代前半、日本はオイルショックの不況の真っ直中でした。
当時寺尾さんの会社は、アルミ製の箱車でオムロンの精密機器輸送の下請けをしていましたが、仕事は減る一方でした。

ある日、家族で車に乗って走っていると、夕立が来ました。道に止まっていたトラックから運転手が降りて、急いでシートをかけています。荷台にあるのは引っ越し荷物のようで、少し濡れています。そこで気がつきました。

「ウチのトラックはアルミ箱車なので、荷物は濡れない。オムロンの仕事は平日限定。引っ越しは週末だから箱車は使える」

ちょうどその頃、新聞で「引っ越し貧乏」という見出しの記事がありました。大阪だけで引っ越しで100億円の出費があることがわかりました。住民基本台帳人口移動報告というデータで調べると、市町村をまたいで移動する人は年間800万人います。

実に多くの人が引っ越ししています。鉱脈を探り当てたのですね。

そこで新たに引っ越し事業を始めました。

当時はスマホがないので、引っ越ししたい人は電話帳で引っ越しを調べます。
そこで電話帳で最初に乗る名前を考えました。 50音順ではひらがなよりカタカナ、文字より「ー」(長音)が先に載ると分かりました。

そこで「アー」で始まる社名を考え、「アート引っ越しセンター」になりました。

その後、「荷造りご無用〜0123」のアート引越センターの躍進は、ご存じの通りです。

会社目線を一旦外して、消費者目線で日常を見てみると、消費者の「お困りごと」は意外と見つかるものです。

たとえばニューヨークのレストランでは屋外で食事が推奨されていますが、ニューヨークは極寒。夜に野外で食事なんてツライですよね。そこである日本食レストランでは、屋外にコタツを並べています。これがニューヨーカーには大人気で予約待ちだそうです。

いま、コロナ禍で「お困りごと」が急増しています。そんな時こそ、自分たちの強みを活かして解決策を考え、新規事業を立ち上げるチャンスなのです。


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「成長よりも生き残り」のセコマから学ぶ新たな企業のあり方

コロナ禍で多くの企業が苦しんでいます。
日本では急速に少子高齢化が進み、環境問題もそろそろ本当にヤバイ状況です。

こんな中、我々はどうすればいいのか?

そのヒントがありました。日経ビジネス2020.12.07号冒頭にある、北海道のコンビニチェーン・セイコーマート(セコマ)の丸谷智保会長へのインタビュー記事です。

セコマは商圏人口900人の過疎地(しかも4割が購買力が小さい高齢者)にも出店しています。こんな地域で店が成立するのは、他に店がなく同じ人が毎日何度も会に来るからです。当然店の利益率はギリギリのところもありますが、丸谷会長は「過疎地では収支トントンで十分」と考えています。

—(以下、抜粋)–

そこに住む人の生活を守らなければ、(農業/林業/水産業などの)生産空間も守られなくなります。「地域おこしよりもまず地域残し」といつも言っているのですが、サステナブルな体制をつくることで地域を残さないと、地域振興のローカルプロモーションもできなくなります。

だから店が必要とされているならば、できる限り応えたい。そのためには要するに赤字にならければいいのです。

…どんなときも地域のため、お客様のためを最優先していれば、商売は続けられると私は考えています。

—(以上、抜粋)—

過疎化が急速に進む北海道で、いまやセコマはなくてはならない生活インフラとなっています。

今後も、想定外の大変動はますます増えていきます。
世界全体で豊かになった21世紀は、20世紀のような経済成長は見込めません。

こんな時代こそ、「成長よりも生き残ること」が何よりも大切です。

「お客様のため」を最優先し、北海道に特化して地域の顧客に密着するセコマは、地域の顧客にとって必要不可欠の存在になっています。

セコマは「21世紀にあるべき企業は何か」という問いに、一つの答えを示していると思います。

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10〜20年前に学んだマーケティングの多くは、既に古い


「マーケティングを20年以上やっている」という人、多いのではないでしょうか? かくいう私もそんな一人です。

しかし10〜20年前のマーケティングの常識は、現代では古くなっているものが少なくありません。たとえば、多くのマーケターの常識は…

・顧客ターゲットを絞り込め。マスマーケティングは大量生産大量販売時代の遺物。
・ご贔屓の得意客を大切にして、顧客生涯価値を最大化せよ。
・マーケティングはSTP+4Pで考えろ。

しかしこの通りにしても上手くいかない経験をしている人も多いと思います。

たとえば顧客ターゲットを絞り込んで「全然売れない」…よくありがちですよね。これは知らない間に大きな機会損失をしているのです。むしろ商品やサービスの性格をカッチリと決め、目立たせた上で、顧客に併せてきめ細かくカスタマイズして「いつでも誰にでも販売します」という戦略の方が成功します。(これは11月10日の当ブログでも書きました)

また行きつけの店があっても、もっといい店が出来れば店を変える人は多いと思います。お客様も同じです。「むしろ非顧客層やライトユーザーを含む幅広い顧客にアプローチすることで、成功確率は高まる」という考え方も生まれています。

また、今一番マーケティングでホットなのはサービスマーケティングです。実はこの分野は米国も追いついておらず、北欧が一番進んでいます。このサービスマーケティングでは、マーケティングミックスを4Pでなく8Pで考えます。

またコトラーが提唱するマーケティング3.0では、いまやSTP+4Pだけで考えても消費者は買わない時代なので、社会課題を考えようとします。SDGsやCSVもこの流れにあります。

時代がもの凄い勢いで変わっているので、マーケティングも進化し続けています。結果、ほんの10年でマーケティングの考え方も陳腐化します。ちなみにコトラーは来年「マーケティング5.0」という本を出すそうです。コトラー先生、速過ぎ…。

ただし現行理論は必ずしも完全に否定されません。
多くの場合は、現行理論は新理論に吸収されていきます。
世の中は弁証法的な議論を通じて、進化を続けているのです。

だから現状に安住せずに、最新理論を常に学び続けて活用すれば、半歩先んじて勝てるようになります。

これはこれから新たにマーケティングを学ぶ人にとっては、むしろ大きなチャンスだと思います。

逆に考えると、影響力が大きいマーケティングのベテランほど最新理論を学ぶ必要があるのかもしれませんね。


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「はじめに」を書くのは最初?最後?

ビジネス書編集者でこうおっしゃる方が、意外とおられるようです。

「まず企画段階で、著者に『はじめに』を書いてもらいます」

うう…。私は真っ先に落とされそうです…。
というのは、私が『はじめに』を書くのはいつも最後の最後なので。

今月出版した「MBAマーケティング必読書50冊」もそうでした。 「はじめに」を書いたのは、50冊分の紹介を全て書き終え、「おわりに」も書き終えた後。 しかも何回も書き直しました。

今回の「はじめに」は合計4ページ。
後半2ページは2〜3回の書き直しでほぼ固まりました。
大変だったのが、最初の2ページ。ゼロから書き直すこと5〜6回。それでも決まらず、バージョンを2つに絞り込み編集者と何回も打ち合わせ。

「ヤバイ。決まらない。見切り発車か?」

…なんて考えも頭をよぎりつつ、また書き直し。

最後の文章は、第三校の校了時(3回目の校正を完了して、印刷機を回す直前)に決まりました。 快く「納得いくまで時間をかけてください」とおっしゃっていただいた編集の皆様には深く感謝です。

なぜこんなに「はじめに」で時間をかけるかというと、ビジネス書の場合、「はじめに」の出来次第で売れ行きが大きく左右されるからです。

書店で観察していると、店内をブラブラと歩くお客さんはこんな感じで本を選んでいます。

①面白そうな本を見つけて、手に取る→表紙やタイトルで判断
②パラパラとめくり「本の感じ」を見る→面白そうか否か、印象で判断
③「はじめに」にサーッと目を通す→著者と自分との相性を判断
④最初の十数ページにサーッと目を通す→本当に読み通せるか、面白いかを判断
⑤納得すると、レジに持っていく→ここでお買い上げ

つまり「はじめに」で本のエッセンスを訴求しないと③の試験をパスできず、落第(=買われない)です。

難しいのは、当たり前のことを書いてもスルーされると言うこと。

「マーケティングは重要です。皆さん学びましょう」

「はじめに」にこんなことを書いても、「当たり前だろ。おととい来やがれ」と言われるのがオチです。(もちろん皆さんは、こんな下品な言葉は絶対に口に出しませんが(笑))

ではどうするか?
「単純明快、意外性があり、具体的で、信頼でき、感情に訴求する物語」をわかりやすく訴求することが必要なのです。

ですのでいつも全てを書き上げた後に、本の内容を踏まえ、四苦八苦しながら「はじめに」を書き上げます。

今月出版した「MBAマーケティング必読書50冊」の「はじめに」も、そうして書き上げました。

果たして、狙い通りになったでしょうか?
発売から10日が過ぎて、読者の皆様からの声をドキドキしながら待っている所です。

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「デジタルって何?」というDX先進企業ニトリの似鳥会長

先週は、毎年参加している世界経営者会議でした。
世界のトップ企業の経営者が何を考えているか、生の声で聞くことができる貴重な場です。

ニトリの似鳥昭雄会長が登壇した時のこと。今回は2部構成でした。

第1部は、一橋大学の楠木健先生との対談。
ニトリはコロナ禍でも成長を続けています。要因の1つが、製造と小売に加え物流・貿易を連携させていること。ニトリの商品は95%が海外生産で、国内に届くまで2-3ヶ月分かかります。コンテナ量は年間17万個と日本一の規模で、大型荷物ではヤマト運輸に次ぐ規模です。そこで物流センターを自社で持ち、倉庫オペレーションに投資してきました。

加えてECにも投資。ニトリのアプリユーザーは通常の2倍買うので、アプリの年内目標は700万ユーザー、将来的にアプリ売上1000億円を目指しています。アプリユーザーの7-8割は店とアプリを使い分けています。

ニトリはこのように生産から顧客に届けるまで、デジタルで一気通貫のシステムを構築しています。まさにDXの先進企業ですね。

第2部は、日本経済新聞社 編集委員兼論説委員の中村直文さんとの対談。似鳥会長と中村さんは取材を通じて昔から既知の仲のようで、対談はリラックスした雰囲気でした。

冒頭、中村さんが『視聴者から「DX移行で一番大切なことは何ですか?」という質問が来ていますが…?』と似鳥会長に尋ねたときのこと。

なんと似鳥会長はこう答えました。

『DX?なにそれ?「デジタルなんとか」って、横文字言葉は難しくてよくわからないんだよ』

そしてこう続けました。

『よくわからないけど、お客様にとって何が大切なのかを考えることですよ。自分の立場に居続けると、お客様の立場で考えるのは難しいですね』

お話しを聞いていて、まさに「我が意を得たり」と思いました。

まさに昨今のDX狂想曲の中で見失われているDXの本質を見たからです。(ちなみにDXとは「デジタル・トランスフォーメーション」の略です。世の中では色々な形で定義されていますが、要は「テクノロジーを使って企業の経営のあり方を根底から変化させること」という意味です)

あたかもDXを魔法のように祭り上げる風潮に、私は危うさを感じていました。

DXはあくまでも手段です。

本来必要なことは、お客様にどんな価値を提供すべきなのかを徹底的に考え抜くこと。
そのための手段として、デジタル化が最も優れた手段ならば、活用する。
最初に考えるべきはDXではなく、「お客様にどんな価値をどのように提供すべきか」だと思います。

「デジタルなんとかって、よくわからないだよ」という似鳥会長こそが、DXの本質を掴んでおられると思った次第です。

 

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テーマ設定で、戦略の99%が決まる

様々な戦略立案に関わってきて実感するのは、「どんなテーマに取り組むのか」で、その後の戦略の成否がほぼ決まると言うことです。

いいテーマを設定できたときは、その後の戦略策定→戦略実施がサクサクと進み、狙い通りの成果が出ます。これが「筋がいい戦略」です。

しかしテーマ設定の筋が悪いと、戦略策定に苦しみ、戦略実施も苦しむ上に、成果がなかなか出ません。これが「筋が悪い戦略」です。

このテーマ設定で重要なのが、「問題意識」です。

いま、どんな問題に直面しているのか?
いまの状況は、どうあるべきなのか?
あるべき姿になっていない本当の原因は、どこにあるのか?
その原因は、どのようにすれば解決できるのか?

これらを考え抜くことで、よい戦略が策定でき、スムーズに実施策に展開でき、サクサクと実行して成果を上げることができます。

言い換えれば、よいテーマを設定するためには、自分自身が抱えている課題を明確にすることです。

いま自分自身が抱えている課題が、戦略の成否を決めるのです。

 

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ほとんどの人は少しの手間を惜しみ、読書で損している

人は自分の体験から、様々な学びを得ます。
しかし体験できる量には、限界があります。そこで役立つのが読書です。

読書による仮想体験は、自分の直接体験と比べて質は劣りますが、限られた時間内で圧倒的な量の学びを得られます。

「学び」という点で、読書は時間当たりのコスパはかなり高い投資です。

読書の学びは、ちょっとしたことで最大化できます。
心理学者アドラーは著書「本を読む本」という本で、そのヒントを紹介しています。一部を引用します。

「ドライブに行くまえに道路地図を調べるようなつもりで、目次を見るとよい。たいていの人は必要に迫られるまで目次を一瞥すらしないのはあきれる」(p.41)

「著者は読者にこれから読む本の種類をわかってもらうことが大切だと考えている。だからこそ手間をいとわず序文を書いたり、表題や目次にくふうを凝らす」(p.73)

私も本を書く時は、目次や序文、さらにタイトルや表紙の帯などは、編集者と相談しながらかなり時間をかけて作り込んでいます。

これらは本当に読んでいただきたい読者に本を届けるためのメッセージなのです。

しかし、目次や序文をあまりチェックせずに本を読み始める人は多いのではないでしょうか?
これらを見ないのは貴重な自分の時間をドブに捨てているようなものです。

私は本を読む際には、序文や目次、あとがきなどをかなり細かくチェックした上で、読み始めるようにしています。
ネット上の書評などもチェックします。ただネット上の書評は、本の内容を正確に紹介せずに思い込みで書いている場合も決して少なくないので、「信頼性は6−7割位だろう」と思いながらチェックしています。

しかしそれでも読み始めて「でもなんか違う」と思うことがあります。
その場合は、その時点でそれ以上読むのは止めます。
読書は自分のかけがえのない時間を使います。
時間を使って読んでも得られるものが少なければ、その時間とかける労力はムダになってしまいます。

「読書は時間投資」という意識は、大切だと思います。

 

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