経験がないからこそ、イノベーションを起こせる

今月の日本経済新聞「私の履歴書」は、日本でコンビニエンス・ストア・ビジネスを立ち上げたセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長です。

今日(2007/4/13)は1970年代前半の話でした。スーパーの新規出店に対して、地元商店街から強い拒否反応を示されるようになり、39歳で取締役に就任した鈴木会長が交渉の矢面に立っていた頃の話です。

当時、流通先進国米国へ渡米した際、セブン-イレブンに出会い、帰国後に調べてその潜在性に驚いた頃の様子が書かれています。

—(以下、引用)—

 これは相当な仕掛けがあるに違いない。日本で生かすことが出来れば、大型店との共存共栄のモデルを示せるはず。そう提案すると返ってきたのは社内外から「無理だ」「やめろ」の大合唱だった。

(中略)

 営業担当役員には「販売経験のない人間に何がわかる。経験がないから夢物語を言っていられるんだ」とまで言われた。だが私は逆に経験がない分、商店街の凋落を別の視点でとらえていた。

 小型店は明らかに労働の生産性が低かった。行政は「営業時間を夕方六時までに短縮」「日曜休業」といった指導を行い、それが生産性向上と従業員確保につながるとしたが、顧客の都合を無視して生産性が上がるわけがない。

 もう一つ感じたのは市場の変化だ。以前は開店と同時に売れ切れた目玉商品が売れ残るようになった。これからは必ずしも安い商品を並べれば売れる時代ではなくなる。

—(以上、引用)—

イノベーティブなことを始める場合、経験が邪魔をするということがよくあります。先入観と成功体験が邪魔をして、イノベーションの潜在性を無意識に否定してしまうのでしょう。

ただ、鈴木会長の場合は、常に事実を把握した上で客観的に分析し、現実的に対応していたので、仮に販売経験があったとしても、この営業担当役員のように必ずしもその経験が邪魔をすることはなかったかもしれませんね。

いずれにせよ、小型店の顧客サービスに大きな改善の余地があることを見抜き、かつ、1970年代前半という時期に商品の売れ行きから安売りの限界を読み取ったのは、素晴らしい先見性ですね。

明日からは、サウスランド社との交渉の様子が描かれるようです。既に様々な書籍やドキュメンタリーで描かれていますが、鈴木会長自らどのように語られるのか、楽しみです。

関連リンク:セブン-イレブン 覇者の奥義

走れば走るほど空気がきれいになる車

やや古い記事ですが、4月2日付の日本経済新聞の特集「地球が迫る新たな競争」で、トヨタ自動車の渡辺社長が「走れば走るほど空気がきれいになる車を開発しろ」と檄を飛ばしている様子が掲載されていました。

この記事を読んだ私の率直な感想は、「そもそも、エネルギーは酸化作用や核反応で生み出されるもの。酸素を出しつつエネルギーを生み出すのは夢物語ではないか?」というものでした。

しかし、翌日の同特集で、より詳しい説明が掲載されていました。ちょっと長めになりますが引用します。

—(以下、引用)—

次に求められるのは空気を「汚さない」だけでなく「きれいにする」エンジン。二五年に向けて日本の技術開発の方針を検討する政府のイノベーション25戦略会議は、二月の中間報告に光合成カー構想を盛り込んだ。植物の光合成を再現し、CO2をエネルギー源に走る車だ。一七年までに人工光合成を技術的に実現する目標を掲げた。

ただ「植物がなぜ光合成するのかということ自体、長い時間をかけた進化の結果であり、神のみぞ知るなぞだ」(ホンダ幹部)。政府の中間報告も「夢のあるもの」と表現する。「究極のエンジン」へひた走る企業を政府がどこまで後押しできるか、本気さが問われる。

—(以上、引用)—

素晴らしい! 実際、このような研究が検討されているのですね。

イノベーション25戦略会議のHPこちらのページの例4で、概要が書かれています。(ちなみに、イノベーション25戦略会議のHPは非常に面白いですね。後程じっくり読んでみようと思います)

このような可能性の芽を見つけ、トップが自らの思いを込めて檄を飛ばして進めるところに、イノベーションが生まれるのではないでしょうか?

二酸化炭素排出による温室効果で、今世紀末まで平均気温が2-3度上昇すると予想される中で、原因となる二酸化炭素をエネルギーとして消費するエンジンは、まさに人類を救うコロンブスの卵的発想です。全人類がこのエンジンを使用することで、温室効果を根本的にストップできる可能性があります。

実現は当然のことながら極めて困難ですが、全人類の叡智を結集する価値があるプロジェクトだと思います。

様々な形で、皆で応援したいですね。

大リーグ代理人、実は情報産業

今朝(2007/3/16)の日本経済新聞で、「松坂を導いた"情報産業"」という特集があります。

松坂投手がレッドソックスに入団した際に代理人を務めたスコット・ボラス氏の特集ですが、オフィスの地下一階はコンピューターの要塞です。

大型コンピューターと直結した衛星放送受信機が40台以上並び、米国内で放映される野球の全試合やスポーツニュースを録画の上、顧客選手のプレーを編集して交渉材料にしたり、選手がケガをしていないか観察したり、選手にアドバイスしています。

さらに独自のトレーニング施設を持ち、コンディショニングスタッフまで抱えているとのこと。

また、データベースでは過去現在すべての野球選手と、マイナーも含む約150人の顧客選手の成績や年俸を比べられます。

記事では、「日本では力任せの金銭闘争が強調されがちな代理人だが、真の姿は理知的な情報サービス産業なのだ」と結んでいます。

タフな交渉力は、圧倒的な情報量とその分析力に基いているということですね。

興味深かったのは、次の2点です。

  • 世の中にある既知の情報を編集していること。

ボラス社が集めているのは、テレビ(及び恐らく新聞や雑誌等のメディア)等の、既に皆が知っている情報です。これを丹念に体系立てて集めて、分析することで、球団との交渉材料にしています。

よく「秘密情報も90%まで公開情報の分析で読める」と言われていますが、ITを縦横に活用することでこれを実現しています。

  • 選手に対して「ワンストップショップ」を提供していること。

球団を渡り歩くクライアントである選手は、コンディションをベストに維持することは自己責任になります。このため、トレーニング施設まで抱えることで、非常に幅広いニーズに応える体制を用意しています。この背景には、情報を体系的に整備していることがあるのでしょう。

まさに発想次第で、ITが様々な分野で活用できるという好事例ですね。

欧州が打上げるソユーズを、NASAが利用する?

テクノバーンの記事によると、欧州宇宙機関(ESA)はソユーズロケット用の発射施設を建設中とのこと。

一方で、スペースシャトルは2010年7月で引退予定のため、米国の新ロケット開発が完了する2015年までの5年間は、ソユーズだけが米欧が利用可能な唯一の有人ロケットとなります。

ほんの20年近く前の冷戦時代に、ヨーロッパからソユーズが打上げられ、それを米国が利用することなど、考えられたでしょうか?

まさに"The World Is Flat."

世界のグローバル化を象徴する出来事だと思います。

サザエさんの時代の家族像を現代に

愛知県長久手町の「ぼちぼち長屋」のことが本日(2/25)の日本経済新聞に紹介されています。

介護を必要とする高齢者とOL、子育てファミリーが共に暮らす仕組みで、この暮らしにあこがれる希望者で長屋は常に入居待ちだそうです。

ちなみに、HPはこちらです。

これも一つのイノベーションですね。サザエさんの時代は当たり前だった家族像が、ここにあるのではないでしょうか?

このような仕組みが広がるといいですね。

知識は人類にとっての宝物、か?

何回か引用させていただいている日本経済新聞に連載中の江崎玲於奈さんの「私の履歴書」ですが、本日(2007/1/25)はアルフレッド・ノーベルの遺言が紹介されています。

「自然に対する基本的な知識は人類にとって最も価値のある宝物の一つであり、すべての人類がその恩恵に浴さねばならない」

この言葉は、ネットを介して知識を共有しコラボレーションを行えるようになった現代でこそ、改めて重要な意味を持ってきていると思います。

ただ、難しいのはどのような情報をシェアすべきか、ですね。

基礎研究を共有することは割とコンセンサスが得られているように思いますが、著作権等の権利が生じている場合の難しさは改めて言うまでもありません。

しかし、世の中のイノベーションを推進するためには、様々な障害を乗り越えて、出来る限り情報共有を行い、創発を促すことも大切だと思います。

ということで、私は、どちらかと言うと、プライバシーや機密以外の情報は出来る限り共有すべき、という考えが結構身に染みついているのですが、皆様はいかがでしょうか?

真空管をいくら研究しても、トランジスタは生まれなかった

日本経済新聞に連載されている江崎玲於奈さんの「私の履歴書」は、このブログでも何回か紹介させていただいていますが、とても参考になります。

昨日(2007/1/15)の記事も、イノベーションを考える観点でいい材料を提供されています。以下、引用します。

—(以下、引用)—

トランジスタはその革新性と影響力において二十世紀最大の発明といっても過言ではない。これを通じて、私が学んだことは、真空管をいくら研究しても、改良してもトランジスタは生まれてこないということ。すなわち、われわれはともすれば、殊に安定した社会では、将来を現在の延長線上に捉えがちになる。しかし変革の時代には、今までにない革新的なものが誕生し、将来は創られるといえるのである。ここでは、創造力が決定的な役割を演ずることはいうまでもない。

—(以下、引用)—

言うまでもなく、真空管とトランジスタは、材質も構造も全く違います。

真空管を改善し続けること、つまり現業を発展させることは、もちろん大切です。しかし、真空管の性能を極めても、集積回路には発展しませんし、マイクロプロセッサーも生まれなかったことでしょう。

革新は全く違ったところから生まれている、ということを再認識するためには、とてもよい話であると思います。

ナウシカが乗っていた飛行装置を作る試み

1月6日付の日本経済新聞「アート探求」で、八谷和彦さんの「オープンスカイ2.0」の試みが紹介されています。八谷和彦さんは、ポストペット等の作品でも有名です。

まさに「風の谷のナウシカ」でナウシカが乗っていた飛行装置ですね。

ちなみにブログで実機の写真を見ることができます。

また、初台のNTTコミュニケーションセンターでも3月11日まで実機が展示されているそうです。

アートとして飛行機を作ってしまう、という発想の自由さが素晴らしいですね。

動機も「作りたかったから作った」というシンプルで強いもの。

経済的な合理性がなくても、こういうシンプルな「思い」が大きなことを成し遂げていることが、世の中では多いように思います。

公開されている映像では、「飛んだ!」という感動を共有し、涙ぐむ観衆の姿も記録されているとのこと。こういう感動がいいですね。

八谷和彦さんの肩書きは「メディア・アーティスト」ですが、我々ビジネスマンでも、このような思いを持ち続けたいですね。

フラット化の2006年、イノベーションの2007年

あと数日で2006年も終わり、2007年を迎えます。

2006年はどうだったか、と、2007年どうなるか、ですが、

「フラット化する世界」 (トーマス・フリードマン)

この本に象徴されているのではないでしょうか?

日本では、この本に描かれているように、米国のサービス業務が地球の裏側にある国のコールセンターに移管される、といったような本格的なフラット化は、2006年にはまだ本格化していません。

しかし例えば、こちらに書きましたように、私の勤務先であるIBMでは、現地法人が全ての業務機能を持つ多国籍企業文化から、グローバルに適材適所で業務機能(人事業務、会計、等々)を各国に配置するグローバル企業文化への変化が、既に始まっていますし、日本IBMのオペレーションもその中にいます。

2007年からは、このグローバル全体でのフラット化の流れが、日本全体に波及していくことはほぼ確実です。

企業の立場では、この流れは単に「我々の現在の企業の業務が、低賃金の国に流れてしまう」というように捉えるべきではなく、「我々は、いかにこの流れを活用するか?」と考えるべきではないでしょうか?

実際、インドの高品質・低賃金の知識労働者を、自社の付加価値向上の手段として考えている欧米企業は多いようです。いたずらに欧米の考えに盲従する必要はありませんが、このような考え方が存在する、ということは、我々も意識しておいていいと思います。

今までうまくいっていた方法は、今日は通用しても、明日は通用しなくなる可能性があります。最近、色々なところで言われ始めている「イノベーション」も、このコンテキストの中で捉える必要があると思います。

一方で個人の立場では、このようにフラット化する世界の中で、いかに自分の現在の力が活かせるのかを本気で考える時期が2007年だと思います。

とは言っても、インドや中国の知識労働者に負けないように必死で能力向上に努める、ということが、必ずしも唯一の解ではないと思います。(もちろん、能力向上のための日々の努力は必要ですが)

むしろ、自分の現在の力や目指すべき目標の再定義が必要なのではないでしょうか?

その際に必要なのは「自分らしさは何なのか?」

必ずしも「最先端」や「一番」である必要はないと思います。

割と身の丈で「自分らしさ」を模索して成功している事例は、最近新聞の特集等でも多く取り上げられるようになってきました。また、日本という世界の中で最も洗練された社会と市場の中で生きてきたことは、それ自体がグローバルの中で価値になる可能性を持っています。

言い古された言葉ですが、「ナンバー・ワンではなく、オンリー・ワン」を目指したいですね。

ということで、2007年は、企業も個人も、いかにイノベーションするか、が、大きなテーマになると思います。もちろん、「イノベーションしない。現在路線を守る」というのも、よく考えた上での選択肢であれば、尊重すべきだと思います。

 

堅い話が続きましたが、仕事を離れて、私個人でいうと、2006年と2007年はこんな感じです。

●2006年、やってよかったこと(1)
まず合唱です。毎週土曜日夜の練習がいつも楽しみです。普通に生活していては決して知り合えない素晴らしい仲間と知り合い、今年、演奏会を4回行い、大きな感動を仲間とともに味わいました。

●2007年、やってよかったこと(2)
もう一つはブログです。これも世界が拡がりました。ブログを始めた3月頃は週1-2回書くのが精一杯でしたが、夏頃から毎日書くのがそれほど苦痛でなくなってきました。これからブログを始める人は、1ヶ月程度かけてテーマをじっくり考えた上でとにかく始めてみて、週1-2回書き続けるのをとりあえず2ヶ月続けることをお勧めします。

●2007年の個人的目標
・第6回目の写真展を開催したい
・写真集を出版したい (20年来の夢!!)
・マーケティングの本を出版したい
・うちの合唱団の単独演奏会を成功させたい
・そして何よりも、家族全員健康で、無事2008年を迎えたい

 

ということで、今年1年大変お世話になりました。
来年もよろしくお願いいたします。

 

(でも、明日も多分ブログを書きますが ^^;)

Tokyo Sweet Potato

真夏のヒートアイランド対策に、ビルの屋上にサツマイモを植える、という実験が行われました。

ITmediaの記事、「サツマイモが都会の暑さを救う? ビル屋上で効果確認」に詳しく紹介されています。一昨日(10/30)のNHKのニュースでも特集をしていました。

ここで使われているのは昔ながらのサツマイモですが、「水気耕栽培」という土を使わない栽培方法を使っています。栽培が簡単なサツマイモとこの技術が、「ヒートアイランド現象」という課題と結び付くことで、素晴らしいイノベーションの可能性を生み出しています。

屋根の表面温度は、剥き出しのコンクリートが55度に対し、サツマイモを植えた部分は28度になるとか。

ある期間のデータによれば、剥き出し部分は太陽からの正味エネルギーの90%が「顕熱」となって気温の上昇をもたらしたのに対して、サツマイモ栽培部分は太陽のエネルギーの80%をサツマイモで吸収したそうです。

また、100平方メートルの屋根でイモ約100キロを収穫できるそうです。

東京中のビルがこの対策を行うと、東京全体の夏の温度がかなり下がる上に、秋には東京23区産のサツマイモが大量に市場に出回ることになります。これって、結構面白そうですよネ。

技術的な大きな障壁はなさそうです。この技術を実装しやすいように出来れば、あとはどれだけ社会全体にこれを活用しようという空気が生まれるか、ですね。

環境に優しい面を表現したいいネーミングを考えると、一気に流行るかもしれませんね。

回転寿司もIT武装

先週の日曜日は、先々週に続き山登りをしました。

結構な運動量だったのでたんぱく質が欲しくなったためか、帰りに無性に寿司が食べたくなりました。

そこで、夕食は家の近所にある回転寿司屋に行くことにしました。

■ ■ ■

ここは回転寿司とは思えないほど美味しいので最近のお気に入りです。ただ、近所でも人気の店なので、1時間・2時間待ちは当り前なのが玉に瑕です。

そこでこの店は、携帯サイトで順番待ちの申込ができ、かつリアルタイムで順番待ち状況が確認できるようになっています。これはASPサービスを使ったもので、順番待ち表示用の端末レンタル料込で1ヶ月3万円のようです。

早速丹沢から携帯で順番待ちを予約、東名を走って、車を駐車場に止めて家には寄らずに、そのまま店に直行、すぐに席につけました。

■ ■ ■

色々と旬の美味しいネタを食べた後、おあいそになりました。

店の給仕の方が来て、重なった皿にササッと携帯端末をかざして、その場で伝票を印刷し、「これをレジに持っていって下さい」とのこと。この間、わずか数秒。

通常は色別に皿を一枚一枚数えるところです。

皿をひっくり返して見ても、普通の皿でした。それを見て、係りの人は笑いながら「センサーが入っているんですよ」

皿にRFIDが内蔵されているようです。「うむむ、ここまで来ているか」って感じです。

レジに行くと、既に清算が終わっていました。

■ ■ ■

この店は、お客さんがいつも100人位入っていますが、給仕の人は4-5人程度です。考えてみると、かなり省力化が図られているようですネ。

私が見ただけでも、

  • 予約待ち管理の手間は不要。しかも店で何時間も待つ必要がなく、顧客満足も向上
  • 清算の手間を大きく削減。皿を色分けで数える必要がなく、レジでの再入力も不要。(お客さんが100人いるのに、レジは1名でかつ他の作業と兼任しています)
  • 清算時の皿の枚数間違いや入力ミスもなくなっています

他にも色々とIT武装しているかもしれませんので、次回行ったときにまたチェックしたいと思います。

課題先進国・日本こそ、世界に貢献できる

東大総長の小宮山学長は、「日本は課題先進国である」として、「日本は世界に先駆けて課題に積極的に取り組み、継続的なイノベーションを通じて解決してきた。この経験は世界でデファフトになりうる」とおっしゃっています。

■ ■ ■ ■

今年始めのある講演で、いくつか具体的な例を挙げて説明されています。

  • 日本のGDPは世界の12.9%を占める一方、二酸化炭素排出はわずか5%
  • 米国のセメント生産エネルギー消費は、日本の1.8倍。米国が40年前の技術を使っているため
  • 1KWh発電時の窒素酸化物排出量は、米国4.8g/KWh、ドイツ1.2g/KWh、フランス7.1g/KWh。これに対して日本はわずか0.2g/KWh

これは、日本がモラルが高いから、という訳ではなく、海外エネルギーに頼っていて、かつ、狭い国土のために公害病のリスクが高かったためです。問題を解決しようと試行錯誤しているうちに、諸外国よりもずっと先に進んでしまっているのです。

「課題先進国 日本」は、21世紀地球の未来像でもあり、我々が直面している課題をうまく解決すればデ・ファクト・スタンダードになり、世界中に導入されていきます。

従って、小宮山総長は、

  • 今まで日本は産業競争力を追求して生活の向上を目指してきたが、これからは生活の質向上のために、それを支援する新産業育成を目指すべきである
  • つまり、日本は、内側に目を向けると世界に貢献できる。外国ばかりに目を向けるのは問題である

とおっしゃっています。

■ ■ ■ ■

今になって小宮山総長の講演を思い出したきっかけは、昨晩放映された「全国で認知症のドライバーが30万人いる」というNHKニュースです。

認知症で運転すると、人や車などが飛び出した際の反応が遅くなったり、どこを走っているか認識できなかったりして、交通事故にあう確率が高まります。そこで運転免許更新の際に、認知症検査を行うことも検討されています。

この認知症ドライバーの数は、高齢者の増加、及び核家族化による単身世帯増により、今後さらに増えていくことが予想されます。従って、運転免許更新のチェックだけでは、必ずしも解決できないと思われます。

一方で、最近は自動車も進化していて、自動的に縦列駐車をしてくれたり、いねむり運転の兆候を事前に察知して段階的にブレーキをかける仕組みも導入され始めています。

「認知症ドライバー急増」という新しい課題に対して、技術革新で対応することは可能なのではないでしょうか? (車のみの技術革新だけでなく、インフラ全体の見直しが必要になるかもしれませんが)

■ ■ ■ ■

日本は真っ先に高齢者社会に突入しつつありますが、他国も10年~30年程遅れて高齢化社会に突入します。特に一人っ子政策を続けてきた中国の高齢化は、地球全体でも非常に大きな問題です。

「認知症ドライバー増加」という一面だけを見ても、日本が将来的に世界に貢献できる可能性が見えてくる、と考えた次第です。

究極のWカップ公式球、実は広島産

今回のWカップの公式球、縫い目がないために、シュートやパスの精度が格段に向上しています。

実はこの公式球、広島の町工場で開発されたものです。

極秘裏に開発が進められ、開発者が目指していた『凹凸がなく天候にも左右されない「究極の球体」』が出来上がり、ベッカムやジダンからも「狙い通りに球筋を描ける」と絶賛でした。

ただ、カーンは「困ったことになった」と漏らしていたとか….。

FIFAからの公式球の採用内定通知は昨年夏だそうです。

詳しくはこちらの記事を参照下さい。

試作は失敗の連続だったそうですが、辛抱強く開発を続けた結果、実現できた「サッカー革命をもたらす」と言われるほどのイノベーション。日本的なモノ作りのイノベーションの典型例のように思います。

「ムーアの法則」/「ファンの法則」の将来は?

このたび、初めてビデオカメラを購入し、その低価格と高画質に驚いています。

ビデオカメラは高いというイメージを持っていましたが、最近はとっても安いのですね。昨年発売のMiniDVのビデオカメラを37,000円で購入しました。

重量400g以下と非常にコンパクト、室内でもクッキリ写りますし、画質も音も良好、使い方もとっても簡単です。

このような機種、5年前なら恐らく20万円以上していたのではないでしょうか?改めて、デジタル製品の価格性能比向上のすごさを実感した次第です。

これも、「半導体素子に集積されるトランジスタの数は、18ヶ月で倍増する」というムーアの法則に基づいた開発競争の恩恵ですが、今のところこの勢いは止まる気配が見えません。

また、韓国・サムスン電子の黄(ファン)社長も、「半導体容量は毎年2倍に増える」というファンの法則を提唱してNANDフラッシュメモリ容量増大を図り、実際に開発ロードマップもこれに従って製品を提供しています。

この指数関数的な価格性能比向上は、今後少なくとも10年間はIT業界では必然的なところがあります。

ムーアの法則とファンの法則が今後10年間続くと仮定すると、10年後には、CPUの価格性能比は100倍に、NANDフラッシュメモリーの容量は1000倍になる、ということになります。これを前提に考えると、未来を洞察する一助になるのではないでしょうか?

逆に、IT業界は、業界が生まれてから今まで、ムーアの法則を前提条件として動いています。これらの法則が技術的限界につきあたるかもしれない数十年後、…..IT業界に留まらず社会全体に大きな影響があるかもしれません。

人口減少と成長は両立するか?

成長するためには、人を増やさなければならないのでしょうか?

これに対する一つの答えとして、大塚商会・大塚裕司社長の談話が、本日(8/4)の日本経済新聞「回転いす」に掲載されています。

—(以下、引用)—-

  • 「人を採るよりムダを取る」。採用を拡大する企業とは一線を画す
  • 同社のムダとは「一人でできる営業を三―四人がかりでやっていること」。複写機やサーバー、通信機器を一括で売る事業モデルが強みだが、「一人で製品説明をこなす体制に切り換える」という
  • ここ五年間、社員数は横ばいのまま、一人当たり売上高を二五%増やした。「人が増えれば企業は成長できる、という根拠はどこにもない」と言い切る
  • 「多く採ろうとすれば、必ず人材の質が落ちる」が持説で、当面は現在の社員数を維持して生産性向上に力を注ぐ

—(以上、引用)—-

『「成長するために人を増やそう」という前に、やることがまだまだ沢山ある筈である』という意見には共感します。

この記事を見て、少子高齢化が進む日本がどうすべきか、という議論を思い出しました。

「日本が人口減少社会になったことで成長路線はあきらめるべき」という意見に対して、こちらに書きましたように、自民党の安倍さんは「断固として成長路線を取るべき」という立場です。

その際のキーワードが「イノベーション」と「オープン」でした。今後、政府が発信するメッセージに、このキーワードが増えてくると思われます。

私は特定政党を応援する意図は全くありませんが、「イノベーション」と「オープン」は、まさに今日本が求められていることだと思います。

大塚社長の談話に戻ると、従来は必要だったことが時間の経過とともにムダになってくることもありますので、常にムダがないかどうかを見直しムダを省くことで、生産性向上を図ることは必要なことだと思います。

ただ、ムダを究極まで取りきった場合はどうするのか、という議論もありますね。この辺りは試行錯誤が必要かもしれません。

関連リンク:安倍長官のオープン&イノベーション戦略

安倍長官のオープン&イノベーション戦略

日経ビジネス2006年7月17日号に、安倍内閣官房長官のインタビュー記事が掲載されています。

断固として成長路線を取るべき。不可能ではない。そのためのキーワードは二つ」(「人口減少社会となり、国として経済規模の縮小もやむなし」、との見方に対し) 

「一つめのキーワードはオープン。日本が人口減少時代になったことで消費者が減ると考えがちだが、それは国内だけを見た場合。視点をアジアに広げれば、状況は大きく変わる」

「もう一つのキーワードがイノベーション。政府は今後10年間、年率2.2%の経済成長を視野に入れて経済成長戦略大綱を推進している。しかし、3%、4%という成長を目指すことも不可能ではない。そのためにはイノベーションが不可欠。」

「イノベーションを起こすためには、ITをツールとして活かしていくことが大切。ITに絡む投資額のGDP比は米国3.5%、世界平均2.8%、日本2%。日本はかなり低い。IT関連投資を増やしていくことが必要」

安倍さんの主張は、近年私達ITベンダーが言い始めたことですが、日本全体の方針を決定する立場にある政権の中枢にいる人がこのような発言をしていることそのものに意味があります。

次期首相が誰になるかは現時点で分かりませんし、本ブログのテーマでもありません。ただ、次期首相は次期自民党総裁であることがほぼ確実ですし、安倍さんの意見は自民党内でもある程度のコンセンサスが得られていると思われます。

従って、安倍さんが主張するオープン&イノベーション路線は次期政権でも継承されると考えてよさそうです。

このような環境でITベンダーとしてどのような貢献が出来るのか?

日本を成長させるためには、従来の延長線上ではなく、さらに一歩先に行った新しい視点と考え方が必要なのではないでしょうか?

『歴史の必然の展開は君の理解を待ってはおらん!!』

ちょっとドキッとする言葉ですが、これは本日(2006/7/12)の日本経済新聞『私の履歴書』で、小松左京さんが書かれた言葉です。

戦後まもなく京大生になり、反戦・平和の主張に共感して共産党に入党したものの、活動が先鋭化していくので、小松さんが幹部に「少し待ってくれ。もっと共産主義を勉強したい」と言ったところ、幹部から返ってきた名言です。

60年近く前の言葉ですが、すごい言葉ですね。

まさに現代だからこそ、我々に大きな問いを投げかけてきます。戦後の混乱期と現代は、共通するところがあるかもしれません。

現代のこの言葉に対する反応は、人それぞれではないでしょうか?

Aさん「そうだ。世界の変化は必然だ。そもそも土台がどんどん変わっているのだ。理解にじっくり時間をかける余裕はない。自分で変化を起こすべきだ。走りながら考えるのだ」

Bさん「このような世の中こそ、しっかりとした理解が重要だ。何も分からない状態で物事を進めるのは、地図なしで行軍するようなものだ。まずはしっかり理解することが、第一歩なのだ」

Cさん「いやいや、じっくり理解している間に物事はどんどん変わっているのだ。そもそも理解の対象は過去の事象に基づいたものだ。理解は必要最小限に留め、そこから得られた洞察を元に行動を起こすべきだ」

Dさん「世の中が大きく変化していると言っても、本質的なモノは何も変わっていない。現在の理解を否定する必要は全くないのだ。現在のやり方をゼロ・リセットする前に、いまの延長線上でやるべきことがいくらでもある筈だ」

恐らく、どれが絶対的に正しい、ということはないのでしょう。

むしろ、自分の置かれた状況に合わせて自分の軸をしっかり定め、その軸をブラさずにこの波を乗り越えることが求められているのではないでしょうか?

優しい社会を実現する自販機

最近、コンビニが様々な役割を担い始め、社会的インフラになりつつあります。

一方で、全国200万台以上とコンビニ店舗数の50倍の数が設置されている自販機は、飲料水を売る本来の目的以外では、必ずしも社会的に十分に活用されていなかったように思います。

この状況が変わる可能性を示唆する記事がありました。

7月5日の日本経済新聞に、『自動販売機運営大手のエフ・ヴィ・コーポレーションが、心臓発作を治療する救命機器「自動体外式除細動器(AED)」付の自動販売機の設置を始める』という記事が掲載されていました。

AEDは電気ショックを与えて心拍を回復する機器です。

2002年、高円宮さまがスカッシュをプレイ中に心室細動により47歳の若さでお亡くなりになったのは記憶に新しいところです。心室細動が起こると血液が心臓から送り出されないためすぐに意識を失い、3分後に脳死が始まると言われています。高円宮さまの場合、救急隊が到着したのは発作後8分が経過しており、間に合いませんでした。

これも現場にAEDがあれば助かったと言われています。当時はAEDの一般使用は規制されていましたが、この事件が契機になったようで、2年前に規制が緩和され誰でも使えるようになりました。心室細動は発作が起きて3分以内に対応しないと間に合わないため、最近では、都営地下鉄等、人が集まる公共性が高い場所で設置が始まっています。

AED付自販機は一台100万円程度で、一般の自販機の2倍程度の価格とのことです。心臓疾患を抱える患者だけでなく、高齢者にも需要が高いと見ており、初年度1000台の設置を目指すそうです。

病院外で心臓発作で死亡する人は年間35,000人にものぼりますので、社会的な価値は非常に高いですね。

自販機は、

  • 全国くまなく200万台以上が設置されている
  • 電力が供給されている
  • 外部環境に関わらず温度を一定に保つ仕組みを持っている
  • 構造が堅牢である

 

という特徴を持っていますので、他に例えば災害対策等、様々な分野に応用が利きそうです。

このように、社会の問題解決を志向し、かつ、利益を計上することで継続性も併せ持つビジネスが数多く輩出していき、日本発の新しい産業社会が実現していくことが、今後求められると思います。

 

注:「心室細動」と似た言葉に「心房細動」がありますが、両者は全く別の症状です。「心室細動」は脈が300-600程度になり血流を失うため緊急性が非常に高いのに対し、「心房細動」は脈は100-160程度の頻脈になるもので一般に「不整脈」と言われているものです。ただし、後者は血流がよどむために血栓が出来やすくなり、数日続くと脳梗塞等のリスクが高まります。長嶋元監督が脳梗塞を起こしたのは心房細動がきっかけと言われています。

人の心を読むコンピュータ(その2) 表情で心が読めるか?

6月27日にITmediaで「人の心を読むコンピュータ、間もなく登場?」という記事がありました。人の表情から感情を読み取る試みです。

5月28日に本ブログで「人の心を読むコンピュータ」というエントリーを書きました。こちらは脳波や脳の血流を読み取るものでしたが、このITmediaの記事の方法だと測定時の負荷はなさそうですね。逆に知らない間に心を読み取られるリスクをどうするか、が課題になりそうですが。

ところで、民族によって仕草が全く別の意味を持つことがありますが、この辺りはどうやっているのでしょうね?

例えば、日本人が首を横に振ると否定の意味ですが、インド人の場合は上機嫌なサインだそうです。仕草は文化に根ざしたものなので、世界共通解釈は難しそうです。

音声認識の場合、言語や民族によって全く発音が異なるので、言語毎の違いを吸収する部分と、この結果を受けて処理する共通エンジンの部分に分けてデザインすることで、多言語に対応しているそうです。前者の部分は、出来るだけ多くの言語のサンプルを元にチューンアップを図ります。同じようなデザインになっているかもしれませんね。

表情に心が表れないポーカーフェイスの人の場合、どうするのか、とても興味がありますが。

学生の皆様への最新技術メッセージ

オープンスタンダード技術やオープンソースがIT業界の主流になり、イノベーションの基盤となっています。これを発展させるためには、その裾野を様々な分野に拡げることが必要になります。

その中でも、大学は非常に重要な位置づけです。

実際、大学の中でこのような技術に接しておられる方も多いと思います。ITベンダー各社も、学生の方々がこれらの技術や動向の理解をより深めるための活動を行っています。

私が勤務するIBMでも、全世界で「IBMアカデミック・イニシアティブ」というプログラムを推進しています。目的は以下の通りです。

  • オープンスタンダード技術やオープンソースの知識を提供する
  • 実際のITの現場に必要な知識を提供する
  • 大学のオープンスタンダード技術に関する教育の要望に応える
  • 結果として、この分野でのIBMの認知を高める

登録費、使用料など一切無料で、授業にすぐ使用できるプログラムコード、ソフトウェア、テキスト教材等をWebからダウンロードできます。尚、コンテンツは授業、学習的研究のみに使用することが条件です。実際に、これらの題材を使った講座を開設いただいている大学もいくつかあるようです。

このプログラムの一環として、7月15日に"IBM Student Live 2006"がラフォーレミュージアム六本木で行われます。対象は全国の学生・教員で、定員750名です。

内容は、株式会社オールアバウトCEO江幡さんの特別講演"Web 2.0に欠けているもの"、未来の技術やトレンドの紹介としてIBMが社外に内容を公開していないGTO (Global Technology Outlook)の紹介、ソニー・グループ/東芝/IBMで共同開発した高性能プロセッサーCell Broadband Engineの紹介、オープンソースの世界動向の紹介、等です。

ちなみに、昨年"IBM Student Live 2005"として開催した際には、グーグルの村上社長の講演や、NHKのプロジェクトXで取り上げられた地雷探知機の紹介等があり、盛況でした。

参加は無料ですので、学校関係者でご興味がある方は是非どうぞ。詳しくはこちらです。

はじめてフラット化を意識したのは?

「フラット化する世界」で、著者のフリードマンは様々な人達に「フラット化をはじめて意識したのはどんな時?」と尋ねています。

そこで、私はどうだったか、考えてみました。

プライベートでは、ウェブサイト上で写真を発表して世界中からコメントをいただいた時です。

1996年にサイトを開設し、当時は英語版サイトも作ってコメントを送れるようにしたのですが、海外から累計で100通以上いただきました。米国人が多かったのですが、フィンランド、韓国の教授、オーストラリアの高校生、フランスのキュレーター、中国、等々、まさに世界中からの激励のコメントをいただきました。

それまで写真の個展は1988年、1989年、1993年と行ってきました。写真展を行ってきた理由は、多くの方々に作品を見ていただきたかったためですが、当然のことながら、写真をご覧いただけるのは写真展会場まで足を運んで下さった方だけです。

「インターネットでは、世界中の人達からコメントをいただける」という素晴らしさを実際に体験し、感動モノでした。

また私の名前は結構珍しい名前なのですが、国内の方から「私、同姓同名です」という方からメールをいただいた時にはちょっと驚きました。

 

ビジネスの方では、1998年、製品のスキル・トランスファーを行うためにシンガポールに出張した時でした。

台湾、香港、オーストラリア、韓国、シンガポールから担当者が集まり、皆で地下鉄で夕食に出かけたのですが、地下鉄の駅で台湾から来た人のケータイに台北からの電話が着信し、他の人達をよそに話を始めました。

当時、日本では海外ローミングがなかった時代です。この時は、世界で仕事がボーダーレス化していることを実感しました。

このように振り返ってみると、1990年代後半あたりから、急速にフラット化が進んでいたことが改めて分かりますね。

参照リンク

オンラインゲームで生計を立てている人、10万人

中国では、10万人の人々が、マルチ・プレイヤー・オンラインゲームで生計を立てているそうです。

どうやっているか、というと、休まずにゲームをやり続けて武器やレベルを上げたキャラクターを獲得し、それを西側諸国の裕福な人々に売ることで収入を得ているとのこと。キャラクタによっては数百ドルで取引されるそうです。

西側社会ではある程度のおこづかいであっても、中国ではかなり大きな収入です。

まさに、フラット化する世界の一端ですね。

ちなみに、これはThe Wold Is FlatネタではなくIBMのGIO 2.0にあった話で、ソースはThe New York Timesです。

セブン-イレブン 覇者の奥義

1973年、日本で「コンビニエンス・ストア」という7兆円規模の市場を創造し、三十三期連続増収増益を達成したセブン-イレブンの業績は、様々なイノベーションの積み重ねの結果です。

今、田中陽著「セブン-イレブン覇者の奥義」(日本経済新聞社)を読んでいますが、この本ではセブン-イレブンが行ってきた数多くのイノベーションについて、徹底した取材の積み重ねを通じて描き出しています。

創業当時の様子も描かれていますが、この中で外資系企業で働く者にとって心に留めたい逸話があったので、ご紹介します。

1973年、新規事業を検討していたイトーヨーカ堂は、粘り強い交渉の末、米国でセブン-イレブンをフランチャイズ展開しているサウスランド社と提携しました。

日本でセブン-イレブンを展開するためにイトーヨーカ堂から独立した新会社として生まれたヨークセブン(現在のセブン-イレブン・ジャパン)は、早くも会社設立10日後に、コンビニ経営のノウハウを得るために米国のサウスランド社のトレーニングセンターで研修を受けます。

しかし研修で大きな衝撃を受けます。「この研修は日本では役立ちそうもない」

例えば、日本の消費者は鮮度の良い商品を求めますが、サウスランド社が紹介する商品は冷凍食品等の日持ちするものばかり。

また、米国のセブン-イレブンではサンドイッチやハンバーガーが主力商品として販売され、マニュアルにも商品管理について細かく書かれていましたが、日本ではまだマクドナルドが国内一号店を銀座に開店したばかりの時代。サンドイッチも日本人の舌には到底耐えられるものではありませんでした。

しかし、日本市場の大きな可能性をイトーヨーカ堂を通じて知ったサウスランド社は、米国流をそのまま日本市場に持ち込むことが成功の第一歩と考え、日本側に親切にこと細かに教えます。

『この米国流のマニュアルを鵜呑みにしなかったことが、日本でセブン-イレブンをここまで大きくさせた最大の要因かも知れない。』と著者は述べています。

創業者の鈴木敏文氏は「(サンドイッチやハンバーガーは) あんまん、肉まん、すし、おにぎりに変えるべきである」と言い、日本向けに運営手法や商品マニュアルをゼロから作っていきました。これは社内では「あんまん、肉まん事件」として語り継がれているそうです。

また、米国では郊外住宅地に隣接した場所をサウスランド社が決定し、店のデザインも徹底的に標準化したのに対して、日本では「中小小売店との共存共栄、中小店の生産性向上、流通の近代化」という創業理念実現のために、商店街中心の立地戦略を推進し、かつ、パパ・ママ・ストアの店舗資産を活用した、等、基本戦略レベルでも様々な点で日本向けに作り直しています。

以前プロジェクトXで創業時の話が簡単に紹介されていましたが、この本は臨場感たっぷりにこの時のことが詳細に描いています。

「原則に立ち帰り、お客様のことをまず第一に考えて戦略を定め、実行する」というのは、当り前のことですが、様々な制約がある中で、実行し続けるのは大変なことです。

外資系IT企業に勤めるものとして、お客様に対して、「サンドイッチ・ハンバーガー」ではなく、ちゃんと「あんまん、肉まん」をご提案しているか、常に心に留めておきたいですね。

ちなみに、この本の著者である田中さんは私の学生時代の友人です。日本経済新聞社のベテラン記者で、流通業界については日本の第一人者です。

「きのこの山」のヒミツ

世の中にはコアな雑誌があるもので、「きのこ」というきのこをテーマにした雑誌があります。

ちょっとした経緯でこの雑誌の創刊号が家にあったので読んでいたところ、興味深い記事がありましたので、ご紹介します。

明治製菓の「きのこの山」というチョコレートはご存知のことと思います。チョコレートの傘とクラッカーの柄できのこの形になっているものです。

発売開始は1975年9月30日、実に31年間のロングセラー商品です。

この商品が生まれたきっかけは、1969年に発売した「アポロ」という逆三角形のチョコの反響がイマイチだったので、この製造ラインを利用して新しい商品が作れないか、と考えたのがきっかけだったそうです。名前の通り、「アポロ」は1968年のアポロ11号月面着陸を記念して発売された商品です。

このアポロにスナック菓子をさして出来たのが、「きのこの山」です。製品企画は1970年ですが、社内で検討を重ねて発売するまで5年間かかったそうです。

この「きのこの山」が偉大なのは、

  • 板チョコやチョコバー全盛の当時、初のパロディ菓子を出した
  • 横文字全盛の当時、郷愁・自然・人間のやさしさというイメージを表現する親しみ易いネーミングにした
  • パッケージも当時はお菓子には合わないとされた緑色主体のデザインにした

という点です。下記のような、ご当地ものの地域限定版もあるようです。

・きのこの山北海道レアチーズケーキ風味
・きのこの山みちのく米パフ入り
・きのこの山新潟コシヒカリパフ入り
・きのこの山信州ブルーベリー風味
・きのこの山関西きなこチョコあんこ風味

また、「ジャンドゥーヤ味」「黒ごま抹茶味」等の味限定版も数ヶ月単位でリニューアルしているそうで、今まで数えられない程の種類が出ているとか。非常に多くの派生版がある、ということですね。

明治製菓のHPにも、詳しい情報が掲載されています。

普段、我々が店で何気なく見かけている商品も、世の中に出るにあたり十分に検討された上でイノベーションを起こし、かつ地道に息の長い改良が重ねられているのだ、ということを再認識した次第です。

走るコンピュータ、飛ぶコンピュータ

Windows XPは4000万行のコードで書かれているそうです。

これに対してGMは、2010年までに車は平均で1億行のコードを持つと予測しています。

また、エアバスA-380は10億行以上のコードで書かれています。

コンピュータ制御により、燃費を著しく改善して環境負荷を下げたり、人為的ミスを減らして事故を回避する等のメリットが得られますが、一方で、自動車や飛行機がこのように巨大なコードで制御されるようになると、どのようにコードを保守するか、ということが大きな問題になります。また、ハッキング対策やウィルス対策も必要になってくるでしょう。

今後、ウィルス対策ソフト同様、このようなリスク管理そのものが大きなビジネスになってくる可能性があります。

人の心を読むコンピュータ

新入社員だった20年程前、お世話になったお客様から「コンピュータはどのように発達していくと思いますか?」と聞かれ、「インターフェイスが進化し、人間の考えをそのまま入力として取り込めるようになるのではないでしょうか?」と答えました。

その時は全くの夢物語で、「そうなったら便利かもしれないけど、ちょっと怖いなぁ」と皆で笑い合いましたが、そろそろ将来的にこれを現実の問題として考えていく必要が出てきそうです。

5月28日の日本経済新聞の記事「脳で動かす情報機器」で、脳の活動や脳波を読み取り、機械を制御する信号に変換する試みが紹介されています。

既に、国内では、MRI(磁気共鳴画像装置)に入って右手でジャンケンをすると、ロボットハンドも同じ動きをする、という装置が出来ています。

右手を動かすと左脳の大脳皮質にある運動野に血液が流れ込み、指先の動きにより脳細胞の活動パターンが変化し、各細胞の血液の消費量が上下します。これを外部から計測することで85%の精度でグー・チョキ・パーを再現できるそうです。

この研究は、1990年代以降、日米を中心に急速に進んでいるようです。

将来の発展を考えると、これは明るい話であるとともに、とても怖い話でもあります。

明るい面は、将来的にはコンピュータのインターフェイスがより簡単になり、マウスやキーボードなしで考えただけでコンピュータが使えるようになります。高齢化社会を迎える日本では、要介護者を補助する技術として期待できます。

また、人の快・不快の感情を読み取って、人間がいる環境を最適に整えてくれることも可能になりそうです。(ただし、ある程度の環境ストレスは人間が健全に生きていく上で必要でもありますので、あまり行き過ぎも考え物ですが)

一方で、感情を読み取るテレ・メータリング技術が発達すれば、一例を挙げると、遠隔地から人の感情状態をチェックし、その人のその時の感情に合ったマーケティング・メッセージを出して購買を促す、ということも、技術的には可能になります。マーケティング上は非常に強力な仕組みですが、プライバシー上は大きな問題になります。

そもそも、「自分の考えを他人に覗かれている」というのは、とても怖いことですよね。

筒井康隆は、小説「家族八景」で、他人の心を読める超能力者・火田七瀬が、外からは幸せに見えながら非常にドロドロとした醜い人間の本心に触れつつ、お手伝いさんとして8つの家庭を転々とする話を綴っています。

火田七瀬の場合、このようにして知った情報を自分の心の底にそっとしまったままにしていましたが、この人間の本心が、コンピュータを介して不特定多数に渡ってしまう、というのは、非常に恐ろしいことですね。

本記事も、「倫理的な課題の解決が欠かせない」というATR脳情報研究所・川人光男所長の言葉で締めくくられています。

人間は、ある程度自分の本心を隠しているからこそ、社会的な存在であり得ている、という面もあると思います。この本心が暴かれるということは、その人が社会的に抹殺される、ということにも繋がりかねません。

全ての人間が成熟しお互いの本心を理解しあうような社会が出来るのが理想ですが、それまでに人間はもう少し進化する必要がありそうです。

将来、大きなテーマになってくるかもしれません。

「フラット化する世界」、早速読み始めています

"The World Is Flat"の邦訳版、「フラット化する世界」が昨日発売されましたので、早速購入しました。

原書(英語)の初版は2005年4月発売ですが、実は増補改訂版が2006年4月に出たばかりです。 この邦訳版は、この先月出たばかりの増補改訂版に基づいています。

現在、第一章「われわれが眠っているあいだに」を読み進めているところですが、私が原書で読んだ初版と比べると、かなり内容が書き改められており、一気に引き込まれています。

邦訳版は上巻・下巻合わせて約800ページの大作ですが、わりと一気に読めるかもしれません。

Kinksの着メロ

先日紹介したKinksの"I’m not like everybody else"の着メロが、本日からダウンロードできますので、ご紹介します。

ケータイで下記URLを入力いただき、アクセスしてみて下さい。

http://ibm.com/jp

ご興味ある方は是非どうぞ。私はいつもマナーモードなので着メロは使わないのですが、実は今回初めて着メロをダウンロードしました。

また、こちらからはスクリーンセーバーや壁紙もゲットできます。

20年で価格性能比、数千倍

ITmediaの記事によると、50年間でHDDの記録密度は5000万倍になったそうです。

今やパソコンで数百GBは当り前の世界ですが、この記事をきっかけに、私が社会人になった約20年あまり前を思い出しました。

社会人になりたての当時、パソコンの記録メディアは5.25インチ・フロッピーディスクで、容量640KBでした。今なら大きめのJPEG画像も収まらない容量ですが、当時はこの中にワープロ文書やらマルチプラン文書やらを沢山保管していました。

先輩が8.1MBのハードディスク付パソコン(定価200万円)を使っているのを羨望の眼差しで見ていたのも、この頃。

ホスト上で作ったソフトのテストで、ライブラリーからコンピュータールームへやや旧式の着脱式ハードディスク(1個10Kg)を荷押し車に乗せてオフィスを移動していましたが、この容量が一個200MB。「スゴイ容量だなぁ」と思ったものです。

当時の最新式ホスト用ディスクの容量が8GB。確か数億円したような記憶があります。

今や8GBと言えば、コンパクトフラッシュ1個分。それこそ、おでこにひっつく程度の重さで、6-7万円で買えます。入出力速度もかなり向上しています。隔世の感がありますよねぇ。20年間で価格性能比が数千倍ということですね。

….私も、おじさんになったということでしょうか? (^^;

そう言えば、10年前に登場したカシオのデジカメQV10は約10万円で25万画素でした。今から考えると非常に低解像度でしたが、写真の未来を予感させるワクワク感があって、写真仲間の間では大きな話題になりました。

当時は、銀塩フィルムの画質を超えるのははるか未来のことと思われていましたが、昨年発売のCanon EOS Kissデジタルは同じ価格で800万画素。画素数と画質は必ずしも比例しませんが、この機種の場合、銀塩フィルムの画質を凌駕しています。

各種技術予測では、これらのハード系技術革新のペースは今後も続くことが予想されています。この技術革新を活用して、我々は10年後・20年後の世の中をどのように変えていくか? ….考えてみると楽しいですね。

イノベーション実現のための4つの要素

世の中にこれだけインターネットが普及したことで、イノベーションを実現するために必要な要素は、昔と比べて大きく変わってきます。

昔はエジソンのように、一人の人間が超人的な才能や努力でイノベーションを起こしてきた面がありましたが、現代では、インターネットが地理的な差や社内外の壁を消滅させ人々を繋げる機能を持ったために、イノベーションを起こすカギはオープンソースのように「多くの人々の知恵をいかに結集するか」という点に移ってきたように思います。

ということで、現代では、①オープン、②統合、③コラボレーション、④グローバル、の4つがイノベーションを起こすための要素になるのではないでしょうか?

オープン
オープン技術は様々なアイデアの交換を活発にし、イノベーションを起こすための共通となる「言葉」になります。また、企業や各組織がオープン技術を活用することにより、自社の資産や能力をできるだけ少ない投資で、お互いを結合させ、新たな価値を創造することを促進します。
逆に、プロプライエタリーな技術を使う場合、他の技術との結合や成果共有の際に余分なコストがかかり、お互いを組み合わせて新しい価値を創造することを妨げてしまいます。

統合
先日も述べたように、イノベーションは、技術と市場への洞察(インサイト)が結合して生まれます。技術は単体では価値はなく、ビジネスの構造に組み込んだときに初めて最大限の価値を発揮します。

コラボレーション
コラボレーションすることで、多くの人が持っている知恵や情報を結集して新たな価値を生み出すことができます。さらに、アイデアとしての知恵だけでなく、業務プロセスを繋げてお互いにコラボレーションさせる仕組みを作ることで、全体のスピードを飛躍的に速めて、大きな価値を生むことができます。

グローバル
"The World is Flat"にもあるように、今や世界は水平につながっています。イノベーションを実現する上で、グローバルな視点を持つことができれば、国内にとどまらず、世界中の人たちと協力しあいながら、新たな価値を創造することができます。

10のフラット化要因が生み出した3つの潮流

前回までご紹介してきた、"The World Is Flat"のフラット化10の要因により、3つの大きな潮流が生まれました。

1.まず、リアルタイムのコラボレーションを実現する、インターネットによる社会・経済活動の場が生まれました。

2.合計30億人もの人口を持つBRICs等の新興経済国がグローバル経済に参入しました。先進国にとっては大きなビジネス機会であると同時に、競争相手として大きな脅威です。例えば現在、世界の博士号取得の半数がインド人と中国人で占められています。中国やインドは単に「安い人材」の供給源であるだけでなく、「優秀な頭脳」の供給源でもある、との認識が必要です。

3.企業レベルでは、独立した垂直サイロ型の組織の集約が進み、水平型のプロセスのコラボレーションの時代に入りつつあります。

 

圧倒する人口と知的資源で、BRICs諸国は先進国を追いかけています。一方で、米国内の子供の学力低下が問題となっています。

本書が米国で読まれているのは、フラット化する世界の中で、BRICs諸国と全く同じ土俵に立たされる米国が、数十年後には先進国の地位を保てなくなる、という危機感が背景となっているようです。

考えてみれば、状況は日本でも全く同じです。このような新しい世の中で、我々はどのようにビジネスを行っていくかが問われています。

解決すべき課題は沢山ありますが、カギとなる一つが「イノベーション」である、と思います。

つまり、BRICsを含む世の中の知恵や経営資源を使い、ITを活用し、市場の洞察と組み合わせて、イノベーションにより新しい価値と市場を継続的に生み続けるプロセスが必要なのではないでしょうか?

このようにグローバル化する経済の中で、IT業界はどのようにあるべきかを考える上で、本書は大きなヒントを与えてくれるように思います。

 

ところで、"The World Is Flat"の原書は約500ぺージあります。私は決して英語が得意でないので、読むのは結構大変でした。

ご参考までに、本書のダイジェスト版CDを聴いて理解する方法もあります。聴き取り易い英語なので、英語リスニングの教材のつもりで買うのもいいかもしれません。特に本書のキモとなっているフラット化10の要因の部分は2時間程度ですので、iPOD等に落とせば1日の通勤の行き帰りで一通り理解できます。

もっと短時間で理解したい、という方は、ニューヨーク・タイムズのサイトに400行程度の要約があります。かなり内容を絞っていますが、手っ取り早くキャッチアップしたい人にはこちらもオススメです。

“The World Is Flat”が示す、世界フラット化の要因(2)

前回・今回と、Tom Friedmanが"The World Is Flat"で示したフラット化10の要因の概略をご紹介しています。今回は第六の要因から第十の要因までです。

第六の要因:オフショアリング
第五の要因「アウトソーシング」は業務の一部を外部に移管するのに対し、「オフショアリング」は、企業の特定の機能(例えば工場)をそのまま海外に移転します。

工場の例で考えると、より安くより低い税金で全く同じ製品を製造するのがオフショアリングです。

ご存知の通り、中国はオフショアリングで急成長しています。米国の調査によると、中国の新技術の吸収力は旺盛で、1995年から2002年の間に年率17%(つまり7年間で3倍!!)の生産性向上を果たしています。

中国へのオフショアリングが本格化する契機となったのは、2001年12月11日のWTO加盟でした。

中国のWTO加盟は、中国政府がグローバルの輸出・輸入・海外投資等のルールに従うことを同意したことを意味しています。つまり中国政府が、海外から中国に投資する企業に対して、世界共通の法律とビジネスプラクティスに従い保護する、ということを意味します。

 

第七の要因:サブライチェーン
ウォルマートは、言うまでもなく世界最大のサプライチェーンの一つを持つ企業です。
ウォルマートは、全商品を一品一品、生産者が出荷してから販売されるまで追跡する仕組みを作り上げました。

ウォルマートがサプライチェーンを構築する契機となったのは、生産者からの直接購買・直接配送でした。生産者の倉庫からウォルマートが直接配送すれば、仕入れ値を2%下げることが出来たので、自社で配送センターを持つことにしました。

配送コストを徹底的に削減し、さらに情報システムに投資して顧客が何を買っているのか、も分かるようにしました。

さらにこの貴重な情報を生産者と共有し、必要な商品を常に棚に置いてもらうようにして機会ロスを削減し、在庫費も削減しました。ちょうど、工場のジャスト・イン・タイムと同じ発想です。

ウォルマートは2004年に中国から180億ドルもの商品を5000社から購入しています。つまり、第六のフラット化要因も関連しあっています。

 

第八の要因:インソーシング
全ての企業がウォルマートのように巨大なサプライチェーンを構築できる訳ではありません。そこで、第八の要因「インソーシング」が登場します。

ラップトップPCで米国トップシェアの米国東芝は、修理サービスの顧客満足度を劇的に改善しました。これはUPSのインソーシングを活用した成果でした。

東芝ラップトップPCが故障した顧客が、米国東芝コールセンターに電話をかけると、UPSに持っていくように指示を受け、2-3日後に修理品を受け取ることができます。従来は数週間かかっていたため、顧客満足度は大きく向上しました。

実際に行われている作業を見てみましょう。

UPSで受け取られた故障品はUPSセンターに送られ、東芝ラップトップPC修理の認定資格を持っているUPS社員が修理を行い、UPS配送員が修理品を顧客に届けます。つまり、実際の業務上、米国東芝は関与していないとのことです。

このように、UPSは企業のロジスティックス部分を担当する業務を行っています。このような業務形態を「インソーシング」と呼んでいます。

ウォルマートのようなグローバル・サプライチェンを自社できない中小企業や個人に対して、UPSはグローバルサプライチェーンを構築するサービスを行っています。これにより、世の中の「フラット化」はさらに促進していきます。

UPSは1996年にこのビジネスに参入し、10億$を投資して世界中で25社のグローバル・ロジスティックス及び運送会社を買収し、このようなシステムを構築しました。

UPS以外にも多くの会社がインソーシング業務を提供しています。

 

第九の要因:インフォーミング
ITmediaの読者の方々には、第九の要因は改めて言うまでもないかもしれません。

Google、Yahoo!、MSN等により、全ての個人があらゆる知識を世界中から得ることができるようになり、世界中から商品を購入し、世界中の相手に販売することが可能になりました。

個人々々が、情報や知識について、世界レベルでオープンソース的なコラボレーションを行ったり、アウトソーシング、インソーシング、サプライチェーン、オフショアリングを行えるようになりました。このこと全体を指して、Friedmanは"In-forming"と呼んでいます。

フラット化が個人レベルの生活を大きく変えるところまで来たということだと思います。

 

第十の要因:ステロイド
「ステロイド」は、ここでは「増強剤」「増幅器」といった意味で使われています。

ワイアレス・アクセスやVoIP等の技術により、いつでも、どこからでも、どの端末からも、様々なことができるようになりました。つまり、これらの技術は、今まで述べてきた9つの要因をさらに増幅し、推進するもの、という位置づけです。

 

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次回は、これら10の要因によって世の中がどのように変わっていったかを考えます。

“The World Is Flat”が示す、世界フラット化の要因(1)

今回から、Tom Friedmanが"The World Is Flat"で示したフラット化10の要因の概略をご紹介します。今回は第一の要因から第五の要因までです。

第一の要因:ベルリンの壁崩壊
1989年11月9日のベルリンの壁崩壊の意味は、単に東西ドイツが統一され、東ドイツの人達が解放された、というだけの話ではない、とFriedmanは述べています。

それまで、世界全体が東と西に分断されており、ベルリンの壁は、世界が単一市場・単一生態系・単一コミュニティであるという考え方を阻害する象徴的な「壁」になっていました。

しかし、ベルリンの壁の崩壊は、西と東の境界を消滅させました。この結果、私達は初めて「グローバル」という視点を持つようになりました。

また、同じ1989年に発売されたWindows 3.0により、電話やFaxに代わってパソコン通信のeメールによるコミュニケーションが普及し、フラット化を促進しました。東側諸国の民主化もこれにより促進された面がありました。

 
第二の要因:ネットスケープのIPO
1995年のネットスケープのIPO(株式公開)は、二つの点で重要な意味を持っていました。

第一の点は、言うまでもなくブラウザー誕生によりインターネットを活性化させた点。

第二の点は、これがドット・コム・ブームの契機となり、さらに光ファイバーケーブルへの過剰投資を生んだ点です。

バブルで大きな資金がインターネット業界に吸い寄せられ、イノベーションをさらに加速させました。地下や海底等、至るところに光ケーブルが敷設され、価格競争が起り、非常に安価に高速ネットワークが使えるようになりました。その後、多くの通信会社が負債を抱えて倒産しましたが、光ファイバーケーブルはそのまま残ったことで、全世界でデータの伝送コストが実質的にゼロになりました。

実は、これによりインドが大きな恩恵を得ましたが、これは後述します。

 
第三の要因:ワークフロー
Friedmanは、アプリケーションソフトやミドルウェア等、「コンピュータ相互を接続するモノ」を総称してワークフローと呼んでいます。複数の企業のバリュー・チェーンがワークフローで接続されることで、効率が飛躍的に向上します。このための技術要素として、XMLやSOAP等のWeb連携のための技術基盤が生まれ、ソフト同士を自動的に連携させることも可能になりました。SOAは、この動きをさらに加速させます。

Friedmanは、この例のように、標準はイノベーションを阻害するものではなく、むしろ互いのインターフェイス調整などの余分なワークロードを削除し、我々をイノベーションそのものに集中させる働きを持っている、と言っています。

確かに、近年のITは標準化が非常に進んできているように思います。私達の課題は、これらの標準技術をいかに活用し、インサイトと組み合わせてインベーションを起こしていくか、という点ではないでしょうか?

 

第四の要因:オープン・ソース
ITmediaの読者の皆様には、改めてオープン・ソースとは何か、を説明する必要はないでしょう。

オープンソースは、新しいコラボレーションの形を提示しています。

従来は、特定の個人の能力で性格付けられたイノベーションが多く見られました。一方で、オープン・ソースコミュニティでは、Wikipediaでも見られるように、多くの個人がコミュニティで協調しあうことでイノベーションが生まれます。

これが現代のイノベーションの特徴とも言えるかもしれません。

 

第五の要因:アウトソーシング
アウトソーシングが幅広く普及したきっかけは、Y2K対応でした。

Y2K対応のためのソフト修正は、膨大かつ骨の折れる仕事で、米国の経営者は、「できれば自社ではやらないで済ませたい」というのが本音でした。

では当時、安価なソフトウェア・エンジニアを沢山抱えているのはどこか、というと、 答えはインドでした。

1951年、インドの初の首相ネルーが設立したIIT (India Institute of Technology)は、50年間で数十万人のエンジニアを輩出し、米国の大学院と比べても非常に高いレベルを誇っていました。同様に、インドでは多くの私立大学がエンジニアを送り出していましたし、卒業生は英語も堪能でした。

さらに、ドットコム・バブルが生み出したネットとコンピュータを活用すれば、米国とインドの地理的な距離は障害とはなりませんでした。しかもインドの人件費は桁違いに安いのです。

「出来る限りお金をかけずにY2K対応を済ませたい」と考えていた経営者にとって、インドへのY2K対応業務委託は理想的な解決策でした。事実インド人は複雑なシステムを非常に高い品質で提供しました。

このインドへのIT関連業務委託の流れはY2K対応が終わってからも続きました。

ドットコム・バブル崩壊で、投資家による企業投資が大きく削減され、米国IT責任者はITコスト削減を求められました。Y2K対応でインドIT産業の品質の高さを身をもって知った彼らは、インドへ様々なIT関連作業の外注を継続しました。

また、以前はインドから海外に出て活躍できる人達はほんの一握りでした。ドットコム・バブルの際、そのようなインド人達がシリコンバレーで活躍していましたが、ドットコム・バブル崩壊で彼らの多くは職を失い、インドに帰国し、高速ネットワークを活用し、米国で得たスキルと人脈を活用して米国からの仕事を受注するようになりました。

つまり、Y2K対応は、「インドが西側社会と高品質でコラボレーションできる」という力を世界に知らしめる契機となりました。「Y2Kはインドの独立記念日とし祝日にすべき」と言う人もいます。

 

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このように見ていくと、様々な要因が複雑に相互に絡み合い、世界のフラット化が急速に進んできたことが分かります。

特に、ベルリンの壁崩壊がフラット化の契機になったことや、米国からインドへの大量のY2K対応業務委託が世界中でアウトソーシングが普及する契機となったこと等は、当時の多くの日本人にとっては身近な出来事と感じられなかったのではないでしょうか?

次回でご紹介する第六から第十の要因は、さらに我々の生活に密着したものになります。

“The World Is Flat”が示す、グローバル経済の変革

昨年、"The World Is Flat: A Brief History Of The Twenty-first Century"という本が米国で出版されました。

まだ日本語訳は出ていませんが、Amazonの米国サイトではTop Sellersに顔を出しています。(2006年3月8日現在) 日本でも話題になり始めているようです。

この本は、ニューヨークタイムズのThomas L. Friedmanというジャーナリストが執筆しました。Friedmanは、現代のグローバル経済で起きている変革を明快に記述しています。

本書のタイトルは、「世界は丸い」と言うコロンブスの言葉を現代風に言い換えたものです。

1492年、コロンブスは米国大陸に上陸し、帰国して国王に「世界は丸い(The World Is Round)」と報告しました。

512年後の2004年、米国人のFriedmanはインドに行き、グローバル経済が完全に水平に繋がっている、つまり「世界は水平である(The World Is Flat)」ということに気がつきます。

本書の中で、Friedmanは世界がフラット化した要因を10個挙げています。

1. ベルリンの壁崩壊
2. ネットスケープのIPO
3. ワークフロー
4. オープン・ソース
5. アウトソーシング
6. オフショアリング
7. サブライチェーン
8. インソーシング
9. インフォーミング
10. ステロイド

Friedmanは、上記10個の要因が複雑に連携しあって世界経済のフラット化がこの10年余りで急速に進展してきた、と語っています。

確かに、本書を読むと、世界で別々に起こっているように見えた出来事がいかに関連しあって、現在の姿に至ったのかが分かります。今後の社会やビジネスを考える上で、これらの動きを理解することは重要だと思います。

次回から、この10の要因を見ていきたいと思います。

「イノベーション」と「インベンション」

最近、様々な場所で「イノベーション」「改革」「革新」という言葉を聴くようになりました。

IT企業のマーケティングの観点でも、イノベーションというのは今やきわめて重要な概念となってきています。

そこで、今回からしばらくの間、「イノベーション」について考えてみたいと思います。

「イノベーション」に関連した言葉で、「インベンション」という言葉があります。「インベンション」とは「発明」、つまり新しい技術要素を生むことを意味しています。

一方、イノベーションのことを「技術革新」と訳すこともあります。
実は、1958年の経済白書で「イノベーション」を「技術革新」と訳して以来、日本ではイノベーション=技術革新という意味合いで使われてきたようです。

その時代の日本は、日本の技術を活用して高度経済成長を目指そうとしていました。従って、当時の日本にとっては「イノベーション」とはまさに「技術革新」に他なりませんでしたし、適切な訳でした。

しかし現在、「イノベーション」はもっと広いモノを意味しています。既存のものを断ち切ったり、組み合わせたりすることによって、「人や社会に新たな価値を生む革新的な行為」がイノベーションですし、技術革新はその一部です。

現代では、イノベーションとは、インベンションと洞察や人の夢が合体したもの、と定義する方がしっくり来るのではないでしょうか?

研究室で生まれるのがインベンション。一方で、市場で生まれるのがイノベーション、という定義づけも出来そうです。

例を挙げると、ワットの蒸気機関は技術上のインベンションでした。しかしこれ単体が研究室に置かれているだけでは、全く世の中の役に立ちません。

この蒸気機関を船に乗せてスクリューを回すのに活用することで蒸気船が生まれ、車輪を付けて軌道の上を走らせることで蒸気機関車が生まれ、モノの輸送が劇的に進化し、地理的な距離が劇的に小さくなり、モノのコミュニケーション活発になりました。

また、この産業革命は奴隷を開放する契機にもなりました。封建社会の奴隷制度は、統治者が農業・畜産業のために必要な労働力を提供するためのものでした。しかし動力の誕生は、奴隷を動力で代替することを可能とし、非人間的な奴隷制度から奴隷となっていた人々を解放するイノベーションを起こしました。

新しい技術とインフラが整備され浸透するまでに50年間、さらにその上で人々の新しい生き方が行き渡るのに50年間かかると言われています。

コンピュータが1940年代後半に生まれて、現在50年が過ぎています。このような歴史的な観点で考えても、ITはこれから人々の生き方を大きく変えていく道具となっていきます。

ITによるイノベーションにより人々の生き方が大きく変わっていくのは、まさにこれからです。

同時に、ITはグローバル経済を大きく変えようとしています。

ただ、これはITだけが単独で起こしているのではなく、様々な社会的要因が重なって起きています。

IT企業に籍を置き、ITにより豊かな社会を築いていこうと考えている私達にとって、この社会的要因を理解することは非常に大切なことだと思います。

次回は、その辺りのことについて、考えていきたいと思います。