売れる商品は、必ず真似される。ではどうする?

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「せっかくいい商品をだしても、数年で他社に模倣されて、価格勝負になるんですよね」

製品担当のその方は、残念そうにおっしゃいました。

 

しかし現代では、売れた商品は、必ず真似されるのが宿命です。

先週のコラムでも、アイリスオーヤマの「半透明収納ケース」が大成功すると、コピーメーカーが多数出現し、供給過剰になり、価格競争に陥った話を紹介しました。この収納ケースはどのメーカーでも容易に真似できるのです。

 

ではどうすればいいのでしょうか?

模倣されても、多くの場合、「劣化版コピー」に過ぎません。形だけを真似しても、その背景にある課題・自社の強み・プロセスまでは真似できないからです。

だから模倣するライバルに対して、常に先行して「価値」を創り続けるのです。

そのためにはニーズのサキドリをし続けることです。

先週のコラムでも、「半透明収納ケース」を真似されたアイリスオーヤマが、「中味が見えると、リビングに置きにくい」という半透明収納ケースの声なき不満をサキドリし、木天板、硬質ポリスチレンの引き出しに金属レールを使った「HGチェスト」を新たに開発し、高収益商品にシフトして大ヒットした話を紹介しました。このような異なる素材の製品を作れるのは、多品種を製造するアイリスオーヤマならではの強みで、他社には難しいことだったのです。

 

現代では、模倣して追従しようとするライバルに対して、ニーズをサキドリし続けることが勝負を決めます。理由は2つあります。

1つ目の理由は、新規市場を開拓すると、先行者利益があるからです。たとえば「おそうじロボット」と言えば「ルンバ」、「半透明収納ボックス」と言えば「アイリスオーヤマ」というブランドが定着しています。先行メーカーだからこそ、ライバル不在の状況でブランドを確立でき、お客様に「〇〇〇〇と言えば、◎◎◎◎」と覚えてもらえるのです。追従するコピーメーカーは、確かに商品は真似できますが、市場でのブランド認知に関しては、後から頑張っても覆すのは容易ではありません。

2つ目の理由は、あらゆる変化が激速化しているからです。かつては技術進化も顧客の変化も今ほど激しくなかったので、模倣戦略は有効でした。真似することで先行メーカーに追いつくことは可能だったのです。しかし現代では、技術進化も顧客変化も格段に速くなっています。「時間」が「ヒト・モノ・カネ・情報」に次いで「第5の経営資源」とも言われる時代です。先行メーカーが常に新技術を磨き続けて、サキドリしたニーズに応える形で新商品を出し続ければ、先行し続けられるのです。

 

 

ですから、勝負の分かれ目 は、

・ニーズをサキドリし続けること。→つまり「顧客づくり」

・新しい技術開発を継続すること。→つまり「ものづくり」

この「顧客づくり」「ものづくり」の両輪を、常に継続して回し続けることが大切なのです。

せっかく技術を磨き続けても、「顧客づくり」を怠って「ものづくり」だけを考えていては、失敗を積み重ねるのです。

さらに、考えるだけで実行しなければ、時間を浪費し、先行しているメリットも失ってしまうのです。

 

2013年にリタ・マグレイスが書いた「競争優位の終焉」という本をご存じでしょうか?

本書では、次のように述べています。

・かつて多くの企業が「持続的な競争優位性」を目指していた。しかし現代で実現できている企業は、極めて少ない。

・競争が激しい現代においては、「持続的な競争優位性」という考え方は既に終焉している。

・今の時代に勝っている企業は、「一時的な競争優位性」を連続して獲得している企業である。

・だから、常に「一時的な競争優位性」を生み出せるように、会社の仕組みを変えていくことが必要だ。

 

短期間で「売れる商品」が模倣される競争が激しい現代の市場において、この「一時的な競争優位性」を生み出すポイントが、自社の技術的な強みを活かし、ニーズのサキドリをし続けることなのです。

 

そしてこの「一時的な競争優位性」を長く保つ1つのポイントが、当コラムで書いているとおり、

(1)「自社の強みは何か?」
 ↓
(2)「強みを必要とする顧客は存在するか?」(対象顧客の有無)
 ↓
(3)「その顧客は、何を必要としているか?」(顧客の課題)
 ↓
(4)「顧客が自社を選ぶために、どうすればよいか?」(解決策=商品・サービス)

これを首尾一貫して考え、「お客様が買う理由」を作り上げることなのです。

 

他社がなかなか真似できない自社の強みに基づいて「お客様が買う理由」を作り上げることで、「一時的な競争優位性」の寿命はより長くなるからです。

 

 

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新規事業では、最初から解決策を検証してはいけない

新市場はあの山のどこかにあるはずよね

「この資料を持っていって、お客さんの反応を見てこようと思います」

新規事業の立ち上げに挑戦しているチームのリーダーはこう言って、新サービス一覧を見せてくれました。

そこには新たに始めるサービスがリストされていました。しかし、中には従来から提供していたサービスもあります。今回の新事業では、「既存サービスにいくつかの新サービスを追加し、体系化したのが売り」とのことです。

「そうですか。どのお客様に行かれるのですか?」
「おつき合いがあるお客様に、セールスがチームで手分けをして行きます」

 

実はこれは、うまく行かないパターンです。

 

当コラムでご紹介しているように、新規事業では「お客様が買う理由」を徹底的に考えて作り上げ、さらにお客様に検証することが必要です。

そのためには、下記を首尾一貫して考え、検証していきます。

(1)「自社の強みはあるか?」
 ↓
(2)「強みを必要とする顧客は存在するか?」(対象顧客の有無)
 ↓
(3)「その顧客は、何を必要としているか?」(顧客の課題)
 ↓
(4)「顧客が自社を選ぶために、どうすればよいか?」(解決策=商品・サービス)

冒頭のケースは、(1)〜(3)のプロセスをサクッと済ませてお客様への検証をスキップした上で、既存サービスを若干手直ししただけで(4)の解決策(=新サービス)をお客様に検証しようとしています。

すると、どうなるでしょうか?

 

まず「新サービス一覧」を見たお客様は、こう考えます。

「またセールスから、新しいサービスの売り込みか?」

そして売り込みに身構えてしまい、本音で話してくれません。

 

さらに、その顧客が本当に正しい顧客なのかがわかりません。セールスが行きやすい自社の顧客にしか行っていないからです。しかし本当は、その顧客は自社の強みが活かせない「売り込んではいけない」顧客なのかもしれません。

自社のセールスがカバーしているのは、市場全体のほんの一部です。市場には、自社セールスとは接点がないけれども、自社の強みを必要としている顧客がいるかもしれません。

セールスが行きやすい自社顧客に行っている限り、それがわからないのです。

 

また、運良く「自社の強みを必要とする顧客」(=本来のターゲット顧客)に会えたとしても、課題についての仮説が十分に考えられていないので、その顧客の課題も検証できません。

課題を検証できないと、解決策がどの程度適切なのかもわかりません。

 

新規事業では、当初に立てた仮説の多くは間違っているので、修正が必要になります。しかしいきなりお客様に解決策を提示してうまくいかないと、どうなるでしょうか?

・対象顧客は、存在するのか?
・その顧客は、仮説で考えた課題を持っているか?
・その課題に対する解決策は、正しいのか?

これらが切り分けられないのです。「うーん、お客様に解決策を持っていったけど、どうもうまく行かないなぁ。なんだろう?」と堂々巡りに陥ってしまい、チームで議論しても結論は出ず、結局新規事業は失敗し、チームは解散になります。

 

→ 本来必要なのは、まず想定している対象顧客が存在するのか、確認すること。

→ その上で、その顧客が持っている課題が想定どおりなのか、確認すること。

→ 解決策が適切かを確認するのは、その後です。

 

ある事例をご紹介します。

1999年。ネット販売が産声を上げ、あらゆるものがネット販売に移行し始めた時期。米国でザッポスが靴のオンライン販売を始めました、

当時、「靴は履き心地を重視するので、オンラインで売るのは無理」と考えられていましたが、ザッポスの創設者は「靴をオンラインで買う顧客は存在する」と仮説を立てた上で、実験で検証しました。

しかし1999年の当時、ネット販売サイトを作るだけでも大変です。

そこで彼は、まず近所の靴店で靴の在庫品の写真を撮らせてもらいました。その写真をウェブに掲載し、誰かが買ったら店の売値で買い、注文主に配送しました。この仕組みなら数日で作れます。

実際にやってみると、靴は売れました。「オンラインで靴を買う顧客」が存在することを実験で確かめたのです。さらに値下げの反応、返品対応など、実際にやってみないとわからない様々なことを学ぶことができました。

ザッポスの事例は、最初に仮説を考えた上で、「そもそも対象顧客が存在するか?」を簡単だけども効果的な実験で検証した事例です。

 

もう一つ、私の事例も紹介します。

私は2013年に30年間勤務した日本IBMを退職し、ウォンツアンドバリュー株式会社(当時の会社名はオフィス永井株式会社)を創業しました。当社では、著作活動以外にも、講演や企業向け研修に力を入れています。そこで企業向け研修を提供するに至った経緯を、このフレームワークに沿ってご紹介します。

独立にあたって、「日本企業がよりマーケティング志向に変革していくお手伝いをしていきたい」と考えていました。

この仕事をするにあたって、私の強みは下記だと考えていました。

マーケティング理論を、現場のビジネスパーソンが納得できるように、専門用語を使わずにわかりやすく伝えられること。これは私自身が、30代中頃までマーケティング知識がなかったために仕事で失敗を繰り返した末、30代後半にマーケティング職に異動してマーケティングを体系的に学び、IBM米国本社などの事業戦略に接して、実業務で成果を出しながら学びを深めていった体験に基づいている。

そこでこの強みを活かして、日本企業がマーケティング志向に変革するご支援をすべく、「著作」「講演」「企業向け研修」を事業の三本柱としました。

しかし「企業向け研修」の市場は、激戦区でもあり、研修サービス大手は価格競争を余儀なくされています。新規参入で規模も小さい零細業者である弊社は、真正面から勝負してもまったく勝ち目はありません。

そこで、この市場でいかに研修サービス大手にない価値を生み出すかを考えました。

私は日本IBMを退職する直前の2年間、ソフトウェア事業の人材育成部長として所属社員1000人のスキル開発を担当しており、研修サービス会社の顧客の立場にいました。企業における人材育成の課題と、投資の判断基準も理解していました。そのおかげで、社内研修を必要とする経営トップの立場に立って、人材育成戦略と連携した研修プログラムを提案することが可能でした。

また独立前後に、著書を読まれた数名の企業経営者様から研修のご依頼をいただき、特に自分が得意とするマーケティング分野で人材育成のニーズが高まっていることも実感していました。

そこで、自分の事業における対象顧客・課題・解決策として、次のように仮説を立てました。

■対象顧客:「自社を変革したい」と考えている経営者、およびマネジメント

■課題:自社が変革期にある。「社員にもっとマーケティング思考を身に付けて欲しい」という問題意識を持っている。しかし世にあるマーケティング研修は理論中心であり、現場社員にとって難解であり、取っつきにくい。このため、マーケティング研修の投資をしても、マーケティング思考が社員になかなか定着しない。

■解決策:著書「100円のコーラを1000円で売る方法」に基づき、マーケティング専門用語をできるだけ使わずに、実務ですぐに使えるように「顧客中心主義」の考え方や「お客様が買う理由」を作るフレームワークを伝え、加えて業務で役立てるように、参加者の実務に即したワークショップを実施する。ワークショップは基本パターンを持ちながら、事例部分は顧客企業毎にカスタマイズする。必要に応じて、お客様企業の事業戦略と人材育成戦略との連携も含めて提案する。

 

この仮説を検証していきました。

有り難いことに著書のおかげで、私は2時間程度の講演依頼を多くの企業様からいただきます。講演の前後で、私に講演を依頼された経営トップとお話しする機会もあります。

多忙な経営トップが行動を起こす際には、必ず背後に何らかのビジネスニーズがあります。私に講演依頼をされているのも、必ず人材育成上で何らかの課題があるからなのです。

そこで経営トップと話し合う際には、上記の仮説で考えた課題をお持ちかどうか、経営トップにお伺いしています。もし課題をお持ちでしたら、解決策として半日から数日間(場合によっては数ヶ月間)のワークショップを提案します。

多くの場合、経営トップの皆様はその場でワークショップ開催を即断されます。

ワークショップ実施にあたっては、研修の基本部分は標準パッケージ化して品質を維持する一方で、事例部分については事前に社内資料を提供いただいたりお客様にインタビューを重ねて、お客様企業様のビジネス状況や提供する商品・サービスに合わせてカスタマイズを図り、参加者が腹オチするようにします。

経営トップにとっては、マーケティング研修を自社の状況に最適化した上で、社員にわかりやすく学ぶ機会を提供できます。

長い目で見ると、私にとっても大きなメリットがあります。それは自分が持っている「お客様が買う理由を作る」方法論やフレームワークを、数多くの業界で磨き上げられることです。これは将来的に、残り2本の柱である「著作活動」と「講演活動」にも活きてきます。

 

たとえ著書の高い認知度により講演の機会をいただいたとしても、もし「企業向け研修」として「対象顧客の定義」や「課題」の仮説を考えず、検証もせず、経営トップに一方的に自分が持っている企業向け研修を提案しても、このような結果にはなりません。世の中に数多くあるマーケティング研修の中に埋もれてしまいます。

 

いかがでしょうか?

強み → 対象顧客 → 課題 → 解決策

一見当たり前に見えますが、この順番で徹底的に考え、愚直に顧客に検証し続けることこそ、成功の近道なのです。

 

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オムニマネジメント2015年10月号に連載第5回『戦うべきか?強みはあるのか?』が掲載されました

一般社団法人日本経営協会様が発行する月刊オムニマネジメント2015年10月号に、連載「半歩深く考える仕事術」の第5回目『戦うべきか?強みはあるのか?』が掲載されました。

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本来、戦略とは「戦って勝つ」ためのものではなく、「戦いを回避して勝つ」ためのものです。

しかし、戦うことが自己目的化したり、強みを持たずに戦ったりするケースも少なくありません。

 

今回はこのことを、次の4象限で整理してみました。

オムニマネジメント4象限201510

 

もしご覧になる機会がありましたら、お手にとっていただければ幸いです。

 

 

歩合給制常識の業界で、固定給制を堅持する2つの理由

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代理店業を営む、ある中小企業の社長とお話ししたときのこと。

「創業して30年以上が経ちますが、ウチは一度も歩合給制を採用したことがありません。ずっと固定給制です」

この業界はある商品の代理店業なので、個人や企業への販売活動が中心になります。そのために、セールスに対して、短期的な売上成績へボーナスを支給する歩合給制を採用する会社は少なくありません。

しかしこの会社は、短期的な成績が給与に反映されない固定給制を堅持したまま、地域に密着し、好業績を上げ続けておられます。

歩合給制という業界の常識を覆して、なぜこの会社は固定給制度を堅持してるのでしょうか?

詳しくお話しを伺って、2つ理由があることがわかりました。

 

1つ目の理由は、それが企業理念に沿ったものだからです。

この会社の企業理念は、「お客様の”生きる”を”本気”で考える」です。

そのためには目先の売上を追わずに、お客様の課題を徹底的に理解し、その課題に合った提案をしていくことが必要です。

お客様との対話を通じ、お客様自身も気がつかない課題を見つけることも少なくありません。そこでその課題を一緒に考え、解決策を提示していきます。

お客様の課題を解決するためには、必ずしも高価格帯の商品が適切とは限りません。むしろ低価格帯でも、課題解決に最適な商品もあります。

しかし歩合給制は、セールスが短期的な売上を増やす動機付けになります。そのために歩合給制を採る会社のセールスの場合、この状況では高価格帯の商品を提案するケースも多いのです。

しかし固定給制であれば、そのような動機付けは働きません。

むしろ「お客様の”生きる”を”本気”で考える」という企業理念があり、固定給制という給与体系があることで、たとえ低価格帯であってもセールスはお客様の課題解決のために最適な商品を提案できるのです。

そしてそのような提案を受けたお客様からの信頼を獲得し、次の案件も任されるようになります。

固定給制は、企業理念と一体化したものだったのです。

 

2つ目の理由は、より現実的な問題です。

社長は、このように話を続けました。

「そもそも歩合給制で成績を上げられるような優秀なセールスは、ウチのような小規模の会社にはまず入ってきません。だから歩合給制を採用しようにも、『できなかった』というのが現実なんです」

社長はこのように前置きをした上で、たとえ話をされました。

「大きなテーブルを一人で持ち上げられる人は、滅多にいません。でも四隅を4人で持てば、誰でも簡単に持ち上げられますよね。同じことです。ウチの会社もスタッフで役割を分担して、優秀な営業と同じ結果を皆で分担して挙げられるような仕組みにしたんです」

 

この業界では、優秀なセールスが独立して会社を立ち上げ、代理店を始めるケースが多いのです。

しかし経営者である自分と同じ力量を持つ優秀なセールスは、なかなか入社して来ません。そのままでは、経営者の個人技に頼ってしまうことになります。

この会社も、社長は優秀なセールスでした。しかし自分の営業スキルだけに頼っていては、会社は大きくなりませんし、自分もセールス活動で忙しいまま。なかなか時間は作れません。

そこで誰か一人の力に頼ることなく、社員全員が、社長である自分と同じ事ができるようにする必要があります。

個人技を追求するのではなく、組織力で対応できるようにするということですね。

そのためには、(1)社長と同じ判断ができるようにすることと、(2)スキルを付けることだ、と、この社長は考えられました。

(1)社長である自分と同じ判断ができるようにするために、経営理念を明確にした上で、社員のあるべき行動をクレドや行動指針などで明確化し、さらにそれらと一貫性がある人事評価基準を作りました。

(2)さらにスキルを付けるために、社員に対して手厚く研修を行っています。

そして歩合給制により短期的な売上拡大を狙うのではなく、固定給制で長期的な全体の給与の底上げを図っているのです。

 

お話ししていて、「お客様が買う理由を作る」ためには、

経営理念:いかに社会へ貢献するか
→自社の価値:お客様が買う理由の明確化
→企業文化:失敗からの学びの奨励・人事評価
→個人の働き方

これらがすべて首尾一貫していることが必要であることを改めて学ばせていただきました。

メットライフ生命保険様・特別セミナーで講演しました

2015年9月14日、東京浅草橋で行われた、メットライフ生命保険様の全国代理店・特別セミナーで講演をさせていただきました。

当日は400名の代理店経営者の皆様が参加されました。大きな会場でしたが満席でした。

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皆様、とても真剣にお聞きいただきました。

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演題はいつも通り「お客様が買う理由を、いかに作るか? 「ニーズ断捨離」時代に求められる思考の変革」で90分の講演ですが、全体の2/3は、保険代理店でいかに価値を創っていくかというお話しでした。

保険代理店から見た保険ビジネスの特徴は、全ての保険代理店が、同じ保険商品を取り扱えるという点です。だからこそ、差別化するポイントは、お客様の課題の理解。そこで、千葉県下で先進的な取り組みをされている保険代理店様へ取材させていただき、学んだ結果をベースにしてお話ししました。(「先進的な取り組みをされている保険代理店様」と書きましたが、実は基本に忠実で地道なお取り組みをしておられます)

 

前の週のJTBコーポレートセールス様の講演でも、実際のJTB様の「価値創造への挑戦」を取材し、観光業・地域活性化でいかに価値を創っていくかをお話ししました。

 

ここ1−2年間で、企業が求めているものが、一般的なマーケティングの学びから、さらに業界や企業特有の課題まで踏み込んだ提言へと変わってきていることを、日々実感しています。

このような講演を通して、私自身もとても勉強になっています。

 

企業様からこのような数多く機会をいただき、感謝しております。

大幅値引きなのに、「もう頼まない」

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「あの会社には、もうコンサルティングは頼みません」

ある会社のコンサルティングについて、知人がこのように言いました。

 

その会社は、「プロフェッショナルで高品質なコンサルティング」が売り物でした。詳しい話を聞いて、知人がその会社に「もう頼まない」と言った理由がわかりました。

 

その会社からの見積書には、「初回につき、特別に8割引」とありました。何もお願いしていないのに大幅に値引いていたので、知人は驚きました。

一方で値引きされた見積額は知人の想定金額。

つまり正規料金は彼が想定してた金額の5倍だったのです。

知人は、想定金額の5倍という高品質なコンサルティングを期待しながら発注しました。

 

「プロフェッショナルで高品質なサービスが売り物」ということでしたが、実際に担当したのは初心者でした。その会社は、OJTも兼ねてコンサルティングサービスを提供したのかもしれません。

結果として、成果はほとんどありませんでした。知人は残念そうに言います。

「『この仕事は苦手だから、プロにお願いしよう』と思って、この会社にお願いしたのですが…。独力でやった方が、ずっといい結果になったと思います。無駄な手間と時間がかかっただけでしたね。私の見極めが甘かったのですね」

 

「サービスの価格設定は、怖いな」と思いました。

 

改めて、整理して考えてみました。

顧客満足は、次の式になります。

顧客満足 = 提供価値 − 事前期待値

たとえば、100の事前期待値を持っている顧客に100の価値を提供しても、顧客満足は100引く100なので0。顧客の言いなりになっている限り、顧客の事前期待値は超えられないので「当たり前」と思われます。顧客満足を100にするには、事前期待値を大きく超える200の価値を提供する必要があります。

では、このケースではどうでしょうか?

最初に知人は、「正規料金は、想定金額の5倍」と告げられました。この時点で、通常の事前期待値が100とすると、たとえ8割引であったとしても、知人の事前期待値は正規料金の5倍の500にはね上がっています。

しかし実際に提供されたのは、初心者によるOJTを兼ねたサービス。恐らく提供価値は20程度でしょう。

顧客満足度は20−500なので、マイナス480。

このように考えると、知人が「もう頼みません」と言うのも、無理はありません。

仮にその会社が提示した価格を「正規料金の8割引」と言わず、正規料金を最初から1/5に設定した上で「これは値引きなしの正規料金」としていたらどうでしょう?事前期待値は100のままなので、提供価値は20でも、顧客満足度はマイナス80で留まっていた筈です。

 

このように、たとえ値引きしても正規料金を提示した時点で、顧客の事前期待値はその正規料金で設定されてしまいます。

一方でサービスには、必ずコストがかかります。サービスを、熟練者により8割引で提供すると、多くの場合は採算割れになります。そこで二通りの方法が採られます。

(1) 採算度外視で、熟練者がサービスを提供する

(2) 採算を合わせるために、初心者の担当者で対応する。(かつOJTを兼ねて、担当者スキル向上も図る)

 

正規料金を提示した上で値引きをしたのであれば、本来あるべき姿は(1)です。サービス提供者は、常にお客様の期待値を上回る価値を提供することが求められているからです。

 

知人が遭遇したのは、おそらく(2)のケースです。正規料金であれば熟練者に担当させるところを、8割引にしたために初心者にOJTを兼ねて担当させたのです。

熟練者が提供するサービスと初心者が提供するサービスでは、大きな差があるのは自明です。そして高品質を期待しているお客様に初心者によるサービスを提供することで、お客様の満足度は大きく下がります。

加えてサービスを受けるお客様は、サービスに支払う費用の他にも、時間や手間など様々な見えないコストをかけています。低品質なサービスを提供すると、それらの大きなコストも無駄になってしまうのです。さらに機会損失も莫大です。

「値引きしたから」という理由で採算性を考え、OJTを兼ねて初心者が対応するのは、サービス提供者側の発想です。

たとえ「値引きした」と言ったとしても、正規料金を提示した以上、正規料金のサービスを提供する義務があるのです。

 

なぜこのようなことが起こるのでしょうか?

サービス提供者が、「高い正規料金を設定すれば、プレミアム感を訴求できる一方で、値引率を大きく見せれて提示すれば割安感も訴求できる。いずれにしてもお客様が支払う金額(=売上)は同じ。だから一石二鳥だ」と考えているからかもしれません。

しかし実際には、高い正規料金を設定することにより事前期待値を必要以上に上げてしまう一方で、提供する価値の満足度を大きく下げることで、顧客離れを引き起こしてしまうのです。

 

価格設定こそ、周到な戦略思考が求められるのです。

そして値引きを提示する際には、慎重な上にも慎重を期して、明確な理由を持つべきなのです。

 

自戒を込めて、考えたいものです。

 

成功事例から、学ぶべきもの。学ぶべきでないもの

Best Practice

「あのプロジェクト、当事業部でも『あの事例にウチも学ぶべきだ』と話題になっています。どのように進めたのか、教えてください」

前職の会社員時代、私が担当し、成果が挙がったあるプロジェクトについて、別事業部のマネージャーから「詳しく話を聞きたい」というご依頼がありました。

その会議の冒頭、このように質問され、私は記憶を辿りながらお答えしました。

「そうですね。元々はこんなビジネス状況で、このような課題がありました。それらの課題を解決するために、シナリオをこのように考えてみました。そのシナリオを実現するために、具体的なアクションをこのように作って、お互いをこのように繋げていったんですよ」

(話が長そうだな…)と思ったのか、相手の方は私の話をさえぎり、このようにおっしゃいました。

「全体の話よりも、私が知りたいのはその個別アクションの〇〇〇〇〇の部分です。社内でとても話題になったし、製品の認知度も大きく上がって、ビジネスに繋がりましたよね。どのようにそのアクションを進めて、どのように成果に繋げたのか、具体的に教えて欲しいんです」

 

これは成功事例(ベストプラクティス)を学ぶ際に陥る、典型的な落とし穴です。

 

自働おそうじロボットのルンバの成功からも、このことを学ぶことができます。

ルンバを開発・販売するアイロボット社は、「ロボット技術を活かして、いい世界を作りたい」と考えたコリン・アングル氏が創業した会社です。

そして優れたロボット技術という強みを活かして、おそうじロボットを開発し、新たな市場を生み出して、大成功を収めています。

しかしアイロボット社は、ロボット技術をビジネスに繋げられずに、苦しんだ時期があります。実際、ロボット技術を活かした14個のプロジェクトを試行錯誤したものの、どれもお金を稼ぐことができずに失敗。成功したのがおそうじロボットだったのです。

ルンバを含めた十数個のプロジェクトを通じて、アイロボット社は、自社の強みであるロボット技術を活かした上で、その強みを必要とする対象顧客を絞り込み、顧客の課題をいかに解決してビジネスにつなげるか、いくつもの仮説を考え抜いて検証してきたのです。→詳しいことをお知りになりたい方は、こちらの記事を参照下さい

 

ルンバの大成功という結果だけを見ると、「なるほど、ロボット技術を活かして、自働おそうじロボットか。アイロボットも、良いところに目をつけたな」と思いがちです。そして多くのメーカーがルンバの成功を見て、この市場に参入していますが、この市場ではルンバがシェア3/4を独占しています。

私たちが学ぶべきは、結果である「ルンバという製品」ではなく、シナリオである「アイロボット社の考え方」ではないでしょうか?

同様に「ベストプラクティス」から学ぶべきは、個別のアクションではなく、どのような状況でどんなシナリオを考え実践したかという考え方です。

シナリオを持たずに個々のアクションを模倣しても、それはベストプラクティスではなく、言い方は悪いですが、単なる猿真似に陥ってしまうのです。

冒頭の事例でマネージャー氏が尋ねたのが「ルンバという製品の作り方」、本当に学ぶべきが「アイロボット社の考え方」というように考えると、おわかりいただけるのではないかと思います。

 

やや古い記事ですが、2012/10/10の日本経済新聞の記事「経営塾 業績回復に挑む(5)総括」で、一橋大学の楠木建教授が次のように書いておられます。

—-(以下、引用)—-

個別のアクションの正否は戦略のストーリー全体の中でしか判断できない。ストーリーの戦略思考からすれば、そもそも「ベストプラクティス」(最良の実践例)などというものはあり得ない。

—-(以上、引用)—-

「全体を流れるストーリー/シナリオがあって、はじめて個々のアクションの意味がある」という楠木教授のお考えは、私も同感です。

 

私たちは、即効性がある解決策を求め勝ちです。だから成功事例の個別部分を取り込もうと考えるのかもしれません。

しかし、世の中の成功事例から、そのような即効性がある解決策の部分を集めて取り込んでも、全体のシナリオの整合性がなければ、成果は挙がりません。

ストーリーを立ててシナリオを考えるのは手間がかかります。だからこそ、他社が容易には真似ができない差別化を図ることができるのです。

 

「シニア社員が変わらない」というマネジメントの悩み

シニアなビジネスマン

講演や研修にあたって企業のマネジメントの方々とお話しすると、多くの業界で共通して、こんなご相談を受けます。

「40代後半から50代のシニア層が、なかなか変わらないんですよね……」

多くの社員は、新卒入社してその会社一筋で働いています。40代後半〜50代になっている方は、四半世紀以上働いていることになります。

四半世紀も経つと、若い頃は当たり前だったことが、大きく変わります。しかし若い頃には当たり前なことは習慣化されることも多く、ともすると変わるのは難しいのです。

どうすればいいのでしょうか?

 

最近、新しいビジネスに取り組む企業や、地域活性化に取り組んでいる地域で、成果を挙げている方々とお話ししていて、気がついたことがあります。誰もがとても楽しそうなのです。たとえば、

■目を輝かせながら、「この仕事を、5年後、10年後にはこうしたいんです」

■ニコニコしながら、「仕事が本当に面白いんです。プライベートとほとんど区別がついていません」

■穏やかな表情で、「周りの人たちがどんどんサポートしてくれて、感謝しかありません」

皆さん、自分で心から「やりたい」と思っている仕事をしておられます。額に青筋を立てて、「歯を食いしばって、頑張っている」という感じがしないのです。そしてこれは、年齢を問わず様々な世代の方がおっしゃっているのです。

しかし詳しくお話しを伺うと、最初から「やりたいことをやる」というスタイルで仕事をしていなかった方も多いのです。

むしろ当初は、「不本意ながら仕事をしていた」という方も少なくありません。それがちょっとしたきっかけで「やりたいことをやる」ように変わり、成果を挙げて、好循環に入っているのです。

 

かつての企業では、仕事で「やりたいことをやる」社員はどちらかというと評価されず、会社で決まった方針を受けて組織人として粛々と進める人材が高く評価されてきました。

一昔前までは、決められた業務を進めるためには多くの人手が必要でした。だから「言われたことを、忠実に行う」ことは、企業でビジネスを進める上で必要なことだったのです。

加えて顧客ニーズも今ほど多様化しておらず、環境変化も穏やかで、一旦決めたことは頻繁に変える必要はありませんでした。

 

しかし現代では状況が大きく変わっています。

「無人工場」の出現が象徴するように、企業の定型業務の多くはITで自動化されつつあります。「言われたことを、忠実に行う」人手がかかっていた業務の多くは、急速にITで代替されているのです。

さらに顧客ニーズがきめ細かく細分化され、世の中の変化も激化しているので、一度決めたことでも場合によっては臨機応変に修正判断が必要になります。

 

このような状況になると、かつて高く評価されていた「言われたことを、言われた通り実行する」人材しかいない企業は、成果を挙げられなくなってきています。

中には、そのような人材を維持するために、本来IT化できる業務を自動化できずに人手で対応し続け、業務スピードの競争力が失われているという、あまり笑えない状況も起こっています。

 

これは先にご紹介した、「やりたいことをやる」人が成果を挙げていることと、表裏一体なのです。

 

「やりたいことをやる」のは、現代だからこそ求められています。

ダニエル・ピンクという人が、『モチベーション3.0』という本を書いています。彼はモチベーションを次の3つに分けています。

モチベーション1.0 …「生きるために、頑張る」
モチベーション2.0 …アメとムチ。「お金のために、頑張る」
モチベーション3.0 …自分の内面から湧き出る「やる気!」に基づく。「やりたいから、やる」

モチベーション2.0(アメとムチ)は、「これを達成したら、ご褒美をあげる」という方法です。200年前の産業革命の時代に生まれたもので、ルーチンワークには極めて有効であり、現代社会に広く定着しています。

しかしこの「アメとムチ」が有効なルーチンワークは、現在、ITで急速に代替されています。加えて「アメとムチ」は、知的作業には必ずしも有効ではありません。本書でも、「創造的なアイデアを生みだしたら、お金をあげます」と言われると、逆に生産性が落ちてしまう例を挙げています。

一方で、自分が心から夢中になっていることに取り組んでいる場合、「寝ても覚めてもそのことばかり考えてしまう」「やめろと言われても、絶対やる!」という経験がありませんでしょうか?これがモチベーション3.0です。

創造性が求められる知的作業では、心から「やりたい!」と思うことに挑戦することで、様々なアイデアが生み出されるようになり、生産性が極めて大きくなります。

知的生産性は、モチベーション2.0と比べて、モチベーション3.0の方がはるかに高いのです。現代は、知的生産性が求められる知識社会です。「やりたいから、やる」のは、知識社会の現代だからこそ、求められているのです。

 

では先にご紹介した、私が出会った、やりたいことをやって成果を挙げている人たちは、どういうきっかけで「やりたいことをやる」ようになったのでしょうか?

多くの場合、何らかの「危機感」が契機になっています。

たとえば、お客様からの真摯なクレーム。あるいは「このままでは大切なものが失われてしまう」という状況。

そこでちょっとした勇気を持って、小さな行動を起こしてみると、小さな成果が上がる。徐々に仲間も増える。仲間が増えると楽しいし、盛り上がっていきます。

これはIT普及とも関連しています。IT普及で、従来は個人では処理できなかった業務の手間が大きく削減されているのです。端的な例を挙げると、20年前までは1000人にイベント告知をするのは大きな手間がかかりました。今ならブログ、Facebook、Twitter等を使えばとても簡単です。

さらに個人の想いが出発点なので、その場で様々な問題が起こっても、上の判断を待たずに、自分の裁量で判断し、臨機応変に対応できます。

そして、個人の小さな行動が仲間を集めて徐々に大きくなり、より大きな成果を生み出しているのです。

この最初のきっかけが、「身近な危機感」と「小さな実行」です。

 

実際には、「やりたいことをやる」というスタイルで仕事を進めるためには、それに見合ったスキルが必要です。

そして40代後半〜50代のシニア社員は、四半世紀の会社生活で様々な成功体験や失敗体験を通じて多くのスキルを身に付けています。

一方で、「言われたことを、忠実に行う」スタイルで仕事をしてきた人も、少なくありません。

しかし現代で求められていることは、「やりたいことをやる」という仕事のスタイル。

経験豊かなシニア社員だからこそ、自分の専門分野で、他の人には見えない色々なものが見えるし、「このままではダメだ」という危機感も持っている筈です。

「やりたいこと」さえ見えれば、スキルはあるので、容易に「自分がやりたいこと」=「自分ができること」=「会社としてやるべきこと」とすることができます。

実際には、会社勤めをしていると、思い通りにならないことの方が多いものです。たとえば、プロジェクトが全社方針で中止と決まってしまったり、信頼する仲間が配置転換されたり、あるいは自分の部署や会社が、別の部著に統合されたり会社に買収されてたりすることは、少なくありません。

しかしそんな状況であっても、経験豊富でスキルもあるシニアな社員こそ、自分の周りを改めて見回してみて、「やりたいこと」を見つけられるはずです。

社員個人が「やりたいから、やる」というように、会社も社員も考え方を変えてみると、自分自身も楽しいし、会社にとっても大きな戦力になります。

 

組織の中に、「やりたいことをやる」人が数多くいる組織は、大きな成果を挙げていきますし、なによりもそのような組織にいる社員自身が楽しくなると思います。

 

マーケティングの講演・研修・著作活動を通じて、少しでもそんな社会になるお手伝いができれば、と思っています。

 

 

「当社の強みは製品」という考えは、危険です

「お客様が買う理由」を作るためには、

(1) まず自社の強みを考え抜き、
(2) その強みを必要とするお客様が誰かを考え、
(3) そのお客様はどのような課題を抱えているかを考え、
(4) どのようにすればそのお客様が自社を選ぶかを、

考えることが必要です。

しかし「まず自社の強みを考えましょう」と提唱すると、こんな答えが返ってくることが少なくありません。

「当社の強みですか?それは製品ですよ」

確かに、強い競争力がある製品を擁する企業様の場合、「自社の強みは、製品だ」と考え勝ちです。

しかし「製品」とは、自社が持っている何らかの「強み」を活かして、ターゲットの顧客の課題を解決するために生み出された「解決策」です。

言い換えれば製品とは、自社の強みを活かし、顧客の課題を解決するために生み出された結果です。

企業の強みとは、製品ではなく、もっと深いところにあります。

 

「企業の強み」について、富士フイルムの事例で考えてみましょう。

 

デジカメ登場前、カメラでは写真フィルムが使われていました。

写真フィルム

この写真フィルム業界で長年、世界で圧倒的な巨人として君臨していたのが米国コダック。富士フイルムはコダックに挑戦し続け、2000年頃、ついに写真フィルム市場で世界の頂点に立ちました。

しかし皮肉なことにこの時期に、急速に普及し始めたデジタル写真によって、この写真フィルム市場の9割以上が消滅することがわかりました。当時の富士フイルムは、写真フィルムで売上のなんと6割、利益の2/3を稼ぐ屋台骨。これがわずか数年のうちに音を立てて崩れ始めたのです。

ここで行うべきことは、 富士フイルムの強みを活かし、数年以内に写真フィルム市場を代替できる新事業を立ち上げることです。しかし、富士フイルムの強みとは何でしょうか?

もし「富士フイルムの強みは、写真フィルム技術」と考えていたら、富士フイルムの未来はありませんでした。事実、巨人・コダックは、「コダックの強みは、写真フィルム」という考えから抜け出すことができず、2012年に倒産しました。

 

実は1970年頃、写真フィルムは白黒からカラーへと世代交代をしています。かつての白黒写真フィルムの時代は、写真フィルムメーカーは世界中に何百社とありました。しかしカラー写真フィルムに世代交代すると、それらの会社の多くは淘汰され、残った主なカラー写真フィルムメーカーは、米国コダック、独アグファ、コニカ、そして富士フイルムの4社だけになりました。白黒フィルムの製造技術の延長ではカラー写真フィルムを製造できなかったからです。三原色の微妙なバランスにより天然色を再現するカラー写真フィルムを製造するには、極めて高度な基盤技術が必要だったからです。

 

このように考えると、一見「コア技術」(=強み)と思われがちな写真フィルム技術は、実は「コア技術」ではなく、「コア技術」によって生み出された「製品技術」であることがわかります。

カラー写真フィルムを製造していたメーカーは、高度な基盤技術の集合体である写真フィルム技術を生み出すために、自分たち自身も十分に意識していなかなかった「コア技術」(=強み)を持っていたのです。

そして米国コダックが倒産したのは、その「コア技術」(=強み)を活かして新規事業を立ち上げることができなかったからなのです。

当時、富士フイルムのトップだった古森重隆社長は、技術開発部門のトップに対して、富士フイルムが持つ技術の棚卸しを命じました。1年半ほどして十数件の基盤技術が整理されました。そして富士フイルムがどのような技術を持ち、市場ニーズに対してどのような可能性を秘めているのかを評価していったのです。その上で、新たに挑戦する新規事業として6つの事業分野が選ばれ、それらの事業が急速に衰退していく写真フィルム事業を代替していったのです。

 

それら新規事業の一つが「メディカル・サイエンス事業」。

松田聖子さん、小泉今日子さん、中島みゆきさん、松たか子さんといった大物歌手や女優が登場する、赤を基調とした広告とパッケージが印象的な化粧品「アスタリフト」をご存じでしょうか?このアスタリフトは、富士フイルムが「メディカル・サイエンス事業」において立ち上げた新規事業なのです。

 

実は富士フイルムが持っている十数個の基盤技術の中で、化粧品市場に活かせる技術がありました。

1つ目はコラーゲン技術。写真フィルムはコラーゲンでできていますが、肌の張りを保つのにもこのコラーゲンは必要です。

2つ目は抗酸化技術。写真の色褪せを防止する抗酸化技術は、肌の老化にも有効です。

3つ目はナノテクノロジー。カラー写真フィルム技術で培ったナノテクノロジーを活用すれば、化粧品を肌になじませることにもできます。

化粧品市場でこれらの富士フイルムが持つ技術上の強みを必要とする顧客は、「シワやたるみ、日焼けによるシミ・くすみを防止し、肌の張りを瑞々しく保ち、いつまでも若々しい肌を保ちたい」という課題を持っている30〜50代の女性です。

そこで富士フイルムは、アンチエイジング化粧品として、このスキンケア商品「アスタリフト」を開発したのです。まとめると、次のようになります。(「魂の経営」(古森重隆著)を参照して作成しています)

(1)自社の事業
アンチエイジング化粧品

(2)自社ならではの強みは何か?
【コラーゲン技術】 フィルムのベース → 肌の栄養
【抗酸化技術】   フィルム色褪せ防止 → 肌の老化防止
【ナノテクノロジー】 フィルム微細加工 → 肌へなじませる

(3)その強みを必要とするお客様は、誰か?
30代〜50代の女性

(4)そのお客様は、何を必要としているか?
シワやたるみ、日焼けによるシミ・くすみを防止し、肌の張りを瑞々しく保ち、いつまでも若々しい肌を保ちたい

(5)お客様が自社を選ぶためには、どうすればよいか?
アンチエイジング化粧品「アスタリフト」を開発し、スキンケア商品として提供する

 

「自社の強みを見極める」「その強みを必要とするお客様を見極める」「そのお客様の課題を見極める」「お客様が自社を選ぶためには、どうすればいいか考える」……一見、何も目新しいことはありません。むしろ言い尽くされており、陳腐化している言葉、といってもいいかもしれません。

実は、真実は言い尽くされた言葉の中にあります。そして、この言い尽くされたことを実行しようとしない企業や人も多いのです。

米国コダックが破綻し、富士フイルムが生き延びたのも、富士フイルムが自社の強みを見極め、その強みを必要とする顧客と課題を見極め、リアルな顧客で検証し続けるという、「当たり前のこと」を愚直に実行したからです。

成功する人や企業は、言い尽くされたことを愚直に実行しているのです。

 

「魔法の絨毯」は存在しません。当たり前のことを当たり前に行うことこそ、王道なのです。

大震災で壊滅した気仙沼で、観光ビジネスが大きく復活した理由は、「み・か・た」だった

2011年3月11日夜。
気仙沼。

大地震で破壊された石油タンクから流出した油で、街中が大規模な火災に見舞われた衝撃的な映像が、テレビでも放映されました。

「この大火災の中に、どれだけの人が取り残されているのだろうか?」

私はネット経由のテレビで壊滅しつつある気仙沼を、何ひとつできない自分の無力さを感じながら、ただ見守るだけでした。

あれから4年。実は気仙沼で、観光ビジネスが大きく復活していることを、ご存じでしょうか?

 

先週2015年7月27日(月)の夜、原宿で行われたTourism Design Drinks Vol.2で、気仙沼プラザホテル・支配人の堺丈明さんのお話しをお伺いする機会をいただきました。

ちなみに会場はこんな感じ。

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下の写真で、右側の方が気仙沼プラザホテル・支配人の堺さん。真ん中がこの会を主催したグラグリッド代表の尾形さん。左が話の内容を絵でまとめられたグラグリッドの三澤さんです。

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講演の前に、私は何の前提知識も持たずに、堺さんとお名刺交換しました。大震災当日に大火災に見舞われた気仙沼のイメージを持っていたので、「大変だったのではないですか?」と堺さんに伺ったところ、ごく普通のさりげない様子で「いやぁ、大変でした」。

 

堺さんのお話しが始まりました。

まずは開口一番。「気仙沼のカツオを持ってきましたので、皆さん召し上がって下さい」

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これがまた美味でした。

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気仙沼で育った堺さんですが、ホテルに勤めながらも、実はあまり気仙沼が好きではなかったそうです。

「何もないし。魚臭いし」

そして気仙沼プラザホテルの支配人になってから間もなく、3.11の大震災が起こりました。

 

震災当日、堺さんは仕事がたまたま休みで、大島にある自宅にいました。ホテルから船で30分ほどの場所です。ご両親とお子様は無事でしたが、その日に気仙沼に仕事に行っていた奥様とは、震災直後に携帯で連絡が取れた後、連絡が取れませんでした。しかし堺さんも身動きが取れません。

震災1週間後、やっと気仙沼に行くことができました。そして船が到着した波止場に、なんと奥様がいました。

「生きていてくれてありがとう」という言葉しか出なかったそうです。

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気仙沼はまさしく壊滅状態。ホテルを再開したのはライフラインが通った翌日の5月1日。

しかし観光客が来るはずもなく、工事関係者やボランティアの方々の宿としての再出発です。

モチベーションが上がらないまま、ただ工事関係者に宿泊場所を提供するという仕事の日々が続きます。

そんな状況で半年が過ぎたある日、堺さんは、カンカンになったある宿泊客から叱責されます。

「なんだこの宿は?『いらっしゃいませ』もないし、布団も敷いていない。食事もセルフサービス。震災の上にあぐらをかいているだけじゃないか!」

この方は、被災されたご親戚の誕生祝いのために来られた、一般の旅行客でした。

その時、堺さんの口から自然に出た言葉は、「申し訳ありません」ではなく、「ありがとうございます」。

これを期に、堺さんの考え方が一気に変わりました。

 

震災前までは、堺さんは営業に出ると「ウチのホテルに来て下さい」と、気仙沼のことは何も言わずにホテルの宣伝ばかりしていました。

震災後は、ホテルを売る前に、まず気仙沼のことを売り込むようになりました。

 

同じようなことが、気仙沼のいろいろなところで起こり始め、気仙沼の事業者同士が協業するようになりました。

 

たとえば、気仙沼観光タクシーは、「タクシーは観光産業である」と考えて、気仙沼の観光に取り組んでおられます。
タクシーで気仙沼をまわりながら、タクシー運転手の皆さんも「震災の語り部」としてスキルを高めています。

また、新たに防潮堤を建設するために、海が見えにくくなりました。そこで「街や丘に魚を走らせて、海を感じられるようにしよう」と「おさかなタクシー」も始めました。

デザインも子供たちに公募しています。この写真は、気仙沼観光タクシー様のFacebookページから転載しました。

BEXI

また、日本酒の海中貯蔵も気仙沼で始まりました。海中貯蔵すると、瓶が波で四六時中かき回され、とても美味しい日本酒になるそうです。しかし通常の発想では、漁業と日本酒の協業連携はありえません。これも「気仙沼で何かできないか?」と事業者同士で新たに知恵を出し合った結果です。

 

また、映画監督の堤幸彦さんも、気仙沼を舞台にドキュメンタリードラマをシリーズで制作されています。日本で一番忙しいと言われる映画監督ですが、気仙沼では泥すくいなどのボランティアもなさっています。

 

さらに俳優の渡辺謙さん。最初はNHKの取材で何回か気仙沼に来られました。そのうちに渡辺謙さんは「自分でできることはないか?」と考え、気仙沼の人たちに聞いたところ「人との出会いの場所がない」。

そこで渡辺謙さんは、気仙沼にカフェK-portを作りました。ご自身が大病で、「生きる、死ぬ」の壮絶な体験をなさった渡辺謙さんならではの男気を感じるお話しです。

これが店内。真ん中にいるのが渡辺謙さん。スクリーンでは凄まじいオーラを発する渡辺謙さんも、お店では普通の人だそうです。

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ちなみに、この日の堺さんは二日酔いでした。なんと昨晩、K-portで渡辺謙さんと飲み明かしていたとのお話しでした。

 

このように気仙沼が大きく変わったきっかけは、やはり震災でした。

堺さんは、「いろいろな人に助けられて、感謝の気持ちが生まれ、本気で付き合うようになった。そして集まる場所ができた」とおっしゃっています。

人々と繋げて新たなものを生み出すために、堺さんは色々なところに行きます。そこで大切なのがSNS、特にFacebookです。情報発信をすることで、お互いに何を考えているかがわかるようになります。

たとえば、気仙沼プラザホテルで商品券を発行した時は、お店を一軒一軒回りました。この際にも、Facebookで情報発信をしていたことで、相手も事前にわかっていたそうです。

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堺さんの講演の後、堺さんが「師匠」と呼ぶJTBの山下さんが話されました。

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山下さんは、JTBで観光立国推進の戦略を担当しておられます。実は私も、山下さんのご紹介でこの会に参加しました。

 

山下さんは、「気仙沼の文化は、『おかえりなさい』文化」とおっしゃいます。

三陸沖での沖合漁業や、世界の海を対象にした遠洋漁業の基地として、全国から優秀な漁師を集めてきた気仙沼は、外の人をまったく気にせず受け入れる文化があります。気仙沼の人たちは、外の人とのネットワーキング作りが上手なのです。

さらに大震災で、地域が壊滅してしまいました。多くの地域は、様々な利害関係を抱えていて、なかなかスムーズに新しいことができません。しかし壊滅してしまった気仙沼では、協力するしかありませんでした。必死に自分たちの強みを考え、すぐに実行しているのです。

たとえば、先にご紹介した日本酒の海中貯蔵はその典型です。漁業と日本酒の協業連携は、通常はあり得ません。この気仙沼だから、生まれたのです。

ちなみにこの写真で、漁船に乗って突きん棒と言うメカジキを獲るための漁の道具を持っている竿を持って海中貯蔵している日本酒をチェックしているのがJTBの山下さん。後ろにいるのがグラグリッド代表の尾形さん。撮影は気仙沼プラザホテルの堺さん。皆さん、楽しそうです。 (赤字: 2015/8/7修正しました)

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「世界遺産にならなくても、観光振興はできる」と山下さんはおっしゃいます。そして、利害関係に始まる様々な壁を乗り越えるのは、堺さんのような若い世代。今回の震災で、気仙沼にも堺さんたちのような人たちが出てきたのです。

山下さんの懸念は、今、徐々に平時の意識になりつつあること。数十年後も継続し続けられるように、常に新しいことにチャレンジし続けるような仕組み作りを考え始めていく時期になっています。

 

最後にグラグリッドの三澤さんが、とてもわかりやすく議論をまとめてくださいました。

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この会のテーマでもある「ツーリズムデザイン」という新しい考え方に取り組まれている皆様の熱いパッションを感じた2時間の会でした。

 

私自身も勉強になりました。

先日の阿智村の取り組みをご紹介したブログで、「み・か・た」(「みんなで、かんがえ、たしかめよう」)が大切だと書きました。

しかし改めて気仙沼のお話しを伺って、むしろ「みんなで、かんがえ、たのしもうなのではないか、と思えてきました。

「み」。気仙沼は、事業者同士で繋がり、外の人も柔軟に受け入れて、衆知を結集している
「か」。気仙沼は、漁師の町という強みを考え抜き、その強みを活かしながらいかにお客様に価値を提供するかを考えている
「た」。考えるだけではなく、楽しみながら実行し、試行錯誤を繰り返している
・そして「みかた」をどんどん拡げて、気仙沼全体が活性化している

「み・か・た」は地域活性化のためのキーワードになるのではないかと、改めて実感しました。

 

そしてそれは、観光業に留まらず、様々な業界でも共通する重要な考え方だと思います。

多くの企業で変革の必要性が叫ばれながらも、既存の利害関係が乗り越えられずに、なかなか進みません。それは地域活性化は遅々として進まない地域も同じです。

一方で、危機に陥った企業が、それをバネにして社員が一致団結し、大きく復活することもあります。気仙沼の取り組みを見ていると、まさに同じ印象を受けました。

 

この会を企画・運営された皆様には、厚く感謝申し上げます。

最後に皆さんで集合写真です。まさに「みんなで、かんがえ、たのしもう」と盛り上がっています。

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私も、「いつか近いうちに、気仙沼に行ってみよう」と思いました。

 

 

 

オムニマネジメント2015年8月号に連載第3回『新規事業は、顧客ニーズで判断せよ』が掲載されました

一般社団法人日本経営協会様が発行する月刊オムニマネジメント2015年8月号に、連載「半歩深く考える仕事術」の第3回目『新規事業は、顧客ニーズで判断せよ』が掲載されました。

オムニマネジメント201508-2

 

新規事業は、顧客ニーズで判断する。

一見すると当たり前のことだと思いがちですが、実際にはそうなっていないことが多いのです。

 

今回は新規事業の判断について、「顧客から見たニーズ充足度」「企業から見たニーズの把握」の2つの観点で、次の4象限で事例をご紹介しながら整理してみました。

4象限20150731

もしご覧になる機会がありましたら、お手にとっていただければ幸いです。

「『お客様が買う理由』なんて作れれば、苦労しないよ」というご意見。正しいです

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講演後の質疑応答。ご意見をいただきました。

参加者「要は、『お客様が買う理由』を作るには、『お客さんが必要としていて、他社が提供できない、自分たちだけの価値を考え抜け』ということですか?」

永井「はい。おっしゃるとおりです」

参加者「うーん。お客様から無理難題を言われ、とても苦労しているのが、営業の現実です。『お客様が買う理由』なんて都合のいいものが作れれば、こんな苦労しないんですけどね。それは理想論ではないでしょうか」

 

これは、ある意味で、実に正しいご意見です。

 

お客様から無理難題を言われ苦労しているのは、『お客さんが必要としていて、他社が提供できない、自分たちだけの価値』が提供できていないから。そのような状況で苦労しても、必ずしも報われないことも多いのです。

同じ苦労をするのならば、『お客様が買う理由』を作ることで、報われる苦労をしたいですよね。

 

立場を変えてみるとわかると思います。

店頭で販売員や営業に、「これいいですよ!」といくら勧められても、乗り気になっていなければ、買わない人がほとんどです。

逆に「あの商品、欲しいなぁ」と常に思うような商品なら、少々高くても買う人は多いのではないでしょうか?

後者が、『お客さんが必要としていて、他社が提供できない、自分たちだけの価値』を創り出し、『お客様が買う理由』を生み出している状態です。そのような商品は、「売る」ことに注力しているのでなく、「欲しくなる」ことに注力しています。

 

言い換えれば、「いかに売るか」というセールス視点から、「いかに買う理由を作るか」というマーケティング視点へ、発想を転換することが必要なのです。

かつての大量生産・大量販売の時代だった高度成長期は、「いいモノを作れば売れた」ので、「いかに売るか」という発想が有効でした。

しかしモノが余るようになり、ニーズが微細化・ナノ化した現代では、「いかに売るか」だけを考えても消費者は振り向いてくれません。だから「いかに買う理由を作るか」というマーケティング視点がますます大切になっているのです。

 

このように考えると、「『お客様が買う理由』を作れれば、理想だし、苦労しないよ」というご意見は、まさに本質を理解したご意見なのです。

重要なのは、それは「単なる理想」ではなく「実現すべき理想」であること。

そして、ちゃんと方法論が存在するということ。ポイントは当ブログでも繰り返しお伝えしている通り、

「自分たちの強みの見極め」

→「顧客の絞り込み」

→「継続的な試行錯誤」

なのです。

 

当ブログで前回と前々回ご紹介した、南信州・阿智村石川県・白山市の挑戦は、そんな取り組みの一例です。

普通の温泉地だった阿智村で、2012年から観光客が急増した理由は、自分では気づかない強みの発見だった

2016/3/30追記:この阿智村の話を、本にしました!→アマゾンへ

「そうだ星を売ろう」表紙

阿智村の挑戦を、わかりやすく面白い物語(+最新ビジネス理論)にまとめています。

 


先週の石川県・白山市の取り組み「恋のしらやまさん」に続き、今回も観光でいかに価値をつくるかという話です。

南信州・阿智村にある昼神温泉は、つい数年前まで、静かで観光客も少ない温泉地でした。
しかし現在、阿智村には観光客が大挙して来るようになりました。

阿智村の人は当たり前で強みになるとは思わなかった、阿智村にしかない「強み」を見極めて、必要とする人に提供するということを、数年間愚直に続けてきた結果です。

そのキーワードは、「星空」でした。

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阿智村の取り組みからは、「強みの見極め」→「顧客の絞り込み」→「継続的な試行錯誤」の大切さを学ぶことができます。

そこで先週、阿智村を見学させていただきましたので、ご紹介します。

 

自宅を午前9時に出発。新幹線で名古屋まで行き、高速バスに1時間50分乗って、午後3時前に「昼神温泉」に到着します。

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ここでJTBの武田さん、スタービレッジ阿智誘客促進協議会・事務局長の松下さんと合流。

昼神グランドホテル天心にチェックインします。

天心ホテル室内

ここで皆さんと記念写真。左から、武田さん、永井(私)、松下さん、昼神グランドホテル天心の今井社長です。

天心で、4名の写真

実は阿智村に大勢の観光客が来るようになった立役者が、この武田さんと松下さんなのです。

 

阿智村の見所を案内していただいた後、本日の目的地、ヘブンスそのはらに行きます。

ここはロープウェイの出発点であるヘブンスそのはら「山麓駅」。標高800メートルです。

ヘブンズそのはら昼間

実は阿智村は、環境省が「日本で一番、星空が輝いて見える場所」に認定した場所なのです。

YouTubeには、こんな素敵な動画もアップされています。

素晴らしい星空ですよね。

そこで阿智村は、冬はスキー客用に使っているロープウェイを活用して、日本一の星空を見たいという観光客向けに、雪のないシーズンは夜間に山頂まで運行させているのです。

ここに来るまで、紆余曲折がありました。

阿智村は以前から、「地域を巡るバスツアー」、「格安シャトルバス」、「温泉巡りパスポート」など色々と仕掛けてきました。しかしお客様は喜ばれるものの、新たな誘客に結びつかなかったり、宿泊に結びつかなかったりと、観光がなかなかビジネスになりません。

阿智村で観光を担当される方は、「実は、温泉郷の広告に使うネタにも困っている」というのが実情でした。

そこで2011年、JTBの武田さんが入って、阿智村の方々と議論を重ねました。そして、阿智村ならではの強みがあることがわかりました。

・環境省 全国星空継続観測で日本一になった
・スキー場があるので、ゴンドラで1400mの山頂へいける(でも夏の夜は動かしていない)
・多才な人たちがいる

そして2012年、阿智村ならではの強みを活かした「星空エンターテイメント」として、「天空の楽園 ☆ 日本一の星空ナイトツアー」というコンセプトを生み出し、Star Villageとして訴求を始めたのです。

しかし「星空が綺麗」なのは、阿智村に暮らしている人たちにとっては当たり前のことでした。実は当初は「本当に星空なんかを売りにして、お客さんが来るのか?」と疑心暗鬼な人もかなり多かったそうです。

 

ということで本命は夜なのですが、まずは昼間の様子を見学。ロープウェイに乗って、昼間の山頂駅を目指します。

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下を見ると、高速インターチェンジが見えます。

ゴンドラ昼高速

武田さんによると、阿智村は高速インターチェンジを降りてすぐ近くにあるのがとても大きなメリットだそうです。確かにこれだけ星が綺麗に見えて、しかも車を持っている人にとって便がいいのは、観光地としては強みですね

山頂の様子です。

山頂昼1

山麓駅からの標高差600mで、ここは標高1400m。山麓駅よりもかなり涼しく、空気も香しく、まるで別世界です。まさに「天空の楽園」ですが、夜になるとそれをさらに実感することになります。

ここは冬はスキー場ですが、夏は花が植えられています。

山頂昼2

 

昼の様子を一通り見た後は、一旦ロープウェイで山頂駅から山麓駅に戻ります。

ロープウェイ夕方

実はこの日、“Star Village Cafe by NAKED”のオープニングの日なのです。

PR TIMESでも紹介されています。→『日本一の星空の村にプロジェクションマッピング「STAR VILLAGE CAFÉ by NAKED」が7/11OPEN』

クリエイティブチーム・ネイキッドは、東京駅のプロジェクションマッピング、新江ノ島水族館ナイトアクアリウムなどを手がけてこられましたが、今回新たに阿智村のStar Village CAFEも手がけることになりました。そのオープニングが、この日なのです。

2012年からStar Villageの取り組みを始めた阿智村は、JAXAや、望遠鏡のビクセン、トヨタVoxyのCMなど、色々な団体と協業するようになりました。このネイキッドとの協業も、そんな中の一つです。

ネイキッドのスタッフの方々が、準備をなさっています。

Naked準備

以前よりJTB様を通じて阿智村とはご縁をいただいてきましたので、このオープニングセレモニーには私も来賓として呼ばれていました。

セレモニーの会場はこんな場所です。

オープニング会場準備

セレモニーでは、阿智村の熊谷村長、阿智村観光協会専務理事の小島様、ヘブンスそのはら体表取締役の白澤様、ネイキッド代表の村松様、来賓として東海ウォーカー編集長の嶋村様と私の、合計6名がそれぞれスピーチしました。

(2015/7/23追記:オープニング写真をいただきましたので掲載します)

阿智村オープニング

私はこんな話を致しました。

・私はいつも「お客様が『ぜひ欲しい』と思うような、買う理由を作りましょう」と提唱している
・阿智村は、まさにこれを徹底して実践されてきた
・ポイントは「み・か・た」
・「み・か・た」とは、「みんなで、かんがえ抜いて、たしかめよう」ということ
・まず、「み」。阿智村は村を挙げて、Star Villageに取り組んでいる。つまり衆知を結集している
・次に、「か」。阿智村は、日本一の星空という強みを考え抜き、それを必要とするお客様とニーズを考え抜き、そしていかに対応するかを考え抜いている
・次に、「た」。考えるだけでは「買う理由」は作れない。だから実行し試行錯誤を繰り返す。阿智村は2012年から試行錯誤を愚直に繰り返してきた
・「み・か・た」を徹底することで、まさに味方である協業相手も増えていく。望遠鏡のビクセンさんもそうだし、今回のネイキッドさんもそう
・ということで、今後も「みんなで、かんがえ抜いて、たしかめよう」を徹底し続けることで、阿智村はもっと味方を増やして、ますます発展していく筈です。応援しています

 

セレモニーをしている最中にも、ヘブンスそのはらへお客さんが車で次々と到着しています。

駐車場

ちなみに阿智村には、Star Villageにまつわる色々な商品もあります。

スタービレッジ関連商品

いよいよ日も暮れてきました。会場も暗くなってきて、いい雰囲気です。今井会長、阿智村の熊谷村長、小島様、白澤様が話で盛り上がっています。

夕方関係者の皆様

再びゴンドラで山頂駅に行きます。皆さん並んでいます。若いカップルやシニアなご夫婦が多いですね。長い列ですが、ゴンドラ1台で12名搭乗できるので、意外とすぐに乗れます。

ゴンドラで登る人の列

こんな感じでゴンドラが登っていきます。

ゴンドラ夜

15分後、再び山頂駅に到着。

昼間とは一変して、実に多くの人たちで賑わっています。まるでお花見会場です。

カウントダウンを待つ人たち

この日は600名の方がゴンドラで山頂に登りました。昨年の最高記録は、一晩でなんと2800名。
しかし2012年の開始初日は、お客さんはわずか10名。今からは想像もできませんね。
最初の立ち上げから尽力されてきた武田さんは、大勢集まっている様子を見ながら「これは嬉しいなぁ」と感無量な表情です。

 

私と武田さんとのおつき合いは、1年前からです。阿智村がここに至るまでの道のりも、以前からお伺いしてきました。

初年度の2012年。会長に熊谷村長、顧問にJTBが就任してスタービレッジ阿智誘客促進協議会を設立。阿智村全体でアイデア拡大、ワクワク感を演出しながら、現在のプログラムの原型を作りました。2012年は特に販促しなかったにも関わらず、クチコミで6,000人もの参加者がありました。

これで阿智村全体に火がつきます。

2年目の2013年。首都圏旅行会社に売り込みを始めました。熊谷村長も自ら営業に奔走、2013年7月7日にはJAXAタウンミーティングを開催したり、治部坂高原科学教室を開催したりしました。この年の目標は15000人でしたが、結果は1.5倍の22,000人の参加者がありました。

3年目の2014年。さらにブランド化を図りました。村内51店舗で利用可能な「星の里スターコイン」の流通を開始したり、阿智村スターマイスター認定試験を始めたりしました。星景写真家の宮坂雅博氏が年間を通じ阿智村で星空撮影を始め、「死ぬまでに行きたい!世界の絶景 日本編」にも掲載されました。この年は33,000人が参加しました。

そして今年、4年目を迎えているのです。ここまで成長できたのは、素晴らしいですね。

 

このように、JTB様はこの阿智村や前回ご紹介した白山市の他にも、「モノづくり観光」の東大阪市、「道産酒」の北海道酒造組合など、日本の色々な地域の人たちと一緒に、地域ならではの独自の強みを活かして観光資源を開発する取り組みを、「交流文化事業」と名付けて取り組んでおられます。詳しくはこちら

このJTB様の交流文化事業のアプローチは、まさにマーケティング発想ですね。

 

ライトを消すカウントダウンを待ちます。

星空ライトアップ中

午後8時25分、ライトがすべて消灯すると、数百名の観光客から一斉に歓声が上がります。こんな星空が現れました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

噂に違わず、綺麗な星空です。ただちょっと雲がかかっていたのが残念です。

阿智村の方々によると、「雲がなければ、さらにもっと多くの星々が見えていたはず」とのこと。

真っ暗闇の中、星の物語のナレーションが場内に響きます。

 

30分ほどすると再びライトが点いてプログラムは終了。山頂駅から山麓駅に戻ります。

ゴンドラ夜の帰り

 

夜になり、“Star Village Cafe by NAKED”も、とてもいい感じです。

StarVillageCafe-by-Naked全景 StarVillageCafe-by-Naked調理場

この画像や照明は、パナソニックの協力でスポットライトとプロジェクターの機能を融合したSpace Player®(スペース プレーヤー)を活用したものです。

足下も、こんな感じでかっこいいですね。

StarVillageCafe-by-Naked

また、素通しの窓に画像が浮き上がっています。

StarVillageCafe-by-Naked窓

一見当たり前に見えますが、普通の窓だとこうなりません。実はJX日鉱日石エネルギーの協力で、窓ガラスに映像を投影することができる特殊なフィルムを貼り付けた「スペースディスプレイ」を、世界で初めてこの阿智村で使ったそうです。東京でもほとんどお目にかかれない、素晴らしくお洒落な空間を体験できます。

スタービレッジ阿智誘客促進協議会・事務局長の松下さんとお話ししたところ、「このイメージを、3〜4年後にはもっと拡げていきたい。この乗り場が、まさに宇宙船であり、宇宙への発信基地みたいにしたい」と熱く語っておられました。漆黒の闇で星しか見えない中、ゴンドラに乗っていると、本当に宇宙船に乗っている感覚を覚えます。

 

ただ、少し雲があったのが心残りです。そこで、もう一晩頑張ることにしました。

 

翌日。二日目もかなり暑くなりました。阿智村を散策している途中、涼む目的も兼ねて昼神温泉ガイドセンターに立ち寄ると、前日にヘブンスそのはらでお世話になった宮沢さんがいらっしゃいました。ガイドセンターの3名の方々の写真を撮らせていただきました。真ん中が宮沢さんです。

昼神温泉ガイドセンターの方々

「Star Villageを始める前と後で、いかがですか?」とお聞きしたところ、「まったく変わりました」とのこと。お客さんが急増し、村全体にとても活気が出るようになったそうです。観光振興と地域振興は、セットで行うことが必要なのですね。

 

初日は来賓扱いをしていただいたので、この日はホテルで正規チケットを購入。チケットは一人2200円で、こんなデザインです。

ナイトツアーチケット

ホテルからのバス送迎付きの、ゴンドラ往復券です。

夜7時半、バスに乗り込みます。

バス車内1

ヘブンスそのはら山麓駅に到着。夜は相変わらずいい感じです。

天空の楽園看板夜

ゴンドラも勢いよく上がっていきます。

ゴンドラ夜スピード

早速、星空撮影にチャレンジします。まだライトが灯っている間に、観光客が沢山いる場所から離れて、カメラと三脚をセットしてライトが消えるのを待ちます。

 

ライトが消えました。昨晩よりもちょっと雲が多いですねぇ。

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待っている間に、雲が徐々に増えてきました。

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ちょっと残念な天気ですね。

 

一方で、この日も山頂には数百名の観光客が大勢います。「皆さん、どうしているのかな」と思い、真っ暗な中を観光客が集まってるところに戻ると………なんと観光客の皆さんは盛り上がっていました。

この写真は高感度で30秒露光をしたので明るく見えますが、実際には真っ暗闇です。

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「星のお兄さん」が軽妙な関西弁で面白おかしく星の説明をしていて、お客さん一同大受けです。「星のお兄さん」は月に一回、阿智村で「星のお兄さんショー」を行うそうで、私の場合、ラッキーなことに遭遇できました。「星のお兄さん」は藤井フミヤさんともコラボするそうです。→詳しくはこちら

星のお兄さんがいない日も、村の星空ガイドの方々が同じように映像が画像を使って星の説明をするようになっています。星空ガイドの方は、「星空が見えない日も、キャンセルはありません。プレッシャーがかかります(笑)。こういう日こそ、トークにも熱が入ります」とおっしゃっています。

阿智村は、単に星がきれいなだけではなく、星というテーマを中心に、その強みを活かす仕組みを皆で作っている点が、素晴らしいですね。

 

この日は帰りのロープウェイで、シニアなご夫婦と、若いカップルの4名とご一緒しました。真っ暗なゴンドラの中で、皆さんが「うわぁ。まるで宇宙船みたい」と感激していたのを聞いて、私も嬉しくなりました。

写真を撮ろうとしましたが、真っ暗なのでカメラを最高感度のISO12800にしても全く写りません。高速インターチェンジの光でなんとか撮影できました。

夜のゴンドラ

 

翌日の3日目。阿智村を出発するために高速バスが出発する昼神温泉ガイドセンターに行くと、とても幸運なことに、阿智村の熊谷村長とバッタリと出会うことができました。早速、記念写真。

阿智村村長

熊谷村長とは、今年1月に名古屋で行われた講演会以来のご縁です。その時の「いつか阿智村に行きます」というお約束を、今回果たすことができました。

実は同じ場所で「星のお兄さん」ともバッタリ出会い、名刺交換とご挨拶をしたのですが、写真撮影をすっかり忘れていたのは残念。

 

阿智村は風情のある温泉地ですが、「温泉」だけでは他の温泉地と明確な差別化ができませんでした。私も温泉は大好きですが、「温泉だけなら当たり前」なのですね。

阿智村に滞在した3日間を通じて実感したのは、「日本一の星空」という阿智村独自の強みを見いだし、2012年からその価値を徹底的に訴求し、実際に色々と試行錯誤をしながら高めていった点に、阿智村の成功の秘密があるということです。

冒頭に書きましたように、

「強みの見極め」→「顧客の絞り込み」→「継続的な試行錯誤」

という当たり前のことを、愚直に継続することがいかに大切なのかが、よくわかります。

 

さらに前回ご紹介した白山市・鶴来と、この阿智村の取り組みに接して、観光振興のためには地域振興が必要であり、そのためには地域マーケティングの発想が必要である、ということがとてもよくわかりました。

今回の見学に際してご尽力をいただいた関係者の皆様には、深く感謝申し上げます。

 

 

【補足: 星空以外でも、実は奥深い阿智村】

ここまで阿智村の強みである星空を中心にご紹介しましたが、阿智村は星以外にも色々な見所があります。最後にまとめてご紹介します。

初日、武田さんのご案内で阿智村の様子を見てきました。ここは天台宗開祖・伝教大師最澄の創建と伝えられる信濃比叡・広拯院。

信濃比叡神社1

「比叡」の名は、天台宗本山である比叡山から、平成12年(2000年)に「信濃比叡」の称号として授かったそうです。

ここには驚くなかれ、1200年前から燃え続けている灯があります。これがその説明と、1200年間灯り続けている火。

信濃比叡神社2 信濃比叡神社3 火

奥にある金属の容器の中で、なたね油に浸されて燃えているのが1200年間灯り続けている火で、ロウソクはその火からわけたものです。

この寺では、鐘を突くこともできます。私と武田さんも、早速やってみます。

信濃比叡神社4 鐘 永井 信濃比叡神社5 鐘 武田さん

そこら中に大音響が響きます。近くにいると「ゴーン」という鐘の音の後に、何故かジリジリとした音も感じます。

 

伝教大師ご尊像もありました。比叡山峯道に建立されているものと同一のものだそうです。

羅漢像

隣接する東山道・園原ビジターセンター・はゝき木館でも、色々なものを見ることができました。

 

二日目の朝。ホテル近くで朝市をやっていました。

朝市1

早朝に取れた取れたて野菜ばかり。安いですね。

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朝市5 朝市6

阿智村に車で来ている方は、帰る当日に買うといいかもしれませんね。

 

朝食後、ホテルの近くにある阿智神社前宮に行きました。

阿智神社

写真を撮っていると、この神社にいた3人の女性から声をかけられました。

「あれ?昨晩のセレモニーでお話ししていた人ですよね?」

すでに完全に顔が割れています。もう悪いことはできません。いずれにしても、悪いことはしませんが。(笑)

 

昼神温泉ガイドセンターで宮沢さんに翌日の帰りのバスや、阿智村の見所を教えていただき、近くにあるカフェ”Blanc Brun”に向かいます。

ブランブラン

ここは素晴らしいカフェです。特にランチは絶品。こんな感じです。

写真 2015-07-12 11 52 02 写真 2015-07-12 11 58 32

写真 2015-07-12 12 06 45 写真 2015-07-12 12 24 21

順番に、カブのスープ、サラダ、アスパラのリゾット、デザートと濃いめのコーヒーです。店内もゆったりした空間でくつろぎます。

これで1,780円は安すぎます。

 

3日目の最終日、ホテルをチェックアウトしました。宿泊した昼神グランドホテル天心は、こんな感じです。

ホテル天心全体像

ホテル前の橋から見た様子。

阿智村の橋から

川沿いに30分ほど歩きながら、阿智村にあるもう一つのカフェ「十字屋可否茶館」に行きます。

森の中にあります。

十字屋看板 十字屋外観

実に色々なメニューがありますね。

十字屋メニュー

美味しいコーヒーです。自家焙煎だそうです。

十字屋コーヒー

店内の様子。癒やされる空間です。

十字屋店内

他にもご紹介しきれない見所が沢山あります。

阿智村は、星以外にも奥が深いところです。

 

 

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いま白山市で、若い女性観光客が急増している理由は、強みの徹底見極めと、顧客の絞り込みだった

石川県にある白山市をご存じでしょうか?

全国的な知名度はありませんが、実はとても奥深く、数多くのパワースポットがあり、そして若い女性観光客が急増中なのです。

北陸IBMユーザー研究会様への講演の翌日、金沢から少し足を伸ばして白山市に行き、多くの方々のご協力で見学して来ました。

そして白山市の観光への取り組みから、観光で「自分たちの強みを見つけて、ビジネスに繋げる」大切さを改めて学ばせていただきました。この白山市の取り組みは、観光振興を考える多くの地域にとっても、あるいは観光業以外のビジネスでも、参考になると思います。

そこで今回、写真を交えながらご紹介しながら、一緒に考えていきたいと思います。

 

今回の目的地は、白山市にある「鶴来」(つるぎ)という町。まず金沢市内にある北陸鉄道の野町駅に行きます。

野町駅

ここで、今回の鶴来見学の準備でお世話になったJTB金沢支店の寺澤様(右)と、北陸鉄道の河崎次長(左)にお会いしました。

寺澤様・河崎様

河崎次長より、「恋のしらやまさん」きっぷ一式をいただきます。電車一日乗車券・観光マップ・鶴来のバス乗車券・和菓子チケット・辻占チケットが、こんな形でセット販売されています。

恋しらきっぷ

この「恋のしらやまさん」とは、縁結びの神社である白山比咩神社(しらやまひめじんじゃ)(地元では通称「しらやまさん」と呼ばれています)にお参りし、鶴来の町並みや文化・歴史・味覚・パワースポット・人とのふれあいを堪能する旅行プログラムのこと。

どんな内容なのか、これから追ってご紹介していきます。

 

野町駅を出発し目的地の鶴来駅まで、単線で30分かけて、同乗いただいた河崎次長のお話しを伺いながら、向かいます。

2両編成の電車は、住宅地の間を縫うように走っていきます。金沢市を抜けて白山市に入ると、住宅はなくなり、車外には緑豊かな田んぼが広がります。

北陸鉄道車外景色

この野町駅と鶴来駅を結ぶ北陸鉄道石川線は、1916年に設立された金沢電気軌道株式会社が母体。間もなく創業100年になる歴史ある鉄道です。

この電車の正面には「恋のしらやまさん」というプレートがついています。

電車恋のしらやまさん

社内にも「恋のしらやまさん」のポスターがあります。

電車恋のしらやまさん社内

ピンクでハートの形をしたつり革もあります。これは1車両に1個しかないレアもの。これを掴むと幸せになれるそうです。

電車恋のしらやまさんつり革

 

鶴来駅に到着しました。高倉健さんが似合いそうな、昭和の香り漂う風情のある駅舎です。

鶴来駅

ここで観光協会の村田さん(一番左)と舟津さん(真ん中)と合流。河崎さんと3人の写真です。

鶴来3名集合

ここで河崎さんと村田さんはお仕事に戻られ、この後は舟津さんにご案内をいただきました。

この日、舟津さんは大阪出張の予定でしたが、私の案内のためにスケジュール調整をしていただきました。本当に有り難いですことです。

 

まず横町うらら館に到着。180年前に立てられた町屋で、無料休憩所にもなっています。

横町うらら館外見

中に入ると、なんと外の風情から想像できないような前衛芸術作品が展示されていました。

横町うらら館展示

ここでボランティアで観光ガイドをされている磯部さんと合流。この後はお昼まで、磯部さん・舟津さんのお二人と行動を共にします。

 

横町うらら館から、本日最大の目的地である白山比咩神社(しらやまひめじんじゃ)に向かいます。

 

大鳥居をくぐり、全部で108段あるゆったりとした表参道を上がって、白山比咩神社に向かいます。

この表参道は、緑一色です。おごそか、かつ神秘的で、とてもいい空気感を醸し出しています。

白山ひめ神社表参道1

苔むす参道の脇には、清らかな水が流れています。

白山ひめ神社表参道2 白山ひめ神社表参道3

こちらは、樹齢800年の老杉。根が左にある別の杉と繋がっていますが、このような杉は珍しいそうです。

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旧参道から持ち上げた大きな石でできた水飲み場もあります。

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表参道を登りきり、神門越しに望む拝殿です。

白山ひめ神社拝殿

 

ここで、この白山比咩神社について解説します。

白山比咩神社は、2,100年前の紀元前91年、第10代・崇神天皇の時代に、船岡山に白山の「まつりの庭」として白山比咩神社の社殿を創建したことから始まります。(白山大神宮御鎮座伝記)

白山比咩神社は、日本三名山の一つである白山(はくさん)を神体山として祀っています。白山は1,300年前の奈良時代に泰澄が登頂し開山しました。その後、修験道として体系化され、全国三千余社の白山神社の総本宮として、日本全国に白山信仰 (はくさんしんこう)を拡げていきました。

このような大昔からこの地に脈々と受け継がれてきたのが、この白山比咩神社なのです。

ちなみにイエス・キリストがキリスト教を広めたのは、2,000年前。

メッカ郊外で神の啓示を受けたムハンマドがイスラム教を広めたのは、西暦610年頃ですから、1400年前。

キリスト教やイスラム教と同じ時間スケールの歴史が、人々が日々暮らしているこの町で受け継がれているのです。考えてみると、すごいことですよね。海外観光客も来られますが、この歴史を聞くととても驚かれるそうです。

 

この白山比咩神社のご祭神が、菊理媛 (くくりひめ)。神話にも出てくる伊奘諾尊(イザナギノミコト)と伊弉冉尊(イザナミノミコト)の仲違いを、仲直りさせた縁結びの神で、この神社に祀られています。

白山比咩神社は、まさに歴史的に見ても、最強の縁結びパワースポットなのです。

 

拝殿には大きなしめ縄がかかっています。

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この鶴来の町では、ここ1年で若い女性観光客が増えているそうです。この日は平日でしたが、一人で来ている女性客を何人も見かけました。観光協会のお話しでは首都圏から来ている方が多いそうです。

この大きな理由が、昨年2014年9月に立ち上げた、この「恋のしらやまさん」プロジェクトです。

 

では、「恋のしらやまさん」、具体的にどのようにするのでしょうか?

まず、「恋のしらやまさん」きっぷ一式の中にある奉納恋文に、願いをしたため、住所と署名を書き込みます。

私は「夫婦円満」と一筆したためて、住所と署名をしました。(恥ずかしいので恋文と住所を伏せ字にしています)

恋文

これを捺印していただき、赤い糸で括って、奉納します。

恋文1

白山比咩神社では個人でも「初穂料」を奉納すれば祈祷することもできます。

しかしこの方法なら、奉納分は「恋のしらやまさん」きっぷ一式の料金に含まれていますし、他の方の奉納分とまとめて奉納してくれます。合理的ですね。

 

ここで白山比咩神社の権禰宜を務められる田中天善さんにお目にかかりました。左から、ボランティアガイドを務める磯部さん、舟津さん、大柄な方が田中さんです。

白山比咩神社権禰宜・田中さん

田中さんは、白山開山1300年に向けて、開祖泰澄ゆかりの三馬場(石川県(加賀)の白山比咩神社、福井県(越前)の平泉寺白山神社、岐阜県(美濃)の長滝白山神社)を回るスタンプラリーを企画した方です。

授与所に掲示されている先月6月30日の北陸中国新聞に取り上げられた記事でも、田中さんの写真が掲載されています。

三馬場

ちなみに、スタンプはこんな感じで押します。三馬場を巡り、このスタンプを3つ揃えるのですね。

スタンプラリーIMG_4181

早速、磯部さんも「越前と美濃に行かなきゃなぁ」といいながら、スタンプを押しています。

スタンプラリー2

 

神社の横には、白山比咩神社宝物館があります。

残念ながら撮影不可だったので写真はありませんが、歴史を感じさせる大変貴重な、まさに「宝物」が多数展示されています。たとえば、

木造獅子狛犬:平安時代末期の狛犬です。大陸の影響を色濃く受けたデザインです。
木造狛犬:こちらは鎌倉時代の狛犬。かなり現代のものに近くなっています。
ちなみに、この2体は時々いなくなります。大英博物館などへの海外博物館への展示のため、国外に行くそうです。

白山宮荘厳講中記録:鎌倉時代から戦国時代までの白山本宮の記録
真柄の大太刀:「信長公記」にも登場する越前朝倉氏被官の真柄十郎左衛門が使用したとされる巨大な大太刀。長さ2m以上、重さは数十Kg。
■江戸時代に日本全国に白山信仰を拡げるために旅立った僧侶が背中に抱えていた白山の模型。
■他にも、前田利家・利長・利常、……と加賀藩主・前田家代々の殿様の花押がある書状や、木曾義仲が戦勝祈願した書状などもあります。

どれもよく話を聞くと、凄い逸品ばかり。しかも平安時代、鎌倉時代、室町時代、江戸時代と脈々と受け継がれた文化財が揃っています。発掘して見つかったものも多いそうです。

先日読んだ「新・観光立国論」(デービッド・アトキンソン著)で、アトキンソンさんは「基本的に日本の文化財は、一見すると地味なのに、よくよく聞くと「すごい」というものが多いのです。」(p.221)と書いておられますが、まさに同じことを感じました。

 

神社の横には、白山から流れてくる霊水が湧き出る場所もあり、住民の方が家庭用に水を汲んでおられました。

白山霊水

私もペットボトルに汲んで飲んでみましたが、実に美味しい水です。もちろん無料。

白山霊水2

このように水が美味しい鶴来では、あとでご紹介するように、こうじを作っている店や、造り酒屋が沢山あります。

 

再び表参道を降りていきます。大鳥居の横に土産物店とお食事の店「おはぎ屋」があるので、ここで昼食にします。

大鳥居の店

天ぷらやおそばの他に、酢飯と鱒などの魚を笹で包んだ料理もあります。

白山・昼食

磯部さんによると、鶴来の家庭ではみなこれを作っているとのことです。このあたりにふんだんにある笹の葉で包むことで防腐効果もあり、富山の鱒寿司の起源にもなっているようです。

お店の中は、こんな感じです。天井に大きな梁があるのは、加賀ならではですね。

白山・昼食2

 

お昼をいただきながら、磯部さんのお話しを伺います。

もともと鶴来の町の人たちはあまり観光に積極的ではなかったそうですが、ここ数年でだいぶ変わってきたそうです。

そのきっかけの一つが、2年ほど前に、鶴来の人たちとJTBさんと一緒に行った5回のワークショップ。

ワークショップを通じて、鶴来の町のよさについて議論をしたところ、白山比咩神社を中心に、色々なアイデアが出てきました。実は、これまでにご紹介したもの以外にも、こんなものもあります。

■辻占(つじうら):加賀に伝わる正月菓子。おみくじが入っています。これが中華街に伝わりフォーチュンクッキーになって世界に拡がりました。(後でご紹介します)

■おついたちまわり:神恩感謝の真心を捧げ、無事に過ごせた感謝と、無病息災・家内安全などを、月初めの一日に祈念する習わしです

■町屋:200年以上前の町屋が沢山あります。(これも後でご紹介します)

■発酵文化:白山は、白山から湧き出る美味しい水で、日本酒・こうじ・味噌・酢・醤油などの発酵食品が盛んです。中にはふぐの卵巣の糠漬けのように、発酵技術を活かして青酸カリを上回ると言われる猛毒を持つふぐの卵巣を糠漬けにして無毒化するような世界でも類を見ない珍味もあります。

 実に色々な観光資源があったということですね。こんな中から「縁結び」というキーワードが浮かび上がり、「恋愛成就の旅」というコンセプトが生まれました。

 

白山比咩神社Facebookには、2014/9/30にこんなメッセージが投稿されています。

「実は1年前に描いた一枚の紙から、 プロジェクトは始まりました」

この一枚の紙をJTB様に見せていただいたことがあります。

「白山の新しい観光コンセプトと体験プログラム」というタイトルで、この5回の議論が1枚にまとまっています。「恋のしらやまさんプロジェクト」は、このような議論を通じてて生まれてきたのです。

統一コンセプトとして、「恋愛成就」

ターゲットとして、「20−30才の未婚女性」を設定

来訪者を喜ばせる仕掛けとして、切符、地図、ポスター、チラシ、商品を統一デザインで開発

これらを首尾一貫させて、戦略的に推進する。

まさに「白山ならではの強み」を徹底的に見直し、議論し尽くした末に生まれたのが、この「恋のしらやまさんプロジェクト」ということですね。

 

磯部さんによると、「鶴来の町は『実はよく聞くと凄い』というものが多い」

たとえば、鶴来にある造り酒屋の「萬歳楽」では、ノーベルナイトキャップ(ノーベル賞授賞式後のパーティー)に梅酒として初採用された梅酒を作っています。

しかし当初、お店ではあまりアピールしなかったそうです。磯部さんが観光客を連れて店に行って、「ここの梅酒はノーベルナイトキャップに初採用されていて……」と説明すると、誰もが「ぜひ」と購入されます。

あまり自分で「こんなに凄い」と言わないのは、日本人の性格なのかもしれませんね。

しかしそんな鶴来の町も、ここ数年でだいぶ変わってきて、町が一体となって観光に力を入れるようになってきました。

 

昼食を終えて、町中の散策に出かけます。

鶴来の町には、至る所に「辻占スポット」があります。「辻占スポット」では、「恋のしらやまさん」きっぷ一式の中にある「辻占券」を出せば、あのフォーチュンクッキーの元祖である加賀の正月菓子「辻占」がもらえます。

ここは神社から歩いて5分ほどの家具屋さん「町八家具」。入り口に巨大な椅子があるのが目印です。

町八家具入り口

中に入ると、「辻占スポット」と書かれています。

町八家具辻占スポット

近代的な建物の横に、蔵屋の建物が隣接している構造になっています。蔵屋の中は風情がありますね。町八家具・専務の町さんが案内してくれました。

町八家具店内

お茶をいただきながら休んでいると、町さんと、磯部さんが話し合っておられました。

町さん「無料で店を観光のお客さんに開放しようと思っているんですよ。駅からここまで数十分歩いている人が多いですし、知らない町を歩くのって大変ですよね。少しでも楽になれば、と思っているんです」

磯部さん「うーん。いいことだね」

まさに磯部さんがおっしゃっていたように、鶴来の町が全員で、観光客を歓迎しようとしておられることを実感します。

鶴来の町全体に、そんな感じが溢れています。

 

小さな鶴来の町には、和菓子店が10店舗もあります。この日の私の見学のために、常山生菓子店さんが、休業だったのにわざわざ店を空けていただきました。有り難い限りです。

常山生菓子店

ここでも「恋のしらやまさん」のポスターの横に、「和菓子スポット」と書かれています。

常山生菓子店和菓子スポット

ここで「恋しら大福」をいただきました。「恋のしらやまさん」プロジェクトで生まれた和菓子商品です。

常山生菓子店大福

このように「恋のしらやまさん」デザインを使っています。このデザインは、「恋しら」関連商品で無料で使えるそうです。「恋のしらやまさん」のブランディング戦略です。

商品を買うと、こんな御守りももらえます。5円玉を包んだもので「ご縁がありますように」ということで、心憎い演出ですね。

常山生菓子店5円

常山生菓子店の若旦那・常山さんと、舟津さんです。

常山生菓子店2

鶴来の町で育った常山さんは、大学卒業後、埼玉でIT関連のお仕事をされていました。鶴来で仕事をしている同級生は多く、帰郷した際でも、上京した常山さんを快く受け入れてくれました。2年前に鶴来の町に戻られ、ご実家の仕事を通じて和菓子で町おこしに携わっておられます。

 

ということで、店のベンチで「恋しら大福」をいただきます。お茶もいただきました。さすが鶴来の和菓子専門店。とても美味です。

常山生菓子店大福2

和菓子と一緒に置かれているハート型の石は、彫刻をなさっている舟津さんのご主人が作ったものです。「手触りがいいので、手にとって感触を楽しんでください」とのことで、手にとってみました。確かにいいご縁がありそうな感触です。

常山生菓子店ハートの石

常山さんのお母様が、店に飾っている嫁入り道具を説明してくれました。

常山生菓子店じゅうかけ

お母様が手にしているのは、加賀袱紗(ジュウカケ)。結婚式で配る生菓子を入れるための、輪島塗の重箱にかけるものです。

こんな感じで、重箱にかけます。

常山生菓子店じゅうかけ2

また、加賀の嫁入りでは、結婚式が終わるまでこのような「花嫁のれん」をかけます。きれいなデザインですね。

常山生菓子店のれん

この加賀袱紗も花嫁のれんも、実際にお母様が嫁入りの際に使われたものです。

加賀の文化を感じますね。

 

横町うらら館に戻りました。この180年前の町屋も「実はすごい」ものの宝庫です。

これは天袋のふすま。江戸時代に描かれたものです。表は金箔を張ってこのような画が描かれていますが、

うらら館・天袋1

磯部さんがふと気がついて裏を見てみると、実は裏にもこんな絵が描かれていたそうです。(一部破れています)

うらら館・天袋2

左手には富士、真ん中には活き活きとした躍動感が伝わってくる5人の田植女(たうえめ)。 右手には白山でしょうか?

普段は見えない裏にもこれだけの手間をかけた画が残っているのは、いかにも日本的です。

 

これは天井とふすまの間にある欄間(らんま)です。

うらら館・らんま

一見、普通の欄間ですが、今の技術では作ることができないそうです。

実は細木を填め込んだのではなく、一枚の板を彫りだして作っています。

 

これは普通の押し入れに見えますが、

うらら館・仏壇1

開くと豪華な仏壇です。

うらら館・仏壇2

 

昭和11年頃に鶴来の町で行われた祭りの写真が、大伸ばしして展示されています。真ん中の男性に抱っこされた男の子は、現在82歳でお元気だそうです。

うらら館・祭りの写真1

写真のアップです。

うらら館・祭りの写真2

誰もがいい男っぷりで、いまどきのジャニーズやExileにいそうなイケメンですね。

こうしてみると、日本人は案外と変わっていないようにも感じます。

 

細長い町屋の奥には、石造りの蔵があります。

うらら館・町屋

普段は作品展示に貸し出しているのですが、この日は展示の間が空いたので、磯部さんが描かれた絵が展示されていました。

うらら館・蔵

磯部さんはもともと船乗りで、色々な町に行って絵を描いておられたそうです。メルボルンなどの海外の絵もあります。どれも素晴らしい絵画です。磯部さん、多才です。

 

再び町に繰り出します。この「辻占スポット」は、こうじの店の「飛騨屋」さん。

飛騨屋1

辻占券を出して、いよいよ辻占体験をしてみます。

辻占券と交換すると、こんな辻占をもらいました。

飛騨屋2

辻占のお菓子の中に、おみくじが丸まって入っています。

飛騨屋辻占1

ぜんぶ拡げると、こんな感じ。

飛騨屋辻占2

辻占の結果は、

わたしやあなたのお心任せ
すまないなどと水くさい
よいことがかさなる

なんか、よさそうな感じです。

 

この店で麹(こうじ)を買いました。無料の塩こうじの作り方ガイドもあります。

麹と水を等量、それに塩を入れて、タッパーのような大きな容器に1週間入れ、毎日かき混ぜます。お店の女将さんが、実際にいま作っている塩こうじで実演してくれました。

飛騨屋塩こうじ

 

となりのお店「こうじ きぬや」さんも、麹のお店です。

きぬや

地下のこんなところで麹を作っています。

きぬや2

ご主人から、こうじの作り方のご説明を伺っていると、外から奥様二人がお客さんとして来られて、「こうじ、ありますか?」。

店の奥様が、こうじをわけています。

きぬや3

ご主人のこうじ作りの話を伺っていると、お店の奥様が、キュウリに麹味噌を付けて出して下さいました。

きぬや4

これが素晴らしく絶品。味噌なのですがまるでデザートのような甘さを感じます。

「美味しい!」と感激していると、この味噌をお土産にいただいてしまいました。

きぬや5

こんなに美味しいのに、……本当に、いいのでしょうか?感謝感激です。

 

「写真を撮らせて下さい」とお願いして、舟津さんとご主人で写真。

(一見ご夫婦に見えますが、奥様は「私、伝票書きがあるから……」と店の奥に行かれました(笑))

きぬや6

このお店も築200年の町屋です。

きぬや7

 

道を挟んで向こう側には、 造り酒屋の「萬歳楽」さんがあります。

萬歳楽1 萬歳楽2

こんな日本酒を造っています。

萬歳楽3

ここで作られている梅酒が、あのノーベルナイトキャップ(ノーベル賞授賞式後のパーティー)に初採用された梅酒です。また「萬歳楽 加賀梅酒 スパークリング」として北陸新幹線のグランクラスの車内飲料として採用されています。(詳しくはこちら)

ちなみにこの町屋はなんと築250年。きれいな作りです。

萬歳楽4

ここはお客様をご案内し、お茶などでおもてなしをする部屋です。

ちなみにこの囲炉裏、なんと二百数十年も火を絶やしていないとのこと。奥様は何十年も、毎朝炭をくべているそうです。

萬歳楽5

この居間を見せていただきながら、梅酒を仕込む時の様子をお伺いしました。梅一つ一つのヘタを手作業で 取り除くところから始まり、大変な作業だそうです。伝統的な産業はどれも、この地道て丁寧な作業の繰り返しなのですね。

 

ということで、この日いち日で、鶴来の町を堪能しました。

この日はあいにくの雨のため、ゴンドラで山頂まで行き金沢平野や日本海が一望できる獅子吼高原や、自然の一枚岩に刻まれた高さ8mの日本最大級の不動明王がある一閑寺などは見ることができませんでした。

ぜひ次回の楽しみに取っておきたいと思います。

 

鶴来の町で学んだこと。それは、

「自分たち(白山)の強みは何か?」

「それを必要とするお客様は誰で、どんなニーズを持っているか?」

「お客様が自分たちを選ぶためには、どうすればいいのか?」

これを、町全体で考え抜き、鶴来の町が一体となって進めているのが、この「恋のしらやまさん」プロジェクトだということです。

 

実際に今回、JTB様とのご縁で「恋のしらやまさん」体験をして、チームが一体となって「お客様が買う理由」を考え抜いて実行することで、地域全体が元気になるのだということを改めて実感しました。

また、一見何もないところからも、多くの人たちが集まって智恵を出し合うことで価値を生み出せるのだ、ということを学ぶことができました。

 

ご準備にご協力いただいたJTB中部の武田様・寺澤様、北陸鉄道の河崎様、スケジュールをやりくりして丸一日の見学スケジュールを組みご案内いただいた白山市観光連盟の舟津様、鶴来の町のよさを教えてくださったボランティアガイドの磯部様、休業のところを店を開いて対応いただいた常山生菓子店の常山様とお母様、白山比咩神社の田中様、家具店に忘れた私のカメラ道具をうらら館まで届けて下さった町八家具店の町様、白山市観光連盟専務理事の古田様、白山市観光文化部の村田様には大変お世話になりました。

また、おはぎ屋、飛騨屋、きぬや、萬歳楽の皆様にも、とても親切にしていただき、とても感謝しております。

「恋のしらやまさん」プロジェクトを通じて、鶴来の町のよさが日本全国、さらに世界に伝わっていくことを願っておりますし、当ブログが少しでもそのお役に立てれば、とても嬉しく思います。

 

【補足】

金沢から東京への帰りは、北陸新幹線・グランクラスに乗りました。試しにメニューにある「梅酒スパークリング」を注文していただいたのが、この「萬歳楽 加賀梅酒 スパークリング」。お酒はあまり飲めない私ですが、これは絶品です。

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加賀梅酒 萬歳楽WEBSHOPでも注文できます。

 

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北陸IBMユーザー研究会様で講演致しました

七夕の2015年7月7日、金沢のホテル日航金沢で行われた北陸IBMユーザー研究会様の総会で「お客様が買う理由を、いかに作るか?」と題して90分の講演をさせていただきました。

ちょうど2年前までの30年間、日本IBM社員でした。日本IBMのお客様であるユーザー会でお話しするのはとても名誉なことです。

約80名の方々が参加されました。

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アンケートでは様々なご意見をいただきました。

・当講演で、新しい視座を得ることができました。今後の企画に活用したいと思います。

・久しぶりにメモを取らずに拝聴しました。

・なぜ使ってもらえないかが、よくわかりました。

・予想以上の話で参考になりました。本を買ってみようと思います。

・具体的な事例が豊富で、わかりやすい講演でした。

・弊社の強みについて、改めて考えさせれる内容で、大変参考になりました。

・素晴らしい講演でした。考え方の部分で見直しをしていきたい。

懇親会では、数十名の方々と名刺交換しました。その多くが経営を担う方々。経営者ならではの悩みやお抱えになっておられる課題を話し合う一方、かつて在籍していた日本IBMの現役社員・役員の方々とも近況を話し合うことができ、有意義な一日でした。

 

このような機会をいただき、感謝致します。

 

「お客様が買う理由」の答えは、社員が持っている

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講演後の質疑応答で、若い男性が手を挙げました。

「『お客様自身も気がつかない課題』を把握して、自社ならではの『お客様が買う理由』を作り上げるには、社内にどのような仕組みを作っていけばいいのでしょうか?」

お話しを伺うと、お父様が創業された会社の二代目として、若くして経営にあたっておられるとのこと。まなざしは、真剣そのものです。

 

「『お客様自身も気がつかない課題』なんて、あるのか?」と思いがちですが、意外と身近に数多くあります。

たとえば掃除機。かつて「掃除機はゴミを吸い取れば十分」と思っていた方は多いのではないでしょうか?しかし今や、

「スイッチポン」で勝手に掃除をしてくれるロボット掃除機、
ハウスダストのような細かいゴミも取れるサイクロン掃除機、
快適な睡眠のための布団専用掃除機、
音が出ないので気兼ねなく掃除できる静音掃除機など、

「私たち自身も気づかなかった課題」を解決した掃除機が数多く生まれています。

つまり、私たちはニーズや課題を持っていたのですが、私たち自身は気づいていなかったということです。

 

冒頭の若い経営者は、「では、そのような課題に対応するには、社内の仕組みをどのようにすればいいのか?」と問いかけられたのです。

 

お客様自身も気がつかない課題やその解決策のヒントは、社員が持っています。

ただし、バラバラな状態になっているのです。

たとえば営業は、お客様との日々の会話から様々な課題のヒントを得ています。しかし一営業にとって、それらをフォローするのは大きな負担です。経営者なら組織を動かし率先対応することは可能ですが、営業一人で組織を動かすことは至難の業で持て余してしまうことも多いのです。さらに「営業の仕事は売ることだ」と考える会社も多いので、客先で新商品のヒントがあっても優先順位を落とし、販売活動を優先せざるを得ない人も多いのが現実なのです。

一方で開発部門にいる技術者は、企業の強みの源泉になる「中核技術」を持っています。中核技術を活かして顧客に対する様々な解決策を作ることもできます。しかし必ずしもお客様の現実的な課題を把握していないこともまた、多いのです。「顧客はこんなことで困っている筈」と想定しながらも、実際に顧客に十分な検証をせずに、顧客不在のものづくりに走ってしまうことも決して少なくありません。

このようにある程度の大きさの企業になると、「お客様が買う理由」を作るヒントは社内の至る所にあります。しかしバラバラになっているのが現実です。

必要なことは、営業が現場で見つけてきた「お客様が買う理由」のヒントを、技術者と共有して解決策に結びつけて、会社としてフォローできる仕組みを作ることです。

 

たとえば1つの方法は、定期的に営業部門と開発部門が集まり、営業が現場で拾ってきたお客様の声を、開発部門の技術者と共有し、どのように解決できるかを、一緒に頭を捻りながら考える場を作ることです。

これを仕組み化している会社もあります。私が講演や著書などでよくご紹介する、業務用ミラー専業メーカーのコミーです。

コミーはユーザーのことをより深く理解するために、年に一回、全従業員でユーザー訪問をしています。正社員とパート社員2人一組でチームを作り、一組で10件程度のユーザーを回って使用状況を徹底調査しています。そしてその結果を全社員で共有し対応策を議論しています。毎年これを繰り返して、ユーザー自身が気づかない真の課題を把握し、商品開発に活かす仕組みを作っているのです。

 

スーパーマンの経営者が1人で会社を牽引するのは、確かに素晴らしいことです。しかしスーパーマンは希有の存在です。

会社の継続的な発展のためには、社員の力を結集し、チームで「お客様が買う理由」を作り上げる仕組みを構築することが必要なのです。

 

私はお客様に一通り説明した上で、質問いただいた方にこのようにお伝えしました。

「素晴らしいアイデアの原石が、社員一人一人の頭の中に必ず散りばめられているはずです。経営者が一人でそのアイデアをまとめるのは至難の業ですが、それらの原石を繋げて、互いに磨きあう仕組みを作ることは、できるのではないでしょうか?」

 

社員同士で互いに智恵を交換しながら「お客様が買う理由」を考え、リアルなお客様に検証し続け、社員の誰もが「これはあのお客様の課題に応える、自分の商品だ」と心から思える経験を積み重ねていけば、会社は確実にマーケティング志向に変わっていくのです。

 

「ものづくり万能」は幻想。では、どうするか?

ものづくり

「新商品の企画を考えたので、相談したい」というご依頼で話し合いを始めてから、かなり時間が経ちました。

「やはり丁寧にきっちりといいものを作れば、お客さんが喜ぶと思うんですよね」

学生時代からこの道のプロフェッショナルを志して研鑽を積まれ、既に10年になるというその方は、このように言いながら企画書に目を落としています。

「だから売れると思ってます。他社商品も調べましたが、この分野は他社も手薄です」

データを見せながら、誠実そうな笑顔でお話しされます。きっと普段の仕事ぶりも丁寧なのでしょう。そこで、私はお聞きしました。

「お客さんがこの商品を買う理由って、何でしょうね?」

「この課題で困っている人はたくさんいます。だから買う人も多いと思いますよ」

「他社商品が手薄ということですが、お客さんから見て、この商品を買わなければならない理由は、何でしょう?」

「困っている人がいるし、他社はあまりやっていない。丁寧に作っていい商品を出せば、必ず売れます」

「どの位の数字を目指していますか?」

実現すれば確実に業界で「ヒット商品」と呼ばれるような、かなり大きい数字を目指す、とのこと。

「夢というか、目標は大きいに超したことはないですから」

「なるほど。ではその数字を実現するための具体的な方法は何でしょうか?」

「営業も頑張りますし、販促プロモーションも力を入れますし、予算もつけて広告も出します」

詳細を説明いただきましたが、率直に言うと、他の商品とあまり変わらない販促施策にように思えました。そこで質問を変えてみます。

「御社でそのようにして売れた商品、どのようなものがありますか?」

数年前にこの企業様で売れた商品〇〇〇の名前が挙がりました。

「あ、あの商品ですか。私も名前を聞いたことがあります。ただ御社の他商品の多くは、失礼ながらそこまで売れていないものがほとんどですよね。その商品〇〇〇は、どうして売れたのでしょうか?」

「やはり、担当者が頑張っていましたからね」

「御社の皆さんは、どなたも例外なく頑張っておられると思います。おそらく御社の他商品も、今ご相談しているこの商品と同様、『必ず売れる』と確信して企画し、開発・販売を頑張られたのではないでしょうか?」

「ううむ。たしかにそうですね」

「ですから、数年前に商品〇〇〇が売れたのは頑張ったことだけが理由じゃないと思うんですよね。どのような成功要因があったのでしょうか?」

「うーん、それは、その担当者に聞いてみないとわからないですね……」

 具体的な案件がわからないように一部を変えていますが、この時のやり取りを再現してみました。

 

この企業様は、業界の中でもいわゆる「名門」と呼ばれています。企業ブランドがあるので優秀な人材が数多く集まります。しかしこの10年間、ほとんどの商品があまり売れずに低迷を繰り返しています。

なぜ低迷が続いているのか。お話しを聞いていてわかってきました。

それは商品(あるいはサービス)の開発パターンです。

1.「いいモノやサービスを作れば、売れるはず」と考える
2.頭を捻って企画を考え、立ち上げる
3.丁寧にじっくり作り込む
4.出来上がったら、販売する。しかし、当初考えたようには売れない
5.「うーん、ダメか。じゃぁ、次の挑戦だ。今度こそいいモノ作るぞ!」と、次の挑戦をする

こうして次々と挑戦をするのですが、あることが欠落しています。

 

それが「具体的な顧客を想定した、仮説構築と検証」です。

先の商品開発パターンの問題は、

■「いいモノを作れば、売れるはず」と考えているが、その仮説の踏み込みが甘い。具体的な顧客と課題想定が不十分なので、解決策を掘り下げて考えていない
■そして、その掘り下げて考えた仮説を、顧客に対して検証していない
■さらに、仮説検証結果を組織で共有していない

たまにヒット商品が生まれても、それは「たまたま」。再現性がありません。

失敗しても、その失敗を当初の仮説に立ち戻って検証していないので、学ぶことがありません。

だから、いくら挑戦を繰り返しても、成功の可能性が上がらないのです。

 

では、どのようにすればよいのか?

当ブログで繰り返し紹介してきたとおり、「お客様が買う理由」を徹底的に考えること。つまり、

1.自分たちの強みが何で、
2.その強みを必要とするのは、誰で、
3.その人は、何を必要としていて、
4.どうすれば、自社を選んでいただけるか?

これらを、曖昧さを排除して具体的に徹底的に考え抜き、その仮説をリアルなお客様に検証することです。

 

「ものづくり思考」で行き詰まっているケースでは、この「お客様が買う理由」の追求が甘く、学びの蓄積もないことが問題なのです。

この問題は、製造業だけでなく、サービス業・流通業を含むあらゆる業界で共通して起こっています

「うちはサービス業だから関係ない」と思っていても、気がつかない間に同じパターンに陥っていることも多いのです。

 

「ものづくり」という言葉は、心地よい言葉です。「いいものを作っていれば成功する」という幻想を与えるからです。

しかし今も昔も「ものづくり」で成功している企業や人は、お客様視点で「ものづくり」を徹底的に考えています。

あらゆる業界で「ものづくり万能」の甘い幻想から脱し、その先にある「顧客づくり」も含めて、リアルに考えることが必要なのです。

 

その後、この方とは、話し合いを重ねていきました。

「具体的な顧客を想定した、仮説構築と検証」は、頭で理解しても、仕事で実践できないことが多いのです。

日々の実業務で試行錯誤を繰り返し、自ら気づきを得ることで、この方法論を体得することができます。

そのちょっとした「自らの気づき」が、「ものづくり万能」の幻想から脱するカギなのです。

メットライフ全国代理店会連合会様 東海ブロックセミナーで講演しました

2015年5月28日、メットライフ生命様と、その全国代理店連合会様・東海地区の代理店様が集まるセミナーで、「お客様が買う理由をいかに作るか?『ニーズ断捨離時代』に求められる思考の変革」と題して講演しました。

 

当日は東海地区のメットライフ生命様の保険代理店が200名以上が、愛知県蒲郡市にお集まりになりました。

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このように、業界を支える皆様が集まり、業界全体で価値を生み出そうとするムーブメントは素晴らしいですね。

 

講演では、ニーズ断捨離が生まれた背景と、生命保険代理店様が、生命保険会社様といかにお互いの強みを相互補完し、「お客様が買う理由」を創り上げるかを、事例を通してお話ししました。

 

今回の講演では、メットライフ生命様と、東海地区でブロック長の宮田様とお打合せを重ねて講演内容の準備を行い、生命保険業界について学びを深めることができました。

皆様に感謝致します。

 

海外事業へのアプローチ方法が、個別案件ベースになっている

Best Internet Concept of global business

日経ビジネス2015.5.25号の特集は「Japan Rushing 世界の企業は日本を目指す」です。

この特集の冒頭で、様々な外資系企業が日本市場に参入している様子を描いています。

■テスラ・モーターズ:日本に急速充電できる設備を展開
■米国IBMとアップル:日本郵政と組み、iPadを活用した新事業を展開

たとえば、IBM・アップル・日本郵政の協業では、IBM ジニ・ロメッティCEO、アップル ティム・クックCEO、日本郵政 西室泰三社長3者そろい踏みで記者会見に臨みました。以前なら考えられない構図です。私もかつてIBMに勤めていましたので、グローバル3社のCEOが絡むイベントの準備に、関係者の皆様のご苦労は大変だったと想像します。

 

気がついたのは、多くの外資系企業で、個別案件ベースで、海外にある本社が投資判断をしているのが共通点であること。

かつては、まず日本法人を作り、個別案件開拓は日本法人に任せる、というスタイルが主流でした。

インターネット普及などで、遠い地域間のコミュニケーションコストが下がり、さらに様々なモノの流れもますます自由化されている中で、世界各国の個別案件に対して本社主導で進められるようになってきた、ということですね。

海外事業へのアプローチも、以前と比べて大きく変わってきています。

「『お客様が買う理由』を考えられれば、苦労しないよ」と思うから、苦労する

いつも講演や研修などで、「『お客様が買う理由』をしっかり考えましょう」とご提案しています。

具体的には、『お客様が買う理由』は次の項目を考えていきます。

①自社の事業は、何か?
②自社ならではの強みは、何か?
③その強みを必要とするお客様は、誰か?
④そのお客様は、何を必要としているか?
⑤お客様が自社を選ぶためには、どうすればよいか?

 

これを考え抜くのは大変です。

時々いただくご意見が、「『お客様が買う理由』を考えられれば、苦労しないよ」。

このご意見、ある意味、とても当たっています。
『お客様が買う理由』を徹底的に考え抜き、実際にリアルのお客様で検証して確立すると、業績もアップし、日々の仕事で苦労しなくなるのです。

しかし逆もまた正しいのです。
つまり『お客様が買う理由』を考え抜かずに仕事をしているから、苦労をしてしまうのです。

Expressions

 

『お客様が買う理由』を考えるのに苦労して、日々の仕事の苦労を楽にするか?
『お客様が買う理由』を考えず、日々の仕事で苦労するか?

できれば前者で行きたいものです。

実は商品やサービスの模倣は、リスクが大きい

私たちは、成功したライバル企業の商品やサービスが、どうしても気になります。そしてその成功要因を分析し、採り入れようとします。その際に、ライバル企業の商品やサービスを模倣する場合もあります。

 

しかしライバル企業は、その会社ならではの強みを持っているので、その商品やサービスを生み出しているのです。

商品やサービスを模倣しようとしても、その会社の強みを100%模倣することは不可能です。

そこで付加価値をつけて差別化しようとします。

Businessman putting last block to the tower

しかし先日のブログで書きましたように、その付加価値はお客様から見て単なるオマケに過ぎないこともまた、多いのです。

結局「劣化版コピー」にしかならず、成功している企業の商品やサービスの「安価な代替品」にしかならない場合が多いのです。

 

我々は、「実は商品やサービスの模倣は、リスクが大きい」ということに、気がつく必要があるのではないかと思います。

先行している企業の商品やサービスを学ぶことは決して悪いことではありませんが、模倣するのではなく、自分たちならではの価値を生み出すことに時間と労力を使いたいところです。

顧客第二主義を貫き、最高の顧客満足度を維持するサウスウエスト航空

1967年創業、1971年運行開始のサウスウエスト航空は、格安航空会社(LCC)のパイオニアです。米国同時多発テロ以降、航空産業は大きく冷え込みましたが、米国の航空会社でレイオフを行っていない唯一の大手航空会社です。

高い収益率を誇り、顧客満足度も航空業界トップの常連でもあります。

 

まさに「優良企業」のサウスウエスト航空ですが、意外なことに「顧客第二主義」を掲げています。

なぜ「顧客第二主義」なのに、最高の顧客満足度を維持しているのでしょうか?

 

それは、「従業員満足第一主義」を貫いているからです。

たとえば、サウスウエストはLCCとして様々なコスト削減を行っていますが、人件費の削減は行っていません。

サウスウエスト航空のサイトには、CEOのこんな言葉が紹介されています。

“Our people are our single greatest strength and most enduring longterm competitive advantage.”   Gary Kelly, CEO Southwest Airlines

「私たちの同僚は、私たちの唯一で最高の強みです。それは最も永続的で長期間にわたる競争優位性をもたらします」 ゲリー・ケリー、サウスウエストCEO

従業員を大切にすることが、最高の顧客サービスの提供を可能とし、サウスウエストの長期間に渡る好業績を生み出しているのです。

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一方で、「従業員を大切にする」ことがいつの間にか「従業員の既得権益」になり、顧客満足を大きく下げることもあります。

かつてIBMも企業理念で「個人の尊重」をうたっていましたが、1990年代初頭に経営危機に陥った際にIBMを立て直したガースナーが挑戦したのは、この「個人の尊重」を「既得権益」と考え、変わろうとしない企業体質の変革でした。

 

かつて日本企業も、従業員を大切にすると言われてきました。しかしともすると「従業員を大切にする」ことが、かつてのIBMのように「従業員の既得権益」となってしまうこともあります。一方で日本企業ではバブル崩壊後の成果主義導入や経営の欧米化で、従業員を大切にするという文化が薄れている企業もあります。

我々もこのかつての日本企業のよさを、新たな視点で見直すべき時期に来ているのではないでしょうか?

 

「ヘッドピンの存在を信じる」マツダ スカイアクティブ成功の裏側

Ten Pin Bowling Pins And Ball

マツダは4年連続赤字やフォードの出資比率低下による信用低下などによる苦境を乗り越え、現在好調です。このマツダの好調に大きく貢献しているのがスカイアクティブ・テクノロジーです。

しかしマツダは業界トップのトヨタと比べると規模は1/10以下。エンジン周りの開発人員に至っては、フォードとの共同開発案件に駆り出されていたこともあって、数十分の一でした。そんな状況で、「燃費を30%以上改善しながら、走りの楽しさも実現する」という目標を立てて、スカイアクティブ・テクノロジーが開発されました。

 

マツダのスカイアクティブ・テクノロジーの挑戦については、「100円のコーラを1000円で売る方法2」や当ブログでも何回か紹介しました。

開発本部長としてこの開発を陣頭指揮された、マツダ・常務の人見 光夫さんが、著書を出されました。

「答えは必ずある---逆境をはね返したマツダの発想力」(人見 光夫著)

マツダの挑戦については、これまで主にマスコミの記事で報じられていましたが、人見さんご自身が何を語られるのかとても興味があり、拝読しました。

 

やはり現場で格闘されている人の言葉には重みがあります。

いくつかご紹介したいと思います。

—(以下、引用)—

もっとも、私たちの「選択と集中」は前述のとおり、多くの選択肢の中からどれかよさそうなものを選んでそこに集中するということではなく、さまざまな課題に共通している主要共通課題を賢く選択して、その部分の解決に集中するという意味である。 ボウリングのように、後ろのピンがすべて倒れるようにヘッドピンにうまく当てるのが理想だ。

(中略)

最も重要なことは、ヘッドピンの存在を信じることだ。 常に、そうした目でものごとを見るという習慣が何よりも大事だ。そうすれば、必ず見えてくる。一人ではダメでも、チーム力を駆使すればそれができる。

—(以上、引用)—

本書ではこの「ヘッドピン」という言葉がよく出てきます。

自動車開発に限らず、実に多くのケースでこの「ヘッドピン」というのは存在する、ということは、私も実感します。

ともすると私たちは、常識に囚われたりして、表面的な現象を問題の原因と考えがちです。しかし、様々な視点でその奥深くに潜む本当の原因は何かを徹底的に考えることが必要になります。

様々な現象の本当の原因を徹底的に考え、シンプルな原因に辿り着くことで、ヘッドピンが見えてくるのです。

逆に言えば、対策が10個もある状態では、まだまだ思考が不足している証でもあるのです

 

競争について語っている箇所もあります。

—(以下、引用)—

自動車業界を見渡せば、現在でもそうした後追いはある。なぜ後追いをするのか。不安だからだ。不安になるから真似をする。

—(以上、引用)—

「不安だから真似をする」というのは、まさにその通りだと思います。

日本企業に限らず、世界を見渡しても、成功している他社の模倣をする企業はとても多くあります。

しかし成功企業の真似をしようとしても、100%真似をするのは不可能です。成功企業は独自の強みを持っているからです。だからコピーしたつもりでも「劣化版コピー」にしかならず、「安価な代替品」になってしまうことも少なくありません。

我々は、「模倣は、実はリスクが大きい」ということに、気がつく必要があるのではないかと思います。

 

仕事のあり方についても、語っている箇所があります。

—(以下、引用)—

だから、私はできるだけものごとをシンプルに考えて、仕事は減らさないといけないと言っている。もちろん、ラクをするためではない。無駄をなくし、より重要で、全体最適に貢献する仕事をするためだ。 そこを解決すれば、品質もよくなるし、性能もアップする。そしてコストも安く済む。そうした課題を見つけるという発想で課題を探し、ソリューションを考える。それがつまり、仕事を減らすということの意味だ。

—(以上、引用)—

「品質と性能をアップし、コストを削減し、仕事を減らす」

相矛盾するように聞こえますが、実はシンプルな理想形を徹底追求すると、不可能なことではありません。

無駄を排除すること、言い換えれば、不要な様々なモノを切り捨てればよいのです。

それは仕事だったり、製品だったり、あるいはお客様だったりします。

しかし私たちは、この「不要な様々なモノを切り捨てる」ことがなかなかできません。企業は組織ですから、当然ながら利害関係者の反対もあります。

そのためには、価値観と、全体最適の姿を徹底的に共有するチームワークが大切になってきます。

 

スーパーマンのように見える人見さんですが、先行開発部での仕事が長く、ご自身のキャリアの中で、実際の商品開発には関わってこられなかったため、このように語っておられる箇所もあります。

—(以下、引用)—

すでにそれなりの年齢になっていたのに、特に満足感や達成感が得られないまま過ごしているという焦燥感も強かった。自分の仕事がなかなか商品化されない。たとえ商品化されたとしても、技術者としてどれだけのことをしたのかと問われた時に説明ができない。山のようにある技術のうちの数種類に携わったというだけのことでしかないという虚しさだ。

(中略)

考え方、技術のとらえ方を変えないと、「何もできないまま、サラリーマン人生終わりだな」と日に日に強く感じるようになっていた。

—(以上、引用)—

会社に務められて、同じような気持ちを抱えながら仕事をしている方は多いのではないかと思います。

 

等身大で語られる本書から、私たちが学べることは多いと思います。

責任感と法令遵守精神が強すぎるから、日本企業は斬新なビジネスを立ち上げられない、という意見

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海外のベンチャー企業は様々な革新的なビジネスを立ち上げる一方で、日本からはなかなか斬新なアイデアが出てこない、と言われています。

 

たとえば、ハイヤーの配車サービスを提供するUberというサービスがあります。スマホで配車依頼をすると、個人でサービスを提供しているドライバーと引き合わせ、決裁も安全に行えます。

欧米ではUberのように斬新なサービスに挑戦する会社は少なくありませんが、日本では「そうはいっても、タクシーやハイヤーのサービスがあるし、法律的に色々と面倒なので、やめておこう」と思いがちです。

日本でこのような発想が出ない一つの要因として、「リスクにチャレンジしないから」という意見があります。

しかしそのような性格的な面だけでは、今ひとつ腹オチしませんよね。

 

先日読了した、「競争戦略としてのグローバルルール」(藤井敏彦著、東洋経済新報社)で、そのことがわかりやすく書かれていました。著者の藤井さんは、経済産業省の現役政府交渉官として世界的なルール策定に数多く関わってきた方です。

本書で「なるほど」と思ったのは、日本人は「法は守るもの」と考える傾向が極めて強いのに対して、欧州では「法は目標」と考える、という点。だから海外企業は「法はいくらでも変えられる」と考えて自由な発想でイノベーションを生み出しているのです。

 

たとえば本書では、著者と欧州議会議員が、実現が困難な環境規制について議論したエピソードが書かれています。

著者「…実際に遵守できないことがわかりながら規制するのは適切なこととは思えません」
議員「法は目標なのです。法のめざす方向に社会が動いていけばそれでよいのです」

 

また、非現実的な規制が設定されたエピソードが紹介されています。日本企業であれば「この規制は達成不可能だ。ヨーロッパ市場から撤退をするしかない」と悩むところですが、著者が欧米企業とどのように対処するか議論したところ、最終的な結論は「放っておこう。どうせ誰もこの義務は果たせない」。

本書では、このように書かれています。

—(以下、p.107より引用)—

国際ルールづくりの現場には日本人であればとうていできないような考え方が渦巻いているのだ。日本的に言えば単なる無責任であり、彼らに言わせれば未来志向である。

—(以上、引用)—

また元サッカー日本代表チームのオシム監督が、日本選手がゴールを積極的にねらえない理由として「責任感が強すぎるから」と述べたエピソードも紹介されています。裏を返せば「失敗を叱責しすぎる」ということです。

法令違反をした場合、日本だと「誰がやったのか?」という責任追及になりがちですが、欧米企業では「罰金はいくらだ?」になります。法令遵守のコストより安ければ罰金を払って済ませます。もちろんこの背景には、社会的バッシングが日本よりも少ないこともあります。

 

本書を読んで、過度な責任感の強さや法令遵守精神が日本企業の停滞を生み出しているとすれば、企業側が積極的に働きかけてその責任を企業側で負い、もっと社員に失敗前提でチャレンジすることを奨励すべきなのではないか、と改めて思いました。

また、規制緩和が成長戦略のために政府ができる最大の貢献であることも実感しました。

現状打破の意外なポイントは、まだまだありそうです。

Google/Appleは自動車業界を制覇するのか?

TechCrunchで、「自動車業界は1985年のIBMと同じ道を辿ろうとしている」という記事が掲載されています。

1985年当時のIBMは、コンピュータ業界で最強とも言える巨人でした。絶好調のパソコン事業では、OSはMicrosoft、CPUはIntelをパートナーとして組んでいました。しかしその後、Wintel連合が業界を牛耳ることになりました。

当記事の主張は、現在、自動車業界がダッシュボードをGoogleとAppleに明け渡そうとしているのは同じことである、という点です。

 

当時、私は新入社員としてIBMにいました。業界の中でリアルタイムにこの怖さを肌身で感じた世代です。

新規事業立ち上げの際に、自社に足りない部分を他社に頼る判断はよく行われます。「新技術でよくわからない分野はベンチャーや専門家に任せて、自分たちは現時点で大金を生み出すキャッシュカウに集中しよう」という考え方ですね。

そして任せた部分がいつの間にか業界標準プラットホームになり、各社がこのプラットホームに準拠しなければならなくなり、将来莫大なキャッシュフローを生み出すプラットフォームを明け渡してしまうのです。

 

今、自動車業界で起こっている変革は、人工知能、センサー機能、膨大な数のセンサーから生み出される巨大なビッグデータへの対応、自動運転、ロボット技術、など、かなり膨大なテクノロジーの集合体です。30年前にIT業界で起こっていたCPUやOSといったものと比較するとかなり大がかりな資本と人材を必要とします。

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現在アナログな自動車業界がデジタル化した時点を見据えて、Googleは莫大な資金と人材をこの分野に投入しています。

 

また現代では、企業や組織の壁を越えて、様々な技術を持ち寄って、イノベーションを推進していく「オープンイノベーション」も主流になりつつあります。

30年前と同様、少数企業がプラットホームを独占し業界を牛耳るのか?

それとも自動車業界や電機業界などのメーカー主導でいくつかの業界標準が生まれ、群雄割拠の状況になるのか?

大きな分かれ目でもあると思います。

 

IoT (Internet of Things)の時代になり、同じことは急速に様々な業界で起こりつつあるように感じています。

仮説検証プロセスでバリューセットを刷新する、日本マクドナルドの挑戦

マクドナルド

消費者離れが続き、苦戦する日本マクドナルドですが、挑戦を続けています。

2015/5/15の日本経済新聞の記事「マクドナルド、セット刷新 サイドメニュー4品から選択」によると、5月下旬に主力のセットメニュー「バリュー セット」の刷新を予定しています。

特に私が「なるほど」と思ったのが、次の部分。

—(以下、引用)—

新メニューは複数の店で数カ月にわたって試験的に導入し、来店客の反応や店内作業の見直しを繰り返し確認した。その結果、来店客には「好みに合わせて選べる仕組みが大変好評だった」(下平篤雄副社長兼最高執行責任者)といい、収益面でも一定の効果を確かめることができたようだ。

—(以上、引用)—

つまり、

・ターゲット顧客を、「家族客」と定義し、この家族客を呼び戻すために、
・顧客の課題の仮説として、「ファストフードにも 健康に配慮した品ぞろえを強く求める」を考え、
・解決策の仮説として、「健康志向と幅広いセットメニュー」が必要と考えました。

その仮説を実際に数ヶ月に渡って実際の店舗で検証し、収益面での効果を確認した上で、今回の発表に至っている、という点です。
価格も大半を300円で統一するわかりやすい方針に変更しました。

自社の強み→対象顧客・課題・解決策の仮説構築→プロトタイプの検証

と着実にステップを踏んで展開をしています。

新たにCOOに就任された現場に強い下平副社長が牽引されている点も、要注目だと思います。

今回の日本マクドナルドの新たな挑戦は、期待できるのではないかと思いました。

吉野家、健康志向へ挑戦

昨日、当ブログのエントリーで牛丼の価格アップについて書きました。

ちょうどその昨日、吉野家が新しい商品を発表しました。

2015/5/15の日本経済新聞の記事「吉野家、野菜たっぷり丼 健康志向、パプリカなど11種」によると、発売するのは3種類です。

「ベジ丼」(530円)…11種類の温野菜を盛りつけ。肉類なし
「ベジ牛」(650円)…小盛りサイズの牛丼に温野菜
「ベジカレー」(650円)…カレーと温野菜を組み合わせ

ベジ丼

 

吉野家は昨年、630円の「牛すき鍋膳」「牛チゲ鍋膳」を発売、昨年の売上アップを牽引しました。

そして今、原材料費や人件費がアップする中で、新たな高付加価値化への挑戦です。

 

「吉野家と言えば、牛丼」というイメージがあるように、吉野家は牛肉にこだわり続けてきました。

「ベジ牛」というメニューがあるのも、そのこだわりの部分だと思います。

このこだわりは、「企業としての強み」にも繋がっています。

「マックと言えば、ハンバーガー」というイメージがあるマクドナルドも、コーヒーブームに乗ろうと「マックカフェ」に挑戦し、マクドナルドの強みが十分に活かせず、苦戦してきました。

そんな中で今回吉野家が繰り出した、牛肉を使わない「ベジ丼」がどの程度消費者に受け容れられるのか?

今後、吉野家が高付加価値化への挑戦を続ける上で注目されるところだと思います。

荻阪哲雄著「リーダーの言葉が届かない10の理由」 ビジョンを創り、組織に浸透させ、変革を実現する実践書

従来の多くの日本企業では、「これまでこうやってきた。だから次はこれをやろう」という考え方で経営戦略を考えてきました。しかし今は世の中の変化が速く、従来の常識が通用しない状況が増えています。この方法ではすぐに賞味期限切れを起こすのです。

そこで必要になるのが、経営の教科書に書いているように、未来に何が起こるかを見据え、未来の目標(=ビジョン)を定め、そのビジョンを達成するための戦略を考え、組織を動かし実行すること。

しかし実際には、これはなかなかうまくいかないのが現実です。

ちょうど大型タンカーが舵を切ってもなかなか方向転換しないように、「これをやっていたから、次はこれ」という発想に慣れた多くの日本企業では、組織が従来の方法を変えることが、極めて難しいのが現実です。

そして「とりあえずビジョン作りは誰かに任せておいて、本業は本業で従来どおり進めよう」と考え、やり方を変えないのです。

つまりビジョンが他人事になってしまうのです。そして、なかなかビジョンを立てられない → トップがビジョンを語れない →組織に浸透できない →組織が実行できない →反省と学びができない、という悪循環に陥ってしまうのです。

そして、何も変わらないまま時が過ぎ、企業の競争力が、徐々に、あるいは急速に、落ちていきます。

 

ではいかにこれを解決すべきなのか?

最近、荻阪哲雄著「リーダーの言葉が届かない10の理由」(日本経済新聞出版社)を読了しました。

荻坂さんの本

本書では、この問題に対する具体的な解決方法を提示しています。

 

著者の荻阪さんは、二十年以上にわたリ組織の変革系コンサルティングに従事してこられました。本書はその豊富なコンサル経験をベースに、具体的な事例と変革の方法論が紹介されています。

本書の前半1/3では、サザンZ社という架空の会社を舞台に、物語形式でビジョンが浸透しない様子が描かれています。そして真ん中では、それを受けて著者の考えが紹介されています。

そして後半は、荻阪さんが提唱する、ビジョンを創り、届けるために、自分たちの行動へと変えていく実践手法「バインディング・アプローチ」の具体的な方法が紹介されています。

本書からは、リアルな企業変革の現場に数多く立ち会った荻阪さんならではの洞察が散りばめられています。

本書から、私が特に参考になった箇所を引用します。(順番はわかりやすいように並び替えています)

 

■「志」という字を見てください。十を一つにまとめた心と書きます。暗黙のうちにめざしているものが十あったとしても、それをビジョンへと進める(一つの)方向を定める…… (p.91)

■「たしかに共有は大切ですが、共有ばかりしていても、先に物事は進んでいません。なぜなら、共有は手段で、目的ではないのです。どこか、共有していることで安心感だけを得ようとしているように感じます」(p.110)

■著者は、ビジョンを「未来の目的地」と定義する。

■一言で表せば、ビジョンを、リーダーとメンバーで一緒に、仕事の「決め方」と「働き方」に浸み透らせることだ。これが著者の、浸透の定義である。(p.124)

■「日本企業は、協創の文化で、世界に貢献する」……新たな「目的」そのものを仲間と協力し合って創る「協創の組織文化」を育み、協創の企業に変わることをめざせばよいのだ。それによって、日本を変えていく方向が必要と考えている。(p.129-130)

■日本は、「世界一の結束力」を持った国である。(p.131)

■この「大きな目的(ビジョン)に、互いに結びつきたい」という欲求に根ざした人間と組織の根底にある「力」とは、一体どのような力なのか? ……その力を、一言で表したもの、それが「職場結束力」である。つまり、ビジョンは、職場結束力を生み出し、高めて、強くしていかない限り、浸透していかないのである。(p.160)

■……自分で描き、自分で周囲に語り始めると、自分が目の前から逃れられなくなる。その結果、ビジョンを語ることが、やり続けるエンジンに変わったのである。(p.139)

■気づかせようというコントロールの発想を持つと、相手の「自ら変わるエネルギー」は生まれない。(p.152)

■ビジョンを実現するためには、やらない戦略を決断することだ。(p.174)

■実践のビジョンは、仕事を通してやっていくものである。つまり、ビジョンは仕事で行わない限り、浸透しないのだ。(p.193)

■組織の反省は、成果を変えることができる (p.95)

■上司から始まる反省は達成の方法を育てる (p.97)

■反省を語るのは、勇気がいることだ。しかし、責任を持つ人から先にやることで、結果は驚くほど変わる。(p.232)

■三割のリーダーが「バインディング・アプローチ」を実践する協働の姿を見せれば、ビジョンは浸透できる。(p.237)

■「温度差があることをよし」とすることです。……温度差があるからこそ、「実践のビジョン」=「未来の目的地」が必要であり、「温度差の原因を探っていくことによって、実践のヒント、手がかりが見つかる」のです。(p.259-260)

 

実際に変革プロジェクトの当事者として悪戦苦闘しておられる経営者・マネージャー・リーダーの方々は、本書からご自身の悩みを解決するヒントが得られると思います。

今月の「私の履歴書 似鳥昭雄」が面白すぎます

4月は「私の履歴書」から目が離せません。

今月は、ニトリ創業者の似鳥昭雄さんです。ハラハラさせて、ちょっと失礼かもしれませんが、あまりにも面白すぎます。

ニトリ

最近、日経はまず「私の履歴書」から読むようになりました。

 

4月1日の連載第1回を読みかえすと、1972年の100店・売上高1000億円という30年計画を2003年に達成、今は3000店/3兆円という次の30年計画へ向けて動いており、成功の秘訣は「ロマンとビジョンを掲げ、他社より5年先をゆく経営を進めてきた結果」と書かれた後に、こんなことが書いていました。

—(以下、引用)—

………こう話すと頭脳明晰(めいせき)な経営者のイメージを与えるかもしれないが、実は逆。飲み込みが悪く、子供の頃はすさまじい劣等生だった。

—(以上、引用)—

「かなり謙遜なさっておられるのだろうな」と思っていたら、実際には本当に凄まじい状況でした。

 

—(以下、引用)—

……だらしない性格も変わっていない。逆に何もできないから、色々な人の力を借りながら成功できたと思う。家内からは「あなたは人が普通にできることはできないけど、人がやらないことはやるわね」とからかわれる。

—(以上、引用)—

「なるほど。つまり自分で実行せず、マネジメントに徹してきた、ということなのか」と思って読んでいたら、さにあらず。本当にやることなすこと失敗ばかり。苦手な営業から解放されたのも、社交的な奥様と結婚されておかげでした。

 

—(以下、引用)—

幼少期、青年期はいじめにも遭ったが、忘れっぽい性格も事業には向いていたかもしれない。七転八倒の人生で、今では信じられないような「悪さ」もやらかした。人並みのことができない問題児の若気の至りと受け止めていただければ、幸いである。

—(以上、引用)—

このいじめや悪さも、現代だったら確実に社会問題になっていたであろうという凄いモノです。

 

「こんなこと書いていて大丈夫だろうか?」と心配になったりしますが、伝わるところによると、実際にはこれでもかなりセーブしておられるようです。

似鳥さんのお話を読んで感じるのは、「他人がやっていないことをやること」の大切さ。

奥様がおっしゃるように、似鳥さんがやっているのは、他人がやろうとしないことばかりです。失敗ばかりしていますが、その中で成功もある。それが結果的に、ブルーオーシャンを開拓しているのかな、と思います。

 

今月の私の履歴書は、まだ2週間ほど残っています。毎日楽しみにしたいと思います。

お金をかけてもブランドは創れない。ではいかにブランドを創ればよいのか? 2015年ブランド1位の、あの会社から学ぶ

Brand

日経BPコンサルティングが設立する「ブランド・ジャパン企画委員会」が選ぶ「ブランド・ジャパン2015」の結果が、3月27日に発表されました。→リンク

BtoC編「総合力」ランキングの首位は、昨年の11位から大きく順位を上げて、91.7ポイントを獲得したセブン-イレブン。セブンはBtoB編の「総合力」でも第2位を獲得しています。

なぜセブンがブランド1位を獲得できたのでしょうか?

2015/4/13の日経ビジネスの記事「ブランド・ジャパン2015 “親しみ”増してセブンが初首位」によると、同委員会の委員長である一橋大学大学院国際企業戦略研究科の阿久津聡教授は次のように語っておられます。

—(以下、引用)—

「商品開発などを地道に継続してきたことが消費者に認知され、その商品を実際に買って“経験”する人が増えた。広くブランドが浸透した結果であり、満を持しての首位獲得と言える」

—(以上、引用)—

実際に私の周りの人に聞いても、「コンビニの中でも、セブンは他と比べて高品質」という印象を持っている人は多いのです。それはセブンカフェをはじめ、セブンゴールド、セブンプレミアムなど、「最安値ではないけど、そこそこの値段で、高品質」という実績を積み重ねた結果です。

まさに阿久津先生がおっしゃるように「満を持しての受賞」ですね。

 

20世紀初頭、大量生産・大量流通が始まった時代は、お金をかけて大量の広告や宣伝を行い、ブランドの認知度を向上させ、効果を上げる事例が数多く生まれました。しかし情報が氾濫し消費者が賢くなった現代では、ブランドはお金をかけても創れません。

ブランドとは実績であり、事実の積み重ねです。企業は新たな価値・顧客満足を創り続けていくことが問われており、この蓄積がブランドを創り上げているのです。

ネット時代=透明な時代の現代では、よりピュアな形でブランドの本質が問われています。

 

つまり「お客様が買う理由」を創り続けること。そのためには、リアルな顧客に対して仮説検証を愚直に繰り返すことが必要なのです。

 

愚直に仮説検証を繰り返している企業の筆頭が、今回受賞したセブンです。

セブンの店舗では高校生のアルバイトでも発注を任されていますが、そこで行われるのが仮説検証です。販売実績や天気や地域の行事を基に明日の売れ筋の仮説を立てて発注、そして販売結果をPOSシステムで検証し、仮説が間違っていたらそれを次の仮説に活かしています。

商品の開発でも同様。セブンカフェを大成功させるまでに、セブンは実に4回の挑戦を通して仮説検証を繰り返してきています。

 

今回セブンがブランド1位を獲得したのは、セブンが長年に渡ってリアルな顧客に対してひらすら愚直に仮説検証を繰り返し、「お客様が買う理由」を創り上げる努力を積み重ね、消費者に認知を拡げていった結果に他ならないのです。

 

6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ (6) エアウィーヴは、なぜ成功したか?

昨日のブログの続きで、今回はエアウィーヴの経営戦略と成功した理由についてです。

 

YouTubeに、グロービス知見録という、グロービス経営大学院のナレッジライブラリーがあります。

このグロービス知見録に、2013年にエアウィーヴの高岡本州会長と田所邦雄取締役が講演された内容が掲載差入れています。

【前編:高岡本州会長講義へのリンク】

【後編:田所邦雄取締役講義へのリンク】

それぞれ30分、合計1時間の講義で、とても聞き応えがあります。

 

前編の高岡会長のお話のお話は既にご紹介した内容も多いので、今回は後編の田所取締役のお話の中から、ご紹介していきます。

 

田所取締役は、「エアウィーヴ事業の基本戦略」を次のようにお話ししています。

【基本的な考え方】
・独自の素材を用い、消費者のニーズに対応した差別化・優位性のある質の高い製品を開発し、市場に投入する

【コミュニケーション】
・製品の効能とともにアスリート等による使用実績を紹介し、AWブランドを高級で信頼感の高い寝具として効果的に訴求する

・購買経験のない消費者が実際に商品を体感できる使用機会を提供する(高級百貨店やホテル)

・安易な製品や販路拡大、販売を制限し、ブランド価値を厳しく管理する。

・広告と共に、信頼度の高いPRによるコミュニケーションを強化する。

これらの施策によって、従来プッシュ型で販売されてきた寝具市場をプルに変える。エアウィーヴ・ブランドとその商品への関心を高め、ブランドの認知度・信頼度を向上し、プル型の販売を実現する

 

この戦略を見て、自分のエアウィーヴ経験を振り返り、「なるほど」と腑に落ちました。

最近、私の家の近所にあるデパートにも、エアウィーヴの販売コーナーが出来ました。

エアウィーヴに興味を持っていたこともあり見に行きました。とてもいい商品でした。

「いつも使っている2年前に買った寝具の上に、エアウィーヴのマットレスパットを載せればいい筈」と思って店員さんに聞いたところ、私が使っている寝具とは相性が悪いので、「一緒に使わない方がいい」とのお答えでした。

この店員さんは、エアウィーヴの社員でした。

もし私がエアウィーヴのマットレスパットを買っていたら、「あれ、意外とよくないじゃん」と思っていたはずです。

まさに「安易な製品や販路拡大、販売を制限し、ブランド価値を厳しく管理する」ということが徹底されていることを実感しました。

 

前々回のブログで買いましたように、エアウィーヴは2009年にPRチームを作り、田所邦雄さん(現取締役)がアドバイザーとして加わりました。その2年後の2011年、マーケティング戦略を転換しています。

田所取締役は、次のようにお話ししています。

・認知が高まり、市場が成長期に入った2011年からマーケティングを転換した。「一流」のポジショニングは維持しながら、顧客層を拡大する。そのためには、

* 引き続きトップアスリート、高級ホテルにアプローチし、「一流」を訴求する。

* 高級百貨店と同時に、一流の訪問販売、通信販売など、販路を拡大する

* 広範な消費者に対応するため、セグメントを明確にした新商品を投入する。

そこで2011年6月、かねてからエアウィーヴを愛用していたフィギュアスケートの浅田選手とブランドアンバサダー契約を締結した。浅田選手のもつ知名度・親しみやすさ・一流のアスリートというイメージを活かし、「一流の寝具」というブランド・イメージを作りながら、ブランドの認知度を高めていくことをコミュニケーションの目標とした。

このYouTubeの講演では、どのようにマーケティング戦略が進化したのかをまとめた図がありましたので、引用します。

AWマーケティング戦略の進化

 

改めてエアウィーヴ社の売上推移を見ると、2011年-2012年から急成長していることがわかります。

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このマーケティング戦略の転換が、急成長の大きな要因の1つと言えそうです。

 

実際に、 田所取締役は、そのエアウィーヴが成功した要因として4つを挙げておられます。

(1)新しい市場を創造した

* 独自の素材を用い、消費者のニーズに対応し、これまでの寝具にない4つの特長・価値(復元性、通気性、体圧分散、洗える)を活かした差別性・優位性のある質の高い製品を開発し、市場に投入した

* 従来のマットレスにない機能・便益(極細繊維状樹脂を三次元的に組み合わせた素材がもたらす空気の上で眠っているような快眠環境)を提供することで、新しい需要・市場を創造し、独自のポジションを築くことに成功した

* さらに、革新的な製品を次々と投入し話題を集め市場をリードした (エアウィーヴ→ライト→ピロー→AW90(F・ベッド)→四季布団→KIDS)

自社の強み→ターゲット顧客、課題、解決策の仮説構築→ひたすら仮説検証の継続を繰り返し、市場を創造したと言うことですね。

 

(2)事業領域の選択と集中を行った

*事業(業務)領域を適切に選択・集中し、経営資源を分散することなく、効率的な事業運営を行った。自社で展開するBtoC市場はオーバーレイマットレスに限定、広範な販路・ロジスティックスが必要なマットレスはBtoB(法人向けOEM)で展開した。さらに自社はコア材の製造に専念し、カバー類は外部から調達。加えて当初、マーケティングはPR活動に集中した。このように事業領域を選択・集中し、シンプルな事業モデルとした。

この結果、限られた経営資源を効果的に活用し、短期間で他社から明確に差別化し、市場での独自性・優位性を維持することが可能になった

高岡社長は、「2007年創業当時から工場キャパは55億円程度あった。このおかげで300%〜400%の成長を続けることが出来た。現在、工場キャパを増強中だ」と補足しておられます。

メーカーにも関わらず高成長を続けられたのは、周到なマーケティング戦略に加えて、業態転換前の既存工場を温存していたために、生産能力この需要の伸びに追従できたからなのですね。

(3)強いブランド力の構築

* 製品の効能と共に、アスリートたちによる使用実績を紹介し、AWブランドを効果的に訴求した。「一流」の使用・採用がAWブランドの効能・価値を保証した

* AWブランドとその商品への関心が高まり、ブランドの認知・信頼が向上、ブランドで消費者を引きつけるプル型販売を実現した

* 安易な商品や販路拡大、販売を制限し、ブランドを厳しく管理した。(素材研究、効能にこだわった製品開発、高島屋への進出、値下げ販売の禁止……)

ブランド戦略については、昨日のブログでもご紹介した通りです。

 

(4)Early AdopterからEarly Majorityへの拡大

2011年頃にいわゆる「キャズム」に嵌まりそうになったのを、先にご紹介した2011年のマーケティング戦略の転換で乗り越えたことを指しています。

特に、浅田真央選手の戦略的な活用が効果的でした。浅田選手は「一流のアスリート」というイメージと共に、「浅田選手が嫌い」という人はほとんどいません。広範な消費者に愛される希有なキャラクターが、エアウィーヴを愛用して素晴らしい実績を重ねている。これは強いですね。

田所取締役は、加えてこの図を示しています。

エアウィーヴ事業成功の主要な要因

「新市場を創造」「選択と集中」「強いブランド力」は必要条件ですが、これだけで不十分。高岡会長の夢と情熱があって、この事業が成功した、とおっしゃっています。

「夢と情熱」は意外と見逃されがちですが、事業を進める上で必ず出会う様々な困難を乗り越えるためには、とても重要な要因だと思います。

 

ちなみに、株式非公開のエアウィーヴ社の株は、高岡会長が100%持っておられます。

講演の最後に、高岡会長はこのようにおっしゃっています。

「株式公開はしたくない。他の人にお金は出して欲しくない。自分が好きなようにやりたい」

 

エアウィーヴは2007年から2010年までの苦境にあっても、常にポジティブに考えてエアウィーヴ事業に取り組むことで、現在の高成長を実現しました。

もしエアウィーヴが公開企業だったとしたら、どうだったか?

企業の「株式上場コスト」についても、考えさせられます。

 

 

この講演に興味がある方は、YouTube上にある本講義をご参照下さい。

【前編:高岡本州会長】

【後編:田所邦雄取締役】

 

【ブログ連載】6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ

(1) エアウィーヴの凄さは何か?

(2) 200枚の試作品は大好評。そして初年度4000万円を投入。しかし売れたのは1000万円

(3)急成長の舞台裏で、2回の転換を行っていた

(4) 飛躍のきっかけは、オリンピック選手の実績をベースにした、PR主体の情報発信

(5) エアウィーヴは、「認知性」と「関係性」の2軸で実績を積み重ね、一流のブランドを創り上げていった

(6) エアウィーヴは、なぜ成功したか?

 

6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ (5) エアウィーヴは、「認知性」と「関係性」の2軸で実績を積み重ね、一流のブランドを創り上げていった

昨日のブログの続きです。

引き続き、ナゴヤラジオでのエアウィーヴの高岡本州社長(当時)のインタビューから引用してまとめます。(詳しく知りたい方は、リンク先のインタビューをお聴き下さい)

 

本日は、エアウィーヴがブランド作りに挑戦してきたかをご紹介します。

—(以下、引用)—

事業を開始した頃に、「ブランドを作りたい」と考えて、どうやればブランドを作れるか広告会社の社長に聞いた。その的確なアドバイスが今でも当社の重要な方針になっている。

『ブランドは広告では作れない。ブランドは、実績の積み重ねである。

実績とは、「起こったこと」の積み重ね。年月が必要。

たとえばエルメスは、バーキンが使い、グレース・ケリーが使い、………と、1800年代からの実績の積み重ねがちゃんと見える。ティファニーもそう。それも1つだけの実績でない。沢山ある実績の積み重ねだ。それらが見えることで、価値を持っている。高い次元の実績を積み重ねないと、ブランドにならない。』

—(以上、引用)—

「ブランドはお金では買えない。顧客に対して信頼を積み重ねた結果が、ブランドである」ということは、まさに私も常々思っていることなので、深く共感しました。

顧客への地道な価値提供と、仮説検証による継続的な価値向上が、ブランディングに繋がります。(そして最近の異物混入事件やその後の対応による顧客離れを見てもわかるように、企業への信頼は一瞬で崩壊してしまいます)

 

では、高岡会長はエアウィーヴのブランドをどのように創り上げていったのでしょうか?

—(以下、引用)—

当社事業を「生活インフラ事業」と考え、「では一番高い睡眠を求めているのは誰か」と考えたら、それがオリンピック選手だった。そこでオリンピック選手で実績を積み重ねていった。

しかしオリンピック選手の実績を一般の人に持っていっても、「ちょっと自分は違うし」と考える人も多いのが現実だ。

たとえば、「真央ちゃんも使っていますよ」と言っても、「私、スケートしないから、関係ない」となってしまう。

つまり「真央ちゃんが使っているから」買う顧客は確かに存在する。しかしすべての顧客がそうではない。

一方で、寝具はすべての人が対象。だからすべての人に訴求したいと考えた。

 —(以上、引用)—

浅田真央選手をブランドアンバサダーとして起用するのは、ブランド戦略上で大きな意味がありましたが、高岡会長は「これだけでは顧客は買わない」としっかり認識していました。

では、エアウィーヴではどのようにブランド戦略を展開していったのでしょうか?

 

実はブランドを2軸で考えたところにヒントがあります。

—(以下、引用)—

エアウィーヴのブランディングは「実績を積み重ねる」ことが基本。ではどのように行ったか?

航空会社のファーストクラスで使ってもらったのは、ブランディング上、とても大きな意味があった。

航空会社のファーストクラスは、誰もが「すごく高い」と知っている。そして飛行機に乗ると、降りるときに必ずファーストクラスを通るので、誰もが「ああ、いつも飛行機に乗って通るあのファーストクラスで、真央ちゃんが使っているエアウィーヴを使っているのか」と連想できる。

つまり、自分よりもはるかに遠いところにある真央ちゃんよりも、ちょっと近いところにエアウィーヴを置けたということだ。

 

このように、ブランドでは、「認知性」だけでなく、「自分との関係性」も重要だ。

つまり、顧客に近いところにエアウィーヴを置いていくことが、「関係性」を訴求する上で必要ということ。

 

さらにリッツカールトンや加賀屋の特別室などの超一流ホテル・旅館でも、エアウィーヴを使うようなった。

100万円以上するファーストクラスは、普通はなかなか体験できない。しかし5-7万円程度の超高級ホテル・旅館であれば、ちょっと何かあって大きく奮発すれば体験できるかもしれない。

つまり、ファーストクラスよりもさらに関係性が近くなる。

 

「あ、真央ちゃんも使っているけど、加賀屋さんも使っているのか」と、より近いところで連想いただけるようにする。

このように、認知性が高い世界から、より関係性が近い一流の世界に徐々に置いていくことで、エアウィーヴのブランディングを作っていった。

—(以上、引用)—

このように、ブランドを「関係性」「認知性」という2つの構造に分割して考え、相乗効果を上げることで、エアウィーヴは着実にブランドを構築していきました。

認知性と関係性

 

このように考えると、なぜ浅田真央選手だけでなく、他のスポーツ選手とも契約しているかがわかります。

—(以下、引用)—

さらにエアウィーヴを使っているテニスの錦織圭さんやゴルフの宮里美香さんにも、広告に出ていただいている。

こうすることで、

「真央ちゃんなら別世界だけど、テニスならやったことがある。錦織圭選手も使っているのか」

「私は錦織くんはよく知らないけど、ゴルフはやる。宮里美香さんも使っているのか」

というように、より幅広い人に親近感を持っていただけるようになる。

 —(以上、引用)—

 

このように、本連載の第1回の最後でご紹介したように、エアウィーヴでは、私が提唱している「お客様が買う理由」を作るフレームワーク、つまり

(1)自社の強みを徹底的に考え、
(2)ターゲット顧客、その課題、解決策を仮説として立てて、
(3)愚直なまでに仮説検証を繰り返す

を継続して実践され、この蓄積によって、その延長線上で「一流」のブランド作りに成功しているのです。

そして一流のブランド作りのために、「どの顧客にどの順番で使ってもらい、どの事例を、情報発信するか」を、「『認知性』と『関係性』にわけて」考え抜いているのです。

ここからも、顧客について考え抜くことがとても重要なことがわかります。

 

では、全体の事業戦略はどのようになっているのでしょうか?

実はそこには、本連載の中にも出てきた高岡会長の懐刀でもある田所邦雄氏(現・エアウィーヴ取締役)が重要な役割を担っておられます。

 

そこで次回は高岡会長のインタビューから切り替えて、田所氏の講演内容からエアウィーヴの戦略を見てみたいと思います。

 

【ブログ連載】6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ

(1) エアウィーヴの凄さは何か?

(2) 200枚の試作品は大好評。そして初年度4000万円を投入。しかし売れたのは1000万円

(3)急成長の舞台裏で、2回の転換を行っていた

(4) 飛躍のきっかけは、オリンピック選手の実績をベースにした、PR主体の情報発信

(5) エアウィーヴは、「認知性」と「関係性」の2軸で実績を積み重ね、一流のブランドを創り上げていった

6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ (4) 飛躍のきっかけは、オリンピック選手の実績をベースにした、PR主体の情報発信

昨日のブログの続きです。

引き続き、ナゴヤラジオでのエアウィーヴの高岡本州社長(当時)のインタビューから引用してまとめます。(詳しく知りたい方は、リンク先のインタビューをお聴き下さい)

 

発売初年度の2007年に180枚しか売れなかったエアウィーヴは、どのように戦略を進化させていったのでしょうか?

—(以下、引用)—

初年度の2007年、販売した180名の顧客のうち、反応が来た顧客があった。アスリートだった。

そこで「アスリートはいいモニターになるのでは」と考えた。

その翌年の2008年、北京オリンピックがあった。オリンピック選手は4年に1回のチャンスに、すべてのものを犠牲にしてチャンスに向かう。そこで「一番尖った人のフィーリングが欲しい」と思った。

既に製品としてのエアウィーヴには自信を持っていたので、「決勝の前日にエアウィーヴを選ぶようにしてもらいたい」と考えた。

—(以上、引用)—

初年度180名にしか売れなかったエアウィーヴですが、その中からアスリートというリアルな顧客の反応を得て、その検証結果を元に、「アスリートはいいモニターになるのでは」という新たな仮説を立てています。

「顧客から愚直に学ぶ大切さ」が、このエピソードからもわかります。

「顧客から愚直に学んでいる」のですが、「顧客の言いなり」になってはいない点が、とても重要です。

これも、「快適な睡眠を提供できる」という仮説を、販売前に試作品でユーザーに事前に確認し、確信を持った上でのこと。

自社ならではの仮説をキチンと持ち、その仮説を検証して新たな仮説を立てて、さらに新たな仮説を検証することが必要であることが、エアウィーヴのこの取り組みからもわかります。

 

エアウィーヴの挑戦はさらに続きます。

—(以下、引用)—

オリンピックアスリートに使ってもらうために、国立スポーツ科学センター(JISS)の低酸素室80部屋のうち半分の40部屋にエアウィーヴを入れた。するとエアウィーヴを入れた部屋に寝た選手から、「明らかに違う」との反応があった。

そして2008年の北京オリンピックで水上・陸上の選手が使った。これが一番最初の大きなきっかけだった。

嬉しかったのは、北島康介選手が金メダルを掲げて成田空港に降り立った際に、カートの上にエアウィーヴがあったこと。

「やった!これで売れる!」と思った。

しかし若干報道されたが、世の中で話題になるほどではなく、売上には繋がらなかった。

実績があっても、こちらからキチンと伝えないと、売上には繋がらない。当時の当社には、その能力も知見もなかった。

「いいモノを作れば売れる」と思っていたが、それでは売れないことがわかった。

このようにして、2008年も伸び悩んだ。

—(以上、引用)—

 

つまり、2007年に「アスリートがいいモニターになる」と考え、翌年2008年は数多くのオリンピック選手が使ったものの、まだ売上には繋がらなかったということです。

しかしこの年、北島康介選手が使うなど、その後のビジネスが伸びる芽が、確実に植えられています。

Taking breath swimming butterfly isolated black background

また、「アスリートに使ってもらい話題を作るだけでは、まだ不十分だ」「まだ能力が足りない」という新たな学びも得られています。

 

エアウィーヴの戦略は、さらに進化していきます。

—(以下、引用)—

北京オリンピックでオリンピック選手約70名がエアウィーヴを持っていったが、それだけでは認知は広がらなかった。

また北京オリンピックのスポンサーではなかったので、広告では「オリンピックで使った」という実績は出せなかった。

第三者にで発信してもらうことが重要であり、「PR活動が必要だ」と痛感した。

そこで北京オリンピックの後、「PRをキッチリやろう」と考え、PRチームを作り、加えて(外資系化粧品会社などの日本法人社長を務めたブランディングのプロの)田所邦雄さんにアドバイザーとして加わっていただき、広告主体からPR主体で実績を話すように変えるようにした。

しかし当時話せるネタは北京オリンピックくらいで、しかも既に終わった話だ。

 2010年2月のバンクーバー冬季オリンピックがあった。この時、選手の間でエアウィーヴの話が伝わっていた。2009年の秋にスキーのトレーナーにエアウィーヴを紹介したところ、気に入っていただき「是非使いたい」という話になった。

その話を受けたところ別のトレーナーにも話が行き、広がっていった。

ただ会社として資金負担がある。北京で売上に乗らないという苦い経験もあったし、経営も厳しいかったので、実はあまり乗り気ではなかった。しかし、日本人としての血が騒ぐ。

2009年末にスキーやスケートなどの要請があった選手に全て提供した。その中に、その後エアウィーヴのブランドアンバサダーとなる浅田真央さんもいた。

結局、日本選手100人中7割が自分の意思でバンクーバーに持っていった。このことは広告契約はしていないが、マスコミに事前に紹介できた。

そこでTV局から「こんな話聞いたんだけど」と取材要請があり、若干テレビでも紹介され、店舗にも活況が出た。

—(以上、引用)—

「アスリートはいいモニターになるのでは」と考えたのが、2007年。

ひらすら仮説検証を重ねて、取り組みを続け、目に見える成果が出始めたのが、2010年。

つまりここまで3年間かかっていることになります。

ひたすらリアルな顧客に対して愚直に仮説検証しながら学んでいく大切さは、ここからもわかるのではないでしょうか?

 

エアウィーヴのビジネスは、ここから徐々に加速していきます。

 —(以下、引用)—

また、「航空会社のファーストクラスでは是非使って欲しい」と考えて、2009年から航空会社と話を続けていた。

2010年4月から、全日空の国際線ファーストクラスのマットレスパットとして採用した。

 

さらに2010年6月、サッカーワールドカップの代表選手向けにエアウィーヴを30本渡した。

このようにして「バンクーバーオリンピック」「全日空ファーストクラス」「サッカーワールドカップ代表選手」の3つの採用実績を、PRに乗せることができた。

これで話題になり、少しずつ一般ユーザーの売上が伸びるようになった。

売上が上がると、寝具売場のスペースも拡げていただけるようになった。2008年は売場の角にある棚の端っこだったのが、ベッド1台、さらに2台、と徐々に広がっていった。

 —(以上、引用)—

 このように、エアウィーヴの好循環が回り始め、驚異の売上成長に繋がっていきました。

 

高岡会長は、寝具市場の難しさについても語っておられますので、ご紹介します。

—(以下、引用)—

従来の寝具は、寝具が必要な人が、予算・お得感・触感・ブランドで判断して決める。寝るのは買った後になる。試し寝はしない。だから商品同士を比較することはない。つまり顧客は実際に寝てみた結果で商品の優劣を判断できない。ここが特殊である。

一方でエアウィーヴが重視しているのは、買った後のリピーター。たとえば奥さんが買って、ご主人や子どもに勧める、といった形だ。

このためプッシュ型ではなくプル型マーケティングを展開している。つまり、「買いたい」というお客さんに来てもらうようにしている。

実際にエアウィーヴを使ってみると、早い人は一晩寝れば効果がわかる。遅い人でも1週間でわかる。日曜日に遅寝すると普通は疲れるが、エアウィーヴでは疲れないからだ。そのことを、実際に買って寝る前にわかるようにすることが必要だ。

このような特性があるので、我々はうまくできたけれども、寝具市場は、新規参入は非常に難しい市場だ。

—(以上、引用)—

 

この「寝具市場の難しさ」は、恐らく既存の寝具メーカーにとっては、当たり前になっていたのでしょう。

一方で寝具市場で急成長を続けているエアウィーヴは、寝具市場への新規参入者です。新規参入者だからこそ、既存の枠組みや考え方に囚われずに、新しい取り組みを展開できたのでしょう。

しかし新規参入者だから既存の枠組みに囚われずに挑戦できるということは「言うは易し」ですが、ここまででご紹介したことからもわかるように、実行するのはとても大変です。

そのカギは、やはり「自社の強みを見極めて」、「ターゲット顧客」「その顧客の課題」「解決策」の仮説を立てて、愚直に顧客に検証し続けることなのです。

 

実はエアウィーヴは、ここまでの取り組みの延長で、一流のブランド作りにも成功しています。

次回は、いかにエアウィーヴが一流のブランド構築をしてきたかについてご紹介していきます。

 

【ブログ連載】6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ

(1) エアウィーヴの凄さは何か?

(2) 200枚の試作品は大好評。そして初年度4000万円を投入。しかし売れたのは1000万円

(3) 急成長の舞台裏で、2回の転換を行っていた

(4) 飛躍のきっかけは、オリンピック選手の実績をベースにした、PR主体の情報発信

6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ (3) 急成長の舞台裏で、2回の転換を行っていた

昨日のブログの続きです。本日はエアウィーヴの初期の取り組みを深掘りしたいと思います。

 

約2年前の2013年7月、名古屋の第一線で活躍しておられるキーパーソンを紹介しているナゴヤラジオで、エアウィーヴの高岡本州社長(当時)がインタビューを受けておられます。

その全7話をネットで聞くことができます。→リンク

 

合計1時間に及ぶインタビューはとても貴重なお話しで、とても参考になりました。そこでメモを取った内容をまとめてみたいと思います。(詳しく知りたい方は、リンク先のインタビューをお聴き下さい)

—(以下、引用)—-

もとは叔父から引き継いだ事業で、プラスティックスを溶かして細い糸状にする射出成形の機械を作っていた。プラスティックスの糸が絡まり面白いクッション性があるものが出来た。

2004年頃、機械製造から素材製造へのシフトを図っている段階で引き継いだ。

当初、2004年から2年間はソファなど緩衝材・衝撃吸収材のクッション材の製造をB2Bで売っていた。しかし素材製造だけでは事業が成り立たず、2年間は赤字だった。

—(以上、引用)—

高岡社長が引き継いだ2004年の時点で、既に既存事業が行き詰まっていて事業転換を考えており、「クッション性のあるプラスティックス素材」という「自社の強み」(=コア技術)を活かして何かできないか、2年間模索し始めていたことがわかります。

まず、「機械製造→素材製造」の転換の模索を図っていたのですね。

しかし2004年からの2年間は、用途が絞れず赤字が続きました。

 

そこで高岡社長はこのように考えました。

—(以下、引用)—-

B2B向けにベット用の素材を提供していたので、寝具用の素材としては可能性があると思っていた。そこでマットレスやベットマットを作ってみた。

B2B向けのクッション材の製造から、B2C向けのマットレスに切り替えた理由は、B2Bだけでは消費者の声が聞こえないからだ。ユーザーの声を聞かなければ製品開発はできないし、技術は発展しない、と考えた。

—(以上、引用)—

ここでもう1つの転換、「B2B(企業)顧客→B2C(消費者)顧客」への転換を模索し始めました。そのヒントは、メーカー向けへのベット用素材提供で可能性を把握し、実際の消費者の声を把握する必要性を認識したことです。

 

つまりエアウィーヴは最初の2年間で、事業の転換(機械製造→素材製造)と、ターゲット顧客の転換(B2B→B2C)と、2段階の転換を図っていることがわかります。

 

そして、高岡社長は、新たにB2C向けにどのように取り組むかを考え始めます。

—(以下、引用)—-

当初ベット用マットレスで売ることを考えたが、そのためには、顧客からベット用マットレスを回収しなければならない。マットレスの場合は大きな在庫スペースがいるし配送も必要だ。つまり事業参入には大きな資本と手間を要するし、大変なので、これは止めた。

一方で、寝具市場ではベッドパット市場が伸びていた。当時、売れていたベットパット商品は、ウレタンの低反発のものだった。顧客は寝具を手触りで選ぶ傾向がある。ウレタンは低反発は感触はいい。しかし実際に寝てみると、ウレタンは空気を通さないので通気性が悪く臭いも残る。さらに低反発なので寝返りがきつい。

そこで当社の素材を使ってベットパットを試作してみたところ、好評だった。2006年頃、「ベットパットに絞れば行けるかもしれない」と考えた。

そこで既存ビジネスは採算に乗らないので、全部中止。2006-2007年にかけてベットパットに集中した。

知り合いに体験してもらったら、いい評判だった。「絶対売れる」と思った。

そして2007年6月にベットパッドを販売し始めた。

—(以上、引用)—

素材の強みを活かしてB2C市場に取り組むことを決めた後、このように「ターゲット顧客」「課題」「解決策」を絞り込んで、ベットパット市場への挑戦が始まりました。

ちなみにベットパットとはこんな商品です。(ポータブルタイプの商品を、エアウィーヴのサイトから引用しています)

AirWeave-写真

 

では、販売を開始した結果、どうだったのでしょうか?

—(以下、引用)—-

東京の展示会に出展、同じ日にウェブや広告を出し、電話が殺到すると考えてコールセンターも用意した。

万全の体制で臨んだが、実際には2日間でかかってきた電話は1本。1ヶ月で売れたのは2枚。今でこそ1日で1,000枚売れているが、1年目は1年間で180枚しか売れなかった。

1年目は雑誌広告も出した。存在を知ってもらうために、女性をターゲットに「快適な睡眠で美容」を訴求した。しかし全然届かない。

調べてみると、寝具の購買行動は通常の商品とは異なるということがわかった。

寝具は頻繁に買う商品ではない。「何となく買う」商品でもない。引っ越し、結婚、進学など、買うタイミングが決まっている目的買いの商品だ。必要な時には必ず買いに来るが、必要がなければまず買わない。だからデパートなどでも、高い階に店がある。客は店まで一直線に来るからだ。

言い換えれば、購買するためのハードルは、とても高い。

だから寝具の場合は、売場の売り場面積をどれだけ確保するかが重要になる。そして選ぶ基準は、価格帯とブランド。新たな商品メーカーが出て売れるものではなかった。

この1年間で寝具の市場を学んだ。そしてこんな時期が3年間続いた。

—(以上、引用)—

 

昨日のブログで、 「4000万円投資して1000万円しか売れなかった」と書きました。

その時に起こった内容を、高岡社長は詳しくお話ししておられます。

まさに「4000万円かけて、自社しか得られない学びを得た」のですね。

 

 

「ターゲット顧客」「課題」「解決策」を絞り込んで仮説を立てて、その仮説を検証した結果、エアウィーヴの挑戦はさらに進化していきます。

この続きは、次回のブログでご紹介します。

 

【ブログ連載】6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ

(1) エアウィーヴの凄さは何か?

(2) 200枚の試作品は大好評。そして初年度4000万円を投入。しかし売れたのは1000万円

(3) 急成長の舞台裏で、2回の転換を行っていた

 

6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ (2) 200枚の試作品は大好評。そして初年度4000万円を投入。しかし売れたのは1000万円

昨日のブログの続きです。

昨晩2015/4/7の「ガイアの夜明け」でも、米国進出の取り組みが紹介されていましたが、エアウィーヴはメディアでの情報がまだまだ限られています。そこでメディア記事をいくつか引用しながら、考えてみたいと思います。

 

「エアウィーヴ・高岡会長 眠れる会社を見事に覚醒の快“寝”撃」(zakzak 2015年1月27日)では、高岡会長がエアウィーヴの前身となる会社を引き継いだ頃の話をなさっています。

—(以下、引用)—

 「私はおやじの跡を継いで配電機器の会社を経営していますが、伯父から『自分の創業した合成樹脂の射出成型機メーカーを引き受けてくれ』と頼まれた。これがエアウィーヴの前身です。機器メーカーとしての寿命は尽きていたが、造る樹脂素材には見るべきものがあり、ベッドのクッション材などに使えるのではないかと考えたのです。で、BtoB(法人相手)で寝具メーカーなどに売り込もうとしましたが、全然売れなかった」

 「この素材は高反発のクッション材で、これを独自ブランドでBtoC(個人相手)で売ってみようと考えた。当時寝具では既存の寝具に重ねるだけのマットレスパッド分野だけが急成長していましたが、低反発のもので体に負担がかかる。だから高反発のものを作ると絶対売れると確信した。しかもマットレスパッドはベッドのように10年に一度の買い替え需要ではなく買い足し商品。市場としても参入しやすい。そこで3年余りで開発し、07年に『エアウィーヴ』ブランドで売り始めたのです」

—(以上、引用)—

 

まさに「自社ならではの強みを見極め」「ターゲットの顧客」「その課題」「解決策」を徹底的に考え抜き、さらに販売チャネルの特性までも考慮して、万全の体制で臨んだわけですね。

 

なお、ここからはエアウィーヴの商品特性を理解することが必要なのでご紹介しますと、エアウィーヴの商品としての強みは、次の4点です。

■体重を押し返す力が強いため、身動き・睡眠時の寝返りが楽

AW-高反発

■優れた体圧分散で、体に負担がかからない

AW-体圧分散

■通気性抜群で、夏は蒸れにくく、冬は空気断熱で暖かい

AW-空気

■マットレスパッドの中のエアウィーヴ素材まで洗えて清潔である

AW-水洗い

(文章と写真は、エアウィーヴのHPから引用)

 

では、エアウィーヴ発売初年度の結果は、どうだったのでしょうか?

—(以下、引用)—

「散々でした。女性を意識して雑誌広告中心に4000万円を投じましたが、1年で売れたのはわずか1000万円。………

—(以上、引用)—

実は、当初の仮説は間違っており、大失敗をしたのです。

「うわ!身に覚えがある!」という方も多いのではないでしょうか?

かく言う私も「まったく同じ経験、無数にしてきたなぁ」と思いました。

 

別の記事「地域未来構想 愛知県 一流に愛されるブランド戦略で活路」(事業構想 2014年2月号)では、この初年度の挑戦の様子が、もう少し詳しく書かれています。

—(以下、引用)—-

同社の製品は樹脂製の釣り糸や魚網の製造機だったが、糸を絡めながら固めてクッション材を作る技術も持っていた。そこで高岡社長はこの技術を改良し、マットレスパッドを開発することを決意。1年間の試行錯誤を経て、「エアウィーヴ」を開発した。

200枚の試作品を知り合いに配布、使い心地を聞いて回ったところ大好評で、特にスポーツの経験者ほど製品の良さを実感していた。

製品に自信を持った高岡社長は2007年、販売用のウェブサイトを立ち上げてコールセンターを整備し、販売に乗り出した。しかし消費者の反応はさっぱりで、初年度に売れたのは200枚足らずだった。

「優れた製品であれば売れる、という考えは全く通じないことを、痛感させられました」

—(以上、引用)—

知り合いに試作品を200枚配布し反応はとても好評。

多くの人は、「コレで行ける!」と思うのではないでしょうか?

 

しかし初年度の販売はたった200枚。実際に寝具を買う消費者は、買わなかったということですね。

両記事には書かれていませんが、実は寝具を買う消費者の行動は、他商品と比べてやや特殊だったのです。(明日の本ブログで紹介します。皆様もちょっと考えてみて下さい)

 

戦略を立てることは大切です。

しかし逆説的になりますが、戦略が当初の目論見どおりにコトが進むことは、滅多にないのです。

では「戦略は不要なのか」というと、そんなことはありません。

戦略を立てることは大切ですが、当初の戦略はあくまで「仮説」です。「仮説」なので、外れることも多いのです。だからこのように「当初の戦略はまったく間違っていた」という話を聞くと、多くの人が「うわ、身に覚えがある」となるのですね。

 

では、どうするか?

顧客のリアルな反応から学び、戦略を進化させていくことが必要なのです。

月並みな言い方で言うと「失敗は成功の母」ということになりますが、これはまさに真実なのです。

エアウィーヴの場合、「4000万円投資して1000万円しか売れなかった」のは、「4000万円の失敗をした」のではなく、「4000万円かけて、自社しか得られない学びを得た」と前向きに捉えたということなのでしょう。

そして事前に試作品で「使い心地は大好評。特にスポーツ関係者ほど製品の良さを実感していた」という学びも得ています。製品自体は大きな価値を持っていることをしっかり検証していたのは、その後の展開でとても重要でした。

 

仮説を検証して、戦略を進化させる必要性に気がついた高岡社長は、新たな挑戦を始めます。さらに事業構想 2014年2月号の記事から引用します。

–(以下、引用)—-

どんなに商品が優れていても、それが消費者に伝わらなければ買ってもらえない。そう考えた高岡社長は「エアウィーヴ」の知名度を高めることにした。その際、高岡社長が重視したのが商品の”ブランド”だった。

「どんなに優れた技術でも、数年間で競合する技術が生まれます。技術力だけでライバルに勝ち続けるのは難しい。であれば、早い段階でトップブランドの地位を確立して市場に浸透することが重要です」

—(以上、引用)—

この時点でエアウィーヴは、技術上は他社の寝具とは明確に差別化できていたものの、「技術だけでは差別化は不十分」と考えていたのです。

仮説検証から学びを得て、新たな対応策としてブランディングを考え始めた、ということです。

—(以下、引用)—-

実際に「エアウィーヴ」を使用して寝心地の良さを実感している人や導入実績をPRする方向に転換、一番初めのターゲットにオリンピック選手を選んだ。

「オリンピック選手は4年に1度の大会に照準を合わせて体調を整えます。そうした選手に『1億円あげるから大会の前日に当社の製品を使ってくれ』と言っても断られるでしょう。逆に選手から選ばれ続けるような製品を作ることにより、大きなブランドになると考えたわけです」

—(以上、引用)—

この後、水泳選手など数多くのオリンピックアスリートが自ら使い始め、さらにサッカーワールドカップの選手などに拡がり、浅田真央選手がブランドアンバサダーに就任、さらに超一流ホテルや有名老舗旅館でも採用されるようになります。

一方で、海外の睡眠研究所と睡眠時の環境が運動のパフォーマンスに及ぼす影響についての研究にも着手し始めます。

 

このようにして、エアウィーヴの快進撃が始まります。

エアウィーヴの物語は、成熟市場の中で、新事業立ち上げに挑戦しようとしている数多くの日本企業にとって、とても参考になる学びが詰まっています。

 

一方で私は、こう思いました。

「当初の段階から本格的な立ち上げの段階にかけて、エアウィーヴがどのような試行錯誤をしてきたのか、もう少し突っ込んだ具体的な話を知りたい」

実際には、新規事業は試行錯誤の連続です。言い換えれば、失敗からの学びの連続なのです。

一方でネットメディアの記事は、読者がわかりやすく理解できることを最優先に書かれています。このため、詳細な情報は割愛されることもあります。詳しく書くと、ともすると冗長になり、多くの読者が飽きて途中から読まなくなるからです。

そこでエアウィーヴのように新奇性がある話題では、ネットメディアの記事では、そのビジネスの凄さに主な焦点が当たることも多いのです。

 

とは言っても、高岡会長は2つの会社を経営している極めてご多忙な方。私が簡単にインタビューできる方ではありません。

色々と調べたところ、生々しいお話しをしている情報を見つけることができました。

 

そこで次回は、もう少し突っ込んで、エアウィーヴが事業立ち上げ段階でどのような試行錯誤をしてきたのかをご紹介したいと思います。

 

【ブログ連載】6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ

(1) エアウィーヴの凄さは何か?

(2) 200枚の試作品は大好評。そして初年度4000万円を投入。しかし売れたのは1000万円

 

6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ (1) エアウィーヴの凄さは何か?

フィギュアスケートの浅田真央選手も使っているベットマット「airweave (エアウィーヴ)」のCMを覚えている方は、多いのではないでしょうか?

 

この商品を作っている株式会社エアウィーヴは急成長しています。会社のホームページからの売上推移です。

airweave-sales

2009年は売上1億円で2014年は120億円なので、成長は100倍以上。

ネット企業ではなくメーカーであることを考えると、この成長率は実に驚異的です。

 

エアウィーヴについては、先日のブログ「種転換のウソ・ホント…共通するのは、「強みの見極め」」でも、日経ビジネスの記事を引用して簡単にご紹介しました。

この会社の前身は、株式会社中部化学機械製作所です。当時、プラスティックス射出成形機メーカーとして釣り糸などを作っていましたが、海外勢に押されて経営が悪化していました。

当時、高岡本州さんは日本高圧電気という会社を経営されていましたが、2004年に叔父様から中部化学機械製作所の経営を譲り受けました。そして寝具へ大きく業態転換を果たし、社名も新たに株式会社エアウィーヴに変えたのです。

 

 

この会社のことを学ばせていただき、素晴らしい取り組みをなさっていることに驚きました。

特に私が興味を持った理由は、かねてより私が提唱している

(1)自社の強みを徹底的に考え、
(2)ターゲット顧客、その課題、解決策を仮説として立てて、
(3)愚直なまでに仮説検証を繰り返す

ということを実践しておられ、さらにこの蓄積の結果により、「一流」のブランド作りに成功している点です。

 

そこでこれから何回かに分けて、エアウィーヴについて学んだことをまとめていきたいと思います。

よろしくお願いいたします。

 

ご参考までに、「エアウィーヴ」にご興味がある方は、浅田真央さんが出演されているこの4分間の動画を見ると概要がわかります。

動画を見ていると、「快適な睡眠」を約束してくれるエアウィーヴを欲しくなってしまいますね。

 

なお、本日4月7日(火)の「ガイアの夜明け」でも、エアウィーヴの海外進出の挑戦が紹介される予定です。

 

模倣はヨクナイ。 では、なぜ「単なる模倣品」は売れないのか?

人類は、先人の学びの上に、新たな学びを積み重ねて発展してきました。

膨大な「過去の学び」の蓄積に、「新たな学び」を上乗せしているわけですね。

たとえてみると、科学技術は「創造的な模倣」により、あたかも山を登るように学びを積み重ねているのです。

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先日のブログでも、知財の専門家の下記の言葉を紹介しました。

「方法・手法に、法律は、著作権を認めませんでした。……それは、私たちの文化を発展させるために、それらは自由に流通させた方が、社会全体のためになると法律が考えているためです……」

これも「創造的な模倣」による社会の進化を狙ってのことと思います。

 

しかし一方で、世の中に出てくる商品やサービスを見ていて、ちょっと残念に思ったり、悲しくなる時があります。

それは「新たな価値」を積み重ねていない、「単なる模倣品」を見る時。

「単なる模倣品」は、名称・外観・機能などで、「ああ、あの商品の模倣だな」とすぐに気がつきます。

 

企業もビジネスですから、先行ライバルの好調さに商機を見つけて、その模倣を図ろうとするお考えも理解できます。

しかし先行企業が考えに考え抜いた結果に世に出した商品に対して、中身が変わり映えせず、形や名前だけを真似した商品を出しても、先行企業を追い抜くのは至難の業です。

 

模倣を図る企業の中には、「これは『単なる模倣品』ではない。ちゃんとこのような新たな価値を追加している。これは『創造的な模倣』である」と主張されるケースもあります。しかし売れないケースが多い。

では、「創造的な模倣」「単なる模倣品」とわけるものは何でしょうか?

 

それは結局、「その新たな価値の差で、顧客が本当に買いたいと思うかどうか」という点なのではないかと思います。

「創造的な模倣」の場合、新たな価値の差だけでも、顧客が買いたくなります。

「単なる模倣品」の場合、企業側が「新たな価値を加えた」と思っていても、顧客にとってその差はほとんど意味がありません。そして顧客は実績がある先行メーカーを選ぶのです。

その結果、「単なる模倣品」では売れないのです。

言い換えれば、山を一歩も上がっていない状態なのです。

 

先行メーカーの中にはこのことがわかっていて、「自社の模倣品が出ることは、むしろ先行メーカーとしての自社の認知度が高まるチャンス」と歓迎するしたたかな企業もあります。

そういう企業は、予め自社の強みを徹底的に考え抜き、他社が簡単に模倣できないように商品を作っています。ですから形だけ模倣しても、追いつけないのです。

言い換えれば、自社の強みを徹底して考え抜いていない場合、他社に模倣されると、あっという間に追い抜かれることもあります。

 

「自社の強み」を常に考え抜き、それを「顧客の価値」と結びつけることが大切なのです。

 

 

「余計な仕事」が、社員全体のやる気を下げている。では「余計な仕事」はどうして生まれるのか?

経営者や管理職とお話しして実感するのは、「社員のやる気をどうすれば上げられるか?」といつも考えている方がとても多いこと。

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これについて、考えるヒントがありました。

ハーバードビジネスレビュー2015年2月号に、LINE代表取締役社長CEO(当時)の森川亮さんへの「会社の成長に計画は不要である」というインタビューが掲載されています。

—(以下、引用)—

[編集部] ヒット商品を生むには組織の活性化が必要で、それには社員のモチベーションを上げることが重要だといわれます。これについてどうお考えですか?

企業はプロフェッショナルを採用しているわけですから会社にモチベーションを上げてもらわなければならないような人はプロとして失格です。これは社会全体が幼稚化していると思うのですが、みずから学ぼう、みずから何かを起こそうという気持ちのない人は、新しいものを生み出せないと思います。そういう気のある人が喧々諤々の議論をしながらいいものを世に送り出すのが本来の姿です。

—(以上、引用)—

 

このような意見に対して、「LINEのような企業だから、プロフェッショナルを採用できるのだろう」という意見も聞かれます。

中小企業は確かに厳しい採用環境ですので、その通りなのかもしれません。

しかし本来は人材を見極めて採用しているはずの大企業でも、同じ意見を聞くことがあります。

これは、いい人材を採用しても、社内で人材をスポイルしてしまっている、ということの裏返しです。

 

この点に関しても、大企業に勤務された経験がある森川さんは、次のようにおっしゃっています。

—(以下、引用)—

大企業の人から、マネージャー・クラスの人が疲れているという話を耳にします。部下の教育や評価もしなければならないし、決算もしなければならないし、リポートも書かなければならない。しかも一日中会議だらけで、家に持ち帰って仕事をしなければとても追いつかないというのです。これは優秀な人の使い方を誤っていると思います。

……

いい成果を生み出すためには、優秀な人が余計なことに惑わされず、速いスピードで動ける環境が大事なのです。しかしいま申し上げた大企業のやり方では、優秀な人ほど余計な仕事が増え、面倒を見なければならないモチベーションが低い部下を抱えさせられてしまう仕組みです。やがて疲れ切って諦めてしまうのは、当然のことでしょう。

—(以上、引用)—

「『余計な仕事』が、社員全体のやる気を下げている」ということですね。

私も大企業で30年間仕事をしていましたので、おっしゃっていることはよくわかります。

 

社内の「余計な仕事」は、主管部門が責任者の承認を得て一旦ルールを決めると、「社員がやらなければならない仕事」となることが多いのです。

やっかいなのは、この「余計な仕事」を作り出している人たち自身が、「余計な仕事を作っている」という自覚はほとんどない点。むしろ「これは必要な仕事」と信じ込んでいることも多いのです。

しかし実際に突っ込んで話し合うと、「その仕事でどのような成果(価値)を生み出そうとしているのか」、「その『成果を生み出す』とする根拠は何か」が希薄な場合も多いのです。

実際には、社内で作られる新たな仕事は「余計な仕事」であることが少なくなく、そのような「余計な仕事」が積み重なると社員のモチベーションが下がってしまうのです。

 

社内で新たな仕事を作ろうとする場合、「どのような価値を創ろうとしているのか?」「その根拠は何か?」「本当に『余計な仕事』ではないのか?」を、改めて考え抜く必要があります。

 

「バリュープロポジション」を考え抜く大切さは、社内業務であってもまったく同じなのです。

 

 

「理論は机上の空論」ではない。ビジネスパーソンこそ、理論を学ぶと応用範囲が圧倒的に広がる

Red path across labyrinth

私たちビジネスパーソンの多くは、体験的に「仕事の現場に真実がある」ということを実感しています。

私も確かにその通りだと思います。

一方でともすると、「理論は現実の後追い」だから「理論は机上の空論」と考え、理論を軽視しがちです。

しかし、ハーバードビジネスレビューで早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授が書いておられる「世界標準の経営理論」という連載を読むと、必ずしもそうとは限らないことがわかります。

 

ハーバードビジネスレビュー2015年2月号に掲載された連載第6回「理論ドリブンと現象ドリブン 経営学はけっして「現実の後追い」ではない」で、入山准教授は次のように述べています。

—(以下、引用)—

さて、ここで知っていただきたいのは、その当事者である経営学者には、「理論を思考の出発点にするタイプ」と「現象を思考の出発点にするタイプ」がいることだ。

……筆者の知る限り、現存するすべてのMBAの経営学教科書は現象ドリブンで構成されている。書店に並ぶほとんどの経営書もそうだろう。おそらくこの現象ドリブンの構成は、教科書の作成者(多くはビジネス・スクールの教授)が、ビジネスパーソン向けに「わかりやすくする」ために用いているのだろう。しかし筆者は、実はこれはまったく逆の効果ではないかと考えているのだ。

—(以上、引用)—-

 

よく知っている事例を最初に紹介され、その現象を元に理論が説明されると、納得する方が多いと思います。

実際に私も著書でこの手法をよく使います。わかりやすいからです。

その手法に対して、入山准教授は「逆効果である」とおっしゃっています。

そして、リアルなビジネス現象が、複数の経営学の理論で説明可能であることを実例で挙げた上で、次のように書いておられます。

—(以下、引用)—

ここまで来れば、既存のMBA教科書・経営書の課題が理解いただけたのではないだろうか。……「この事象は、あの理論でも、この理論でも、あっちの理論でも、はたまたこんな理論でも説明できます」と書かれているのだ。当然、それぞれの理論的な説明は薄くなり、読者の理解は浅くなる。

…本連載が目指しているのは、それとはまったく逆のベクトルだ。すなわち、世界標準の経営理論を根本から説明することで、それらを腹落ちして理解いただき、皆さんを取り巻くあらゆるビジネス事象の理解・考察・予測のための「思考の軸」にして欲しいのだ。本連載の対象となる三つの戦略の範囲なら、それらを説明する主要理論の数は20程度だ。この程度なら、忙しいビジネスパーソンでも学習は十分に可能な筈はずだ。

そして一つの理論を理解できれば、それを思考の軸にしてさまざまなビジネス事象に応用できる。……それどころか、学者では思いつかない「理論→現象」の応用を、むしろ皆さんが思いつくことも十分ありうるだろう。特定のビジネス事象に詳しいのは、学者ではなくビジネスパーソンなのだから。

このように「理論→現象」の思考軸で経営学を学ぶことこそ、はるかに効率的で、応用範囲も圧倒的に広がるのだ。

—(以上、引用)—-

 

実際に私も理論を学ぶことで現象をより深く理解できることを実体験しています

「現象(事例)→理論」で経営理論の面白さに目覚めた方は、理論を学んでみると、より考え方が深まると思います。

 

その際に、ハーバードビジネスレビューに入山准教授が連載されている「世界標準の経営理論」は、とても参考になると思います。

 

ドンキもドワンゴも、強みの源泉は、その強みを明確に説明できないこと

ドンキ

ドン・キホーテ(以下、ドンキ)の店内に入って、その密林のような商品展示に驚かれた方も多いと思います。

ドンキは2015年6月期で26期連続の増収増益、年商6000億円超が見込まれ、絶好調です。

ドンキの強みの秘密は何なのでしょうか?

 

週刊東洋経済2015年3月21号に、今年6月にCEO職を現社長に譲り引退することを発表した創業者・安田隆夫会長のインタビュー『ドン・キホーテ 安田隆夫 激白 わが「勇退」』が掲載されています。

ドンキの強みの一端を理解する上で、参考になりました。

—(以下、引用)—

SPA(製造小売業)と違い商品に独自性があるわけではない。単なる編集と演出をしているだけです。そうして成功している。にもかかわらず、新規参入がない。…この理由を、多くの経済学者を含めて誰も解き明かせないでいる。

最初は皆「あの会社、何なんだろう。ある種、ゲテモンなんやな」と思っていた。しかしそのゲテモンが年間6000億円も売り上げていると話が違ってくる。しかも、北海道から沖縄まで満遍なく繁盛し、都心の一等地でも、ほとんど人が住んでいないような地域でも繁盛している。その理由を考えて、最終的には 消化不良に陥って「もういいや、あの会社のことは」となる。そこがドンキの強さだ

—(以上、引用)—

 

安田会長は「強みがよくわからないことが、ドンキの強さだ」とおっしゃっています。

奇しくもKADOKAWA・DWANGO会長の川上量生さんも、ドワンゴ会長当時に執筆された著書「ルールを変える思考法」でこのようにおっしゃっています。

川上会長

—(以下、引用)—

独自性を保つ上では、明快で他社が追随しやすい差別化を行うよりも、何が差別化なのか、ちょっと考えただけでは理解できないものであり続けることが大切だというのが僕の考えです。  そのためには、自分自身が理解できることであってもダメなんじゃないかと実は思っています。なぜなら、自分が理解できるものは、他人も理解できる可能性が高いからです。自分でもわからないものであれば、他人もわかりようがありません。

…理解できそうで理解できないぎりぎりの境界線上に答えがあるというのが僕の結論です。

—(以上、引用)—

 

一方で安田会長は、もう少し踏み込んだ質疑応答をされています。

—(以下、引用)—

—-安田会長はその理由を知っている。編集、演出のほかに何があるのですか。

それがまさに権限委譲であり、一 人ひとりが商店主である。あるいは商品のファンドマネジャーといってもいい。ドン・キホーテはファンドマネジャーの集大成という、過去にはない流通業態のあり方なんです。

ただし、権限委譲はよほどうまくやらないかぎり、組織崩壊します。

一時期、業界問わず、どこもかしこも権限委譲がはやった。「個店対応」というキーワードで。個店対応はすごくいい。いいんだが、本当に個店対応するには、個店に主権がないといけない。そうでないかぎり、 個店修正ぐらいにしかならない。  一方で権限委譲ばかりやるとばらばらになって、スケールメリットが まったく発生しない。組織のていをなさなくなり、単なる烏合の衆になりかねない。 組織か現場か、ではなく、双方を「アンド」の精神で生かしていく。 「オア」ではなくて。その手法を長年かけて作ってきた。

—(以上、引用)—

 

ここから読み取れるのは、品物・立地・店舗といった目に見える業態よりも、店舗従業員との関わり方といった目に見えないところに強みの源泉がある、ということです。…ただ一方で、まだ十分に明確ではなく「モヤモヤ」っとしますね。

 

ジェイ・B・バーニーというマーケティング学者は、企業の競争優位性の源泉となる資源を分析するために「VRIO」というフレームワークを提唱しています。

Value: 顧客にとって価値がある
Rarity: 希少性がある
Inimitability: 模倣しにくい
Organization: 組織的な取り組みがある

インタビューからわかることは、ドンキもドワンゴも、このVRIOをちゃんと持っており、かつ、お二人の経営者ともそれについては確信を持っておられるようです。

 

グローバル化社会と言われてから、多くの日本企業は単純明快な戦略を徹底して攻めてくるグローバル企業に押されている面がありました。

その単純明快さは、「ローコンテキスト文化」(文化的背景が違うので、言語化しないと通じない文化)に根ざしたものです。

一方の日本企業は、「ハイコンテキスト文化」(文化的背景を共有するので、あうんの呼吸で通じる文化)なので、なかなか単純明快な戦略を徹底できない面がありました。

しかし安田さんや川上さんのお話しからは、このハイコンテキスト文化を逆手に取って、強みを活かしていることが読み取れます。

 

 

外部から分析しようとしても、ドンキもドワンゴも、強みを見極められない。
しかし実は、真似できない確かな強みを持っている。
そして実は強みを明確に言語化できず(あるいは行わず)、モヤモヤするところに本当の強みがある。

 

そのように思いました。

 

このように考えると、「強みを明確に説明できないドンキだからこそ、ドンキが永続するためには、自分が元気なうちに後進に経営を譲り、後進が独り立ちできるように支援する必要がある」という安田会長ならではの問題意識を読み取ることもできます。