阿智村で、講演をしました

2016年5月31日、「そうだ、星を売ろう」の舞台・阿智村で、JTB協定旅館ホテル連盟様の研修があり、この中で『「そうだ、星を売ろう」 阿智村から学ぶ、「コト」発想への変革』と題して講演を致しました。

阿智村講演20160531

参加者合計約60名。全国から日々「いかにウチの地域を活性化していくか?」とお考えになっておられるリーダーの皆様が参加され、質疑や議論も活発でした。

当日の夜、「日本一の星空ナイトツアー」の体験会もありました。残念ながら曇り空でしたが、そのおかげでスターガイドで星が見えない日にどのように対応しているかがよくわかる体験会となりました。

2日間を通したJTB様のワークショップもあり、とても充実した内容でした。

 

参加された方々からいただいた感想の一部をご紹介します。

■地域主導で考えていた傾向があり、お客様が求める、買う理由が足りなかった。今回の講演で勉強になりました。

■一番印象に残ったのは、PDCAは円ではなく、らせんということでした。人の成長が企業の成長、そして地域の成長ということを学ばせていただきました。

■物事を変える手順を間違ってきた気がします。きちんとしたステップを踏んで変化させたい。

■プロセスが時系列でわかりやすく説明していただいたので、非常にわかりやすかったです。今後、8段階のプロセスを念頭に置きながら、地域とコミュニケーションを図っていきたいと思います。

■ターゲットの見極めやチーム作りなど、すぐにでもとりかかりたくなりました。ありがとうございました。

■知育づくりの前に、自社の社内改革にあてはめた時、非常に参考になった。是非、ジョンコッターの8段階プロセスに沿って、社会改革を進めたい。

 

このような機会をいただき、感謝致します。

 

 

「お客様が買うかどうか」は、誰も教えてくれない

迷い

 

「永井さんが言っていた『お客様が買う理由』、自分なりに考え抜きました」

その方は一枚の紙を持ってきました。

「お墨付きをいただいたら、会社に戻って、ヒトモノカネを投入してすぐに全社展開します」

「自分の会社をもっと良くしたい」という誠実で真摯な想いがヒシヒシと伝わってきます。ただ、この方法だと、必ずしもうまくいくとは限らないのです。

 

「お客様が買う理由」は、次のように考えていきます。

・自分たちの強みが、何なのか?
・その強みを必要とするお客様が、本当に存在するのか?
・そのお客様が、本当にその強みで解決できる課題を持っているのか?
・そしてそのお客様が、その解決策で本当に我々を選んでくださるのか?

これを考え抜いたのは素晴らしいことです。

しかし仮に実績豊富で超優秀なコンサルタントがいて、お墨付きを出したしても、必ずしもうまくいくとは限らないのです。「お客様が買う理由」は、あくまでも仮説。その仮説が正しいかどうかを決めるのは、リアルなお客様だけだからです。

特に変化が激しい時代は、ほんの短い期間で顧客ニーズが激変することもあります。ですからこの仮説が本当に正しいのか、リアルなお客様で検証し続けることが必要なのです。

 

ほとんどの場合、仮説通りには進みません。修正に次ぐ修正が必要です。

うまくいかない時、「まったくダメだ。ゼロからやり直しだ」と考え勝ちですが、ここで大切なのは、ゼロから考えるのではなく、当初の仮説に一度立ち返り、どこが悪かったのかを考えること。

・自分たちの強みの定義が間違っていたのか?
・ターゲットのお客様の設定が間違ったのか?あるいは絞り込みすぎているのか?
・想定していたお客様の課題把握が間違っていたのか?
・課題把握は正しいが、解決策が適切ではないのか?

「お客様が買う理由」は、一見シンプルに見えるので、ともすると簡単に作れそうに思えます。しかし完成させるためには、リアルなお客様に対して、上記の試行錯誤の繰り返しが必要なのです。そしてうまい組み合わせが見つかっても安心できません。時代とともに、賞味期限が切れるからです。変化対応が常に必要なのです。

 

このように考えると、冒頭のやり取りで何が問題なのかがわかるのでないでしょうか?

「お客様が買う理由」が正しいかどうかを決めるのは、お客様だけです。

そしてその答えを見つけて検証するのは、その事業のことが一番よくわかっている自分自身です。どこかにいる第三者ではありません。

私は、その答えを見つけようとする人たちと同じ道を一緒になって歩いて答えを見つけ、そしてその後は、その人たちが独力で歩けるようにご支援したいと考えています。そこで弊社ではこれを企業のお客様に半年間の新規事業開発実習としてご提供しています。

 

「リアルなお客様の反応」という事実に対して、私たちは常に謙虚でありたいものです。

 

 

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新規事業では、ストライク球に集中、ボール球は見送るべし

ストライク

 

「お客さんにご紹介すると、興味を持つ方が多いんです。でも『採用実績は?』とか、『本当に大丈夫?』とか聞かれて、どうも真剣に考えているように見えないんですよね」

その人は、新規事業立ち上げに挑戦中。なかなか案件が進まず、悩んでいるようです。

新商品や新サービスを立ち上げる際、私たちは「こんなの、今までにない。きっとみんな興味を持つはずだ」と思いがちです。しかし「興味は持たれるものの、なかなか売れない」という現実に突き当たる人はとても多いのです。

私もIT業界で色々な新商品立ち上げに関わってきましたが、まったく同じ経験をしてきました。斬新な製品に興味を持つお客様はとても多いのですが、その中で実際に採用にするお客様は意外なほど少ないのです。

なぜこんなことが起こるのでしょうか?

 

この現象を説明する理論があります。「イノベーター理論」です。
まったく新しい商品が発売されると、必ず次の顧客グループの順番で採用が進んでいきます。

 ①イノベーター(全体の2.5%)…新しいモノに真っ先に飛びつく
→②アーリーアドプター(13.5%)…「役立つ」と思うと、リスクを取り採用する
→③アーリーマジョリティ(34%)…「リスクはないぞ」と思ったら、採用する
→④レイトマジョリティ(34%)…「使わないと困るな」と思ったら、採用する
→⑤ラガード(16%)…なんだかんだ言って、最後までなかなか買わない

顧客全体をこのように整理して考えると、冒頭の「興味を持つけど、なかなか買わない」のは、③の「アーリーマジョリティ」以降の顧客であることがわかると思います。このグループの顧客は、リスクがあるものには決して手を出しません。実際に買うのは「使っている人が既に存在しているから、リスクはない」とわかった後。その人たちが、全体の実に84%もいるのです。見込客が10人いたら、8人以上がこのタイプです。

言い換えれば、この人たちに新商品の良さを一生懸命になって売り込んでも、まず採用しません。念頭にあるのが「リスク回避」なので、最初に聞いてくるのが「採用実績はあるのか?」。しかし新商品はそもそも採用実績がほとんどありません。話はすれ違う一方で、商談がなかなか進まないのです。

商談を野球にたとえると、バットを振ってもヒットにならないボール球。全体の実に84%もあるのです。

 

ヒットを打つには、ストライク球に狙いを絞ること。つまり、①の「イノベーター」と、②の「アーリーアドプター」を狙うことです。このグループの顧客は、新商品が役に立ち、「これで他社と差別化できる」と考えれば、ある程度のリスクを取って採用します。「採用実績がない」ことは、この人たちにとっては朗報でもあります。他社と差別化できるチャンスだからです。

しかしこのストライク球は、全体の16%しかありません。

 

では、ストライク球はいかに見極めればよいのでしょうか?ポイントはいくつかありますが、個人的な経験では…

□ 採用実績を気にする顧客のほとんどは、③〜⑤のグループ(=ボール球

□ 採用実績はほとんど気にせずに、むしろ「何ができるか」を気にするのは、①〜②のグループ(=ストライク球

このように指摘されると、「ああ、自分の経験でもそうだ」と感じる方も多いのではないでしょうか?

私もマーケティングを学び始めた時、イノベーター理論でもまったく同じことを指摘していることを知り、「なるほど!」と思ったことをよく憶えています。実務の経験と理論が結びつくと、とても腹オチしますね。

 

新商品立ち上げは、まさに時間との闘い。ストライク球に集中したいものです。

 

 

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「100万社のマーケティング」に寄稿しました

宣伝会議が発行している季刊「100万社のマーケティング」2016年夏号に、記事「今、注目の手法&用語:イノベーター理論とキャズム理論」を寄稿しました。

100万社のマーケティング

知っているようで意外と知られていない「イノベーター理論」と「キャズム理論」について、テスラなどの電気自動車、浅田真央選手で有名になったエアウィーヴ、セールスフォース・ドットコムなどの事例を挙げながら、4ページでわかりやすく解説しています。

よろしければご一読ください。

 

 

 

 

失敗という選択肢はない。だから新しい挑戦なんてできない

失敗2

研修や講演で、こんなご質問をよくいただきます。

「『お客様が買う理由を作ろう』ということですが、今の仕事を抱えて余裕もありませんし、新しい挑戦で失敗するわけにもいきません。結局、今の仕事の延長線上でやるしかないのが現実なんですが」

このようなご質問、とても多いのです。

「失敗という選択肢はない。だから新たな挑戦はできない」ということですね。

 

しかし失敗は、本当に悪いことなのでしょうか?

2016年5月10日の日本経済新聞に、ロケットの海上回収に成功した起業家イーロン・マスク率いるスペースX社のことが書かれています。

—(以下、引用)—

「失敗という選択肢はない (Failure is not an option)」。46年前、酸素タンクの爆発事故に見舞われたアポロ13号を無事に帰還させ、「伝説の飛行管制官」と呼ばれた米航空宇宙局(NASA)のジーン・クランツ氏は、2000年に出版した回顧録にこんなタイトルをつけた。

宇宙開発の重みと厳しさを表す言葉としてNASAでは今も好んで使われるが、マスク氏のとらえ方は違う。「失敗という選択肢はないというばかばかしい考え方がNASAにはあるようだが、スペースXでは失敗は選択肢の一つだ。何も失敗していないとすれば、十分にイノベーションを起こしていない証拠だ」。05年の米誌のインタビューでこう語っている。

–(以上、引用)–

従来ロケットは使い捨てでした。イーロン・マスクはロケットを回収することで、打ち上げ費用を1/100にすることを目指しています。そして実際に、彼はロケットの海上回収に成功するまで4回失敗しています。学びがあれば、失敗は素早く成功へ到達するためのステップになるのです。

 

イーロン・マスクは海の向こうの話ですが、同じように素早く成功に到達するために、失敗から学ぶ事例は身近にもあります。

先日上梓した「そうだ、星を売ろう」の舞台である長野県・阿智村でも、世界初の「星空エンターテイメント」への挑戦で、この失敗から学ぶプロセスを繰り返しています。この「星空エンターテイメント」は星が見えない日も行っています。失敗からの学びを通じて、星が見えない日でもお客様に喜んでいただいているのです。

とは言え、失敗して大きな問題になると困ります。そこで本書では「失敗から学ぶための3ステップ」をご紹介しています。

・新しいことを試す。ただし、挑戦に失敗はつきものであると覚悟しておく

・失敗しても大きな問題にならないようにする。実験規模を見極めギャンブルを避ける

・失敗を失敗と認める。失敗を認めなければ、学ぶことはできない

このためには、「失敗から学ぶ」文化が必要です。「失敗という選択肢はない。だから新たな挑戦はできない」と考えから抜け出せない会社は、「失敗から学ぶ」という原体験が必要になります。つまり仮説検証からの学びがいかに価値があるかを体験することです。

 

組織のトップが「失敗から学ぶ組織にしたい」と思っているのであれば、たとえばマネジメントの同意のもとで社内から有志を募り、期間限定で小さなプロジェクトチームを作り、経験者も入った形で仮説検証ワークショップを通じて新商品開発に取り組み、小さな成果を生み出し、「失敗をみとめ、失敗から学んでいく」スタイルを時間をかけて広げていくのも、一つの方法です。

私自身、実習をご提供する立場で、実際にお客様のプロジェクトに入る機会を多くいただいています。

 

「失敗という選択肢はない。だから新しい挑戦なんてできない」

この考えから抜け出すことが、企業で新たな価値を生み出す第一歩なのです。

 

 

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自己犠牲で良い物を安く提供。それは「美談」か?

お菓子

先日テレビ番組で、ある菓子店が紹介されていました。メーカーのエンジニアをしていた方が一念発起し、独立して開店した、単品のお菓子を売る店です。

この方は、「美味しいお菓子を、お客さんが負担なく買えるように、1個200円以下で売りたい」と考えました。市価の半額程度です。

美味しいお菓子を作るためにレシピを考え抜き、沢山の数を作っては試行錯誤を重ね、腕を磨きました。さらにコストを削るために、店舗は駅から遠い物件を借り、人は雇わずに朝から1人で作り続け、包装の無駄も徹底して省きました。

そして1個180円、1日200個限定で夕方から販売開始。美味しい上に安いので、不便な場所にあるにも関わらず、開店前からお客さんが行列して10個単位で購入。開店後わずか1-2時間で売り切れです。出遅れたお客さんは「えー、もう品切れなの?」 残念そうです。

一方で徹底コスト削減しているものの、この店だけでは生活費は十分に賄えない状態です。そこで週2回、別のバイトで生計の足しにしています。曰く、「売上や規模は追いたくない。お菓子作り、バイト、自分にとっては両方とも大切なものだから」

番組キャスターは「いい話だ。生き様を見た。ジーンと来た」と感動していました。

 

皆さんはこの話、「自己犠牲で安くて良い物を提供か。美談だなぁ」と思いますでしょうか?

色々な価値観や見方があると思います。しかし率直に申し上げて、私は「美談」とは感じられませんでした。

 

この美味しいお菓子を作ることができるのは、この人だけです。朝から1人で200個作り、180円で提供しているのは、素晴らしいこと。しかし儲かりません。

180円のお菓子が200個売れているのですから、1日の売上は3万6千円。週2回は他のバイトなので、1ヶ月20日営業として月間売上はおそらく72万円。材料費・人件費・賃料は不明ですが、生計のためバイトする必要があるので、おそらく自分の人件費も利益もギリギリなのでしょう。

確かにバイトの仕事も大切です。しかしそのバイトは、この人以外でもできる人はいるでしょう。そしてこの人がバイトをしている間、その美味しいお菓子は作れませんから、お菓子を待つお客さんに価値を提供できません。

一見、自己犠牲を払いお客さんに安く提供すべく献身的に奉仕しているように見えます。しかしあえて厳しい言い方をすれば、「いいものを安く提供している」という状況に自己満足しているように思えてならないのです。

「生計を立てるために週2回バイトをする」というこのやり方で、本当に継続性あるお菓子作りができるかも、疑問です。

 

この方は「人は雇いたくないし、売上や規模は追いたくない」とおっしゃっています。そのお考えを理解した上で、より多く売ることを考えてみます。

たとえばスタッフ増強で、毎日180円のお菓子を500個作って売ると、1日の売上は9万円。バイトを止めて週1回休みで1ヶ月25日営業として、月売上225万円。売上3倍で、提供できるお菓子の数も3倍です。繁華街で賃料が上がる物件を借りてより多くのお客さんに美味しいお菓子を提供できるし、増強したスタッフを雇う余裕が出ます。さらにお金に余裕ができ、同じ価格でもっと美味しい菓子を作れる可能性もあります。何よりもご自身がバイトで生計を立てる必要もなくなります。

人により、価値観は様々です。「良い物を安く提供したい。でも人を雇わず1人でやりたい。より多くより大きくという発想はしたくないし、売上や規模は追いかけたくない」と考えるのは、あくまで個人の自由。

しかし一方で、「良い物を安く(でも儲からない)」という「ものづくり発想」から、「お客さんを幸せにする(なおかつ儲ける)」という「マーケティング発想」に切り替えれば、より多くのお客様に幸せを、継続的に提供できます。

適度な儲けは悪ではなく、ビジネスを継続させ、お客さんにさらに価値をお届けして幸せにするための手段です。

 

そのためにも、マーケティング発想が浸透すれば、日本はもっと楽しく、よい社会になるのではないかと、改めて思いました。

 

 

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オムニマネジメント2016年5月号に連載最終回『2020年東京オリンピックは、世の中を変えるイノベーションを生み出す』が掲載されました

一般社団法人日本経営協会様が発行する月刊オムニマネジメント2016年5月号に、『2020年東京オリンピックは、世の中を変えるイノベーションを生み出す』が掲載されました。

オムニマネジメント201605

 

実は前回1964年の東京オリンピックでは、その後の日本を変える大きなイノベーションが数多く生まれました。それは1964年〆切厳守の無理難題にチャレンジせざるを得なかったからです。

今回2020年の東京オリンピックも、同じように今後の日本を変えるイノベーションを生み出す可能性は、とても高いのです。

本論文ではそのことを述べました。

もしご覧になる機会がありましたら、お手にとってご一読いただければ幸いです。

 

今回で連載12回目、最終回となりました。このような連載の機会をいただきましたこと、感謝します。

ジェイカレッジで出版記念講演会を行いました

2016年4月28日、日本IBM社員時代からお世話になっており、尊敬するジェイカレッジ校長・松山真之助さんの企画で、「そうだ、星を売ろう」の出版記念講演を行いました。

直前のご案内で、しかも休日前の夜にも関わらず、多くの方々に参加いただきました。

ジェイカレッジ20160428

 

講演では、阿智村の取り組みを中心に、「お客様が買う理由」の作り方、検証の方法、変革の考え方、個人の働く意味などについてお話ししました。

 

アンケートでも色々なご意見をいただきました。

■ご著書のストーリー性と講演の臨場感で、複層的な学びを得ることができました。HPも拝見していていたので、「お客様が買う理由」を見つけることの重要性、本質を深く感じることができました。ありがとうございました。

■単発コンサルティングでは再現性がない。研修でワークショップを行い、5〜7名のグループで強み探し、ターゲット顧客特定を議論して5分発表、それを聞いてまた話し合いの繰り返し。永井さんも中に入って仮説検証を繰り返すことで再現性を生み出すという話。実に良いキーワードを多くいただきました。

■つい課題やニーズから考えていたが、自分の強みを具体的に考えることが大事だということが新たな気づきでした。

■どんな組織においても実現可能なメソッドだと感じました。勇気づけられました。ワークショップに関心があります。

■失敗の方法論はとても腹オチしました。リアルな話で本では得られないような納得感と気づきが沢山ありました。

■いろいろなフレームワークを学ぶことが大事だなと改めて思いました。

ご参加いただいた皆様と松山さんに感謝です!

 

 

爆買い需要を貪欲に刈り取り続ける、中国資本から学べること

大阪

お客様への講演や研修で、大阪によく行きます。今月大阪に出張した時、心斎橋商店街を歩いてみました。歩く人たちの半分が海外観光客。とても賑わっています。その海外観光客の多くが中国人。ドラッグストアや昔ながらの大阪の店で買い物をしています。いわゆる「爆買い」ですね。

数年前、海外観光客が少なかった頃は、商店街も人が少なかったそうです。

数年前までの風景から一変した大阪を歩きながら、気がつきました。

 

心斎橋商店街に店を構える「ラオックス」も、中国人観光客で賑わっています。東京・銀座や秋葉原などでもよく見かける風景です。

家電量販店の雄として一時は全国に100店舗展開していたラオックスは、量販店間の競争に敗れて業績が悪化し直営店を数店舗に縮小。2009年には中国の大手家電量販店チェーンである蘇寧電器の傘下になりました。今は中国出身の羅怡文さんがトップになり、免税店チェーンとして全国展開しています。爆買需要の成長に沿うように、売上と営業利益はこのように爆発的に成長しています。(ラオックス業績ハイライトより)

ラオックス売上・営業利益

日本国内に生まれた中国の爆買い需用を、中国資本により、中国人トップが陣頭指揮を執って、刈り取っているのですね。

 

心斎橋・ラオックスに吸い込まれていく中国人観光客を見ながら、思い出したのが、大阪出張に来る新幹線車中で読んだ雑誌「Wedge」の記事「訪日外国人を囲い込む 中国民泊」です。

 

「民泊」とは、旅行者が一般人の民家に対価を払って宿泊すること。インターネットで、ホストとゲストを仲介するAirbnb(エアビーアンドビー)が有名です。日本では旅館業法などの規制で、民泊は条件が限定されています。そこで2015年から規制緩和の検討が始まっていますが、既存のホテル・旅行業界の利害もあり、なかなか進展していないのが実情です。

しかしこの記事では、中国に本社を置く民泊業者が、日本を含む世界中でサービスを展開していることを紹介しています。

中国人観光客増加により、日本国内には膨大な宿泊需要が生まれています。実際、私が宿泊するホテルでも、朝食バイキングでは中国の方がとても多いことに改めて気づかされます。その中国人観光客の膨大な宿泊需要を、中国資本の民泊業者が刈り取っているのです。

 

中国人が日本国内で民泊を展開するというと、たとえば「タワーマンションの隣りの部屋が民泊で使われて住環境が悪くなる」というイメージを持つ方もいるかもしれません。 この点について、この記事ではある中国人事業家の言葉が書かれています。

「…その点、民泊目的で投資する中国人は、マンション丸ごと買い取るケースが多いので強いのです…」(「Wedge」2016年4月号 p.19より引用)

確かにマンションが丸ごと民泊に使われるのであれば、苦情は激減します。苦情対応はない方がよいわけで、合理的な考え方ですね。

 

しかし日本ではまだ民泊は規制緩和中。その点はどうなのでしょうか?本記事では、中国系民泊仲介事業者最大手「自在客」トップを務める張志杰CEOのインタビューも掲載されています。

−−現行の日本の法律では、特区等を除いて民泊は禁止されている。

張 中国では既に政府が民泊を許可しており、世界各国で合法化の流れがある。それに比べると、日本はやや法規制が遅れている印象がある。

−−現在、厚労省や観光庁が中心となって、民泊のルールづくりを進めているが、誘いがあればこの会議に参加する気はあるか?

張 呼ばれることがあれば、喜んで参加したい

−−これまでのトラブル事例は?

張 トラブルはほとんどない。事前に「土足厳禁」「ゴミ分別」などのルールをゲストに周知していることが功を奏しているのだと思う。

−−今後の目標を。

張 既に日本では、1万2000室を提供しており、2万6000室を提供しているAirbnbを上回りたいと考えている。……日本へ多くの観光客を呼び込む役割を担っていきたい。

(以上、「Wedge」2016年4月号 p.20より引用)

 

この民泊需要でも、日本の行政で「民泊をいかに規制緩和するか?」を議論している最中に、中国資本がリスクをとってビジネス展開を先行しています。

 

ビジネスで大切なのは、いかに商機をライバルに先んじて掴むか、ということ。

言い換えれば、いかに市場のニーズをサキドリするか。

タイミング勝負です。

ですから、あえてリスクをとることが必要になります。

 

先の記事でも、日本で民泊を展開しているある若い中国人事業者はこう語っています。

「いろいろ心配されているのはわかるのですが…民泊を提供しているわれわれのような業者の感覚は、一般の方が抱くものとは少し違っているようです。というのも、われわれは”事故”や”トラブル”をあまり恐れていないからです。民泊を求める市場のニーズも観光客が増えるという見通しも、その潜在的パワーに比べたら、民泊に吹いている逆風など、あまりにも小さな障害だと言わざるをえないからです。現在の日本の法律では、民泊事業はグレーだと知っていますが、実態として多くの人が利用していますし、この流れを止めることはできないでしょう」(「Wedge」2016年4月号 p.17より引用)

 

大阪出張を通して、「日本国内に生まれている中国人の爆買い需要に対して、内向き思考でなかなかリスクを取れない日本人をよそに、利にさとい中国資本家達はリスクを取ってしたたかに刈り取り続けている。ここから私たち日本人が学べることは、実はとても多いのではないか?」と実感した次第です。

 

 

新著「そうだ、星を売ろう」の見本が到着。来週発売です。

本日、新著「そうだ、星を売ろう」の見本が到着しました。

そうだ、星を売ろう

「100円コーラ」シリーズ同様、10章のストーリーでマーケ理論が学べる構成になっていて、目次はこうなっています。

プロローグ 廃れた温泉郷が、ディズニー超え?
第1章 温泉郷の強みは、温泉か? 【大量生産・大量販売時代の終わり】
第2章 そうだ、星を売ろう! 【「当たり前のもの」が強みに変わる】
第3章 星の村 【コッターの企業変革力】
第4章 星のガイド 【ヒト・モノ・カネより大切なもの】
第5章 見えない星空 【リスク管理と失敗の3ステップ】
第6章 星のタウンミーティング 【抵抗勢力を味方につける】
第7章 星の絆 【「やりたいからやる」モチベーション3.0】
第8章 星の特産品 【1を100に育てるリーンスタートアップ】
第9章 五平餅協力隊 【ビジネスは合理的に判断できない】
第10章 星の模倣 【競争優位性の終焉と終わらない変革力】
エピローグ 成功体験を捨てる勇気

 

いよいよ来週発売。書店に並ぶのは4月18日頃から。既にアマゾンでは予約受付中です。

 

真冬の北国で採れたトロピカルフルーツが、なぜ1個2万円で売れるのか?

十勝マンゴー

3年前、北海道・帯広市にお招きをいただき、講演をした時、こんな話を聞きました。

「実は、帯広では真冬にマンゴーを1玉2万円で出荷しています」

最初に思ったのは、(なんで真冬に、帯広でマンゴー?しかも1玉2万円?)

 

北海道・帯広がある十勝地方と言えば、まさに厳寒の地です。
そもそもこんな場所で、どうしてマンゴーを、真冬に作っているのか?そして高く売れるのか?
しかも自然エネルギーだけで栽培しているそうです。
不思議ですよね。

 

日本国内のマンゴーの主産地は、宮崎です。九州の温暖な気候の中で、春から夏にかけて収穫されます。

一方でマンゴーは、年末年始の贈答用としても高い需要がありました。この時期はクリスマス需要も見込めます。
しかし九州とは言え真冬は当然ながら寒いわけで、マンゴーを栽培するのは難しかったのです。

「マンゴーを12月に出荷できないか?」

そこで宮崎のマンゴー農家と、帯広で事業を展開するノラワークスジャパンという会社が、協業を始めました。
2010年11月に宮崎県から成木を移植して栽培を開始。2011年5月には20個を収穫、十勝でもマンゴーが実ることを確認しました。

 

しかしマンゴーを冬に収穫するためには、マンゴーに6ー7月が冬で、12月が夏だと錯覚させる必要があります。そこで大型ハウス栽培に挑戦しました。

しかし石油や電気エネルギーを使って大型ハウスを暖房・冷房していては、お金もかかります。地球にも優しくありません。では、どうするか?

そこには逆転の発想があったのです。

 

十勝地方の冬、大雪が積もります。
そこで夏場は、木屑をかけて保存した雪山から、大型ハウス地下にパイプを通して水を循環させ、真夏の地水の温度を下げるようにしました。これでマンゴーは真夏を「南国の冬」と錯覚します。

また十勝地方には、「美人の湯」として知られる十勝温泉があります。
そこで冬場は、この温泉水を循環させて、冬場でもハウスを30度以上の温度を保つようにしました。これでマンゴーは、冬場を「南国の夏」と錯覚します。加えてミネラル豊富なこの温泉水は、マンゴーの木にも与えられています。

さらに十勝地方は年間平均日照時間が2033.2時間。これは北海道内ではトップクラス。日本国内でも、宮崎市や高知市、和歌山市といった日照時間が長い地域と比べて遜色がありません。冬も晴天が続きます。このおかげでマンゴーも完熟します。

実は帯広・十勝は食糧自給率は1100%。わが国有数の食料生産基地なのも、この国内有数の日照時間のおかげなのです。

 

このおかげで、日本一の糖度15度超、さらに繊維質も少なくとろける味わいのマンゴー生産に成功しました。
十勝で生まれたマンゴーは、「白銀の太陽」と名付けられています。

十勝マンゴーは、「マンゴーはシーズンもの」という従来の常識を覆して「クリスマスに美味しいマンゴーを届ける」というイノベーションを実現し、「年末年始の贈答」「クリスマス需要」という「お客様が買う理由」を創りあげ、新たな顧客を創造したのです。

 

【参考リンク】
十勝マンゴー、冬取り成功(十勝毎日新聞社ニュース)

「白銀の太陽」通販サイト

 

オムニマネジメント2016年4月号に連載第11回『新企画が通らない。どうすればいい?』が掲載されました

一般社団法人日本経営協会様が発行する月刊オムニマネジメント2016年4月号に、連載『新企画が通らない。どうすればいい?』が掲載されました。

オムニマネジメント201604

会社組織では、ときに理不尽なことが起こります。必ずしもいい企画が通るとは限りません。自信を持ってつくった商品企画が却下されることもあります。では、どうするか?

本論文では2つの事例を紹介しています。

一つ目はキリンFIRE誕生物語。実は当初は当時の社長に大反対をされました。その反対を乗り越えたカギが仮説検証。二つ目はその仮説検証を新事業立ち上げで活用したザッポスの事例です。

いずれも商品企画担当者は商品のあらゆるプロセスに積極的に関わっています。商品企画担当者の仕事は「商品の企画を作ること」ではなく、「商品を買う顧客を作ること」。商品企画担当者は、自分の仕事のあり方について、考え方を変える必要があるのです。

本論文ではそのことを述べました。

 

もしご覧になる機会がありましたら、お手にとってご一読いただければ幸いです。

 

主語を切り替えれば、良い方向に回り始める

若いビジネスマン2

私たちは、ともすると、このように考えがちです。

「○○が悪い」
「○○が間違っている」
「○○が□□をしてくれない」

○○は、「主語」ですね。多くの場合、この○○には社会や国、勤務先などの組織、個人である上司や部下、先輩や後輩、家族、パートナーなどが入ります。たとえば、こんな感じでしょうか。

「社会が悪い」
「会社の方針が間違っている」
「妻(あるいは夫)が□□してくれない」

しかし、主語が他人になっている間は、なかなか状況は変わりません。ましてや組織ならばなおさらのこと。

なぜなら、他人を変えることは至難の業だからです。
一人の他人を変えるのも大変なのですから、他人の集合体である組織を変えるのは、さらに大変です。

結局、他人を主語にしている間は、言いっ放しで終わり、何も変わらないのです。

 

ではなぜこうなるのでしょうか?

人は「自分は正しい。正義は自分にある」と思いがちだからなのかもしれません。しかし自戒を込めて考えると、「正義は自分にある」と思った瞬間、人は自分のエゴが見えなくなります。そして間違ってしまうのです。

 

しかし自分の考え一つで、比較的容易に変えられるものがあります。

それは「自分」。

現実には、自分の考えを変えるのも、それほど簡単ではありません。
しかし、コントロールできない他人を変える場合と比べると、はるかに容易です。

そこで冒頭の言葉で、主語を他人から自分に変えて、このように考えてみるとどうでしょうか?

「社会が悪い」→「自分は、何をできるだろう?」
「会社の方針が間違っている」→「この方針の元で、自分ができることは何だろう?」
「妻(あるいは夫)が□□してくれない」→「自分が妻(あるいは夫)に□□してあげよう」

自分の考えが変わると、色々なことが動きそうです。そして成果を上げれば、他人や組織もそれを認め、結果的に他人や組織も変わっていきます。

誰もが「状況をいい方向に変えたい」と考えています。

しかし「自分は正しい。相手がこのように変わるべきだ」と考えても、なかなか物事は変わりません。

ここで「今の自分がこのように変わるべきだ」と自分を主語にした考え方に変えてみると、色々なことが少しずつ変わってきます。自分も成長していきます。さらに小さな変化でも時間をかけて積み重なることで、大きな変化になっていきます。

 

主語が他人である限り、なかなか状況は変わりません。

主語を自分に切り替えれば、良い方向に回り始めるのです。

 

 


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文化放送オトナカレッジ 第13回「<モチベーション3.0>とは何なのか?」

昨日3月17日(木)の夜は、文化放送オトナカレッジへのレギュラー出演第13回目。

今回は「<モチベーション3.0>とは何なのか?」と題して、お話ししました。

 

私たちは何のために仕事をしているんでしょうか?大変な仕事でも頑張れるのは、なぜなんでしょう?
仕事、中でも知的生産性を上げるためのキーワードが、モチベーション3.0と呼ばれるものです。

ということで、今回の講義内容レジュメです。

1.どうしたら仕事に対するモチベーションが上がるのか?
2.お客さんの喜びがモチベーションを上げる!
3.「やりたいこと」を仕事にする方法
<モチベーション1.0>は、生き残るために頑張る。
<モチベーション2.0>は、目標を与えられ、目標達成のために、頑張る。→定型業務で生産性が高い
<モチベーション3.0>は、自分がやりたいから、やる。→知的生産性が高い(現代ではこれが求められている)

 

後半のお話しでは、様々な事例について掘り下げてお話ししました。

今回の講義前半の様子は、「オトナカレッジ 聴く図書館 Podcastアーカイブ」でもお聴きになれます。→今回分はこちら

 

恒例、アナウンサーの砂山さんとのツーショットです。実はこのお話しは、4月14日に発売する新著「そうだ、星を売ろう」の一部を先行してご紹介したものです。

オトナカレッジ20160317

 

次回の第14回目は、来週3月24日(木)。ついに最終講義ですね。『価値を生み出すビジネスは、社会貢献である』というテーマでお話しします。

ガラガラの紳士服店は儲かっているのか?

紳士服

家の近所に、全国でチェーン展開している紳士服専門店があります。

店の前をよく通りがかるのですが、お客さんはあまり入っていません。店員もまばらですが、店内にはかなり多くの商品を展示しています。

「お客さんも店員も、ほとんどいない。商品は沢山ある。儲かっているんだろうか?」

同じように不思議に思っている方も多いのではないでしょうか?

私も不思議でしたので、調べてみました。

 

そもそも紳士服専門店各社は、儲かっているのでしょうか?大手4社の2015年度業績は次の通りです。

青山商事   売上 2221億円 経常利益 247億円
AOKI   売上 1838億円 経常利益 189億円
はるやま商事 売上 504億円 経常利益 31億円
コナカ    売上  386億円 経常利益  11億円

どこもしっかり儲かっていますね。

しかし「紳士服専門店」というと、思いつくのはこの4社。
他にも横文字チェーン店があります。でもThe Suit Companyは青山商事、ORIHICAはAOKI、Perfect Suit JOYははるやま商事、SUIT SELECTはコナカが展開しています。世の中で目にする紳士服専門店のほとんどは、この4社で占めています。よく考えてみると不思議ですね。

 

そこで「紳士服専門店」という業態ができた経緯を調べてみました。

紳士服専門店は、1970年代から1990年代にかけて急成長しました。先鞭を付けたのは「洋服の青山」の青山商事です。

1970年代当時、紳士服は主に百貨店で売られていましたが、1着で給与1ヶ月分と、会社員にとっては高価でした。

そこで青山商事創業者の青山五郎社長は、「スーツを気軽に1ヶ月分の小遣いで安く買えるようにしよう」と考え、自社で開発・生産し、自社の店頭で売るようにしました。

これはSPA(製造小売販売)モデルという形態で、ユニクロやGap、最近ではAppleも展開しています。自分で材料の調達から、生産、配送、さらに店舗でお客さんに売るところまですべてをカバーしているので、自社商品に最適化でき、高収益になるのですね。

 

ただ、「紳士服専門店が儲かっているのは、自社で調達・生産・販売するSPAモデルで展開しているのが理由だ」と言われても、なんだかしっくりきませんよね。他にも理由がありそうです。

そこで青山がどのように生まれて成長したかを見てみましょう。

 

1972年、既に紳士服販売に特化して6店舗を展開していた青山商事の創業者・青山五郎社長は、同業他社のトップと一緒に「米国商業視察ツアー」に行きました。

視察の途中、サンフランシスコ郊外の巨大ショッピングセンター(SC)に立ち寄りました。周囲は何もない荒野ですが、賑わっています。ここで青山社長は疑問を持ちました。

「そもそも誰もいない郊外に、こんな巨大な商業施設を作って、なぜ商売が成り立つんだろう?」

当時の日本の常識は、「人が集まるところに店を出そう」だったのですね。

翌日。青山社長は別の視察先に行く一行から離れ単独行動を決意。タクシーを100Km飛ばしてその巨大SCに戻り、気がつきました。

そのSCの前には幅100mの大きな幹線道路があり、建物の数倍の面積を持つ巨大な駐車場が併設されていたのです。「カーショッピング」という、当時の日本には存在しなかった、まったく新しい販売形態だったのですね。

当時、日本でも家庭に自家用車が急速に普及し始めていました。青山社長は考えました。

「これはそのうち日本にやってくる。しかも、まだ誰も気づいていない」

一方で、この販売形態で特有なこともわかってきました。

まずこのやり方は、土地代が高い都会では無理。郊外だからこそ可能です。

一方で都会の買い物では、店に立ち寄るお客さんは多いものの一見客も多く、必ず買うとは限りません。しかし青山の場合、カーショッピングで紳士服専門店に車で来るのですから、消費の目的は明確に「紳士服を買うこと」です。

「これはいける」と考えました。

1974年、周到に準備を重ねた青山商事は、郊外ロードサイド型店舗(幹線道路の脇に建てて車で買い物にくるタイプの店)の一号店を広島県東広島市の西条町に出店しました。

当時、紳士服店は繁華街に出店するのが常識。そこへ、田んぼの真ん中に売り場面積70坪の紳士服専門店が突然あらわれました。当時地元の同業者たちは、「青山は気がふれた」と笑っていたそうです。

さらにオープン当初、お客さんは店に一人も来ませんでした。目の前の幹線国道を走るのは、トラックやライトバンなどの商業車ばかりでした。そこで手持ちぶさたの店長と販売員は、手分けして半径15Kmにくまなくパンフを定期的に配りました。

半年後、徐々に客が来るようになりました。そしてその客はほぼ100%、紳士服を買いました。

2号店以降は事前に販促活動を徹底してから開店するようになり、開店日から売れるようになりました。

こうして郊外ロードサイド型店舗の紳士服専門店の全国展開が始まりました。

 

このタイプの店に来るお客さんは「スーツを買う」という目的が明確で一見客はいないので、販売員も実際に買うお客さんに対応できる人数でOK。さらに商品が紳士服なので、販売員に必要な専門知識も絞り込まれています。販売員一人当たりでカバーできる店舗面積は、他業態と比べて格段に広くなります。だから私の近所の紳士服店も店員がまばらだったのですね。

来店する買う気満々の客には、確実に買ってもらうことが必要です。そこで紳士服に絞り込み、要望に対応できるように品揃えを幅広く用意しました。紳士服は1着数万円程度と高単価です。一日に10人来店し、1着ずつスーツを購入すれば、売上は一日数十万円。加えてSPAモデルなので粗利はその半分。収益性は高いのです。

「洋服の青山」を展開する青山商事を追って、各社も参入。紳士服専門店は、1990年代まで市場の成長とともに急成長しました。

 

一方で紳士服専門店というと、先に述べたように現在は青山、コナカ、AOKI、はるやま商事の4社ですよね。なぜいま、他の会社は参入しないのでしょうか?

紳士服チェーンは、1店舗で5万人の商圏をカバーする、と言われています。日本の人口は1億2600万人ですので、大まかに言うと2500店舗で飽和します。2015年時点の店舗数は次のようになっています。

青山858/コナカ344/AOKI557/はるやま商事477 →合計2236店舗

既にほぼ飽和状態です。この状況で、紳士服チェーン各社は新規出店と閉店を繰り返しています。つまり飽和市場で、既に強力な先行企業4社で寡占状態になっており激しく争っているので、他社はなかなか新規参入できないのです。

言い換えれば市場への参入障壁が高いため、4社で「残存者利益」を得ていることになります。

 

では市場全体はどうなっているのでしょうか?

矢野経済研究所「アパレル産業白書」によると、2007年に3099億円(小売金額ベース)だったスーツ市場規模は、団塊世代退職やクールビズ浸透により、2013年には2183億円に減少しています。

市場の成長段階にわけて戦略を考える「製品ライフサイクル」という考え方があります。図にするとこうなります。

製品ライフサイクル

この「製品ライフサイクル」で整理すると、紳士服市場は次の状況になっています。

導入期(1970年代前半) →一般的に、赤字です
成長期(1970年代後半〜90年代) →一般的に、利益が拡大します
成熟期(2000年代〜現在) →一般的に、利益は最大です
衰退期(現在〜将来) →一般的に、利益は減少します

既に紳士服専門店は市場として衰退期に入りつつあることも、新規参入がない理由なのでしょう。

このままでは、紳士服専門店はどこも収益が下がっていきます。そこで各社も多角化戦略を打ち出しています。

青山商事は、周辺アイテム(ドレスシャツ/靴)やカジュアル事業の拡大を図るとともに、レディスを強化、さらにEC/オムニ戦略を推進、加えて飲食事業や海外展開(主に中国)が成長しています。 →参考リンク

AOKIホールディングスは、機能性商品開発やブランド化(CAFÉ SOHO)を図るとともに、レディスを強化。さらにブライダル事業、カラオケルーム運営事業、複合カフェ市場も展開を始めています。→参考リンク

各社の今後の戦略は、「アンゾフの成長マトリックス」という考え方で整理できます。

アンゾフの成長マトリックス

 

この考え方で各社の今後の戦略をおおまかに整理してみると、

市場浸透戦略(既存客に、既存商品をより浸透させる)→EC/オムニ戦略、機能性商品、ブランド化
市場開拓戦略(新規顧客に、既存商品を売る)→海外展開、レディス
新商品開発(既存顧客に、新商品を売る)→カジュアル化
多角化戦略(新規顧客に、新商品を売る)→飲食事業、カラオケ(郊外展開の相乗効果を考慮)

ということですね。

 

世の中の変化を誰よりもサキドリし、「お客様が買う理由」を創りあげたのが、青山をはじめとする紳士服専門店が成功した大きな理由です。

さらに市場全体を製品ライフサイクルなどの大きな時間軸で見ると、打つべき手も見えてきます。

そして各社の戦略も、マーケティングの考え方で整理できます。

 

 

身近な紳士服チェーンから、自社にあてはめて学べることも多いのではないでしょうか?

 

 

 

商品企画会議でヒット商品を生み出す3つのヒント+1

商品企画会議

 

「商品企画会議、ウチもやっています。みんなで知恵を出し合っているのですが、なかなかヒット商品が生まれません。どうすればいいのでしょう?」

先週出演した文化放送「オトナカレッジ」で、「ヒット商品を生み出すヒントは、社員やお客さん一人一人の頭の中に散りばめられている。これらを集めることが大切」とお話しした後、こんなご質問をいただきました。

 

私もまったく同じ経験をしてきました。

参加者は誰もが力があるのに、なかなかいいアイデアが出てこない。
議論も深まらない。

しかしある時から、企画会議の生産性が急に高まるようになりました。それは次の3点を意識するようになってからです。

【その1:簡単な叩き台を作る】

「議論が発散するだけだった」という経験をされた方は多いのではないでしょうか?簡単な議論の「叩き台」を用意することで、これを防ぐことができます。できれば叩き台には、(1)現状の事実、(2)課題、(3)解決策をまとめておきたいところです。これを用意すれば、それぞれについて意見を言えるようになり、いいアイデアが生まれます。

必ずしも時間をかけて完璧な叩き台を作る必要はありません。むしろ方向性を誘導しつつ、適度に突っ込める「緩さ」があった方が議論が活性化します。

 

【その2:アイデアを肯定する】

企画会議でよいアイデアを殺すのは簡単です。アイデアが出た瞬間「それはダメだ」と言うことです。参加者は萎縮し、次第に誰もアイデアを出さなくなります。

たとえ荒唐無稽なアイデアでも、まず「いいですね!」と言うように習慣づけてはいかがでしょうか?そしてそのアイデアを否定せずに尊重した上で、そのアイデアをよりよくするためにどうすればよいのかを話し合うと、意外な方向でアイデアが育っていきます。

 

【その3:顧客視点を入れる】

商品企画会議でありがちなのは、技術重視で顧客不在のまま突っ走ってしまうこと。強みの源泉となる技術は大切ですが、顧客にとって価値がなければヒット商品になりません。「これはどんな顧客が考えられるだろうか?」「その顧客は何で困っていて、これはどのように課題を解決できるだろうか?」という顧客視点で議論するように習慣づけたいところです。

 

もう一つ、重要な点があります。一回の企画会議だけで終わらせず、プロジェクトとして継続することです。

経営学者の入山章栄先生は近著「ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学」で、「ブレインストーミングのアイデア出しは、実は効率が悪い」ということを、最近の研究を引用しながら紹介しておられます。

個人で分担してアイデアを出すのと比較すると、実は複数人でのアイデア出しは「他人への気兼ね」と「集団で話す際、他人の話を聞いている時に思考が中断する」ことで、生産性はむしろ低くなるという研究結果があります。

つまり「その場でアイデアを出す」という観点だけで見ると、実は効率が悪いのです。

ではブレインストーミングは意味がないかというと、そうではありません。多くのクリエイティブと呼ばれている組織は、ブレインストーミングを重視しています。

ブレインストーミングは、誰が何を知っているのかを知り、さらにブレインストーミング後も継続して意見交換し、非公式な場でアイデアを生み出す効果があるのです。つまり、組織全体で学習能力を高めるのですね。

確かに私自身も振り返ってみると、高い生産性を生み出してきたのは単発の商品会議ではなく、「プロジェクト」として継続して定期的に行う商品企画会議でした。

 

あくまで感覚的なものですが、よい企画会議は、5人いればアイデアが5倍になるのではなく、アイデアがアイデアを生み出す相乗効果で増幅され、アイデアが数十倍・数百倍にもなります。

しかし一回限りの会議でアイデアが生まれることはむしろ稀です。継続することが必要です。

 

たとえ最初の商品企画会議でアイデアが出なくても、一回だけで終わらせず、定期的に継続していきたいですね。

 

文化放送オトナカレッジ 第12回「ヒット商品のヒントは、どこにある?」

昨日3月3日(木)の夜は、文化放送オトナカレッジへのレギュラー出演第12回目。

今回は「ヒット商品のヒントは、どこにある?」と題して、お話ししました。

ヒット商品を生み出したい!これはすべてのビジネスパーソンの願いです。では、そのヒントはどこにあるんでしょう?
その答えは意外なところにあります。

ということで、今回の講義内容レジュメです。

1.マーケティングとは、「お客様が買う理由を作ること」。しかしヒット商品は一部の天才にしか生み出せないのか?

2.【四国・愛媛にある地元食材を使ったある食品メーカーのケース】アイデアマン社長の独断専行から従業員参加型の商品企画会議へ。

3.【永井の経験談】「自分ですべてを考えるのは無理。みんなの意見を聞いていいものはどんどん取り入れよう」への発想の転換。5人に聞くとアイデアは5倍ではなく何十倍になる。

4.【業務用ミラー最大手のコミーのケース】ユーザーのことをより深く理解するために、全従業員でユーザー訪問。使用状況調査の結果を全社員で共有して議論する。

5.実は、必要な知恵は社会に幅広く分散している。これを「分散認知」と呼ぶ。ヒット商品も、社員やお客さん一人一人の頭の中に散りばめられている。ヒントを集めていけば、生み出すことができる

 

後半のお話しでは、様々な事例について掘り下げてお話ししました。

今回の講義前半の様子は、「オトナカレッジ 聴く図書館 Podcastアーカイブ」でもお聴きになれます。→今回分はこちら

 

恒例、アナウンサーの砂山さんとのツーショットです。番組冒頭では、新発売の「文庫版 100円のコーラを1000円で売る方法」も紹介いただきました。

オトナカレッジ20160303

 

次回の第13回目は3月17日(木)、『やりたいことを、やるべし』というテーマでお話しします。

 

オムニマネジメント2016年3月号に連載第10回『模倣戦略が有効な条件を考えれば、競争優位性が理解できる』が掲載されました

一般社団法人日本経営協会様が発行する月刊オムニマネジメント2016年3月号に、連載『模倣戦略が有効な条件を考えれば、競争優位性が理解できる』が掲載されました。

オムニマネジメント201603-2

 

本論文では3つの事例を紹介しています。

一つ目は、新市場を開拓して先行し続けることで多数の追従メーカーがいるにも関わらずトップシェアを十数年間維持している自動お掃除ロボット・ルンバ。

二つ目と三つ目は、一方で先行するAltaVistaやソニーWalkManに対して、新たな価値を生み出して追い抜かしたGoogleやiPodです。

これらを事例として考察し、持続的競争優位性というものは消失している現代で必要なことは一時的競争優位性を獲得し続けることであることを述べています。

 

もしご覧になる機会がありましたら、お手にとってご一読いただければ幸いです。

 

「仕事=やりたいこと」でないという悩み

やる気

 

「『仕事=やりたいこと』であるべきだ、という話ですが…。なかなか仕事がうまくいかないことも多くて、現実は難しいですね」

「お客様が買う理由を、いかに作るか?」という講演で、「やりたい仕事をすることで、知的生産性も高まり、より高い価値を生み出せるようになる」というお話しをした後、こんなご質問をいただきました。

たしかに実際のビジネスの現場では、当初から「仕事=やりたいこと」になっていないことがほとんどです。では、どうすればいいかか?

 

必要なのは、「目の前のお客さんに喜んでいただく」状態に持って行くことではないでしょうか?

4ヶ月前に当コラムでご紹介した、朝市で佃煮を10年間売り続けているおばあちゃんも、自分たちが作っている佃煮をお客さんが喜んで買ってくれることで、「仕事=やりたいこと」になりました。

外部のお客様に接することがない、内勤の仕事でも同じです。

たとえば私は、日本IBMに勤務していた最後の2年間、50歳を過ぎてから人材育成を担当していました。「目の前のお客さん=事業部の社員」です。マーケティング戦略を15年間担当した後でしたので、人材育成の仕事は全くの畑違いの仕事。率直に言って、当初は必ずしも「人材育成=心からやりたい仕事」とは言えませんでしたし、慣れない仕事で最初はなかなかうまくいきませんでした。

しかし社員の皆さんのスキル向上に役立つ人材育成プログラムを企画して実施し、次第に社員から「自分のスキル向上に役立った」「こんな研修を受けたかった」と喜んでいただくようになったことで、「人材育成=心からやりたい仕事」だったと気づきました。2013年に独立後、現在は人材育成の仕事が会社の大きな柱になっています。私の場合、50歳を過ぎてから「人材育成=心からやりたい仕事」とわかったのですね。

多くの仕事で、「目の前のお客さん」は必ずいます。
そのお客さんに、いかに喜んでいただくか?
それが「仕事=やりたいこと」になる大きなきっかけになります。
その原点が、「お客様が買う理由」を徹底的に考えて、お客様に検証すること。

 

たとえ全体の5%でも心から喜んでいただけるお客様がいることが、「仕事=やりたいこと」になるきっかけになり、喜んでいただけるお客さんを増やしていくことで、次第にビジネスが拡大し、世の中にも貢献していけるのではないでしょうか?

マーケティングの方法論を学び、日々実践することで、「仕事=やりたいこと」になっていくのです。

 

変革は、若者しかできないのか?

変革

「やはり、若い人でなければ変革はできないのでしょうか?」

講演の質疑応答で、こんな質問をいただきました。

この講演では、ある地域活性化の取り組み事例をご紹介しました。

5年前、急速に衰退する地域にいる30代の若い方が「このままでは子供たちにこの地域を引き継げない」という危機感を持ち、賛同する少人数の同志と一緒に地域活性化に取り組みました。そして5年間で大きな成果を上げ、仲間も広がり、この地域は賑わっています。仲間の多くは若い方々です。

そこで冒頭の質問をいただいたのです。

地域活性化は、大きな変革プロジェクトです。
経験豊富な反対派も次々と現れ、チームは様々な組織的な壁にぶつかります。ともすると若者だけでは突破が難しいケースもあります。

この地域では、最初に志を共有した同志の中には、60代の経営者もいました。経験豊富なこの人がいたおかげで、組織的な問題にも対応でき、突破できました。

 

人は経験を重ねて成功すると、その成功体験が正しいと思いがちです。
しかしその成功体験は、賞味期限が切れてしまいます。

たとえば高度成長期、かつては一部の人しか楽しめなかった旅行が、低価格化と可処分所得の増加により一気に大衆化しました。この現象が「マスツーリズム」です。実際に私が学生の頃は、単に「海外旅行したい」という単純な理由で欧州に行く人も少なくありませんでした。

かつては顧客は「大衆」と考えるマスツーリズムは、成功の方程式でした。

しかし価値観が多様化し、成熟化した現代では、「海外に行きたい」という単純な理由だけで旅行する人はほとんどいません。多くの人は「エジプトのピラミッドを見たい」とか「フロリダのディズニーリゾートで遊びたい」といったように、自分の価値観にあった明確な理由で旅行に行きます。

こんな時代に、高度成長期のマスツーリズムの成功体験で「大衆向け」の集客をしても、お客さんは集まりません。
顧客は「個客」になったからです。

このようにかつての成功体験は、時代の移り変わりとともに賞味期限が切れていきます。
ですから、その昔の成功体験を、問題意識と志を持ってリフレッシュできるかどうかが重要なのです。
この地域で若いリーダーと志を共有していた60代の経営者の方も、「このままでは衰退するばかりだ」という大きな問題意識を持っていました。だから変革出来たのです。

 

83歳になるセブンアンドアイの鈴木敏文会長は、常に「変化対応」と言い続けています。鈴木会長は、1945年に第二次世界大戦で日本が敗戦したことで、価値観が根底からひっくり返ったことが原体験になり、常に変革し成長し続けるセブンイレブンを生み出したのです。

 

確かに若い人は、シニアな人と比べて経験値が少ないので、過去の成功体験に囚われません。新鮮な目で現状を見ることができ、過去に囚われることなく危機感を持つことができます。

では、若い人でなければ変革はできないのか?

そんなことはありません。重要なことは、「志と危機意識を持って、現状を否定できるかどうか」

経験を重ねてもそれが可能なことは、この地域の60代の経営者も、そして鈴木会長も、証明しています。

 

年齢を重ねても、問題意識と志を常に忘れないようにしたいものです。

 

 

世界で話題騒然のウーバー(Uber)。東京都内で乗ってみた

Uber

Uber(ウーバー)というサービス、ご存じでしょうか?
米国で生まれた自動車配車ウェブサイトと配車アプリです。
現在は世界58カ国で展開。普通のタクシー配車に加えて、一般の人が自分の空き時間と自家用車を使い他人を運ぶ仕組みも提供しています。このため米国ではタクシー業界が大きな影響を受けています。

一般の人が自家用車で他人を運ぶサービスは、日本では国交省の「白タク規制」にひっかかります。
実はUberは既に2014年から、「白タク規制」に引っかからない部分でサービスを開始しています。文化放送「オトナカレッジ」でお世話になっている放送作家・鈴木さんに教えていただいて、このことを知りました。

ということで私も先週、Uberを使ってみました。色々な発見がありました。

 

まず、Uberのアプリをスマホにダウンロード。設定は簡単です。メールアドレス、携帯電話番号、氏名、クレジットカード情報を入力します。これで個人が特定でき、自動決済できます。

この日は、東京・赤坂アークヒルズで仕事し、浜松町に移動するためにUberアプリを起動。近くで走っているUber対応の車が表示されます。

TAXI、プレミアムTAXI、ブラックVAN、ハイヤーの4種類別に、利用可能な車がどこにいるのかが地図で表示されます。車も地図上で刻一刻と動いています。このときはブラックVANとハイヤーのみが利用可能でした。5分程度で到着とのことでしたのでブラックVANを指定。車種はトヨタAlphard。ドライバーの氏名と顔、車種とナンバーも表示されます。若いドライバーでした。「この人が来るんだな」と事前にわかるのですね。

すぐに運転手の方から携帯電話に着信があり、待ち合わせ場所を口頭で確認。

アークヒルズ前の待ち合わせ場所で待ちながらスマホでUberのアプリを見ていると、地図上で今どこにその車があるかが表示されます。時間通りに到着し、乗り込みます。

ドライバーとお話しします。

「タクシー会社にお勤めなんですよね?」
「はい。今はUber専属でお客さんを乗せています」
「どの程度のお客さんがいるんでしょう?」
「毎日20件くらいですね。海外の方にとっては便利なようです。自分のスマホで自国語で表示されますし、日本語が話せなくても確実に到着地に着きますからね。お金の受け渡しもないので、安心です。自分の国でUberを使うのとまったく同じ感覚で使えるのがいいようですね」
「なるほど」

そんなことを話しているうちに、浜松町に到着しました。事前登録しているクレジットカード決済なので、ドアが開きそのまま何もせずに降ります。お金のやりとりをせずにそのままタクシーを降りるのはちょっと新鮮な体験ですね。

降車するとタクシーの領収書がメールで届きました。Uberアプリでも履歴が確認できます。プレミアムタクシーなので、実は普通のタクシーと比べると料金は若干高めです。通常1000円程度の料金が1990円でした。評価を付けられるので、最高の★★★★★にしました。

 

このように「白タク規制」がある日本では、タクシー会社だけがUberのサービスを提供しています。海外でタクシー会社でなく一般人がサービスを提供する場合も、基本は同じ仕組みのようです。

乗る立場になると「一般人が運転する車に乗るの?ボッタくられるんじゃないの?」とか、運転する立場になると「どんな客が乗るかわからない。怖い」と思いがちです。しかし顧客と運転手が互いに評価しあい、その評価をオープンに公開することで、事前にどのような人が運転したり乗ったりするかがわかり、未然にトラブルを防いでいるのです。

さらに海外では、自家用車を運転する一般の人が「A地点から、B地点を経由して、C地点に車で移動します。乗りたい人はどうぞ」とネットに登録し、そこに乗りたい人が申し込む仕組みもあるようです。一般人がサービスを提供する場合は当然料金もタクシーと比べて安いですし、手軽に使えるので、今までタクシーを使わなかった新たな顧客を生み出し、需要も創造しているのですね。

Uberによる2015年半期の売上は推定500億米ドル(6兆円)にも達するとのことです。

 

当初、創業者がUberのサービスを思いついたときは、誰もが荒唐無稽なアイデアと言ったのではないでしょうか? しかしこのサービスが今や非常に大規模になっています。同じようなサービスを思いついた人は沢山いたでしょう。しかし実行するのが何よりも大切だということが、このUberの成功からわかります。

さらにこのUberの裏には、挑戦したけれども失敗して消えていった他の方々の膨大なアイデアがあるはずです。

 

「新規事業とは、こんな形で生まれて、育っていくのか」と思った次第です。

 

 

オムニマネジメント2016年2月号に連載第9回『売れる商品は模倣される。ではどうすればよいのか?』が掲載されました

一般社団法人日本経営協会様が発行する月刊オムニマネジメント2016年2月号に、連載『売れる商品は模倣される。ではどうすればよいのか?』が掲載されました。

オムニマネジメント201602

もしご覧になる機会がありましたら、お手にとってご一読いただければ幸いです。

南信州の小さな村は、「失敗から学ぶ方法」で世界初の挑戦に成功した

星空

昨年7月に当ブログでご紹介した、南信州・阿智村で聞いたお話しです。

阿智村にある昼神温泉は、2005年から5年間で宿泊客が25%も激減しました。「温泉で癒やされる」だけでは他の温泉地と差別化できなかったのです。

しかし阿智村には隠れた強みがありました。星空です。阿智村にあるスキー場に勤めるスタッフは、夏の夜にゴンドラを動かして彼女と満天の星空を見ていたりしていたのです。実際に2006年、環境省が「日本一星空がよく見える場所」と認定したほど、綺麗な星空が見えます。

そこで「星空エンターテイメント」をテーマに、この星空を核にした地域づくりに取り組み始めました。

天体観測ではなく「星空エンターテイメント」であることが重要です。先のスキー場スタッフの例からもわかるように、ターゲットの顧客は20代の若いカップル。そういう人たちに星空で楽しんでもらうのですから、天体観測ではなく、星空の面白い話で楽しい体験をして欲しいわけですね。

そこで阿智村では、村に住む人たちから「星空ガイド」を募集して、この「星空エンターテイメント」に取り組み始めました。

 

しかしこの「星空エンターテイメント」は世界初の取り組みですから、他に参考にすべき事例がありません。では、どうするか?

阿智村で、この星空ガイドの採用・育成を担当する谷澤信さんからお話しを伺って、「なるほど」と思いました。

手本も正解もないのですから、自分で学ぶしかありません。実際、試行錯誤の連続だったそうです。

そこで毎晩、星空ガイドの仕事が終わった後、必ずスタッフで反省会を行い、よかったこと・悪かったこと・改善すべき点を話しあって解決策を決め、翌日に持ち越さないようにしました。この仕組みによりお互いに情報を共有し、学び続けるようにしたのです。

当初作成したマニュアルは、この学びを反映して、改訂を繰り返していきました。

 

この星空ガイドの挑戦は、「仮説検証による学びの蓄積」に他なりません。

仮説を立てる→実行する→検証する→対応する→新たな仮説を立てる→…

これをひたすら毎晩、繰り返してきたのです。

2012年8月に星空ガイドを始めてから3年以上が経過し、仮説検証の分厚い蓄積でノウハウも蓄積したことが「日本一の星空」阿智村ならではの強みになっているのです。継続的な仮説検証が差別化の手段になることがわかるエピソードです。

 

そしてこれは、私がよく講演でご紹介する、ティム・ハーフォードが著書「アダプト思考」で書いた「失敗から学ぶ方法」そのものです。

失敗から学ぶには、3つの方法があります。

(1) 新しいことを試すこと。ただし、挑戦に失敗はつきものであると覚悟しておく。星空ガイドも世界初の新しい挑戦です。ですから必ず失敗が起こります。星空ガイドの方からも、失敗を通じて色々な学びを得ました。

(2) 失敗しても大きな問題にならないようにする。実験規模を見極めギャンブルを避ける。星空ガイドも当初は客数が多くありませんでした。この段階で様々な試行錯誤を繰り返してきたのですね。

(3) 失敗を失敗と認める。失敗を認めなければ、学ぶことはできません。星空ガイドも毎晩の反省会を通じて学びを蓄積してきたのです。

 

世界初の挑戦である「星空エンターテイメント」は、「失敗から学ぶ3つの方法」を実践して生まれたのです。

 

 

その制約が、新しいアイデアの源になる

制約

1985年公開の映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」。

エンディングで、主人公のマーティは、時計台に落雷する雷が発生する膨大な電力で1955年から1985年に戻りました。時計台に落雷する時間ギリギリに間に合うか?手に汗を握るシーンの連続です。

しかしオリジナルのシナリオは核実験場に行って、核爆発を利用してタイムスリップをする予定だったそうです。
しかしこれは100万ドルの撮影費用が必要と試算されて、予算の都合から断念されました。1985年当時はCGはあまり使われることがなく、撮影が必要だったのですね。

その後、新しいアイデアが生み出され、皆様がよくご存じの落雷で未来に戻るシーンになりました。脚本担当は「結果として格段に良くなった」と語っているそうです。

 

これは、新しい商品やサービスを開発したり、あるいは著書を執筆したり、作品を制作する時に、勇気と励ましを与えてくれるエピソードです。

何か新しい価値を創ろうとする場合、必ず何らかの制約があります。
それは予算、時間、リソース、組織的な事情、あるいは人間関係などです。
何の制約もないことは、まずありません。

時として目の前に立ちはだかる大きな制約に、「こんな状況で、どうやって新しく価値を創ればいいのか」と思いがちです。
制約が、新しいアイデアの源になりうることを、このエピソードは教えてくれます。

 

与えられた厳しい条件の中、様々なアイデアを試して知恵を絞ることが、まったく新しい創造的な解決策に繋がっていくのです。

 

 

文化放送オトナカレッジ 第9回「うまく失敗する3つの方法」

昨日1月21日(木)の夜は、文化放送オトナカレッジへのレギュラー出演第9回目。

今回は「うまく失敗する3つの方法」と題して、お話ししました。

世の中が激変する現代、新しいことに挑戦し続けることはますます重要になっています。しかしともすると失敗を恐れて挑戦しないことも多いのが現実です。新しいことに挑戦して成功するためには、「うまく失敗し、失敗から学ぶ」方法を実践することが必要になります。

ということで、今回の講義内容レジュメです。

■ルンバが成功するまでにした14回の失敗とは?

■靴をオンラインで売るためにザッポスが行った奇想天外な実験とは?

■失敗から学ぶ3つの方法
(1)新しいことを試すこと
(2)実験規模を見極めギャンブルを避けること
(3)失敗を失敗と認めること。

後半のお話しでは、ホンダの米国市場進出や、米国陸軍のAAR (アフターアクションレビュー)の事例も挙げて、さらに失敗から学び成功する方法について掘り下げてお話ししました。

今回の講義前半の様子は、「オトナカレッジ 聴く図書館 Podcastアーカイブ」でもお聴きになれます。→今回分はこちら

恒例、アナウンサーの砂山さんとのツーショットです。

オトナカレッジ20160121

「失敗から学ぶ3つの方法」は、組織でも個人でも大切です。

次回の第10回目は2月4日(木)、『なんで「オモチャ」に負けるのか?』というテーマでお話しします。

 

 

近畿島根経済倶楽部様で、講演しました

2016年1月15日(金)、リーガロイヤル大阪で行われた近畿島根経済倶楽部様の新年互礼会で、講演する機会をいただきました。

近畿島根経済倶楽部様20160115

近畿島根経済倶楽部様は、島根県ご出身の近畿圏におられる経営者の皆様で構成する会で、年に2回程度お集まりになっています。

懇親会では島根県知事も参加され、経営者の皆様から色々なお話しをお伺いすることができました。とても有意義な会でした。

 

講演にお招きいただき感謝です。

 

 

縮小する日本市場へ、海外有力メーカーが競って最新の掃除機を投入する理由

黒船

当コラムで何回かご紹介している掃除機市場では、海外の黒船家電メーカーが競い合って日本市場に最新異種を投入しています。

たとえばダイソン。日本市場で最新商品を先行販売しています。さらに日本の消費者モニターも募集しています。
アイロボット社が開発販売するルンバ。品ぞろえの半分は日本独自仕様です。
北欧の家電メーカー・エレクトロラックス。日本市場向けに静音性に優れた掃除機エルゴスリーを投入しています。

しかし考えてみると不思議ですよね。日本市場は少子高齢化で縮小しています。
なぜ海外有力メーカーは、縮小する日本市場へ、競い合うように最新機種や日本独自機種を投入するのでしょうか?

 

その理由を、アイロボットのコリン・アングルCEOはこう語っています。

「日本のお客さんを幸せにできれば、世界中のお客さんを幸せにできる」

 

ダイソンも、消費者の目が厳しい市場で商品を磨き上げるために、日本で最新機種を先行発売しています。
エレクトロラックスも、排気フィルター採用などの日本市場で得られた消費者の意見がグローバル商品の開発に生かされています。

きれい好きで、最新技術を受け入れ、要求レベルも厳しい消費者が集まっている日本市場は、掃除機の最先進ユーザーが集まっているのです。
言い換えれば、掃除機市場については、日本はニーズのサキドリができる貴重な地域なのです。

だから黒船家電メーカーは、技術の粋を極めた最新の掃除機を、競い合うように日本市場に投入しているのですね。

 

黒船家電メーカーは、技術面の「ものづくり」と、ニーズサキドリの「顧客づくり」の両輪を回すために、日本市場に最新の掃除機を競い合うように投入しているのです。

私たちも、黒船家電メーカーの考え方から学べることは多いのではないかと思います。

 

御社の商品・サービスの最先進ユーザーは、どこにいるか?

そこから見えてくるものが、きっとあるはずです。

 

 

神奈川IBMユーザー研究会様で講演しました

2016年1月13日(水)、横浜で行われた神奈川IBMユーザー研究会様の新春例会で「お客様が買う理由を、いかに作るか?」と題して90分の講演をさせていただきました。

昨年は7月に北陸IBMユーザー研究会様(@ 金沢)、11月に長野IBMユーザー研究会様(@ 長野)で講演の機会をいただきました。今年初めてのIBMユーザー研究会様への講演です。有り難いですね。

今回は約40名が参加されました。

冒頭、皆様に質問をさせていただいたところ、私がIBM大和研究所時代で製品開発を担当していた際に大変お世話になったお客様の丸谷さんが答えていただきました。

神奈川IBMユーザー研究会様講演

懇親会には、日本IBM最高顧問に就任された下野さん、15年前に私がCRMマーケティングを担当していた頃からお世話になり今年から日本IBMパートナー事業部長に就任された長南さんも参加されました。

IBMを卒業して2年半ですが、下野さんのご講演でコグニティブコンピューティングの取り組みや、懇親会でお客様からの出向社員を受け入れている取り組みなどのお話をお伺いし、日本IBM様も色々と新たな挑戦をなさっていることがよくわかりました。

このような機会をいただき感謝です。

オムニマネジメント2016年1月号に連載第8回『IBMは1999年にあることをやめて、2000年代に成長した』が掲載されました

一般社団法人日本経営協会様が発行する月刊オムニマネジメント2016年1月号に、連載『IBMは1999年にあることをやめて、2000年代に成長した』が掲載されました。

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もしご覧になる機会がありましたら、お手にとってご一読いただければ幸いです。

 

 

なぜ私の戦略は「ゴミだ」と言われ、目の前で破かれたのか?

ゴミ箱

「永井さん、あなたが作ったこの戦略はね。ゴミだ」

米国人上司はそう言って、私の説明資料を、私の目の前で破りました。

そしてこのように付け加えました。

「あなたの問題は、『自分の戦略』にこだわって、考え過ぎることだ。戦略は米国本社がちゃんと考えている。今あなたが行うべきは、本社の戦略を忠実に実行することだ。あなたが時間をかけて作ったこの戦略はまったく意味がないね」

いきなり資料を破られて「ムッとしなかった」と言えばウソになります。「本社の戦略だけ考えればいい」もやや誇張し過ぎでしょう。しかし一方で、彼の言っていることにも一理ありました。

この時、私はある業務の新任責任者を拝命し、自分なりに戦略を考えていました。しかし米国本社側の戦略をキチンと理解し、整合性を取る優先順位は落としていたのです。

実際には本社戦略に沿って、社内の各部署で多くの人たちが仕事をしています。本社戦略に沿えばそれらの成果を活用できます。しかし独自の戦略で進めば、これらの知見は活かせません。

本社戦略を表面的に聞くと「いや、自分の状況は違う」と思いがちです。しかし基本的な考え方や方向性をキチンと理解すれば、意外と共通点も多いものなのです。

 

彼の言うことに素直に従ってみることにしました。

ちゃんと見てみると、本社戦略がよく整理されていて、自分の戦略で採り入れるべき点も多いことがわかりました。一方で様々な事情で適用できない部分もあります。

そこで本社戦略で採用すべきものは採用し、独自に考えるべき点は直し、戦略を練り直しました。

本社戦略に沿った部分、独自に変えた部分、そのようにした理由が明確になりました。この構造をわかりやすくキチンと説明できるようになったことで、本社側のサポートも得られ、仕事の成果に繋がりました。

さらに本社は、私が独自に変えた部分に興味を持ちました。実は彼らも各部門の現実を知りたがっていたのです。私が独自に変えた部分の一部は、その後、本社戦略に反映されて全社に展開されました。

 

ある程度規模が小さい企業でも同じです。

企業様で現場を預かるマネージャーとお話ししていると、本社方針を理解不十分なまま、目の前の仕事を進めている場面によく出会います。

しかし組織の中では、1人で仕事は進められません。マネージャーの場合だったらなおさらのこと、複数の組織との協業が必須です。だからこそ、組織の中で方針を立てる場合は、常に全社戦略との整合性を考える必要があるのです。

 

私の戦略が「ゴミ」と言われた理由。
それは、全社的な整合性がない、独自の戦略を立ててしまったからなのです。

彼はなかなかそれを認めようとしない私に、ショック療法として目の前で破ってくれたのです。

 

 

「それは”me, too戦略”。失敗する戦略の典型だよ」

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「それは”me, too戦略”って言うんだ。失敗する戦略の典型だよ」

前職の日本IBM社員時代、IBM本社のある事業責任者に言われた言葉です。

日本のある製品市場で、ダントツに強いライバル製品がありました。
シェア5割を超えており、様々な営業施策を繰り出してもこのシェアはビクとも動きません。ライバルは国内代理店チャネルをしっかり押さえ、顧客から圧倒的認知を獲得していたためです。

そこで同等の対抗商品を出そうと2年間検討し、営業戦略も練り直した上で、IBM本社の事業責任者に商品強化を強く要望しました。しかし事業責任者は冒頭の言葉の後、このように言いました。

「それは、”me too戦略”って言うんだ。失敗する戦略の典型だよ。
 圧倒的に強いライバルがいるんだから、同じ事をしても絶対に負ける。
 市場のルールを変えなきゃダメだ。
 『ルールを変える戦略』を立てて持ってくれば、投資を検討してもいいよ」

言われてみれば、確かにその通りです。

そこで『ルールを変える戦略を立てる』という宿題に答えるべく、プロジェクトを開始しました。

わかったことがありました。
圧倒的に強いライバルは、現在主流ではあるものの、古い技術を使っているということでした。古い技術をベースにしているために、顧客が使う際に様々な制約がありました。しかし顧客にとっては「制約があるのは当たり前」だったので、制約を受け容れていたのです。

一方で、数年前から市場では新しい技術が台頭していました。
この新技術を使うと、それまで「あって当たり前だった制約」がなくなります。そして市場にはこの新技術を活かした定番商品はまだありませんでした。

そこで、先の事業責任者に、「この新技術を活かした製品を投入すれば、現在の顧客の潜在ニーズを満足し、新市場を生み出せる可能性がある。投資すべきだ」と報告、新製品を開発するように依頼しました。
その後、新製品を市場に投入。「早く、安く、カンタン」を売りに製品市場での技術の世代交代を促進し、代理店経由で販売開始しました。新製品はライバルの牙城を切り崩し始めました。

このプロジェクトの出発点が、まさに事業責任者が言った、

それは、”me too戦略”って言うんだ。失敗する戦略の典型だよ。
圧倒的に強いライバルがいるんだから、同じ事をしても絶対に負ける。
市場のルールを変えなきゃダメだ。

という言葉でした。

 

仕事からは様々なことが学べるということを実感した、貴重な経験でした。

下町ロケット・佃航平は、ものづくりではなく顧客づくりをしていた

ロケット2

最終話は2015年連ドラ最高の視聴率22.3%を記録した、あの「下町ロケット」

私も第一話から最終話まで見ていました。池井戸ファンの私としては本も2冊読みました。そして気づいたことがあります。

この物語は一見、日本企業への「ものづくり賛歌」に見えます。
しかし物語が進むにつれて、実はそうではないことに気がつきました。

最初の頃の佃製作所は、高性能エンジン技術に特化してはいるものの、何に使えるかわからない儲からない技術にばかり投資し、過大な研究開発予算で会社のお金も回らなくなり、大口取引打ち切りもあって、何回も経営危機を迎えます。主人公の佃航平も、社員から「社長、もっと経営やビジネスのこと考えて下さい」と迫られ、「オレは経営者失格なのか」と悩みます。

その姿は、顧客が見えない「ものづくり」に没頭する日本企業の姿とダブります。

しかし物語が進むにつれて、佃製作所が蓄積してきた技術を必要とする顧客が現れてきます。

たとえば、帝国重工宇宙航空部の財前部長。
初の100%国産ロケット打ち上げの厳命を受けて、高性能バルブシステムを必要としています。

さらに「ガウディ編」では、財前部長はバルブに混入する異物をセンサーで感知して粉砕する佃製作所のシュレッダー技術が、将来ロケットの信頼性を格段に向上することを見抜き、その布石としての位置づけで、ガウディ計画への参画を決意します。

また、北陸医科大学・一村教授。
心臓手術に使用する人工弁「ガウディ」の開発責任者として、血栓を生じない高信頼性の人工弁を必要としています。

これらの難易度が高い課題に応えられる技術を持った企業は、佃製作所しかなかったのです。

 

つまり物語を通じて、佃製作所は、地道な技術蓄積の末に極めて強い「お客様が買う理由」を創り上げていったのです。
私がいつも提唱している「お客様が買う理由」のフレームワークで整理してみます。

 

■ロケットのバルブシステムの場合

(1) 佃製作所の強みは何か?
高性能タービン技術

(2) その強みを必要とするお客様は誰か?(= ターゲット顧客)
帝国重工宇宙航空部 財前部長

(3) そのお客様が必要とすることは何か?(= 顧客課題)
帝国重工社長からの至上命題は、初の100%国産ロケット打ち上げ。そのためには、燃料である液体水素と、酸化剤である液体酸素をタンクから高圧でエンジンに送り込む高信頼性のバルブシステムが必要としていた。(部下の富山が開発に成功したが、その特許は佃製作所が先に抑えていた)

(4) お客様が自社を選ぶためにどうするか?(= 解決策)
より高性能・高信頼性のバルブシステムを開発し、帝国重工へ供給する

 

■ガウディ計画の場合

(1) 佃製作所の強みは何か?
ロケット品質の高性能タービン技術

(2) その強みを必要とするお客様は誰か?(= ターゲット顧客)
北陸医科大学の一村教授

(3) そのお客様が必要とすることは何か?(= 顧客課題)
心臓弁膜症の治療に使われる人工弁は外国製のものが多く、成長期にある子どもの患者は、成長するたびに新しい人工弁に取り替える手術が必要になる。そこで取り替える必要がない人工弁を国産化したい。そのためには血栓が生じない高信頼性の弁を必要としていた

(4) お客様が自社を選ぶためにどうするか?(= 解決策)
人体の臓器よりも血栓発生率が少ない高性能・高信頼性の人工弁を開発し、供給

 

いずれの場合も、自社の強みを徹底的に見極めた上で、その強みを活かせる顧客を見定め、課題を徹底的に理解し、解決策を提供していることがわかります。

いわば、「ものづくり」だけではなく、その先にある「顧客」も見据えて、「顧客づくり」に邁進しているのです。

 

この裏にあるのは、主人公・佃航平の

「技術は人を支える。人間社会を豊かにする。人を幸せにする」

という強い想いです。泥臭くもがきながら技術を追求し続け、いかに顧客を幸せにし、よりよい社会にするかを考え抜いているのです。

 

「自分がやりたいことをやるための『ものづくり』」ではなく、「お客様が欲しいと思い、幸せになるような『ものづくり』」が必要であることを、私はあらためて下町ロケットから学ぶことができました。

模倣戦略は失敗の王道。しかし有効な場合もある

先週12月3日に出演した文化放送オトナカレッジでは、「柳の下にドジョウは2匹いるのか?」と題して、お話ししました。

ポイントをまとめると、

■1980年代くらいまでは、模倣戦略は有効だった

■しかし今、この戦略はうまくいかない。たとえばルンバは2002年に販売開始したが、2014年時点で日本国内シェアは66%。残り34%は他メーカー10社が分け合っている

■模倣戦略がうまくいかない理由は2つある

■1つは、商品寿命が短くなっている。1970年代と比べて1/10程度になっている

■2つは、模倣しても劣化版コピーにしかならない。時間が少ないので模倣が不十分になり、差別化しようとしてもそれが顧客が買う理由に繋がらない

■だから、「模倣戦略は失敗の王道」なのである

 

しかし実は、模倣戦略が有効な場合もあるのです。事例を2つご紹介します。

 【事例1:AltaVistaとGoogle】

実はネット全文検索を初めて実現して世の中で話題になったのは、Googleではなく、AltaVistaというサービスでした。 1995年の当時、私はAltaVistaを使ってみて、「おお、凄い!こういうことができるんだ!」と驚いたことをよく覚えています。

このAltaVistaは、コンピューターメーカーのDECが開発したAlphaサーバーの高性能をデモするために、インターネット上のあらゆるページをインデックス化することにより作ったサービスでした。(ちなみに後にCompaqがこのDECを買収。そのCompaqもHPにより買収されました)

一方でスタンフォード大学の博士課程だったセルゲイ・ブリンとラリー・ペイジがGoogleの原型を開発したのは、翌年の1996年。そしてGoogle創業は1998年。実はGoogleは後発だったのです。

では、なぜ後発なのにGoogleは残り、AltaVistaは負けたのでしょうか?

AltaVistaはDECがAlphaの性能をデモすることが目的だったので、機能は十分ではありませんでした。たとえば検索結果の精度は徐々に悪化していきました。一方で後発のGoogleはネット検索専業として技術を磨いて検索精度を向上させ、追い越したのです。

 【事例2:ウォークマンとiPod】

携帯音楽プレイヤーで先行したのは言うまでもなくソニーのウォークマン。しかしデジタル音楽が普及した2001年に登場したAppleのiPodは、単にデジタル音楽機器として提供されただけでなくデジタル音楽を配信するインフラiTunesも用意しました。一方のソニーは従来型の音楽著作権のしがらみから抜けられず、iTunesのような仕組みは作れませんでした。

その結果Appleは、ソニーがデジタル音楽を配信するインフラを作れないジレンマを抱えて停滞している間隙を縫って、デジタル音楽の勝者になりました。

 

このように考えると、どのような場合に模倣戦略が有効かがわかります。

それは、先行企業が色々な理由により技術を磨かけずに、進化が停滞した場合です。

「商品寿命が短い」ということは、時間がますます希少な資源になっているということです。進化を怠ると、あっという間に後発企業に追いつかれます。

先行企業と言えども、油断をすると、後発企業に模倣されて抜かれてしまうのです。ビジネスがまさに「競走」であることを考えると、当たり前のことですね。

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逆に言えば先行企業は、常に技術を磨き続けて顧客の課題を解決し続けることが、勝利の鉄則なのです。

 

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カメラを再定義。4年間で売上が22倍に成長したGoPro

私のライフワークは写真です。20代の頃は若気の至りで、プロの写真家として生計を立てることも考えてました。

これまで色々な写真機材を使ってきましたが、そのほとんどは日本製。皆様ご存じの通り、日本のカメラは世界でも品質がダントツに優れています。そしてデジタル化が進んだことで、静止画と動画の融合も始まっています。

このカメラ市場で、急成長している米国企業があることをご存じでしょうか?

2010年 40万台
2011年 110万台
2012年 230万台
2013年 380万台
2014年 520万台

凄い成長ですよね。米国のGoProという会社です。

2010年に6400万ドル(77億円)だった売上は、4年間でなんと22倍になり、2014年には13億9400万ドル(1672億円)になりました。

GoProのカメラを使うと、このように今までとまったく違う写真が撮れます。

GoPro

(GoPro Investor Presentationより)

 

普通のカメラではこんな写真、なかなか撮れませんよね。

 

どんなカメラかというと、こんなカメラ。HEROという名前のカメラです。

GoProカメラ

(GoPro Investor Presentationより)

 

身体やヘルメット、あるいは人間以外のもの(ペットなどの動物や乗り物など)に付けて撮影します。撮影を意識することなく、スポーツなどに熱中し、その様子が本人の視点で撮影できるのです。

 

このGoProを創業し、現在CEOを務めるニック・ウッドマンさんと一橋大学の竹内弘高先生の対談を、先月の日経フォーラム世界経営者会議で伺う機会をいただきました。

ニックさんは20歳の時、「30歳までの発明家になる」と決めて、新規事業に挑戦してきました。24歳の時はゲーム会社で400万ドルの損失を出したりして、26際にはすべてを失い失敗。そこで5ヶ月間、自分が情熱を持てることに熱中しようと、好きなサーフィンをしながら世界を回ることにしました。ニックさんはサーファーだったのですね。

サーフィンをしながら波の上から見える景色は、地上とはまったく違います。ニックさんは「この目に見えるシーンを、写真に残したい」と考えました。そこで2004年、35mmフィルムカメラを自分の腕に括り付けて、ファインダーを見ることなく写真を撮れるようにしました。自分用に作ったカメラですが、サーファー仲間で「同じモノが欲しい」と大人気になり、製品化することにしました。これがGoProの始まりです。

なぜGoProという名前を付けたかというと、サーファーは誰もが「プロになりたい」と思うから。そこで「プロになる」(Go Pro)と名付けました。製品名HEROも、「自分がヒーローになる」という想いを込めています。

つまりGoProは「究極の自撮りカメラ」なのですね。

 

竹内先生が「かつてこういうガジェット系の製品は、ソニーが作っていた。なぜソニーでなくGoProが成功したのですか?」と質問すると、ニックさんは「組織が大きくなると製品も多くなるし色々と難しくなるのだろう。GoProは、情熱とアイデアを持つ個人を大切にしてきたから」と答えています。

 

 

GoProは、自社の使命を次のように定義しています。

「体験のコンテンツを記録し、共有し、管理するわずらわしさを、徹底的に排除する」
(OUR MISSION: ELIMINATE THE PAIN POINTS OF CAPTURING, MANAGING AND SHARING ENGAGING CONTENT)

この使命を実現するために、カメラを製造・販売するだけでなく。ソーシャルメディアなどで写真(動画)をすぐに共有できるような仕組みも整えています。

GoPro-Enablement

(GoPro Investor Presentationより)

 

ここまでお話しをお聞きして、GoProが成功した理由がわかりました。

1990年代にデジカメが登場した頃、銀塩フィルムと比較してデジカメの画質はかなり見劣りしていました。そこでカメラメーカー各社は、よりシャープに、より高精度に、より忠実に写真を記録できるように技術を磨き続けてきました。「写真をキレイに撮影する」ことに注力してきたのですね。

その進化のおかげで、現在のデジカメはかなりの高画質になりました。

たとえば私が来週の写真展の撮影のために使用したデジカメは1600万画素。数字の上ではそれほど高画素数ではありません。しかしこの画素数でも150cm × 100cmの大サイズにプリントして、十分な画質を確保できます。カメラを普通に使う分には、これ以上のサイズにプリントする人はそんなに多くないでしょう。

しかし日本のカメラメーカー各社はさらに高画質化に挑戦中で、間もなく1億画素のデジカメ登場も予想されています。

 

一方でGoProが追求しているのは、「キレイに撮影すること」ではなく、「コンテンツを通じて体験を共有すること」

そのために、カメラだけでなく、プラットホームも用意し、自分の感動を共有した人達をファンに取り込み、ブランドメッセージを強化し続けています。

 

GoProが対象とする顧客は、「自分の感動体験をすぐに共有したい。でも従来型のデジカメやビデオは煩わしい」と思う人。その人たちに強い「買う理由」を提供しています。

かくいうカメラのヘビーユーザーである私自身、「写真を撮影する時は、撮影に集中する」のは当たり前。何か面白そうな被写体を見つけても「これは撮影する体勢が確保できない」と判断すると、撮影を諦めることもよくありました。そして撮影後、画像を現像するなど、人に見せるまでに手間をかけるのも当たり前と思っていました。

GoProのように「写真を撮ることは忘れて、その『行為』に集中する」、さらに「手間をかけずに映像を共有する」という発想はできませんでした。

つまり従来のカメラユーザーに訊いても、GoProのような発想は生まれてこないのですね。

サーファーのように、まったく異なるニーズを持つ顧客を見つけ、その顧客の課題に対して応えたのが、GoProなのです。

 

ニックさんのお話をお聞きし、「ニーズのサキドリ」を実現した企業が勝つ時代なのだと改めて実感しました。

 

 

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不毛でない値下げ合戦なら、よいのか?

合戦

 

「では、不毛でない値下げ合戦なら、いいんでしょうか?」

先週の文化放送オトナカレッジの放送で、「不毛な値下げ合戦は何を引き起こすのか?」というテーマをお話ししたところ、リスナーの方からこんなご質問をいただきました。

素晴らしいご質問ですね。

そもそも「不毛な値下げ合戦」とは何でしょうか?

 

 

それは利益を削ることで、価格を下げて戦う方法のことです。

牛丼業界は、一時期、どこも300円以下で販売していました。まさに価格競争で業界全体が疲弊している典型的な業界です。しかし利益を削るだけでは限界があるので、いずれ品質にも手を付けざるを得ません。

番組では、1960年代に始まった米国コーヒー業界の価格競争の事例をお話ししました。価格勝負に陥った結果、コーヒーの品質を下げて、顧客離れを引き起こしました。当時米国人1人あたり1日3.12杯飲んでいたのに、40年後には1.5杯と半分以下になりました。「米国のコーヒーは不味い」という評判が定着し、市場は半分以下になってしまいました。

 

牛丼業界、1960年代の米国コーヒー業界、いずれも利益も品質も削って値下げ合戦に陥っていたのです。このような値下げ合戦は、企業同士の体力勝負になります。

スポーツの「体力勝負」は、体力の限界まで追い込むことで、体力の限界値が徐々に上がりますが、利益や品質を削った値下げ合戦の体力勝負では、安くても低品質な商品を提供される顧客は離れていき、企業の体力は徐々に失われます。その先にあるのは企業の淘汰。行き着く果てが市場の大絶滅。だから「不毛」なのです。

 

ここで必要なのは、新たな価値を生み出して価格競争から抜け出すこと。牛丼業界はいま様々なメニューで試行錯誤していますし、米国コーヒー業界では「美味しいコーヒーを提供しよう」と考える人があらわれスターバックスのような会社が現れました。

 

番組でこのお話しをしたところ、リスナーの方から、「では、不毛でない値下げ合戦なら、いいんでしょうか?」というご質問をいただいたのですね。

値下げの中には、利益を削らない値下げもあります。

それは最新技術の活用により、より低いコストで提供できるようなコスト構造を実現し、利益と品質を確保した上で、価格を下げる方法です。

たとえば生命保険業界では、長い間、営業職員が販売していました。人手や営業拠点などの販売コストはすべて保険料金に転嫁されるので、保険料金は割高になっていました。

この伝統的なコスト構造を大きく変えたのが、2008年に創業したライフネット生命保険。生命保険をネット経由のみで販売することで、販売コストを削減し、保険料金を大きく下げました。

これは最新技術を活用してコスト構造を変え、低価格を実現した例です。

 

「歯を食いしばってでも、頑張って、値下げ競争を勝ち抜け」という根性論には、限界があります。

価格勝負をするのならば、利益や品質を削って価格を下げるのではなく、利益も品質も確保した上で、智恵を絞ってコスト削減を図りたいところです。

 

しかし最新技術を活用して低コスト構造を実現しても、それだけでは不十分なのです。いずれライバルが追いついてくるからです。

ライフネット生命の創業から6年が経過した現在、ライバルのネット生保が増えてきました。既に「ネット専業だから低価格」だけでは差別化できない状態なのです。

ライフネット生命も当初から、わかりやすいシンプルな商品構成、保険の簡易請求の実現、業界で唯一の保険料内訳公開などにより、顧客満足度第一位を獲得するなど、低価格を売りにするだけでなく、企業努力を重ねています。

 

価格だけに頼らずに、常に高い価値を提供し続けることを追求すべきなのです。

 

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1999年、IBMはあることをやめて、2000年代に大きく成長した

太陽と新芽2

「永井さんはIBMご出身ですよね。IBM時代に事業変革に関わったご経験で、日本企業にとって参考になるエピソードがあったら教えてください」

研修の質疑応答で、こんなご質問をいただきました。

私はこのようにお答えしました。

 「強力なライバルが、一夜明けるといきなり最重要パートナーになる経験をしました。企業規模の大小や業種を問わず、様々な企業で参考になると思いますので、このお話をします」

 

1998年、私は製品開発マネージャーからマーケティングマネージャーに異動になり、IBMが自社開発していたある業務用アプリケーション製品のマーケティングを担当することになりました。他社の業務用アプリケション製品は、強力なライバルでした。(業務用アプリケーションとは、顧客管理、会計、人事管理のように、業務用に作られたソフトウェアのことです)

 

翌年の1999年11月。IBM本社は、ある宣言をしました。

「業務用アプリケーションの開発・販売をする会社は、IBMにとって重要なパートナーです。ですので、IBMは今後、業務用アプリケーション製品の自社開発は行いません」 (注:これは「デベロッパー憲章」と呼ばれています)

 

自社開発の業務用アプリケーションに携わっていた現場の私たちにとって「今やっていることはやめる」と言われたのですから、このIBM本社の方針転換はまさに晴天の霹靂(へきれき)でした。

 

なぜIBMは、このような宣言をしたのでしょうか?

実は当時、ユーザーがライバルの業務用アプリケーションを使う際には、IBMのハードウェア・システムソフトウェア・サービスと組み合わせて使うことが多かったのです。

その理由は、IBMが持つ本来の強みにありました。

1999年当時、お客様が業務用システムを使う場合は、自前でシステムを用意する必要がありました。システムを用意するためには、複雑なIT系システムをすべて統合することが必要です。(ちなみに現在は、多くの業務用システムがクラウドで提供されているので、ユーザーは自前ですべての業務用システムを用意しなくてもよくなりました)

そのような課題を持っているお客様にとってIBMの強みとは、「他社製業務用アプリケーションに、サービス・ハードウェア・システムソフトウェアを統合して、提供できること」だったのです。

たとえばIBMのサービス部門には、他社業務用アプリケーションを統合できる高いスキルを持つエンジニアが数多くいました。

IBMのハードウェア部門には、他社業務用アプリケーションに最適化した製品群がありました。

しかしIBMが自社開発アプリケーション製品に固執すると、他社製業務用アプリケーションに、IBMのサービス・ハードウェア・システムソフトウェアを提供する機会を失ってしまうことになります。

そこでIBMは、業務用アプリケーションの自前主義を捨てたのです。

 

現場で自社開発の業務用アプリケーションに関わっていた人達は、大変でした。

まず、それまで開発を続けてきた自社開発の業務用アプリケーションを今後どのようにしていくのかを決めなければなりません。私自身も、個別対応策に追われました。

 

さらにライバルだった会社が一夜明けると最重要パートナーになったので、営業の仕組みも大きく変わりました。

これまで自社開発の業務用アプリケーションに関わっていたマーケティングやセールス担当者は、それまでライバルだった他社の業務用アプリケーションと自社ハード・ソフト・サービスを組み合わせて、統合ソリューションとして販売することが仕事になりました。

それまではライバルには極秘だった案件情報も、新たにパートナーとなった相手に定期的に情報共有する仕組みを作り、お互いに協業責任者を置き、一緒に販売する体制も整えました。

 

自社開発アプリケーションをやめた結果、それまでの手強いライバルは、一緒にビジネスを開拓する心強いパートナーに変わりました。しかも、すべての業務用アプリケーションを開発・販売する会社がパートナーになったのです。

2000年代、IBMのハードウェア・システムソフトウェア・サービスといった主力製品/サービスのビジネスは、大きく成長しました。

 

この経験で私が学んだことは、自社の強みと、その強みを活かせるお客様の課題を見極めた上で、強化するモノ、やめるモノ、追加するモノを明確にし、全社でその戦略を共有し、首尾一貫して、徹底的に実行することの大切さでした。

今回のケースを整理すると、次のようになります。

IBMの強み:他社製業務用アプリケーションに、サービス・ハードウェア・システムソフトウェアを統合して、お客様に提供できること

お客様の課題:複雑なIT系システムをすべて統合すること

やめるモノ:自社開発の業務用アプリケーション

強化するモノ:他社の業務用アプリケーションに最適化したハードウェア・システムソフトウェア・サービス

追加するモノ:他社の業務用アプリケーション・パートナーとの協業体制

 

「IBMさんは大企業だからね。ウチは中小企業だから、参考にならないよ」と思われる方がいるかもしれません。

しかし、そうではありません。この基本的な考え方は、企業規模や業種が変わっても重要なのです。

御社がやっていることは、昔は意味があったとしても、もしかしたら今はお客様にとっては意味がないかもしれません。それをやめることによって、新しい事業が生まれる可能性もあるのです。

むしろIBMのような巨大組織でなく、小回りが利く小さな会社こそ、この考え方を迅速に実行できる環境は整っているはずです。

そのためには、常に「現時点で、お客様にとっての自社の強みは何か?」を問い続けることが必要なのです。

 

とは言え、多くの日本企業は、なかなか「やめるモノ」を決められません。決めても、なかなか実際に捨てることが実行できません。しかし「やめるモノ」を実際にやめなければ、新しいことに挑戦しても、中途半端になってしまうことが多いのが現実です。

逆に考えれば、1998年から1999年のIBMのように、戦略的に自社の強みと、その強みを活かせるお客様の課題を見極めて、「やめるモノ」「強化するモノ」を考えて実行することで、日本企業は大きく成長する余地が残されているはずです。

 

 

 

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「お客様が買う理由」を考えるのは大変。でも慣れる理由

疲れたランナー

「脳の中で、普段使っていない部分を使っている感じで。とても疲れました」

ワークショップに参加された方が、休憩時間にこのようにおっしゃいました。私は答えました。

「そうでしょうね。でもこれ、ジョギングのトレーニングと同じなんですよ」

 

私が企業様向けに行っているワークショップでは、お客様企業の新商品を題材に、「お客様が買う理由」(バリュープロポジション)をどうするかをチームで議論して作り上げ、発表し、社員同士で議論いただいています。

この「お客様が買う理由」を作るために、

・自社の強みは、何か?

・その自社の強みを必要とするお客様は、誰か?

・そのお客様は、どのような課題を持っているか?

・お客様は、どうすれば自社を選ぶか?

 これらを首尾一貫して、チームで議論をしながら、徹底的に考えていきます。

 

とは言え、これを徹底的に考えるのは結構大変です。「こんなこと、考えたこともない」とおっしゃる方も多く、皆さんは議論を通じて七転八倒しながら苦労して答えを導き出していきます。

 

実は、かく言う私も同じでした。

私の場合は、IBMでマーケティング戦略担当者だった2000年頃、IBMの戦略に接するうちに「バリュープロポジション」というまったく新しい概念に出会い、この考え方に沿って担当する事業のマーケティング戦略を一人で導き出して、成果を挙げられるようになるまで2〜3年間かかりました。

皆さんと同じ苦労をしてきましたので、「とても疲れる」とおっしゃるのもよくわかります。

しかしこれを苦労して徹底的に考え抜くことで、お客様の方から自社商品やサービスを選んでいただけるようになり、日々の販売活動では苦労が逆に大幅に減っていくのです。

さらに「お客様が買う理由」を自力で考えて導き出せる経験を積むことで、その後は次第に楽に導き出せるようになります。

 

だから、これはジョギングのトレーニングと同じなのです。

はじめてジョギングをして、500メートル走っただけで息が上がり心臓がバクバクする経験をした方は多いのではないでしょうか?

しかし最初は軽いウォーキング程度から始めたとしても、それを週に2〜3回行う習慣をつければ、数ヶ月後にはある程度の距離を楽々ジョギングできるようになります。次第に必要な筋肉が付いてくるからです。中には数年後にはフルマラソンに出る人もいたりします。

 

「お客様が買う理由」を考え抜くのも同じです。今まで考えたことがなかった方は、これを考えるのはとても頭を使いますし、疲れます。しかし日々この考え方をすることで、頭の中に「お客様が買う理由」を作る回路が作られるようになり、次第に割とスムーズに考えられるようになるのです。

私自身、このフレームワークで十数年間考えているので、ワークショップで各チームから発表される「お客様が買う理由」に対して、色々な視点で議論のポイントを見つけることが出来るようになっています。

 

「自社の強み」「お客様のこと」を一番知っているのは、外部のコンサルタントではありません。自社の社員です。

だからこそ、自社の社員が「お客様が買う理由」を作り検証する方法論を身に付ければ、その会社は必ずマーケティング志向に変革していくのです。

そしてそのような会社が増えていけば、日本の企業の競争力も大きく向上し、日本経済も元気になっていきます。

 

是非、習慣化したいものですね。

 
 

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オムニマネジメント2015年11月号に連載第6回『「当社の強みはブランド」と考えるのは危険な幻想である』が掲載されました

一般社団法人日本経営協会様が発行する月刊オムニマネジメント2015年11月号に、連載『「当社の強みはブランド」と考えるのは危険な幻想である』が掲載されました。

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私たちは「当社の強みはブランド」と考えがちですが、実はこれだけでは「お客様にいかに価値を提供するか?」という発想がなかなか生まれません。

ではどうすればいいのか?

ブランドとは顧客満足という事実の積み重ねです。

ですので、「顧客満足がいかに生まれるのか」を改めて考えるところにヒントがあります。

今回はそのことについて書きました。

 

もしご覧になる機会がありましたら、お手にとっていただければ幸いです。

 

 

朝市のおばあちゃんから学んだ顧客中心主義

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「1年365日、この朝市には毎日顔を出して売っているんですよ」

先日のこと。ある温泉街の朝市で出会った女性が、このようにおっしゃいます。

「365日、一日も欠かさずに、ですか!凄いですね」

「そんなに凄いことなのかねぇ。この10年間、続けているんですけどね」

そう言いながら笑います。年齢は70歳頃でしょうか?とてもお元気そうです。

「10年間、1日も欠かさずに、ですか!それは大変ですね」

すると(とんでもない)と顔を振りながら、意外なことをおっしゃいました。

「ここに来るのが、毎日とても楽しいんですよ。お客さんとお話ししていると楽しくて、元気をいただけるのよねぇ。本当に有り難いことでねぇ」

ご長男は食品工場を、次男は店を継ぎ、息子さんたちが作っている佃煮などの加工食品を、この朝市で売っているそうです。

「息子たちが作っている佃煮の感想を、お客さんが試食して『美味しい』と言いながら、買ってくれるのが嬉しくてねぇ。気がつくと10年間、毎日来ているのよねぇ」

確かにお話ししながら試食した佃煮はとても美味しくて量も手頃で、私もお話ししながら買ってしまいました。

 

この時に思い出したのは、半年前の講演の際に、社員数百名規模のある中堅食品メーカーに勤める幹部の方からいただいた質問でした。

「『価格を下げずに価値を上げましょう』ということですが、それは理想論ですねぇ。現実はいつも『値引きしろ』と言われ続けていんですよ」

ちょっと疲れた感じのお話しの様子から、日々の仕事のプレッシャーがにじみ出ています。

「値引きしなければいけないほど、商品の競争力は弱いんですか?」

「とんでもない。商品競争力には自信を持っています。食べた方は、みんな『すごく美味しい』っておっしゃいますよ」

「ではなぜ価格勝負に陥っているのでしょうか?」

「あれ?そう言えば……。ナゼナンダロウ 」

よくお話しを伺うと、この会社の営業の方々は99%の時間を卸業者や小売業者などの取引先と会っていました。消費者と接点を持つ人は全社の中で極めて少数だったのです。

 

朝市のおばあちゃんと、この中堅食品メーカーの決定的な違いは何か?

二つあります。

 

一つ目は、最終消費者に会っているかどうかの違いです。

 

朝市のおばあちゃんは、10年間毎日消費者に会っています。

お客さんとのおしゃべりをしながらお客さんのプロフィールを理解し、試食したお客さんの反応を見ながら、どのお客さんにどの商品が受けるかを、身を以て肌身で感じ、理解しています。

食品工場や店の責任者である息子さん達には、おそらく日々の世間話に交えながら、そうやって得られた情報をフィードバックしているはずです。

この朝市で売られる佃煮には、この膨大な仮説検証によって蓄積された「お客様が買う理由」が凝縮されているのです。

 

一方の中堅食品メーカー。最終消費者にはほとんど会えていません。

食べてもらうと「美味しい」という反応が返ってきます。しかしその美味しいことは消費者に伝わっていません。

「美味しければ買う」と思っていますが、実際には、「お客様が買う理由」が美味しいこと以外にも様々な要因があります。

たとえばある商品は、かつては4人家族用を想定し4人分まとめて包装していましたが売上が徐々に落ちてきました。そこで単身家庭やシニア夫婦からの「美味しいけど多すぎる。残すのももったいないので、ウチでは買えない」という声を受けて、個包装にしたところ、販売が伸びました。

毎日お客さんと話している朝市のおばあちゃんなら、「ああ、そう言えば今朝、私と同年代のご夫婦が、『もっと小さくしてくれれば買うのに』って言ってたわよ」と息子さんに話して、息子さん達は「じゃぁ、これで売って来なよ」と個包装にした商品を渡して、その翌朝には対応しているのでしょう。

しかし最終消費者に会えていない会社ではそのようなニーズは拾えず、「美味しいのになぜ売れないのか?」と悩むのです。

 

決定的な違いの二つ目は、愉しんでいるかどうかです。

朝市のおばあちゃんは、「10年間、一日も欠かさずお客さんに会っている」と心から愉しそうにしています。「自分がやりたいことを、やっている」という実感、「働く喜び」が、小さな身体全体から湧き出ていました。好きなことをやっているので、アイデアもわき上がってきます。

一方の食品メーカーの幹部は、辛そうでした。思考も堂々巡りから抜け出せていません。

 

最終消費者は、価値を提供する相手でもあります。

自分たちの商品が、その人にいかに役に立っているか?

そのことを知り、学びながら価値を進化させていくことは、実は愉しいこと。いわば知的ゲームなのです。

 

温泉街の朝市で出会ったおばあちゃんとの会話は、10分程度でした。

しかし「最終消費者に会うこと」「仕事を愉しむこと」は、食品業界に限らず、あらゆる業界に共通して重要なこと。

顧客中心主義のあるべき姿について、実に多くのことを学ばせていただきました。

 

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売れない原因は、ほとんどの場合、一つしかない

悩むビジネスマン

「ウチの営業が、全然わかっていないんです」

その方はこの数年間、新商品を担当していました。強力なライバルがいる市場に新規参入し、苦戦が続いているそうです。

「お客さんを絞り込んで、営業も専任にして集中的に攻めるべきなんです。でも営業部門がやっていることは、その正反対。卸売業者に任せて薄く広く販売しています。『これではダメだから、変えるべきだ』と1年間言い続けていますが、営業部門はまったく理解しない。ほとほと困っています」

かなりオカンムリです。そこで踏み込んで聞いてみました。

「どのようなお客さんに絞り込むべきですか?」

「たとえば、地域とか。あるいは特定の小売業者とか。どこかに絞り込んで、集中突破すべきですよ」

「たとえばどんな地域でしょう?」

「仙台とか、大阪ですかね」

「仙台や大阪を選ばれた理由は?」

「特に理由はありませんが、…。とにかく絞り込むべきですよ。そう思いませんか?」

ランチェスター戦略で言うところの「弱者の戦略」に沿っていますが、具体性に欠けている気もしました。そこで質問を変えて、新商品について聞いてみました。

「この数年間、新商品に取り組んでいるのですよね」

「そうですよ」

「その新商品は、御社のどんな強みを活かして、その強みを必要とするどのようなお客様を対象にして、そのお客様のどのような課題を、いかに解決するのでしょうか?」

「当社はチャレンジャーですからね。最初の強みについては、ライバルのリーダー企業と違って、まったく新しい視点で、挑戦できることですね」

「それはリーダー以外の他社さんでも同じですよね。御社しか持っていないどんな強みを活かしているのでしょうか?」

「うーん。そういう視点はないですねぇ。新商品はウチの技術を活かしてはいますが、他社でもできますし」

「他社もできるのなら、あえて御社を選ぶお客さんはいないのではないでしょうか?他社にない強みをどのように活かして、ターゲットを絞るか、考えることが必要だと思います」

「うーん。結局、『地道にやれ』ということですかね。今、ほとほと困っているので何かヒントがあればと思っていたのですが…」

 

数回のやり取りをダイジェストにしてまとめてみましたが、ここまでお話ししてわかりました。営業を説得できないのは、「お客様が買う理由」が不明確だからなのです。

 

私は、お客様から色々なご相談をいただきます。

・「営業です。営業に行っても、お客様から言われるのは値引きばかり。どうすればいいんでしょう?」

・「マーケ部門です。販促活動しているのですが、なかなか成果が上がりません。困っています」

・「チャネル戦略で販路拡大を図っていますが、売上が下降する一方です」

そこで「ターゲットのお客様が誰で、その方はどのような課題を持っていて、御社ならではのどのような強みを活かしてその課題を解決しているのですか?」と聞くと、9割以上の確率で異口同音に返ってくる答えは、「それはよく考えていない。とにかく問題を解決したい」。

今回、深掘りしてお話しを伺ってわかったのは、まさに同じケースだということでした。

 

売れない理由は、ほとんどの場合、一つだけ。「お客様が買う理由」が、ないのです。

言い換えれば、「商品を出してうまく販売すれば、売れる」と考えています。しかし現代では「お客様が買う理由」が不明確な商品を販売力に頼って売るのは至難の業。その結果、売れないのです。

 

当コラムで繰り返し述べているように、「お客様が買う理由」を作り上げるには、

「(1)自社の強み」を見極めて、
「(2)その強みを必要とするお客様」(ターゲット顧客)を決めて、
「(3)そのお客様が必要としていること」(顧客の課題)を徹底的に理解し、
「(4)自社ならではの強みを活かした課題の解決策」(商品やサービス)を提供することを考えることが必要です。

 

しかし、「お客様が買う理由」を考え抜くだけでは、必ずしも売れません。そこでリアルなお客様での検証が必要になります。

当初考えた上記(1)〜(4)のうち、いずれの仮説が間違っていたのかを順番に検証し修正していけば、「お客様が買う理由」に近づくことができるのです。その結果、売れていくのです。

 

「結局、『地道にやれ』ていうことですね」と言いたくなるお気持ちも、よくわかります。「お客様が買う理由」を作るのは、地道な作業の積み重ねだからです。もっと手っ取り早い方法を求めたくもなるかもしれません。

しかし、「お客様が買う理由」を考えることは、売れる商品を作る王道です。そしてお客様や市場、技術の変化が激しい今の時代は、必須条件でもあるのです。

 

たとえば冒頭のケースでは、なぜ営業がなかなか動いてくれないのでしょうか?

営業は、自社で開発された様々な商品を売るのが仕事です。同じ売るなら、お客さんが欲しがる、売りやすい自社商品を売りたくなるのは、営業にとって当然のことです。

その商品が、お客様が思わず買いたくなるような強い「お客様が買う理由」があれば、放っておいても営業はその自社商品を売ります。さらに営業ならではの色々な知恵を出して、より多く売ろうとします。

この新商品を営業が売ろうとしない理由は、この営業が動きたくなるような「お客様が買う理由」がないからです。自社の強みを徹底的に考えていないので、新商品で最も大切な、ライバルとの差別化ポイントが不明確。だからお客様に売れる以前に、自社の営業を説得できない。だから売れない。つまり戦略不在なのです。

本来「お客様が買う理由」は、新商品開発チームと営業がチームを組んで対話を続け、商品開発段階から一緒に考えることが必要です。しかしこのケースではチームワークも作らず、対話も不十分なまま、営業部門が具体的にどうすべきというか提案もせずに、営業部門が変わらないことを嘆き続けているのです。

 

質問された方は、この状況をなんとか変えるべく、悪戦苦闘しながら「そのものズバリの回答」がどこかにあるのではないかと探しています。

しかし、自社の強みとお客様のことを考えずして、「そのものズバリの回答」がどこかの誰かから得られることはないのです。

仮に第三者からのアドバイスで「そのものズバリの回答」が得られても、それは大きくライバルを差別化できるモノにはなり得ません。

第三者であるどこかの誰かが考えられることは、誰でも考えることが出来るからです。

自社の強みとお客様のことが一番わかっている自分自身が、「お客様が買う理由」を自分の頭で考え抜き、さらにリアルなお客様で「お客様が買う理由」を検証し続けるからこそ、誰も真似できない自分だけの学びを得ることができ、他社を圧倒する差別化を実現できるのです。

リアルなお客様に対する仮説検証は、実は差別化の手段でもあるのです。

 

「お客様が買う理由」を考え抜き、検証する作業は、一見すると地道な作業の積み重ねに見えます。しかし実際には、やりがいがある仕事でもあるのです。

私がこれまで出会った、「お客様が買う理由」を考え抜いて検証し抜き、大きく成功している人達は、誰もが楽しそうです。主体的に自分の仕事に取り組み、仕事を通じて自分だけの学びを得て、仕事でやりたいことを実現し、成果を挙げているからです。

 

「どこかに、『そのものズバリの答え』が転がっている」と考えるのは、幻想です。

「そのものズバリの答え」は、どこにも転がっていません。断片的に転がっている材料を元に、自分で考え抜いて、自分だけの答えを見つけるのです。そしてその挑戦は、実は楽しいものなのです。

一見「地道」に見える道を避けずに、まずは一歩踏み出してみると、きっと色々なことが変わってきて、次第に仕事が楽しくなるはずです。

 

 

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