ゼロから8000億円の市場を生み出した缶コーヒー

昨年6月に出版した「100円のコーラを1000円で売る方法3」のテーマは、「イノベーションのジレンマ」でした。

本書では、グローバル企業参入によって起こるイノベーションでコモディティ化する会計ソフト市場を物語として描きました。

また「イノベーションのジレンマ」の例として、トランジスタラジオと真空管ラジオの話を紹介しました。

 

実は私たちが何気なく飲んでいる缶コーヒーも、まさにこの「イノベーションのジレンマ」を体現したものです。

缶コーヒーは1969年に日本で生まれました。UCC上島珈琲の創業者・上島忠雄さんのある体験がきっかけでした。

1968年、UCC上島珈琲は売上数十億円規模の中小企業でした。創業者の上島さんは全国を忙しく飛び歩いていました。

ある日、上島さんは列車の出発前にビン入りのミルクコーヒー(いわゆる「コーヒー牛乳」)を飲んで休憩していました。そこで発車ベルが鳴り、飲みかけのビンをやむなく売店に返却し、電車に飛び乗りました。

この様子について詳しく書いている「歴史群像シリーズ 77 実録創業者列伝 II」 (学習研究社、2005年)からご紹介します。

—(以下、p.144より引用)—

「ああ、なんてもったいないことをしてしまったのか」−米一粒を大事にするような農家に育った忠雄は、「飲み残したコーヒー」のことがなかなか念頭を去らなかった。そしてひらめいたのである——コーヒーを缶入りにしたらどうだろう。いつでもどこでも飲めるではないか!、—と。….忠雄はこのアイデアを実行すべく、すぐに社員に缶コーヒーの開発を命じた。

—(以上、引用)—

 

しかし開発は困難を極めました。

—(以下、引用)—

ミルクとコーヒーが分離してどうしてもミルクが浮いてしまう。殺菌処理のため風味が悪くなる。缶の鉄イオンがコーヒー成分のタンニンと結合して真っ黒になってしまう。…失敗続きで費用ばかりが嵩んでいく。

—(以上、引用)—

 

困難を乗り越えて1969年、世界初の缶コーヒーがついに完成。

しかしこの画期的新商品に対して『缶コーヒーは邪道』と一蹴されてしまいます。そんな中、UCC社員は全社一丸となって営業に奔走します。

1年後の1970年、大きな転機がやってきました。

—(以下、引用)—

願ってもない機会がやってきた。日本万国博覧会である。忠雄はこのチャンスを逃さなかった。猛烈なセールスの結果、日本のパビリオン・売店で80%、海外パビリオンに至っては100%、UCCのコーヒーを納入させたのである。

万博という檜舞台で缶コーヒーは目覚ましい売れ行きを見せる。

—(以上、引用)—

万博での成功により缶コーヒーは社会に認知され、1970年代に大発展していきます。

缶コーヒーは登場当初は「こんなのは邪道」と言われていましたが、「どこでも飲める」という新しい価値を生みだしたことで、「どこでも飲みたい」という新しい顧客を創造し、徐々に品質を改善し、大きな市場に育ちました。

その一方で、コーヒー牛乳は市場から徐々に消えていきました。

 

1950年代にトランジスタラジオが登場した当初も、真空管ラジオと比較して音質が悪く「こんなのオモチャ」と言われていました。

一方で若者は、当時流行のエルビス・プレスリーが大好きでしたが、両親は「ロックは不良の音楽」として聴くのを許しませんでした。真空管ラジオは両親がいる自宅の居間にあるので、エルビスの歌は聴けなかったのですね。

そこで若者は、「どこでも聴ける」というトランジスタラジオに新しい価値を見いだし、こぞって買い、野外や自分の部屋で聴きました。

トランジスタラジオは新しい顧客を生みだし、市場は育っていきました。そして音質は徐々に改善されていきました。

その一方で、真空管ラジオは徐々に消えていきました。

 

缶コーヒーはトランジスタラジオと同様、まさにクレイトン・クリステンセンが提示した「イノベーションのジレンマ」そのものです。

では、缶コーヒーはどのくらいのビジネスを生み出したのでしょうか?

 

これについては、「グッとくるコーヒー」(徳間書店、2013年)に書かれています。

—(以下、p.47から引用)—

万博翌年の昭和46年(1971年)、UCCの売上高は前年と比べて2倍以上の100億円を突破。缶コーヒーの大ヒットがこの巨大な数字に貢献したのは言うまでもない。…いまや缶コーヒーの市場規模は8000億円を超えている。

—(以上、引用)—
 

まったくゼロの状態から、なんと日本国内8000億円の大市場に育ったのです。

 

イノベーションを実現するのは簡単でなく、困難を極めます。

しかし一方で、イノベーションのビジネス上の威力も、凄まじいものがあります。

 

 

「スターバックス再生物語」…「第3の場所」再生を実現した原動力は、情熱と、絆だった

「スターバックス再生物語」を読んでいます。本書は2011年の出版なので、もう3年前の本です。

タイトルや装丁を見ると、「スターバックス成功物語」の続編的な位置づけの本に見えます。実際に中身も、創業者であるハワード・シュルツ自身が書いた「『成功物語』のその後の苦難と再生」がテーマです。

しかし原書である英語のタイトルは、「成功物語」が”Pour Your Heart Into It” (情熱を注ぎ込め)であるのに対して、「再生物語」は”Onward” (未来へ)。

別の本なのですね。

 

物語は2008年2月、大成功したスターバックスが、自らの良さを失い低迷を始め、全米の店舗を半日休業して、135,000人のバリスタ全員を一斉に再研修をするところから始まります。

実際、スターバックス本社の2008年Annual Reportを見ると、当時のビジネスはこのような状況でした。

          2007年  2008年
店舗数       15,011  16,680
売上        9.4B$  10.4B$
営業利益     1,054M$   504M$
売上営業利益率   11.2%   4.9%
店舗売上(対前年)    5%    -3%
純利益       673M$   315M$
株主資本利益率    29%    13%

グラフにするとこんな感じです。

Starbucks2008ar  

売上は順調に伸びていますが、利益率は急落。一方で店舗当たりの売上の伸びはジワジワ下がり、ついにマイナス。

この数字だけを見ると、こう考え勝ちなのではないでしょうか?

「確かに利益は落ち始めているけど、売上は伸びている。この勢いを保持して、利益率を上げて店舗当たりの成長率を回復するために、無駄を省いて効率化を徹底しよう」

しかし実際はまったく逆でした。

無駄を省き、効率性を追求し、成長を追い求めた結果が、こうなったのです。

 

創業者のハワードがCEOを退任し、二人のCEOを経て、スターバックスでは「売上成長至上主義」が蔓延していました。

スターバックスの良さが急速に失われ、顧客が徐々に離れていた結果が、ついに数字に表れ始めたのです。

たとえば、それまでバリスタは徹底的に教育されて店舗に出ていたのが、店舗急拡大で人材育成が追いつかず、テキストを渡され自習しただけで、店舗に出るようになりました。

また、効率性の追求で店舗デザインは簡略化されてしまいました。

それまでコーヒー豆は店舗で挽いていたのが、効率化のために工場で挽いて真空パックされ店舗に届けられました。味は落ちてしまいます。

売上拡大のため、様々な商品が投入されました。その一つがブレックファスト・サンドイッチ。暖めることでチーズが溶けて強い香りが店内に流れ、店内のかぐわしいコーヒーの香りを消し去ってしまいました。「第3の場所」の魅力が半減です。

これらが積み重なった結果、2007年のコンシューマレポートで行われたコーヒーの味テストで、不名誉なことに、マクドナルドの「マックカフェ」よりも低評価になってしまいました。厳選したコーヒー豆を焙煎するコーヒー専業のスターバックスが、ファストフード店に味で負けるということ自体、スターバックスにとって大きな屈辱でした。(p.112)

自宅と職場の間にある「第3の場所」としてのスターバックスは、急速にその魅力を失っていたのです。
 

ハワードは色々と悩んだ末にCEO復帰を決意。2008年1月にCEOに再び就任します。その際に、このように考えました。(p.76)

・「原点回帰」をしなければならないが、スタバの歴史を守るのではない。改革や革新の気風に結びつける。

・過去の間違いは責めない。

・戦略や戦術では混乱は乗り切れない。必要なのは情熱だ。

そして、下記方針を決めました。(p.90-91)

【即座に実行すること】
・米国店舗ビジネスの現状改善
・お客様との感情の絆を取り戻す
・ビジネス基盤の長期的改革をすぐに開始する

【手を付けないこと】
・コーヒーの品質 (豆自体の品質はよかったのです)
・従業員の健康保険 (米国では健康保険は未整備)

そして2008年前半、「変革に向けたアジェンダ」(=すべてのパートナーがやるべきこと)と「新たなミッションステートメント」(=スターバックスの存在理由)を定めました。この二つが改革の柱になりました。

「変革に向けたアジェンダ」(p.139-141より)

わたしたちが望むもの 魂を刺激し、育む企業として知られ、世界で最も認められ、尊敬されるブランドを有する優れた企業であり続ける

七つの大きな取り組み

1.コーヒーの権威としての地位を揺るぎないものにする
2.パートナーとの絆を確立し、彼らに刺激を与える
3.お客様との心の絆を取り戻す
4.海外市場でのシェアを拡大する。各店舗はそれぞれの地域社会の中心になる
5.コーヒー豆の倫理的調達や環境保全活動に率先して取り組む
6.スターバックスのコーヒーにふさわしい創造性に富んだ成長を達成するための基盤をつくる
7.持続可能な経済モデルを提供する

 

ミッションステートメント (p.147-149より …一部文章を短縮化)

スターバックスの使命———人々の心を豊かで活力のあるものにするために———ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そして一つのコミュニティから。

・わたしたちのコーヒー——常に最高級の品質を追求
・わたしたちのパートナー——一人一人が輝き働きやすい環境。お互いに尊敬と威厳をもって接する
・わたしたちのお客様——感動体験。完璧なコーヒーの提供はもちろん、人と人とのつながりを大切に
・わたしたちの店——くつろぎの空間
・わたしたちのコミュニティ——コミュニティの一員としての責任と、日々の貢献
・わたしたちの株主——すべての人々の繁栄

 

この4年後の2012年のAnnual Reportからは、スターバックスは2008-2009年の店舗閉鎖、人員解雇、売上/利益減といった大きな苦痛を乗り越えて、再び力強い成長を取り戻していることがわかります。

Starbucks2012ar_2  

しかしこれらの数字も、「第3の場所」を再生し、「人々の心を豊かで活力のあるものにする」という使命に向かって動いた結果に過ぎないこともまた、認識すべきでしょう。 

また、世界で現在展開している新型店舗も実におしゃれで、まさに「第3の場所」といった趣きです。

Starbucksnewstore_2(2013/11/19の”Starbucks at Morgan Stanley Global Consumer Conference Presentation”資料より)
 

こんな店なら、いいコーヒーを飲みながら、ずっと時を過ごしていたいですよね。

先日入ったスターバックス・銀座マロニエ通り店の2Fも、このような感じに改装されていました。

 

実際に2012年のAnnual Reportによると、2012年は全世界で、1,063の新店舗を出店する一方で、2,025の既存店舗をリノベーションしています。(全世界のスターバックス店舗数は18,066)

 

なぜ創業者のハワードは、このような変革ができたのでしょうか?そのことを語っている一文があります。

—(以下、p.57から引用)—

創業者の強みは、会社の基盤となるブロックの一つひとつを知っていることだ。会社を活気づけるのはなにか、そのためにはどうすればいいかがわかっている。その知識が、その歴史が、成功のために必要な情熱を呼び起こし、なにが正しくて、なにが間違っているかを判断する直感につながる。

—(以上、引用)—-

「株主至上主義」「数字至上主義」と言われがちな米国企業ですが、情熱と絆の大切さは、実はどこの国でも同じなのだ、ということを実感できた本でした。

現在の企業変革の事例として、ご一読をお勧めします。

 



川島良彰著「私はコーヒーで世界を変えることにした」…今日からの仕事に、元気がもらえます

川島良彰著「私はコーヒーで世界を変えることにした」を読了しました。

川島さんは「コーヒー界のインディージョーンズ」と言われるコーヒーハンター。

1956年、静岡県にあるコーヒー焙煎卸業の店に生まれ、コーヒーの香りとともに育ち、子どもの頃から「中南米でコーヒーの仕事をしたい」という強い想いを持って高校卒業後、エルサルバドルに留学しコーヒーを学び、様々なことを経験されます。

エルサルバドルの内戦中も残ってコーヒーの研究を続けていましたが、内戦が激化してやむを得ず一時期米国・ロサンゼルスに滞在中、UCC上島珈琲の創業者・上島忠雄氏に直々にスカウトされUCC上島珈琲に入社。当時25歳。

上島忠雄氏の「海外にコーヒー農園を持つ」という生涯の夢を託され、ジャマイカでゼロから農園を立ち上げます。

その後も、ハワイ、インドネシア等でコーヒー農園を次々と開発。

さらに「絶滅した」と言われるコーヒー種をマダガスカル島で発見、「コーヒーハンター」と呼ばれるようになります。

51歳でUCC上島珈琲を退職。

今は会社を創業し、コーヒーで世界を変えるために、様々な活動をなさっています。

 

私たちが何気なく毎日飲んでいるコーヒーは、実は南北問題を象徴する商品です。

世界トップ10の生産国は発展途上国ですが、一方で世界トップ10の消費国のうちブラジル・エチオピア以外は全て自国で生産できない先進工業国です。そしてトップ10消費国のうち、アジアでは唯一日本が入っています。

このようなコーヒーの世界で、本書にも書いているように、川島さんは、気候・人種・宗教・文化・言葉がまったく異なる様々な国でのコーヒー農園開発を通じて生産国の現状を知り、コーヒー栽培の知識があり、コーヒー屋で生まれてコーヒーを感覚的に理解し、さらに消費国の事情にも精通している、世界でおそらく唯一のコーヒー屋です。

このような仕事をなさってきた川島さんの生き方に感銘を受けると同時に、川島さんを社員として26年間守り、育ててきたUCC上島珈琲の度量の深さも、凄いと思いました。

「現代の日本にも、こんなスケールが大きい日本人がいたんだ!」というのが率直な感想でした。

コーヒー好きでない方も、本書を読むと、とても元気が出てくると同時に、仕事とは何かを深く考えるきっかけを得られると思います。

そしてもしかすると、読み終わるとコーヒーのことが好きになっているかもしれません。(笑)

 

 

山田眞次郎・井関利明著「思考 日本企業再生のためのビジネス認識論」を読了。目からウロコが落ちました

山田眞次郎さん「パナソニックは日本企業再生の道しるべか?」というブログを拝読して「面白いなぁ!」と思い、これがきっかけになって、最後に紹介されていたご著書「思考 日本企業再生のためのビジネス認識論」(学研パブリッシング)を読了しました。

本書は,山田さんと慶應義塾大学の井関利明名誉教授の対談。400ページを超える大著です。

今まで自分が考えていた常識を覆してくれると同時に、深く納得する様々な気づきを与えてくれました。

特に参考になった点をご紹介します。沢山ありましたので長くなってしまいますが、ご容赦ください。

■日本ビジネスの強みと言われている「メティキュラス」(几帳面で細かい)と「コンフォート」(心地よいサービス)からは、イノベーションは起こせない。だから「失われた20年」になってしまった (p.16)

■大手メーカーが一時期「六重苦」と言っていた。全て自社責任ではなくビジネス環境が悪いと考えている。実は重大な問題は企業の中にある (p.47)

■GE・ウェルチの「選択と集中」。本来の意味は「現在から未来にかけての選択肢を考慮して選択し、未来に集中する」ということ。だから未来の可能性である異質なものも囲うことが大事だった。しかし多くの日本人は誤解し、異質なものを排除してしまった。 (p.88)

■標準化は、ある意味でイノベーションの対局概念。(p.92) 標準化とは大量生産による弊害。(p.125)

■イノベーションは社内に異質性と多様性を保つから生まれる。全社一丸となるとイノベーションは起きない。 (p.94)

■日本国民は「日本はモノづくりが強い国」と誇りに思っている。しかし実際には(後述するように)日本の技術は半世紀遅れている。(p.132)

■第3発明期の本質である「仕組み連動テクノロジ−」は目に見えないのでなかなか認識できない。戦後からアポロ計画のころまで(1945年-1969年)の25年間、米国で第3発明期の基礎技術が確立されたときに、日本は参加できなかった。それを未だに認識できていない。日本の技術は、厳しい言い方をすると半世紀遅れている。(p.186)

■「仕組み連動テクノロジー」は、目的に合わせて複数の単品が、それぞれ絡み合いながら最適に機能する。たとえば、ミサイル迎撃のための衛星、航空機、イージス艦、迎撃用ミサイル、操作する作業員、関係省庁への連絡網。米国ではそれぞれが一つのシステムとして繋がっている。日本は単品としては揃っている。単品同士を連動させるシステムもある。しかし突発的なミッションにこれらを繋ぎ合わせ、思うとおりに「仕組み連動」させるテクノロジーがない。(p.190-194)

■1993年は歴史的な転換点。91年に冷戦が終わり、インターネットとGPSが軍事から民間に開放され、世界に新しいビジネスチャンスを創り出した。93年にクリントンが「情報ハイウェイ構想」で大統領に選出。その後、94年にネットスケープとアマゾンが設立、95年にWindows95発売、Yahoo!とeBayが設立、98年にGoogleが設立。これらは人とモノとシステムを目に見えないネット上で連動させる仕組みだ。Appleも現在は壮大な「仕組み連動」を構築している。その間、日本は「失われた20年」だった。問題のポイントは、戦後の25年間(1945年-1969年)、米国を中心に起きた第3発明期のイノベーションに貢献できなかったこと。一週遅れとでも言えるくらいの差がついている。(p.219-227)

■「日本は世界一の技術国だ」「やっぱりモノづくりこそが、日本の生きる道だ」と安易に結論づけるのはやめるべき。強みと弱みを明確にし、弱い部分(=仕組み連動テクノロジー)を謙虚に受け容れ、チャレンジすべき。それは若い人たちにしかできない。理解力が高く、感性が鋭く、経験に邪魔されない柔軟な思考を持っているからだ。(p.229-230)

■価格競争の中でクォーツ時計を7000円で売り出したスウォッチや、ホンダやヤマハに機能・性能で劣るハーレーやドゥカティは、独自の「文化価値」を創り上げ価格競争から抜け出し、いまでは優良企業。この「文化価値」こそが、価格競争の次に来る「価値」のあり方。言い換えれば生活のコンテクストの中の「仕組み連動」。供給者である企業サイドだけでは、新しい「価値」を生み出すことは難しくなっている。(p.243-248)

■「マーケティング」の定義も変わる。提供物が単一商品だった過去は4P (Product, Price, Place, Promotion)戦略という企業サイドからの一方向な働きかけが必要だった。(今でも4Pが有効な分野は残ってはいる) パラダイム変換が必要になったひとつのきっかけは、2001年にP.シーボルト出した「個客革命」という著作。ポイントは「顧客が力を持ったという認識」「顧客は企業の資産」「顧客の関係づくりが決め手」「顧客経験」。新しいマーケティングの定義は「課題解決と新しい価値創造のための、関係づくりの社会的作法」である。(p.250-262)

■「イノベーション」を「技術革新」と翻訳したのは誤訳だ。本来は「人々に新しい『生活経験』を約束すること」 まだこの世に存在しない「生活革新」の製品やサービスや情報の組み合わせは、需要サイドと供給サイドや第三者が関わり合い、相互作用の中で初めて生まれてくる。(p.269-273)

■ある程度大きな企業は社内がサイロ構造になっている。改めて全社を見れば、社内は実はきわめて多様性に富んでいるが、横断的に関わって「イノベーションチーム」を作ろうという発想がない。この社内多様性の認識と活用こそ、「創発するマーケティング」の最初のチャンス。(p.282-284)

■イノベーションを起こすにはリーダーは不要。今はイノベーションは個人技ではなくチーム作業だから。役職の裏付けがある人ではなく、組織経験が乏しい若者の方が良い。そういう人たちを集めて自然発生的に異なる役割を担うようにするとチームの生産性は一番高くなる。イノベーションはリーダーによって窒息する。権威を振りかざすリーダーの所為で、対等な人たち同士の相互行為を通じて形成されるはずの共同学習と共進化、共形成が不発に終わる。リーダー待望論があるうちは、積極的な”当事者”は育たない。(p.291-300)

■競争ほど無駄なものはない。競争し合うよりは協力し合う方が、地球全体のためにはどれだけ有効か。さらに今は他産業からどんどん参入し入り乱れているので誰と競争しているのかわからなくなっている。「脱競争」を主張する人は増えている。競争論で著名なM.ポーターも「企業の定義を『シェアードバリューをつくること』に変えなければならない」と言っている。(p.313-318)

 

ごく一部を紹介しました。

実際には本書を読まれると、もっと多くのことを学ぶことができます。上記を読んで「これはいい」と思った方は、是非本書をご一読することをお勧めします。

本書を執筆され、ブログでもご紹介された山田さんには、深く感謝です。
 

 

個別の成功事例を学んでも、なかなか成功を生み出せない。だから、成功のプロセスを学ぶ

先日当ブログで書いた「GoogleやAppleが膨大な失敗プロジェクトを続けている理由が分かると、イノベーションが生まれる仕組みが分かる」の続きです。

 

私は、『「100円のコーラを1000円で売る方法」は、どのような要因でシリーズで50万部も売れたのですか?」というご質問をいただくことが、よくあります。

ご質問に対しては、いくつかの考えられる要因をお答えします。

しかし私が、同じ方法論で次の本を書いても、必ずしも売れるとは限らないでしょう。

それは「100円のコーラを1000円で売る方法」が売れたのは、編集者の方々とのご縁で生まれた数多くのアイデアや、出版社やメディアの皆様の様々なご尽力、市場の状況・ニーズ・タイミングなど、様々なご縁や幸運に恵まれたからだと思います。

  

私自身も、会社員時代の業務でも、執筆や講演などでも、常にアイデアを試しながら、仮説を立てて検証を繰り返しています。

ある程度の成功パターンはありますが、それでも成功確率は高くありません。

仮説検証を繰り返した中から、お客様などから評価をいただけるいくつかのモノが生まれているのが現実です。

 

成功事例を分析し、それをさかのぼり、どのように試行され、さらにアイデアがどうだったのかを分析するアプローチがあります。

絵にするとこんな感じです。

Success201311081  

しかし、このような分析をして、成功事例を真似てみても、なかなか成功しません。

それは先日のブログでも書きましたように、一つの成功事例の裏には、実は多くの失敗した試行プロジェクトと、膨大な試行しなかったアイデアがあり、成功事例分析だけではこれらのことが分析できないからです。

絵にするとこんな感じです。

Success201311082

喩えてみれば、成魚になった鮭を調べて、稚魚の時はどうだったか、卵はどのような状態だったかを調べて、卵の段階からそれを再現しようとしているようなものですね。

 

しかし成功事例はこの多くのアイデアや失敗プロジェクトの中から、あえて言うと「いくつものご縁と幸運に恵まれた」プロジェクトが成功している、というのが現実なのではないでしょうか?

それは鮭が生んだ3000個の卵の中から、幸運に恵まれた卵が成魚になるのと同じだと思います。

 

ですので成功を生み出すためには、成功を生み出すためのプロセスを学ぶことが、恐らく必要なのではないかと思います。

絵にするとこんな感じです。

Success201311083_2    

数多くのアイデアを生み出し、迅速に仮説検証で試行し見極めて、成功を生み出すことが必要なのではないかと思います。
 
 

このように考えると、質を究めることも大切ですが、一方で量をこなすことも大切だと思うのです。

 

私自身、まだまだ未熟ですので、これからも、量をこなして修行し続けたいと思っています。

毎日書き続け、累計2200エントリーを超えたこのブログも、そんな修行の場です。

  

GoogleやAppleが膨大な失敗プロジェクトを続けている理由が分かると、イノベーションが生まれる仕組みが分かる

新しいサービスや商品を生み出しているGoogleやAppleは、一方で膨大な失敗プロジェクトも生み出し続けています。

Googleの失敗プロジェクトは、次のとおりです。

Google X (2005)
Google Catalogs (2002→2009)
Google Web Accelerator (2005→2008)
Google Video Player (2005→2007)
Google Answer (2002→2006)
Google Wave (2009→2010)
Google Search Wiki (2008→2010)
Google Audio Ads (2006→2009)
Dodgevall (2005→2009)
Jaiku (2007→2009)
Google Notebook (2006→2009)
Google Page Creator (2006→2008)
Nexus Q (2012)
Pool Party and Disco
Google Buzz

Appleの失敗プロジェクトも、次のとおりです。

Apple III (1980)
Lisa (1983)
Macintosh TV (1993)
Newton (1993)
QuickTake カメラ (1994)
Pippin (1996)
iPod Photo (2004)
iPod Hi-Fi (2006)
Bluetooth ヘッドセット (2007)
ボタンのないiPod Shuffle
Ping (2010)
Facetime のオープン化 (2010)

GoogleやAppleの例を挙げましたが、両社に限らず、ほとんどのイノベーションの試みは失敗するのが現実でもあります。

 

では、ほとんどの試みが失敗するのであれば、イノベーションにはチャレンジしてはいけないのでしょうか?

そういうことではないと思います。

 

鮭は一度に3,000個の卵を産卵し、そのうちの一部が稚魚になり、成魚に育つのはさらにごく一部です。

ほとんどの卵が、成魚まで育ちません。

鮭はそれでも卵を産み続けます。

卵を産んだ時点では、どの卵が成魚になるかは全く分かりません。多くの偶然に恵まれた卵が、成魚に育ちます。

だから卵を産み続けないと、鮭は絶滅するのですよね。

 

同様に、アイデアがなければイノベーションの元は生まれませんし、イノベーションも決して成功しませんし、企業も存続しません。

卵=アイデア
稚魚=試行したイノベーション
成魚=成功したイノベーション

と考えると、分かりやすいのではないでしょうか?

 

ある知り合いの編集者の方から、「本も同じだ」とお聞きしたことがあります。

著者と編集者は、売れる本にするために、一生懸命知恵を絞って本を出しています。

しかしベストセラーになるのは、そのうちごく一部。

編集者と著者の努力に加えて、数多くの偶然が積み重なり、ベストセラーが生まれます。

そして、本を作っている時点でベストセラーになるかどうかは、決して分かりません。

それでもやはり、本を作らない限り、ベストセラーは決して生まれません。

 

このように考えると、企業も、つねに顧客視点で考え続け、アイデアを生み出し続け、試し、見極め続けることが必要なのではないかと思います。

実は企業にとって一番大きなリスクは、リスクを回避しようとするあまり、アイデアを試行しようとしないことだと思います。

 

 

「なぜ企業変革が難しいのか」を理解するために…E.H.シャイン著「企業文化 生き残りの指針」

企業による様々な不祥事のニュースを目にします。中には不祥事を繰り返す企業もあります。

これらのニュースを見るたびに、「なんでこんな当たり前のことができないのだろう」と感じることは多いと思います。

しかし一方で、会社員の経験がある方であれば、「みんなわかっているのに、なぜ当社はなかなか変わらないのだろう?」というジレンマを感じた方もまた、多いのではないでしょうか?

不祥事を起こした企業に勤める社員や経営陣の皆様も、決してサボっていない筈です。

これまでのやり方を変えるためにも、企業の変革が必要なのですよね。

では、なぜ企業変革ができず、不祥事がなくならないのでしょうか?

それは社員個人の問題ではなく、企業文化の問題なのかもしれません。

 

そのことを考えるために、E.H.シャイン著「企業文化 生き残りの指針」を読了しました。

シャインは組織文化論の第一人者です。研究者としてのみならず、世界中にある多くの企業で実際に企業変革プロジェクトに携わった膨大な知見に基づいて述べられた洞察には圧倒されます。

シャインの著書と言えば、「組織文化とリーダーシップ」が有名です。私は2000年に多摩大学・大学院の授業「組織文化論」でこのシャインの理論を学びましたが、この時点で本書は絶版になっていました。幸い、2010年に最新事例も取り入れた第四版が出版され、昨年白桃書房から翻訳版が出ています。

しかしこの「組織文化とリーダーシップ」は500ページを超える大著で、読了するのはなかなか大変です。

一方で「企業文化 生き残りの指針」は、「組織文化とリーダーシップ」のエッセンスを凝縮した実践版です。234ページで読みやすく構成されています。私は神戸出張の新幹線で読了することができました。

読んでみて、企業変革においては、「企業文化」は避けて通れない大きな課題であり、変革の障害になることが多いこと。そして企業文化の課題は決して単純化できるものではないことを再認識しました。

本書は組織に関する本質的な洞察に基づいていますので、書かれている内容は日本企業にも当てはめて考えられると思います。

 

企業変革に携わる方々は、とても多くのことが得られると思います。

 


「『価値で勝負しよう』というのはよくわかる。しかし業界全体で低価格競争の中、我々もとても苦労しているのだが、どうしようもない」→それは価格競争のリバウンド現象です

講演でお話しすると、よくこのように言われます。

 

「『価値で勝負しよう』というのはよくわかる。しかし業界全体で低価格競争の中、我々もとても苦労しているのだが、どうしようもない」

 

ご苦労、お察しします。そういう業界、私たちもすぐにいくつか思いつくのではないでしょうか?

 

お互いに価格競争を仕掛けている。

→値段を下げてお客さんが来るようになり、一時的に売上は上がる。

→しかし次第に客足が元に戻り、売上はさらに減る。

→価格を上げようものならば、さらに客足は遠のく。

→これを繰り返すことで、業界全体の市場が縮小してしまう。

しかし「何か新しいことにチャレンジされていますか?」と聞いても、従来の方法を苦労して繰り返し踏襲していることもまた、多いのです。
 

価格競争に陥って市場規模が縮小している状況は、ダイエットのリバウンド現象と同じ原理なのではないでしょうか?

食事を減らすことで、一時的に体重は減る。

→しかし筋肉も減るので、エネルギー消費量も減る。

→食事量を戻すと、エネルギー消費量が減っているので、前よりも体重が増え、体脂肪率も上がる。

→そこで再び食事を減らすと、さらに筋肉が減る。食事を戻すとさらに体重が増え、体脂肪率も上がる。

食事量を減らす = 価格を下げる
体重減少 = 売上増
体重増加 = 売上減
筋肉量  = 企業の体力あるいは高付加価値

と考えると、同じことですね。

いわば「価格競争のリバウンド現象」と名付けてもいいかもしれません。

 

リバウンドから抜け出すヒントは、筋肉量を増やすこと。つまり運動をしてエネルギー消費量を増やすことで、リバウンドの悪循環から抜け出すことができます。

体重が増えている状況での運動はかなり辛いものですが、こうしないと悪循環から抜け出せないのですよね。

 

企業でも同じではないでしょうか?

価格競争の悪循環から抜け出すヒントは、価値勝負へのシフト。

しかしいきなり100円で売っていたモノを1000円で売っても、お客様は見向きもしません。怒るのはいい方で、無視されます。

一方で、何もしなければジリ貧が続き、最後に待っているのは破綻です。

まずはとにかく何かを始めてみる。考えるだけでなく、実行する。

リバウンドから抜け出すのが辛いのと同様、大変かもしれません。

しかし悪循環から抜け出すためには、必要なことです。

 

iPODで絶好調だったAppleは、2007年にiPhoneを発表しました。

ジョブスの初代iPhone発表デモは完璧で、大成功。これが現在のAppleの成功に繋がっています。

しかし最初のiPhoneは非常に不安定でまともに動かず、プレゼンのリハーサルは失敗続き。トラブルの度に、ジョブスは担当者に「お前はクビだ」とどなったそうです。

その時の様子が、記事になっています。

「Appleの元エンジニア、綱渡りだった初代iPhoneデビューを語る」

iPODで成功しても、いずれ価格競争に陥る可能性もありました。そこでAppleは、あえてiPhoneという新しいチャレンジを行ったのですね。

  

「苦労しているけど、どうしようもない」とぼやいていても、実は、実際にやっていることは従来と同じ、ということが多いのではないでしょうか?

自分では「苦労」と思っていることが、実は「苦労」ではなく、「惰性」に陥っているのかもしれません。

世の中は急激に変わっているので、従来と同じ方法は通用しないことも多いのです。

順調な中でもiPhoneに挑戦したAppleのように、新たなチャレンジで自ら成長し続けることが大切なのではないか、と思います。

 

「OM-D E-M1」と「一眼レフ開発休止」を同時発表したオリンパスは、イノベータになれるか?

世の中は、今朝未明に発表された新型iPhoneの話題で持ちきりですが、私が気になっているのは、昨日発売されたこの製品。

待ちに待ったフラグシップ機・OM-D E-M1が発表されました!(下記写真はオリンパスのページより)

Omdem1

 

こちらで書きましたように昨年年末にオリンパスOM-Dが気になってしまった私は、今年年初にOM-D E-M5を購入、現在に至っております。

ということでOM-Dオーナーとしては、昨日から頭のかなりの部分が、このカメラのことで占められてしまっています。

このOM-4 Ti (1986年発売)と並べて撮影した写真なんかは、グッときます。OM-4のデザインは大好きでしたが、そっくりですね。「オリンパス、なかなかわかっているじゃん!!」という感じです。

さらに新たにM.ZUIKO PROという新しいプロ仕様レンズシリーズも発表され、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO (35mm換算で24-80mm/F2.8)の発売とか、M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO (35mm換算で80-300mm/F2.8)の開発とかも発表されており、盛りだくさんです。

これまでOM-Dはパナソニックに比べてハイエンド・ズームレンズの充実が課題でしたが、力を入れていく様子がわかります。

デジカメWatchの仕様比較を見るとOM-D E-M5と比べて、さすがにフラグシップ機だけあって、一線を画した性能のようです。ただ若干重いようですね。(撮影時で、約497g vs. 約425g)

 

一方で、今朝(2013/9/11)の日本経済新聞を見ると、『一眼レフ開発休止 オリンパス「ミラーレス」に集中』というタイトルで、オリンパスは従来型の一眼レフ(E-1等)の開発は休止して、ミラーレスであるOM-Dシリーズに経営資源を本格的に投入すると報じています。

オリンパスOM-Dのマイクロフォーサーズは、センサー面積がフルサイズ35mmカメラの1/4になります。しかし、画質的には遜色は感じません。

実際、世界的にも高名な動物写真家・岩合光昭さんも、現在開催中の写真展「ネコライオン」をオリンパスで撮影しておられます。(このタイミングで岩合さんの写真展を企画するオリンパスのマーケティング戦略も、素晴らしいですね)

 

さらにこちらにも書きましたように、OM-Dシリーズの携帯性は、抜群に優れています。同一スペック機材のフルサイズ版と比較すると、重量1/3程度という感じでしょうか?

以前は、撮影の際には一眼レフボディを何台も持ち歩いていましたが、さすがに最近はあまり重いモノは持ち運ぶのが億劫になってしまいました。個人的には、OM-Dで必要十分です。

 

イノベータが破壊的イノベーションを起こす時は、ローエンドのニーズに応えるような、安くて手軽な製品を出します。

最初は「こんなのオモチャ」と言われたりします。

そして徐々に性能を向上させていき、ハイエンドニーズに応える製品で市場を押さえてしまいます。このタイミングでは、古(いにしえ)の覇者は「手軽さ」で太刀打ちできない状態に陥ります。

ではカメラ市場ではどうか?

ニコン・キヤノンに加えてソニーも加わったトップシェアベンダーの牙城は、なかなか難攻不落かもしれません。しかしオリンパスがカメラ市場を席巻するイノベータになると、これは面白いかもしれませんね。 

「100円のコーラを1000円で売る方法 3」で描いた「イノベーションのジレンマ」が、まさに今、一眼レフカメラ市場で起こりつつあるのを、私たちは目の当たりにしているのかもしれませんね。

 

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なぜライフネット生命は、シェアで圧倒する大手生保を相手に、半額を実現できたのか?

本日2013/7/12の日本経済新聞の記事「金融ニッポン 第7部 変革の波3 日生に挑んだ男」で、ライフネット生命の挑戦が紹介されています。

「低価格をいかに実現するか」を考える上で大変参考になりました。記事の内容を解説しながらご紹介します。

 

ライフネット生命は、大手生保と比べて保険料を半額にして、創業5年で契約件数は18万件を超え、海外の保険会社からも問合せが増えています。

一般に「価格勝負は避けるべきだ」と言われています。シェアが一番大きい企業だと固定費を下げることができ、業界で一番安く提供できるからです。

ではなぜ新興企業のライフネット生命は、大手生保の半額で保険を提供できるのでしょうか?

 

その理由は、大手生保と比べて、はるかに低いコスト構造を実現できているからです。

保険料は純保険料(保険給付金の原資)と、保険会社の手数料(人件費、店舗費、光熱費、他)から構成されています。

ライフネット生命は、この構成の内訳を業界で初めて公開しました。

例えば30歳の男性が期間10年で3000万円の死亡保険に入ると、保険料は毎月3484円。うち純保険料は2669円。手数料は815円。

これが大手だと2倍の7000円前後になります。純保険料はどこも同じ。ですから大手は手数料が4000円を超えているのです。

その理由は大手生保のGNPと言われている販売方法です。「義理・人情・プレゼント」ですね。手間がかかる保険の販売方法は、純保険料を上回る手数料を必要とし、高い価格になってしまいます。

ライフネット生命はネット販売に特化して、この部分をなくしました。だから手数料が安いのですね。

では大手生保も一気にスリム化できるか、というと、現在のしっかりと確立した販売チャネルは簡単には変えられません。

大手生保は、「100円のコーラを1000円で売る方法3」でもご紹介した、「イノベーションのジレンマ」に陥っているのです。

規制に守られた高い参入障壁が、大手生保が長年GNPと言われる販売方法を継続できた理由です。しかしライフネット生命はそこを直球勝負で突破して、風穴を空けました。

 

本記事の最後はこのように締め括っています。

—(以下、引用)—

価格競争の行き過ぎは保険経営の安定性を損なうが、価格の透明さが顧客本位の販売につながる。

—(以上、引用)—

ライフネット生命ホームページの会社情報には、

正直に
わかりやすく、
安くて、便利に。

と書かれています。

ライフネット生命は、あくまで顧客本位で考えることを原点に、強いパッションと実行力で様々な壁を突破できたからこそ、半額のサービスを実現できたのですね。

 

 

新日本型経営の誕生へ ….NHKスペシャル「メイド・イン・ジャパン 逆襲のシナリオⅡ」

昨晩(2013/5/11(土) 21:00)のNHKスペシャル「メイド・イン・ジャパン 逆襲のシナリオⅡ 第1回 ニッポンの会社をこう変えろ」を見て思ったこと。

  • 日本人のものづくりの強み(高品質、信頼性)がなくなったわけではない
  • 世の中が多様化し変化が急激になっているのに、日本の組織が、ものづくりの考え方(大量生産・大量供給)を高度成長期から変えておらず、イノベーションが起きていないことが問題である
  • だから、組織の壁(個人間/事業部間/会社間)と考え方の壁(自分の専門分野)を壊して、日本が持つ強みを活かして、新しい領域にチャレンジし、イノベーションを起こせば、日本は必ず再生する
  • それはかつての黄金期のメイド・イン・ジャパンの復活ではない。まったく新しいメイド・イン・ジャパンの誕生である
  • 既に様々な成果が生まれている

日本が独自に持っている強みを否定するのではなく、活かせるように発展させていくのですよね。

 

今晩(2013/5/12(日) 21:00-)、第2回を放映します。

メイド・イン・ジャパン 逆襲のシナリオⅡ 第2回 新成長戦略 国家の攻防

国の政策に焦点を当てるとのこと。必見です。

 

なお、昨晩の第1回の再放送は5/16(木) 1:39AM-2:37AMの予定だそうです。見逃した方は是非。

 

 

お客さんの要望が、進化の源泉

大木さんが「お客さんの言いなりvsお客さんの言うことをきかない、どっち?」というエントリーを書かれています。なるほどと思いました。

「お客さんの言うことなんて聞かないよ」
「当社は、お客さんが言うことは絶対なんです」

大木さんが紹介されていた例は、一見正反対に見えますが、お客さんに提供する価値をしっかりと考えている点は共通しています。

お客さんに提供する価値を深く考えずに、自分勝手に作っていたり、お客さんの言うことを鵜呑みにしていることがいけないのですね。

 

本日2013/5/10の日本経済新聞「春秋」でも、同じことが書かれていました。

東大阪には会社の看板と実際に作っているものが違うことが多いそうです。たとえばフセラシ社。螺子(ラシ)とはネジのこと。しかしこの会社は世界に7つの大工場を持ち、この会社の部品がないとスマホもハイブリッド車も作れません。

「春秋」はこのように締め括っています。

—(以下、引用)—

なぜ社名と仕事が異なるのか?東大阪の職人がよく口にする言葉が「どないかします」である。こんな部品をつくれるかと聞かれれば、決して無理とは言わない。次々と大企業の要望に応えていくうち、いつのまにか「本業」からずれていった。偽りの看板は進化の証しでもある。さて、大企業の方は進化しているのだろうか。

—(以上、引用)—-

お客さんは無理難題を言うものですし、その高い要望に応え続けるのは、本当に大変ですが、このおかげで生物が環境に適応して進化するように、企業も進化するということは、実感します。

  

 

iWatchで、Appleは時計を再定義できるか?

やや古い記事ですが、下記のような噂があります。

「iWatch」に求められる9つの項目–誰もが欲しがるスマートウォッチになる条件

アップルの取締役、「iWatch」のうわさに言及

AppleがiWaitchを出す意味は何でしょうか?

 

7年前の2006年、当ブログで「あなたは腕時計、していますか?」というエントリーを書きました。下記はそのサマリーです。

■腕時計装着率は、1997年の70%から2005年に46%へ低下した

■2005年腕時計市場は5886億円で前年比8%増。7割がスイス製高級品

■腕時計の価値が「現在の時刻を知る」から「自分自身を表現する」へと再定義され、市場が拡大した

 

このエントリーを書いてから7年間が経ちました。

相変わらず私も腕時計をしていませんし、腕時計をしている人は増えていないように思います。

一方で腕時計市場にはスマートウォッチも出始めています。機は熟しています。

 

Appleはこれまで、音楽プレイヤーをiPodで、電話をiPhoneで、それぞれ再定義してきました。

ただし先行プレイヤーではなく後発プレイヤーとして参入、大がかりな仕掛けと抜群の使い勝手で市場を席巻しました。

このように考えると、Appleが次に再定義するのは腕時計、というのは自然な流れなのかもしれません。

 

ジョブスなき現在、iWatchで時計を再定義できるかどうかが、今後のAppleがイノベーションを継続できるかどうかの試金石になるのかもしれませんね。

 

 

一勝三敗一分けだったプロ棋士 vs.コンピュータ。写真の世界でこの30年の間に起こったことと近いことが、将棋界でも起こっているのかもしれない

五種のコンピュータ将棋ソフトと、五人のプロ棋士が戦う第二回電王戦は、プロ棋士の一勝三敗一分けでした。

2013/4/27の日本経済新聞の記事「文化 将棋界、電脳時代の妙手は」では、プロ棋士の感想や新しい取り組みを紹介しています。

—(以下、引用)—-

…既にその先を見据える棋士もいる。(人間対コンピュータという)この構図に違和感を覚えるという森内名人は「コンピュータはあくまで道具。人間とは能力も役割も異なる」と話す。

…パソコンを持ち込んだ人間同士が戦う「アドバンスドチェス」という新種の対戦も試みられている。局面の形勢判断に優れる人間と、圧倒的な量・速度の読みの能力を持つコンピュータが力を合わせることで、さらに質の高い対局を作りだそうという試みだ。

…「コンピュータに頼るなんていかがなものか」。プロアマ問わず一部に残るそんな偏見も、すぐに薄れることだろう。プロ棋士とは、将棋の真理を探究する天才たちである。探究に有効な手段があるのなら、敬遠する方が不自然だ。

—(以上、引用)—-

この記事を拝読し、写真の世界でも数十年前に起こったことを思い出しました。

 

「自動露出・自動焦点」という言葉が分かる方は40代以上の方でしょうか?

長い間、カメラは基本的に露出はマニュアル、ピントも人間が合わせるのが普通でした。

私が学生の頃、自動露出カメラは既に普及していましたが、私はマニュアルで露出を決めていました。

当時は露出計を使わなくても、「この天気なら、ISO 100のフィルムだと1/60秒、F5.6」と露出が読めたものです。

またピントをすぐに合わせられることも大切なことでした。私も暇があればファインダーを覗いて被写体にピントを合わせる練習をしていました。

写真の仲間内では、この手の腕を競い合っていました。

 

その後、カメラの自動露出の精度は上がっていき、次第に自分で露出を決めることはなくなりました。

ピント合わせも、1980年代後半にミノルタαやキヤノンEOSといった本格的な自動焦点一眼カメラが登場して自動焦点の精度と速度が上がり、自分でピント合わせに手間と時間をかけることもなくなりました。

露出ミス、ピンぼけといった初歩的なミスは激減、シャッターチャンスをものにできる確率はかなり向上しました。露出とピント合わせという点では、プロに近い技術をアマチュアも手にしたわけですね。

さらに以前は銀塩リバーサルフィルムは露出がとてもシビアでした。しかしデジカメをRAWデータで撮影すれば撮影後の補正はかなり余裕を持って行えるようになりました。

露出合わせ、ピント合わせ、各種補正という面では人の手間を大幅に削減され、「よい写真を撮る」という写真を撮る目的が達成できるようになりました。

 

「いやいや、露出もピントも、人間が自分で決めることに価値がある」という考え方も、もちろんあるでしょう。

しかし、「そういうことは機械に任せて、人間はいい写真を撮ることに集中すべきだ」という考え方もあるはずです。

 

記事の中の「コンピュータはあくまで道具。人間とは能力も役割も異なる」「探究に有効な手段があるのなら、敬遠する方が不自然」という話を読み、将棋の世界でも、コンピュータと将棋ソフトの実力が上がり、これと近いことが起こっているように思いました。

 

 

大人になっても、真っ白な紙を渡されて、自由に絵が描けるか?

最近、日本で改めて「イノベーションをいかに生み出すか?」が大きなテーマになっていると感じました。

2013/4/22の日本経済新聞のコラム記事「経営の視点 ツイッター生まれない日本 革新を拒む前例主義」も、イノベーションがテーマになっています。

—(以下、引用)—-

米国にはその良さをすぐに認め、メインストリームに引き上げる柔軟さがある。日本の場合、破壊的イノベーションはしばしば硬直性に阻まれる。「前例がない」という理由で古いシステムにしがみつく傾向がある。

—(以上、引用)—-

日本がまだ敗戦のダメージから立ち直れなかった1950年代、当時の最新技術トランジスターの可能性に目をつけて、いち早くトランジスターラジオを生み出したソニーのように、日本でもかつて沢山のイノベーションが生み出されていました。

一方で私たちも「前例がない」とは明言しないにしても、破壊的イノベーションの価値がなんとなく分かっていても、従来の既成概念に安住し勝ちです。

既成概念に安住してしまうことがイノベーションを阻んでしまう一つの要因です。

—(以下、引用)—

(アンドロイドを開発した)ルービン氏と(スカイプ創業者の)ゼンストローム氏がそろって強調したのは「アジリティ(敏捷性)」だ。デジタルの時代はめまぐるしくトレンドが変わる。「最初に立てた計画に固執していたら成功できなかっただろう」(ルービン氏)

—(以上、引用)—

アンドロイドは当初デジカメ向けソフトでしたが、開発中にスマホに移る市場の変化を見て戦略を切り替えたそうです。当初の計画に固執せず、世の中のトレンドに合わせて柔軟に変えていくことが必要なのですね。

記事ではMITメディアラボ所長の伊藤穣一氏のコメントも引用しています。

—(以下、引用)—

「僕が成功したのは日本で一切、教育を受けなかったから。幼児は好きなときに好きな絵を描くが、小学校に入ると、勝手なことをしちゃだめ、とクリエイティビティ(創造性)をつぶされる。だから日本人は大人になると誰も絵をかかない」

—(以上、引用)—

幼児は真っ白な紙を渡されると嬉々として色々なことを描き始めます。私は自分が子供の頃に描いた絵のスケッチブックを見返したことがありますが、とても自由に色々なことを描いていました。

しかし大人になって真っ白な紙を渡されると、私たちはどのようにするでしょうか?

もしかしたら、「何を描けばいいのか?」と、戸惑うかもしれませんね。

記事では「日本人の創造性を解き放つ制度改革につなげたい」と締め括っています。

確かに制度改革も必要ですが、クリエイティビティは結局、個人から生まれるものです。

私たち一人ひとりが真っ白な紙を渡されて色々なことを描ける大人であり続けるような感性を持ち続けたいものです。

 

 

「外食揺さぶる『俺の』革命」—よそ者がイノベーションを起こす時代がやってきた

本日2013/3/18の日本経済新聞のコラム「経営の視点 外食揺さぶる『俺の』革命」で、東京・銀座を中心に低価格で高級料理を提供する「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」を運営する「俺の株式会社」が紹介されています。

「俺のイタリアン」や「俺のフレンチ」は、時々街で見かけていたので気になっていました。

—(以下、引用)—

立ち食いが中心の店内では、フォアグラやキャビアなどを使ったメニューが一皿1000円前後と高級店の三分の一程度。女性客を中心に平日から行列ができ、1ヶ月後の予約も即日満員になる。

……

外食チェーンは原材料の仕入れコストを通常、売上高の3−4割に抑えるが、「俺の」シリーズでは低価格で高級料理を出すために6割を目安とする。….

当然高コスト体質だが、立ち食い中心の利点がここで生きる。利用客の回転率が速く、売上でコストを吸収する。平均所得の高いビジネスパーソンが集まる銀座に集中出店し、食材の融通もできる。開店2ヶ月以上の店は全て黒字で、今後も出店を加速する。「業界の常識は分からないことが功を奏した。株式上場も目指す」(坂本氏)

….組織の活性化には新しい視点を持つ「若者」「ばか者」「よそ者」が必要というが、若者の数が減る時代。よそ者視点を備えた企業は強い。

—(以上、引用)—-

コラムを読んで、まさにイノベーションを起こして新しい顧客を創造していることが分かりました。

従来のフレンチレストランへの影響が興味あるところです。

従来のフレンチレストランの顧客は、美味しい料理を楽しみたいというニーズに加えて、ゆっくりと食事を楽しみたいというニーズもあるように思います。

前者のニーズは「俺の」シリーズに吸収されるかもしれませんが、後者のニーズは従来のフレンチに残るのでなないでしょうか。

さらに新規顧客が創造され、全体的に高級フレンチの市場が拡がることを考えると、従来型フレンチにとってもメリットはあるかもしれません。

コラムではさらに白物家電に参入して成長を続けるアイリスオーヤマの大山健太郎社長の言葉も引用しています。

—(以下、引用)—

「国内の家電メーカーは掃除機の開発では掃除機の観点しか考えない。アイリスは生活者の視点と日々の売れ筋情報から開発を始める」

—(以上、引用)—

よそ者がイノベーションを起こし、活躍する時代がやってきたのではないでしょうか?

 

 

市場を守るな、顧客を創造せよ

世の中はすごい勢いで動いています。

いわゆるプロダクトライフサイクルも、どんどん短縮化しています。

例えば下記は平成17年の中小企業白書に掲載されているヒット商品のライフサイクルの比較です。データはこちら

17210130

この調査、一目瞭然です。

5年以上続いたヒット商品は、1970年代以前は59.5%。

1990年代には26.8%。2000年代はわずか5.6%。

さらに2000年代は2年以上続いたヒット商品は50%を切っています。

せっかく市場を立ち上げてビジネスで稼ぐようになっても、その賞味期限はどんどん短くなり、半数以上が2年持たないということですね。

今は2010年代です。賞味期限はさらに短くなっている、というのは、ビジネスパーソンの皆様は実感なさっておられるのではないでしょうか?

 

このような状況の中で市場を守ろうとしても、市場自体があっという間に消滅してしまいます。なかなか時代の流れに逆らうのは難しい時代です。

最近、日本国内で「イノベーション」という言葉がよく聞かれるようになりました。

むしろ考え方を変えて、労力を市場を守ることに費やすのではなく、イノベーションにより新しい顧客を創造し、市場を生み出すことが必要なのではないか、と思います。

 

 

50年間、困難に挑戦し発展してきた、常磐ハワイアンセンター

先日、映画「フラガール」を見ました。見るのは3回目ですが、いい映画です。

Hawaiian girls

改めて感じたのは、エネルギーが石炭から石油に切り替わった1965年に、炭鉱の町に「常磐ハワイアンセンター」(現在、スパリゾートハワイアンズ)を作ろうと考えた先見性です。

実はこの常磐ハワイアンセンターの歴史は、何回も危機を迎えて、それを克服するという挑戦の歴史でもありました。

 

当時は石炭業界が構造不況に陥り、1955年から始まった常磐炭鉱の人員整理対策として、雇用創出と新たな収入源確保のために常磐ハワイアンセンターを作りました。

炭鉱では、地下から沸き上がる温泉水は厄介者扱いされていました。逆転の発想で、その豊富な温泉水を利用し、当時「行ってみたい外国ナンバー1」だったハワイをイメージして作ったリゾート施設が「常磐ハワイアンセンター」だったのです。

 

以下、Wikipedia「スパリゾートハワイ」からの引用&抜粋です。

 

1966年のオープン前後
常磐ハワイアンセンターの先行きを疑問視する声が多数あった。炭鉱社員の転身にも根強い反対があった。「10年続けば御の字」という悲観的な見方も。

最終的には当時の常磐湯本温泉観光社長・中村豊氏が押し切って事業を進めた。

1966年オープン。当時の日本は高度経済成長期。海外旅行は庶民には高嶺の花だったこともあり、当時破格の1泊3万円以上にも関わらず年間120万人強の入場者を集めた。1968年140万人突破、1970年には155万3千人となりピークに。

 

1971年
ニクソン・ショックで1米ドル=360円から308円に切上げ。1973年変動相場制移行とオイルショックで輸出依存型の高度経済成長は終焉。1975年入場人員は年間110万人にまで落ち込む。1977年以降は年間100万人〜110万人程度で横ばい。

 

1988年
バブル景気が始まると、1988年に一気に年間140万人超まで入場人員が増加。総事業費50億円をかけてリニューアル開始。

 

1990年
オープン25周年。「スパリゾートハワイアンズ」に改称。1991年は年間140万人超。

しかしバブル崩壊で1992年には年間120万人台にまで減少。

さらに1985年のプラザ合意で急速な円高が発生し1994年には1米ドル=100円の大台を突破、さらに格安航空券が一般化。「本当のハワイに行った方が安い」と言われるように。

1994年以降、年間110万人前後で横ばい。

 

1997年
日本一の大露天風呂「江戸情話与市」をオープン、同年年間120万人を回復。右肩上がりに入場人員の増加が続く。

「ハワイ」「南国」に、後にブームとなる「温泉」を加えたこと、東京や仙台などからの無料バスによる送迎サービスを行うなどの集客努力などが功を奏した。

2000年アクアマリンふくしまが開館、いわき市内で回遊性も生まれた。2005年年間利用者数150万人を達成。

 

2006年
映画『フラガール』全国公開を機に、「ワイワイ・オハナ」「アロハタウン」「フラ・ミュージアム」など次々オープン。2007年、過去最高の年間161万1千人が入場。

 

2011年
3.11東日本大震災発生。休館。

福島第一原発事故の影響で20 – 30km圏内に屋内退避指示。屋内退避指示範囲はいわき市面積の0.6%であり、同施設は原発から51Km離れていたが、報道で「いわき市の一部に屋内退避指示」と曖昧に伝えたために県外からのトラックが忌避。物流ストップ。(4/22に屋内退避指示解除、フラダンスのレッスン再開)

さらに4月11日、同地震の余震(震度6弱)が発生。「ウォーターパーク」に大きな被害。長期休館を余儀なくされる。

2012年2月8日、復旧費42億円をかけて全面再開。総工費55億円をかけて新ホテル「モノリスタワー」をオープン。

まさに「苦闘の歴史」。

 

自らの意志で挑戦し、変革を続け、克服してきたスパリゾートハワイ。

同じく変革に迫られている現代の企業にとっても、学ぶべき点は多いと思います。

 

目の前のパックを奪い合うのではなく、パックが行く先に先回りすべし

2012/9/1の日本経済新聞の記事「アップルvs.サムソン混戦」で、編集委員の村山恵一さんが「『ジョブス依存』革新生まず 決着、法廷より市場へ」という解説記事を書いておられます。

—(以下、引用)—

パックがあった場所ではなく、パックが向かおうとしているところへスケートを走らせるーー。アップルのスティーブ・ジョブス前最高経営責任者(CEO)は生前、アイスホッケーの名選手が放ったこの言葉が好きだと語り、それを地でいく経営で業界を主導した。

—(以上、引用)—

解説記事では、ジョブスは、iPod miniが大ヒットしていた2005年にiPod nanoを発売してminiへの巻き返しに躍起だったソニーとサムソンを突き放し、築き上げたiPodの市場を破壊するのを恐れずに今度は2007年にiPhoneを投入したことを紹介しています。

しかしながら、記事にも書かれているように、現在の法廷論争を見ていると目の前のパックを奪い合っているように見えます。

確かに現在のビジネスを考えると目の前のパックも大切ですが、未来の差別のためにはパックが行く先に先回りすることが大切。そして未来は今の積み重ねで作られるのです。

「パックが行く先に先回りすべし」という言葉は、私たちにとっても重要な示唆を与えてくれていると思います。

 

 

創造的なアイデアを生み出すために必要なのは、行動的スキル

スティーブ・ジョブスの偉業を見ると、アイデアは持って生まれた才能の産物に見え勝ちです。

しかしクレイトン・クリステンセンの『イノベーションのDNA』 を改めて読み直してみると、以下の文章がありました。

—(以下、P.24より引用 )—

…革新的なアイデアがどのように生まれるのか、その経緯を調べてみると、次のようなきっかけであることが多い。(1)現状に異議を投げかける質問、(2)技術や企業、顧客などの観察、(3)新しいことを試した体験や実験、(4)重要な知識や機会に目を向けさせてくれた会話。

(中略)

この話をもち出した理由は何か?創造性が、ただの遺伝的素質でも、認知的スキルでもないことをわかってほしかったからだ。創造的なアイデアを生み出すのは、行動的スキルなのだ。このスキルを習得すれば、あなたも自分自身や仲間から革新的なアイデアを引き出せるようになる。

—(以上、引用)—

確かにアイデアの結果だけをシンプルに見せられると、あたかもその結果だけを見せられた答えに向かって一直線に進んできたように思いがちです。

しかし当然ながら、そこに至るまでは試行錯誤があります。

だから、まず行動すること。

行動せずに「そんなのはオレも昔から考えていた」と言うケースと、まず色々と行動して色々なアイデアを自ら試して実現するケースでは、言うまでもなく天と地ほどの差があります。

 

色々なアイデアを試すためには、人生は意外と短いように思います。まずは行動していきたいものです。

 

 

 

14歳・山本恭輔さんのTEDxOsakaのプレゼンが、感動的に素晴らしい

最初に、TEDxOsakaの8人の登壇者の中で、ただ一人観客からスタンディングオベーションを受けた、このプレゼンをご覧になって下さい。

堂々とした、素晴らしい英語のプレゼンです。山本さんの強い想いがストレートに伝わって来ます。

ちなみに観客の中には、TED Main役員のDeron TriffやGarr Reynoldsもいたそうです。

「ついに日本もこういうすごい中学生が現れたか!プレゼン慣れしていて、しかも英語でしっかり意思表示。準備にも時間をかけたのだろうなぁ」

と思いながら、詳細記事「プレゼンの神様を魅了した14歳のプレゼンテーション」を読んで、さらに驚きました。

・実は山本さん、今回が生まれて初めての英語のプレゼンだった。

・準備日程は3日。しかも校外学習などもあって、英語のプレゼンを準備して、練習したのは1日だけ。それも帰宅して宿題が終わってから。

・実は人前で何かすることって苦手だった。

・「TEDのDeron Triff氏に僕の想いを伝えたかったんです」という通り、強烈な想い・パッションがあった。

・神戸大学の杉本先生からの『プレゼンを楽しめ (enjoy)』という言葉に勇気を貰い、あまり緊張することなくプレゼンをすることができた。

・プレゼンで意識することは、と聞かれ、「シンプルにすることです。シンプルにすることでプレゼンは人々に伝わると僕は思います。….僕はプレゼンテーションと出会って、不要な情報を捨てることを学びました。そして、分かりやすさの本質は捨てることだとGarr Reynolds先生に教えて頂きました」

 

ううむ。素晴らしいですね。

プレゼンで大切なのは、「何かを伝えたいという強い想い」であることが、とてもよく分かるプレゼンでした。

Tシャツに書いている"presentation zen"の文字がいいですね。

 

記事の最後で、山本さんは以下のように語っておられます。

「元々、僕は器用じゃないし、ノロいし…だからこそ、人一倍努力しないといけないと思うんです。なぜなら夢はかなうものではなく自分から叶えるものだと思うからです」

 

10代で頭角を現されるのは「天才型」の方が多いのですが、山本さんの場合は「努力型」なのが素晴らしい。しかもその努力の方向性は、私がこの年齢になってやっと分かったことです。

われわれ大人も頑張らなければ、です。

 

ちなみに、山本恭輔さんの詳細はこちら

応援したいですね。

 

 

全く新しい次世代電気自動車を29ヶ月で開発し、全米カーオブザイヤーを受賞したリーダーのスピーチ

2011年、全米カーオブザイヤーを受賞したGMのシボレー・ボルトという車があります。

この車、全く新しく設計された次世代の電気自動車であり、書かれたソフトウェアはなんと1,000万行。しかしわずか29ヶ月で開発されました。

まさにイノベーション。

困難なプロジェクトを率いてきたリーダーである、GM社エグゼクティブ・ディレクターのミッキー・ブライ氏のスピーチが、YouTubeでご覧になれます。(日本語字幕付きです)

 

米国IBMのRational事業部が作成したYouTube映像ですが、「リーダーの言葉かくあるべし」と思ったので紹介させていただきました。

古き良きアメリカの「男の中の男」という感じですね。

 

 

ミラーレス一眼市場で起こりつつある「イノベーションのジレンマ」

クレイトン・クリステンセンが唱えた、「イノベーションのジレンマ」という理論があります。同名の「イノベーションのジレンマ」という本に理論がまとまっています。Wikipediaによると、下記のように書かれています。

—(以下、Wikipediaから引用)—

優れた特色を持つ商品を売る巨大企業が、その特色を改良する事のみに目を奪われ、顧客の別の需要に目が届かず、その商品より劣るが新たな特色を持つ商品を売り出し始めた新興企業の前に力を失う理由を説明したマーケティングの理論

—(以上、Wikipediaから引用)—

この「イノベーションのジレンマ」が、まさに起こるかもしれない市場があります。それはデジタル一眼市場です。

 

デジタル一眼の市場シェアは、長らくキヤノンとニコンが二大勢力でした。

キヤノンの成功は、1980年代、ミノルタ(現ソニー)のαシリーズを契機に生まれたオートフォーカスの流れに対応するために、1987年にそれまで大成功していた従来のFDレンズ資産を脱して、全く新しいシリーズとして世に出されたキヤノンのEOSシリーズがベースとなっています。このEOSシリーズは世界的にも大成功しました。

 

そのようにキヤノンとニコンが一大勢力となっているデジタル一眼市場ですが、最近変動が起きつつあります。

こちらにありますように、販売額シェアでは、ミラーレス一眼がデジタル一眼レフを徐々に食っているのです。

このミラーレス一眼、現時点ではパナソニックのLUMIXシリーズ、ソニーのNEXシリーズ、オリンパスのPENシリーズが代表的な機種です。

カメラの大きさは従来型デジタル一眼レフの半分程度で、当初は「気軽に写真を撮りたいという」女性を中心に人気が出ました。

 

しかし最近、状況が変わってきました。

例えば、アサヒカメラ2011年12月号の特集「互いの最強機能で頂上対決!ミラーレス vs. 一眼レフ」にもあるように、ミラーレス一眼でも、画質、応答速度などの点で、プロフェッショナル用のデジタル一眼レフと同等の性能を出しているケースがあります。

デジタル一眼レフの中でも特に重いプロフェッショナル用と比較すると、ミラーレス一眼は重さ1/3程度。しかしカメラ内部にミラーの可動部やガラスの固まりであるプリズムを置く必要がなくなるため、設計に無理がなく、かつ高い性能が出せるようです。

もちろん、プロフェッショナル用カメラで何よりも求められるのは、画質・応答速度だけでなく、耐久性です。この耐久性については、恐らくミラーレス一眼はまだ未知数です。

 

このように従来のデジタル一眼レフを置き換える可能性を秘めた、ミラーレス一眼。

現在、主なカメラメーカーはミラーレス一眼を市場に出していますが、キヤノンだけはまだ市場に製品を出していません。

いつ出すのか?

デジカメWatchの記事「インタビュー:ミラーレスの「今」と「これから」【キヤノン編】~常務取締役 イメージコミュニケーション事業本部長 眞榮田雅也氏に訊く 」によると、2012年には何らかの形でキヤノンからの回答が出るようです。

 

実は私、一時期は写真家になろうと真剣に思っていた程、写真をやっていました。写真展も数回行っています。→こんな作品を撮ります

写真機材は学生時代からキヤノンを愛用しています。1980年代・90年代前半は旧F-1、新F-1、90年代後半はEOS-1n RS、そして2000年代からデジタル一眼レフもEOSを使っています。

ということでキヤノン、特にEOSシリーズには、特別に愛着を持っています。

思い起こせば、1985年にミノルタがαシリーズで話題を独占したオートフォーカス市場に対して、キヤノンがEOSシリーズで回答を出したのは2年後の1987年。

キヤノンファンの一人としても、キヤノンがいかに「イノベーションのジレンマ」を克服するのか、今回も期待したいところです。

ミラーレス一眼を買うのは、キヤノンの答えが出るまでしばらくお預け状態になりそうです。

 

 

未来は自分たちで創造できる、ということが実感できる、IBM Next 5 in 5

IBMは毎年、"Next 5 n 5"を発表しています。

「今後5年間で人々の生活を一変させる5つのイノベーション」という意味です。詳細はこちらにあります。

ITメディアの記事「IBM、恒例の“5つの未来予測”2011年版を発表」でも紹介いただいています。

2011年に発表した、その5つとは、

1.あなたの作ったエネルギーが誰でも使えるように
2.もうパスワードは不要に
3.人の心を読むことが空想から現実に
4.デジタル・デバイドのない世界に
5.迷惑メールが価値あるお知らせに

この5分半の動画をご覧になるとよく分かると思います。(英語で恐縮です)

 

実は、このIBMの"Next 5 in 5"は単なる夢物語ではありません。

IBMが実際にグローバルで取り組んでいる様々な研究やプロジェクトに基づいています。

 

では、5年前、2006年の"Next 5 in 5"はどのようなものだったのでしょうか?

2006年のNext 5 in 5はこちらでご覧いただけます。当時は夢物語に見えましたが、既に実現しているものも多いですね。

1.いつでも、どこにいても健康管理
2.リアルタイムの音声翻訳
3.3Dインターネット到来
4.環境問題をナノテクノロジーで解決
5.あなたの気持ちをわかってくれる携帯電話

これらを見ると、"The Best Way to Predict the Future is to Create it" (未来を予測する最良の方法は、それを創造することだ)、ということが実感できますね。

 

 

 

数十人のエンジニアで、千人以上のエンジニアと互角の戦いをした最新低燃費エンジン事例

一般的に、物量で劣る兵に対し、物量で勝る兵の方が、戦では強いと言われています。

しかし、2011/12/11の日本経済新聞の記事「イノベーション 成功の法則(3)「欠乏」「不足」が新機軸生む」で、改良し尽くされていると思われていたエンジン技術を非常に少人数のエンジニア陣で見直し、非ハイブリッド車ながらリッター30Kmを実現したマツダの低燃費エンジンの例が紹介されています。

—(以下、引用)—

なぜ人員や予算の潤沢な巨大企業ではなく、マツダのような中堅メーカーからイノベーションが生まれたのか。開発を指揮した人見光夫・執行役員パワートレイン開発本部長は「人が足りなかったからこそ突破口が見つかった」と逆説めいた言葉を口にする。

2000年代の初頭、技術者の多くは当時筆頭株主だった米フォード・モーターとの共同開発案件にかり出され、エンジンの独自開発に携わる人数はわずか20~30人にまで減少した。これは自動車開発の常識からすれば非常な少人数。例えば、某大手メーカーはハイブリッド機構の開発だけでも千人近いエンジニアを投入しているといわれる。

「たった数十人の組織ではあれもこれもできない。一方で欧州などで厳しい燃費規制が導入されるのは必至の情勢。エンジンの基本に立ち返って、一から考え直すことにした」と人見氏は振り返る。

注目したのは、圧縮比と呼ばれる基本要素の一つ。ガソリンエンジンの場合、圧縮比を高めれば燃費が良くなるのは分かっていたが、逆にノッキングと呼ばれる不具合が生じる。開発陣は燃焼効率を改善することで、この二律背反を克服し、展望を開いた。人見氏は「リッター40キロのエンジンも射程圏内。頂上からみれば、エンジン技術は五合目の段階。飛躍の余地はまだまだ大きい」という。

—(以上、引用)—

10日程前に、『「人が減ると、本当は不要だった仕事が見えてくる」という自分の体験』でも書かせていただいたとおり、人が減ることで、本質的なことに集中せざるを得なくなります。

マツダの低燃費エンジンの場合は、エンジンの基本に立ち返って、圧縮比に注目して燃費効率改善に集中し、このイノベーションを実現した、ということのようです。

寡兵で大軍と同じ戦いを行えば、必ず破れます。

寡兵で大軍に伍するためには、このように選択と集中が必要ということですね。

記事は、以下のように締めくくっています。

—(以下、引用)—

幸か不幸か今の日本は「不足」や「欠乏」にこと欠かない。冬場と夏場は電力が不足気味になり、少子高齢化で労働力も徐々に減っていく。だが、不足はイノベーションの母でもある。「不足」「欠乏」に独創的に立ち向かうところから、新たな出発が始まるだろう。

—(以上、引用)—

「課題がイノベーションを生む」ということを考えると、「課題先進国・日本」は、まさにイノベーションのネタの宝庫です。

視点を変えて掘り起こしてみると、実は様々な可能性が私たちの身近に眠っているのではないか、と記事を拝読して感じました。

 

 

今後5年間に都市を一変させる5つのイノベーション

12月18日にIBMが、「今後5年間に都市を一変させる5つのイノベーション」を発表しました。

この「5つのイノベーション」は、今後5年から10年の間に世界の人々の働き方、遊び方、生活を一変させる可能性を持った一連のイノベーションのことです。

世界中のIBMの研究所が持っている新技術に基づいています。

具体的には、次の5つです。

  • より健康的な免疫機構を持つ都市
  • 生命体のように感知し、反応する建物
  • 燃料が不要な自動車やバス
  • 都市の渇きを癒やし省エネを実現する、よりスマートなシステム
  • 緊急通報が入る前に危機に対応できる都市

このような形でメッセージを出すのは今年で4回目です。

詳細にご興味がある方は、リンク先をご参照ください。

新しいアジェンダ:IT業界が、地球を救う

アジェンダ(Agenda)という英語があります。

よく会議で「今日のアジェンダは…」と言ったりしますが、アレです。

日本語では「議題」と訳されることが多いのですが、実はもうちょっと深い意味があります。

こういう場合は、英英辞書で調べると分かります。

Merriam-Websterというサイトで調べてみると、"a list or outline of things to be considered or done"という説明が出てきます。「取り組むべき課題」といったような意味です。

 

過去、IBMは世の中に様々なアジェンダを発信してきました。

例えば、「eビジネス」

インターネット技術を企業業務全般に適用する概念を現わす言葉として既に一般名詞になっていますが、元々はこれは1997年にIBM前会長であるルー・ガースナーが提唱しました。

その後、多くのIT業界の同業の皆様もeビジネスという言葉を使っていただけるようになりました。(ちなみに、e-businessという単語は、IBMが登録商標を持っています)

例えば、「オンデマンド」

2002年、IBM現会長のサム・パルミサーノが、市場の変化に企業が迅速に対応するビジネスモデルとして提唱しました。

例えば、「イノベーション」

2006年、企業を差別化していく能力のカギとして、提唱しました。

その時代々々の問題を広く深く洞察した結果を、これらの短い単語に込めて、IBMは「アジェンダ」(取り組むべき課題)として世の中に発信してきました。

 

そして今、IBMはまた新しいアジェンダを発信しています。

それが"Smarter Planet"です。(日本では「スマートな世界」と訳されています)

既にけんじろうさんも紹介されていますね。

詳しくは、こちらに分かりやすくまとまっています。

「動画で知るSmarter Planet」のタブをクリックいただくと、3つの動画(計10分間)で、私達が抱えている課題とその解決策の提案がご覧になれます。

また、「スマートな世界」のタブをクリックいただくと、実は電力で大きな無駄が発生していること、そして地球で大規模な飢餓が発生している一方で実は大量の食料が廃棄されていることが、分かりやすく説明されています。

これらの問題、全て現在既にある情報技術(IT)を活用することで解決できるのです。

 

先日のエントリーで、パルミサーノIBM会長がオバマ大統領と会ったことを書きましたが、その時のパルミサーノ会長の話のベースにあるのは、この考え方です。

確かに私達がいるIT業界は色々な問題を抱えています。しかし、これらの世界が抱える問題を解決し、地球を救うことが出来る潜在力も、同時に持っています。

このような時代の変革期だからこそ、私達はモノゴトの悲観的な面だけを見るのではなく、可能性の面にフォーカスし、私達一人一人が主体的に世の中を変えていきたいものです。

今こそ、IT投資で差別化を図る絶好の機会(4) 大型冷蔵庫が売れる理由を考えると、IT投資の方向性が見える

いつの間にか連続シリーズとなっていますが、今回はちょっと変わった視線で書いてみます。

ただ、人から聞いた話なので、不正確な部分もあるかもしれませんが、ご容赦下さい。

 

今、この不況で、デジカメが売れなくなりつつある一方で、冷蔵庫と炊飯器が売れているそうです。

特に冷蔵庫は、大型のものが売れているそうです。

なぜだと思いますか?

 

まず、大型の冷蔵庫が売れている理由。

それは、特売日に大量に食料の買い物をして入れておくためだそうです。

 

では、なぜ炊飯器が売れているのか?

それは外食をしなくなり、家でおいしいご飯を食べたいためだそうです。

 

一方で、主にお父さんのお小遣いで買っていたデジカメは、「コスト削減」の対象となっているようです。(なんか悲しい….)

 

今、家庭で行っていることは、コスト削減のための長期的な投資です。

大型冷蔵庫も炊飯器も、購入コストを回収するためには、最低でも1-2年かかるでしょう。

それでも経済感覚の鋭さはもしかしたら(?)一般のビジネスマンをはるかに凌ぐ(かもしれない)家庭の主婦は、このような投資が自分の家庭では必要と判断して、あえてお金をかけている、ということなのでしょう。

なにしろ、家庭の家計を全て預かっており、家の経済状態は全て把握できているのですから、投資の優先順位付けも的確です。

 

これは企業のIT投資を考える上でも、参考になるのではないでしょうか?

今、企業にとって、大型冷蔵庫は何で、炊飯器は何なのか? デジカメは何なのか?

考えてみると、今後の方向性が見えてくるかもしれません。

ここで削減したお金で、競争力強化のためにITに再投資していく、と考えていくと、ここの投資は、長期的な差別化のための第一歩になるのではないでしょうか?

 

ちなみに私は、この冬のボーナスで、この夏に発売されたC社のフルサイズ・デジカメがどうしても欲しいと思っております。 (笑)

今こそ、IT投資で差別化を図る絶好の機会 (3)

ITmediaエンタープライズに11月14日、「IDC、2009年のIT支出予測を下方修正――金融危機と消費支出減少が理由」という記事が掲載されました。

11月15日の日本経済新聞にも「世界のIT投資 2.6%増に鈍化、米IDC、来年予測引き下げ」という記事が掲載されていますので、ごらんになった方も多いと思います。

このような調査を見ると、「このような風潮なら、IT投資を控えようか?」という考え方も出てくるかもしれません。

しかし、この記事をよく見ると、「マイナス成長になる」とは言っていません。「伸び率が鈍化する」と言っています。

この点、とても重要です。

記事でも、

—(以下、引用)—

 …….同社の予測がわずかながらも成長を示しているという事実は、ほとんどすべての企業においてITがいかに重要になったかを示すものである。

 IDCのアナリスト、ジョン・ガンツ氏は報告書の中で、「既にITは多くの基幹業務に奥深く埋め込まれており、効率と生産性を向上する上で不可欠な要素となっている。このため、成長ペースは鈍化するものの、2009年もIT支出が引き続き増加するとIDCでは予想している」と記している。

—(以上、引用)—

としています。

このような考え方が生まれるのは、「IT投資はコスト削減・競争力向上のためには必須である」とのグローバルでの共通認識が背景にあります。

例えば同じ時期、同じく成長率が+2.3%から+1.0%に鈍化すると予測したメリルリンチは、以下のように言っています。

・投資を削減すると回答したCIOは12%。IT投資を増加すると回答したCIOは52%だった

・最優先投資は下記項目
– 資産やインフラ管理を改善するソフトウェア
– サーバー利用率を向上しコスト削減のための仮想化ソリューション
– 急増するデータ管理のためのストレッジ

この最優先投資分野は、まさにITを活用して大きなコスト削減効果が期待できる分野です。今、企業がお金をかけるべきは、この分野です。

この時期、米国をはじめとするグローバル企業は、多くの場合大きな負債を抱えながらも、重点分野を決めてIT投資を継続し、低コスト体質化と競争力強化を図っています。

一方で、欧米企業と比べると、日本企業は幸いながら負債はそれほど大きくはありません。

ある調査では、日本企業の自己資金は60兆円とも言われています。これは日本の年間IT投資額12兆円の実に5倍もの金額です。

仮に今回のように一時的に収益が悪化しても、自己資金を持っていれば、その資金で投資することで競争力を強化できます。

先日、「今こそ、IT投資で差別化を図る絶好の機会」で書きましたように、このような時こそ、一律にコスト削減するのではなく、どこに重点的にIT投資を行うかを明確にし、低コスト体質を作り上げて、企業としての競争力を強化することを考えるべき時期ではないかと思います。

IT業界に身を置く立場として、このようなメッセージを積極的に出していく責任を痛感しています。

今こそ、IT投資で差別化を図る絶好の機会 (2)

世界全体で、ここ数十年の経済発展が大きな転換期にさしかかっています。

過去の不景気の時とは異なり、この時期こそ、ITを活用していかに新しい世界に備えるかを考えていく必要があると思います。

一方で、日本のITの現状は大きな課題があります。

今までよく言われてきたことですが、今こそ、その課題を解決すべき時期だと思います。ここで改めて、そのいくつかを挙げてみたいと思います。

1.日米のIT投資の差が、GDP成長の差を生んでいる。

これは、総務省が出した2007年度の情報通信白書で指摘されています。

1990年から2005年の15年間で、米国はIT投資が6倍強に増え、GDPも+55%増えました。
一方で同時期、日本のIT投資の増加は2倍弱で、GDPは+20%しか増えていません。

情報通信白書によると、「1990年代後半以降の米国経済の繁栄は企業の活発な情報化投資に支えられていた」と分析しています。

 

2.日本は守りの分野、米国は攻めの分野にIT投資

この少ない日本のIT予算は、どこに投資されているのでしょうか?
これも同じ2007年度の情報通信白書で指摘されています。

日米のIT投資分野と効果を比較し、コスト削減の効果には大きな差がない一方で、付加価値向上に関する項目について日本が米国に差をあけられていることを示しています。その上で、

「日本企業は、ICTシステム導入と業務・組織改革による効果としては、業務の効率化によるコスト削減中心であり、米国企業に比べて、付加価値向上に結びつくような効果は生まれていない」

としています。

ガートナー・ジャパンでも同様に、「米国と比較し、日本は戦略分野でのIT投資が弱い」と指摘しています。

 

3.日本はオーダーメイド開発が多く、開発・保守コストが増大し、戦略的投資にお金が回らない

ちょっと古い調査ですが、これは総務省が2005年7月に行った「企業のICT活用現状調査」という調査です。

日米の各種業務開発が、「A:パッケージソフトを利用しカスタマイズなし」「B:パッケージソフトを利用しカスタマイズを積極的に実施」「C:パッケージソフトを利用せず、オーダーメイドで構築」に分けて、その比率を示しています。

米国に比べて、日本ではCの「オーダーメイド開発」が2-3倍程多くなっています。

あるパッケージベンダーも数年前に、「日本における我々の競合は、他のパッケージベンダーではなく、自社開発だ」と言っていました。

これは、現場が強い日本では、業務プロセスに独自性を埋め込み差別化を図ろうとするために、ITを業務毎に個別実装してきたためです。

現場が強いこと自体は、必ずしも悪いことではありません。むしろ今までは日本の強みでした。

一方で、このオーダーメイド開発は開発・保守コストの増大を生み、戦略的IT投資にお金が回らない遠因になっています。

さらに、個別にオーダーメイド開発されてきた業務システム間の連携がなかなかできない弊害も生じています。全社最適で企業の競争力が求められる現代、このことは大きな課題です。

 

4.IT実装力の差が、企業の俊敏性の差を生んでいる

ITの個別実装が企業全体でどのような弊害を生むのか?

その一例が、IBMのGlobal CFO Study 2008で見ることができます。

この調査では、世界中のグローバル企業の1230社のCFOに、「世界中で使われた出張費の集計にかかる時間は?」という調査を行いました。

世界全体では「1時間以内」と答えたグループが一番多く45%でした。一方、日本企業で一番多かったのは「1日から1週間」という答えで39%でした。

さらに、データの迅速な取得は信頼性が高いという結果も出ています。

出張費集計にかかる時間そのものが、企業の競争力に直結する訳ではありません。

しかし、企業の俊敏性を把握する一つの目安にはなると思います。

 

ここまでの話をまとめると、日本のITの課題は、

■そもそもお金をかけて差別化しようと考えていない

■その少ないお金をオーダーメイド開発で使っており、高コスト体質になっている

■このことが、企業全体での俊敏性の差を生じている

ということが言えそうです。

これをブレイクスルーする一つの回答が「全社最適」ではないかと思います。

つまり、企業全体のITを、一つのインフラの上に実装し、相互の業務システムを連携させることで、開発期間を短縮させ、企業の俊敏性を高めるとともに、コストパフォーマンスや保守性も高める、という考え方です。

IBMが提唱しているエンタープライズ・クラウドも、この流れの中にあります。

これを実現するためには、SOAのような技術を活用し、既存資産を活かしつつ、ITを作りかえていくことが必要になります。

言い換えれば技術は既にあります。

組織の壁等の人間系の課題をいかに解決するかがカギです。

欧米と比べて、金融危機の影響が(少なくとも現時点では)比較的少ない日本は、今こそIT投資でグローバル・レベルの競争力を獲得するチャンスであると思いますが、いかがでしょうか?

今こそ、IT投資で差別化を図る絶好の機会

大恐慌以来の危機と言われ、これまでの数十年間の世界経済の流れが大きく変わろうとしている現在。

今、このタイミングで、いかにITで競争力を高めて競争相手と差別化するか、が、今後も企業が成長するための大きなカギであり、大きな判断の分かれ目であると思います。

今こそ、差別化するための絶好の機会であると思います。

本日の日経産業新聞の記事「世界同時株安止まらず―米IT大手、逆境に勝機」では、下記のように書かれています。

 リーマン破綻後の九月十七日、フォレスター・リサーチは二〇〇八年の米IT投資額の伸び率予想をそれまでの前年比三・四%から五・四%に引き上げた。「予想していたより景気が悪化するのは先になりそう」(同社)。裏を返せば、実体経済は金融危機の衝撃に一定期間は持ちこたえられるということだ。

 IT投資額の伸び率は〇七年実績の七・二%には及ばないが、経営環境の悪化をにらみ、企業は競争力を高める投資の手を緩めない。世界全体でも〇八年のIT投資額は一一%増とフォレスターはみている。

この記事のポイントは下記2点だと思います。

・米国では、IT投資額はむしろ増える傾向にある
・理由は、実体経済が悪化する前に、IT投資を行い、競争力を付けようとするためである

これから起こる景気悪化は、従来の数年単位で起こる景気変動とはパターンが異なってきます。よく言われるように数十年に一度のことが起こっており、パラダイムが変わってきます。

 景気悪化
→IT投資抑制
→競争力低下
→さらなる投資抑制

というありがちなbad spiralに入るのではなく、

 早めにIT投資で競争力強化
→競合他社に先んじて、競争力を強化し差別化
→今後の成長の確保

というポジティブ・フィードバックに乗ることが、新しいパラダイムの中で成長するためにも、今こそ必要であると思います。

(本人はIT企業に勤めながらほとんどIT関連の話を書かない当ブログですが、久しぶりにIT関連の話を書いてみました)

改革で一番大事なのは、「やる気」

数週間前の放送ですが、4月15日に放映されたNHKのプロフェッショナル「輝け社員、よみがえれ会社」は、工場再建請負人の山田日登志さんの特集でした。

山田さんは、工場を見ただけで実に多くの無駄=要改善点を見つけ出します。

番組では、初めて訪れた工場で、2時間で50件の改善点を見つけた様子が放映されました。

このような改善点を見つけるスキルにかけては、山田さんはまさにスーパーマンです。

しかし改善点を見つけるだけでは、真の改革は図れません。

山田さんは改革を真に工場に定着させるために、社員が自主的に改善を図れるようにすることを心掛けています。

番組では、老舗の名門家具工場で、職人達に困難な課題を課すことで、職人達が短時間で自分で夢中になって解決策を見出し、その後も継続的に改善を図ろうとする様子が紹介されました。

 

この番組を見て思い出したのが、「ホーソン実験」です。

「ホーソン実験」とは、米国・シカゴ郊外のウェスタン・エレクトリックのホーソン工場で、1920年代から1930年代にかけて、工場の組立工に対して心理学教授レスリスバーガーと精神科医師エルトン・メイヨーが行った調査実験です。

この実験では、色々と条件を変えて作業能率を測定しましたが、作業条件を変えるたびに常に向上が図られました。

最後に、一番最初の条件に戻したところ、不思議なことに、さらに作業能率が向上しました。

組立工の作業能率が向上した原因は、労働条件によるものではなく、このような調査実験に選ばれたこと自体で、組立工の目標意識が向上したことによるものでした。

 

山田さんの工場改革も80年前のホーソン実験も、共通するのは「目標意識」が作業能率やビジネスの結果に何よりも大きな影響を与える、ということです。

やはり、改革に必要なのは、社員一人一人の心の中にある「やる気」にいかに火をつけるか、ではないでしょうか?

以前、こちらのエントリーで1971年のディシの「内発的動機付け」研究をご紹介した際にも書きましたように、お金等の物質的なインセンティブによる「やる気」の成果には限界があります。

"Stop the pay, stop the play" (「お金がもらえなくなると、何もしなくなる」)

ということです。

自分で色々と工夫したことが、目に見えて改善結果に繋がっていると分かることが、非常に重要なのではないかと思います。

「リアルタイムな見える化の全員の共有」は、マネージメントが思っているよりもはるかに重要なのかもしれません。

人類13,000年の歴史から再考する、現代社会におけるイノベーション

ジャレド・ダイアモンド著「銃・病原菌・鉄」、上巻・下巻を読了しました。

「原始的社会の人々の方が、現代文明に生きる我々よりも、知的な理由」に書きましたように、この本は人類史1万3千年を俯瞰し、民族の分布が現在のように至った理由を、東アジア・太平洋域・オセアニア・新旧大陸の衝突・アフリカ大陸それぞれについて、様々な要因を検証しながら分析していった大作で、非常に読み応えがあります。

本書では、最初に、ニューギニア人のヤリという人から受けた次の問題提起

「あなたがた白人は、たくさんのものを発達させてニューギニアに持ち込んだが、私たちニューギニア人には自分たちのものといえるものがほとんどない。それはなぜだろうか」

を挙げて、この理由を一つずつ検証し、下巻の最後にその理由を次の4点に集約させています。

1.栽培化や家畜化の候補となりうる動植物種の分布状況が大陸によって異なっていた

食糧生産の実践が余剰作物の蓄積を可能にし、これが非生産者階級の専門職を養うゆとりを生み出し、人口の緻密な大規模集団の形成を可能にしました。

この栽培化や家畜化が可能な動植物種の分布が、ユーラシア大陸の特定地域に偏っていました。

2.伝播や拡散の速度が大陸ごとに大きく異なった

ユーラシア大陸は横に長くて生態環境や地形上の障害が他大陸よりも少なく、作物や家畜が伝播しやすい一方で、アフリカ大陸やアメリカ大陸は縦に長いこともあり地形や生態環境上の障害が大きく、伝播に時間がかかりました。 

例えば、同一緯度で繁殖する穀物はユーラシア大陸では横(つまり東西の方向)に拡がりました。しかし、アメリカ大陸やアフリカ大陸では同一緯度の拡がりが少ないために横への伝播は少なく、また気候が異なる同一緯度の縦方向(つまり南北の方向)への伝播は困難でした。

3.異なる大陸間での作物や家畜の伝播が異なった

ユーラシア大陸からサハラ近辺地域への伝播は容易でしたが、南北アメリカ大陸には低緯度地域は大きな海洋で隔てられ、高緯度地域は狩猟に適さない問題があり、南北アメリカの社会の発展に寄与したものがありませんでした。

4.大陸の大きさや総人口が異なった

面積が大きく人口の多い大陸では、何かを発明する人間の数が相対的に多く、競合する社会の数も相対的に多くありました。新しい技術を取り入れないと競合する社会に負けてしまうため、技術の受け入れを促す強い社会的圧力もありました。

 

民族の分布が現在のようになったのは、置かれた環境の違いが理由であり、そもそも民族の優劣は全く存在しない、という点は興味深い指摘ですね。

我々は、現代は非常に変化が激しい時代にあると思っていますが、本書を読んで、この数千年間も、私達人類の祖先は同じく激しい変化の時代を生き抜いてきたことがよく分かりました。

また、イノベーションを続けること、そしてイノベーションを促進するために多様性を持つことが、社会や企業、個人にとっていかに重要なことなのかも、再確認できました。

過去、多様性を持たずに消滅してしまった社会や民族が、いかに多いことか。

多様性を持ちイノベーションを続けるためには、、まず集団そのものが多様性を持った個人から成り立っていること、その集団が他の多様性がある集団と活発に交流していること、競合が激しい環境にあって常に進歩を図ろうとしていること、等が必要なのでしょうね。

現代社会にも通じる箴言を得られたように思います。

資本市場もムーアの法則の終焉を織り込みはじめた?

本日(11/13)の日経金融新聞の記事『近づく「ムーア」の終わり』で、最近の株式市場がムーアの法則の終わりを織り込みはじめていることが書かれています。

従来、他社に先駆けて半導体の集積度を上げて市場に供給することで、半導体各社は収益を格段に向上できました。

しかし、この記事では最近この他社に先駆けた微細化が必ずしも株式市場で評価されていない事例を2つ取り上げています。

また記事では、コモディティ化の動きに加えて、ムーア氏自身が今年9月に

「(法則は)今後10-15年で限界が訪れる」

と語ったことも要因に挙げ、現在最先端の65ナノの2世代先である22ナノが節目になる、としています。

つまり、「原子の大きさは超えられない」という限界です。

ふり返ってみれば、急激な価格性能比の向上を何十年も継続してきた半導体が、コモディティ化の罠に陥らずにここまで発展できたのも、ムーアの法則に従って常に性能向上を実現し、全体の経済規模を拡大できたからである、と言えます。

しかしムーアの法則が突き当たると、IT業界全体で前提としてきたこのサイクル自体、大きな見直しが必要になります。

株式市場の動きは常に世の中の動きを先んじます。このケースも、ムーアの法則が破綻するかもしれない10-15年後を先行している、ということでしょうか?

記事では、ソニー元会長の出井さんの意見として出井さんの著書から

「(法則は)『速く安く大量に』の二十世紀型モデルの象徴」

という部分を引用し、新たな付加価値として「積層構造の半導体」が付加価値になり、これに伴って産業構造が変化するであろう、という出井さんの予測も紹介しています。

ムーアの法則は現在のシリコン半導体における価格性能比向上を述べたものですが、4ヶ月前に「ムーアの法則が限界に突き当たる日」に書きましたように、ムーアの法則を「半導体の処理能力」から「情報処理能力のコスト」に置き換えて考えてみると、この法則は機械式計算機の時代から100年以上継続して成立しています。

つまり、「情報処理技術は指数関数的に向上する」ということを何らかのイノベーションにより現在の半導体とは別のメディアで実現すれば、現在のシリコン半導体によるムーアの法則終焉後も、我々が継続して価値を享受できる、ということになります。

「ムーアの法則の終焉」という一つの現象も、ある片面からは「既存の半導体産業の成長の壁」、反対側の片面からは「全く新しい産業の機会の創出」と見えます。

どのようにこの課題に取り組むかは、今後10年間のIT業界の大きな課題であり、同時にチャレンジングな事業機会でもありますね。

 

ps. 尚、こちらにもありますように、上記はあくまで私個人の意見であり、会社の見解とは全く無関係です。

今更ですが、もしDOS/Vがなかったら…?

ITmediaの記事「日本のPCの流れが変わった“DOS/Vが生まれた日」を見て、DOS/Vが世に出て、もう16年も経っていることに改めて月日の流れの速さを感じます。

DOS/Vを初めて見た時の衝撃は今でもよく憶えています。

当時、パソコンはフォントROM等の日本語対応機能をハードウェアで持っていることが当たり前だった時代でした。

しかしDOS/Vでは、海外で販売してるAT互換機(当然日本語処理機能はハードウェアで持っていません)で稼動し、日本語が表示できました。

ハードウェアで処理していた日本語対応をソフトウェアで対応していたにも関わらず、スピード的にも全くストレスがありませんでした。

今ではソフトウェアで言語対応を行うのが当たり前ですが、ハードウェアの日本語対応が当たり前と思っていた当時は、「こんなことが出来るのか!」という新鮮な驚きがありました。

まさに、技術的なイノベーションだったと思います。

記事にもあるように、DOS/Vを契機にパソコンの標準化が図られ、それまで日本独自仕様のために数十万円したパソコンは、海外のAT互換機同様に一気に十数万円代に下がり、日本でのパソコンの爆発的な普及に繋がりました。

もしDOS/Vが存在していなかったら、日本でのパソコン普及のタイミングはもう少し遅れていたかもしれません。

世の中は今とは違った様相を呈していたかも….そんな気もします。

人間そっくりのヒューマノイド・ロボット「アクトロイド」

本日(10/19)の日刊工業新聞の記事で、サンリオの子会社ココロで開発されたヒューマノイド・ロボット「アクトロイド」が写真付で紹介されていました。

早速検索したところ、ココロのホームページで動画を見つけました。

ここにあります。(9MBのMPEGデータですので、ダウンロードに時間がかかります)

まばたきをし、眼球も動きますし、女性らしいしなやかな動きもします。厳しく見るとほんのちょっとだけ不自然なぎこちなさを感じますが、本当にリアルですね。ロボットと気付かずに通り過ぎてしまう人もいるそうです。

日刊工業新聞の記事では、開発姿勢についても書かれています。

—(以下、引用)—

….容姿などは女性社員が主導権を持って開発している。「男性の意見をいれるとどうしても男好きのする顔になって女性から嫌われる」と横田祐子企画課長は話す。一体一体異なる外見にはそれぞれ実在のモデルがいるという。

—(以上、引用)—

ううむ、確かにそうかもしれません。深いですね。

未来の大学のあり方:UCバークレー校が全講義ビデオ動画をYoutubeで公開

既にYoutubeにはUCバークレー校の専用ページが開設されており、300時間以上の講義のビデオ動画が公開されています。

詳しくは、Techobahnの記事をご覧下さい。

このような取組みを見ると、従来のように、生徒に教室に来てもらって、一方的に情報提供の講義を行う意味が薄れてきているように思います。

しかも、Youtubeのようなメディアを使うことで、国境の壁は完全になくなっています。

コンテンツは英語ですが、グローバル化が進展するにつれて公用語となっている英語での講義に日本にいながら接することができる意義は大きく、日本の大学としても安閑としてはいられないのではないかと思います。

今後大学は、基礎力としての形式知はネットでオープンで提供し、ネットや形式知だけでは伝えきれない深い知恵(暗黙知)を対話的に提供する場に、変革していくのではないでしょうか?

インド・インフォシスの2006年度採用人数、36,700人

9/12の日経産業新聞の記事「世界に挑むBRICs企業 インフォシス(インド) 巨大研修施設で新人磨く」によると、インドのインフォシス・テクノロジーズが2006年度に採用した従業員は36,700人だそうです。

繰り返しますが、「従業員総数」ではなく、「昨年1年間の採用従業員数」、です。

超大量採用とは言え、決して広き門ではなく、なんと35倍の1,302,400人が応募したそうです。

これは日本からすると想像を絶する人数ですね。

ちなみに、人数の多い団塊ジュニア世代ですら、1学年の総数が2,000,000人。

ここ数年で生まれた世代に至っては、1学年の総数は1,000,000人をちょっと超える程度。インフォシスの昨年の応募者を下回っています。

その多くが最難関校を卒業したこれだけの人数が、1企業に応募し、さらにそのうちのわずかトップ2.8%しか採用されない、ということですね。

この36,700人は、入社後、「外部の研修機関なら四学期(二年)分」に相当する中身の濃い4ヶ月の研修コースを受けるそうです。期間中のテストは64回で、合格しない研修生は同社を去らなければいけないとのことですが、不適格率は1-4%程度だそうです。

この試練を潜り抜けたエンジニア達が、世界中の企業に対して、インターネット等を介してアウトソーシング・サービスを提供することになります。

いま世界で、日本では考えられないことが、想像を絶するスケールで急激に起こっています。

改めて、"The World Is Flat" (邦題「フラット化する世界」)の意味を考え直すよい機会になりました。

イノベーションを創発する「薄い信頼」とネットワーク

こちらにも書きましたように、以前より私はネットの本質は利他であると考えているのですが、本日(7/4)の日刊工業新聞の記事『リスクマネジメントABC 「薄い信頼」の低下』は、利他的行動を考える上で大変興味深い記事でした。

—(以下、引用)—

ソーシャル・キャピタルで有名なパットナム教授は、「知っている人に対する厚い信頼」と「知らない人に対する薄い信頼」を区別し「薄い信頼」の方がより協調行動を促進することに繋がると主張している。

….(中略)…

パットナムはイタリア全土の調査で、「薄い信頼」の北部と「厚い信頼」の南部を比較し、北部のほうが民主的な政府が機能しているとしている。

また、信頼について研究を続けるウスラナー教授は、その国際的調査において、「薄い信頼」と経済成長、情報化、イノベーション、国際化、市場開放性、汚職そして経済格差などとの関係を分析し、いずれも大きな相関があることを発表している。

—(以上、引用)—

「薄い信頼」が機能する社会が、ネットと結びつくことで、大きなイノベーションを創発したり、今まであり得なかった社会的規模の利他的行動を促したりすることが可能になります。

例えば、06/28の日本経済新聞の特集「ネットと文明 新しい現実(3)デジタル安全網―善意が静かに動き出す」では、ネット人口が100万人規模だった1995年に発生した阪神大震災と、8000万人規模になっていた2004年に発生した新潟地震を比較しています。

阪神大震災では情報不足から全国から届く救援物資が同じものばかりで善意が生きない例が相次いだのに対して、新潟地震では数日で被災地サイトが生まれ、ボランティアが足で集めた情報が全国に伝わり、支援物資のミスマッチも最小限にとどまりました。

このような活動も、パットナムが言う「薄い信頼」が機能している社会で、かつ、ネットがほぼ国民全員が使える程普及している環境だからこそ、可能なのではないかと思います。

幸い、現代の日本は両方の環境が整っている数少ない国です。

例えばブログでの情報発信等、我々一人一人の具体的な行動な行動で、よりよい社会を作っていきたいですね。

ブログでの使用言語の一位が日本語というのも、この観点で考えるとわかりやすいかもしれません。

地球温暖化は2040年以降から急速に拡大?

こちらの記事によると、わずか1年間で北極の永久氷床部分が14%も減少しているそうです。

このような写真は説得力がありますね。

米国立大気研究センター(NCAR)は、2040年には北極の永久氷床は全てなくなるとの予測を出しています。

北極の氷床は熱を反射させるという役割を担っており、これがなくなる2040年以降から地球温暖化が更に促進してしまうだろうとのこと。

一度ポジティブ・フィードバックのサイクルに入ったシステムを元に戻すのはなかなか大変です。

これを回避するためには、例えば以前ここでご紹介したような「走れば走るほど空気がきれいになる車」のような、今までとは全く異なる発想のアイディアに、かなり大きな先行投資を行い、前倒しで世の中に導入していく必要があると思いますが、いかがでしょうか?